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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M
管理番号 1146263
審判番号 不服2006-2036  
総通号数 84 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-12-18 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-02-06 
確定日 2006-11-01 
事件の表示 平成10年特許願第538756号「バルーンカテーテルおよび製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 9月11日国際公開、WO98/39044、平成13年12月18日国内公表、特表2001-526559号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
・平成10年(1998年)3月6日 国際出願日(パリ条約による優先権
主張1997年3月6日,米国)
・平成17年10月31日 拒絶査定(発送:平成17年11月8日)
・平成18年2月6日 審判請求

2.本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」とい
う。)は,平成17年8月22日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。
「エラストマー管を少なくとも約200%長さが増大するように長さ方向に延伸することにより一部が形成される,カテーテル上に据え付けられるよう適合されたバルーンであって,前記延伸が,カテーテル上に据え付けられる前の唯一の実質的な延伸であるバルーン。」

3.引用例及びその記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第95/23619号パンフレット(以下,「引用例1」という。)には,次の事項が記載されてい
る。
ア.「A balloon for a medical device formed from a length ・・・(中略)・・・thermoplastic elastomer characterized as follows: (所定長さのポリマーチューブを加圧下で放射方向に膨張させることにより,そのチューブから形成される医療器具用のバルーンであって,前記ポリマーはブロックコポリマーの熱可塑性エラストマーであり,・・・(後略)。)(括弧書きは当審の翻訳文。なお,翻訳文作成に当たり,引用例1に対応する国内公表である特表平09-509860号公報を参照した。以下,同様。)」(第16ページ第3-5行(ページ左側に表示された行数では第5-7
行))
イ.「Summary of the Invention New Balloon materials, which
possess a unique ・・・(中略)・・・characterized as follows:(発明の概略 膨張率に関する特性として,非柔軟性,半柔軟性及び柔軟性の膨張率特性,適度な弾性,及び高い伸長強度を含む物理的な特性をあわせもつ新しいバルーン材料物質が,以下に特徴づけられる特殊なブロックコポリマー熱可塑性エラストマーから生成される。)」(第3ページ第26-30行
(ページ左側に表示された行数では第27-31行))
ウ.「The high strength of the balloons produced from ・・・(中略)・・・good recrossing after first inflation.(前記ポリマーから形成されるバルーンの高い強度は,形状が複雑でないカテーテルの製作を可能にする。その低い弾性率は,本発明のバルーンで認識されるように,他の高い強度を有するポリマー材料と比較し柔らかい感触を与える。前記の工夫に富むバルーンを備えた形状が複雑でないカテーテルは,・・・(後略))」(第4ページ第19-24行)
エ.「EXAMPLES TUBING EXTRUSION: In examples 1-9, 11 and 13 all
tubing materials were made ・・・(中略)・・・the extruded tubing
was cut into 8 inch sections or spooled.(実施例 チューブの押し出し成形 実施例の1から9,11及び13において,全てのチューブの成形材料物質は押し出し成形によりアトケムパーベックス7033及びパーベックス6333から生成された。・・・(中略)・・・チューブは,温度調節下において,200℃から220℃の材料物質が融解する温度範囲に加熱された原料吸込口から七つの押し出し成形部を通して生成された。・・・(中
略)・・・ポリマー材料物質が型からチューブの形状に押し出し成形された後,小さなエアーギャップを通過し,約65°Fに維持された脱イオン水のバス中で冷却された。押し出し成形されたチューブは,引き出し器による過程を経た後,8インチごとに分断されるか,あるいは巻き取られた。)」
(第8ページ第1-12行)
オ.「EXAMPLE 1 The product of this example is a 2.25 mm balloon
made from ・・・(中略)・・・in a deionized water bath maintained
at about 10 ℃. (実施例1 本実施例の製品は,ぺーバックス(登録商標7033)から生成された2.25mmのバルーンである。・・・(中略)・・・チューブが確実に型内に固定された後,その型はホルダー内に取り付けられた。チューブは型の上部から延ばし出され,チューブの管腔内に280psiにて加えられる窒素ガスが通るTouhy(タウヒー)クランプ内にチューブに引張を付与した状態で供給された。・・・(中略)・・・バルーンは,フープ比5.1で,内圧により半径方向に膨張することによって形成される。バルーンの成形後,型は温水槽から取り出され,約10℃に維持された脱イオン水槽中で,約10秒間冷却された。)」(第8ページ第13-30行)
カ.「EXAMPLE 11 The material used in this example was Pebax 7033.・・・(中略)・・・ending ID=0.0064, OD=0.0136 (実施例11) 本実施例において用いられる材料物質はぺーバックス7033であった。成形温度は95℃であった。成形圧力は500psiであった。2.00mmバルーンは以下に記されるチューブセグメントから形成された。すべてのチューブセグメントは,異なる延伸率と異なる開始時チューブ寸法で室温下で延伸された。内径(ID)及び外形(OD)の単位はインチである。a:チューブはλ=2.5の延伸率で延伸された。開始時ID=0.0130,OD=0.0252 終了時ID=0.0087,OD=0.0177 b:チューブはλ=3.0の延伸率で延伸された。開始時ID=0.0132,OD=0.0252 終了時ID=0.0081,OD=0.0162 c:チューブはλ=4.5の延伸率で延伸された。開始時ID=0.0132,OD=0.0262 終了時ID=0.0064,OD=0.0136)」(第12ページ第6-20行(ページ左側に表示された行数では第13-27行))

