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審決分類 審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) G02F
審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) G02F
審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) G02F
管理番号 1146967
審判番号 無効2004-35095  
総通号数 85 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-05-20 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-02-18 
確定日 2006-10-25 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3267347号「液晶配向剤」の特許無効審判事件についてされた平成17年2月17日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の決定(平成17年(行ケ)第10169号(旧事件番号東京高裁平成17年(行ケ)第130号)平成17年7月8日決定言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3267347号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
(1)本件特許第3267347号に係る発明についての出願は、平成4年10月27日に特許出願(特願平4-289102号)され、平成14年1月11日にその発明について特許権の設定登録がなされた。
(2)その後、奥村安記子 他2名より特許異議の申立(異議2002-72282号)がなされ、平成15年9月19日付けで特許維持の決定がなされ、平成15年9月22日に確定した。
(3)これに対して、平成16年2月18日にチッソ株式会社より特許無効審判(無効2004-35095号)が請求され、平成16年7月13日に口頭審理が行われ、平成17年2月17日に「特許第3267347号の請求項1?4に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。」との審決がなされた。
(4)その後、被請求人により、平成17年3月30日に東京高等裁判所に上記審決の取消しを求める訴え(平成17年(行ケ)第130号)が提起された。
(5)一方、被請求人より、平成17年6月8日に本件発明の願書に添付した明細書の訂正を求める審判(訂正2005-39090号)の請求があったことにより、上記訴えは、平成17年7月8日に知的財産高等裁判所において差戻し決定がなされた。
(6)被請求人は、平成17年7月27日に訂正請求書を提出し、これに対し、請求人は、平成17年9月5日に弁駁書を提出した。
(7)その後、当審から、平成17年11月8日付けで訂正拒絶理由が通知され、その指定期間内の平成17年12月9日付けで意見書と訂正請求書の手続補正書が提出されたものである。

第2.訂正請求について

第2-1.平成17年12月9日付け手続補正(以下、「本件手続補正」といい、同補正に係る手続補正書を「本件手続補正書」という。)の適否

第2-1-1.本件手続補正の内容
本件手続補正の内容は、以下のとおりである。
(1)補正事項1
ア.平成17年7月27日付け訂正請求書(以下、「訂正請求書」という。)に添付された訂正明細書(以下、「訂正明細書」という。)の特許請求の範囲の【請求項1】中の「ポリアミック酸から選ばれる少なくとも1種のポリマー」を、「ポリアミック酸から選ばれるポリマー」に補正し、

イ.訂正請求書中の訂正事項について、「c’.特許請求の範囲、請求項1の『から選ばれる少なくとも1種のポリマー』を、『から選ばれるポリマー』と訂正する。」を加入する旨補正し、

ウ.訂正請求書中の訂正の原因について、「〔3〕’[註:原文はマル数字。以下、同じ。]上記訂正事項c’については、特許請求の範囲、請求項1に記載された『少なくとも1種』を削除して、選択の対象となるポリマーを明瞭にしようとするものである。従って、この訂正は、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。上記訂正事項c’は上記訂正事項cによる可溶性ポリイミドの削除に伴って選択の対象となるポリマーがポリアミック酸であることを明瞭にするものであって、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、また特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。」を加入する旨補正する。

(2)補正事項2
ア.訂正明細書の2頁下から1?2行(段落【0004】)の「ポリアミック酸から選ばれる少なくとも1種のポリマー」を、「ポリアミック酸から選ばれるポリマー」に補正し、

イ.訂正請求書中の訂正事項について、g.15行の「から選ばれる少なくとも1種のポリマー」を「から選ばれるポリマー」と訂正する旨補正し、

ウ.訂正請求書中の訂正の原因について、
(i)「〔6〕上記訂正事項gは、上記訂正事項a、b、cおよびdと整合するように、特許明細書の発明の詳細な説明を訂正しようとするものである」を、「〔6〕上記訂正事項gは、上記訂正事項a、b、c、c’およびdと整合するように、特許明細書の発明の詳細な説明を訂正しようとするものである」と訂正する旨補正し、

(ii)8頁の「上記訂正事項のa、b、cおよびdの訂正がなされた請求項1に係る発明が特許出願の際、独立して特許を受けることができる理由」を、「上記訂正事項のa、b、c、c’およびdの訂正がなされた請求項1に係る発明が特許出願の際、独立して特許を受けることができる理由」と訂正する旨補正する。

(3)補正事項3
ア.訂正明細書の5頁下から4?3行(段落【0019】)の「および/または可溶性ポリイミド」を削除する旨補正し、

イ.訂正請求書中の訂正事項について、「o’.特許明細書段落[0019]を下記のとおりに訂正する。『また、本発明の液晶配向剤は、ポリアミック酸と基板との接着性を改善する目的で、官能性シラン化合物を含有することができる。』」を加入する旨補正し、

ウ.訂正請求書中の訂正の原因について、「〔9〕上記訂正事項m、n、p、q、rおよびsは、上記訂正事項cと整合するように、特許明細書の発明の詳細な説明を訂正しようとするものである。従って、この訂正は、特許法第126条第1項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明ないしは第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、上記訂正事項m、n、p、q、rおよびsは、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。」を「〔9〕上記訂正事項m、n、o’、p、q、rおよびsは、上記訂正事項cと整合するように、特許明細書の発明の詳細な説明を訂正しようとするものである。従って、この訂正は、特許法第126条第1項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明ないしは第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、上記訂正事項m、n、o’、p、q、rおよびsは、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。」と訂正する旨補正する。

第2-1-2.本件手続補正の適否について
(1)補正事項1について
補正事項1は、「訂正明細書」の特許請求の範囲の【請求項1】に係る「ポリアミック酸から選ばれる少なくとも1種のポリマー」を、「ポリアミック酸から選ばれるポリマー」に補正し、合わせて、「訂正請求書」中の「訂正事項」および「訂正の原因」の各欄についても同趣旨の補正を行うものである。
これは、「訂正請求書」による訂正で、【請求項1】に係る「ポリマー」が、「ポリアミック酸」のみとなったことに伴い、不要となった【請求項1】中の「少なくとも1種の」を削除するものであって、訂正請求において削除すべきところを看過したものであるから、単なる誤記の補正に当たるものであり、当該補正は、訂正請求書の要旨を変更するものではない。

(2)補正事項2について
補正事項2は、「訂正明細書」の発明の詳細な説明の欄(段落【0004】)に係る「ポリアミック酸から選ばれる少なくとも1種のポリマー」を、「ポリアミック酸から選ばれるポリマー」に補正し、合わせて、「訂正請求書」中の「訂正事項」および「訂正の原因」の各欄についても同趣旨の補正を行うものである。
これは、「訂正請求書」による訂正で、「訂正明細書」の段落【0004】に係る「ポリマー」が、「ポリアミック酸」のみとなったことに伴い、不要となった段落【0004】中の「少なくとも1種の」を削除するものであって、訂正請求において削除すべきところを看過したものであるから、単なる誤記の補正に当たるものであり、当該補正は、訂正請求書の要旨を変更するものではない。

