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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B05B
管理番号 1144647
審判番号 不服2003-9955  
総通号数 83 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-06-02 
確定日 2006-10-05 
事件の表示 平成 4年特許願第 93934号「液体噴霧装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 5年 4月27日出願公開、特開平 5-104035〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成4年3月2日(パリ条約による優先権主張1991年3月1日,英国、1991年3月1日,英国)の出願であって、その請求項1ないし28に係る発明は、平成17年11月24日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし28に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項6に記載された発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりである。
なお、本願は、パリ条約による優先権を主張(平成4年5月25日付けで提出された手続補正書により補正されたパリ条約による優先権主張)するものであるが、そのうちの1991年10月15日の英国出願(出願番号91309472.8)に基づく優先権主張としては、優先権証明書が提出されていないので認められない。

「【請求項6】
液体を噴霧するために使用する、液糸モード静電噴霧装置であって、
前記装置は、
所与の直径のオリフィスを備える噴霧ヘッド、所与の出口速度で噴出して前記オリフィスから前記液体を放出できるように、前記オリフィスに対して約1×107以下の抵抗率を有する液体を供給する液体供給手段、
前記噴霧ヘッドに高電圧を印加させ、生成された高電圧の影響下でオリフィスに供給した前記液体が放出され、そして前記オリフィスの直近にて、くびれが生じて液糸として噴出するに十分な電位勾配が達成されるように作動する電圧供給手段;
を備える該液糸形成手段を備え、
これにより、上記液糸形成手段が、オリフィスの直径より実質的に小さい横断面寸法をもつ液糸を形成する、
液体を噴霧するために使用する、液糸モード静電噴霧装置。」

2.引用文献記載の発明
(1)これに対して、当審における、平成17年5月20日付けで通知した拒絶の理由に引用した、本願の出願前に頒布された特表昭60-502043号公報(以下、「引用文献」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

ア.「10.静電力の影響のもとで液体を噴出するように高電位に帯電
した噴霧ヘッドに液体を供給すること、および液体が噴霧ヘッドを
はなれる後でしかも小滴に霧化する前に液体の表面に作用するほぼ
半径方向の電気力を減少し、それにより液体を液糸状にさせること
から成ることを特徴とする液体の静電噴霧方法」
(特許請求の範囲)

イ.「本発明によれば、使用時に静電力の影響のもとで液体を噴出する
ように高電位に帯電できる噴霧ヘッドと、縁または先端の鋭つた少
なくとも一つの電極と、上記少なくとも一つの電極をある電位に保
持する装置とを有し、上記少なくとも一つの電極および電位が、小
滴に霧化する前に液体の表面に作用するほぼ半径方向に向いた電気
力を減少するようにされそれにより液体を液糸状にさせることを特
徴とする液体の静電噴霧装置が提供される。
また本発明によれば、静電力の影響のもとで液体を噴出するよう
に高電位に帯電した噴霧ヘッドに液体を供給すること、および液体
が噴霧ヘッドをはなれる後でしかも小滴に霧化する前に液体の表面
に作用するほぼ半径方向の電気力を減少し、それにより液体を液糸
状にさせることから成ることを特徴とする液体の静電噴霧方法が提
供される。」(2頁左上欄25行乃至右上欄15行)

ウ.「図面の第1図を参照すると、本発明の一実施例である噴霧装置は
熱可塑性材料の逆さ容器9およびこの容器の下方端で出口に取付け
られる狭い金属管1を備えた噴霧ヘッド1を有している。容器9と
金属管1はプラスチツク製ホルダ10によつて支持される。
金属管1は外径が0.5mmであり、内径が0.4mmであり、
そしてホルダ10における高電圧接続体11に接続される。この高
電圧接続体11は金属管1を、15KVの電圧を発生する高電圧源
(図示してない)の正の端子に接続するようにされる。」
(2頁左下欄10行乃至19行)

