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審決分類 審判 全部無効 特29条の2 無効としない A61M
審判 全部無効 2項進歩性 無効としない A61M
管理番号 1145400
審判番号 無効2002-35316  
総通号数 84 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-04-07 
種別 無効の審決 
審判請求日 2002-07-30 
確定日 2006-10-11 
事件の表示 上記当事者間の特許第3236623号「柔軟性拡張可能ステント」の特許無効審判事件についてされた平成17年 1月 7日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成17年(行ケ)第10475号平成18年 5月10日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3236623号に係る手続の経緯は以下のとおりである。
平成 7年 7月26日 国際出願(パリ条約による優先権主張外国庁受理1994年7月28日、1995年5月31日、米国)
平成13年 9月28日 本件特許第3236623号設定登録
平成14年 7月30日 テルモ株式会社より本件無効審判請求
平成15年 2月24日 メディノール リミティドより答弁書(以下、「第1答弁書」という。)及び訂正請求書提出
平成15年 4月24日 テルモ株式会社より弁駁書(以下、「第1弁駁書」という。)及び手続補正書提出
平成15年 4月24日 メディノール リミティドより口頭審理陳述要領書提出
平成15年 4月24日 第1回口頭審理
平成15年 5月12日 メディノール リミティドより答弁書(以下、「第2答弁書」という。)提出
平成15年 5月12日 テルモ株式会社より証拠提出書提出
平成15年 6月12日 メディノール リミティドより答弁書(以下、「第3答弁書」という。)提出
平成15年 6月13日 テルモ株式会社より弁駁書(以下、「第2弁駁書」という。)提出
平成15年 6月23日 テルモ株式会社より上申書提出
平成15年 8月27日 メディノール リミティドより上申書提出
平成15年 9月29日 テルモ株式会社より上申書提出
平成15年10月21日 メディノール リミティドより上申書提出
平成16年 5月27日 ボストン・サイエンティフィックジャパン株式会社が、特許法148条1項の規定による請求人としての参加を求める参加申請書及び上申書を提出
平成16年 7月 5日 メディノール リミティドより意見書を提出
平成17年 1月 7日 本件無効審判につき、審決(訂正を認めるものの、請求項1〜11に係る特許を無効にする)
平成17年 5月13日 上記審決に関し、メディノール リミティドが出訴(平成17年(行ケ)10475号)
平成17年 6月22日 メディノール リミティドが訂正審判2005-39105を請求
平成17年10月 6日 ボストン・サイエンティフィックジャパン株式会社、参加申請取下書を提出
平成18年 3月 2日 訂正審判2005-39105につき訂正を認めるとの審決
平成18年 5月10日 訂正確定により本件無効事件について、平成17年1月7日にした審決を取り消すとの判決
平成18年 6月 9日 訂正を認める審決の確定の通知書を、請求人代理人に送付

2.訂正後の本件特許発明
本件無効審判の対象となる請求項に係る発明は、訂正後の特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜11に記載された事項により特定される次のものである。
「【請求項1】模様形状を有し縦方向に伸びる管より成るステントであって、ここでこの模様形状は:
a.第一方向に広がる軸を有する偶数次元第一メアンダー模様:ここで当該偶数次元第一メアンダー模様は、前記第一方向の中心線分を中心とする周期模様からなり、前記周期模様は、交互に向きが変わって反対方向に開放する複数のループを有し、これにより、前記偶数次元第一メアンダー模様は、閉じられたスロット又は閉じられた領域を形成しない;
b.これも第一方向に広がる軸を有する奇数次元第一メアンダー模様:ここで前記奇数次元第一メアンダー模様は、前記第一方向の中心線分を中心とする周期模様からなり、前記周期模様は、交互に向きが変わって反対方向に開放する複数のループを有し、これにより前記奇数次元第一メアンダー模様は閉じられたスロット又は閉じられた領域を形成せず、また前記奇数次元第一メアンダー模様は、前記ステントの前記縦方向に沿って、前記偶数次元第一メアンダー模様と交互に配置され、また前記奇数次元第一メアンダー模様は前記偶数次元第一メアンダー模様と 180°の位相角でずれており、これにより、前記奇数次元第一メアンダー模様のループの開放部は、隣の前記偶数次元第一メアンダー模様の対応するループの開放部に向い合っている;
c. 前記第一方向とは異なる第二方向に広がる軸を有する複数の第二メアンダー模様:ここで前記複数の第二メアンダー模様は前記偶数次元及び奇数次元第一メアンダー模様とからみ合って概して均一な分布構造を形成している;
を含んで成り、そして
d.前記偶数次元及び奇数次元第一メアンダー模様が前記複数の第二メアンダー模様に対し、当該偶数次元第一メアンダー模様と当該奇数次元第一メアンダー模様との間毎に当該第二メアンダー模様のループが存在するように接続されており、
e.前記複数の第二メアンダー模様のループが、開放していて拡張圧縮可能であると共に、前記ステントの全周方向に亘って分散配置され、これにより前記ステントの屈曲の際、該ステントの屈曲部の内側曲線及び外側曲線の両方の近くに前記第二メアンダー模様のループが存在する
ステント。
【請求項2】前記偶数次元第一メアンダー模様及び前記奇数次元第一メアンダー模様が前記第一方向に広がる軸を中心に周期的となっており、そして前記第二メアンダー模様が前記第二方向に広がる軸を中心に周期的となっており、そして前記偶数次元第一メアンダー模様の前記周期模様が正弦波からなり、そして前記奇数次元第一メアンダー模様の前記周期模様が正弦波からなる、請求項1記載のステント。
【請求項3】前記第二メアンダー模様が偶数次元及び奇数次元メアンダー模様より成り、前記複数の第二メアンダー模様のループがU字状、コ字状又はV字状である、先の請求項のいずれか1項記載のステント。
【請求項4】前記偶数次元及び奇数次元第一メアンダー模様がループを有し、そして前記偶数次元及び奇数次元第二メアンダー模様が前記偶数次元及び奇数次元第一メアンダー模様に接続され、各組の偶数次元及び奇数次元第二メアンダー模様の間に1本の完全ループができており、この完全ループの中に少なくとも1つの開放ループができている、請求項3記載のステント。
【請求項5】模様形状を有し縦方向に伸びる管より成るステントであって、ここでこの模様形状が:
a.第一方向に広がる軸を有する偶数次元及び奇数次元第一メアンダー模様:ここで当該偶数次元及び奇数次元第一メアンダー模様は、前記第一方向の中心線分を中心とする周期模様からなり、前記周期模様は、交互に向きが変わって反対方向に開放する複数のループを有し、これにより、前記偶数次元第一メアンダー模様は、閉じられたスロット又は閉じられた領域を形成せず、前記奇数次元第一メアンダー模様は、閉じられたスロット又は閉じられた領域を形成せず、また前記偶数次元第一メアンダー模様は前記奇数次元第一メアンダー模様と 180°の位相角でずれており、これにより、前記奇数次元第一メアンダー模様のループの開放部は、隣の前記偶数次元第一メアンダー模様の対応するループの開放部に向い合っている;
b.前記第一方向とは異なる第二方向に広がる軸を有する複数の第二メアンダー模様:ここで前記偶数次元及び奇数次元第一メアンダー模様が前記複数の第二メアンダー模様に対し、当該偶数次元第一メアンダー模様と当該奇数次元第一メアンダー模様との間毎に当該第二メアンダー模様のループが存在するように接続されており、そして前記複数の第二メアンダー模様は前記偶数次元及び奇数次元第一メアンダー模様とからみ合って概して均一な分布構造を形成している;
を含んで成り、そして
c.前記複数の第二メアンダー模様のループが、開放していて拡張圧縮可能であると共に、前記ステントの全周方向に亘って分散配置され、これにより前記ステントの屈曲の際、該ステントの屈曲部の内側曲線及び外側曲線の両方の近くに前記第二メアンダー模様のループが存在する
ステント。
【請求項6】前記第一メアンダー模様が前記第一方向に広がる軸を中心に周期的であり、そして前記第二メアンダー模様が前記第二方向に広がる軸を中心に周期的であり、そして前記偶数次元及び奇数次元第一メアンダー模様の前記周期模様が正弦波からなる、請求項5記載のステント。
【請求項7】前記第一及び第二方向が直交している、請求項1〜6のいずれか1項記載のステント。
【請求項8】前記第一及び第二方向が直交していない、請求項1〜6のいずれか1項記載のステント。
【請求項9】前記第一及び第二メアンダー模様がワイヤーより成る、請求項1〜8のいずれか1項記載のステント。
【請求項10】前記第一及び第二メアンダー模様が平らな金属より切断されたものである、請求項1〜8のいずれか1項記載のステント。
【請求項11】前記ステントが、保護材料のプレーティング、医薬品の含浸及び材料でのカバーのうちのいずれかにより仕上げられたものである、請求項1〜10のいずれか1項記載のステント。」(以下、「本件発明1〜11」という。)

