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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  B23K
管理番号 1146970
審判番号 無効2005-80166  
総通号数 85 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-07-10 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-05-31 
確定日 2006-04-14 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3408805号発明「加工対象物切断方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
1.本件特許第3408805号の請求項1ないし37に係る発明についての出願は、平成13年9月13日に優先権主張(優先日、平成12年9月13日)を伴って出願されたものであって、平成15年3月14日にそれらの発明について特許権の設定登録がなされた。
2.平成15年11月14日に申立人是澤勝より、平成15年11月19日に申立人進藤敬司より、それぞれ、特許異議の申立てがなされ、平成16年12月28日に訂正請求がなされ、平成17年2月4日に、「訂正を認める。特許第3408805号の請求項1ないし37に係る特許を維持する。」との、異議の決定がなされ、当該決定は平成17年3月22日に確定登録された。
3.平成17年5月31日に、請求人白澤榮樹より「特許第3408805号の請求項1ないし6及び11ないし37に係る発明についての特許を無効にする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求める無効審判請求がなされた。
4.平成17年11月16日付けで、被請求人に対して審尋がなされた。
5.平成17年12月20日付けで、請求人より弁駁書が提出された。
6.被請求人より、平成17年8月15日付けで答弁書及び訂正請求書が、平成17年12月6日付けで審尋回答書が、平成18年1月10日に口頭審理陳述要領書が、それぞれ、提出された。
6.平成18年1月24日に、第1回口頭審理が行われた。

第2.訂正請求について
(1)訂正請求の内容
上記平成17年8月15日付け訂正請求の内容は、以下のとおりである。
・訂正事項1:【請求項1】に、「ウェハ状の加工対象物」とあるのを、「半導体材料からなるウェハ状の加工対象物」と訂正する。
・訂正事項2:【請求項2】に、「ウェハ状の加工対象物」とあるのを、「半導体材料からなるウェハ状の加工対象物」と訂正する。
・訂正事項3:【請求項3】に、「ウェハ状の加工対象物」とあるのを、「半導体材料からなるウェハ状の加工対象物」と訂正する。
・訂正事項4:【請求項4】に、「ウェハ状の加工対象物」とあるのを、「半導体材料からなるウェハ状の加工対象物」と訂正する。
・訂正事項5:【請求項12】を削除する。
・訂正事項6:【請求項13】を削除する。
・訂正事項7:【請求項14】を削除する。
・訂正事項8:【請求項15】を、【請求項12】とし、「請求項1?14のいずれかに記載の加工対象物切断方法」とあるのを、「請求項1?11のいずれかに記載の加工対象物切断方法」と訂正する。
・訂正事項9:【請求項16】を、【請求頃13】とし、「請求項1?15のいずれかに記載の加工対象物切断方法」とあるのを、「請求項1?12のいずれかに記載の加工対象物切断方法」と訂正する。
・訂正事項10:【請求項17】を、【請求項14】とし、「請求項1?16のいずれかに記載の加工対象物切断方法」とあるのを、「請求項1?13のいずれかに記載の加工対象物切断方法」と訂正する。
・訂正事項11:【請求項18】を、【請求項15】と訂正する。
・訂正事項12:【請求項19】を削除する。
・訂正事項13:【請求項20】を、【請求項16】とし、「請求項1?19のいずれかに記載の加工対象物切断方法」とあるのを、「請求項1?15のいずれかに記載の加工対象物切断方法」と訂正する。
・訂正事項14:【請求項21】を、【請求項17】とし、「請求項20記載の加工対象物切断方法」とあるのを、請求項16記載の加工対象物切断方法」と訂正する。
・訂正事項15:【請求項22】を、【請求項18】と訂正する。
・訂正事項16-1:【請求項23】を、【請求項19】とする。
・訂正事項16-2:【請求項23】に、「ウェハ状の加工対象物」とあるのを、「半導体材料からなるウェハ状の加工対象物」と訂正する。
・訂正事項17:【請求項24】を、【請求項20】とし、「請求項23記載の」とあるのを、「請求項19記載の」と訂正する。
・訂正事項18-1:【請求項25】を、【請求項21】とする。
・訂正事項18-2:【請求項25】に、「ウェハ状の加工対象物」とあるのを、「半導体材料からなるウェハ状の加工対象物」と訂正する。
・訂正事項19:【請求項26】を、【請求項22】とし、「請求項25記載の」とあるのを、「請求項21記載の」と訂正する。
・訂正事項20-1:【請求項27】を、【請求項23】とする。
・訂正事項20-2:【請求項27】に、「ウェハ状の加工対象物」とあるのを、「半導体材料からなるウェハ状の加工対象物」訂正する。
・訂正事項21:【請求項28】を、【請求項24】とし、「請求項27記載の」とあるのを、「請求項23記載の」と訂正する。
・訂正事項22-1:【請求項29】を、【請求項25】とする。
・訂正事項22-2:【請求項29】に、「ウェハ状の加工対象物」とあるのを、「半導体材料からなるウェハ状の加工対象物」と訂正する。
・訂正事項23:【請求項30】を【請求項26】とし、「請求項29記載の」とあるのを、「請求項25記載の」と訂正する。
・訂正事項24:【請求項31】を【請求項27】と訂正する。
・訂正事項25:【請求項32】を【請求項28】とし、「請求項31記載の」とあるのを、「請求項27記載の」と訂正する。
・訂正事項26:【請求項33】を削除する。
・訂正事項27:【請求項34】を削除する。
・訂正事項28:【請求項35】を、【請求項29】と訂正する。
・訂正事項29:【請求項36】を、【請求項30】とし、「請求項35記載の」とあるのを、「請求項29記載の」と訂正する。
・訂正事項30:【請求項37】を、【請求項31】とし、「請求項22記載の加工対象物切断方法」とあるのを、「請求項18記載の加工対象物切断方法」と訂正する。
・訂正事項31:明細書の段落【0002】の記載「本発明は、半導体材料基板、圧電材料基板やガラス基板等の加工対象物の切断に使用される加工対象物切断方法に関する。」を、「本発明は、半導体材料基板からなる加工対象物の切断に使用される加工対象物切断方法に関する。」と訂正する。
・訂正事項32:明細書の段落【0006】の記載「本発明の目的は、加工対象物の表面に不必要な割れを発生させることなくかつその表面が溶融しない加工対象物切断方法を提供することである。」を、「本発明の目的は、半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の表面に不必要な割れを発生させることなくかつその表面が溶融しない加工対象物切断方法を提供することである。」と訂正する。
・訂正事項33:明細書の段落【0007】の記載「【課題を解決するための手段】 本発明に係る加工対象物切断方法は、ウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し、加工対象物の内部に多光子吸収による改質領域を形成し、この改質領域によって、加工対象物の切断予定ラインに沿って加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に、切断の起点となる領域を形成し、この領域を起点として加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させることを特徴とする。」を、「【課題を解決するための手段】 本発明に係る加工対象物切断方法は、半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し、加工対象物の内部に多光子吸収による改質領域を形成し、この改質領域によって、加工対象物の切断予定ラインに沿って加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に、切断の起点となる領域を形成し、この領域を起点として加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させることを特徴とする。」と訂正する。
・訂正事項34:明細書の段落【0010】の記載「本発明に係る加工対象物切断方法は、ウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせて、集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光を照射し、加工対象物の内部にクラック領域を含む改質領域を形成し、この改質領域によって、加工対象物の切断予定ラインに沿って加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に、切断の起点となる領域を形成し、この領域を起点として加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させることを特徴とする。」を、「本発明に係る加工対象物切断方法は、半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせて、集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光を照射し、加工対象物の内部にクラック領域を含む改質領域を形成し、この改質領域によって、加工対象物の切断予定ラインに沿って加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に、切断の起点となる領域を形成し、この領域を起点として加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させることを特徴とする。」と訂正する。
・訂正事項35:明細書の段落【0011】の記載「本発明に係る加工対象物切断方法によれば、加工対象物の内部に集光点を合わせて、集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光を照射している。このため、加工対象物の内部では多光子吸収による光学的損傷という現象が発生する。この光学的損傷により加工対象物の内部に熱ひずみが誘起され、これにより加工対象物の内部にクラック領域が形成される。このクラック領域は上記改質領域の一例であるので、本発明に係る加工対象物切断方法によれば、加工対象物の表面に溶融や切断予定ラインから外れた不必要な割れを発生させることなく、レーザ加工が可能となる。この加工対象物としては、例えば、ガラスを含む部材がある。なお、ピークパワー密度とは、パルスレーザ光の集光点の電界強度を意味する。」を、「本発明に係る加工対象物切断方法によれば、加工対象物の内部に集光点を合わせて、集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光を照射している。このため、加工対象物の内部では多光子吸収による光学的損傷という現象が発生する。この光学的損傷により加工対象物の内部に熱ひずみが誘起され、これにより加工対象物の内部にクラック領域が形成される。このクラック領域は上記改質領域の一例であるので、本発明に係る加工対象物切断方法によれば、加工対象物の表面に溶融や切断予定ラインから外れた不必要な割れを発生させることなく、レーザ加工が可能となる。なお、ピークパワー密度とは、パルスレーザ光の集光点の電界強度を意味する。」と訂正する。
・訂正事項36:明細書の段落【0012】の記載「本発明に係る加工対象物切断方法は、ウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせて、集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光を照射し、加工対象物の内部に溶融処理領域を含む改質領域を形成し、この改質領域によって、加工対象物の切断予定ラインに沿って加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に、切断の起点となる領域を形成し、この領域を起点として加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させることを特徴とする。」を、「本発明に係る加工対象物切断方法は、半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせて、集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光を照射し、加工対象物の内部に溶融処理領域を含む改質領域を形成し、この改質領域によって、加工対象物の切断予定ラインに沿って加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に、切断の起点となる領域を形成し、この領域を起点として加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させることを特徴とする。」と訂正する。
・訂正事項37:明細書の段落【0014】の記載「本発明に係る加工対象物切断方法は、ウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせて、集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1ns以下の条件でレーザ光を照射し、加工対象物の内部に屈折率が変化した領域である屈折率変化領域を含む改質領域を形成し、この改質領域によって、加工対象物の切断予定ラインに沿って加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に、切断の起点となる領域を形成し、この領域を起点として加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させることを特徴とする。」を、「本発明に係る加工対象物切断方法は、半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせて、集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1ns以下の条件でレーザ光を照射し、加工対象物の内部に屈折率が変化した領域である屈折率変化領域を含む改質領域を形成し、この改質領域によって、加工対象物の切断予定ラインに沿って加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に、切断の起点となる領域を形成し、この領域を起点として加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させることを特徴とする。」と訂正する。
・訂正事項38:明細書の段落【0015】の記載「本発明に係る加工対象物切断方法によれば、加工対象物の内部に集光点を合わせて、集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1ns以下の条件でレーザ光を照射している。本発明のようにパルス幅を極めて短くして、多光子吸収を加工対象物の内部に起こさせると、多光子吸収によるエネルギーが熱エネルギーに転化せずに、加工対象物の内部にはイオン価数変化、結晶化又は分極配向等の永続的な構造変化が誘起されて屈折率変化領域が形成される。この屈折率変化領域は上記改質領域の一例であるので、本発明に係る加工対象物切断方法によれば、加工対象物の表面に溶融や切断予定ラインから外れた不必要な割れを発生させることなく、レーザ加工が可能となる。この加工対象物としては、例えば、ガラスを含む部材である。」を、「本発明に係る加工対象物切断方法によれば、加工対象物の内部に集光点を合わせて、集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1ns以下の条件でレーザ光を照射している。本発明のようにパルス幅を極めて短くして、多光子吸収を加工対象物の内部に起こさせると、多光子吸収によるエネルギーが熱エネルギーに転化せずに、加工対象物の内部にはイオン価数変化、結晶化又は分極配向等の永続的な構造変化が誘起されて屈折率変化領域が形成される。この屈折率変化領域は上記政質領域の一例であるので、本発明に係る加工対象物切断方法によれば、加工対象物の表面に溶融や切断予定ラインから外れた不必要な割れを発生させることなく、レーザ加工が可能となる。」と訂正する。
・訂正事項39:明細書の段落【0021】の記載「加工対象物として、ガラス、圧電材料及び半導体材料を含む部材が例示される。また、加工対象物としては、照射されたレーザ光の透過性を有する部材がある。また、この加工対象物切断方法は、表面に電子デバイス又は電極パターンが形成されている加工対象物に通用することができる。電子デバイスとは、半導体素子、液晶等の表示装置、圧電素子等を意味する。」を、「また、加工対象物としては、照射されたレーザ光の透過性を有する部材がある。また、この加工対象物切断方法は、表面に電子デバイス又は電極パターンが形成されている加工対象物に適用することができる。電子デバイスとは、半導体素子等を意味する。」と訂正する。
・訂正事項40:明細書の段落【0022】の記載「本発明に係る加工対象物切断方法は、半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせて、集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光を照射し、加工対象物の内部に改質領域を形成し、この改質領域によって、加工対象物の切断予定ラインに沿って加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に、切断の起点となる領域を形成し、この領域を起点として加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させることを特徴とする。また、本発明に係る加工対象物切断方法は、圧電材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせて、集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光を照射し、加工対象物の内部に改質領域を形成し、この改質領域によって、加工対象物の切断予定ラインに沿って加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に、切断の起点となる領域を形成し、この領域を起点として加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させることを特徴とする。これらの加工対象物切断方法によれば、上記本発明に係る加工対象物切断方法と同様の理由により、加工対象物の表面に溶融や切断予定ラインから外れた不必要な割れを発生させることなく、レーザ切断加工が可能となる。
本発明に係る加工対象物切断方法において、加工対象物は、その表面に複数の回路部が形成されており、複数の回路部のうち隣接する回路部の間に形成された間隙に臨む加工対象物の内部にレーザ光の集光点を合わせる、ようにすることができる。これによれば、隣接する回路部の間に形成された間隙の位置において、加工対象物を確実に切断することができる。」を、「本発明に係る加工対象物切断方法は、半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせて、集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光を照射し、加工対象物の内部に改質領域を形成し、この改質領域によって、加工対象物の切断予定ラインに沿って加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に、切断の起点となる領域を形成し、この領域を起点として加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させることを特徴とする。これらの加工対象物切断方法によれば、上記本発明に係る加工対象物切断方法と同様の理由により、加工対象物の表面に溶融や切断予定ラインから外れた不必要な割れを発生させることなく、レーザ切断加工が可能となる。 本発明に係る加工対象物切断方法において、加工対象物は、その表面に複数の回路部が形成されており、複数の回路部のうち隣接する回路部の間に形成された間隙に臨む加工対象物の内部にレーザ光の集光点を合わせる、ようにすることができる。これによれば、隣接する回路部の間に形成された間隙の位置において、加工対象物を確実に切断することができる。」と訂正する。
・訂正事項41:明細書の段落【0118】の記載「本発明に係る加工対象物切断方法によれば、加工対象物の表面に溶融や切断予定ラインから外れた割れが生じることなく、加工対象物を切断することができる。よって、加工対象物を切断することにより作製される製品(例えば、半導体チップ、圧電デバイスチップ、液晶等の表示装置)の歩留まりや生産性を向上させることができる。」を、「本発明に係る加工対象物切断方法によれば、半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の表面に溶融や切断予定ラインから外れた割れが生じることなく、加工対象物を切断することができる。よって、加工対象物を切断することにより作製される製品(例えば、半導体チップ)の歩留まりや生産性を向上させることができる。」と訂正する。