エ.「使用において、容器9は蒸留水で満され、この蒸留水は容器9か
ら金属管1へ約0.2ml/secまたはそれ以下の流量で供給さ
れ、そして金属管1の出口8から流出する。電圧源のスイッチが入
れられ、15.0KVの電位が金属管1に印加され、また導電性リ
ング2および突起部3はアース電位に保持される。
金属管1の出口8から蒸留水が出てくる際に、蒸留水は液糸すな
わち柱状体4に形成され、この液糸4は出口8から下方向に0.5
〜3cmにわたつてのびる。液糸すなわち柱状体4の直径はそれの
上方端におけるほぼ0.4mmから下方端におけるほぼ0.1mm
まで減少する。下方端において液糸4の水は小滴6に霧化され、こ
れらの小滴6はほぼ半径方向外方へ噴出される。これらの小滴のか
たまり中間直径(・・・)は10〜50μm程度である。
突起部3がない場合には液糸は形成されず、上述の流量において
非常に不規則な霧化が行われるだけである。」
(2頁右下欄7行乃至24行)

オ.「本発明は農薬の溶液(通常しばしば水性媒体で作られる)や塗装
組成物のような種々の液体の噴霧に応用され得る。そのような液体
は106Ωcm(純蒸留水)から104Ωcm(水道水)または
50Ωcmまでの範囲の抵抗率をもつことができる。液体はアルコ
ールまたは低抵抗率(106Ωcm以下)のその他の液体でもよい
。」(3頁左下欄10行乃至15行)

(2)ここで、上記記載事項及び図面から次のことがわかる。
ア.上記2(1)エ.「使用において、・・・金属管1の出口8から蒸
留水が出てくる際に、蒸留水は液糸すなわち柱状体4に形成され、
・・・下方端において液糸4の水は小滴6に霧化され・・・」との
記載、上記2(1)オ.における「液体の噴霧」との記載、上記2
(1)ア.における「静電力の影響のもとで液体を噴出する・・・
液体を液糸状にさせる・・・液体の静電噴霧方法」との記載、上記
2(1)ウ.における「噴霧装置」との記載から、液体を噴霧する
ために使用する、液糸を形成する静電噴霧装置が記載されているこ
とがわかる。

イ.上記2(1)ウ.における「金属管1を備えた噴霧ヘッド1を有し
ている。・・・金属管1は・・・内径が0.4mm」との記載、上
記2(1)エ.における「蒸留水は容器9から金属管1へ約0.2
ml/secまたはそれ以下の流量で供給され、そして金属管1の
出口8から流出する。」との記載、上記2(1)オ.における「本
発明は農薬の溶液(通常しばしば水性媒体で作られる)や塗装組成
物のような種々の液体の噴霧に応用され得る。そのような液体は
106Ωcm(純蒸留水)から104Ωcm(水道水)または
50Ωcmまでの範囲の抵抗率をもつことができる。液体はアルコ
ールまたは低抵抗率(106Ωcm以下)のその他の液体でもよい
。」との記載、上記2(1)ア.における「液体を噴出するように
・・・噴霧ヘッドに液体を供給する」との記載から、所定の内径の
金属管1を備えた噴霧ヘッドであることがわかるとともに、容器9
から金属管1へ供給される液体の流量と金属管1の内径にしたが
い、金属管1の出口8から液体が所定の速度で流出していることが
わかる。
さらに、金属管1へ供給される液体が50Ωcmから106
Ωcmまでの抵抗率を有することがわかる。

