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審決分類 |
審判 訂正 2項進歩性 訂正しない C08J 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正しない C08J 審判 訂正 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 訂正しない C08J 審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正しない C08J 審判 訂正 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降) 訂正しない C08J |
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管理番号 | 1146391 |
審判番号 | 訂正2005-39079 |
総通号数 | 84 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1997-12-09 |
種別 | 訂正の審決 |
審判請求日 | 2005-05-10 |
確定日 | 2006-11-10 |
事件の表示 | 特許第3248447号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
[1]請求の要旨 本件審判の請求は、特許第3248447号(平成9年3月24日出願 平成13年11月9日設定登録)の明細書を、審判請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものである。 [2]補正の適否 本件でなされた平成17年7月13日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、審判請求書と、審判請求書に最初に添付した訂正明細書(以下「当初訂正明細書」という。)を補正するものであり、その補正事項には、当初訂正明細書の段落【0008】中の「即ち、本発明は、フィルム製造用原料として水分率を50ppm以下にしたポリエステル系樹脂を用い、該ポリエステル系樹脂をフィルム状に成形するための樹脂溶融工程中の少なくとも1ヶ所以上に孔径20μm以下のフィルターを導入して得られた金属板ラミネート用フィルム全体に、検出部電極と検出部ローラーとの隙間を0.2mm、印加電圧を2.4kV、走行速度を50m/minに設定して、前記検出部電極と検出部ローラーの間にフィルムを走行させて検出される、直径0.1mmφ以上のピンホールが存在せず、フィルムの縦方向および横方向の150℃、30分間加熱処理した後の収縮率がそれぞれ5%以下であり、フィルムの面積が1,000〜100,000m2であることを特徴とするポリエステル系樹脂を含む金属板ラミネート用フィルムに関する。」を、「即ち、本発明は、フィルム製造用原料として水分率を50ppm以下にしたポリエステル系樹脂を用い、該ポリエステル系樹脂をフィルム状に成形するための樹脂溶融工程中の少なくとも1ヶ所以上に孔径20μm以下のフィルターを導入して得られた金属板ラミネート用フィルム全体に、直径0.1mmφ以上のピンホールが存在せず、フィルムの縦方向および横方向の150℃、30分間加熱処理した後の収縮率がそれぞれ5%以下であり、フィルムの面積が1,000〜100,000m2であることを特徴とするポリエステル系樹脂を含む金属板ラミネート用フィルムに関する。」と補正する補正事項、及び、審判請求書第4頁の訂正事項jを、前記補正事項に対応するように補正する補正事項が含まれている(以下、これらの補正事項を一括して「補正事項j」という。補正書の「6.補正の内容」の(2)を参照。)。 そこで、補正事項jについて検討する。 補正事項jにより、当初訂正明細書に存在していた「検出部電極と検出部ローラーとの隙間を0.2mm、印加電圧を2.4kV、走行速度を50m/minに設定して、前記検出部電極と検出部ローラーの間にフィルムを走行させて検出される、」との文言が削除され、訂正事項jは内容的に別の訂正事項に変更されることとなるから、補正事項jは、審判請求書の要旨を変更するものと認められる。 