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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23B
管理番号 1146115
審判番号 不服2005-10232  
総通号数 84 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-04-28 
確定日 2006-10-23 
事件の表示 平成8年特許願第283334号「食物褐色化防止水及び食物褐色化防止方法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年4月28日出願公開、特開平10-108619〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯・本件発明

本件出願は、平成8年10月4日の特許出願であって、その請求項1乃至4に係る発明は、明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至4に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項3に係る発明は、次のとおりのものである。(以下、「本件発明3」という。)
「【請求項3】実体が露出した食物を、水100重量部、食塩0.7〜2重量部及びL-アスコルビン酸0.4〜3重量部を含有する食物褐色化防止水に少なくとも3分間浸漬することを特徴とする食物褐色化防止方法。」

2.引用例記載事項

これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本件の出願日前に頒布された刊行物である、特開昭56-51949号公報(以下、「引用例」という。)には、(a)「りんごを四つ割乃至八つ割し、剥皮および芯部除去したものを、食塩0.2〜2.0%水溶液、ビタミンC0.1〜1.0%水溶液、およびクエン酸0.02〜0.2%水溶液のうち2種以上の液に短時間それぞれ継続して浸漬後引き上げ、直ちにプラスチック袋に入れ、真空包装して冷蔵することを特徴とする剥皮リンゴの短期保存法。」(特許請求の範囲)が記載され、(b)「この発明は、これらの不便弊害を解消するため鋭意研究した結果、剥皮リンゴを数日間酸化褐変させることなく保存し、美味に食べられるようにしたものである。」(公報第1頁右下第5〜8行)ことが記載されている。

3.対比・判断

本件発明3は、実体が露出した食物を、水100重量部、食塩0.7〜2重量部及びL-アスコルビン酸0.4〜3重量部を含有する食物褐色化防止水に少なくとも3分間浸漬することにより、食塩とL-アスコルビン酸の双方の作用により、該食物は、浸漬された際の食物実体の色を褐変させることなく当初の色合いを長期間に亘って維持するものである。
これに対して、引用例には、「りんごを四つ割乃至八つ割し、剥皮および芯部除去したものを、食塩0.2〜2.0%水溶液、ビタミンC0.1〜1.0%水溶液に短時間それぞれ継続して浸漬後引き上げ、直ちにプラスチック袋に入れ、真空包装して冷蔵する剥皮リンゴの短期保存法。」が記載されているといえる。
本件発明3と引用例に記載された発明(以下、「引用例発明」という。)とを対比すると、後者の「りんごを四つ割乃至八つ割し、剥皮および芯部除去したもの」及び「ビタミンC」は、夫々前者の「実体が露出した食物」及び「L-アスコルビン酸」に相当し、後者も「水溶液」に浸漬してりんごの褐変を防止するものであるから、「食物褐色化防止水に浸漬する食物褐色化防止方法」であるといえ、更に、後者の%は、重量%を意味するものと解されるから、両者は、「実体が露出した食物を、水100重量部に、食塩0.7〜2重量部程度及びL-アスコルビン酸0.4〜1重量部程度を含有する食物褐色化防止水に浸漬する食物褐色化防止方法。」である点で一致し、
(1)食物の浸漬時間について、前者が「少なくとも3分間」と特定しているのに対して、後者がそうでない点
(2)後者が、食物の浸漬後、食物を「直ちにプラスチック袋に入れ、真空包装して冷蔵する」のに対して、前者がそうでない点
で相違している。
そこで、上記相違点について検討する。

相違点(1)
本件明細書の段落【0012】に「・・・この際、浸漬する時間は、短いと褐色化防止効果の持続時間が短くなるので、少なくとも3分間必要である。又長くても褐色化防止効果の持続時間に変化はないので、3〜30分間が好ましい。・・・」と記載されているように、本件発明3においては、褐色化防止効果の持続時間を維持するために、食物の浸漬時間を少なくとも3分間とするものである。
ここで、食物褐色化防止水への食物の浸漬時間は、食物の種類や、食塩とL-アスコルビン酸の濃度や目的とする褐色化防止効果の持続時間等に応じて当業者が適宜最適化するものであり、りんごやごぼう等の青果物の変色防止のために、食塩やL-アスコルビン酸等の食物褐色化防止水への浸漬時間を3分間以上とすることは通常のことであるから(必要なら、特開平6-245696号公報の段落【0011】、特開平6-181684号公報の段落【0022】参照。)、引用例発明において、食物の食物褐色化防止水への浸漬時間を少なくとも3分間とすることに格別の困難性は見出せず、それを妨げる特段の理由も見出せない。

相違点(2)
青果物を長期間保存する際には、青果物内にある酸素による褐変や呼吸作用によって内部の糖や有機酸が消費され香りや味といった風味の消失が起こるため、青果物をプラスチック袋に入れ、真空包装して冷蔵することは周知のことで(必要なら、前記特開平6-245696号公報の段落【0014】参照。)あり、この工程を設けるか否かは、青果物の保存期間等に応じて、当業者が適宜選定する設計事項にすぎないから、引用例発明において、食物を「直ちにプラスチック袋に入れ、真空包装して冷蔵する」工程を省くことは当業者が適宜なし得るところである。

そして、本件発明3の明細書記載の効果も、引用例から当業者が予期しうる効果にすぎず、格別のものとすることはできない。

したがって、本件発明3は、本件の出願日前に頒布された引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4. むすび

以上のとおり、本件発明3は、その出願前日本国内において頒布された上記の引用刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1乃至2及び4に係る発明について判断するまでもなく本件出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。


(付記)
なお、本件請求項1に係る発明は、「水100重量部、食塩0.7〜2重量部及びL-アスコルビン酸0.4〜3重量部を含有することを特徴とする食物褐色化防止水。」であるが、前記のとおり引用例1には、食塩0.2〜2.0%及びビタミンC0.1〜1.0%を含有する食物褐色化防止水が記載されており、本件請求項1に係る発明は、引用例に記載された発明であるといえるから、本件請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
また、本件請求項2に係る発明は、「水100重量部及び食塩0.7〜2重量部を含有する水溶液A並びに水100重量部及びL-アスコルビン酸0.4〜3重量部を含有する水溶液Bからなることを特徴とする食物褐色化防止水。」であるが、引用例には(例1)として、食塩1.0%水溶液並びにビタミンC0.5%水溶液からなる食物褐色化防止水が記載されており、本件請求項2に係る発明は、引用例に記載された発明であるといえるから、本件請求項2に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
 
審理終結日 2006-08-10 
結審通知日 2006-08-15 
審決日 2006-08-28 
出願番号 特願平8-283334
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A23B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 恵理子  
特許庁審判長 河野 直樹
特許庁審判官 阪野 誠司
鵜飼 健
発明の名称 食物褐色化防止水及び食物褐色化防止方法  

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