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審判番号(事件番号) データベース 権利
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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07K
管理番号 1145438
審判番号 不服2002-18277  
総通号数 84 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-11-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-09-19 
確定日 2006-10-12 
事件の表示 平成 4年特許願第111846号「HCVエンベロープ領域のペプチド」拒絶査定不服審判事件〔平成 5年11月22日出願公開、特開平 5-310786〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯・本願発明

本願は、平成4年4月30日の出願であって、その請求項1に係る発明は、平成18年4月10日付手続補正書により補正された特許請求の範囲及び発明の詳細な説明からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める(以下、「本願発明1」という。)。

「【請求項1】 C型肝炎ウイルスに対する抗体に反応性を有するペプチドの組合わせであって、下記(a)で表わされるアミノ酸配列に一致する配列からなるペプチド(EP1)と、下記(b)で表わされるアミノ酸配列に一致する配列からなるペプチド(EP2)との組合わせからなり、EP1またはEP2の何れか一方にのみ反応性を有する抗体を産生する二つのタイプのC型肝炎ウイルスに感染した検体、並びにEP1およびEP2の両方に反応性を有する抗体を産生するタイプのC型肝炎ウイルスに感染した検体を検出し、且つ感染検体をこれら三つのタイプの感染に分類するペプチドの組合せ。
(a)EP1
Val Arg Glu Gly Asn Val Ser Arg Cys Trp 10
Val Ala Met Thr Pro Thr Val Ala Thr Arg 20
Asp Gly Lys Leu Pro Ala Thr Gln Leu Arg 30
Arg 31
(但し、タンパク質の3次構造に起因するC型肝炎ウイルスの抗体に対する免疫反応性が維持される範囲内において、1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失または付加されたものを含む)
(b)EP2
Val Arg Glu Asp Asn Ser Ser Arg Cys Trp 10
Val Ala Leu Thr Pro Thr Leu Ala Ala Arg 20
Asn Ala Ser Val Pro Thr Thr Thr Ile Arg 30
Arg 31
(但し、タンパク質の3次構造に起因するC型肝炎ウイルスの抗体に対する免疫反応性が維持される範囲内において、1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失または付加されたものを含む)」

