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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09D
管理番号 1144629
審判番号 不服2005-23350  
総通号数 83 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2004-04-15 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-12-02 
確定日 2006-10-06 
事件の表示 特願2002-280688「ガス吸着性白色塗料組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 4月15日出願公開、特開2004-115643〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯及び本願発明
本願は、平成14年9月26日の出願であって、その請求項1〜2に係る発明は、平成17年6月13日付けの手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜2に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、「本願発明1」、「本願発明2」という。また、まとめて「本願発明」ということもある。)。
「【請求項1】塗料用合成樹脂、平均粒子径が2〜350nmで屈折率が2.2〜2.76の酸化チタン及び溶剤からなり、酸化チタンの配合量が塗料用合成樹脂固形分100質量部当たり150〜600質量部であることを特徴とするガス吸着性白色塗料組成物。
【請求項2】酸化チタンの平均粒子径が3〜100nmである請求項1記載のガス吸着性白色塗料組成物。」

2.原査定の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、本願発明1及び2は、その出願前に日本国内において頒布された下記刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
刊行物1:特開平10-168325号公報

3.刊行物1に記載された事項
(3-1)「熱可塑性樹脂40〜99.9重量%、及びd軌道電子を有する金属イオンを注入した酸化チタン60〜0.1重量%からなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。」(【請求項1】)
(3-2)「請求項1乃至3のいずれかの項に記載の熱可塑性樹脂組成物を含んでなる溶液であることを特徴とする塗装材。」(【請求項4】)
(3-3)「本発明は、可視光照射での光触媒機能を有する熱可塑性樹脂組成物、それを用いた塗装材及びこれを表面層に有する構造体を提供する。本発明の組成物は、UV光の乏しい環境、例えば室内においても、脱臭、あるいは抗菌作用を発揮する建築部材等に用いられる。」(段落【0001】)
(3-4)「【従来の技術】酸化チタンは、熱可塑性樹脂に機械的強度、白色性、あるいは紫外線吸収効果を付与する添加剤として、従来広範に使用されてきた。一方、酸化チタンは、3.2eVのバンドギャップを有する半導体であるので、該バンドギャップ以上のエネルギーを有する光、即ち388nm以下の波長を有する光(紫外線)の照射により価電子帯から伝導帯へ電子が励起し、正孔と励起電子を生ずる。かかる正孔及び励起電子は、それぞれ活性な酸化能及び還元能を有しているため、酸化窒素等の有害物質や悪臭化学物質等の分解や殺菌作用等、種々の触媒作用を有することが知られている。」(段落【0002】)
(3-5)「本発明の目的は、従来の技術では達成されなかった、可視光での光触媒作用と熱可塑性や溶液塗布性等の優れた成形加工性・塗装適性とを兼備した材料、或いはこれを表面層に有する構造体を提供することである。」(段落【0004】)
(3-6)「本発明で用いられる酸化チタンに注入されるd軌道を有する金属イオンとは、周期律表において第4、5、6及び第7周期に属し、かつ1A、2A、3A、4A、5A、6A、7A、8、1B、2B、3B、4Bのいずれかの族に属する元素、・・・からなる群から任意に選ばれる元素の陽イオンである。該金属イオンは陽イオンである限りにおいて、その価数に制限はない。該イオンは、酸化チタンに注入され、可視光による光触媒作用をもたらす働きがある。」(段落【0012】)
(3-7)「本発明の目的とする光触媒反応は、反応物質と該酸化チタンとの接触により進行するので、該接触面積を大きくするために、酸化チタン粒子の比表面積は大きければ大きいほど良い。BET表面積測定による比表面積は、好ましくは40m2 /g以上、更に好ましくは60m2 /g以上、最も好ましくは100m2 /g以上である。但し、通常の酸化チタンは多孔質ではないので、好ましい粒径で表現すれば、600Å以下、更に好ましくは400Å以下、最も好ましくは300Å以下である。」(段落【0016】)
(3-8)「本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂40〜99.9重量%、及びd軌道電子を有する金属イオンを注入した酸化チタン60〜0.1重量%からなる。熱可塑性樹脂の配合割合が低過ぎると、該酸化チタンの分散性が極度に悪化し、逆に高過ぎると該酸化チタンの量が少なくなり過ぎ光触媒機能が低下するのでいずれの場合も好ましくない。かかる理由により、熱可塑性樹脂は、該酸化チタンとの合計量に対し好ましくは45〜95重量%、更に好ましくは50〜90重量%、最も好ましくは60〜90重量%とする。(段落【0017】)
(3-9)「更に、本発明の熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、顔料、無機充填材等を本発明の趣旨を損なわない限りにおいて添加しても良い。」(段落【0019】)
(3-10)「本発明の熱可塑性樹脂組成物を任意の方法で構造体の表層面に固定することにより、該構造体に可視光照射による光触媒機能を付与することができる。該組成物の好ましい固定方法として、該組成物の溶液を任意の表面に塗布し次いで溶媒を除去して製膜する溶液キャスト法、該組成物を他種の熱可塑性材料とともに溶融共押出して多層フィルムとする多層共押出成形等が挙げられる。このうち、前者の溶液キャスト法はより汎用性の広い方法であり、これにより任意の基材表面に本発明の組成物を固定することができる。
〔塗装材〕
次に、上記の溶液キャスト法に用いられる本発明の組成物を含んでなる溶液である塗装材は、特に有用な使用形態と言える。」(段落【0020】〜【0021】)
(3-11)「【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
原料
1)熱可塑性樹脂
・・・
2)酸化チタン:触媒学会参照物質(組成:アナータス80%及びルテル20%、粒径:約300Å)。
金属イオンの注入
日新電機製200keVイオン注入装置を使用し、室温でCrイオンを酸化チタンに注入した後、450℃で焼成した。Crイオンの注入量は12×1016(N/cm2 )とした。(段落【0025】〜【0028】)
(3-12)「評価
酸化窒素(NO)ガスとアルゴン(Ar)ガスを混合密閉できるガラス反応系に上記のフィルムサンプルを30cm×30cmの面積に切断したものを入れ、NO/Ar=1/4(体積比)、1気圧の混合ガスを密閉した。450nm以下の波長の光をフィルターにより除去した120Wの電灯(サンライト)の白色光を該フィルムに48時間照射し、反応系に接続したNOxメーターによりNOガスの消費の状況を調べた。」(段落【0032】)
(3-13)「【表1】・・・ NOガスの消費・・・
*1 ◎:顕著に認められた。○:認められた。×:認められなかった。」(段落【0039】)