ウ.上記2(1)ア.における「静電力の影響のもとで液体を噴出する
ように高電位に帯電した噴霧ヘッド」との記載、上記2(1)ウ.
における「金属管1を備えた噴霧ヘッド1を有している。・・・高
電圧接続体11は金属管1を、15KVの電圧を発生する高電圧源
(図示していない)の正の端子に接続するようにされる。」との記
載、上記2(1)エ.における「使用において、・・・蒸留水は・
・・金属管1の出口8から流出する。電圧源のスイッチが入れら
れ、15.0KVの電位が金属管1に印加され、また導電性リング
2および突起部3はアース電位に保持される。金属管1の出口8か
ら蒸留水が出てくる際に、蒸留水は液糸すなわち柱状体4に形成さ
れ、この液糸4は出口8から下方向に0.5〜3cmにわたっての
びる。液糸すなわち柱状体4の直径はそれの上方端におけるほぼ
0.4mmから下方端におけるほぼ0.1mmまで減少する。下方
端において液糸4の水は小滴6に霧化され、これらの小滴6はほぼ
半径方向外方へ噴出される。」との記載、上記2(1)イ.におけ
る「本発明によれば、使用時に静電力の影響のもとで液体を噴出す
るように高電位に帯電できる噴霧ヘツドと、縁または先端の鋭つた
少なくとも一つの電極と、上記少なくとも一つの電極をある電位に
保持する装置とを有し、上記少なくとも一つの電極および電位が、
小滴に霧化する前に液体の表面に作用するほぼ半径方向に向いた電
気力を減少するようにされそれにより液体を液糸状にさせることを
特徴とする液体の静電噴霧装置が提供される。」との記載から、高
電圧源より高電圧を金属管1に印加することで、金属管1を備えた
噴霧ヘッドには高電圧の電位が印加されていることがわかる。
そして、金属管1には高電圧の電位が印加され、導電性リング2
および突起部3はアース電位に保持されることから、金属管1と導
電性リング2および突起部3との間には高電圧の電位差を生じてい
ることがわかる。
また、金属管1と導電性リング2および突起部3との間の高電圧
の電位差により、金属管1から流出する液体は液糸4となることが
わかるとともに、この液糸4は金属管1の出口8から下方向に、金
属管出口8の内径よりも小さくなりながら、のびていくことがわか
る。
さらに、金属管1と導電性リング2および突起部3との間の高電
圧の電位差により、金属管1と導電性リング2および突起部3との
間には電位勾配が生じていることがわかる。
したがって、金属管1と導電性リング2および突起部3との間に
高電圧の電位差による電位勾配が存在する状態で、液糸は、金属管
1の出口8から下方向に、金属管1の出口8の内径よりも小さくな
りながら、のびていくことがわかる。

(3)引用文献記載の発明
上記記載事項2(1)および2(2)より、引用文献には次の発明が記載
されていると認められる。
「液体を噴霧するために使用する、液糸を形成する静電噴霧装置であって、
前記装置は、
所定の内径の金属管1を備える噴霧ヘッド、所定の速度で流出して前記金
属管1から前記液体を流出できるように、前記金属管1に対して約50から
106Ωcmまでの抵抗率を有する液体を供給する容器9、
前記噴霧ヘッドに高電圧を印加させ、生成された高電圧の影響下で金属管
1に供給した前記液体が流出され、そして前記金属管1の直近にて、液糸と
して流出するに十分な電位勾配が達成されるように作動する高電圧源;
を備える該液糸形成手段を備え、
これにより、上記液糸形成手段が、金属管1の内径より実質的に小さい直
径をもつ液糸を形成する、液体を噴霧するために使用する、液糸を形成する
静電噴霧装置。」(以下、「引用文献記載の発明」という。)

3.対比
そこで、本願発明と引用文献記載の発明とを対比すると、引用文献記載の発明における「金属管1」は、液体が通る流路の限りにおいて、本願発明の「オリフィス」に相当する。
そして、引用文献記載の発明における「50から106Ωcmまでの抵抗率を有する液体」は、所定の抵抗率を有する液体の限りにおいて、本願発明の「約1×107以下の抵抗率を有する液体」に相当する。
また、引用文献記載の発明における「流出」は、その技術的意義、機能に照らして、本願発明の「噴出」あるいは「放出」に相当する。
さらに、引用文献記載の発明における「液糸を形成する静電噴霧装置」、「所定の内径」、「所定の速度」、「容器」、「高電圧源」、「直径」は、その技術的意義、機能に照らして、本願発明の「液糸モード静電噴霧装置」、「所与の直径」、「所与の出口速度」、「液体供給手段」、「電圧供給手段」、「横断面寸法」に相当する。

したがって、本願発明と、引用文献記載の発明は、
「液体を噴霧するために使用する、液糸モード静電噴霧装置であって、
前記装置は、
所与の直径の、流体が通る流路を備える噴霧ヘッド、所与の出口速度で噴出して前記流路から前記液体を放出できるように、前記流路に対して所定の抵抗率を有する液体を供給する液体供給手段、
前記噴霧ヘッドに高電圧を印加させ、生成された高電圧の影響下で流路に供給した前記液体が放出され、そして前記流路の直近にて、液糸として噴出するに十分な電位勾配が達成されるように作動する電圧供給手段;
を備える該液糸形成手段を備え、
これにより、上記液糸形成手段が、流路の直径より実質的に小さい横断面寸法をもつ液糸を形成する、
液体を噴霧するために使用する、液糸モード静電噴霧装置。」
である点で一致し、次の点で相違している。