請求人は、補正事項jのうちの当初訂正明細書の補正は誤記の訂正を目的とするとしている(補正書第3頁第2行参照)が、「検出部電極と検出部ローラーとの隙間を0.2mm、印加電圧を2.4kV、走行速度を50m/minに設定して、前記検出部電極と検出部ローラーの間にフィルムを走行させて検出される、」との長文の記載を誤記と認めることはできない。審判請求書に訂正事項fが存在していたことからみても、該記載を誤記と認めることはできない。また、請求人は、補正事項jは訂正事項fに係る記載を削除する補正に伴うものであると述べている(補正書第4頁の(理由)を参照)が、訂正事項jと訂正事項fとは互いに別の訂正事項であるから、それぞれが補正の要件を満たす必要があると認められる。 以上のとおりであるから、他の補正事項について検討するまでもなく、本件補正は認められない。 [3]訂正拒絶理由の概要 当審において通知した平成17年6月8日付けの訂正拒絶理由の概要は、以下の理由1〜4のとおりである。 理由1:訂正事項fは、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするとも認められない。仮に、訂正事項fにおいて「0.1mmφ以上のピンホール」を「検出部電極と検出部ローラーとの隙間を0.2mm、印加電圧を2.4kV、走行速度を50m/minに設定して、前記検出部電極と検出部ローラーの間にフィルムを走行させて検出される、直径0.1mmφ以上のピンホール」と訂正したことで「直径0.1mmφ以上のピンホール」が減縮されるのであれば、訂正事項fは、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするとも認められないだけではなく、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとも認められない。また、実質上特許請求の範囲を拡張する。 理由2:訂正事項jは、明りょうでない記載の釈明を目的とするとは認められない。特許請求の範囲の減縮や誤記の訂正を目的とするとも認められない。 理由3:訂正後の請求項1、2の記載は特許法第36条第6項第2号、及び、第3号に規定する要件を満たしていないから、訂正後の請求項1、2に係る発明(以下「訂正発明1」、「訂正発明2」という。)は、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 理由4:訂正発明1、2は、本件特許の出願前に頒布された下記の刊行物1〜5に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。 記 刊行物1:特開平6-71747号公報(請求人が提出した刊行物1) 刊行物2:特開平2-269120号公報(同刊行物5) 刊行物3:湯木和男編「飽和ポリエステル樹脂ハンドブック」初版 1989年12月22日 日刊工業新聞社発行 p.199〜201、676〜679、830〜833(同刊行物3) 刊行物4:特開平4-261826号公報(同刊行物2) 刊行物5:特開平7-304885号公報(同刊行物4) [4]訂正拒絶理由に対する判断 1.理由1について 訂正事項fは以下のとおりである。 訂正事項f:特許請求の範囲の請求項1中の「0.1mmφ以上」の前に「検出部電極と検出部ローラーとの隙間を0.2mm、印加電圧を2.4kV、走行速度を50m/minに設定して、前記検出部電極と検出部ローラーの間にフィルムを走行させて検出される、」を加入する。(以下、ここで加入された「検出部電極と・・・走行させて検出される」という要件を「訂正検出要件」という。) 訂正事項fにより、訂正前の「直径0.1mmφ以上のピンホール」が「検出部電極と検出部ローラーとの隙間を0.2mm、印加電圧を2.4kV、走行速度を50m/minに設定して、前記検出部電極と検出部ローラーの間にフィルムを走行させて検出される、直径0.1mmφ以上のピンホール」に訂正されることになる。 そこで、訂正検出要件について検討する。 訂正明細書の段落【0038】には、 「【0038】(1)ピンホールの検出方法(高電圧印加方式) 0.1mmφのピンホールを検出する場合、フィルムに0.1mmφのピンホールをあけ、これを用いて図1に示した装置の検出部電極と検出部ローラとの隙間および印加電圧を適切に決定する。