3.請求人の主張する無効理由
請求人は、審判請求書において、以下の無効理由1及び2を主張している。

無効理由1.特許法第29条の2違反
本件発明1〜8、10〜12(訂正後の本件発明1〜7、9〜11)は、甲第4号証として提示した国際出願PCT/US95/06228の国際公開パンフレットに記載された発明と同一であり、本件発明1〜8、10〜12についての特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により、無効とすべきものである。
無効理由2.特許法第29条2項違反
本件発明1〜12(訂正後の本件発明1〜11)は、甲第2、3号証として提示した特開平1-299550号公報、特開平3-151983号公報に記載の発明の基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明1〜12についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により、無効とすべきものである。

また、無効理由1、2に関連して、以下のことを主張している。

[無効理由1に関連する主張]
〈メアンダー模様について〉
・甲第5号証の「meander」の項で示された図面を参照すると、メアンダー模様は、単に「蛇行した(又は曲がりくねった)路によって形成された模様」(すなわちスロットなどを含まない単純な蛇行模様)のみをいうのではなく、「スロットなどを有する複雑な形状の曲折模様をも含めて、折れ曲がったり、湾曲した線部分、すなわち曲折した線部分によって形成された広義(上位概念)の曲折模様」を意味し、このことは、甲第6号証に「meander」の項で「・・・卍(まんじ)続き(模様)・・・」と記載され、卍続き模様としてスロットを含む模様も挙げることができることからも裏付けられる。(平成15年5月12日証拠提出書第2頁12行〜第4頁23行)
・被請求人の提示した参考資料1の「メアンダー丸1」の図面に示されたメアンダー模様は、有限長の模様単位を互いに所定の間隔をあけながら密接させずに次々に組み合わせたものであって1本の連続した線を蛇行(曲折)させたものではなく、また、参考資料1の「メアンダー丸2」の図面に示されたメアンダー模様は、小さなものではあっても、スロットに相当する穴を有していること、また、蛇行する川の流れの途中に中洲が存在することは通常広く知られており、この場合には川は中洲を挟んでスロットを有する形状となることから、メアンダー模様の定義に関する被請求人の主張は誤りであり、甲第4号証の図11の模様a、a’もメアンダー模様というべきものである。(第2弁駁書第4頁13行〜第11頁21行、第9頁5行〜9行)
〈甲第4号証の記載事項について〉
・甲第4号証の図11a、図11bに加筆を施した図面(以下、「別添図面1」という。)には、「ステントを構成する管状物の長さ方向に直角な径上(円周上)にあって且つ模様の中心を通る線分を中心とするスロットを有する周期模様a,a’」と「ステントを構成する管状物の長さ方向に平行で且つ模様の中心を通る線を中心とする周期模様bo,be」を有するステントが記載されており、周期模様a,a’は偶数次元、奇数次元の第一メアンダー模様に、周期模様bo,be は偶数次元、奇数次元の第二メアンダー模様に相当する。(審判請求書第16頁6行〜第17頁2行、第1弁駁書第4頁6行〜第5頁24行)
・本件発明における偶数次元第二メアンダー模様及び奇数次元第二メアンダー模様は、本件の願書に添付した図面の第4図における12e及び12oをさすと解されるから、別添図面1中のbe及びboはそれぞれ本件発明の偶数次元第二メアンダー模様及び奇数次元第二メアンダー模様に相当する。(審判請求書第21頁16行〜第22頁9行)
・別添図面1に記載されたステントでは、第一メアンダー模様a、a’の間にはコの字型状すなわちループ状の第二メアンダー模様b、b’が存在するように接続されているから、甲第4号証記載のステントは、「偶数次元及び奇数次元第一メアンダー模様が前記第二メアンダー模様に対し、当該偶数次元第一メアンダー模様と当該奇数次元第一メアンダー模様との間毎に当該第二メアンダー模様のループが存在するように接続されている」との要件を備えている。(第1弁駁書第6頁2行〜16行)
・甲第4号証の図11に記載されているステントが、その第一及び第二メアンダー模様を平らな金属材料等の切断等によって形成されていることは明らかである。(審判請求書第27頁24行〜第28頁4行)
・甲第4号証の図11に記載されているステントは、その表面を放射線不透過性材料などでコーティングする態様を当然に含んでいるから、本件発明11の構成を備えている。(審判請求書第28頁13行〜19行)
〈作用効果について〉
・被請求人が有限要素法によるシミュレーションで本件発明の好適な態様に係るステントとして使用した参考資料7に示すステントは、本件特許の願書に添付した明細書又は図面に示されていないものであり、本件発明と甲第4号証記載の発明との間に作用効果上の違いがあることを何ら証明するものではない。(第2弁駁書第14頁1行〜第15頁28行)
・「本件発明のステントは全体に柔軟性であるのに対して、甲第4号証に記載されたステントは、第二メアンダー模様部分でのみ屈曲し、全体が柔軟ではない」という被請求人の主張は、請求人の行ったシミュレーション結果からみても、誤りである。(第2弁駁書第16頁1行〜第17頁11行)