(3)補正事項3について
補正事項3は、「訂正明細書」の発明の詳細な説明の欄(段落【0019】)に係る「および/または可溶性ポリイミド」を削除する旨補正し、合わせて、「訂正請求書」中の「訂正事項」および「訂正の原因」の各欄についても同趣旨の補正を行うものである。
これは、「訂正請求書」による訂正で、「訂正明細書」に係る「ポリマー」が、「ポリアミック酸」のみとなったことに伴い、不要となった段落【0019】中の「および/または可溶性ポリイミド」を削除するものであって、訂正請求において削除すべきところを看過したものであるから、単なる誤記の補正に当たるものであり、当該補正は、訂正請求書の要旨を変更するものではない。

以上のとおり、補正事項1ないし3による補正は、訂正請求書の要旨を変更するものではなく、特許法第134条の2第5項において準用する同法第131条の2第1項の規定に適合する。よって、本件手続補正を認める。

第2-2.本件手続補正により補正された平成17年7月27日付け訂正請求(以下、「本件訂正」という。)の適否

第2-2-1.本件訂正の内容
上記第2-1.で示したように、本件手続補正は適法であるから、本件訂正の内容は、本件手続補正書に添付された「『請求の理由』全文(補正後)」に記載された以下の訂正事項a?sのとおりである。

(1)訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1の「(A)テトラカルボン酸二無水物」を、『(A)ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオンおよびピロメリット酸二無水物よりなる群から選ばれるテトラカルボン酸二無水物』と訂正する。

(2)訂正事項b
特許請求の範囲の請求項1の「ジアミン」を、『p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパンおよび2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパンよりなる群から選ばれるジアミン』と訂正する。

(3)訂正事項c
特許請求の範囲の請求項1の「および可溶性ポリイミド」を削除する。

(4)訂正事項c’
特許請求の範囲の請求項1の「から選ばれる少なくとも1種のポリマー」を、「から選ばれるポリマー」と訂正する。

(5)訂正事項d
特許請求の範囲の請求項1の「(B)γ-ブチロラクトンとN-メチル-2-ピロリドンを含有し且つN-メチル-2-ピロリドンの含有率が0.1?50重量%の範囲にある混合溶媒、」を『(B)γ-ブチロラクトンとN-メチル-2-ピロリドンを含有しそして他の溶媒をさらに含有していてもよく且つこの混合溶媒に対しN-メチル-2-ピロリドンの含有率が0.1?50重量%の範囲にありそして上記他の溶媒の含有率が0?80重量%の範囲にある混合溶媒、』と訂正する。

(6)訂正事項e
特許請求の範囲の請求項2を『【請求項2】他の溶媒がブチルセロソルブまたはエチルセロソルブである請求項1に記載の液晶配向剤。』と訂正する。

(7)訂正事項f
特許請求の範囲の請求項3および4を削除する。

(8)訂正事項g
特許明細書の段落【0004】を『【課題を解決するための手段】 本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、(A)ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオンおよびピロメリット酸二無水物よりなる群から選ばれるテトラカルボン酸二無水物と、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパンおよび2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパンよりなる群から選ばれるジアミンの反応生成物であるポリアミック酸から選ばれるポリマー、および(B)γ-ブチロラクトンとN-メチル-2-ピロリドンを含有しそして他の溶媒をさらに含有していてもよく且つこの混合溶媒に対しN-メチル-2-ピロリドンの含有率が0.1?50重量%の範囲にありそして上記他の溶媒の含有率が0?80重量%の範囲にある混合溶媒、からなりそして印刷法により塗布することを特徴とする液晶配向剤によって達成される。』と訂正する。

(9)訂正事項h
特許明細書の段落【0005】を『本発明の液晶配向剤は特定のポリマー(A)と特定の混合溶媒(B)とからなる。ポリマー(A)のポリアミック酸はテトラカルボン酸二無水物とジアミンを溶媒中で反応させることにより得られる。かかるテトラカルボン酸二無水物は、上記のとおり、ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]-フラン-1,3-ジオン、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸二無水物またはピロメリット酸二無水物である。』と訂正する。

(10)訂正事項i
特許明細書の段落【0007】を『また、ジアミン化合物は、上記のとおり、』と訂正する。

(11)訂正事項j
特許明細書の段落【0008】を削除する。

(12)訂正事項k
特許明細書の段落【0009】を削除する。

(13)訂正事項l
特許明細書の段落【0010】を『p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン 、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパンである。これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。また、これらジアミンは市販品をそのまま使用しても、再還元して使用してもよい。』と訂正する。

(14)訂正事項m
特許明細書の段落【0013】を削除する。

(15)訂正事項n
特許明細書の段落【0014】を『このようにして得られるポリアミック酸の固有粘度[ηinh=(ln ηrel/C、C=0.5g/dl、30℃、N-メチル-2-ピロリドン中、以下同条件にて固有粘度を測定]は、好ましくは0.05?10dl/g、より好ましくは0.05?5dl/gである。』と訂正する。

(16)訂正事項o
特許明細書の段落【0017】の「とするのが好ましい。」を、『である。』と訂正する。

(17)訂正事項o’
特許明細書の段落【0019】を『また、本発明の液晶配向剤は、ポリアミック酸と基板との接着性を改善する目的で、官能性シラン含有化合物を含有することができる。』と訂正する。

(18)訂正事項p
特許明細書の段落【0030】を『合成例3
合成例1において、ジアミンを4,4’-ジアミノジフェニルメタン39.6gとした以外は、合成例1と同様にしてポリアミック酸Ibを得た。』と訂正する。

(19)訂正事項q
特許明細書の段落【0032】を『合成例5
合成例1において、テトラカルボン酸二無水物を1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン60.0gとした以外は合成例1と同様にしてポリアミック酸Idを得た。』と訂正する。

(20)訂正事項r
特許明細書の段落【0035】を『実施例5、7 実施例1において、合成例4、6で得られたポリアミック酸を用い、表1に示す溶剤組成の液晶配向剤を調製した以外は、実施例1と同様にして印刷を行った。面内の膜厚を測定し、結果を表1に示した。』と訂正する。