本実施例の場合、検出部電極と検出部ローラーとの隙間を0.2mm、印加電圧を2.4kV、走行速度を50m/min.に設定し、この条件で巾1,000mm、長さ1,000mのロール状に巻かれたフィルムサンプルロールを走行・検出検査を実施した。」と記載されている。そして、上記段落【0038】における「図1に示した装置」とは、訂正明細書の段落【0013】の記載からみて、高電圧印加方式のピンホール検出器の一例(以下「A装置」という。)である。段落【0013】、【0038】の記載によれば、フィルムにまず0.1mmφのピンホールが開けられ、そのピンホールをA装置で検出するための適切な条件が決定されたことがわかる。その適切な操作条件が、訂正検出要件である。 そうすると、訂正検出要件は、0.1mmφのピンホールを検出するためのA装置に固有の操作条件として記載されており、0.1mmφの複数種類のピンホールを相互に区別する為の要件として記載されているのではない。 したがって、段落【0038】の「0.1mmφのピンホール」を、「検出部電極と検出部ローラーとの隙間を0.2mm、印加電圧を2.4kV、走行速度を50m/minに設定して、前記検出部電極と検出部ローラーの間にフィルムを走行させて検出される、直径0.1mmφのピンホール」と記載したからといって、該0.1mmφのピンホールの実体が変わるものではないのと同様に、請求項1中の「0.1mmφ以上のピンホール」を、「検出部電極と検出部ローラーとの隙間を0.2mm、印加電圧を2.4kV、走行速度を50m/minに設定して、前記検出部電極と検出部ローラーの間にフィルムを走行させて検出される、直径0.1mmφ以上のピンホール」と訂正したからといって、直径0.1mmφ以上のピンホールの実体が変わるものではない。つまり、訂正事項fは、単なる文言の言い換えにすぎない。 ゆえに、訂正事項fは、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものとも認められない。 ところで、特許明細書(訂正前のもの)の段落【0013】、【0038】、図1の記載は、訂正明細書の同箇所の記載と相違がなく、したがって、特許明細書において、訂正検出要件は、0.1mmφのピンホールを検出するための、A装置に固有の操作条件として記載されているにすぎず、0.1mmφの複数種類のピンホールを相互に区別する為の要件として記載されているのではない。 したがって、仮に、訂正事項fにおいて「0.1mmφ以上のピンホール」を「検出部電極と検出部ローラーとの隙間を0.2mm、印加電圧を2.4kV、走行速度を50m/minに設定して、前記検出部電極と検出部ローラーの間にフィルムを走行させて検出される、直径0.1mmφ以上のピンホール」と訂正したことで「直径0.1mmφ以上のピンホール」が減縮されるのであれば、訂正事項fは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められない。また、該減縮の結果として、訂正発明1のフィルムは、訂正前のフィルムに比べて拡張されることにもなる(フィルムに存在しないものを減縮すれば、フィルムそれ自体は拡張される。)。 したがって、この場合、訂正事項fは、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするとも認められないだけではなく、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとも認められない。また、実質上特許請求の範囲を拡張する。 以上のとおりであるから、訂正事項fは、特許法第126条第1項ただし書の規定に適合せず、仮に、訂正検出要件が訂正前の「直径0.1mmφ以上のピンホール」を減縮するのであれば、さらに、同条第3項、及び、同条第4項の規定にも適合しない。 2.理由2について 本件審判請求における訂正事項jは以下のとおりである。 訂正事項j:段落【0008】中の「即ち、本発明は、少なくとも金属にラミネートされる部分には直径0.1mmφ以上のピンホールが存在しない熱可塑性樹脂を含む金属板ラミネート用フィルムに関する。」