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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1146063
審判番号 不服2004-18208  
総通号数 84 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-09-02 
確定日 2006-10-27 
事件の表示 平成10年特許願第 99017号「固体高分子型燃料電地用セパレータ」拒絶査定不服審判事件〔平成11年10月29日出願公開、特開平11-297338〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.本願発明
本願は、平成10年4月10日の出願であって、その発明は、平成14年1月4日付け手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明は次のとおりのものである。
「電極部と接触する面の表面粗さが、プローブ先端径5μmの表面粗さ計により測定した値で、Ra=0.1μm〜10μmであることを特徴する固体高分子型燃料電地用セパレータ。」(以下、この発明を「本願発明1」という。)

II.原査定の理由の概要
原査定における拒絶理由の概要は、以下のとおりである。
[理由1]本願の請求項1,3に係る発明は、本願出願前日本国内又は外国において頒布された下記刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の発明に該当し、特許を受けることができない。
[理由2]本願請求項1〜5に係る発明は、本願出願前日本国内又は外国において頒布された下記刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用刊行物>
1.特開平8-96820号公報
2.特開平6-96777号公報
3.特開昭53-102278号公報

III.刊行物1の記載事項
刊行物1の記載事項を、以下に摘示する。
(ア)「電解質層と、該電解質層を挟持して発電層を形成する電極と、該発電層を挟持し該電極とで燃料の流路を形成するリブ部を有する集電極と、からなる燃料電池において、前記流路の燃料が前記電極と接触する前記リブ部の接触面の縁部から所定寸法以上該接触面と接触する該電極の被接触部に拡散するよう、該接触面を非平坦形状としたことを特徴とする燃料電池。」(特許請求の範囲の請求項1)
(イ)「・・・図1は本発明の好適な一実施例である燃料電池を構成する単電池10の構成を例示する説明図・・・である。単電池10は、固体高分子型燃料電池の単電池であり、・・・」(【0017】)
(ウ)「なお、本実施例の集電極40は、次のように製作した。まず、集電極40の材料である緻密質カーボンの板材を所望の形状、例えば、正方形状に形成し、その積層面を・・・切削加工してリブ42を形成する。次に、集電極40の積層面全体に、砥石#60(粒径425μm)を噴出ガン(ノズル径8.33,ジェット径4.37)を用いて空気圧400kPa(4Kgf/cm2)で吹き付ける表面処理(液体ホーニング)により10μmないし100μmの凹凸を形成する。こうして形成された集電極40の積層面の面粗度(Rz/Rmax)は、20/50であった。・・・」(【0021】)
(エ)「図3は、本実施例の単電池10および集電極の端面がフラットな単電池(・・・)の電流密度とセル電圧との関係を例示したグラフである。グラフ中、曲線Aは従来例の単電池、曲線Bは単電池10の電流密度とセル電圧との関係を示す。なお、実施例の集電極40の積層面に凹凸を形成する処理と同様な処理で、砥石#700(粒径25μm)を用いてリブの端面の面粗度を3/5とした集電極を用いた単電池の電流密度とセル電圧との関係を曲線C、砥石#150(粒径100μm)を用いてリブの端面の面粗度を10/20とした集電極を用いた単電池の電流密度とセル電圧との関係を曲線Dとして示した。図示するように、集電極の積層面に凹凸を形成した単電池は、凹凸が形成されていない従来例の単電池に比して、いずれもその性能の向上が認めらる。面粗度を20/50とした実施例の単電池10は、面粗度の低い曲線Cおよび曲線Dとして示した単電池と比較しても、その性能の向上が認められ、特に、高電流密度領域での向上が著しい。こうした性能の向上は、・・・集電極40の端面46に形成した凹凸により集電極40とガス拡散電極30との接触面積が増加して接触抵抗が小さくなることによる。」(【0026】〜【0027】)