(21)訂正事項s
特許明細書の段落【0036】の表1を





と訂正する。

第2-2-2.本件訂正の適否について

(1)訂正事項a
訂正事項aは、特許請求の範囲の請求項1の「テトラカルボン酸二無水物」を具体的に特定して限定しようとするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許明細書の段落【0005】、【0006】および実施例1、5、7に根拠を有するものであって、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項b
訂正事項bは、特許請求の範囲の請求項1の「ジアミン」を具体的に特定して限定しようとするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許明細書の段落【0007】、【0010】および実施例1、5、7に根拠を有するものであって、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項c
訂正事項cは、特許請求の範囲の請求項1の「ポリマー」である「ポリアミック酸および可溶性ポリイミド」から「可溶性ポリイミド」を削除して限定しようとするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許明細書の段落【0005】に根拠を有するものであって、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項c’
訂正事項c’は、特許請求の範囲の請求項1の「から選ばれる少なくとも1種のポリマー」から「少なくとも1種の」を削除して、選択の対象となるポリマーが「ポリアミック酸」のみとなったことを明りょうにすることを目的とするものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であって、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項d
訂正事項dは、特許請求の範囲の請求項1の混合溶媒について、N-メチル-2-ピロリドンの含有率の基準を明確にするとともに、含有してもよい他の溶媒の含有率を具体的に特定して限定しようとするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許明細書の段落【0016】、【0017】に根拠を有するものであって、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6)訂正事項eおよびf
訂正事項eおよびfは、上記訂正事項a?dと整合するように、請求項の番号訂正と削除を行うものであるから、明りょうでない記載の釈明ないしは特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であって、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(7)訂正事項g
訂正事項gは、上記訂正事項a?dと整合するように、特許明細書の発明の詳細な説明を訂正しようとするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であって、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(8)訂正事項h
訂正事項hは、上記訂正事項aと整合するように、特許明細書の発明の詳細な説明を訂正しようとするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であって、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(9)訂正事項i?l
訂正事項i?lは、上記訂正事項bと整合するように、特許明細書の発明の詳細な説明を訂正しようとするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であって、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(10)訂正事項m、n、o’、p、q、rおよびs
訂正事項m、n、o’、p、q、rおよびsは、上記訂正事項cと整合するように、特許明細書の発明の詳細な説明を訂正しようとするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であって、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(11)訂正事項o
訂正事項oは、上記訂正事項dと整合するように、特許明細書の発明の詳細な説明を訂正しようとするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であって、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

第2-2-3.むすび
したがって、本件訂正は、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書に適合し、特許法第134条の2第5項において準用する平成6年改正前特許法第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第3.本件発明

特許第3267347号の請求項1及び2に係る発明(以下「本件発明1及び2」という。なお、本件発明1及び2を合わせて「本件発明」といい、本件発明1および2に係る特許を「本件特許1及び2」という。)は、本件手続補正書に添付された訂正明細書(以下、「本件訂正明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】(A)ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオンおよびピロメリット酸二無水物よりなる群から選ばれるテトラカルボン酸二無水物と、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパンおよび2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパンよりなる群から選ばれるジアミンの反応生成物であるポリアミック酸から選ばれるポリマー、および(B)γ-ブチロラクトンとN-メチル-2-ピロリドンを含有しそして他の溶媒をさらに含有していてもよく且つこの混合溶媒に対しN-メチル-2-ピロリドンの含有率が0.1?50重量%の範囲にありそして上記他の溶媒の含有率が0?80重量%の範囲にある混合溶媒、からなりそして印刷法により塗布することを特徴とする液晶配向剤。

【請求項2】他の溶媒がブチルセロソルブまたはエチルセロソルブである請求項1に記載の液晶配向剤。」

第4.当事者の主張

第4-1. 請求人の主張
<主張1>(無効理由1:特許法第29条第2項)
本件訂正前の実施例に係る実験データは、信憑性を欠くものであるので、本件の実施例・比較例についての疑義は、使用するポリマーが「ポリアミック酸」に減縮されたとしても治癒されることはない。また、被請求人は、ポリマーを「ポリアミック酸」に減縮したことにより、甲第1号証は本件を何ら示唆していない旨主張するが、ポリアミック酸と可溶性ポリイミドとは液晶配向膜の形成に使用するポリマーとして互換性があり、同等であることは周知であり、また、甲第2号証の記載によれば、本件発明1及び2に顕著な効果が奏されたとは認められないので、本件発明1及び2は、周知技術および甲第2号証の記載を勘案すれば甲第1号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであると主張し、証拠方法として、下記甲第1?6号証を提出した。(平成17年9月5日付け弁駁書4頁2行?19頁19行)


1.甲第1号証:特開昭61-275352号公報
2.甲第2号証:谷岡 聡・成田 憲昭による「実験成績報告書」
3.甲第3号証の1:青野年治の宣誓書
4.甲第3号証の2:松木真紀子の宣誓書
5.甲第4号証:谷岡 聡・成田 憲昭・藤馬 大亮による「実験成績報告書」
6.甲第5号証:谷岡 聡・成田 憲昭・藤馬 大亮による「実験成績報告書」
7.甲第6号証:谷岡 聡・成田 憲昭・藤馬 大亮による「実験成績報告書」

<主張2>(無効理由2:特許法第36条第5項)
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1には、「γ-ブチロラクトンとN-メチル-2-ピロリドンを含有し且つN-メチル-2-ピロリドンの含有率が0.1?50重量%の範囲にある混合溶媒」と規定されているが、この規定では、混合溶媒がさらに他の溶媒を含有する場合に、「N-メチル2-ピロリドンの含有率0.1?50重量%」は、「他の溶媒も含めた混合溶媒全体」に対するものであるのか、はたまた、「他の溶媒を含めない混合溶媒」に対するものであるのかが明確でなく、したがって、本件の特許請求の範囲の記載は不明瞭であり、特許法第36条第5項の記載要件を満たしていない旨の主張をした。(平成16年2月18日付け無効審判請求書17頁18行?18頁20行)

第4-2. 被請求人の主張
<主張1>(無効理由1について)
甲第1号証は本件発明1及び2に係るポリアミック酸を何ら示唆していないので、本件発明1及び2は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、同記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
また、本件発明1及び2は、実施例・比較例のデータに示されるとおり、予測し得ない格別顕著な効果を奏するものであり、また、甲第2?5号証は、その内容に疑義があるので、本件発明1及び2の進歩性を否定するために無益であることは明らかである。
したがって、本件発明1及び2は、特許出願の際独立して特許を受けることができたものであると主張し、証拠方法として、下記乙第2、3号証を提出した。(本件手続補正書10頁28行?13頁12行)

なお、被請求人の提出に係る、平成16年5月11日付答弁書に添付された乙第1号証の「六鹿 泰顕・清水 成夫による実験成績報告書」は、取り下げられた(被請求人による平成16年8月31日付の上申書第18頁下から2行参照)。

1.乙第2号証:六鹿 泰顕・清水 成夫による「実験成績報告書」
2.乙第3号証:六鹿 泰顕・清水 成夫による「実験成績報告書」


<主張2>(無効理由2について)
本件特許明細書の請求項1の「N-メチル2-ピロリドンの含有率0.1?50重量%」は、γ-ブチロラクトンとN-メチル-2-ピロリドンからなる混合溶媒が、さらに「他の溶媒」を含有する場合に、「他の溶媒」も含めた混合溶媒全体に対する割合であることは明確である旨の主張をした。(平成16年5月11日付け答弁書11頁24行?12頁12行)

第5.当審の判断
無効理由1に係る本件発明1及び2の容易想到性(無効理由1)について検討する前に、本件訂正明細書の特許請求の範囲の記載不備の主張(無効理由2)について検討する。

第5-1. 無効理由2について

訂正がなされたことにより、本件訂正明細書の【請求項1】の記載において、γ-ブチロラクトンとN-メチル-2-ピロリドンを含有する混合溶媒がさらに他の溶媒を含有する場合に、N-メチル-2-ピロリドンの含有率は、「他の溶媒を含めた混合溶媒全体」に対する割合であるとする点が明確となった。したがって、本件訂正明細書の特許請求の範囲の記載が不明瞭であり特許法第36条第5項の規定する記載要件を満たしていない、ということはできない。