[無効理由2に関連する主張]
〈甲第2号証の記載事項について〉
・本件発明1と甲第2号証に記載された発明とでは、「湾曲可能な接合部である第二メアンダー模様部分が第一メアンダー模様(偶数次元第一メアンダー模様と奇数次元第一メアンダー模様)の拡張方向と異なる方向に広がる」のに対して、甲第2号証に記載された発明では、湾曲可能な接合部であるコネクタ部分100[周期模様(メアンダー模様)を有し本件発明1における第二メアンダー模様に相当]が伸張可能である;という点のみが相違するだけであり、それ以外の点では何ら違いがない。(審判請求書第36頁15行〜22行)
・「第二メアンダー模様が、奇数次元及び偶数次元メアンダー模様より成る」点に関し、甲第2号証に記載された発明において、そのコネクタ部材100,100を偶数次元メアンダー模様および奇数次元メアンダー模様とするようなことは、必要に応じて当業者が容易になし得る設計的事項に過ぎない。(審判請求書第40頁19行〜第41頁3行)
〈甲第3号証の記載事項について〉
・甲第3号証には、「径方向(放射方向)に拡張可能な複数の管状部材(ステント分節部;本件発明における偶数次元第一メアンダー模様および奇数次元第一メアンダー模様部分に相当)を有し、隣接する該管状部材を、柔軟で屈曲(湾曲)可能なヒンジ部(連結部)で接合してなるステントにおいて、そのヒンジ部(連結部)を、該管状部材の径方向への拡張時に該径方向と直交する管の長さ方向に伸長可能な部材から構成すると、該管状部材の径方向への拡張に伴うステント全体の長さ方向の短縮を抑制することができる」という技術思想が開示されているから、甲第2号証に記載されているステントに対して、甲第3号証に記載されている前記技術思想を適用して、甲第2号証に記載されているステントにおけるコネクタ部分100(第二メアンダー模様部分)を、その管状部材71,71(第一メアンダー模様部分)の拡張可能方向とは異なる方向に、より大きく拡張が可能な構造に変えることは、甲第3号証に記載された発明から当業者が容易になし得たことに過ぎない。(審判請求書第37頁19行〜第38頁3行)
・「第二メアンダー模様のループが存在する」点に関し、甲第3号証のステントにおいて、隣接するステント分節部(第一メアンダー模様部分に相当)を接続するヒンジ部(第二メアンダー模様部分に相当)を構成しているらせん状ワイヤーは、複数のループを有し、それによってステント分節部が管の径方向への拡張によるステント全体の長さ方向の収縮を低減できる構造になっているから、甲第3号証に記載された発明(技術思想)に基づいて当業者が容易に想到し得たものに過ぎない。(審判請求書第39頁24行〜第40頁13行)
・「ステントにおける第一および第二メアンダー模様がワイヤーからなる」点に関し、甲第3号証には、ステントをワイヤー(金属線)から形成することが記載されている。(審判請求書第43頁27行〜第44頁4行)
〈作用効果について〉
・被請求人の「本件発明のステントは第二メアンダー模様部分がステント全体に均質に分布するから、ステント全体が屈曲性である」との主張は、特許請求の範囲の記載に基づくものではない。(第1弁駁書第14頁2行〜9行)

[証拠方法]
甲第1号証:特表平10-500595号公報
甲第2号証:特開平1-299550号公報
甲第3号証:特開平3-151983号公報
甲第4号証:国際公開第95/31945号パンフレット(優先日1994.5.19、公開日1995年11月30日)
甲第5号証:「建築ウ”ィジュアル辞典 英和対照」フランシスD.K.チン著、株式会社彰国社、1998年9月10日第1版発行、第232頁
甲第6号証:「KENKYUSHA’S NEW ENGLISH-JAPANESE DICTIONARY」株式会社研究社、大型版初刷1982年9月発行、第1316頁