上記記載事項カ.には,チューブをλ=2.5の延伸率で延伸した場合
に,開始時にはID=0.0130,OD=0.0252であったものが,終了時ID=0.0087,OD=0.0177となることが記載されており,延伸によってチューブの径が小さくなることから,この延伸は,チューブを半径方向ではなく長さ方向に延伸するものであることが明らかである。

してみれば,引用例1には,次の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されているといえる。
「エラストマーから生成されるチューブを少なくともλ=2.5の延伸率で長さ方向に延伸して形成され,その後,チューブの管腔内に窒素ガスを供給し内圧で半径方向に膨張することにより形成される,カテーテルに備えられるバルーン。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用された米国特許第4386179号明細書(以下,「引用例2」という。)には,次の事項が記載されている。
ア.「Furthermore, the material, ・・・(中略)・・・ after
extrusion to reduce its thickness even further.(さらに,材料物質には,薄いオリフィスから押し出し成形される場合でさえ,押し出し成形後にその厚みをより一層薄くするため,引張力を付加することもできる。)(括弧書きは当審の翻訳文。以下,同様。)」(第6欄第37-40行)
イ.「EXAMPLE 1 TO 7 ・・・(中略)・・・ The extruded material
ranged in thickness from 0.016 to 0.018 inch ・・・(後略)(実施例1ないし7・・・(中略)・・・押し出し成形された材料は厚さが0.016ないし0.018インチの範囲であった。)」(第13欄第1-12行
(ページ内に表示された行数では第1-13行))
ウ.「EXAMPLES 8 AND 9 ・・・(中略)・・・ The extruded material ranged in thickness from 0.0015 to 0.0017 ・・・(後略)(実施例8と9・・・(中略)・・・押し出し成形された材料は厚さが0.015ないし
0.017インチの範囲であった。)」(第13欄第30-39行(ページ内に表示された行数では第41-51行))
エ.「EXAMPLES 13 TO 15 ・・・(中略)・・・ To produce a 0.010
inch wall thickness, the extruder ・・・(中略)・・・thickness of
0.004 to 0.005 inch and, 0.0025 to 0.004 inch.(実施例13ないし15・・・(中略)・・・0.010インチの壁厚を製造するため,押し出し成形機は,0.456インチのピンを備えた直径0.478インチの金型を採用した。材料は,押し出し成形後,僅かに引き出しが行われた。表4には,0.004-0.005インチと0.0025-0.004インチの壁厚を有する管とともに,その伸び率と引張強度が示されている。」(第14欄第7-25行(ページ内に表示された行数では第16-34行))
オ.「In particular, medical devices ・・・(中略)・・・the thermoplastic elastomer having dispersed polysiloxane.(特に,中央シャフトに膨張バルーンを有する医療機器では,ポリシロキサンを分散した熱可塑性エラストマーが有効である。)」(第15欄第13-16行)
カ.「The shaft 34 also carries the inflatable cuff 41. ・・・(中
略)・・・ has a thickness of 0.008 to 0.010 inch.(シャフト34は膨張性のカフ41も備える。このカフ41は,一般的に上述されるようなポリシロキサンが分散されたSEBSブロック・コポリマーからなる。好ましいカフはシェル・クラトンG2705を用いる。この形式のSEBSポリマーは,28%スチレンと72%エチレン-ブチレンからなる。さらに,それ
は,5%ポリプロピレンと45%ミネラル・オイルを有する。カフを製造するには,この樹脂は4%ポリシロキサンを受け入れる。カフ41のための管は,典型的には,0.008ないし0.010インチの厚さを有する。)」(第15欄第40-48行)
キ.「The cuff 41, after the initial assembly of the endotracheal
tube 33, ・・・(中略)・・・ inflating over its entire length
between the sleeves 44 and 45.(カフ41は,気管内チューブ33にまず初めに取り付けられた後に,患者内への実際の使用に先立ち,型取り工程を行う。さもなければ,カフ41は端部42と43の中間にあるとても小さなエリアで膨らむに過ぎないからである。この型取り工程によって,スリーブ44と45の間に渡る全長においてカフ41が膨らむようになる。)」(第17欄第6-12行)
ク.「To bigin the forming process, ・・・(中略)・・・ During the inflation in FIG.9, the portions of the cuff in the region 71 and 72 ・・・(中略)・・・ to a diameter of 4.75 inches.(型取り工程を始めるに当たり,・・・(中略)・・・図9の膨張の間,モールドの71と72の領域内にあるカフの一部分は,直径0.4インチから直径4.75インチにまで膨張する。」(第17欄第21-41行)