を、「即ち、本発明は、フィルム製造用原料として水分率を50ppm以下にしたポリエステル系樹脂を用い、該ポリエステル系樹脂をフィルム状に成形するための樹脂溶融工程中の少なくとも1ヶ所以上に孔径20μm以下のフィルターを導入して得られた金属板ラミネート用フィルム全体に、検出部電極と検出部ローラーとの隙間を0.2mm、印加電圧を2.4kV、走行速度を50m/minに設定して、前記検出部電極と検出部ローラーの間にフィルムを走行させて検出される、直径0.1mmφ以上のピンホールが存在せず、フィルムの縦方向および横方向の150℃、30分間加熱処理した後の収縮率がそれぞれ5%以下であり、フィルムの面積が1,000〜100,000m2であることを特徴とするポリエステル系樹脂を含む金属板ラミネート用フィルムに関する。」と訂正する。 訂正事項jは、訂正事項fが不適法な訂正であって認められない以上、明りょうでない記載の釈明を目的とするとは認められない。特許請求の範囲の減縮や誤記の訂正を目的とするとも認められない。 したがって、訂正事項jは、特許法第126条第1項ただし書の規定に適合しない。仮に、訂正検出要件が訂正前の「直径0.1mmφ以上のピンホール」を減縮するのであれば、訂正事項jは、同条第3項の規定にも適合しない。 3.理由3について 訂正後の請求項1、2は減縮されており、その記載は以下のとおりである。 「【請求項1】 フィルム製造用原料として水分率を50ppm以下にしたポリエステル系樹脂を用い、該ポリエステル系樹脂をフィルム状に成形するための樹脂溶融工程中の少なくとも1ヶ所以上に孔径20μm以下のフィルターを導入して得られた金属板ラミネート用フィルム全体に、検出部電極と検出部ローラーとの隙間を0.2mm、印加電圧を2.4kV、走行速度を50m/minに設定して、前記検出部電極と検出部ローラーの間にフィルムを走行させて検出される、直径0.1mmφ以上のピンホールが存在せず、フィルムの縦方向および横方向の150℃、30分間加熱処理した後の収縮率がそれぞれ5%以下であり、フィルムの面積が1,000〜100,000mm2であることを特徴とするポリエステル系樹脂を含む金属極ラミネート用フィルム。 【請求項2】 少なくとも片面の表面濡れ張力が420μN/cm以上である請求項1記載の金属板ラミネート用フィルム。」 そして、訂正後の請求項1に記載された訂正検出要件は、上記「1.理由1について」において示した理由により、単に「直径0.1mmφ以上のピンホール」を検出できる操作条件にすぎず、「直径0.1mmφ以上のピンホール」を事実上特定するものではない。 つまり、「検出部電極と検出部ローラーとの隙間を0.2mm、印加電圧を2.4kV、走行速度を50m/minに設定して、前記検出部電極と検出部ローラーの間にフィルムを走行させて検出される、直径0.1mmφ以上のピンホール」は、「直径0.1mmφ以上のピンホール」とその意味内容において相違がない。 そうすると、訂正後の請求項1は「直径0.1mmφ以上のピンホール」と簡潔に記載することができる事項を「検出部電極と検出部ローラーとの隙間を0.2mm、印加電圧を2.4kV、走行速度を50m/minに設定して、前記検出部電極と検出部ローラーの間にフィルムを走行させて検出される、直径0.1mmφ以上のピンホール」と簡潔性を欠く表現で記載するものである。 しかも、訂正検出要件は、「1.理由1について」に示したとおりA装置固有の操作条件であるから、訂正検出要件はA装置を使用する場合の要件として記載されなければ意味をなさない。しかるに、訂正後の請求項1に測定装置の特定はない。 したがって、訂正後の請求項1の記載は簡潔ではなく、また、特許を受けようとする発明が明確でもない。 訂正後の請求項2の記載も、請求項1を引用している以上同様である。 したがって、訂正後の請求項1、2の記載は特許法第36条第6項第2号、及び、第3号に規定する要件を満たしていないから、訂正発明1、2は特許出願の際独立して特許を受けることができない。 4.理由4について (1)訂正発明 訂正後の請求項1、2は減縮されており、訂正発明1、2は、訂正明細書の請求項1、2に記載されたとおりのものと認める(上記「3.理由3について」を参照)。 (2)訂正発明1について 刊行物1の特許請求の範囲の請求項1、2には 「【請求項1】 融点が210〜245℃の共重合ポリエステルからなり、片面にコロナ放電処理が施されていることを特徴とする金属板貼合せ成形加工用ポリエステルフイルム。 