IV.当審の判断
1.刊行物発明の認定
刊行物1には、摘示(ア)に「電解質層と、該電解質層を挟持して発電層を形成する電極と、該発電層を挟持し該電極とで燃料の流路を形成するリブ部を有する集電極と、からなる燃料電池において、前記流路の燃料が前記電極と接触する前記リブ部の接触面の縁部から所定寸法以上該接触面と接触する該電極の被接触部に拡散するよう、該接触面を非平坦形状としたことを特徴とする燃料電池」が記載されており、この燃料電池は、摘示(イ)によると「固体高分子型燃料電池」であり、摘示(ウ)によると、その集電極が電極と接触する面は、「(液体ホーニング)により10μmないし100μmの凹凸を形成」し、「面粗度(Rz/Rmax)は、20/50」の「非平坦形状」とされるものである。
そして、「面粗度(Rz/Rmax)は、20/50」について、刊行物1にはその表記に関する説明がないから、刊行物1に係る出願の時(平成6年(1994年)9月28日)のJIS規格に基づいてその表記を解釈することが妥当と認められるところ、その出願年に改訂された表面粗さのパラメータに関するJISB0601:1994には「Rmax」の規定がないことから、刊行物発明の上記の面粗度は、その改訂前のJISB0601:1982に基づき、「Rz(十点平均粗さ)20μm、Rmax(最大高さ)50μm」を表していると認められる(下記インターネットサイト(a)236頁、同(b)2/2頁の掲載情報参照)。
以上の記載及び認定によれば、刊行物1には、「発電層を形成する電極と接触する面の表面粗さがRz=20μm、Rmax=50μmである固体高分子型燃料電池用集電極。」の発明が記載されているといえる(以下、この発明を「刊行物発明」という。)。

<参考インターネットサイト>
(a)http://www.accretech.jp/products/measuring/sfexplainpdf/download
(b)http://www.mitutoyo.co.jp/technology/standard/introduction_05/index.html#top

2.対比
本願発明1(前者)と刊行物発明(後者)とを対比すると、後者の「発電層を形成する電極」、「集電極」は、それぞれ後者の「電極部」、「セパレータ」に相当するから、両者は「電極部と接触する面の表面粗さが所定の範囲である固体高分子型燃料電地用セパレータ。」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1:前者は、表面粗さの値を「プローブ先端径5μmの表面粗さ計」により測定しているのに対して、後者は測定手段が不明である点。
相違点2:前者は、表面粗さの値が「Ra=0.1μm〜10μm」であるのに対して、後者は、「Rz=20μm、Rmax=50μm」である点。

3.判断
(1)相違点1について
刊行物発明の「Rz、Rmax」の測定手段については、刊行物1に特段の記載がないから、その出願時のJIS規格に基づくものと解され、上記インターネットサイト(b)1/2頁の「JISB0651で定義される触針先端形状と測定力」に示されるように、触針先端半径(プローブ先端径)2μm、5μm、10μmいずれかの表面粗さ計を用いているものと認められる。
そして、表面粗さ計のプローブ先端径は、被測定物の表面粗さの程度に応じてより測定誤差の少ないように選択されることが技術常識であるといえるから、上記技術常識によれば、刊行物発明に用いられる表面粗さ計のプローブ先端径は、被測定物の表面粗さをより正確に測定できるように選択されているはずである。
一方、本願発明1の「プローブ先端径5μmの表面粗さ計」も、上記技術常識によれば、被測定物の表面粗さをより正確に測定できるプローブ先端径のものが選択されていると認められるところ、以下の「(2)相違点2について」に示すように、刊行物発明と本願発明1との被測定物の表面粗さの値は重複するから、その表面粗さを測定する表面粗さ計のプローブ先端径も重複している、すなわち5μmである蓋然性が高いものといえる。
また、仮にそうでないとしても、上記インターネットサイト(a)の掲載情報によると、2001年のJIS規格についてではあるが、「λsと触針先端rtipの選定」(230頁)、「粗さRパラメータ測定条件」(231頁)について、「10<Rz≦50」の場合、「λc=2.5」で「rtip=5または2」を選定するとされている。そして、この選定基準が2001年以前のJIS規格において異なるとする根拠はないから、Rzが20μmである刊行物発明の表面粗さをプローブ先端径5μmの表面粗さ計を用いて測定することは、当業者が容易になし得る設計的事項にすぎないといえる。