4.甲第4号証、甲第2号証及び甲第3号証記載の発明(事項)
(1)甲第4号証記載の発明
本件特許出願の優先権主張の日前に優先権主張された国際特許出願であって、本件特許出願の出願後に国際公開された国際出願の明細書、請求の範囲又は図面である甲第4号証には、以下の事項が記載されている。なお、甲第1号証として提出された甲第4号証のパテントファミリーである特表平10-500595号公報を甲第4号証の翻訳文として使用する。
(イ)「1.組織支持装置であって、第1の部分と第2の部分とからなり、略管状に形成された収縮可能な自己拡張部材を備え、該第1の部分は弾性材料からなることと、該第2の部分は変形可能であり、該第1の部分より実質的に弾性が小さい材料からなることと、該部材は患者への挿入のための準備に際して、配置可能な直径まで収縮可能であることと、該第1の部分の弾性によって、配置当初の直径まで収縮されないとき該装置は自己拡張することと、永久的に組織を支持すべく、該部材を完全拡張時の直径まで放射方向に拡張させる外力を用いて、該第2の部分の変形可能性によって、前記装置が更に変形されるように、該部分は互い結合されていることとを備える組織支持装置。」(甲第4号証第14頁3行〜12行、甲第1号証の特許請求の範囲の請求項1)
(ロ)「7.前記第1及び第2の部分は、ストランドである請求項1に記載の装置。」(甲第4号証第14頁23行〜24行、甲第1号証の特許請求の範囲の請求項7)
(ハ)「9.ほぼ平常時の体温にて、超弾性を有するオーステナイト形状記憶合金部分と、マルテンサイト形状記憶合金部分とからなり、所定の製造時の直径を有する略管状本体を備えた永久自己拡張ステントであって、該超弾性オーステナイト合金部分は、体温より低い、マルテンサイトからオーステナイトへの遷移温度を有し、該マルテンサイト合金部分は、体温より実質的に高い、マルテンサイトからオーステナイトへの遷移温度を有することと、該オーステナイト合金部分が該遷移温度より低い温度でマルテンサイトに変態するとき、該ステントを所定の製造時の直径より小さい配置時の直径まで収縮させ、かつ、該超弾性オーステナイト合金部分の遷移温度より高い温度で、該オーステナイト合金部分がマルテンサイトからオーステナイトに戻るように変態するとき、該ステントをほぼ所定の製造時の直径まで自己拡張させるように、該2つの合金部分が協働するような該ステントを形成すべく、該マルテンサイト合金部分と該超弾性オーステナイト合金部分とが構成及び配置され、かつ互いに協働することと、該超弾性オーステナイト部分の形状記憶は、その形状記憶により、該ステントをより大きい直径に形成しようとする傾向にある一方、該マルテンサイト合金部分によってこれを規制されることと、該オーステナイト合金部分は、塑性変形を起こすことなく、外力によって該マルテンサイト部分と共に、自己拡張時の直径より大きい、拡大されたステント直径まで変形されることとを備えたステント。」(甲第4号証第14頁27行〜第15頁13行、甲第1号証の特許請求の範囲の請求項9)
(ニ)「12.前記第1及び第2の部分は、ストランドの形状を有する請求項9に記載の装置。
13.前記第1及び第2の部分は、長手方向に配置され、相互に連結されかつ交互に配置された複数のリング状に形成された請求項9に記載の装置。
14.複数のケーブル状ストランドを有し、各ストランドは複数の線材からなり、該線材のいくつかは第1の部分であり、その他は第2の部分である請求項9に記載の装置。」(甲第4号証第15頁18行〜24行、甲第1号証の特許請求の範囲の請求項12〜14)
(ホ)「本発明は、組織支持装置全般に関し、更に詳細には、血管内に配置するための血管ステントに関する。本発明の装置の主な特徴は、体内にて拡張可能であることにある。」(甲第4号証第1頁4行〜6行、甲第1号証第8頁4行〜6行)
(ヘ)「本発明の組織支持装置は、全体がほぼ円筒状または管状であり、拡大のための放射状拡張を可能にするような構造を有する。本明細書では、しばしば、一般的な意味において、同装置を「ステント」と称する。・・・ 好ましくは、本発明の装置は金属、最も好ましくは、形状記憶合金により形成される。」(甲第4号証第2頁2行〜13行、甲第1号証第9頁4行〜14行)
(ト)「図8〜図11は、本発明のステントに用いられ得るフラグメントにおいて、種々の拡張可能な形状(収縮時及び拡張時)を示す。」(甲第4号証第3頁23行〜24行、甲第1号証第10頁26行〜27行)
(チ)「図1に示す実施形態において、ステント10は、網状の即ち相互に撚り合わせた金属ストランド12,14を備える。ストランド12は、例えば、バネ鋼であるエルジロイ(Elgiloy)等、弾性を有するバネ状金属から形成される。」(甲第4号証第4頁7行〜9行、甲第1号証第11頁10行〜12行)
(リ)「例えば、図3に示すように、ステント30(端面図にて示す)を、層状構造に形成することが可能である。ステント30は、一般には中空円筒状または管状の本体からなるが、本体の放射方向への拡張を促進するため、図1,5,6及び図8-11に示すように、広範囲に及ぶ具体的な形状またはパターンに形成することが可能である。」(甲第4号証第7頁7行〜11行、甲第1号証第14頁21行〜25行)
(ヌ)「図8〜図11は、本発明の装置に援用され得る種々の拡張可能な形状の例を示す(aは収縮時、bは拡張時)。」(甲第4号証第12頁11行〜13行、甲第1号証第20頁11行〜12行)
(ル)「更に、1つ以上のストランドがプラスティック等の生物分解可能な材料、または吸収剤等の材料によって形成され得る。・・・ 先行技術において周知であるように、これらのステントのあらゆる部分に、放射線不透過性部分またはコーティングを設けることが可能である。」(甲第4号証第13頁11行〜18行、甲第1号証第21頁17行〜24行)
(ヲ)請求人が符号を加筆した図11a(別添図面1)から、
「ステントを構成する管状物の長さ方向に直角な径上にあって且つ模様の中心を通る線を中心とし、スロットの連なった周期模様(以下、当該周期模様を、一つおきに「周期模様a」、「周期模様a’」という。)と、ステントを構成する管状物の長さ方向に平行で且つ模様の中心を通る線を中心とする周期模様(以下、当該周期模様を、一つおきに「周期模様b」、「周期模様b’」という。)とを有し、隣合う周期模様a間毎に周期模様bのループが存在するように接続されており、周期模様bは周期模様aとからみ合って概して均一な分布構造を形成していること、及び、平板より切断したものであること」が看取し得る。
これらの記載事項からみて、甲第4号証には、別添図面1に加筆された符号も使用して表現すると、
「模様形状を有する管より成るステントであって、ここでこの模様形状は:
ステントを構成する管状物の長さ方向に直角な径上にあって、スロットの連なった周期模様a及び周期模様a’;ここで前記周期模様aは2本毎の周期模様a’の間にある;
ループd、d’を有し、ステントを構成する管状物の長さ方向に広がる周期模様bo、be:ここで周期模様bo、beは前記周期模様a及び周期模様a’とからみ合って概して均一な分布構造を形成し;
前記周期模様a,a’が前記周期模様bo,beに対し、当該周期模様aと当該周期模様a’との間毎に当該周期模様bo,beのループd、d’が存在するように接続されているステント、
上記ステントにおいて、合金の平板より切断されたもの、あるいは、相互に撚り合わせた金属ストランドより成るもの、及び、
コーティングされたものである、ステント」の発明(以下、「甲第4号証記載の発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)甲第2号証記載の発明
本件特許出願の優先権主張の日前に日本国内で頒布された刊行物である甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
(イ)「3.複数の薄肉管状部材、ここに、該管状部材の各々は第1端部、第2端部及び該第1端部と第2端部の間に配置されている壁表面を有し、該壁表面は実質的に均一な厚さを有しておりそして該壁表面には複数のスロットが形成されており、該スロットは各管状部材の長手方向軸線に実質的に平行に配置されている;及び、
隣接管状部材間に配置されていて隣接管状部材を柔軟に接続する少なくとも1つのコネクタ部材を備えて成り;
各管状部材は、管腔を持った身体通路内への前記管状部材の管腔内送り込みを可能とする第1の直径を有し;
前記管状部材は、該管状部材の内側から半径方向に外方に伸張させる力を加えられると第2の伸張しそして変形した直径を有し、該第2の直径は可変でありそして該管状部材に及ぼされる力の量に依存しており、それにより、該管状部材は身体通路の管腔を伸張させるように伸張及び変形することができる;
ことを特徴とする伸張可能な管腔内脈管移植片。」(第2頁左上欄4行〜同頁右上欄5行)
(ロ)「好ましくは、管状部材71は最初は均一な肉厚を有する薄肉のステンレス鋼であり、多数のスロット82が管状部材71の壁表面74に形成される。第1A図に示されるように、スロット82は管状部材71の長手方向の軸線に事実上平行に配置される。」(第7頁左下欄17行〜同頁右下欄2行)
(ハ)「更に第5図及び6図を参照すると、第1A図及び1B図に関連して先に記載したプロテーゼ又は移植片70が示されており、そして移植片又はプロテーゼ70の管状部材71は管状の形状の部材71の壁表面74上に生物学的に不活性な又は生物学的に適合性のある被覆90が配置されている。」(第10頁右下欄7行〜12行)
(ニ)「第7図に示されているように、移植片又はプロテーゼ70’は、一般に、複数の、第1A図、第1B図及び第2図に示されたような移植片又はプロテーゼ70を含んで成る。好ましくは、各移植片又はプロテーゼの長さは、ほぼ1つのスロット82のま長さである。しかしながら、各移植片70の長さは、第1A図に示されたように、2つのスロットの長さにほぼ等しくすることができる。隣接管状部材71間に又は隣接移植片又はプロテーゼ70間に配置されているのは、隣接管状部材71又は移植片もしくはプロテーゼ70を柔軟に接続するための少なくとも1つのコネクタ部材100である。コネクタ部材100は、好ましくは、前記したような、移植片70と同じ材料から形成され、そしてコネクタ部材100は、第7図に示された如く、隣接移植片70又は管状部材71かんで一体的に形成されてもよい。第8図に示された如く、移植片又はプロテーゼ70’の長手方向軸線に沿って、コネクタ部材100の断面形状は、細長い部材75の同じ均一な厚さを有するという点で同じである。もちろん、それに替わるものとして、コネクタ部材100の厚さは細長い部材75の厚さよりも小さくすることができることは、当業者には容易に明らかであろう。しかしながら、コネクタ部材100の外周表面101は、第8図に示された如く、移植片又はプロテーゼ70の壁表面74により形成された同じ面内にあることが好ましい。
更に第7図乃至第10図を参照すると、コネクタ部材100は、隣接移植片又はプロテーゼ70の長手方向軸線に対して非平行な関係において配置されているのが好ましい。」(第11頁右上欄12行〜同頁右下欄3行)
(ホ)「第9図を参照すると、プロテーゼ70’は、身体通路80内の所望の位置に送られつつあり、そして移植片又はプロテーゼ70’はカテーテル83上に配置されておりそして動脈の曲がり部のような身体通路80のまがった部分を通過しているときに、とるであろう形状において示されている。分かりやすくするために、カテーテル83は第9図には示されていない。というのは、このようなカテーテル83の柔軟性は当業界では周知されているからである。第9図に見られるように、隣接した管状部材71又は移植片もしくはプロテーゼ70間に柔軟なコネクタ部材100を配置したので、移植片又はプロテーゼ70’は、移植片又はプロテーゼ70’の長手方向軸線に対して柔軟に曲がるか又は関節式に接合する(articulate)ことができて、身体通路80内に見出だされる湾曲部又は曲がり部を乗り越えることができる。第9図に見られるように、移植片又はプロテーゼ70’が移植片70’の長手方向軸線の回りに曲がるか又は関節状になるにつれて、管状部材71間の間隔は湾曲部又は曲がり部の外側103のまわりで増加又は伸張し、そしてこの間隔は、湾曲部又は曲がり部の内側104では減少又は圧縮される。同様に、湾曲部の外側103のに隣接したスパイラルコネクタ部材102は柔軟に且つ弾性的に伸長して、その点での間隔の伸張を可能とし、湾曲部り内側104に隣接したスパイラルコネクタ部材102は柔軟に且つ弾性的に圧縮して湾曲部り内側104での管状部材71間の間隔の減少を可能とする。コネクタ部材100は、移植片又はプロテーゼ70’の長手方向軸線の回りのいかなる方向においても隣接管状部材71の曲がり又は関節状になることを可能とすることに留意されるべきである。」(第12頁左上欄7行〜同頁右上欄20行)
(ヘ)「第10図を参照すると、移植片又はプロテーゼ70’は、第1B図に示された形状と同様な、伸張されそして変形された形状で示されている。」(第12頁左下欄1行〜3行)
これらの摘記事項(イ)〜(ヘ)及び図7〜10の記載からみて、甲第2号証には、当審が甲第2号証の図10に加筆した別添図面2も用いて表現すると、
「多数のスロット82が壁表面に形成された複数の管状部材71より成る管腔内脈管移植片70’であって、ここで多数のスロット82の模様形状は:
各管状部材71の径方向に広がるスロット82の周期模様;ここで当該スロット82の周期模様は、前記各管状部材71の径方向の中心線分を中心とする周期模様からなる;
各管状部材71の長手方向に広がるスロット82及びコネクタ部材100からなる複数の周期模様:ここで各管状部材71の長手方向に広がる複数の周期模様は、前記各管状部材71の径方向に広がる周期模様とからみ合って概して均一な分布構造を形成している;
を含んで成り、そして、
前記各管状部材71の径方向に広がる周期模様が前記各管状部材71の長手方向に広がる軸を有する複数の周期模様に対し、当該各管状部材71の径方向に広がる周期模様間毎に当該各管状部材71の長手方向に広がる周期模様のコネクタ部材100が存在するように接続されており、
前記各管状部材71の長手方向に広がる複数の周期模様のコネクタ部材100が、前記管腔内脈管移植片70’の全周方向に亘って分散配置され、これにより前記管腔内脈管移植片70’の屈曲の際、該管腔内脈管移植片70’の屈曲部の内側曲線及び外側曲線の両方の近くに前記各管状部材71の長手方向に広がる周期模様のコネクタ部材100が存在する
管腔内脈管移植片70’」の発明(以下、「甲第2号証記載の発明」という。)が記載されていると認められる。