【請求項2】 融点が210〜240℃の共重合ポリエステルからなり、面配向係数が0.08〜0.16、150℃での熱収縮率が10%以下である請求項1記載の金属板貼合せ成形加工用ポリエステルフイルム。」と記載され、上記請求項1に記載された「融点が210〜245℃の共重合ポリエステル」は、「ポリエステル系樹脂」の下位概念物質であり、上記請求項1に記載された「金属板貼合せ成形加工用」は「金属板ラミネート用」と同義である。また、上記請求項2の「150℃での熱収縮率が10%以下」という要件について、刊行物1の段落【0018】、段落【0019】には「【0018】本発明のポリエステルフイルムは、さらに、金属板に貼合せた時にフイルムにしわが入るなどの欠点が生ずるのを防ぐうえで、150℃での熱収縮率が10%以下、好ましくは7%以下、特に好ましくは6%以下であることが望ましい。【0019】ここで、熱収縮率は、室温でサンプルフイルムに2点(約10cmの間隔)の標点をつけ、150℃の熱風循環型オーブン内に30分間保持し、その後室温に戻して上記標点の間隔を測定し、150℃での温度保持前後の差を求め、この差と150℃での温度保持前の標点間隔とから算出する。そして、フイルムの縦方向の熱収縮率をもって代表させる。」と記載されているから、「150℃での熱収縮率」とは、フィルムの縦方向の熱収縮率をもって代表させた150℃、30分間加熱したあとの熱収縮率を意味している。また、熱収縮率10%以下のうち特に好ましいのは6%以下であることが記載され、刊行物1の第5〜6頁の段落【0054】の表3には、150℃乾熱収縮率として、2.7〜3.5の中の特定の値が記載され、これらの値は、収縮率5%以下に該当する。ポリエステルフイルムがポリエステルをフィルム製造用原料とすることは自明である。また、刊行物1のポリエステルフイルムがフィルム状に成形するための樹脂溶融工程を経て得られることは、刊行物1の段落【0043】に記載されているが、それ自体、技術常識でもある。 以上の点からみて、刊行物1には「フィルム製造用原料としてポリエステル系樹脂を用い、該ポリエステル系樹脂をフィルム状に成形するための樹脂溶融工程を経て得られた、フィルムの縦方向の150℃、30分間加熱処理した後の収縮率が5%以下であるポリエステル系樹脂を含む金属板ラミネート用フィルム」の発明(以下「刊行物1の発明」という。)が記載されていると認める。 訂正発明1と刊行物1の発明を対比すると、両者は「フィルム製造用原料としてポリエステル系樹脂を用い、該ポリエステル系樹脂をフィルム状に成形するための樹脂溶融工程を経て得られた、フィルムの縦方向の150℃、30分間加熱処理した後の収縮率が5%以下であるポリエステル系樹脂を含む金属板ラミネート用フィルム」の発明である点で一致し、次の点で相違する。 相違点1:フィルム製造用原料としてのポリエステル系樹脂が、前者では水分率を50ppm以下にしたものであるのに対して、後者ではこのような特定がなされていない点。 相違点2:ポリエステル系樹脂をフィルム状に成形するための樹脂溶融工程中に、前者では少なくとも1ヶ所以上に孔径20μm以下のフィルターが導入されているのに対して、後者ではこのような特定がなされていない点。 相違点3:前者では「金属板ラミネート用フィルム全体に、検出部電極と検出部ローラーとの隙間を0.2mm、印加電圧を2.4kV、走行速度を50m/minに設定して、前記検出部電極と検出部ローラーの間にフィルムを走行させて検出される、直径0.1mmφ以上のピンホールが存在せず」との特定があるのに対して、後者ではこのような特定がなされていない点。 相違点4:前者では「フィルムの横方向の150℃、30分間加熱処理した後の収縮率が5%以下であり」との特定があるのに対して、後者ではこのような特定がなされていない点。 相違点5:前者では「フィルムの面積が1,000〜100,000m2である」との特定があるのに対して、後者ではこのような特定がなされていない点。 そこで、これらの相違点について検討する。 a.相違点1について 刊行物2の第1頁左下欄下から第2行〜同右下欄第5行には、ポリエステル中の水分が加水分解等の劣化やボイドの生成の要因となることが記載され、刊行物3の第199〜200頁には、ポリエステルの一種であるポリエチレンテレフタレートについて、その中の水分がフィルムの強度を引き下げる結果となること、及び、フィルムにあっては、好ましくは0.005wt%以下の水分率を考えておく必要があることが記載されている。