第5-2. 無効理由1について

a.甲第1号証(特開昭61-275352号公報)に記載された発明

甲第1号証には、以下の記載がある。

i.「可溶性ポリイミドをラクトン類を含有してなる溶媒に溶解してなる可溶性ポリイミド溶液。」(特許請求の範囲第1項)

ii.「従来の技術 従来、電子部品、たとえばIC、トランジスター、磁気ヘッドなどの層間絶縁膜、太陽電池の絶縁膜、ならびに各種素子の保護膜、α線遮蔽膜および液晶配向膜としてポリイミドが用いられており、中でも可溶性ポリイミドは、ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸化合物を硬化して得られるポリイミドに比べ、溶液とした場合に優れた保存安定性を有し、イミド化のための高温での長時間による処理が不必要であることなどの理由により多用されつつある。」(第1頁左下欄12行?同頁右下欄2行)

iii.「発明が解決しようとする問題点 前記の可溶性ポリイミドの薄膜を形成させる場合、・・・用いる溶媒としては一般的にN-メチル-2-ピロリドン、・・・などのアミド系溶媒が用いられており、これらの溶媒は吸湿性が高く、また吸湿した溶液で基体にコーティングを行うと、コーティング膜が失透する問題を発生する。」(第1頁右下欄3?11行)

iv.「本発明で用いることのできる可溶性ポリイミドとしては、本発明の特定の有機溶剤系に溶解しうるものであれば特に制限はなく、たとえば下記テトラカルボン酸成分(A)と下記ジアミン(B)またはジイソシアネート(C)とを反応させることにより得られるポリイミドの構造を有するポリイミドを挙げることができる。かかるテトラカルボン酸成分(A)としては、ブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸、・・・、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸、・・・、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフリル)-3-メチル-シクロヘキセンジカルボン酸、・・・などのテトラカルボン酸類の無水物を用いた可溶性ポリイミドを挙げることが出来る。」(第2頁左上欄7行?同頁右上欄19行)

v.「前記ジアミン(B)の具体例としては、、パラフェニレンジアミン、・・・、4,4′-ジアミノジフェニルメタン、・・・、4,4′-ジアミノジフェニルエーテル、・・・を挙げることができる。・・・・・・・・。かかるテトラカルボン酸成分(D)としては、前記テトラカルボン酸成分(A)以外にピロメリット酸、・・・などのテトラカルボン酸類の無水物を挙げることができる。・・・これら本発明の可溶性ポリイミドは、例えばテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応から得られるポリアミック酸を経由して製造する場合は、ポリアミック酸を加熱脱水することによるイミド化反応を行うか、あるいは酸無水物共存下などの一般的に公知の化学的イミド化反応を行うことにより製造することができる。」(第3頁左上欄下から4行?第4頁右下欄6行)

vi.「本発明の可溶性ポリイミド溶液は、かかる可溶性ポリイミドにラクトン類を含有してなる溶媒に溶解したものである。 ここで、ラクトン類としては、γ-ブチロラクトン、・・・などを挙げることができ、・・・。また、本発明の可溶性ポリイミド溶液には、アミド類からなる溶媒を併用することが好ましく、アミド類としてはN-メチル-2-ピロリドン、・・・などを挙げることができる。アミド類を併用する場合の溶媒中のラクトン類の組成は、5?95重量部、好ましくは10?90重量部であり、アミド類の組成は、5?95重量部、好ましくは10?90重量部である。」(第5頁右上欄14行?同頁左下欄16行)

vii.「なお、本発明の可溶性ポリイミド溶液は、前記特定の溶媒の他にその他の一般的有機溶媒である・・・エチレングリコールエチルエーテル、・・・エチレングリコールn-ブチルエーテル・・・なども前記特定の可溶性ポリイミドを溶解させる溶媒に該可溶性ポリイミドを析出させない程度混合して用いることができる。このようにして調製される本発明の可溶性ポリイミド溶液は、基材にロールコーター法、スピンナー法、印刷法などで塗布し、次いで例えば80?250℃、5?180分乾燥することによって可溶性ポリイミドの塗膜を形成することができる。」(第5頁右下欄4行?第6頁左上欄15行)

viii.「参考例1 ジアミノジフェニルエーテル(DDE)・・・を、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)・・・に溶解した後、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物(TCA・AH)・・・を粉末のまま加えて攪拌しながら25℃で反応させた。・・・ポリアミック酸が0.5g/100mlの濃度になるようにDMFを加えて固有粘度(30℃)を測定した。・・・次いで、前記反応液に更にDMFを加えてポリアミック酸溶液を6.1重量%とした溶液30gを100mlのフラスコに移し、この溶液に無水酢酸1.32gおよびピリジン1.02gを順次加えて混合、攪拌した後、135℃で2時間反応させた。次いで反応生成物を大量のメタノールに注いで可溶性ポリイミドを凝固し回収した後、80℃で一晩乾燥した。・・・これにより、無水酢酸とピリジンの存在下でポリアミック酸溶液を加熱反応させることにより、可溶性ポリイミドが得られることが分かる。」(第6頁左上欄20行?同頁左下欄11行)

ix.「実施例1 参考例1で得られた可溶性ポリイミドをγ-ブチロラクトン/N,N-ジメチルアセトアミド=80/20(重量比)からなる混合溶媒を用いて5重量%のポリイミド溶液を調製した。得られた溶液を孔径0.22μmのメンブランフィルターで濾過し、不溶分を除去した。この溶液をガラス基板上にスピンナーを用いて2,000rpm、60秒の条件で塗布したところ、基板上にはじきもなく均一に塗布することができた。塗布後、150℃で1時間クリーンオーブン中で乾燥させた。乾燥後のポリイミド塗膜は、干渉縞、斑点、ストリエーションもなく、均一であった。」(第7頁左上欄1?15行)

x.「実施例7 実施例1で用いた混合溶媒の組成をγ-ブチロラクトン/N-メチル-2-ピロリドン=40/60(重量比)に代え、実施例1と同様にスピンコーティング、乾燥を行った。得られた塗膜は、透明で均一なものであった。」(第7頁右下欄8?13行)

xi.「発明の効果 本発明によれば、可溶性ポリイミドと特定の有機溶媒からなる溶液は、吸湿しても塗膜の失透がなく、スピンコーティングによる塗膜表面も斑点、ストリエーションなどもなく、均一な塗膜を形成することができる。従って本発明の可溶性ポリイミド溶液は、・・・液晶配向膜に好適に用いることができ、・・・、ITO透明電極のコーティング用素材として特に優れた性能を発揮するものである。」(第8頁右下欄1?16行)

以上によれば、甲第1号証の「可溶性ポリイミドをラクトン類を含有してなる溶媒に溶解してなる可溶性ポリイミド溶液」(摘記事項i)は「液晶配向剤に好適に用いることができ」(同xi)ることが把握でき、同様に上記「可溶性ポリイミド」は、「ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物およびピロメリット酸二無水物などよりなる群から選ばれるテトラカルボン酸成分とp-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタンおよび4,4’-ジアミノジフェニルエーテルなどよりなる群から選ばれるジアミンとを反応させることにより得られるもの」であること(同iv、v)、上記「ラクトン類を含有してなる溶媒」は、「γ-ブチロラクトン」であること(同vi)、また、「N-メチル-2-ピロリドンなどのアミド類を併用することが好ましく」(同vi)、その場合の「アミド類の組成は、5?95重量部」であること(同vi)、「可溶性ポリイミド」は、「印刷法で塗布すること」(同vii)、がそれぞれ把握できる。

