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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B24B
管理番号 1146042
審判番号 不服2005-7717  
総通号数 84 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2003-07-15 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-04-28 
確定日 2006-11-09 
事件の表示 特願2001-396076「研削方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月15日出願公開、特開2003-200346、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1.手続の経緯と本願発明
本件出願は、平成13年12月27日の出願であって、本件出願の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、平成16年11月1日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認められる。

「【請求項1】
被加工物の研削加工中の部位に、空気からN2 ガスとO2 ガスとを分離するガス分離膜モジュールMを用いてO2 濃度25%〜40%とした酸素富化ガスを、研削油剤と共に供給して、上記研削加工によって新たに被加工物の表面へ表れた新生面、及び、研削屑表面への、酸素分子吸着を促進し乃至酸化させて、上記新生面及び研削屑表面を不活性化させつつ研削することを特徴とする研削方法。」

2.引用刊行物の記載事項
これに対して、原査定の拒絶理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である特許第2904205号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の技術的事項が記載されている。

(イ)特許請求の範囲【請求項1】
「被加工物の乾式研削・切削加工法において、雰囲気ガスとして窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等の不活性気体と空気の混合気体を製造し、かつその雰囲気ガスの酸素濃度を被加工物の酸化性能に応じて一定に制御して加工部に供給し、加工熱の発生量と酸化生成物の固体潤滑作用を調和させながら乾式加工を行うごとくした、気体冷却効果を特徴とする雰囲気ガス濃度を制御した乾式研削・切削加工法。

(ロ)特許請求の範囲【請求項2】
「被加工物の乾式研削、研削加工法において、雰囲気ガスとして窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等の不活性気体と空気の混合気体を製造し、かつその雰囲気ガスの酸素濃度を被加工物の酸化性能に応じて一定に制御して加工部に供給し、加工熱の発生量と酸化生成物の固体潤滑作用を調和させながら乾式加工を行うごとくした、気体潤滑効果を特徴とする雰囲気ガス濃度を制御した乾式研削・切削加工法。」

(ハ)特許請求の範囲【請求項3】
「被加工物が鋼材であり、加工部に供給される雰囲気ガスの酸素濃度が9〜15%に制御されたものであることを特徴とする請求項1又は2記載の雰囲気ガス濃度を制御した乾式研削・切削加工法。」

(ニ)段落【0010】
「・・・不活性気体と空気を混合した雰囲気ガスの酸素濃度を被加工物の酸化性能に応じて一定に制御し(炭素鋼においては12%)、加工発生熱と酸化生成物の固体潤滑作用を調和させて最適範囲に低減し、乾式研削加工を行うごとくすることを特徴としている。また本発明は、不活性気体と空気を混合した雰囲気ガスを使用して気体冷却効果を実現すると共に、その酸化物生成物の固体潤滑作用を利用して気体潤滑効果を実現することを特徴とするものである。」

また、原査定の拒絶理由で引用された、本件出願前に頒布された刊行物である特開平10-15791号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下の技術的事項が記載されている。

(ホ)特許請求の範囲【請求項1】
「研磨すべきダイヤモンドの表面に、遷移金属元素、アルカリ金属元素、あるいはアルカリ土類金属元素を少なくとも1種含有する酸化物粉末を供給しながら、酸素を含む雰囲気中で前記酸化物の相変態点近傍まで加熱し、前記ダイヤモンド表面を研磨するようにしたことを特徴とするダイヤモンドの研磨方法。」

(ヘ)段落【0016】
「本発明の第1の実施例のダイヤモンド研磨装置を、図1に示す。この装置は、比較的小さなダイヤモンド1を研磨するのに用いられる装置であり、Mn2O3粉末Pを供給しながら、前記酸化物からなる研磨板2を前記ダイヤモンド1に当接させるようにし、加熱用ヒータ3によってMn2O3からMn3O4への相変態温度である900℃に研磨板を加熱しつつ研磨を行うものである。すなわちこの装置は、研磨板2と、これを加熱するための加熱用ヒータ3と、ダイヤモンドを回転する回転モータ4と、ダイヤモンド1を研磨板に向けて加圧する加圧用プランジャー5と、この研磨すべきダイヤモンド1を搬送する移動用ステージ6とで構成されている。ここで研磨板2は、常に熱電対8によって温度を検出されており、温度コントローラ9によってヒータ用熱源7を制御し、研磨板が所望の温度になるように構成されている。・・・」

(ト)段落【0020】
「このようにして、低圧高温雰囲気中で、金属酸化物から活性酸素を供給することによりダイヤモンド中のカーボンと酸素とが反応して一酸化炭素あるいは二酸化炭素となって蒸発し、極めて高速で研磨が達成され、平滑な表面を得ることができる。」

さらに、原査定の拒絶理由で引用された、本件出願前に頒布された刊行物である特開平5-277935号公報(以下、「刊行物3」という。)には、以下の技術的事項が記載されている。