0.005wt%以下の水分率は、50ppm以下と換算される。 以上の点からみて、相違点1にかかる構成を採用することは容易である。 なお、フィルムのように薄い成形品にあっては、上記刊行物2に記載されたボイドがピンホールとなることは予測できることであり、したがって、ピンホールの発生が防止できる効果は予測できるものにすぎない。 b.相違点2について 刊行物1の段落【0023】には、深絞り製缶等の加工の際に10μm以上の粗粒子がピンホールの原因となることが記載され、また、刊行物4の第3頁左欄第5〜13行にも同様の記載がある。 さらに、刊行物3の第677頁の「D.異物」の項には「フィルム原料としては、特に異物の少ない原料であることが望ましい。異物が多いと,延伸中の破れの原因となるだけでなく,フィルムの特性(フィッシュアイや粗大突起が発生する)をも悪くする。押出し前のロ過工程で異物を除去することもできるが,フィルターの寿命を考えると重合工程以前での異物(ちりやほこりも含む)はできるだけ排除しなければならない。」と記載されているから、ロ過工程で異物を除去することが示されている。 以上の刊行物1、3、4の記載からみて、ポリエステル系樹脂をフィルム状に成形するための樹脂溶融工程中の少なくとも1ヶ所以上に、ピンホールの原因となる10μm以上の粗粒子を除く等の為に、孔径10μm未満のフィルターを導入することは容易である。訂正発明1の孔径20μm以下のフィルターには、孔径10μm未満のフィルターが含まれる。 したがって、相違点2にかかる構成を採用することは容易である。 c.相違点3について 刊行物1の段落【0023】に「白色顔料の平均粒径が2.5μmを越える場合は、深絞り製缶等の加工により変形した部分に、粗大粒子(例えば10μm以上の粒子)が起点となり、ピンホールを生じたり、場合によっては破断が生じるので、好ましくない。」と記載され、また、刊行物4には滑剤を含有する金属板貼合せ成形加工用フィルム(請求項1を参照)に関して「滑剤の平均粒径が2.5μmを越える場合は、深絞り製缶等の加工により変形した部分の、粗大滑剤粒子(例えば10μm以上の粒子)が起点となり、ピンホールを生じたり、場合によっては破断するので、好ましくない。特に耐ピンホール性の点で好ましい滑剤は、平均粒径2.5μm以下であると共に、粒径比(長径/短径)が1.0〜1.2である単分散の滑剤である。」(第3頁左欄第5〜13行)と記載されているから、刊行物1、4にはピンホールが好ましくない現象であるとの認識が示されている。そして、その好ましくない現象が錆の発生であることは、技術常識から明らかである。ピンホールが錆の発生の点で好ましくないことは、刊行物2の段落【0048】からも明らかである。 これら、刊行物1、4に記載されたピンホールはフィルムを金属板に貼り合わせた後の製缶工程等で生じるピンホールであり、金属板に貼り合わせる前のフィルム自体に存在するピンホールではないが、完成品において好ましくないもの、特に、フィルムが目的とする用途の上から好ましくないものを素材の段階で排除しておくことは当業者が通常考慮することである。してみれば、フィルムの段階でピンホールを排除しておくことは、刊行物1、4の記載に基づいて当業者が当然に考慮できることにすぎない。 金属板ラミネート用フィルムは、該フィルムで金属板を覆うことにより防錆をもたらすものであり(必要ならば刊行物1の段落【0002】、及び、刊行物4の段落【0002】を参照)、ピンホールは、この覆いの欠陥であるから、ピンホール数が多いほど、また、ピンホールの径が大きいほど防錆性が悪いのは当然のことである。 してみれば、防錆の為に、金属板ラミネート用フィルム全体に径が大きいピンホールを存在させないことは当業者が当然に考慮することである。そして、存在させないピンホールの径の下限を設定することは、必要な防錆性に応じて適宜なしうることであるから、金属板ラミネート用フィルム全体において直径0.1mmφ以上のピンホールを存在しないようにすることは容易である。そして、上記「3.理由3について」で示したように「金属板ラミネート用フィルム全体に、検出部電極と検出部ローラーとの隙間を0.2mm、印加電圧を2.4kV、走行速度を50m/minに設定して、前記検出部電極と検出部ローラーの間にフィルムを走行させて検出される、直径0.1mmφ以上のピンホール」と「直径0.1mmφ以上のピンホール」とに事実上の相違は認められない。 