(2)相違点2について
「Rz」から「Ra(算術平均高さ)」への換算が一律に行えるものでないことは、当業者の技術常識であるが、それらパラメータのJIS規格による定義からみて「Ra」は必ず「Rz」の1/2以下であることも当業者の技術常識である。そうすると、刊行物発明におけるセパレータの電極部と接触する面の「Rz」は20μmであるから、「Ra」は必ず10μm以下であるといえ、本願発明1のセパレータの表面粗さ「Ra=0.1μm〜10μm」と重複するといえる。
しかも、刊行物発明のセパレータは、具体的には液体ホーニングによる表面処理により凹凸を形成したものであり、ホーニングによる場合の「Ra」が「Rz」の0.05〜0.12程度となることは、上記インターネットサイト(a)に掲載(237頁)されるように当業者に周知の事項であるといえるから、刊行物発明のセパレータの表面粗さは「Ra=1〜2.4μm程度」である蓋然性が高く、本願発明1のセパレータの表面粗さ「Ra=0.1μm〜10μm」の範囲内に含まれるものといえる。
また、仮に刊行物発明におけるセパレータの表面粗さRaが本願発明1の範囲と重複しないとしても、本願発明1は刊行物発明から以下に示すように推考容易である。
すなわち、刊行物1の摘示(エ)には「・・・砥石#700(粒径25μm)を用いてリブの端面の面粗度を3/5とした集電極を用いた単電池の電流密度とセル電圧との関係を曲線C、砥石#150(粒径100μm)を用いてリブの端面の面粗度を10/20とした集電極を用いた単電池の電流密度とセル電圧との関係を曲線Dとして示した。図示するように、集電極の積層面に凹凸を形成した単電池は、凹凸が形成されていない従来例の単電池に比して、いずれもその性能の向上が認めらる。面粗度を20/50とした実施例の単電池10は、面粗度の低い曲線Cおよび曲線Dとして示した単電池と比較しても、その性能の向上が認められ・・・こうした性能の向上は・・・集電極40の端面46に形成した凹凸により集電極40とガス拡散電極30との接触面積が増加して接触抵抗が小さくなることによる。」と記載されているから、この記載から、電極部とセパレータの接触面積の増大による接触抵抗の低減化のためにセパレータ表面の粗面化を行うこと、接触面積の増大に伴う接触抵抗の低減化の効果が粗面化の程度、具体的にはRz/Rmaxの程度により影響されることは、当業者が容易に理解できることといえる。
そして、RaはRzやRmaxと同様に表面粗さを表すためにJISで規定された周知のパラメータであるから、刊行物発明において接触抵抗を低減化するためにセパレータの電極部に接触する面を粗面化するにあたり、その粗面化の程度を、RzやRmaxに代えて周知のパラメータであるRaを用いて検討し、Ra=0.1〜10μmと重複する範囲に設定することは、刊行物1の記載に基づいて当業者が容易になし得る設計的事項にすぎないといえる。

4.審判請求人の提出した実験成績証明書について
審判請求人は、審判請求書において実験成績証明書を提出し、引用刊行物に開示した方法で作製されたセパレータの面粗度Raは本願発明1の範囲と重複することはない旨主張している。
しかしながら、上記実験により得られたセパレータは、面粗度Raが20〜28μmのものであるから、その定義上必ずRaの2倍以上となるRzは少なくとも40μm以上のものとなり、引用刊行物に記載された「Rz/Rmax=20/50」のセパレータと同じものではない。
したがって、この実験成績証明書に拠って、刊行物発明のセパレータの面粗度Raが本願発明1の範囲と重複しないという審判請求人の主張を受け入れることはできない。

V.むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-08-17 
結審通知日 2006-08-22 
審決日 2006-09-04 
出願番号 特願平10-99017
審決分類 P 1 8・ 113- Z (H01M)
P 1 8・ 121- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高木 康晴  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 吉水 純子
平塚 義三
発明の名称 固体高分子型燃料電地用セパレータ  
代理人 小林 雅人  

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