上記訂正事項は、以下のとおり分類できる。
(ア)請求項の削除に関する訂正
上記訂正事項5ないし7及び12,26,27は、請求項12ないし14,19,33,34の削除である。
(イ)発明対象の限定に関する訂正
上記訂正事項1ないし4及び訂正事項16-2,18-2,20-2,22-2は、請求項1ないし4,19,25,27,29について、「ウェハ状の加工対象物」を、「半導体材料からなるウェハ状の加工対象物」に限定したものである。
(ウ)請求項記載の整合に関する訂正
上記訂正事項16-1,18-1,20-1,22-1と、訂正事項8ないし11,13ないし15,17,19,21,23ないし25,28ないし30は、上記(ア)の訂正に伴う、請求項の繰り上がり、又は、引用請求項の訂正であり、特許請求の範囲の記載を整合させたものである。
(エ)明細書記載の整合に関する訂正
訂正事項31ないし41は、特許請求の範囲の訂正に伴って、明細書の発明の詳細な説明の記載を整合させたものである。

(2)当審の判断
上記(ア)及び(イ)の訂正事項は、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。
上記(ウ)及び(エ)の訂正事項は、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。
そして、上記(ア)ないし(エ)の訂正事項は、いずれも、新規事項の追加に該当せず、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
さらに、本件無効審判請求の対象とされていない請求項7ないし10は請求項1ないし5を直接又は間接に引用するものであり、下記に示すように、請求項1ないし5に係る特許は無効とすることができないから、請求項7ないし10に係る発明は、特許出願の際、独立して特許を受けることができるものである。

(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第134条の2ただし書き、同条第5項で準用する特許法第126条第3項及び4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第3.本件発明
(1)上記のとおり、訂正請求が認められるから、無効審判請求の対象となる請求項1ないし6及び11ないし31に係る発明(以下、それぞれを「本件発明1」等という。)は、その訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし6及び11ないし31に記載された事項により特定される、以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】 半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し、前記加工対象物の内部に多光子吸収による改質領域を形成し、この改質領域によって、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に、切断の起点となる領域を形成し、この領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させる、加工対象物切断方法。
【請求項2】 半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせて、集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光を照射し、前記加工対象物の内部にクラック領域を含む改質領域を形成し、この改質領域によって、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に、切断の起点となる領域を形成し、この領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させる、加工対象物切断方法。
【請求項3】 半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせて、集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光を照射し、前記加工対象物の内部に溶融処理領域を含む改質領域を形成し、この政質領域によって、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に、切断の起点となる領域を形成し、この領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させる、加工対象物切断方法。
【請求項4】 半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせて、集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1ns以下の条件でレーザ光を照射し、前記加工対象物の内部に屈折率が変化した領域である屈折率変化領域を含む改質領域を形成し、この改質領域によって、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に、切断の起点となる領域を形成し、この領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させる、加工対象物切断方法。
【請求項5】 レーザ光源から出射される前記レーザ光はパルスレーザ光を含む、請求項1?4のいずれかに記載の加工対象物切断方法。
【請求項6】 前記加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射するとは、一つのレーザ光源から出射されたレーザ光を集光して前記加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射する、請求項1?5のいずれかに記載の加工対象物切断方法。
【請求項11】 前記改質領域は、前記加工対象物の内部に合わされたレーザ光の集光点に対して、前記加工対象物を相対的に移動させることにより形成される、請求項1?10のいずれかに記載の加工対象物切断方法。
【請求項12】 前記加工対象物は照射されたレーザ光の透過性を有する材料である、請求項1?11のいずれかに記載の加工対象物切断方法。
【請求項13】 前記加工対象物の表面に電子デバイス又は電極パターンが形成されている、請求項1?12のいずれかに記載の加工対象物切断方法。
【請求項14】 前記加工対象物に力を加えることによって、前記切断の起点となる領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させることで、前記切断予定ラインに沿って前記加工対象物を切断する、請求項1?13のいずれかに記載の加工対象物切断方法。
【請求項15】 半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせて、集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光を照射し、前記加工対象物の内部に改質領域を形成し、この改質領域によって、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に、切断の起点となる領域を形成し、この領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させる、加工対象物切断方法。
【請求項16】 前記加工対象物は、その表面に複数の回路部が形成されており、前記複数の回路部のうち隣接する回路部の間に形成された間隙に臨む前記加工対象物の内部にレーザ光の集光点を合わせる、請求項1?15のいずれかに記載の加工対象物切断方法。
【請求項17】 前記複数の回路部にレーザ光が照射されない角度でレーザ光が集光される、請求項16記載の加工対象物切断方法。
【請求項18】 半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し、前記加工対象物の内部に、単結晶構造から非晶質構造に変化した領域、単結晶構造から多結晶構造に変化した領域、又は単結晶構造から非晶質構造及び多結晶構造を含む構造に変化した領域である溶融処理領域を形成し、この溶融処理領域によって、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に、切断の起点となる領域を形成し、この領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させる、加工対象物切断方法。
【請求項19】 半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物の内部において前記加工対象物のレーザ光入射面に沿った方向に、多光子吸収による改質領域を形成することで、この改質領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させて前記加工対象物を切断することを特徴とする加工対象物切断方法。
【請求項20】 請求項19記載の加工対象物切断方法において、前記改質領域を前記レーザ光入射面から所定距離内側に形成することを特徴とする加工対象物切断方法。
【請求項21】 半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせて、集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光を照射し、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物の内部において前記加工対象物のレーザ光入射面に沿った方向に、クラック領域を含む改質領域を形成することで、この改質領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させて前記加工対象物を切断することを特徴とする加工対象物切断方法。
【請求項22】 請求項21記載の加工対象物切断方法において、前記改質領域を前記レーザ光入射面から所定距離内側に形成することを特徴とする加工対象物切断方法。
【請求項23】 半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせて、集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光を照射し、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物の内部において前記加工対象物のレーザ光入射面に沿った方向に、溶融処理領域を含む改質領域を形成することで、この改質領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させて前記加工対象物を切断することを特徴とする加工対象物切断方法。
【請求項24】 請求項23記載の加工対象物切断方法において、前記政質領域を前記レーザ光入射面から所定距離内側に形成することを特徴とする加工対象物切断方法。
【請求項25】 半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせて、集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1ns以下の条件でレーザ光を照射し、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物の内部において前記加工対象物のレーザ光入射面に沿った方向に、屈折率が変化した領域である屈折率変化領域を含む改質領城を形成することで、この改質領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させて前記加工対象物を切断することを特徴とする加工対象物切断方法。
【請求項26】 請求項25記載の加工対象物切断方法において、前記改質領域を前記レーザ光入射面から所定距離内側に形成することを特徴とする加工対象物切断方法。
【請求項27】 半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせて、集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光を照射し、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物の内部において前記加工対象物のレーザ光入射面に沿った方向に改質領域を形成することで、この改質領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させて前記加工対象物を切断することを特徴とする加工対象物切断方法。
【請求項28】 請求項27記載の加工対象物切断方法において、前記改質領域を前記レーザ光入射面から所定距離内側に形成することを特徴とする加工対象物切断方法。
【請求項29】 半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物の内部において前記加工対象物のレーザ光入射面に沿った方向に、単結晶構造から非晶質構造に変化した領域、単結晶構造から多結晶構造に変化した領域、又は単結晶構造から非晶質構造及び多結晶構造を含む構造に変化した領域である溶融処理領域を形成することで、この溶融処理領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させて前記加工対象物を切断することを特徴とする加工対象物切断方法。
【請求項30】 請求項29記載の加工対象物切断方法において、前記溶融処理領域を前記レーザ光入射面から所定距離内側に形成する加工対象物切断方法。
【請求項31】 前記加工対象物に力を加えることによって、前記切断の起点となる領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させることで、前記切断予定ラインに沿って前記加工対象物を切断する、請求項18記載の加工対象物切断方法。」