したがって、相違点3にかかる構成を採用することは容易である。 この判断について、請求人は平成14年(行ケ)第418号判決を参考文献1として提出して該判決に基づくと称する主張をしているが、該判決は本件とは事例を異にするから、この請求人の主張は採用できない。 d.相違点4について 刊行物1の段落【0018】、【0019】には上記のとおり熱収縮率について記載され、該熱収縮率は縦方向の熱収縮率をもって代表させている。ところで、通常、フィルムの熱収縮率としては、縦方向や横方向の収縮率を測定しており、縦方向の熱収縮率をもって代表させているということは、横方向の熱収縮率も考慮に入れていることを意味している。また、刊行物1の段落【0018】に熱収縮率を特定した意味としてしわ防止が記載されており、しわは横方向の熱収縮であっても発生する。したがって、横方向の熱収縮率も、縦方向同様に特定することは容易である。 したがって、相違点4に係る構成は、刊行物1の記載から当業者が容易に採用できたものと認める。 e.相違点5について フィルムの面積は、金属板ラミネートに必要な量を考慮して、適宜決定できるものと認められる。 したがって、相違点5に係る構成を採用することは容易である。 そして、相違点1〜5に係る構成をともに採用する点にも困難はない。 したがって、訂正発明1は、刊行物1〜4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。 なお、請求人は、訂正発明1は、ラミネート缶におけるピンホール検査が不要になるいう効果を奏する旨の主張をしているが、該効果は訂正明細書に記載されたものではないから、この請求人の主張は採用できない。請求人は、実施例1ではピンホールの発生がないからピンホール検査が不要になるという効果は訂正明細書に記載された効果である旨の主張をしているが、実施例1は訂正発明1の一実施例にすぎないから、実施例1の効果を訂正発明1全体の効果ということはできない。また、訂正発明1には、例えば、孔径20μmのフィルターを1ヶ所導入した発明が含まれるが、このような発明では、20μm未満で10μm以上の粗大粒子をロ過することはできず、該粗大粒子に基づくピンホールが発生する可能性がある(粗大粒子に基づくピンホールの発生については刊行物1、4を参照)。したがって、訂正発明1が、ラミネート缶におけるピンホール検査が不要になるいう効果を当然奏するということはできない。請求人は、参考資料2を提出し、訂正発明1で使用するフィルターは10μm以上の粗大粒子を捕獲すると主張しているが、この主張は訂正明細書の記載、特に特許請求の範囲の記載に基づかない主張であるから採用できない。 (2)訂正発明2について 訂正発明2と刊行物1の発明を対比すると、両者は「フィルム製造用原料としてポリエステル系樹脂を用い、該ポリエステル系樹脂をフィルム状に成形するための樹脂溶融工程を経て得られたフィルムの縦方向の150℃、30分間加熱処理した後の収縮率が5%以下であるポリエステル系樹脂を含む金属板ラミネート用フィルム」の発明である点で一致し、上記(1)に示した相違点1〜5、及び、下記相違点6で相違する。 相違点6:前者は「少なくとも片面の表面濡れ張力が420μN/cm以上である」との特定があるのに対して、後者ではこのような特定がなされていない点。 相違点1〜5に対する判断は上記(1)に示したとおりであるから、相違点6についてさらに判断する。 刊行物1の段落【0035】には、コロナ放電処理を行うことが記載され、刊行物5には、コロナ放電処理により、表面の濡れ張力を46dyne/cm(460μN/cmと換算される。)以上とし、接着力を高めることが記載されている(刊行物5の請求項1、2、段落【0018】、段落【0022】の末尾、段落【0028】、段落【0033】の表1中の濡れ張力の欄を参照。)。 そうすると、刊行物1の発明において、表面濡れ張力を420μN/cm以上とすることは刊行物5の記載から容易である。 したがって、訂正発明2は、刊行物1〜5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認める。 (3)まとめ 以上のとおりであるから、訂正発明1、2は特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。 [5]本件補正が認められる場合についての判断 上記[2]で述べたとおり本件補正は認められないが、仮に認められるとしても、下記の理由により、訂正拒絶理由のうちの理由4は依然として解消していない。 本件補正後の請求項1、2に係る発明(以下「補正発明1」、「補正発明2」という。)は、補正後の訂正明細書の請求項1、2に記載された下記のとおりのものと認める。 「【請求項1】 フィルム製造用原料として水分率を50ppm以下にしたポリエステル系樹脂を用い、該ポリエステル系樹脂をフィルム状に成形するための樹脂溶融工程中の少なくとも1ヶ所以上に孔径20μm以下のフィルターを導入して得られた金属板ラミネート用フィルム全体に、直径0.1mmφ以上のピンホールが存在せず、フィルムの縦方向および横方向の150℃、30分間加熱処理した後の収縮率がそれぞれ5%以下であり、フィルムの面積が1,000〜100,000m2であることを特徴とするポリエステル系樹脂を含む金属板ラミネート用フィルム。 【請求項2】 少なくとも片面の表面濡れ張力が420μN/cm以上である請求項1記載の金属板ラミネート用フィルム。」 そして、補正発明1、2に対する理由4の判断は、上記「4.理由4について」において、訂正発明1、2に対して示した判断と同様である。ただし、「4.理由4について」の記載のうち相違点3は下記の相違点3に置き換え、また「c.相違点3について」中の「そして、上記「3.理由3について」で示したように「金属板ラミネート用フィルム全体に、検出部電極と検出部ローラーとの隙間を0.2mm、印加電圧を2.4kV、走行速度を50m/minに設定して、前記検出部電極と検出部ローラーの間にフィルムを走行させて検出される、直径0.1mmφ以上のピンホール」と「直径0.1mmφ以上のピンホール」とに事実上の相違は認められない。」との記載は削除する。 相違点3:前者では「金属板ラミネート用フィルム全体に、直径0.1mmφ以上のピンホールが存在せず」との特定があるのに対して、後者ではこのような特定がなされていない点。 以上のとおりであるから、補正発明1は、刊行物1〜4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、補正発明2は、刊行物1〜5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、補正発明1、2は特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。 [6]むすび 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書、及び同条第5項の規定に適合しない。仮に、訂正検出要件が訂正前の「直径0.1mmφ以上のピンホール」を減縮するのであれば、さらに、同条第3項、及び、同条第4項の規定にも適合しない。 また、仮に本件補正が認められるとしても、本件訂正は、特許法第126条第5項の規定に適合しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2005-08-01 |
結審通知日 | 2005-08-04 |
審決日 | 2005-08-18 |
出願番号 | 特願平9-69433 |
審決分類 |
P
1
41・
121-
Z
(C08J)
P 1 41・ 537- Z (C08J) P 1 41・ 853- Z (C08J) P 1 41・ 832- Z (C08J) P 1 41・ 856- Z (C08J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 天野 宏樹 |
特許庁審判長 |
井出 隆一 |
特許庁審判官 |
藤原 浩子 石井 あき子 |
登録日 | 2001-11-09 |
登録番号 | 特許第3248447号(P3248447) |
発明の名称 | 金属板ラミネート用フィルム |
代理人 | 高島 一 |
代理人 | 鈴木 智久 |
代理人 | 桂 典子 |
代理人 | 鎌田 光宜 |
代理人 | 村田 美由紀 |
代理人 | 山本 健二 |
代理人 | 土井 京子 |
代理人 | 谷口 操 |
代理人 | 赤井 厚子 |
代理人 | 栗原 弘幸 |