(チ)特許請求の範囲【請求項1】
「ダイヤモンド砥石の研削面に圧接される作用面を有する、炭素鋼製の整形用具を用い、
前記整形用具の作用面と前記ダイヤモンド砥石の研削面との間に酸素を供給しつつ、前記整形用具と前記ダイヤモンド砥石とを相互摺動させることを特徴とする、ダイヤモンド砥石の整形方法。」

(リ)段落【0028】
「本発明のダイヤモンド砥石の整形方法においては、炭素鋼製の整形用具を用い、ダイヤモンド砥石の研削面と整形用具の作用面との間に酸素を供給しながら、両者を相互摺動させることで、ダイヤモンド砥石のダイヤモンド砥粒が整形用具の鉄との反応により整形用具の作用面に沿って摩滅するので、ダイヤモンド砥粒の切刃の位置が不揃いにならず、この方法で整形されたダイヤモンド砥石で研削された被加工物は、その表面粗さや寸法精度が安定したものとなる。また、ダイヤモンド砥石の目づまり現象も発生しなくなるので、ダイヤモンド砥石の研削能力が劣化することもなくなる。しかも、整形中に酸素が供給されることで整形用具の作用面が硬くなり、整形用具の形状も安定するので、より高精度にダイヤモンド砥石を整形することができる。」

3.対比・判断
刊行物1には、前記のとおり、「不活性気体と空気を混合した雰囲気ガスの酸素濃度を被加工物の酸化性能に応じて一定に制御し(炭素鋼においては12%)、加工発生熱と酸化生成物の固体潤滑作用を調和させて最適範囲に低減し、乾式研削加工を行う」ことが記載されている。
しかしながら、雰囲気ガスの酸素濃度は9〜15%であって(摘記事項(ハ)参照)、酸素富化ガスということはできず、「O2 濃度25%〜40%とした酸素富化ガスを、研削油剤と共に供給」するものではない。したがって、「研削加工によって新たに被加工物の表面へ表れた新生面、及び、研削屑表面への、酸素分子吸着を促進し乃至酸化させて、上記新生面及び研削屑表面を不活性化させつつ研削する」という本件発明の技術思想は開示されていない。
また、刊行物2には、「金属酸化物から活性酸素を供給することによりダイヤモンド中のカーボンと酸素とが反応して一酸化炭素あるいは二酸化炭素となって蒸発し、極めて高速で研磨が達成され、平滑な表面を得ることができる」ことが記載されているが、「研削加工によって新たに被加工物の表面へ表れた新生面、及び、研削屑表面への、酸素分子吸着を促進し乃至酸化させて、上記新生面及び研削屑表面を不活性化させつつ研削する」という本件発明の技術思想は開示されていない。
さらに、刊行物3には、「炭素鋼製の整形用具を用い、ダイヤモンド砥石の研削面と整形用具の作用面との間に酸素を供給しながら、両者を相互摺動させることで、ダイヤモンド砥石のダイヤモンド砥粒が整形用具の鉄との反応により整形用具の作用面に沿って摩滅するので、ダイヤモンド砥粒の切刃の位置が不揃いになら」ないことが記載されているが、「研削加工によって新たに被加工物の表面へ表れた新生面、及び、研削屑表面への、酸素分子吸着を促進し乃至酸化させて、上記新生面及び研削屑表面を不活性化させつつ研削する」という本件発明の技術思想は開示されていない。
してみると、刊行物1乃至3にはいずれにも、本件発明を特定する事項である「O2 濃度25%〜40%とした酸素富化ガスを、研削油剤と共に供給して、上記研削加工によって新たに被加工物の表面へ表れた新生面、及び、研削屑表面への、酸素分子吸着を促進し乃至酸化させて、上記新生面及び研削屑表面を不活性化させつつ研削する」ことが記載されてなく、かつ、示唆もされていない。
また、「研削油剤を供給しながら研削する」こと自体が、出願前周知の技術手段であったとしても、「O2 濃度25%〜40%とした酸素富化ガスを、研削油剤と共に供給」することが、周知の技術手段と認めるに足りる証拠はない。
そして、本件発明は上記事項を具備することにより、「砥石の目詰まりが起こり難くなり、従来よりも目の細かいものの使用が可能となって、加工精度を著しく向上できる。また、砥石の再生(ドレッシング)の頻度も低減できて、研削作業能率が著しく改善でき、しかも、実施が容易である。さらに、被加工物の研削加工によって生じた新生面への研削屑の付着が防止できるので、一層の仕上げ面の加工精度が改善でき、銅やプラスチック等の従来至難とされていた難加工材の研削が容易に行い得るようになった。」という明細書記載の格別な作用効果を奏するものと認められる。
したがって、本件発明は、刊行物1乃至3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1乃至3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する
 
審決日 2006-10-16 
出願番号 特願2001-396076(P2001-396076)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B24B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 佐々木 正章  
特許庁審判長 前田 幸雄
特許庁審判官 豊原 邦雄
加藤 昌人
発明の名称 研削方法  
代理人 中谷 武嗣  

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