(3)甲第3号証記載の事項
本件特許出願の優先権主張の日前に日本国内で頒布された刊行物である甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
(イ)「(1)少なくとも2以上の金属性の管状ステント分節部と、当該ステント分節部同士を接合するための生体適応性材料よりなる柔軟なヒンジ部とを有することを特徴とする関節接合型ステント。・・・
(3)前記ヒンジ部は、らせん状のワイヤーであることを特徴とする請求項1に記載の関節接合型ステント。
(4)前記ヒンジ部は、放射線非透過性材料で作られているか、または被覆されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の関節接合型ステント。
(5)複数個のワイヤーの各端部を互いに溶着してなる少なくとも2以上の管状ステント分節部と、当該ワイヤーの一端部を延伸してなる当該ステント分節部相互間を接合するためのヒンジ部とを有することを特徴とする関節接合型ステント。・・・
(7)前記ヒンジ部は、らせん状に巻かれていることを特徴とする請求項5または6のいずれかに記載の関節接合型ステント。」(第1頁左下欄5行〜同頁右下欄11行)
(ロ)「ヒンジ部14は、全て屈曲部の外方に配置され、内方のステント分節部12の端部は、屈曲のため互いに接近している。このヒンジ部14の配置によって、該ヒンジ部14は2つの役割を果たしている。その第1は、ステント分節部12をつなぐ橋として屈曲部からみて外方の動脈壁を補強的に支える役割であり、その第2は、ヒンジ部14と反対側の複数のステント分節部12の端部を互いに近づける役割である。この第2の役割により、屈曲部内方の動脈壁は補強的に支えられることになる。」(第3頁左上欄1行〜10行)
(ハ)「第3図において、関節接合型ステント18は、2つのランプフィラメントのようならせん形状のヒンジ部22によって順次接合された3つのステント分節部20によって構成されている。ヒンジ部22は隣り合ったステント分節部20のそれぞれ1つのワイヤー端部に溶着されている。ヒンジ部22をらせん形状とすることで、ヒンジ部の強度を維持しつつ、血管の屈曲に対する柔軟性を増すことができる。」(第3頁右上欄12行〜20行)
(ニ)図3から、
「各ステント分節部20はステントはメアンダー模様であること」が看取し得る。
これらの摘記事項及び図面の記載からみて、甲第3号証には、
「模様形状を有する管より成るステントであって、ここでこの模様形状は:
管の径方向に広がる軸を有する偶数次元第一メアンダー模様であるステント分節部:ここで当該偶数次元第一メアンダー模様は、前記管の径方向の中心線分を中心とする周期模様からなり、前記周期模様は、交互に向きが変わって反対方向に開放する複数のループを有し、これにより、前記偶数次元第一メアンダー模様は、閉じられたスロット又は閉じられた領域を形成しない;
これも管の径方向に広がる軸を有する奇数次元第一メアンダー模様であるステント分節部:ここで前記奇数次元第一メアンダー模様は、前記管の径方向の中心線分を中心とする周期模様からなり、前記周期模様は、交互に向きが変わって反対方向に開放する複数のループを有し、これにより前記奇数次元第一メアンダー模様は閉じられたスロット又は閉じられた領域を形成せず、また前記奇数次元第一メアンダー模様は、前記ステントの管の軸方向に沿って、前記偶数次元第一メアンダー模様と交互に配置され、また前記奇数次元第一メアンダー模様は前記偶数次元第一メアンダー模様と 180°の位相角でずれており、これにより、前記奇数次元第一メアンダー模様のループの開放部は、隣の前記偶数次元第一メアンダー模様の対応するループの開放部に向い合っている;
管の径方向とは異なる管の軸方向に広がる軸を有するらせん形状のヒンジ部22;ここでヒンジ部22は前記偶数次元及び奇数次元第一メアンダー模様のステント分節部を接続している;
を含んで成り、そして
前記偶数次元及び奇数次元第一メアンダー模様が、当該偶数次元第一メアンダー模様と当該奇数次元第一メアンダー模様との間毎にらせん状のヒンジ部22が存在するように接続されており、
前記ヒンジ部22が、らせん形状であって拡張可能であると共に、前記ステントの屈曲部の外側曲線の近くに配置されているステント。」(以下、「甲第3号証記載の発明」という。)が記載されていると認められる。