2.引用刊行物記載の発明

当審で通知した拒絶の理由において引用された、国際出願公開第90/11089号パンフレット(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。
(a) 「本発明は、NANBVすなわちC型肝炎ウィルス(HCV)の病原因子のゲノム由来のポリヌクレオチドと、そこにコードされたポリペプチドと、これらポリペプチドに対する抗体とに関する。これらの試薬は、HCV及びその感染に対するスクリーニング剤として、ならびにその疾患に対する保護剤として有用である。」(第1頁第6〜12行)
(b) 「本発明の他の局面は、HCVエピトープを有するペプチドであって、式 AAx-AAy で表されるペプチドである。ここで、x及びyは、第17図に示されているアミノ酸番号を表し、該ペプチドは、・・・AA200-AA250、AA220-AA240、AA245-AA265、AA250-AA300・・・からなる群から選択される。」(第9頁第8行〜第11頁第2行)
(c) 「第17図は、上記クローン由来の編集したHCV cDNA配列及び欧州特許出願公開第318,216号において公開された編集HCV cDNA配列のセンス鎖を示す。・・・また、HCV cDNAによりコードされるポリタンパク質の推定アミノ酸配列も示す。」(第16頁第26行〜第17頁第5行)
(d) 第17図(25/40〜34/40)には、HCV cDNAの塩基配列(-319位〜8866位)及び対応する推定アミノ酸配列が示されている。
(e) 「第20図は、推定HCVポリタンパク質の親水性/疎水性プロファイル及び抗原指数の記録である。」(第17頁第10〜12行)
(f) 第20図(37/40〜39/40)には、HCVポリタンパク質の親水性/疎水性プロファイル及び抗原指数の記録が記載されている。
(g) 「HCVとフラビウイルスとの間には、以下に述べるように、類似性が認められるので、HCVポリタンパク質において、対応するタンパク質領域のおおよその位置及び機能を推測することができる。例えば、細菌、酵母、昆虫、及び脊椎動物の細胞を含む様々な組み換え宿主細胞において、このような領域を有するポリペプチドを発現させることにより、診断、検出、及びワクチンに使用されうる重要な免疫学的試薬が得られるはずである。・・・HCVポリタンパク質内の推定ヌクレオキャプシド(N末端基本領域)及びE(一般的に疎水性の)領域のおおよその位置を予想することができる。実施例では、これらの予想は、HCVポリタンパク質の疎水性プロファイルに見られる変化とフラビウイルスタンパク質の位置及び特性に関する知識とに基づいている。このような予想から、有用な免疫学的試薬となり得るHCVポリタンパク質のおおよその領域を同定しうる。例えば、フラビウイルスのE及びNS1タンパク質が保護ワクチンとして効果があることが知られている。ここに記載されたHCV単離体において抗原性を有することが示されている領域、例えば推定NS3、C及びNS5などの領域だけでなく、これらの領域も診断試薬を与えるはずである。」(第40頁第20行〜第41頁第19行)
また、同拒絶の理由において引用された、HOUGHTON, M et al., Hepatology, vol.14(2), pp.381-388 (1991)(以下、「引用例2」という。)は、本願出願日前のHCVポリタンパク質に関する知見をまとめた総説であって、次の事項が記載されている。
(h) 「これまでに公表されたすべてのHCVの完全長及び部分配列の比較分析により、それらは、少なくとも3つの基本グループに広義に副分類することができる(表2)。」(第383頁左欄第54〜57行)
(i) 表2(第384頁)には、既に公表されたHCVのゲノムRNA配列が、3つの基本的グループ、HCVI、HCVII、HCVIIIに分類されて示されている。
(j) 「E1及びE2/NS1遺伝子によりコードされる推定ウイルスエンベロープタンパク質が、グループIとグループIIとで実質的にアミノ酸配列の変異を示す点は、注目に値する。・・・グループIとグループIIとの間における推定ウイルスエンベロープタンパク質の配列変異は、2グループ間のアミノ酸の特徴的分離を反映している。図2にはこの1例が示してあり、グループIとIIのウイルス間のE1遺伝子産物の配列が比較されている。グループ特異的残基が明確に同定される(図2の*)。・・・推定HCVエンベロープタンパク質におけるこの超可変は、保護的B細胞やT細胞エピトープ上における強い選択圧の結果かもしれず、ヒト免疫不全ウイルス-1エンベロープタンパク質のV3ループ中の超可変主要中和ドメインを想起させる。明らかに、異なるHCV単離体間で観察される、このような、あるいはその他の異質性は、ウイルス/宿主相互作用、慢性化への進行、及びワクチン開発の観点から緻密な注意が向けられるべきである。」(第383頁右欄第16〜45行)
(k) 図2(第385頁)には、グループI(HCV単離体HCV-1、HCT18、Th、HCT23、HCT27、HC-J1)及びグループII(HCV単離体HC-J4、HCV-J、HCV-J1、BK)のHCV単離体によりコードされるE1タンパク質の推定アミノ酸配列(192〜383位)が並列して記載されている。
(l) 「例えば、C、NS3及びNS4などのような、異なるHCVグループ間でよく保存されているウイルスタンパク質の使用は、広範な反応性と感受性を有する診断を確実なものにするであろう。ウイルスの1種類のいずれかによるHCV感染のための広範な診断と血液スクリーニング試験を開発するという目標とは別に、特に、異なるウイルスが異なる臨床上の結果や病状、あるいは治療上の感受性を示すことが明らかとなる場合、そして多重的なHCVによる共感染が病気の展開に影響を与える場合には、グループ特異的及びタイプ特異的な測定法を開発することもまた、将来重要になるであろう。」(第384頁右欄第13〜24行)
(m) 「組織の指向性、病気の進行及び結果、インターフェロンなどの治療手段に対する感受性、及び、ウイルス感染を交差中和する能力に関する主要な疑問が、異なるHCV単離体にむけられるべきである。異なるウイルスに特異的な免疫診断の手段とRNA測定法を開発することは、これらの研究にとって必要となろう。多重的なHCVによる感染の臨床上の効果もまた、価値を検討されるべきである。」(第386頁右欄第27〜35行)