(1)相違点1
流体が通る流路について、本願発明では「オリフィス」であるのに対し、引用文献記載の発明では「金属管」である点。

(2)相違点2
本願発明では、オリフィスの直近にて、くびれが生じて液糸として噴出するのに対し、引用文献記載の発明では、金属管の直近にて、液糸として噴出するが、くびれが生じているか否かは記載されていない点。

(3)相違点3
所定の抵抗率を有する液体について、本願発明では、「1×107以下の抵抗率を有する液体」であるのに対し、引用文献記載の発明では、「約50から106Ωcmまでの抵抗率を有する液体」である点。

4.判断
(1)相違点1について
噴霧装置において、流体が通る流路をオリフィスで構成することは、本願出願前、周知慣用の技術である。(例えば、特開昭60-41419号公報、特開昭62-197071号公報等参照。)
したがって、引用文献に記載された発明に、上記周知の技術を適用し、上記相違点1に係る本願発明のような構成とすることは、当業者が格別困難なく容易に想到し発明することができたものである。

(2)相違点2について
噴霧装置において、液糸状態を経た後に霧化させる場合、液糸状態の一部に不安定な部分(表面収斂部分や振動する部分)ができることは、本願出願前、周知慣用の技術である。(例えば、特開昭60-41419号公報、特開昭62-197071号公報等参照。)
このような液糸の不安定な部分では、液糸の表面が収斂や振動していることから、液糸部分の横断面寸法が変化していることになり、結果として液糸部分にくびれが生じることになる。
したがって、引用文献に記載された発明において、上記周知の技術を鑑み、上記相違点2に係る本願発明のような構成とすることは、当業者が格別困難なく容易に想到し発明することができたものである。

(3)相違点3について
はじめに、本願発明では、「約1×107以下の抵抗率を有する液体」と記載されており、抵抗率の単位が記載されていない。
しかし、出願当初の明細書を参酌すれば、抵抗率の単位はすべて「Ωcm」で統一されており、かつ出願当初の請求項16等によれば「約1×107Ωcm」と記載されていることから、本願発明の「約1×107以下の抵抗率を有する液体」とは、「1×107Ωcm以下の抵抗率を有する液体」との誤記と解される。
そして、噴霧する液体がもつ抵抗率について、引用文献記載の発明は、本願発明の数値範囲に包含される50Ωcmから106Ωcmの範囲で、本願発明1と共通するから、上記相違点1は、実質的な相違点とはいえない。
なお、静電噴霧において、「約1×107Ωcm以下の抵抗率を有する液体」を用いることは、本願出願前、周知の技術である。(例えば、特開昭60-41419号公報、特開昭62-197071号公報、上田實編集,「静電気の事典」,初版第1刷,株式会社朝倉書店,1988年4月20日,p.178参照。)
しかも、噴霧する液体を適宜選択することは当業者が必要に応じて行うところであるから、引用文献記載の発明において、「約1×107Ωcm以下の抵抗率を有する液体」を用いることは単なる設計的事項にすぎないものである。また、本願発明が特定する数値範囲に臨界的意義もみられない。
したがって、引用文献に記載された発明において、上記相違点3に係る本願発明のような構成とすることは、当業者が格別困難なく容易に想到し発明することができたものである。

しかも、本願発明の構成によってもたらされる効果も、引用文献記載の発明及び上記周知の技術から当業者であれば当然予測することができる程度のものであって、格別なものとはいえない。

5.むすび
したがって、本願発明は、引用文献記載の発明及び上記周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-05-08 
結審通知日 2006-05-10 
審決日 2006-05-24 
出願番号 特願平4-93934
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 早野 公惠鳥居 稔  
特許庁審判長 大橋 康史
特許庁審判官 岩瀬 昌治
飯塚 直樹
発明の名称 液体噴霧装置  
代理人 森田 哲二  
代理人 浜野 孝雄  

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