したがって甲第1号証には、
「ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物およびピロメリット酸二無水物などよりなる群から選ばれるテトラカルボン酸成分と、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタンおよび4,4’-ジアミノジフェニルエーテルなどよりなる群から選ばれるジアミンの反応生成物である可溶性ポリイミド、およびγ-ブチロラクトンとN-メチル-2-ピロリドンを含有し且つN-メチル-2-ピロリドンの組成が5?95重量部の範囲にある混合溶媒からなり、印刷法により塗布することよりなる液晶配向剤。」の発明(以下、「引用例発明」という。)が記載されていると認める。

b.本件発明の進歩性欠如の理由

(1)本件発明1について

本件発明1と引用例発明を対比すると、
引用例発明の「テトラカルボン酸成分」、「ジアミン」及び「N-メチル-2-ピロリドンの組成」は、本件発明1の「テトラカルボン酸二無水物」、「ジアミン」及び「N-メチル-2-ピロリドンの含有率」にそれぞれ相当する。
また、引用例発明の「重量部」は、ラクトン類とアミド類からなる混合溶媒全体を100部とした場合のアミド類の重量部であるから(摘記事項vi)、「重量%」を意味することは明らかである。
したがって両者は、下記の一致点で一致し、下記の相違点で相違する。

一致点:(A)ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物およびピロメリット酸二無水物よりなる群から選ばれるテトラカルボン酸二無水物と、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタンおよび4,4’-ジアミノジフェニルエーテルよりなる群から選ばれるジアミンの反応生成物であるポリマー、および(B)γ-ブチロラクトンとN-メチル-2-ピロリドンを含有し且つN-メチル-2-ピロリドンの含有率が5?50重量%の範囲にある混合溶媒、からなりそして印刷法により塗布することよりなる液晶配向剤。

相違点:上記テトラカルボン酸二無水物とジアミンの反応生成物である「ポリマー」が、引用例発明では、「可溶性ポリイミド」であるのに対して、本件発明1では「ポリアミック酸」である点。

上記相違点について検討する。
「ポリアミック酸」は「可溶性ポリイミド」のイミド化前駆体であり(「液晶デバイスハンドブック」(日刊工業新聞社1989年9月29日発行)248頁、256頁参照。なお、当該文献は、請求人が提出した弁駁書に添付された甲第8号証である。)、「可溶性ポリイミド」が、ポリイミド配向膜の形成に用いられるのであれば、その前駆体である「ポリアミック酸」も、同様に、ポリイミド配向膜の形成に用いられることは周知であるから(例えば、特開平1-239526号公報、特開平1-214821号公報、特開平2-173614号公報、特開平2-291527号公報、特開平2-287324号公報の各実施例参照。なお、当該文献は、同弁駁書に添付された甲第9?13号証である。)、引用例発明において、「可溶性ポリイミド」をポリイミド配向膜の形成に用いることが知られているとき、そのイミド化前駆体である「ポリアミック酸」をポリイミド配向膜の形成に用いて本件発明1とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

<本件発明1が奏する効果について>
本件発明1が奏する効果は、以下に述べるように、甲第1号証から当業者が当然予測し得る程度のものに過ぎず、また、引用例発明と比較して、格別顕著な効果を奏するものともいえない。

1.膜厚のバラツキについて
本件発明1の効果は、本件発明1に係る液晶配向剤の印刷時の膜厚ムラ(膜厚のバラツキ)が少ない、ということにある(本件訂正明細書【0039】)。これに対して、甲第1号証においても、液晶配向剤を塗布して得られた塗膜には、斑点、ストリエーション(スジ状の凹凸)などがなく、均一な塗膜を形成することができる旨の効果を奏することが示されている(甲第1号証の摘記事項x、xi)。

この効果の差異について被請求人は、「甲第1号証に係る発明の効果は、膜厚のバラツキなどとは全く関係がなく、塗膜の表面の均一性(いうまでもなく、干渉縞、斑点、ストリエーションは表面状態に関する特性である)についてのものである。それ故、甲第1号証には、本件発明の効果と全く異なる異質の効果が記載されているにすぎず、しかも本件特許発明の効果は当業者が決して予測しうるものでもない。」と主張するが(平成16年5月11日付答弁書5頁4?21行)、引用例発明においても干渉縞、斑点、ストリエーション(スジ状の凹凸)等が発生して塗膜の表面が均一でなくなれば、膜厚ムラが生じるのは当然予期し得るところであるから、被請求人の主張は採用するに足らないものであって、本件発明1の効果は、引用例発明に対して、格別顕著なものとは云えない。

2.被請求人の数値限定に係る主張について
2.1 数値限定に関し、被請求人は、「甲第1号証は、特定のテトラカルボン酸二無水物と特定のジアミンの反応生成物であるポリアミック酸と、特定の組成と含有割合を規定した混合溶媒を用いた液晶配向剤を印刷法により塗布すること、について具体的に触れるところはなく、本件訂正明細書の実施例1、5、7ならびに審査段階での平成13年4月17日付け意見書中に示した実施例8、9、10および比較例3の各データに示されているとおり、ポリアミック酸のみに限定された請求項1に係る発明においても、N-メチル-2-ピロリドンの含有率が0.1?50重量%において印刷時の膜厚ムラが小さいという臨界的効果を奏する。また、甲第2?5号証は、その内容に疑義があり、甲第1号証がポリアミック酸を何ら示唆していない状況では、本件発明1の進歩性を否定するための証拠としては無益である。」旨、主張する(本件手続補正書10頁28行?11頁23行、13頁3?12行)。

2.2 そこで、「本件発明1はN-メチル-2-ピロリドンの含有率が0.1?50重量%において印刷時の膜厚ムラが小さいという臨界的効果を奏するか否か」について以下に検討する。

2.2.1 本件訂正明細書の実施例1、5、7に記載された実験データは、本件訂正前の本件特許明細書の実施例1?8の記載から摘出したものであるが、この特許明細書の実施例に記載されたデータは、以下に示すように、そのデータ自体に疑義が有るから、この実施例の記載から摘出した本件訂正明細書の実施例1、5および7の記載も、同様に信憑性を欠くと云うべきである。