5.当審の判断
5-1.無効理由1(特許法第29条の2違反)について
本件発明1及び5と甲第4号証記載の発明とを対比すると、両者は、少なくとも以下の点で相違する。
「前者は、偶数次元及び奇数次元第一メアンダー模様が、交互に向きが変わって反対方向に開放する複数のループを有し、これにより閉じられたスロット又は閉じられた領域を形成しないのに対して、後者は、偶数次元第一メアンダー模様及び奇数次元第一メアンダー模様に対応する周期模様a及び周期模様a’が、閉じられたスロット又は閉じられた領域を形成する」点。
そして、本件発明1及び5は、偶数次元及び奇数次元第一メアンダー模様が、閉じられたスロット又は閉じられた領域を形成しないことで、屈曲性や拡張圧縮性の点でより優れた作用効果を奏している。
したがって、本件発明1、5はともに甲第4号証記載の発明と同一ではない。

また、本件発明2〜4は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明6は、本件発明5を引用するものであり、本件発明7〜11は、直接又は間接的に本件発明1又は5を引用するものであるから、本件発明2〜4、6〜11も甲第4号証記載の発明と同一ではない。

5-2.無効理由2(特許法第29条第2項違反)について
5-2-1.本件発明と甲第2号証記載の発明を基本とする対比
(i)本件発明1及び5と甲第2号証記載の発明との対比
本件発明1と甲第2号証記載の発明とを対比すると、後者の「多数のスロット82が壁表面に形成された複数の管状部材71」が前者の「模様形状を有する管」に、後者の「管腔内脈管移植片70’」が前者の「ステント」に、それぞれ相当する。
そして、後者の「各管状部材71の径方向に広がるスロット82の周期模様」と前者の「第一方向に広がる軸を有する偶数次元及び奇数次元第一メアンダー模様」とは、「第一方向に広がる軸を有する第一周期模様」の限りで、後者の「各管状部材71の長手方向に広がるスロット82及びコネクタ部材100からなる複数の周期模様」と前者の「前記第一方向とは異なる第二方向に広がる軸を有する複数の第二メアンダー模様」とは、「前記第一方向とは異なる第二方向に広がる複数の第二周期模様」の限りで、それぞれ共通する。また、後者の「コネクタ部材100」と前者の「第二メアンダー模様のループ」とは、「第二周期模様のコネクタ部材」の限りで一致する。
そうすると、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
〈一致点1〉
「模様形状を有し管より成るステントであって、ここでこの模様形状は:
第一方向に広がる軸を有する第一周期模様:ここで当該第一周期模様は、前記第一方向の中心線分を中心とする周期模様からなる;
前記第一方向とは異なる第二方向に広がる軸を有する複数の第二周期模様:ここで前記複数の第二周期模様は前記第一周期模様とからみ合って概して均一な分布構造を形成している;
を含んで成り、そして
前記第一周期模様が前記複数の第二周期模様に対し、当該第一周期模様間毎に当該第二周期模様のコネクタ部材が存在するように接続されており、
前記複数の第二周期模様のコネクタ部材が、前記ステントの全周方向に亘って分散配置され、これにより前記ステントの屈曲の際、該ステントの屈曲部の内側曲線及び外側曲線の両方の近くに前記第二周期模様のコネクタ部材が存在する
ステント」である点。
〈相違点1〉
前者は、ステントが縦方向に伸びるのに対して、後者は、ステントが縦方向に伸びることが明らかではない点。
〈相違点2〉
前者は、第一方向に広がる軸を有する第一周期模様が、交互に向きが変わって反対方向に開放する複数のループを有し、これにより、閉じられたスロット又は閉じられた領域を形成しない偶数次元第一メアンダー模様と、これも交互に向きが変わって反対方向に開放する複数のループを有し、これにより閉じられたスロット又は閉じられた領域を形成しない奇数次元第一メアンダー模様とからなり、前記奇数次元第一メアンダー模様は、前記ステントの縦方向に沿って、前記偶数次元第一メアンダー模様と交互に配置され、また前記奇数次元第一メアンダー模様は前記偶数次元第一メアンダー模様と 180°の位相角でずれており、これにより、前記奇数次元第一メアンダー模様のループの開放部は、隣の前記偶数次元第一メアンダー模様の対応するループの開放部に向い合っているものであるのに対して、後者は、第一周期模様に関してそのように特定されていない点。
〈相違点3〉
前者は、第二周期模様が異なる第二方向に広がる軸を有するメアンダー模様であるのに対して、後者は、第二周期模様に関してそのように特定されていない点。
〈相違点4〉
前者は、第二周期模様のコネクタ部材が、開放していて拡張圧縮可能であるメアンダー模様のループであるのに対して、後者は、第二周期模様のコネクタ部材が開放しているループではない点。