上記記載事項ア.には,材料物質に対して,押し出し成形後にその厚みをより一層薄くするため,引張力を付加する点が記載されている。
上記記載事項エ.には,0.010インチ及びそれ以下の壁厚を有する管を製造するため,押し出し成形後に引き出しを行う点が記載されている。この引き出しは,壁厚を減少させるものであることから,技術常識からみて,長さ方向の引き出しであることは明白である。
また,上記記載事項キ.には,カフ41は,気管内チューブ33にまず初めに取り付けられた後に,患者内への実際の使用に先立ち,型取り工程を行うとあることから,カフ41の材料物質として上記記載事項エ.の実施例13ないし15を選択した場合には,カフ41は,材料物質を押し出し成形後に長さ方向の引き出しを行うことにより成形され,気管内チューブ33上に取り付けられる前には,前記長さ方向の引き出し以外に何ら延伸(型取り工程)を行わず,前記長さ方向の引き出しが唯一の実質的な延伸であるといえる。

してみれば,引用例2には,次の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されているといえる。
「SEBS(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン)ブロック・コポリマーからなるカフ41において,押し出し成形後に長さ方向に引き出しが行われることにより形成され,気管内チューブ33上に取り付けられる前に
は,前記長さ方向の引き出し以外に何ら延伸(型取り工程)を行わず,前記長さ方向の引き出しが唯一の実質的な延伸であるカフ41。」

4.対比
本願発明と引用発明1を対比するに,後者の「エラストマーから生成されるチューブ」は,その機能及び作用からみて,前者の「エラストマー管」に相当し,以下同様に,後者の「λ=2.5の延伸率で長さ方向に延伸」は前者の「少なくとも約200%長さが増大するように長さ方向に延伸」に,後者の「備える」は前者の「据え付けられるよう適合された」に,それぞれ相当する。

してみれば,本願発明と引用発明1とは,「エラストマー管を少なくとも約200%長さが増大するように長さ方向に延伸することにより形成され
る,カテーテル上に据え付けられるよう適合されたバルーン。」である点で一致し,次の点で相違する。