即ち、本件特許明細書の実施例1?8においては、各液晶配向剤ごとの膜厚バラツキ値に膜厚平均値が併記されているが、その平均値の何れもが「600Å」であるというのは不自然であり、信憑性がない。なぜなら、従来、可溶性ポリイミド溶液を印刷法などで基板上に塗布する場合、わずかな印刷条件の違いにより、膜厚平均値は変動するのが常であって、上記実施例において、ポリマーと溶媒の何れかが相違する各液晶配向剤について、その膜厚平均値のすべてが1Åの狂いもなく「600Å」というのは、如何なる製造方法、試験方法を採用したにせよ合理的な説明が付かない。
また、この点については口頭審理の場で、当審から被請求人に、どのような理由でそのような膜厚平均値となったかを尋ねたところ、被請求人から納得できる説明はなされなかった。
さらに、被請求人自身の提出に係る乙第2、3号証の実験報告書においては、ポリマーと溶媒の何れかが相違する複数の液晶配向剤についての膜厚平均値は、366Å?520Å若しくは482Å?608Åと、ばらついており(乙第2号証の表E、乙第3号証の表a,b)、不自然さはないことからみても、実施例1?8の「膜厚平均値」に係るデータが不自然であることが分かる。
そして、上記「膜厚平均値」は「膜厚バラツキ値」を算出する際の基礎データとなるのであるから(上記答弁書第9頁19行?第10頁14行)、実施例1?8の「膜厚バラツキ値」に係るデータについても信憑性がないことになる。

また、実施例8、9、10および比較例3の各記載についても、それらの「膜厚平均値」はいずれも「600Å」であることから(本件特許の査定不服審判における平成13年4月17日付け審判請求書および審査段階における平成12年7月19日付け意見書参照)、同様の理由で信憑性を認められない。

そうしてみると、「本件発明1はN-メチル-2-ピロリドンの含有率が0.1?50重量%において印刷時の膜厚ムラが小さいという臨界的効果を奏する」旨の被請求人の主張は、その根拠となる本件訂正明細書の実施例1、5、7、さらには実施例8、9、10および比較例3の各記載が信憑性を欠くものであるから、これを採用することができない。

2.2.2 因みに、被請求人は、本件手続補正書において、本件特許明細書の実施例の各液晶配向剤の膜厚平均値のすべてが「600Å」である点について、以下のように釈明している(同書11頁24行?13頁2行)。

「(i)実施例におけるすべての膜厚平均値が600Åというのは、実測膜厚の平均値であって、特別の製造方法や試験方法を採用して求めたものではない。
(ii)塗膜形成手順は、液晶配向剤塗布液を準備し、塗布用印刷機により吐出量を変えて塗布し、吐出量と塗膜膜厚との関係を把握し、この関係からほぼ600Åの膜厚平均値を与える吐出量を推定し、その吐出量で同様な塗布を数回繰返すという手順を行うことにより、膜厚平均値が600Åの塗膜が形成される。
(iii)得られた塗膜の膜厚測定には、本件特許の出願当時(1992年)に市販されていた触針式膜厚計が用いられた。この膜厚計は膜厚の変動を曲線として表示するものであり、また膜厚分解能が5Åであったので、測定された膜厚は、読み取る際の読み取り誤差を避けられず、また5Åという膜厚分解能の下での膜厚であるため、5Åを1単位として表示するのがせいぜいで、5Åよりも小さい膜厚の表示は意味のないものであった。そして、膜面内5ヶ所において測定された膜厚の平均値が膜厚平均値となるが、その平均値についても、5Åよりも小さい値は意味がないから、5Å単位で表示される。従って、この平均値を基礎として求められる膜厚ムラ(バラツキ)も5Åを1単位としており、この膜厚計により測定された膜厚平均値として600Åを示す塗膜を形成することは、さほど困難なことではない。
(iv)なお、乙第2、3号証の実験報告書においては、ことさら膜厚平均値が600Åとなるような手順を行わなかったし、また膜厚測定は、より精度の高い触針式膜厚計(膜厚分解能1Å)を用いて行ったので、膜圧平均値はばらついており、また数値も1Å単位で表示されている。従って、乙2、3号証のデータから実施例のデータが不自然であると判断することはできない。」

しかしながら、仮に、本件発明1に係る「膜厚平均値」の測定法が上記のとおりであったとしても、本件特許明細書の実施例の各液晶配向剤の膜厚平均値のすべてが揃って「600Å」というのは、不自然で、合理的理由を欠くものである。
即ち、被請求人自身に係る、本件特許出願より後の液晶配向剤関連の出願明細書においては、液晶配向剤を印刷法によりガラス基板上の透明電極面に塗布した場合の「膜厚平均値」は、例外なく数10?数100Åの単位でばらついているものばかりであり、特定の膜厚平均値に揃っている例は見当らない(例えば、特開平8-262450号公報、特開平8-325573号公報、特開平9-90367号公報、特開平9-265096号公報の各【表1】参照)。そして、上記公報における実施例で使用されている膜厚計の分解能は、それらの膜厚平均値からみて、5Åであるのは明らかである。
これらの点に鑑みると、ポリマーと溶媒の何れかが相違する液晶配向剤を印刷法によりガラス基板上の透明電極面に塗布した場合の膜厚平均値は、本件出願より後の出願明細書の実施例においてさえ、数10?数100Åの単位でばらついているのが通常であるので、それより以前の本件出願当時の技術水準においては、それが特定の値(600Å)に揃うことはあり得ないと云うべきである。
したがって、本件訂正明細書の実施例の記載は、信憑性を欠くものと云う他はない。

3.まとめ
以上のように、本件発明1は、その効果を確認するための実施例の記載が信憑性を欠くものであるので、本件発明1の奏する効果は格別なものではなく、甲第1号証及び周知技術から予測し得る程度のものと云うべきである。
よって、甲第2?6号証についての検討を待つまでもなく、本件発明1は、引用例発明および周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1に係る「混合溶媒」の構成成分である「γ-ブチロラクトンとN-メチル-2-ピロリドンと他の溶媒」のうち、「他の溶媒」が「ブチルセロソルブまたはエチルセロソルブ」である旨を限定したものであるが、そもそも「他の溶媒」は含有率が0?80重量%であるから、所謂「任意成分」に過ぎないものであるので、本件発明2と引用例発明は、上記(1)の「一致点」で一致し、上記(1)の「相違点」で相違している。

したがって、本件発明2は、上記(1)に記載したと同様の理由により、引用例発明および周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、請求人は上記弁駁書において、本件特許明細書の実施例の実験データに疑義がある以上は、訂正によって如何に請求の範囲を限定したところで、実施例・比較例が信憑性を欠くことに変わりはなく、よって、本件訂正明細書は、本件発明の効果について当業者が容易に実施できる程度に記載されていないので、特許法第36条の記載要件を満たしていない、旨の主張も行っている(上記弁駁書22頁12?18行、4頁3行?7頁28行)。

そこで、念のため、この点についても検討すると、本件訂正明細書の実施例の記載は、本件訂正前の本件特許明細書の実施例1?8の記載から摘出したものであって、この特許明細書の実施例に記載されたデータは、前述したように、そのデータ自体に疑義が有るから、この実施例の記載から摘出した本件訂正明細書の実施例1、5および7の記載も、その内容に信憑性を欠くものと認められる(前記第5-2.のb(1)の2.2参照)。
したがって、本件訂正明細書は、本件訂正発明の効果について、当業者が容易にその実施をすることができる程度に記載されておらず、特許法第36条第4項の規定する記載要件を満たしていないので、本件特許1及び2は、特許法第29条第2項の規定違反以外の瑕疵をも有するものである。

第6.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1及び2は、甲第1号証に記載された発明および周知技術に基づいて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許1及び2は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