本件発明5と甲第2号証記載の発明とを対比すると、両者は、下記一致点2で一致し、上記相違点1、3、4、及び、上記相違点2と実質上同一の相違点で相違する。
〈一致点2〉
「模様形状を有し管より成るステントであって、ここでこの模様形状が:
第一方向に広がる軸を有する第一周期模様:ここで当該第一周期模様は、前記第一方向の中心線分を中心とする周期模様からなる;
前記第一方向とは異なる第二方向に広がる軸を有する複数の第二周期模様:ここで前記第一周期模様が前記複数の第二周期模様に対し、当該第一周期模様間毎に当該第二周期模様のコネクタ部材が存在するように接続されており、そして前記複数の第二周期模様は前記第一周期模様とからみ合って概して均一な分布構造を形成している;
を含んで成り、そして
前記複数の第二周期模様のコネクタ部材が、前記ステントの全周方向に亘って分散配置され、これにより前記ステントの屈曲の際、該ステントの屈曲部の内側曲線及び外側曲線の両方の近くに前記第二周期模様のコネクタ部材が存在する
ステント」である点。

(ii)相違点等についての判断
上記相違点4について検討する。
甲第3号証の摘記事項(ロ)の「ヒンジ部14は、全て屈曲部の外方に配置され、内方のステント分節部12の端部は、屈曲のため互いに接近している。このヒンジ部14の配置によって、該ヒンジ部14は2つの役割を果たしている。その第1は、ステント分節部12をつなぐ橋として屈曲部からみて外方の動脈壁を補強的に支える役割であり、その第2は、ヒンジ部14と反対側の複数のステント分節部12の端部を互いに近づける役割である。この第2の役割により、屈曲部内方の動脈壁は補強的に支えられることになる。」との記載、及び、図1〜8からみて、らせん形状のヒンジ部22は、少なくとも屈曲部の内方には存在しないものである(仮に、屈曲部の内方にも図示されていないヒンジ部22が存在するならば、当該ヒンジ部22の存在により、ステント分節部の端部を互いに近づけるという上記第1の役割を果たせないことになる)。
そうすると、甲第3号証記載の「らせん形状のヒンジ部22」が本件発明1及び5の「偶数次元第一メアンダー模様と奇数次元第一メアンダー模様との間毎に存在し、前記偶数次元及び奇数次元第一メアンダー模様を接続する第二メアンダー模様のループ」に対応するものであるとしても、甲第3号証記載の発明は、当該第二メアンダー模様のループが「ステントの全周方向に亘って分散配置され、これにより前記ステントの屈曲の際、該ステントの屈曲部の内側曲線及び外側曲線の両方の近くに存在する」ことを排斥している。すなわち、甲第2号証記載の発明の「ステントの全周方向に亘って分散配置され、これにより前記ステントの屈曲の際、該ステントの屈曲部の内側曲線及び外側曲線の両方の近くに存在する」第二周期模様のコネクタ部材に甲第3号証記載の発明の「らせん形状のヒンジ部22」を適用することを妨げる事情があるというべきである。
一方、本件発明1及び5は、当該相違点4に係る構成を採ることにより、ステント全長に亘って均等にかつ滑らかに曲がりやすいという顕著な作用効果を奏していると認められる。
したがって、残余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1及び5、本件発明1を直接ないしは間接的に引用する本件発明2〜4、本件発明5を引用する本件発明6、並びに、本件発明1又は5を直接ないしは間接的に引用する本件発明7〜11は、甲第2号証記載の発明に、甲第3号証記載の発明を適用することにより当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。

5-2-2.本件発明と甲第3号証記載の発明を基本とする対比
(i)本件発明1及び5と甲第3号証記載の発明との対比
本件発明1と甲第3号証記載の発明とを対比すると、後者の「管の径方向に広がる軸を有する偶数次元第一メアンダー模様」、「管の径方向に広がる軸を有する奇数次元第一メアンダー模様」は、それぞれ、前者の「第一方向に広がる軸を有する偶数次元第一メアンダー模様」、「第一方向に広がる軸を有する奇数次元第一メアンダー模様」に相当する。また、後者の「管の軸方向」は、前者の「第二方向」に相当する。
そして、後者において、「ステントの縦方向」とは、ステントの伸びる方向であることから、後者の「ステントの管の軸方向」と前者の「ステントの縦方向」とは、「ステントの管の軸方向」である限りにおいて一致している。また、後者の「管の径方向とは異なる管の軸方向に広がる軸を有するらせん形状のヒンジ部22;ここでヒンジ部22は前記偶数次元及び奇数次元第一メアンダー模様のステント分節部を接続している;を含んで成り、そして前記偶数次元及び奇数次元第一メアンダー模様が、当該偶数次元第一メアンダー模様と当該奇数次元第一メアンダー模様との間毎にらせん状のヒンジ部22が存在するように接続されており」と前者の「前記第一方向とは異なる第二方向に広がる軸を有する複数の第二メアンダー模様:ここで前記複数の第二メアンダー模様は前記偶数次元及び奇数次元第一メアンダー模様とからみ合って概して均一な分布構造を形成している;を含んで成り、そして前記偶数次元及び奇数次元第一メアンダー模様が前記複数の第二メアンダー模様に対し、当該偶数次元第一メアンダー模様と当該奇数次元第一メアンダー模様との間毎に当該第二メアンダー模様のループが存在するように接続されており」とは、「前記第一方向とは異なる第二方向に広がる軸を有するヒンジ部;ここでヒンジ部は前記偶数次元及び奇数次元第一メアンダー模様とからみあっている;を含んで成り、そして前記偶数次元及び奇数次元第一メアンダー模様が、当該偶数次元第一メアンダー模様と当該奇数次元第一メアンダー模様との間毎にヒンジ部が存在するように接続されており」の限りで一致する。
そうすると、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
〈一致点3〉
「模様形状を有し管より成るステントであって、ここでこの模様形状は:
第一方向に広がる軸を有する偶数次元第一メアンダー模様:ここで当該偶数次元第一メアンダー模様は、前記第一方向の中心線分を中心とする周期模様からなり、前記周期模様は、交互に向きが変わって反対方向に開放する複数のループを有し、これにより、前記偶数次元第一メアンダー模様は、閉じられたスロット又は閉じられた領域を形成しない;
これも第一方向に広がる軸を有する奇数次元第一メアンダー模様:ここで前記奇数次元第一メアンダー模様は、前記第一方向の中心線分を中心とする周期模様からなり、前記周期模様は、交互に向きが変わって反対方向に開放する複数のループを有し、これにより前記奇数次元第一メアンダー模様は閉じられたスロット又は閉じられた領域を形成せず、また前記奇数次元第一メアンダー模様は、前記ステントの管の軸方向に沿って、前記偶数次元第一メアンダー模様と交互に配置され、また前記奇数次元第一メアンダー模様は前記偶数次元第一メアンダー模様と180°の位相角でずれており、これにより、前記奇数次元第一メアンダー模様のループの開放部は、隣の前記偶数次元第一メアンダー模様の対応するループの開放部に向い合っている;
前記第一方向とは異なる第二方向に広がる軸を有するヒンジ部;ここでヒンジ部は前記偶数次元及び奇数次元第一メアンダー模様とからみあっている;
を含んで成り、そして
前記偶数次元及び奇数次元第一メアンダー模様が前記ヒンジ部に対し、当該偶数次元第一メアンダー模様と当該奇数次元第一メアンダー模様との間毎にヒンジ部が存在するように接続されている
ステント」である点。
〈相違点5〉
前者は、ステントが縦方向に伸びるのに対して、後者は、ステントが縦方向に伸びることが明らかではない点。
〈相違点6〉
ヒンジ部の構造として、前者は、複数の第二メアンダー模様:ここで前記複数の第二メアンダー模様は前記偶数次元及び奇数次元第一メアンダー模様とからみ合って概して均一な分布構造を形成している;を含んで成り、そして前記偶数次元及び奇数次元第一メアンダー模様が前記複数の第二メアンダー模様に対し、当該偶数次元第一メアンダー模様と当該奇数次元第一メアンダー模様との間毎に当該第二メアンダー模様のループが存在するように接続されているのに対して、後者は、ヒンジ部22が、偶数次元第一メアンダー模様と奇数次元第一メアンダー模様との間には、屈曲部の外側曲線の近くにのみ配置されており、均一な分布構造とはなっていない点。
〈相違点7〉
ヒンジ部の構造に関し、前者は、第二メアンダー模様のループが、開放していて拡張圧縮可能であると共に、前記ステントの全周方向に亘って分散配置され、これにより前記ステントの屈曲の際、該ステントの屈曲部の内側曲線及び外側曲線の両方の近くに前記第二メアンダー模様のループが存在するのに対して、後者は、らせん状となっておりループではなく、ステントの屈曲の際、外側曲線の近くにのみ、設けられている点。