第4.請求人の主張
請求人は、証拠方法として甲第1号証ないし甲第6号証を提示し、以下の理由により本件の請求項1ないし6及び11ないし31に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、無効とすべきであると主張する。なお、請求人は、特許法第29条第1項第3号違反の無効理由を撤回した。(第1回口頭審理調書の請求人の項1、参照。)

(1)甲第1号証の従来技術に関する記載、及び、甲第3号証ないし甲第6号証の記載事項から、「ガラスの表面及び裏面には改質領域を生成することなくガラスの内部のみに改質領域を生成すること」は周知事項である。
(2)甲第1号証記載の実施例は、実施可能であり、甲第1号証記載の発明は未完成ではない。
(3)本件発明1ないし6及び11ないし31に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証の記載及び甲第3号証ないし甲第6号証に示される周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
[証拠方法]
甲第1号証 特開平11-71124号公報
甲第2号証 特公昭46-24989号公報
甲第3号証 ドイツ国公開第4407547号公報
甲第4号証 欧州特許庁公開第0743128号公報
甲第5号証 特開平11-267861号公報
甲第6号証 特開平11-138896号公報

第5.被請求人の主張の概要
これに対して、被請求人は、証拠方法として答弁書に乙第1号証ないし乙第9号証及び参考資料を添付し、審尋回答書に参考文献1ないし3を添付し、口頭審理陳述要領書に添付資料及び乙第10号証を添付して提出し、本件各発明は、以下の理由から、甲第1号証に記載の事項及び甲第2号証ないし甲第6号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないと、主張している。

(1)甲第1号証記載のものは発明として未完成であり、実施不可能であるから、これに基づいて、当業者が容易に発明することができたものとすることはできない。
(2)甲第1号証記載のものが未完成であり、実施不可能であることをさておいても、本件発明1と甲第1号証記載のものには、以下の4点の相違点がある。
A. 本件発明1の切断方法の対象が、半導体材料からなるウェハ状の加工対象物であるのに対し、甲第1号証に記載のものはガラス製アンプルの首、又は時計皿等を切断するフラットガラスである点。
B1. 本件発明1の改質領域は加工対象物の内部に多光子吸収によって形成されるのに対し、甲第1号証に記載のものは微小亀裂がどのように形成されるのか不明である点。
C. 本件発明1は、改質領域を起点として加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させることにより切断を行うものであるのに対し、甲第1号証に記載のものはどのような切断がされるのか不明である点。
D. 本件発明1は、切断予定ラインにそって切断の起点となる領域を形成するのに対し、甲第1号証に記載のものはアンプルの首の周囲に1mm間隔で3つの破断点が形成されるものであるか、アンプルの首周りを走るように分割線に沿って形成するものである点。
以上の相違点により本件発明1は、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)さらに、本件発明2には、上記相違点B1に代えて、次の新たな相違点がある。
B2. 本件発明2は、集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上で照射するものであるのに対し、甲第1号証に記載のものはどのような照射がされるのか不明である点。

(4)更に、本件発明3は、次の新たな相違点がある。
E. 本件発明3は、改質領域が溶融処理領域を含むものであるのに対し、甲第1号証に記載のものの微小亀裂はどのようなものか不明である点。

(5)更に、本件発明4は、次の新たな相違点がある。
F. 本件発明4は、パルス幅が1ns以下のレーザ光を照射し、改質領域は屈折率変化領域を含むものであるのに対し、甲第1号証に記載のものは、パルス幅が100ns以下の条件でレーザ光を照射し、微小亀裂はどのようなものか不明である点。

(6)更に、本件発明5ないし31には、上記各相違点に加えて、以下の新たな相違点がある。
E’ 溶融処理領域が、単結晶構造から非晶質構造に変化した領域、単結晶構造から多結晶構造に変化した領域、又は単結晶構造から非晶質構造及び多結晶構造を含む構造に変化した領域である点。
G 加工対象物の表面に電子デバイス又は電極パターンが形成されている点。
H 加工対象物の表面に形成された複数の回路部のうち隣接する回路部の間に形成された間隙に臨む前記加工対象物の内部にレーザ光の集光点を合わせる点。
I 複数の回路部にレーザ光が照射されない角度でレーザ光が集光される点

(7)本件各発明は、以上の各相違点で、甲各号証記載のものと相違しているから、本件各発明が甲第1号証ないし甲第6号証記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

[証拠方法]
乙第1号証 甲第1号証発明の実施例説明資料(被請求人作製)
乙第2号証 甲第1号証発明の追試報告書(被請求人作製)
乙第3号証 甲第1号証発明の比較試験報告書(被請求人作製)
乙第4号証 「工作機械シリーズ レーザ加工」第91?96頁、平
成2年9月10日、工作機械技術研究会編、大河出版
乙第5号証 日経産業新聞 2002年8月5日 日本経済新聞社
乙第6号証 「電子材料」 2002年9月号第17?23頁、工業
調査会
乙第7号証 本件発明の実験報告書(被請求人作製)
乙第8号証 溶接学会全国大会講演概要66集(2000年4月)第
72?73頁「ピコ秒パルスレーザによるシリコンの加
工特性の評価」
乙第9号証 第42回レーザ熱加工研究会論文集(1997年11月
)第105?111頁「フェムト秒レーザー照射による
ガラス内部への光誘起構造形成」
乙第10号証 ドイツ国特許第19728766号公報(甲第1号
証のドイツファミリー公報)
参考資料 本件発明の優位性を示す資料(被請求人作製)
参考文献1 「光学のすすめ」第201?202頁、平成9年10月
31日、「光学のすすめ」編集委員会編、オプトロニク
ス社
参考文献2 「MSTODAY」2001年2月号第2?3頁、エム
システム技研
参考文献3 「光システム工学、光ディスクの情報記憶システム」
立命館大学電子光情報工学科 浮田研究室
添付資料 「半導体ウェハとガラスの切断メカニズムの説明」(被
請求人作製)

第6.甲第1号証ないし甲第6号証の記載
(1)甲第1号証に記載の事項
本件出願の優先日前である平成11年3月16日に頒布された甲第1号証(特開平11-71124号公報)には、「ガラス物体に破断点を形成する方法」に関して、図面と共に、以下のとおり記載されている。

(ア)【特許請求の範囲】
「【請求項1】 破断領域に微小亀裂を発生させることにより、ガラス物体のガラス壁を破断するためまたはガラス板を分離するために破断点を形成する方法において、
前記微小亀裂を前記ガラス壁またはガラス板の内部に形成することを特徴とする破断点を形成する方法。
【請求項2】 前記微小亀裂はレーザー照射により形成する請求項1に記載の方法。
【請求項3】 前記使用されるレーザー放射線はガラスが透明または少なくとも半透明の波長を有し、かつ、レーザーパルス時間は<1msである請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】 前記微小亀裂の大きさは一連のレーザーパルスを備える照射により調整される請求項1?3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】 前記微小亀裂の大きさはその後の熱処理により調整される請求項1?4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】 前記微小亀裂の形成はガラスの標的とする元応力により制御される請求項1?5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】 表面に対して垂直な微小亀裂の大きさはガラス壁の厚みの0.5倍を越えない請求項1?6のいずれか1項に記載の方法。」
(イ)段落【0001】ないし【0037】
「【発明の属する技術分野】
本発明は、破断領域に微小亀裂を発生させることにより、ガラス物体、特に破断開封用アンプルまたは管のガラス壁を破断するため、またはガラス板を分離するために適切な破断点を形成(produce)する方法に関する。」(段落【0001】)
「【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、破断開封アンプルを再現できかつ安全に開口する方法で破断開封アンプルの破断領域に所定の破断点を形成することにある。特に、破断開封が困難なアンプルを開封するときに生ずる傷の発生を避け、かつ、アンプルの開封で生ずるアンプル内の医薬品の損傷を妨げることを意図する。
【課題を解決するための手段】
本発明の目的は、破断領域に微小亀裂を発生させることにより、ガラス物体、特に破断開封用アンプルまたは管のガラス壁を破断するため、またはガラス板を分離するために適切な破断点を形成する方法において、前記微小亀裂を前記ガラス壁またはガラス板の内部に形成することを特徴とする破断点を形成する方法により達成される。
前記微小亀裂はレーザー照射により形成することが好ましい。
前記使用されるレーザー放射線はガラスが透明または少なくとも半透明の波長を有し、かつ、レーザーパルス時間は<1ms、特に<100nsであることが好ましい。」(段落【0013】ないし【0016】)
「【発明の実施の形態】
本発明によれば、適切な破断点は、微小亀裂が制御された方法でアンプルのガラス壁内部に形成されるという事実によって作られる。最初に述べた従来の技術であって、それぞれの場合にガラス壁がガラス表面からの微小亀裂により弱くなる技術に対して、問題の表面は本発明の方法を使用するときに損傷を受けない。」(段落【0021】)
「好都合なことに、本発明に従う微小亀裂は集中レーザー照射手段により形成される;アンプルの場合、従来技術から公知であるが、アンプルの首領域で生ずる。直径<100μmのレーザービームをガラス壁の中心に収束することが有益であることが証明された。このことを実施するために、ガラスが透明でありまたは少なくとも半透明である波長を備えるレーザー放射を利用することが必要なことは明らかである。レーザーパラメーターを好適に選択することにより、当業者は、制御された方法で微小亀裂の長さや幾何学的な配列などの形成及び促進を調節することができる。これを実施するための適切なパラメーターを見つけだすことは進歩性を要求せず、これらは当業者によって、例えば適切な通常の実験に基づいて容易に決定できる。上記から明らかなように、ガラス物体(例えば、アンプル)の種々の幾何学性に関するプロセスパラメーターを採用することは容易である。微小亀裂は、約10?1000Hzの繰り返し周波数を備える単一レーザーパルスまたは一連のレーザーパルスを利用して形成できる。」(段落【0028】)
「相対的に長期保存及び輸送中でさえアンプルの安定性を保証するために、ガラス表面に垂直な亀裂の大きさは、ガラス壁厚の約0.5倍を越えるべきではない。」(段落【0030】)
「2)さらに、適切な破断点は、アンプルの首周りを走るように適切な分割線に沿って形成してよい(いわゆる破断リングアンプルに類似する方法)。この場合、アンプルは予め配列又は調整することなく破断開封できる。破断の適切な方向にマークをつける必要はない。限られた破断方法に対し、適切な破断点の角間隔は30゜を越えるべきではない。DE 42 14 159 C1およびDE 35 37 434 A1に記載されたレーザー法を比較すると、本発明の方法が使用されるときの破断の性質は、適切な破断点であって破断線に沿って配列するものによる破断前面のモジュレーション又は変調がかなり減少することによりかなり改良される。これは、DE 42 14 159 C1およびDE 35 37 434 A1に記載された方法のレーザースポット領域の残留応力領域が、一般的にレーザースポットの中心を通して亀裂前面の適切なラジアルコースを生じないが、むしろ各ケースの亀裂前面がセミサークルセグメント上のスポット中心の周りを走るように亀裂を誘発するからである。この性質の亀裂コースは、破断ガラスと傷害のリスクを増加する。」(段落【0033】)
「使用されたレーザー放射源は、Q-スイッチまたはモードロックNdソリッドステートレーザーであることが好都合である。短焦点距離を備える適切な光システムは、必要により広いビーム断面を有するレーザービームを<0.1mmのスポット直径に収束する。大きい湾曲面を有すると、例えば、円柱または屈折の光システム(従来技術)により付加的な形状を備えるビームを提供する必要がある。非ガウスレーザービームプロファイルを用いると、破断方向に微小亀裂の付加的な配向を達成することが可能である。短いレーザーパルス時間のため、必要により、アンプル輸送の間適切な破断点を適用することができるが、これは壁の焦点位置を0.1mmよりも精度よく維持するために、多くの支出が必要である。プロセスコントロールは、例えば、プラズマ形成の光電子的観察及びレーザーパラメーターの再調整によって実施してよい。」(段落【0035】)
「この方法は、フラットガラスの分野において特殊な切断プロセスに用いてもよい(例えば、適切な形状(時計皿)のガラス片をガラス板から切断する)。」(段落【0037】)
(ウ)段落【0040】ないし【0043】
「図1において、適切な破断点はアンプルの首2(締め付け)の領域においてホウケイ酸ガラス製の2mlアンプル1に形成する。
締め付けは、アンプルの製造方法において二次成形用具(forming tool)を用いてタレット装置上で直径6.5mm、壁厚0.8mmに予め形成された。適切な破断点は図1で図式された更なるプロセスラインで適用され、ここで、アンプル1はチェインコンベヤーから、リフト装置3を使用してストップローラー4に対して持ち上げられる。アンプル1は、ローラー6が二次成形用具を追跡するような方法でローラー(roller table)5及び6上に置く。
パルス時間約10ns、パルスエネルギー25mJのQ-スイッチNd:YAGレーザー7を使用して適切な破断点を作る。レーザービームは、焦点距離50mmのレーザーレンズ8を使用してガラス壁の中心に収束させる:直径は約0.1mmである。適切な破断点がガラス壁の中心に形成されるように、アンプルの首2(締め付け)の直径は大きくて0.1mmの公差を有する。10Hzのレーザー繰り返し周波数を用いると、3つの適切な破断点は周囲方向に沿って1mm間隔でアンプルの首に適用される。これを達成するために必要なアンプルの回転はローラー4の駆動によって行われる。
3つの適切な破断点は顕微鏡で見ることが可能で、アンプルを明確にかつ物理的に破断できる。」