4.対比・判断
摘示記載(3-1)、(3-2)、(3-3)、(3-5)及び(3-7)からみて、刊行物1には「熱可塑性樹脂40〜99.9重量%、及びd軌道電子を有する金属イオンを注入した酸化チタン60〜0.1重量%からなる熱可塑性樹脂組成物を含んでなる溶液である塗装材であって、酸化チタンの好ましい粒径は600Å以下、即ち60nm以下であり、脱臭あるいは抗菌作用を有する塗装材」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

そこで、本願発明1と引用発明とを対比する。
「塗装材」と「塗料組成物」は同義であり、「溶液」は、「溶剤」(溶媒)の存在を前提としており(摘示記載(3-10))、また、引用発明の「熱可塑性樹脂」は、塗装材、即ち塗料としても用いられるものであって、「塗料用熱可塑性合成樹脂」を包含するものであるから、両者は、「塗料用熱可塑性合成樹脂、平均粒子径が2〜60nmの酸化チタン及び溶剤を含む塗料組成物」の点で一致し、以下の(ア)〜(オ)の点で相違する。
(ア)酸化チタンが、本願発明1においては金属イオンが注入されていないのに対し、引用発明においてはd軌道電子を有する金属イオンを注入されたものである点、
(イ)酸化チタンの屈折率が、本願発明1においては2.2〜2.76であるのに対し、引用発明においては特定されていない点、
(ウ)酸化チタンの配合量が、本願発明1においては、塗料用合成樹脂固形分100質量部当たり150〜600質量部であるのに対し、引用発明においては、熱可塑性樹脂40〜99.9重量%および酸化チタン60〜0.1重量%からなる熱可塑性樹脂組成物であって、塗料用合成樹脂固形分100質量部当たり、0.1〜150質量部である点、
(エ)塗料組成物が、本願発明1においてはガス吸着性とされているのに対し、引用発明においては、脱臭あるいは抗菌作用を有するとされている点、
(オ)塗料組成物が、本願発明1においては白色であるのに対し、引用発明においては特定されていない点。