本件発明5と甲第3号証記載の発明とを対比すると、両者は、下記一致点4で一致し、上記相違点5、7、及び上記相違点6と実質上同一の相違点で相違する。
〈一致点4〉
「模様形状を有し管より成るステントであって、ここでこの模様形状が:
第一方向に広がる軸を有する偶数次元及び奇数次元第一メアンダー模様:ここで当該偶数次元及び奇数次元第一メアンダー模様は、前記第一方向の中心線分を中心とする周期模様からなり、前記周期模様は、交互に向きが変わって反対方向に開放する複数のループを有し、これにより、前記偶数次元第一メアンダー模様は、閉じられたスロット又は閉じられた領域を形成せず、前記奇数次元第一メアンダー模様は、閉じられたスロット又は閉じられた領域を形成せず、また前記偶数次元第一メアンダー模様は前記奇数次元第一メアンダー模様と 180°の位相角でずれており、これにより、前記奇数次元第一メアンダー模様のループの開放部は、隣の前記偶数次元第一メアンダー模様の対応するループの開放部に向い合っている;
前記第一方向とは異なる第二方向に広がる軸を有するヒンジ部:ここで前記偶数次元及び奇数次元第一メアンダー模様が前記ヒンジ部に対し、当該偶数次元第一メアンダー模様と当該奇数次元第一メアンダー模様との間毎に当該ヒンジ部が存在するように接続されている ステント。」である点。

(ii)相違点についての判断
上記相違点7について検討する。
後者においては、摘記事項(ロ)の「ヒンジ部14は、全て屈曲部の外方に配置され、内方のステント分節部12の端部は、屈曲のため互いに接近している。このヒンジ部14の配置によって、該ヒンジ部14は2つの役割を果たしている。その第1は、ステント分節部12をつなぐ橋として屈曲部からみて外方の動脈壁を補強的に支える役割であり、その第2は、ヒンジ部14と反対側の複数のステント分節部12の端部を互いに近づける役割である。この第2の役割により、屈曲部内方の動脈壁は補強的に支えられることになる。」との記載、及び、図1〜8からみて、らせん状のヒンジ部22は、ステントを屈曲した際に屈曲部の内方には存在しないものである(仮に、屈曲部の内方にも図示されていないヒンジ部22が存在するならば、当該ヒンジ部22の存在により、ステント分節部の端部を互いに近づけるという上記第1の役割を果たせないことになる)。
そうすると、後者の「らせん形状のヒンジ部22」が訂正発明1及び5の「偶数次元第一メアンダー模様と奇数次元第一メアンダー模様との間毎に存在し、前記偶数次元及び奇数次元第一メアンダー模様を接続する第二メアンダー模様のループ」に対応しても、後者の発明は、当該第二メアンダー模様のループが「ステントの全周方向に亘って分散配置され、これにより前記ステントの屈曲の際、該ステントの屈曲部の内側曲線及び外側曲線の両方の近くに存在する」ことを排斥している。
一方、甲第2号証に記載された発明においては、コネクタ部材100は、ステントの全周に亘って均等に分散配置されており、ステントを屈曲した際、当該コネクタ部材はステントの屈曲部の内側曲線及び外側曲線の両方の近くに存在することとなるが、甲第2号証に記載された発明におけるコネクタ部材100は、開放していて拡張圧縮可能なループを有していない。
結局、甲第3号証に記載された発明に甲第2号証に記載された発明を適用しても、「第二メアンダー模様のループが、開放していて拡張圧縮可能であると共に、前記ステントの全周方向に亘って分散配置され、これにより前記ステントの屈曲の際、該ステントの屈曲部の内側曲線及び外側曲線の両方の近くに前記第二メアンダー模様のループが存在する」という構造を容易に発明をすることができたものとすることはできない。
一方、訂正発明1及び5は、当該相違点7に係る構成を採ることにより、ステント全長に亘って均等にかつ滑らかに曲がりやすいという顕著な作用効果を奏していると認められる。
したがって、残余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1及び5、本件発明1を直接ないしは間接的に引用する本件発明2〜4、本件発明5を引用する本件発明6、並びに、本件発明1又は5を直接ないしは間接的に引用する本件発明7〜11は、甲第3号証記載の発明に、甲第2号証記載の発明を適用することにより当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることもできない。

6.むすび
以上のとおりであるから、請求人が主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件特許発明を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2006-08-04 
結審通知日 2004-12-27 
審決日 2006-08-30 
出願番号 特願平8-505814
審決分類 P 1 112・ 121- Y (A61M)
P 1 112・ 16- Y (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 阿部 寛大島 祥吾  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 菅澤 洋二
鈴木 孝幸
登録日 2001-09-28 
登録番号 特許第3236623号(P3236623)
発明の名称 柔軟性拡張可能ステント  
代理人 阿部 和夫  
代理人 吉田 維夫  
代理人 谷 義一  
代理人 辻 良子  
代理人 辻 邦夫  
代理人 西山 雅也  
代理人 石田 敬  

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