3.対比

引用例1の「E領域」(例えば、上記(g))は、エンベロープ領域のことであるから、本願発明1と引用例1記載の発明を対比すると、両者は、HCV抗体に反応性を有するペプチドであって、HCVエンベロープ領域に相当するペプチドである点で一致し、(1)本願発明1のペプチドは、HCVエンベロープ領域のアミノ酸230-260位に相当するものであるのに対して、引用例1には特にその中のアミノ酸230-260位を抗原ペプチドとして選択することは記載されていない点、(2)本願発明1は、欧米型HCVとアジア型HCVのゲノム上の同じ部位(アミノ酸230-260位)に由来するペプチド(それぞれ、EP1及びEP2)の組合せであって、EP1またはEP2の何れか一方にのみ反応性を有する抗体を産生する二つのタイプのC型肝炎ウイルスに感染した検体、並びにEP1およびEP2の両方に反応性を有する抗体を産生するタイプのC型肝炎ウイルスに感染した検体を検出し、且つ感染検体をこれら三つのタイプの感染に分類するものであるのに対して、引用例1にはペプチドを組み合わせることは記載されていない点、において相違する。

4.当審の判断

まず、上記相違点(1)について検討する。
HCVのエンベロープ領域に抗原部位があるであろうことは、引用例1の上記(b)及び(g)に記載されているといえる。なお、HCVの抗体検出の観点からは、エンベロープ領域が望ましいことは、本願出願日前に知られていたことでもある(例えば、特開平4-84887号公報(平成4年3月18日公開)の第6頁左下欄第12行〜同頁右下欄第1行)。そのような観点から引用例1の第20図(HCVポリタンパク質の親水性/疎水性プロファイル及び抗原指数の記録)をみると、エンベロープ領域であるアミノ酸120-400位の範囲においては、230-260位のあたりに抗原性がある可能性が高いことがわかる。よって、その部分をHCVの抗原部位として選び、その抗原性を確認する程度のことは、引用例1の記載に基づいて当業者が容易になし得る程度のことである。
次に、上記相違点(2)について検討する。
引用例2の図2には、上述したとおり(上記(k))、グループI(HCV単離体HCV-1、HCT18、Th、HCT23、HCT27、HC-J1)及びグループII(HCV単離体HC-J4、HCV-J、HCV-J1、BK)のHCV単離体によりコードされるE1タンパク質の推定アミノ酸配列(192〜383位)が並列して記載されており、アミノ酸230-260位のあたりにはウイルス単離体間に異質性があるが、各グループ内には配列の類似性があることが見て取れ、本願発明1のEP1及びEP2は、それぞれ引用例2のグループIに属するHC-J1及びグループIIに属するHC-J4の配列に一致している。
また、本願出願日前から、用いる抗原がウイルス単離体に特異的な場合には、当該単離体に特異的な免疫応答を得ることができるが、より広範な免疫応答を得るためには、複数の単離体由来の抗原部位を組み合わせて使用するという技術思想があり(例えば、NEURATH,AR et al., Mol.Immun., vol.27(6), pp.539-549 (1990)の第547頁右欄第15〜18行、及びHAIGWOOD,NL et al., AIDS Res.Human Retroviruses, vol.6(7), pp.855-869 (1990)の第866頁第2〜6行を参照のこと。)、HCVに関しても、引用例2の上記(j)、(l)及び(m)の記載により、HCVの単離体間の異質性やグループ特異性の重要性が示唆されていた。そして、複数の単離体由来の抗原部位を組み合わせるに当たって、各単離体による感染を明確に区別して特異的に検出するためには、抗原として単離体間の高度保存領域ではなく、相互に相違した部分を選択する必要があることは当然である(例えば、特表平2-501442号公報の第1頁右下欄第15〜18行、第5頁左下欄第23行〜同頁右下欄第1行、及びSHIU,SYW et al., J.Gen.Virol., vol.73, pp.207-212 (Jan.1992)を参照のこと。)から、対応する同じ部位を採用することは自然な発想である。