これらの相違点について検討する。
(ア)について
引用発明は、酸化チタンにd軌道電子を有する金属イオンを注入することを発明特定事項としている。しかしながら、該金属イオンの注入は酸化チタンを可視光で作用させるためになされているのであって(摘示記載(3-3)、(3-5)、(3-6))、刊行物1には、一般に酸化チタンが紫外線下で酸化窒素等の有害物質や悪臭化学物質等の分解や殺菌作用を有することが記載されている(摘示記載(3-4))から、d軌道電子を有する金属イオンを注入しない普通の酸化チタンを用いる構成に置き換えることは容易である。
したがって、この点は、当業者が所望に応じて適宜なし得る範囲のものである。
(イ)について
酸化チタンが熱可塑性樹脂に白色性を付与する添加剤であることは刊行物1に記載されている(摘示記載(3-4))ところ、そもそも酸化チタンは無機白色顔料として周知であり、上記した平均粒子径が2〜60nm前後の酸化チタンが塗料組成物に用いられることも周知(必要ならば、特開平10-259325号公報参照。)であって、その屈折率は、アナタース型で2.52、ルチル型は2.71と知られているものである(必要ならば、社団法人日本塗料工業会編、「塗料原料便覧」、平成11年5月31日改訂7版、社団法人日本塗料工業会発行、第287頁、参照。)。
そして、本願発明1で特定する屈折率は、周知の白色顔料酸化チタンのそれを包含しているのであるから、周知の白色顔料酸化チタンについて周知の屈折率を含む範囲を特定する点に何ら創意を認めることはできない。
(ウ)について
刊行物1には、酸化チタンの配合量について「熱可塑性樹脂の配合割合が低過ぎると、該酸化チタンの分散性が極度に悪化し、逆に高過ぎると該酸化チタンの量が少なくなり過ぎ光触媒機能が低下するのでいずれの場合も好ましくない。」(摘示記載(3-8))と説明されるところ、これは、「基材に比して添加剤が少ないと十分にその機能を発揮できず、逆に多いと弊害が出る」、という一般的なことを述べているものであり、翻って本願発明1をみるに、明細書の段落【0013】に「酸化チタンが一定量未満であるとガス吸着性が不十分であり、一定量を越えると塗料の成膜性が低下する」旨、記載され、これも、刊行物1に酸化チタンの配合量について記載されているのと同様、「基材に比して添加剤が少ないと十分にその機能を発揮できず、多いと弊害が出る」ということを述べているのである。
このように、基材である熱可塑性樹脂と添加剤である酸化チタンとの配合割合は、添加剤が有効にその機能を発揮しつつ、かつ、添加することによる弊害がないよう、適宜決定しうる程度のものといえるところ、本願発明1における酸化チタンの配合量である150〜600質量部は、150重量部の点で引用発明と一致しているうえに、引用発明においても上限値・下限値をわずかでも外れると全く効果を奏しないというものでもないのであるから、本願発明1における配合量を、引用発明と近似する範囲のもの、例えば150質量部及び150質量部を少し越える範囲のものにすることは、当業者が適宜なし得る程度のものと認められる。
(エ)について
本願発明1における、「ガス吸着性」についてみるに、「ガス吸着性」あるいは「ガス吸着性能」なる記載は本願明細書の随所に見られるものの、具体的に「塗膜のガス吸着性能」については、本願明細書の段落【0018】及び【0025】に記載される方法によって測定されており、これらの段落の記載によれば、テドラーバッグ(テドラー社製商品名)に塗膜を形成した試験片とガスとを封入し、ガスの初期濃度と24時間静置後の濃度との差を「塗膜のガス吸着性能」としている。すなわち、本願発明1においては、上記の条件下で「ガスの濃度を低下させる性質」を「ガス吸着性」と称しているものと認められる。
そこで引用発明を検討すると、引用発明においても、酸化チタンを含有するフィルムとガスとを密閉状態に保ち、一定時間経過後のガスの消費の状況を測定したところ(摘示記載(3-11)、(3-12))、【表1】からわかるように、「NOガスの消費」が「顕著に認められた。」あるいは「認められた。」というものであって(摘示記載(3-13))、酸化チタン含有フィルムによりガスの濃度が低下したものである。そして、「NOガスの消費」とは摘示記載(3-4)に示された「酸化窒素等の有害物質や悪臭化学物質等の分解」のことであって、酸化窒素が消費されれば当然に悪臭化学物質も消費され、脱臭作用も生じているものと認められる。
そうしてみると、本願発明1も引用発明も、密閉系で酸化チタン塗膜の存在によりガスの量が減少するものである、という点で相違はなく、本願発明1においては「ガス吸着性」とされ、引用発明においては「脱臭あるいは抗菌作用」とされているものの、この点に実質的な差異はない。
(オ)について
酸化チタンが熱可塑性樹脂に白色性を付与する添加剤であることは刊行物1に記載され、そもそも酸化チタンは無機白色顔料として周知のものであるから(上記「(イ)について」の項参照)、これを含む塗料組成物を「白色」と特定する点に何ら創意は認められない。