(2)甲第2号証記載の発明
本件出願の優先日前である昭和46年7月19日に頒布された甲第2号証(特公昭46-24989号公報)には、「レーザー光線を使用する基体分割法」に関して、図面と共に、以下のとおり記載されている。

(ア)特許請求の範囲
「1 基体表面に基体の厚さ全体を通る局部割れ目(例えば27)を作るに充分なビームの出力強度のレーザビーム(例えば12,13)を指向し、基体とビームとを相対的に動かして割れ目を第1及び第2部分間の境界に沿って進行させることから成る基体に熱衝撃を発生してその第2部分から第1部分を分離するレーザ光線を使用する基体分割方法。」
(イ)第1欄第37行ないし第2欄第19行
「本発明は基体を複数の別々の単位に分割する方法に関する。
多くの電子回路及び部品、例えば皮膜回路又はダイオード又はトランジスタ又は抵抗器の製造に当っては材料の被着、パターンの発生、選択腐食、陽極処理等の如き多くの製造方法が一般に使用されている。かかる製造方法を複数の別々の回路又は部品に同時に適用する費用は、該方法を1個の別々の回路又は部品に適用する費用と実質上同一であるから1個の基体上の複数の別々の回路を一群として処理するのが普通である。この群処理方法によると個々の回路又は部品の価格を相当減少しうる。しかしながら群処理後基体を分割して個個の回路又は部品を経済的にそして回路を損傷することなしに分離することが肝要である。
基体は普通ガラス、セラミック、水晶又はサフアイヤ又はゲルマニウム又はシリコン等の半導体の薄片であるから分割は相当の問題を呈する。基体なる語はかかる物質又は回路又は別々の部品をその上に形成又は支持しうる任意の他の適当を材料を含むものである。」
(ウ)第4欄第8行ないし第14行
「本発明によれば基体の厚さ全体に亘って局部的の割れを発生するに充分なビーム出力強度のレーザビームを基体表面に指向し、基体とビームとを相対的に動して割れ目を第1及び第2の部分間の境界に沿って移動させることにより基体に熱衝撃を発生して基体の第1部分と第2部分とを分離する方法を提供する。」
(エ)第4欄第39行ないし第5欄第31行
「レーザビームを充分高い出力強度レベルで基体16の予定の区域26に加えるときは区域26に局部的の割れ目27(第3図)ができる。割れ目27は基体を貫通する。第3図では割れ目27は基体の線に示され、基件の厚さ全体に及んでいるのが見られる。
この割れ目は点13の大きさに相当する区域26にほぼ限定されるから局部的の割れ目である。区域26にできる局部温度勾配は部分26において基体を膨脹させ局部的の割れ目27を作るものと考えられる。
ビーム12を線41の作る通路に沿って基体を横切って変位するときは局部割れ目27は線41に沿って動いて基体16を線41に沿って割る。
出力強度レベルは基体又はその上の回路及び又は部品に対して有害な損傷を与えないような値にする。有害な損傷の例は基体のひび割れ、乱雑な割れ、又は回路及び又は部品上に蒸発した材料が被着することを含んでいる。
基体分割に必要な最低出力強度レベルは実験的にきめる。
ある場合には基体にレーザビームを当ると基体が僅か溶融することがある。かかる溶融は希望の局部割れ目27を作るために必要欠くべからざるものでなく、普通ビームの出力強度レベルを僅か減少するか、或は点13における出力強度密度を減少するようにビームをぼかすことによって避けることができる。ほかしは基体をレーザビームの焦点面から変位することにより達成しうる。
かかる溶融は極めて小面積に限定され、そして普通蒸発が起らないために大抵の場合許しうる。蒸発が起るときは溶融をなくするが或は基体上に蒸発した材料が乱雑に被着して基体上の回路および又は部品に損傷を与えることを避けるように蒸発が起らないレベルまで溶融を減少することが望ましい。基体をレーザビームの焦点面に置くときはかかる溶融の幅は約0.1mm乃至0.6mmの間で変化する。」
(オ)第8欄第11行ないし第23行
「本発明方法によれば基体に直接接触することなしに或はその後基体に応力を加えて分離を行うことなしに基体の制御された分離を行いうる。更にかかる制御された分離は基体又はその上の回路或は部品に有害を損傷を来すことなしに行いうる。更に基体をナイフエッジ上に支持しうるのである場合には回路及び又は部品を損傷することなしに回路42,43の如き回路及び部品を架台18の方へ向けるように基体を裏返すことができる。このため比較的高い変位速度が望まれる際蒸発を顧慮することなしに比較的高い電力レベルを使用しうる。」

以上の記載、及び第2図の記載を参照すれば、甲第2号証には、
「表面に回路即ち電子デバイスが形成された、シリコン等の半導体材料からなる基体の表面にレーザ光を照射して割れ目を作り、基体を割ること。」
「基体の表面に形成された回路間に存在する間隙にレーザ光を集光せしめること。」
「回路にレーザ光が照射されない角度でレーザ光を集光すること。」
が開示されていると認められる。

(3)甲第3号証ないし甲第6号証
本件出願の優先日前に頒布された、甲第3号証(ドイツ国公開第4407547号公報(平成7年(1995)年9月21日公開))には、「マーキングされた透明材質物体及びこれに係る製造方法」が記載され、
同様に頒布された、甲第4号証(欧州特許庁公開第0743128号公報(平成8年(1996)年11月20日公開)には、「透明な製品にマーキングする方法と装置」が記載され、
同様に頒布された、甲第5号証(特開平11-267861号公報(平成11年10月5日公開))には、「光透過性材料のマーキング方法」が記載され、
同様に頒布された、甲第6号証(特開平11-138896号公報(平成11年5月25日公開))には、「レーザーを用いたマーキング方法、マーキング装置、及びマークの観察方法、観察装置」が記載されている。
これらの記載事項から、甲第3号証ないし甲第6号証には、「ガラスの表面及び裏面には改質領域を生成することなくガラスの内部のみにマーキングすること」が記載されていると認められる。

第7.当審の判断
(1)甲第1号証記載の実施例の実施可能性
(ア)焦光点直径について
甲第1号証には、その実施例に関して、以下のとおり記載されている。
「 【0040】
図1において、適切な破断点はアンプルの首2(締め付け)の領域においてホウケイ酸ガラス製の2mlアンプル1に形成する。
【0041】
締め付けは、アンプルの製造方法において二次成形用具(forming tool)を用いてタレット装置上で直径6.5mm、壁厚0.8mmに予め形成された。適切な破断点は図1で図式された更なるプロセスラインで適用され、ここで、アンプル1はチェインコンベヤーから、リフト装置3を使用してストップローラー4に対して持ち上げられる。アンプル1は、ローラー6が二次成形用具を追跡するような方法でローラー(roller table)5及び6上に置く。
【0042】
パルス時間約10ns、パルスエネルギー25mJのQ-スイッチNd:YAGレーザー7を使用して適切な破断点を作る。レーザービームは、焦点距離50mmのレーザーレンズ8を使用してガラス壁の中心に収束させる:直径は約0.1mmである。適切な破断点がガラス壁の中心に形成されるように、アンプルの首2(締め付け)の直径は大きくて0.1mmの公差を有する。10Hzのレーザー繰り返し周波数を用いると、3つの適切な破断点は周囲方向に沿って1mm間隔でアンプルの首に適用される。これを達成するために必要なアンプルの回転はローラー4の駆動によって行われる。」
段落【0042】における、「レーザービームは、焦点距離50mmのレーザーレンズ8を使用してガラス壁の中心に収束させる:直径は約0.1mmである。」の文中の「直径」が、収束されたレーザービームの直径を意味することは、その文意、及び、当該一文中には主語としては「レーザービーム」しかないことから明らかである。
この点について、請求人は、甲第1号証の従来技術に関する記載(【0022】、【0023】)を引用し、弁駁書において、「従来技術においてガラス内部に形成されていた微小亀裂は、破断乃至分離を目的としたものではなくて、0.01mm程度の著しく微細なものであり、ガラス物体の機械的安定性を維持するためのものであったことを表示している。」(弁駁書第2頁第29行乃至第3頁第3行)、「一方、甲第1号証に開示されている発明自体に関して、 (中略) と記載されている。かかる記載は、甲第1号証に開示されている発明においては、従来の微小亀裂よりも大きい微小亀裂即ち破断点をガラス内部に形成し、これによってガラスの機械的安定性を減少して破断乃至分離を可能にすることを表示している。 甲第1号証における上記記載に鑑みれば、甲第1号証の第7欄においては、実施例としてガラス壁の内部に直径が0.1mmの微小亀裂、即ち従来技術における微小亀裂の約10倍の大きさを有する微小亀裂を形成したことを、「直径は約0.1mm」として表示している、と矛盾なく合理的に理解できる。」(弁駁書第3頁第4行ないし第16行)と主張しているが、甲第1号証の記載からは、レーザービームの収束点の直径と微小亀裂の大きさとの関係は示されていないこと、破断ないし分離のために形成する微小亀裂を、従来の破断のためではない微小亀裂よりも大きするにあたって、その大きさを10倍とすべき根拠はないことを考慮すれば、引用した甲第1号証の記載「レーザービームは、焦点距離50mmのレーザーレンズ8を使用してガラス壁の中心に収束させる:直径は約0.1mmである。」の「直径」を文意に反して破断点の直径とすることはできない。
また、請求人は、甲第1号証の段落【0028】、【0035】の記載を引用し、弁駁書において、「直径<100μm(即ち<0.1mm)は直径が0.1mmよりも小さいことを意味し、甲第1号証における「直径は0.1mm」を、被請求人が主張する如く、集光点の直径が0.1mmであると理解することは不合理であることが明らかである。」(弁駁書第3頁第22行ないし第25行)と主張しているが、不等号(<)に数学的厳密さをもって甲第1号証の当該記載「直径<100μm」を解釈するならば、直径が100μmの場合を含まないことになるとはいえるものの、レーザービームの焦光点の如き物理現象を対象とする場合には測定誤差や、それに基づく有効数字を考慮しなければならないのは自明のことであって、当該記載の解釈に数学的厳密さを要求するべきではなく、集光点の直径が0.1mmである場合を含むと理解することは不合理ではない。
したがって、請求人の主張は、すべて採用できない。