そうしてみると、引用例1の記載により、HCVの抗原部位として選ばれたアミノ酸230-260位について、上記技術思想及び引用例2の記載に基づいて、引用例2に記載されたグループI及びIIの当該部位を組み合わせて用いることは、当業者が適宜なし得る程度のことにすぎない。
そして、二つのグループそれぞれの同じ部位由来のペプチドを組み合わせて使用することにより、いずれか一方にのみ反応性を有する抗体を産生する二つのタイプのHCVに感染した検体、並びに両方のペプチドに反応性を有する抗体を産生するタイプのHCVに感染した検体を検出し、且つ感染検体をこれら三つのタイプの感染に分類できることは、EP1とEP2を組み合わせたことに伴う効果であって、その特定によって物の発明として異なるものとなるわけではないし、また、この点は、上記技術思想及び引用例2の記載から自明でもある。
次に、本願発明1の効果について検討すると、本願明細書の実施例2(表1)には献血された500検体中にEP1及び/またはEP2陽性が25検体、すなわち5%の頻度で検出されたことが記載されている。しかしながら、厚生労働省ホームページ(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou09/02-07.html)には、「1995年〜2000年の6年間に、全国の日赤血液センターにおいて初めて献血した348.6万人について、2000年時点における年齢に換算して集計した年齢別のHCV抗体陽性率をみると、16〜19歳で0.1%、20〜29歳で0.2%、30〜39歳で0.8%、40〜49歳で1.3%、50〜59歳で1.8%、60〜69歳で3.4%となっています。」と記載されていることから、実施例2の献血検体におけるHCV陽性5%の検出率は、一般的統計数値と比較して高いといえ、本願明細書の実施例2の陽性検体のうちには擬陽性が混入している可能性が否定できない。また、EP1及びEP2が、比較されているmokk-2+mokk-3及びmokk-c1以外の本願出願日当時公知だった他のHCV抗原(例えば、5-1-1、c100-3、c22、c200、c33cなど(必要ならば、臨床病理、vol.39(6), pp.578-585 (1991)を参照のこと。))と比較して格別優れた効果を有するということもできない。
また、実施例4については、図4から、急性肝炎の患者検体中のEP1及びEP2と反応する抗体の量がGPTの上昇下降と同調していることまではわかるが、他の抗体が関与している可能性もあり、GPTの上昇下降と抗体量の増減の因果関係も不明であるから、このデータのみからではEP1やEP2と反応する抗体が中和抗体であるとまでは認めることができない。
本願発明1の効果に関する上記の点については、当審の平成18年2月3日付拒絶理由通知書において、「請求人は、請求項1記載の発明に進歩性を主張するのであれば、上記点などに考慮して効果の顕著性について説明する必要がある。」と指摘したが、請求人からはその点に関して何の応答もなかった。

5.むすび

以上のとおりであるから、本願発明1は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その他の請求項に係る発明については判断するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-08-03 
結審通知日 2006-08-08 
審決日 2006-08-25 
出願番号 特願平4-111846
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高堀 栄二  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 長井 啓子
種村 慈樹
発明の名称 HCVエンベロープ領域のペプチド  
代理人 坪井 淳  
代理人 河野 哲  
代理人 村松 貞男  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 風間 鉄也  

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