本願発明1の効果について
本願発明1の効果は、明細書の段落【0028】に記載されているように、「本発明のガス吸着性白色塗料組成物は、ガス吸着性塗料組成物に従来用いられていた物理的ガス吸着剤もしくは化学的ガス吸着剤等のガス吸着剤を添加する必要がなく、形成される塗膜にガス吸着性能を持たせることができる。」というものである。
ところで、引用発明においても、その発明特定事項として「物理的ガス吸着剤もしくは化学的ガス吸着剤等のガス吸着剤」は配合されておらず(摘示記載(3-1))、刊行物1には「更に、本発明の熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、顔料、無機充填材等を本発明の趣旨を損なわない限りにおいて添加しても良い。」(摘示記載(3-9))と記載されるものの、「物理的ガス吸着剤もしくは化学的ガス吸着剤等のガス吸着剤」を積極的に添加する記載はなされていない。
そして、引用発明も「ガスの濃度を低下させる性質」を有するものであり、「ガスの濃度を低下させる性質」とは上記「(エ)について」の項で示したように、本願発明1における「ガス吸着性」と実質的に差がないのであるから、引用発明も、「ガス吸着剤を添加する必要がなく、形成される塗膜にガス吸着性能を持たせることができる。」という、本願発明1と同等の効果を奏するものと認められる。
したがって、本願発明1の効果も、引用発明から当業者が予測しうる範囲のものである。

以上のとおり、相違点(ア)〜(オ)はいずれも当業者が適宜なし得る範囲のものであり、その効果も引用発明から当業者が予測しうるところであるから、本願発明1は、本願出願前に頒布された刊行物1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