(イ)多光子吸収について
段落【0042】に記載の「約0.1mm」がレーザービームの集光点直径であるとし、実施例の条件(パルス時間約10ns,パルスエネルギー25mJ,集光点直径約0.1mm)でレーザービームの収束点におけるエネルギー密度を計算すると、3.18×1010(W/cm2)となり、これは多光子吸収を起こす程のエネルギー密度であるといえる。

(ウ)開口数(NA)について
焦光点直径が0.1mmであることから、開口数(NA)は以下のとおりとなる。
回折現象に基づき、開口数(NA)と焦光点直径(d)の関係は定まっており、波長をλとすると、焦光点直径の定義によって係数が異なり、(i)焦光点直径をピーク強度が0となる位置で定義するならば、係数は1.22となり、(ii)焦光点直径をピーク強度が1/e2となる位置で定義するならば、係数は0.82となるので、
d=1.22λ/NA(i)
又は、
d=0.82λ/NA(ii)
となる。(被請求人が回答書と共に提出した参考文献1ないし3による。)
上記各式をNAについて解けば、
NA=1.22λ/d(以下、1式という。)
又は、
NA=0.82λ/d(以下、2式という。)
となる。
甲第1号証の記載における焦光点直径の定義が上記の(i)(ii)のいずれであるかは明らかではないが、NAの値は1式あるいは2式のいずれかの値、あるいは元のレーザービームのビームプロファイルに応じてその間の値になることは明らかであり、また、当該実施例で用いられているレーザー源はQ-スイッチNd:YAGレーザーであるから、そのレーザービームの波長は通常1.064nmであり、そうして求めるとNAは、
NA=0.01298(1式による。)
又は、
NA=0.00872(2式による。)
となる。

(エ)集光角について
開口数(NA)、集光半角(θ)と屈折率(n)の関係は、
NA=n・sinθ
で表され、大気中では屈折率(n)は1であるから、
θ=sin-1(NA)
となる。
前記の各NAに対応する集光半角(θ)は、
θ=0.0129804(rad)(1式による。)
又は、
θ=0.0087202(rad)(2式による。)
となる。

(オ)ガラス内部の集光について
このように集光半角(θ)が非常に小さいと、レーザービームは殆ど収束せずにガラスに入射することになる。アンプルの首(締め付け)は壁厚0.8mmであるからその中央は、ガラス表面からの距離は0.4mmであって、このような短い距離で、このような集光半角(θ)では、レーザービームの直径は殆ど変わらない。焦光点直径が0.1mmとすると、ガラス表面におけるレーザービーム直径は、
0.1069mm(1式による。)
0.1046mm(2式による。)
となって、殆ど変化しておらず、その断面積も、同様に殆ど変化していないから、
エネルギー密度は殆ど変化しないと考えられ、ガラス内部の所望の収束点に達する以前に、ガラス表面で多光子吸収が発生するほどのエネルギー密度となってしまうことになる。
以上のとおりであるから、ガラスの内部にのみ多光子吸収による微小亀裂をつくることは、この実施例で示される条件のもとでは、不可能である。

(カ)実施可能性について
以上のとおりであるから、甲第1号証記載の実施例は実施不可能であり、発明が完成しているとはいえず、したがって、発明として完成していない甲第1号証記載の事項を、本件各発明の進歩性を判断する際に考慮に入れることはできない。

(キ)甲第2号証ないし甲第6号証記載の事項
甲第2号証には、第6.(2)に示したとおり、「表面に回路即ち電子デバイスが形成された、シリコン等の半導体材料からなる基体の表面にレーザ光を照射して割れ目を作り、基体を割ること。」が記載されているが、加工対象物である基体の内部に「切断領域の内部に改質領域を形成し、加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に、切断の起点となる領域を形成し、この領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させる」ことは記載も示唆もされていない。
一方、甲第3号証ないし甲第6号証には、第6.(3)に示したとおり、「ガラスの表面及び裏面には改質領域を生成することなくガラスの内部のみにマーキングすること」が記載されていると認められる。しかしながら、甲第3号証ないし甲第6号証記載の上記事項は、「マーキング」に関するものであるから、割れが発生してはならないものであり、したがって、甲第3号証ないし甲第6号証記載の事項は、当該事項を割れを発生させる甲第2号証記載の事項と組み合わせることを妨げる事情があるとするのが相当である。

(ク)むすび
したがって、本件発明1は、甲第1号証ないし甲第6号証記載の事項から当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。

(2)甲第1号証に発明が認定できるとする場合
甲第1号証の実施例に関する記載には技術的な矛盾があることは上述したとおりであるが、仮に、実施例を除く甲第1号証の記載内容が正しいとすると、甲第1号証には、上記第6.(1)(ア)、(イ)の記載から、以下の発明が開示されているとも解しうる。

「ガラス物体の内部に焦光点を合わせてレーザ光を照射し、ガラス物体の内部に微小亀裂を形成し、この微小亀裂によって、前記ガラス物体の分割線に沿って前記ガラス物体のガラス表面から所定距離内側に、切断の起点となる破断点を形成する、ガラス物体の切断方法。」(以下、「甲第1号証記載の発明」という。)

そこで、甲第1号証に上記発明が記載されていると仮定して、本件発明が甲第1号証ないし甲第6号証記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるか否かについて、以下、検討する。

(ア)本件発明1について
(i)対比
本件発明と甲第1号証記載の発明とを対比すると、後者の「ガラス物体」は、前者の「半導体材料からなるウェハ状の加工対象物」と「加工対象物」の限りで、後者の「微小亀裂」は、前者の「多光子吸収による改質領域」と「改質領域」の限りで、それぞれ共通する。また、後者において、破断点を起点としてガラス物体の厚さ方向に向かって割れが発生しないと、ガラス物体が切断されないことからみて、後者においても、破断点を起点として、ガラス物体の厚さ方向に割れを発生させることは明らかである。
そして、後者の「分割線」は、前者の「切断予定ライン」に相当する。
以上のとおりであるから、両者は、
「加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し、前記加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に切断の起点となる領域を形成し、この領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させる、加工対象物切断方法。」である点で、一致しているということができる。
そして、第1に、切断の起点となる領域を形成する領域が、前者は「多光子吸収による改質領域」であるのに対して、後者では、レーザ光照射による「微小亀裂」という領域であって、これが多光子吸収による形成されたものであるか否かが不明である点(以下、相違点1という。)と、第2に、前者は、加工対象物が「ウェハ状の半導体材料」であるのに対して、後者の加工対象物は、「フラットガラス板」である点(以下、相違点2という。)で相違している。

(ii)判断
そこで、上記相違点2について検討すると、甲第3号証ないし甲第6号証記載の事項は、上述したように、「割れが発生してはならないもの」であって、割れを発生させる甲第1号証記載の発明と組み合わせることができない事情が存在する。
また、甲第2号証には、半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の表面にレーザ光を照射して割れ目を作り、基体を切断することが記載されているものの、加工対象物の内部に改質領域、切断の起点となる領域を形成する点については記載されていない。
すなわち、甲第1号証ないし甲第6号証には、加工対象物を「半導体材料からなるウェハ状」のものとするとの事項と、「加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し、加工対象物の内部に改質領域、切断の起点となる領域を形成」するとの事項を併せ備えるという本件発明1の構成を示すものはない。
一方、本件発明1は、上記2つの事項を併せ備えることにより、後者の事項を備えるものの前者の事項を備えていない甲第1号証記載の発明では、改質層の幅が数十μmとなり、切断の突起が極大かつ多数となり、端面にクラックに起因するギザギザが現れ、ミクロ的には蛇行する切断面しか得られないのに対して、改質層の幅は数μmであり、切断の起点が極めて微細な領域に集中した極少ない極小なものであって、極めて綺麗で蛇行の無い直線状の破断面が得られるという、顕著な作用効果を奏しているものと認められる。(口頭審理陳述要領書に添付された添付資料の写真1ないし写真12を参照。)
そうすると、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は甲第1号証ないし甲第6号証記載の発明(事項)に基づいて当業者が容易に発明することができたものとすることはできない。

(イ)本件発明2ないし6及び11ないし31について
本件発明2ないし6及び11ないし31と、甲第1号証記載の発明を対比すると、両者は、少なくとも上記相違点2で相違する。
さらに、本件発明3、23、24は、改質領域が、「溶融処理領域を含む改質領域」である点(以下、相違点3という。)でも、甲第1号証記載の発明と相違しており、この点は、甲第2号証ないし甲第6号証記載には記載も示唆もされていない。
さらに、本件発明4、25、26は、改質領域が、「屈折率が変化した領域である屈折率変化領域を含む改質領域」である点(以下、相違点4という。)でも、甲第1号証記載の発明と相違しており、この点は、甲第2号証ないし甲第6号証記載には記載も示唆もされていない。
さらに、本件発明18、29、30,31は、切断の起点となる領域を形成する領域が、「単結晶構造から非晶質構造に変化した領域、単結晶構造から多結晶構造に変化した領域、又は単結晶構造から非晶質構造及び多結晶構造を含む構造に変化した領域である溶融処理領域」である点(以下、相違点5という。)でも、甲第1号証記載の発明と相違しており、この点は、甲第2号証ないし甲第6号証記載には記載も示唆もされていない。
以上のとおりであるから、本件発明2ないし6及び11ないし31も、甲第1号証ないし甲第6号証記載の発明(事項)に基づいて当業者が容易に発明することができたものとすることはできない。