したがって、本件特許1及び2は、特許法第123条第1項第2号の規定により、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
液晶配向剤
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(A)ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオンおよびピロメリット酸二無水物よりなる群から選ばれるテトラカルボン酸二無水物と、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパンおよび2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパンよりなる群から選ばれるジアミンの反応生成物であるポリアミック酸から選ばれるポリマー、および(B)γ-ブチロラクトンとN-メチル-2-ピロリドンを含有しそして他の溶媒をさらに含有していてもよく且つこの混合溶媒に対しN-メチル-2-ピロリドンの含有率が0.1?50重量%の範囲にありそして上記他の溶媒の含有率が0?80重量%の範囲にある混合溶媒、からなりそして印刷法により塗布することを特徴とする液晶配向剤。
【請求項2】他の溶媒がブチルセロソルブまたはエチルセロソルブである請求項1に記載の液晶配向剤。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は液晶配向剤に関する。さらに詳しくは印刷時の塗布性が良好な液晶配向剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、正の誘電異方性を有するネマチック型液晶を、ポリイミドなどからなる液晶配向膜を有する透明電極付き基板でサンドイッチ構造にし、液晶分子の長軸が基板間で90?270度連続的に捻れるようにしてなるTN、STN型液晶セルを有する液晶表示素子(TN、STN型表示素子)が知られている。このTN、STN型液晶表示素子における液晶の配向は、ラビング処理が施された液晶配向膜により形成されている。この液晶配向膜は印刷法を用いて塗布されるが、印刷時の膜厚ムラが大きいと、具体的には膜厚として±50Å以上のバラツキがあると、表示特性、電気特性に影響を及ぼすという問題がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は新規組成の液晶配向剤を提供することにある。
本発明の他の目的は、前記従来の問題点を解決して、印刷時の膜厚ムラの小さい液晶配向剤を提供することにある。
本発明のさらの他の目的および利点は以下の説明から明らかとなろう。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、
(A)ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオンおよびピロメリット酸二無水物よりなる群から選ばれるテトラカルボン酸二無水物と、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパンおよび2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパンよりなる群から選ばれるジアミンの反応生成物であるポリアミック酸から選ばれるポリマー、および(B)γ-ブチロラクトンとN-メチル-2-ピロリドンを含有しそして他の溶媒をさらに含有していてもよく且つこの混合溶媒に対しN-メチル-2-ピロリドンの含有率が0.1?50重量%の範囲にありそして上記他の溶媒の含有率が0?80重量%の範囲にある混合溶媒、からなりそして印刷法により塗布することを特徴とする液晶配向剤によって達成される。
【0005】
本発明の液晶配向剤は特定のポリマー(A)と特定の混合溶媒(B)とからなる。ポリマー(A)のポリアミック酸はテトラカルボン酸二無水物とジアミンを溶媒中で反応させることにより得られる。
かかるテトラカルボン酸二無水物は、上記のとおり、ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]-フラン-1,3-ジオン、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸二無水物またはピロメリット酸二無水物である。
【0006】
これらのうちではブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]-フラン-1,3-ジオンが好ましい。
【0007】
また、ジアミン化合物は、上記のとおり、
【0008】
【0009】
【0010】
p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパンである。これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。また、これらジアミンは市販品をそのまま使用しても、再還元して使用してもよい。
【0011】
反応に用いられる上記有機溶媒としては、反応で生成するポリアミック酸を溶解しうるものであれば特に制限はない。例えばγ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドンが好ましく用いられる。有機溶媒の使用量は、テトラカルボン酸二無水物および全ジアミン化合物の総量が、反応溶液の全量に対して0.1?30重量%になるようにするのが好ましい。また、この際の反応温度は、好ましくは0?150℃、より好ましくは0?100℃の反応温度で行われる。
【0012】
テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物の使用割合は、ジアミン化合物中のアミノ基1当量に対してテトラカルボン酸二無水物の酸無水物基を0.2?2当量とするのが好ましく、より好ましくは0.3?1.2当量である。
【0013】
【0014】
このようにして得られるポリアミック酸の固有粘度[ηinh=(ln ηrel/C、C=0.5g/dl、30℃、N-メチル-2-ピロリドン中、以下同条件にて固有粘度を測定]は、好ましくは0.05?10dl/g、より好ましくは0.05?5dl/gである。
【0015】
なお、反応媒体としての前記有機溶媒には、貧溶媒であるアルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素類、炭化水素類を生成する重合体が析出しない程度に併用することができる。かかる貧溶媒としては、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、トリエチレングリコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、シュウ酸ジエチル、マロン酸ジエチル、ジエチルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコール-n-プロピルエーテル、エチレングリコール-i-プロピルエーテル、ブチルセロソルブ、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、1,4-ジクロロブタン、トリクロロエタン、クロルベンゼン、o-ジクロルベンゼン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどを挙げることができる。
【0016】
本発明の液晶配向剤は、γ-ブチロラクトンとN-メチル-2-ピロリドンを含有し且つN-メチル-2-ピロリドンの含有率が0.1?50重量%、好ましくは1?40重量%の範囲にある混合溶媒(B)を含有する。N-メチル-2-ピロリドンの含有率が0.1重量%未満では、膜厚のバラツキが±50Åを超えてしまい、また、N-メチル-2-ピロリドンの含有率が50重量%を超えると膜白化による膜厚ムラが逆に大きくなってしまう。
【0017】
本発明における混合溶媒(B)は、γ-ブチロラクトンとN-メチル-2-ピロリドンの他に、必要に応じ、他の溶媒を含有することができる。かかる他の溶媒の含有率は混合溶媒(B)全体の約80重量%以下である。
【0018】
かかる他の溶媒としては、例えばN,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルアミドなどの非プロトン系極性溶媒;m-クレゾール、キシレノール、フェノール、ハロゲン化フェノールなどのフェノール系溶媒;前述のアルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素類、炭化水素類を挙げることができる。
【0019】
また、本発明の液晶配向剤は、ポリアミック酸と基板との接着性を改善する目的で、官能性シラン含有化合物を含有することができる。
【0020】
官能性シラン含有化合物としては、例えば3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、2-アミノプロピルトリメトキシシラン、2-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N-エトキシカルボニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-エトキシカルボニル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-トリエトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、N-トリメトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、10-トリメトキシイシリル-1,4,7-トリアザデカン、10-トリエトキシシリル-1,4,7-トリアザデカン、9-トリメトキシシリル-3,6-ジアザノニルアセテート、9-トリエトキシシリル-3,6-ジアザノニルアセテート、N-ベンジル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-ベンジル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル|3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-ビス(オキシエチレン)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-ビス(オキシエチレン)-3-アミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0021】
本発明の液晶配向剤を用いて得られる液晶表示素子は、例えば次の方法によって製造することができる。
まず、透明導電膜が設けられた基板の透明導電膜側に、本発明の液晶配向剤を印刷により塗布し、好ましくは80?200℃、より好ましくは120?200℃の温度で加熱して塗膜を形成させる。この塗膜は、通常、0.001?1μm、好ましくは0.005?0.5μmである。
【0022】
上記の様に形成された塗膜は、ナイロンなどの合成繊維からなる布を巻き付けたロールでラビング処理を行うことにより、液晶配向膜とされる。
上記基板としては、例えばフロートガラス、ソーダガラスなどのガラス、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネートなどのプラスチックフィルムなどからなる透明基板を用いることができる。
【0023】
上記透明導電膜としては、SnO2からなるNESA膜、In2O3-SnO2からなるITO膜などを用いることができ、これらの透明導電膜のパターニングには、フォト・エッチング法、予めマスクを用いる方法などが用いられる。
液晶配向剤の塗布に際しては、基板および透明導電膜と塗膜との接着性をさらに良好にするために、基板および透明導電膜上に、予め官能性シラン含有化合物、チタネートなどを塗布することもできる。
【0024】
液晶配向膜が形成された基板は、その2枚を液晶配向膜をラビング方向が直交または逆平行となるよう対向させ、基板の間の周辺部をシール剤でシールし、液晶を充填し、充填孔を封止して液晶セルとし、その両面に偏光方向がそれぞれ基板の液晶配向膜のラビング方向と一致または直交するように張り合わせることにより液晶表示素子とされる。
【0025】
上記シール剤としては、例えば硬化剤およびスペーサーとしての酸化アルミニウム球を含有したエポキシ樹脂などを用いることができる。
上記液晶としては、ネマティック型液晶、スメクティック型液晶、その中でもネマティック型液晶を形成させるものが好ましく、例えばシッフベース系液晶、アゾキシ系液晶、ビフェニル系液晶、フェニルシクロヘキサン系液晶、エステル系液晶、ターフェニル系液晶、ビフェニルシクロヘキサン系液晶、ピリミジン系液晶、ジオキサン系液晶、ビシクロオクタン系液晶、キュバン系液晶などが用いられる。また、これらの液晶に、例えばコレステリルクロライド、コレステリルノナエート、コレステリルカーボネートなどのコレステリック液晶や商品名C-15、CB-15(Merck Ltd.)として販売されているようなカイラル剤などを添加して使用することもできる。さらに、p-デシロキシベンジリデン-p-アミノ-2-メチルブチルシンナメートなどの強誘電性液晶も使用することができる。
【0026】
液晶セルの外側に使用される偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながら、ヨウ素を吸収させたH膜と呼ばれる偏光膜を酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板、またはH膜そのものからなる偏光板などを挙げることができる。
【0027】
【実施例】
以下、本発明を実施例により、さらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
なお、液晶配向膜の膜厚は、触針式の膜厚計(アルファステップ)を用いて測定し、液晶配向膜塗布面での膜厚とそのバラツキを評価した。
【0028】
合成例1
2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物44.8gおよびp-フェニレンジアミン21.6gをγ-ブチロラクトン/N-メチル-2-ピロリドン=50/50(重量比)988gに溶解させ、室温で6時間反応させた。
次いで、反応混合物を大過剰のメタノールに注ぎ、反応生成物を沈澱させた。その後、メタノールで洗浄し、減圧下40℃で15時間乾燥させて、固有粘度1.44dl/gのポリアミック酸Ia60.2gを得た。
【0029】
合成例2
合成例1で得られたポリアミック酸Ia30.0gを570gのγ-ブチロラクトンに溶解し、21.6gのピリジンと16.74gの無水酢酸を添加し、120℃で3時間イミド化反応反応をさせた。
次いで、反応生成液を合成例1と同様に沈澱させ、固有粘度1.35dl/gのポリイミドIIa24.0gを得た。
【0030】
合成例3
合成例1において、ジアミンを4,4’-ジアミノジフェニルメタン39.6gとした以外は、合成例1と同様にしてポリアミック酸Ibを得た。
【0031】
合成例4
合成例1において、テトラカルボン酸二無水物をシクロブタンテトラカルボン酸二無水物39.22gとした以外は合成例1と同様にして、固有粘度1.26dl/gポリアミック酸Ic50.5gを得た。
【0032】
合成例5
合成例1において、テトラカルボン酸二無水物を1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン60.0gとした以外は合成例1と同様にしてポリアミック酸Idを得た。
【0033】
合成例6
合成例1において、テトラカルボン酸二無水物をピロメリット酸二無水物43.6gとした以外は合成例1と同様にして、固有粘度1.66dl/gポリアミック酸Ie60.5gを得た。
【0034】
実施例1
合成例1で得られた重合体Iaをγ-ブチロラクトン/N-メチル-2-ピロリドン(=95/5、重量比)に溶解させて、固形分濃度5重量%の溶液とし、この溶液を孔径1μmのフィルターで濾過し、液晶配向剤溶液を調製した。
この溶液を、液晶配向膜塗布用印刷機を用いて、ITO膜からなる透明電極付きガラス基板の上に透明電極面に塗布し、180℃で1時間乾燥した。
触針式膜厚計を用いて、面内の膜厚を測定したところ、平均値は600Å、バラツキは±25Åと均一な膜厚が得られた。
【0035】
実施例5、7
実施例1において、合成例4、6で得られたポリアミック酸を用い、表1に示す溶剤組成の液晶配向剤を調製した以外は、実施例1と同様にして印刷を行った。面内の膜厚を測定し、結果を表1に示した。
【0036】
【表1】