(相違点1)
エラストマー管を少なくとも約200%長さが増大するように長さ方向に延伸することにより形成されるのが,本願発明においては一部であるのに対し,引用発明1においては一部であるか否かが明らかでない点。
(相違点2)
本願発明においては,前記延伸がカテーテル上に据え付けられる前の唯一の実質的な延伸であるのに対し,引用発明1においては,長さ方向の延伸の後,チューブの管腔内に窒素ガスを供給し内圧で半径方向に膨張することにより形成される工程が含まれており,当該長さ方向の延伸がカテーテル上に据え付けられる前の唯一の延伸であるか否かが明らかでない点。

5.判断
(1)相違点1について
エラストマー管を少なくとも約200%長さが増大するように長さ方向に延伸することにより形成されるのを一部とするか否かは,当業者が必要に応じて設定することのできる設計事項に過ぎない。

(2)相違点2について
引用発明1における,長さ方向の延伸の後に行われる,チューブの管腔内に窒素ガスを供給し内圧で半径方向に膨張することにより形成される工程
(以下,「膨張工程」という。)は,技術常識からみて,チューブの壁厚をより薄くするのみならず,エラストマーに事前に配向を与えることで,該チューブに対し再膨張の際の形状再現性を付与するものであることは明らかである。例えば,ゴム風船を膨らませる際,最初に空気を吹き込むときには大きな圧力が必要であるが,同じゴム風船を一旦しぼませた後,再び膨らませるときには,最初のときに膨らませたところまでであれば,最初のとき程の圧力は必要なく簡単に膨らむことは,一般的によく知られた事実である。つまり,引用発明1は,膨張行程により事前にチューブを所望の形状まで膨張させておくことで,患者の施術の際にチューブを所望の形状まで簡単に膨張させることができるようにしたものであるといえる。
ここで,施術の際にチューブを所望の形状まで簡単に膨張させることを格別望まないのであれば,係る膨張工程を省略できることは明らかである。そして,この場合,膨張行程を省略するわけであるから,チューブを押し出し成形後に長さ方向に延伸を行うのみでカテーテルに取り付けるようにする
(いいかえれば,チューブの長さ方向の延伸がカテーテル上に据え付けられる前の唯一の延伸である)こととなることは明らかである。
してみれば,引用発明1において,膨張工程を省略し,上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項することは,当業者にとって容易に想到し得ることである。

上記相違点1ないし2によって,本願発明が奏する作用,効果も,引用発明1から予測される範囲のものであって,格別なものとは認められない。

さらに,上記相違点2について検討する。引用発明2は,SEBS(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン)ブロック・コポリマーというエラストマーからなるカフ41(本願発明の「バルーン」に相当する。)におい
て,押し出し成形後に長さ方向に引き出し(本願発明の「延伸」に相当す
る。)が行われることにより形成され,気管内チューブ33(本願発明の
「カテーテル」に相当する。)上に取り付けられる前には,前記長さ方向の引き出し以外に何ら延伸(型取り工程)を行わず,前記長さ方向の引き出しが唯一の実質的な延伸であるカフ41である。
してみれば,引用発明1のバルーンにおいて,引用発明2のように,チューブ(バルーン)の材料物質としてSEBS(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン)ブロック・コポリマーを用い,押し出し成形後に長さ方向に延伸を行い,前記延伸が,カテーテル上に取り付けられる(据え付けられ
る)前の唯一の実質的な延伸であるチューブ(バルーン)とし,上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは,当業者が容易になし得ることである。

上記相違点1ないし2によって,本願発明が奏する作用,効果も,引用発明1及び2から予測される範囲のものであって,格別なものとは認められない。

6.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明1,又は,引用発明1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-06-02 
結審通知日 2006-06-06 
審決日 2006-06-21 
出願番号 特願平10-538756
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 門前 浩一  
特許庁審判長 阿部 寛
特許庁審判官 芦原 康裕
柳 五三
発明の名称 バルーンカテーテルおよび製造方法  
代理人 松倉 秀実  
代理人 川口 嘉之  
代理人 遠山 勉  

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