第8.むすび
以上のとおりであるから、無効審判申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1ないし6及び11ないし31に係る発明の特許を取り消すことはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
加工対象物切断方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し、前記加工対象物の内部に多光子吸収による改質領域を形成し、この改質領域によって、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に、切断の起点となる領域を形成し、この領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させる、加工対象物切断方法。
【請求項2】半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせて、集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光を照射し、前記加工対象物の内部にクラック領域を含む改質領域を形成し、この改質領域によって、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に、切断の起点となる領域を形成し、この領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させる、加工対象物切断方法。
【請求項3】半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせて、集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光を照射し、前記加工対象物の内部に溶融処理領域を含む改質領域を形成し、この改質領域によって、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に、切断の起点となる領域を形成し、この領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させる、加工対象物切断方法。
【請求項4】半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせて、集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1ns以下の条件でレーザ光を照射し、前記加工対象物の内部に屈折率が変化した領域である屈折率変化領域を含む改質領域を形成し、この改質領域によって、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に、切断の起点となる領域を形成し、この領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させる、加工対象物切断方法。
【請求項5】レーザ光源から出射される前記レーザ光はパルスレーザ光を含む、請求項1?4のいずれかに記載の加工対象物切断方法。
【請求項6】前記加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射するとは、一つのレーザ光源から出射されたレーザ光を集光して前記加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射する、請求項1?5のいずれかに記載の加工対象物切断方法。
【請求項7】前記加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射するとは、複数のレーザ光源から出射された各レーザ光を前記加工対象物の内部に集光点を合わせて異なる方向から照射する、請求項1?5のいずれかに記載の加工対象物切断方法。
【請求項8】前記複数のレーザ光源から出射された各レーザ光は、前記加工対象物の表面から入射する、請求項7記載の加工対象物切断方法。
【請求項9】前記複数のレーザ光源は、前記加工対象物の表面から入射するレーザ光を出射するレーザ光源と、前記加工対象物の裏面から入射するレーザ光を出射するレーザ光源と、を含む請求項7記載の加工対象物切断方法。
【請求項10】前記複数のレーザ光源は前記切断予定ラインに沿ってレーザ光源がアレイ状に配置された光源部を含む、請求項7?9のいずれかに記載の加工対象物切断方法。
【請求項11】前記改質領域は、前記加工対象物の内部に合わされたレーザ光の集光点に対して、前記加工対象物を相対的に移動させることにより形成される、請求項1?10のいずれかに記載の加工対象物切断方法。
【請求項12】前記加工対象物は照射されたレーザ光の透過性を有する材料である、請求項1?11のいずれかに記載の加工対象物切断方法。
【請求項13】前記加工対象物の表面に電子デバイス又は電極パターンが形成されている、請求項1?12のいずれかに記載の加工対象物切断方法。
【請求項14】前記加工対象物に力を加えることによって、前記切断の起点となる領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させることで、前記切断予定ラインに沿って前記加工対象物を切断する、請求項1?13のいずれかに記載の加工対象物切断方法。
【請求項15】半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせて、集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光を照射し、前記加工対象物の内部に改質領域を形成し、この改質領域によって、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に、切断の起点となる領域を形成し、この領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させる、加工対象物切断方法。
【請求項16】前記加工対象物は、その表面に複数の回路部が形成されており、
前記複数の回路部のうち隣接する回路部の間に形成された間隙に臨む前記加工対象物の内部にレーザ光の集光点を合わせる、請求項1?15のいずれかに記載の加工対象物切断方法。
【請求項17】前記複数の回路部にレーザ光が照射されない角度でレーザ光が集光される、請求項16記載の加工対象物切断方法。
【請求項18】半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し、前記加工対象物の内部に、単結晶構造から非晶質構造に変化した領域、単結晶構造から多結晶構造に変化した領域、又は単結晶構造から非晶質構造及び多結晶構造を含む構造に変化した領域である溶融処理領域を形成し、この溶融処理領域によって、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に、切断の起点となる領域を形成し、この領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させる、加工対象物切断方法。
【請求項19】半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物の内部において前記加工対象物のレーザ光入射面に沿った方向に、多光子吸収による改質領域を形成することで、この改質領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させて前記加工対象物を切断することを特徴とする加工対象物切断方法。
【請求項20】請求項19記載の加工対象物切断方法において、前記改質領域を前記レーザ光入射面から所定距離内側に形成することを特徴とする加工対象物切断方法。
【請求項21】半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせて、集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光を照射し、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物の内部において前記加工対象物のレーザ光入射面に沿った方向に、クラック領域を含む改質領域を形成することで、この改質領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させて前記加工対象物を切断することを特徴とする加工対象物切断方法。
【請求項22】請求項21記載の加工対象物切断方法において、前記改質領域を前記レーザ光入射面から所定距離内側に形成することを特徴とする加工対象物切断方法。
【請求項23】半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせて、集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光を照射し、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物の内部において前記加工対象物のレーザ光入射面に沿った方向に、溶融処理領域を含む改質領域を形成することで、この改質領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させて前記加工対象物を切断することを特徴とする加工対象物切断方法。
【請求項24】請求項23記載の加工対象物切断方法において、前記改質領域を前記レーザ光入射面から所定距離内側に形成することを特徴とする加工対象物切断方法。
【請求項25】半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせて、集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1ns以下の条件でレーザ光を照射し、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物の内部において前記加工対象物のレーザ光入射面に沿った方向に、屈折率が変化した領域である屈折率変化領域を含む改質領域を形成することで、この改質領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させて前記加工対象物を切断することを特徴とする加工対象物切断方法。
【請求項26】請求項25記載の加工対象物切断方法において、前記改質領域を前記レーザ光入射面から所定距離内側に形成することを特徴とする加工対象物切断方法。
【請求項27】半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせて、集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光を照射し、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物の内部において前記加工対象物のレーザ光入射面に沿った方向に改質領域を形成することで、この改質領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させて前記加工対象物を切断することを特徴とする加工対象物切断方法。
【請求項28】請求項27記載の加工対象物切断方法において、前記改質領域を前記レーザ光入射面から所定距離内側に形成することを特徴とする加工対象物切断方法。
【請求項29】半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物の内部において前記加工対象物のレーザ光入射面に沿った方向に、単結晶構造から非晶質構造に変化した領域、単結晶構造から多結晶構造に変化した領域、又は単結晶構造から非晶質構造及び多結晶構造を含む構造に変化した領域である溶融処理領域を形成することで、この溶融処理領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させて前記加工対象物を切断することを特徴とする加工対象物切断方法。
【請求項30】請求項29記載の加工対象物切断方法において、前記溶融処理領域を前記レーザ光入射面から所定距離内側に形成する加工対象物切断方法。
【請求項31】前記加工対象物に力を加えることによって、前記切断の起点となる領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させることで、前記切断予定ラインに沿って前記加工対象物を切断する、請求項18記載の加工対象物切断方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
【0002】
本発明は、半導体材料基板からなる加工対象物の切断に使用される加工対象物切断方法に関する。
【0003】
【従来の技術】
レーザ応用の一つに切断があり、レーザによる一般的な切断は次の通りである。例えば半導体ウェハやガラス基板のような加工対象物の切断する箇所に、加工対象物が吸収する波長のレーザ光を照射し、レーザ光の吸収により切断する箇所において加工対象物の表面から裏面に向けて加熱溶融を進行させて加工対象物を切断する。しかし、この方法では加工対象物の表面のうち切断する箇所となる領域周辺も溶融される。よって、加工対象物が半導体ウェハの場合、半導体ウェハの表面に形成された半導体素子のうち、上記領域付近に位置する半導体素子が溶融する恐れがある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
加工対象物の表面の溶融を防止する方法として、例えば、特開2000-219528号公報や特開2000-15467号公報に開示されたレーザによる切断方法がある。これらの公報の切断方法では、加工対象物の切断する箇所をレーザ光により加熱し、そして加工対象物を冷却することにより、加工対象物の切断する箇所に熱衝撃を生じさせて加工対象物を切断する。
【0005】
しかし、これらの公報の切断方法では、加工対象物に生じる熱衝撃が大きいと、加工対象物の表面に、切断予定ラインから外れた割れやレーザ照射していない先の箇所までの割れ等の不必要な割れが発生することがある。よって、これらの切断方法では精密切断をすることができない。特に、加工対象物が半導体ウェハ、液晶表示装置が形成されたガラス基板や電極パターンが形成されたガラス基板の場合、この不必要な割れにより半導体チップ、液晶表示装置や電極パターンが損傷することがある。また、これらの切断方法では平均入力エネルギーが大きいので、半導体チップ等に与える熱的ダメージも大きい。
【0006】