【0037】
比較例1
合成例2で得られた可溶性ポリイミドIIaを用い、溶媒をγ-ブチロラクトンとした以外は、実施例1と同様にして印刷を行ったところ、面内の膜厚の平均値は610Å、バラツキは±80Åと大きいものであった。
【0038】
比較例2
合成例2で得られた可溶性ポリイミドIIaを用い、溶媒をN-メチル-2-ピロリドンとした以外は、実施例1と同様にして印刷を行ったところ、面内の膜厚の平均値は600Å、バラツキは±120Åと大きいものであった。
【0039】
【発明の効果】
本発明の液晶配向剤によれば、印刷時の膜厚ムラの少ない、特にTN、STN型液晶表示素子用として好適な液晶配向膜が得られる。
また、本発明の液晶配向剤を用いて形成した液晶配向膜を有する液晶表示素子は、使用する液晶を選択することにより、SH(Super Homeotropic)、強誘電性、反強誘電性液晶表示素子にも好適に使用することができる。
さらに、本発明の液晶配向剤を用いて形成した配向膜を有する液晶表示素子は、液晶の配向性および信頼性に優れ、種々の装置に有効に使用でき、例えば卓上計算機、腕時計、置時計、係数表示板、ワードプロセッサ、パーソナルコンピューター、液晶テレビなどの表示装置に用いられる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2006-01-18 
結審通知日 2005-02-04 
審決日 2006-02-07 
出願番号 特願平4-289102
審決分類 P 1 112・ 531- ZA (G02F)
P 1 112・ 534- ZA (G02F)
P 1 112・ 121- ZA (G02F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 右田 昌士  
特許庁審判長 向後 晋一
特許庁審判官 吉田 禎治
平井 良憲
登録日 2002-01-11 
登録番号 特許第3267347号(P3267347)
発明の名称 液晶配向剤  
代理人 大島 正孝  
代理人 吉見 京子  
代理人 藤野 清規  
代理人 後藤 さなえ  
代理人 藤野 清也  
代理人 大島 正孝  

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