また、本願発明2は、「酸化チタンの平均粒子径が3〜100nm」であることを発明特定事項としているが、刊行物1に酸化チタンの好ましい粒径として「60nm以下」が記載されているので、本願発明2と引用発明との相違点は、本願発明1について挙げた(ア)〜(オ)のとおりである。
したがって、本願発明2についても、本願発明1についての判断と同様であり、本願発明2も、本願出願前に頒布された刊行物1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.請求人の主張
請求人は審判請求書において、次の(1)のことを主張している。
(1)本願発明は「ガス吸着性塗料組成物に従来用いられていた物理的ガス吸着剤もしくは化学的ガス吸着剤等のガス吸着剤を添加する必要なしで、形成される塗膜にガス吸着性能を持たせることができるガス吸着性白色塗料組成物を提供する」ことを目的としており、このような目的を達成し得るためには、本願発明のガス吸着性白色塗料組成物は 「塗料用合成樹脂、平均粒子径が2〜350nmで屈折率が2.2〜2.76の酸化チタン及び溶剤からなり、酸化チタンの配合量が塗料用合成樹脂固形分100質量部当たり150〜600質量部である」ことの全ての条件を同時に満足することを必須の構成要件とし、上記の構成要件の一つの条件でも範囲外にある場合には、本願明細書中の比較例から明らかなように、本願発明で目的としている効果は得られない。例えば、平均粒子径が2〜350nmの範囲から外れている比較例1(平均粒子径400nm)においては、目的としているガス吸着性能が得られず、屈折率が2.2〜2.76の範囲から外れている比較例3(屈折率2.0)においては、目的としている白色度が得られない。
さらに刊行物1には、「ガス吸着性塗料組成物に従来用いられていた物理的ガス吸着剤もしくは化学的ガス吸着剤等のガス吸着剤を添加する必要なしで、形成される塗膜にガス吸着性能を持たせることができる」ことについては何ら記載も示唆もない。該公報には酸化チタンについて粒径が600Å以下との記載があるが、用いる酸化チタンの屈折率については何ら記載も示唆もない。また、「熱可塑性樹脂40〜99.9重量%、及びd軌道電子を有する金属イオンを注入した酸化チタン60〜0.1重量%」となっているので、酸化チタンの配合量は塗料用合成樹脂固形分100重量部当たり0.1〜150質量部であり、本願発明の範囲外となり、即ち、該公報には、「形成される塗膜にガス吸着性能を持たせる」ためには、「平均粒子径が2〜350nmで屈折率が2.2〜2.76の酸化チタンを塗料用合成樹脂固形分100質量部当たり150〜600質量部の配合量で用いる」ことが必須であることについて何ら記載も示唆もされておらず、このように、本願発明と引用文献1に記載の発明とは、目的、構成要件、効果において全く異なっている。

上記(1)を検討するに、請求人は、本願発明の目的を達成するには上記の全ての条件を同時に満足する必要があり、一つの条件でも範囲外にある場合は目的としている効果は得られない旨の主張をする。しかしながら、本願明細書段落【0019】の第1表には、平均粒子径とガス濃度との関係は示されているものの、平均粒子径と白色度との関係は示されておらず、例えば本願発明範囲内の平均粒子径5nmの酸化チタンを用いた場合の白色度のデータは何ら記載されていないのであるから、本願発明範囲のものがすべてガス吸着性の白色塗料である、ということは確認できず、その点のみをもってしても、該請求人の主張は直ちに採用することはできないものである。
そして、平均粒子径はそもそも引用発明との相違点ではなく、屈折率は酸化チタンにおける極めて普通のものであり、酸化チタンの配合量に関しても「150重量部」という点においては引用発明と本願発明1とは相違しておらず、またその近似する範囲の容易性については上記「4.(ウ)について」の項で示したとおりである。さらに、引用発明も本願発明と同様に「ガス吸着剤を添加していないのにガスの濃度を低下させる性質」を有していることは、上記「4.(エ)について」の項で示したとおりである。
そうしてみると、請求人は「全ての条件を同時に満足することを必須の構成要件とし」と主張はしているものの、その具体的条件とは、引用発明と実質的に差のないものか、あるいは、酸化チタンとして極めて普通のものにすぎない。
したがって、請求人の上記主張は、採用できない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明1及び2は、いずれも、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-08-02 
結審通知日 2006-08-09 
審決日 2006-08-22 
出願番号 特願2002-280688(P2002-280688)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 滝口 尚良田村 聖子  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 木村 敏康
鈴木 紀子
発明の名称 ガス吸着性白色塗料組成物  
代理人 栗原 浩之  

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