本発明の目的は、半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の表面に不必要な割れを発生させることなくかつその表面が溶融しない加工対象物切断方法を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る加工対象物切断方法は、半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し、加工対象物の内部に多光子吸収による改質領域を形成し、この改質領域によって、加工対象物の切断予定ラインに沿って加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に、切断の起点となる領域を形成し、この領域を起点として加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る加工対象物切断方法によれば、加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射しかつ多光子吸収という現象を利用することにより、加工対象物の内部に改質領域を形成している。加工対象物の切断する箇所に何らかの起点があると、加工対象物を比較的小さな力で割って切断することができる。本発明に係る加工対象物切断方法によれば、改質領域を起点として切断予定ラインに沿って加工対象物が割れることにより、加工対象物を切断することができる。よって、比較的小さな力で加工対象物を切断することができるので、加工対象物の表面に切断予定ラインから外れた不必要な割れを発生させることなく加工対象物の切断が可能となる。
【0009】
また、本発明に係る加工対象物切断方法によれば、加工対象物の内部に局所的に多光子吸収を発生させて改質領域を形成している。よって、加工対象物の表面ではレーザ光がほとんど吸収されないので、加工対象物の表面が溶融することはない。なお、集光点とはレーザ光が集光した箇所のことである。切断予定ラインは加工対象物の表面や内部に実際に引かれた線でもよいし、仮想の線でもよい。
【0010】
本発明に係る加工対象物切断方法は、半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせて、集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光を照射し、加工対象物の内部にクラック領域を含む改質領域を形成し、この改質領域によって、加工対象物の切断予定ラインに沿って加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に、切断の起点となる領域を形成し、この領域を起点として加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る加工対象物切断方法によれば、加工対象物の内部に集光点を合わせて、集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光を照射している。このため、加工対象物の内部では多光子吸収による光学的損傷という現象が発生する。この光学的損傷により加工対象物の内部に熱ひずみが誘起され、これにより加工対象物の内部にクラック領域が形成される。このクラック領域は上記改質領域の一例であるので、本発明に係る加工対象物切断方法によれば、加工対象物の表面に溶融や切断予定ラインから外れた不必要な割れを発生させることなく、レーザ加工が可能となる。なお、ピークパワー密度とは、パルスレーザ光の集光点の電界強度を意味する。
【0012】
本発明に係る加工対象物切断方法は、半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせて、集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光を照射し、加工対象物の内部に溶融処理領域を含む改質領域を形成し、この改質領域によって、加工対象物の切断予定ラインに沿って加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に、切断の起点となる領域を形成し、この領域を起点として加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る加工対象物切断方法によれば、加工対象物の内部に集光点を合わせて、集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光を照射している。よって、加工対象物の内部は多光子吸収によって局所的に加熱される。この加熱により加工対象物の内部に溶融処理領域が形成される。この溶融処理領域は上記改質領域の一例であるので、本発明に係る加工対象物切断方法によれば、加工対象物の表面に溶融や切断予定ラインから外れた不必要な割れを発生させることなく、レーザ加工が可能となる。この加工対象物としては、例えば、半導体材料を含む部材がある。
【0014】
本発明に係る加工対象物切断方法は、半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせて、集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1ns以下の条件でレーザ光を照射し、加工対象物の内部に屈折率が変化した領域である屈折率変化領域を含む改質領域を形成し、この改質領域によって、加工対象物の切断予定ラインに沿って加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に、切断の起点となる領域を形成し、この領域を起点として加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る加工対象物切断方法によれば、加工対象物の内部に集光点を合わせて、集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1ns以下の条件でレーザ光を照射している。本発明のようにパルス幅を極めて短くして、多光子吸収を加工対象物の内部に起こさせると、多光子吸収によるエネルギーが熱エネルギーに転化せずに、加工対象物の内部にはイオン価数変化、結晶化又は分極配向等の永続的な構造変化が誘起されて屈折率変化領域が形成される。この屈折率変化領域は上記改質領域の一例であるので、本発明に係る加工対象物切断方法によれば、加工対象物の表面に溶融や切断予定ラインから外れた不必要な割れを発生させることなく、レーザ加工が可能となる。
【0016】
上記本発明に係る加工対象物切断方法に適用できる態様は以下の通りである。レーザ光源から出射されるレーザ光はパルスレーザ光を含むようにすることができる。パルスレーザ光によればレーザのエネルギーを空間的かつ時間的に集中させることができるので、レーザ光源が一つであっても、レーザ光の集光点の電界強度(ピークパワー密度)を多光子吸収の発生が可能な大きさにすることができる。
【0017】
加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射するとは、一つのレーザ光源から出射されたレーザ光を集光して加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射する、を例示できる。これによればレーザ光を集光しているので、レーザ光源が一つであってもレーザ光の集光点の電界強度を多光子吸収の発生が可能な大きさにすることができる。
【0018】
加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射するとは、複数のレーザ光源から出射された各レーザ光を加工対象物の内部に集光点を合わせて異なる方向から照射する、を例示できる。これによれば、複数のレーザ光源を用いているので、レーザ光の集光点の電界強度を多光子吸収の発生が可能な大きさにすることができる。よって、パルスレーザ光に比べて瞬間的なパワーが小さい連続波レーザ光であっても改質領域の形成が可能となる。複数のレーザ光源から出射された各レーザ光は、加工対象物の表面から入射してもよい。また、複数のレーザ光源は、加工対象物の表面から入射するレーザ光を出射するレーザ光源と、加工対象物の裏面から入射するレーザ光を出射するレーザ光源と、を含むようにしてもよい。複数のレーザ光源は、切断予定ラインに沿ってレーザ光源がアレイ状に配置された光源部を含むようにしてもよい。これによれば、切断予定ラインに沿って複数の集光点を同時に形成することができるので、加工速度を向上させることができる。
【0019】
改質領域は、加工対象物の内部に合わされたレーザ光の集光点に対して、加工対象物を相対的に移動させることにより形成される。これによれば、上記相対的移動により、加工対象物の表面上の切断予定ラインに沿って加工対象物の内部に改質領域を形成している。
【0020】
加工対象物に力を加えることによって、切断の起点となる領域を起点として加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させることで、切断予定ラインに沿って加工対象物を切断するようにしてもよい。切断の起点となる領域の形成工程において加工対象物を切断できない場合、この切断工程により加工対象物を切断する。切断工程は、改質領域を起点として加工対象物を割るので、比較的小さな力で加工対象物を切断することができる。これにより、加工対象物の表面に切断予定ラインから外れた不必要な割れを発生させることなく加工対象物の切断が可能となる。
【0021】
また、加工対象物としては、照射されたレーザ光の透過性を有する部材がある。また、この加工対象物切断方法は、表面に電子デバイス又は電極パターンが形成されている加工対象物に適用することができる。電子デバイスとは、半導体素子等を意味する。
【0022】
本発明に係る加工対象物切断方法は、半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせて、集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光を照射し、加工対象物の内部に改質領域を形成し、この改質領域によって、加工対象物の切断予定ラインに沿って加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に、切断の起点となる領域を形成し、この領域を起点として加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させることを特徴とする。これらの加工対象物切断方法によれば、上記本発明に係る加工対象物切断方法と同様の理由により、加工対象物の表面に溶融や切断予定ラインから外れた不必要な割れを発生させることなく、レーザ切断加工が可能となる。
本発明に係る加工対象物切断方法において、加工対象物は、その表面に複数の回路部が形成されており、複数の回路部のうち隣接する回路部の間に形成された間隙に臨む加工対象物の内部にレーザ光の集光点を合わせる、ようにすることができる。これによれば、隣接する回路部の間に形成された間隙の位置において、加工対象物を確実に切断することができる。
【0023】
本発明に係る加工対象物切断方法において、複数の回路部にレーザ光が照射されない角度でレーザ光が集光される、ようにすることができる。これによれば、レーザ光が回路部に入射するのを防ぐことができ、回路部をレーザ光から保護することができる。
【0024】
本発明に係る加工対象物切断方法は、半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し、加工対象物の内部に、単結晶構造から非晶質構造に変化した領域、単結晶構造から多結晶構造に変化した領域、又は単結晶構造から非晶質構造及び多結晶構造を含む構造に変化した領域である溶融処理領域を形成し、この溶融処理領域によって、加工対象物の切断予定ラインに沿って加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に、切断の起点となる領域を形成し、この領域を起点として加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させることを特徴とする。本発明に係る加工対象物切断方法によれば、上記と同様の理由により加工対象物の表面に不必要な割れを発生させることなくかつその表面が溶融しないレーザ加工が可能となる。なお、溶融処理領域の形成は多光子吸収が原因の場合もあるし、他の原因の場合もある。
【0025】
【発明の実施の形態】
【0026】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて説明する。本実施形態に係るレーザ加工方法は、多光子吸収により改質領域を形成している。多光子吸収はレーザ光の強度を非常に大きくした場合に発生する現象である。まず、多光子吸収について簡単に説明する。
【0027】
材料の吸収のバンドギャップEGよりも光子のエネルギーhνが小さいと光学的に透明となる。よって、材料に吸収が生じる条件はhν>EGである。しかし、光学的に透明でも、レーザ光の強度を非常に大きくするとnhν>EGの条件(n=2,3,4,・・・である)で材料に吸収が生じる。この現象を多光子吸収という。パルス波の場合、レーザ光の強度はレーザ光の集光点のピークパワー密度(W/cm2)で決まり、例えばピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上の条件で多光子吸収が生じる。ピークパワー密度は、(集光点におけるレーザ光の1パルス当たりのエネルギー)÷(レーザ光のビームスポット断面積×パルス幅)により求められる。また、連続波の場合、レーザ光の強度はレーザ光の集光点の電界強度(W/cm2)で決まる。
【0028】
このような多光子吸収を利用する本実施形態に係るレーザ加工の原理について図1?図6を用いて説明する。図1はレーザ加工中の加工対象物1の平面図であり、図2は図1に示す加工対象物1のII-II線に沿った断面図であり、図3はレーザ加工後の加工対象物1の平面図であり、図4は図3に示す加工対象物1のIV-IV線に沿った断面図であり、図5は図3に示す加工対象物1のV-V線に沿った断面図であり、図6は切断された加工対象物1の平面図である。
【0029】
図1及び図2に示すように、加工対象物1の表面3には切断予定ライン5がある。切断予定ライン5は直線状に延びた仮想線である。本実施形態に係るレーザ加工は、多光子吸収が生じる条件で加工対象物1の内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを加工対象物1に照射して改質領域7を形成する。なお、集光点とはレーザ光Lが集光した箇所のことである。
【0030】
レーザ光Lを切断予定ライン5に沿って(すなわち矢印A方向に沿って)相対的に移動させることにより、集光点Pを切断予定ライン5に沿って移動させる。これにより、図3?図5に示すように改質領域7が切断予定ライン5に沿って加工対象物1の内部にのみ形成される。本実施形態に係るレーザ加工方法は、加工対象物1がレーザ光Lを吸収することにより加工対象物1を発熱させて改質領域7を形成するのではない。加工対象物1にレーザ光Lを透過させ加工対象物1の内部に多光子吸収を発生させて改質領域7を形成している。よって、加工対象物1の表面3ではレーザ光Lがほとんど吸収されないので、加工対象物1の表面3が溶融することはない。
【0031】
加工対象物1の切断において、切断する箇所に起点があると加工対象物1はその起点から割れるので、図6に示すように比較的小さな力で加工対象物1を切断することができる。よって、加工対象物1の表面3に不必要な割れを発生させることなく加工対象物1の切断が可能となる。
【0032】
なお、改質領域を起点とした加工対象物の切断は、次の二通りが考えられる。一つは、改質領域形成後、加工対象物に人為的な力が印加されることにより、改質領域を起点として加工対象物が割れ、加工対象物が切断される場合である。これは、例えば加工対象物の厚みが大きい場合の切断である。人為的な力が印加されるとは、例えば、加工対象物の切断予定ラインに沿って加工対象物に曲げ応力やせん断応力を加えたり、加工対象物に温度差を与えることにより熱応力を発生させたりすることである。他の一つは、改質領域を形成することにより、改質領域を起点として加工対象物の断面方向(厚さ方向)に向かって自然に割れ、結果的に加工対象物が切断される場合である。これは、例えば加工対象物の厚みが小さい場合、改質領域が1つでも可能であり、加工対象物の厚みが大きい場合、厚さ方向に複数の改質領域を形成することで可能となる。なお、この自然に割れる場合も、切断する箇所の表面上において、改質領域が形成されていない部分まで割れが先走ることがなく、改質部を形成した部分のみを割断することができるので、割断を制御よくすることができる。近年、シリコンウェハ等の半導体ウェハの厚さは薄くなる傾向にあるので、このような制御性のよい割断方法は大変有効である。
【0033】
さて、本実施形態において多光子吸収により形成される改質領域として、次の(1)?(3)がある。
(1)改質領域が一つ又は複数のクラックを含むクラック領域の場合
レーザ光を加工対象物(例えばガラスやLiTaO3からなる圧電材料)の内部に集光点を合わせて、集光点における電界強度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件で照射する。このパルス幅の大きさは、多光子吸収を生じさせつつ加工対象物表面に余計なダメージを与えずに、加工対象物の内部にのみクラック領域を形成できる条件である。これにより、加工対象物の内部には多光子吸収による光学的損傷という現象が発生する。この光学的損傷により加工対象物の内部に熱ひずみが誘起され、これにより加工対象物の内部にクラック領域が形成される。電界強度の上限値としては、例えば1×1012(W/cm2)である。パルス幅は例えば1ns?200nsが好ましい。なお、多光子吸収によるクラック領域の形成は、例えば、第45回レーザ熱加工研究会論文集(1998年.12月)の第23頁?第28頁の「固体レーザー高調波によるガラス基板の内部マーキング」に記載されている。
【0034】
本発明者は、電界強度とクラックの大きさとの関係を実験により求めた。実験条件は次ぎの通りである。
(A)加工対象物:パイレックス(登録商標)ガラス(厚さ700μm)
(B)レーザ
光源:半導体レーザ励起Nd:YAGレーザ
波長:1064nm
レーザ光スポット断面積:3.14×10-8cm2
発振形態:Qスイッチパルス
繰り返し周波数:100kHz
パルス幅:30ns
出力:出力<1mJ/パルス
レーザ光品質:TEM00
偏光特性:直線偏光
(C)集光用レンズ
レーザ光波長に対する透過率:60パーセント
(D)加工対象物が載置される載置台の移動速度:100mm/秒
なお、レーザ光品質がTEM00とは、集光性が高くレーザ光の波長程度まで集光可能を意味する。
【0035】
図7は上記実験の結果を示すグラフである。横軸はピークパワー密度であり、レーザ光がパルスレーザ光なので電界強度はピークパワー密度で表される。縦軸は1パルスのレーザ光により加工対象物の内部に形成されたクラック部分(クラックスポット)の大きさを示している。クラックスポットが集まりクラック領域となる。クラックスポットの大きさは、クラックスポットの形状のうち最大の長さとなる部分の大きさである。グラフ中の黒丸で示すデータは集光用レンズ(C)の倍率が100倍、開口数(NA)が0.80の場合である。一方、グラフ中の白丸で示すデータは集光用レンズ(C)の倍率が50倍、開口数(NA)が0.55の場合である。ピークパワー密度が1011(W/cm2)程度から加工対象物の内部にクラックスポットが発生し、ピークパワー密度が大きくなるに従いクラックスポットも大きくなることが分かる。
【0036】
次に、本実施形態に係るレーザ加工において、クラック領域形成による加工対象物の切断のメカニズムについて図8?図11を用いて説明する。図8に示すように、多光子吸収が生じる条件で加工対象物1の内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを加工対象物1に照射して切断予定ラインに沿って内部にクラック領域9を形成する。クラック領域9は一つ又は複数のクラックを含む領域である。図9に示すようにクラック領域9を起点としてクラックがさらに成長し、図10に示すようにクラックが加工対象物1の表面3と裏面21に到達し、図11に示すように加工対象物1が割れることにより加工対象物1が切断される。加工対象物の表面と裏面に到達するクラックは自然に成長する場合もあるし、加工対象物に力が印加されることにより成長する場合もある。
【0037】
(2)改質領域が溶融処理領域の場合
レーザ光を加工対象物(例えばシリコンのような半導体材料)の内部に集光点を合わせて、集光点における電界強度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件で照射する。これにより加工対象物の内部は多光子吸収によって局所的に加熱される。この加熱により加工対象物の内部に溶融処理領域が形成される。溶融処理領域とは一旦溶融後再固化した領域、溶融状態中の領域及び溶融から再固化する状態中の領域のうち少なくともいずれか一つを意味する。また、溶融処理領域は相変化した領域や結晶構造が変化した領域ということもできる。また、溶融処理領域とは単結晶構造、非晶質構造、多結晶構造において、ある構造が別の構造に変化した領域ということもできる。つまり、例えば、単結晶構造から非晶質構造に変化した領域、単結晶構造から多結晶構造に変化した領域、単結晶構造から非晶質構造及び多結晶構造を含む構造に変化した領域を意味する。加工対象物がシリコン単結晶構造の場合、溶融処理領域は例えば非晶質シリコン構造である。なお、電界強度の上限値としては、例えば1×1012(W/cm2)である。パルス幅は例えば1ns?200nsが好ましい。
【0038】
本発明者は、シリコンウェハの内部で溶融処理領域が形成されることを実験により確認した。実験条件は次ぎの通りである。
(A)加工対象物:シリコンウェハ(厚さ350μm、外径4インチ)
(B)レーザ
光源:半導体レーザ励起Nd:YAGレーザ
波長:1064nm
レーザ光スポット断面積:3.14×10-8cm2
発振形態:Qスイッチパルス
繰り返し周波数:100kHz
パルス幅:30ns
出力:20μJ/パルス
レーザ光品質:TEM00
偏光特性:直線偏光
(C)集光用レンズ
倍率:50倍
NA:0.55
レーザ光波長に対する透過率:60パーセント
(D)加工対象物が載置される載置台の移動速度:100mm/秒
【0039】
図12は上記条件でのレーザ加工により切断されたシリコンウェハの一部における断面の写真を表した図である。シリコンウェハ11の内部に溶融処理領域13が形成されている。なお、上記条件により形成された溶融処理領域の厚さ方向の大きさは100μm程度である。
【0040】
溶融処理領域13が多光子吸収により形成されたことを説明する。図13は、レーザ光の波長とシリコン基板の内部の透過率との関係を示すグラフである。ただし、シリコン基板の表面側と裏面側それぞれの反射成分を除去し、内部のみの透過率を示している。シリコン基板の厚みtが50μm、100μm、200μm、500μm、1000μmの各々について上記関係を示した。
【0041】
例えば、Nd:YAGレーザの波長である1064nmにおいて、シリコン基板の厚みが500μm以下の場合、シリコン基板の内部ではレーザ光が80%以上透過することが分かる。図12に示すシリコンウェハ11の厚さは350μmであるので、多光子吸収による溶融処理領域はシリコンウェハの中心付近、つまり表面から175μmの部分に形成される。この場合の透過率は、厚さ200μmのシリコンウェハを参考にすると、90%以上なので、レーザ光がシリコンウェハ11の内部で吸収されるのは僅かであり、ほとんどが透過する。このことは、シリコンウェハ11の内部でレーザ光が吸収されて、溶融処理領域がシリコンウェハ11の内部に形成(つまりレーザ光による通常の加熱で溶融処理領域が形成)されたものではなく、溶融処理領域が多光子吸収により形成されたことを意味する。多光子吸収による溶融処理領域の形成は、例えば、溶接学会全国大会講演概要第66集(2000年4月)の第72頁?第73頁の「ピコ秒パルスレーザによるシリコンの加工特性評価」に記載されている。
【0042】
なお、シリコンウェハは、溶融処理領域を起点として断面方向に向かって割れを発生させ、その割れがシリコンウェハの表面と裏面に到達することにより、結果的に切断される。シリコンウェハの表面と裏面に到達するこの割れは自然に成長する場合もあるし、加工対象物に力が印加されることにより成長する場合もある。なお、溶融処理領域からシリコンウェハの表面と裏面に割れが自然に成長するのは、一旦溶融後再固化した状態となった領域から割れが成長する場合、溶融状態の領域から割れが成長する場合及び溶融から再固化する状態の領域から割れが成長する場合のうち少なくともいずれか一つである。いずれの場合も切断後の切断面は図12に示すように内部にのみ溶融処理領域が形成される。加工対象物の内部に溶融処理領域を形成する場合、割断時、切断予定ラインから外れた不必要な割れが生じにくいので、割断制御が容易となる。
【0043】
(3)改質領域が屈折率変化領域の場合
レーザ光を加工対象物(例えばガラス)の内部に集光点を合わせて、集光点における電界強度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1ns以下の条件で照射する。パルス幅を極めて短くして、多光子吸収を加工対象物の内部に起こさせると、多光子吸収によるエネルギーが熱エネルギーに転化せずに、加工対象物の内部にはイオン価数変化、結晶化又は分極配向等の永続的な構造変化が誘起されて屈折率変化領域が形成される。電界強度の上限値としては、例えば1×1012(W/cm2)である。パルス幅は例えば1ns以下が好ましく、1ps以下がさらに好ましい。多光子吸収による屈折率変化領域の形成は、例えば、第42回レーザ熱加工研究会論文集(1997年.11月)の第105頁?第111頁の「フェムト秒レーザー照射によるガラス内部への光誘起構造形成」に記載されている。
【0044】
次に、本実施形態の具体例を説明する。
[第1例]
本実施形態の第1例に係るレーザ加工方法について説明する。図14はこの方法に使用できるレーザ加工装置100の概略構成図である。レーザ加工装置100は、レーザ光Lを発生するレーザ光源101と、レーザ光Lの出力やパルス幅等を調節するためにレーザ光源101を制御するレーザ光源制御部102と、レーザ光Lの反射機能を有しかつレーザ光Lの光軸の向きを90°変えるように配置されたダイクロイックミラー103と、ダイクロイックミラー103で反射されたレーザ光Lを集光する集光用レンズ105と、集光用レンズ105で集光されたレーザ光Lが照射される加工対象物1が載置される載置台107と、載置台107をX軸方向に移動させるためのX軸ステージ109と、載置台107をX軸方向に直交するY軸方向に移動させるためのY軸ステージ111と、載置台107をX軸及びY軸方向に直交するZ軸方向に移動させるためのZ軸ステージ113と、これら三つのステージ109,111,113の移動を制御するステージ制御部115と、を備える。
【0045】
Z軸方向は加工対象物1の表面3と直交する方向なので、加工対象物1に入射するレーザ光Lの焦点深度の方向となる。よって、Z軸ステージ113をZ軸方向に移動させることにより、加工対象物1の内部にレーザ光Lの集光点Pを合わせることができる。また、この集光点PのX(Y)軸方向の移動は、加工対象物1をX(Y)軸ステージ109(111)によりX(Y)軸方向に移動させることにより行う。X(Y)軸ステージ109(111)が移動手段の一例となる。
【0046】
レーザ光源101はパルスレーザ光を発生するNd:YAGレーザである。レーザ光源101に用いることができるレーザとして、この他、Nd:YVO4レーザ、Nd:YLFレーザやチタンサファイアレーザがある。クラック領域や溶融処理領域を形成する場合、Nd:YAGレーザ、Nd:YVO4レーザ、Nd:YLFレーザを用いるのが好適である。屈折率変化領域を形成する場合、チタンサファイアレーザを用いるのが好適である。
【0047】
第1例では加工対象物1の加工にパルスレーザ光を用いているが、多光子吸収を起こさせることができるなら連続波レーザ光でもよい。なお、本発明においてレーザ光はレーザビームを含む意味である。集光用レンズ105は集光手段の一例である。Z軸ステージ113はレーザ光の集光点を加工対象物の内部に合わせる手段の一例である。集光用レンズ105をZ軸方向に移動させることによっても、レーザ光の集光点を加工対象物の内部に合わせることができる。
【0048】
レーザ加工装置100はさらに、載置台107に載置された加工対象物1を可視光線により照明するために可視光線を発生する観察用光源117と、ダイクロイックミラー103及び集光用レンズ105と同じ光軸上に配置された可視光用のビームスプリッタ119と、を備える。ビームスプリッタ119と集光用レンズ105との間にダイクロイックミラー103が配置されている。ビームスプリッタ119は、可視光線の約半分を反射し残りの半分を透過する機能を有しかつ可視光線の光軸の向きを90°変えるように配置されている。観察用光源117から発生した可視光線はビームスプリッタ119で約半分が反射され、この反射された可視光線がダイクロイックミラー103及び集光用レンズ105を透過し、加工対象物1の切断予定ライン5等を含む表面3を照明する。
【0049】
レーザ加工装置100はさらに、ビームスプリッタ119、ダイクロイックミラー103及び集光用レンズ105と同じ光軸上に配置された撮像素子121及び結像レンズ123を備える。撮像素子121としては例えばCCD(charge-coupled device)カメラがある。切断予定ライン5等を含む表面3を照明した可視光線の反射光は、集光用レンズ105、ダイクロイックミラー103、ビームスプリッタ119を透過し、結像レンズ123で結像されて撮像素子121で撮像され、撮像データとなる。
【0050】
レーザ加工装置100はさらに、撮像素子121から出力された撮像データが入力される撮像データ処理部125と、レーザ加工装置100全体を制御する全体制御部127と、モニタ129と、を備える。撮像データ処理部125は、撮像データを基にして観察用光源117で発生した可視光の焦点が表面3上に合わせるための焦点データを演算する。この焦点データを基にしてステージ制御部115がZ軸ステージ113を移動制御することにより、可視光の焦点が表面3に合うようにする。よって、撮像データ処理部125はオートフォーカスユニットとして機能する。また、撮像データ処理部125は、撮像データを基にして表面3の拡大画像等の画像データを演算する。この画像データは全体制御部127に送られ、全体制御部で各種処理がなされ、モニタ129に送られる。これにより、モニタ129に拡大画像等が表示される。
【0051】
全体制御部127には、ステージ制御部115からのデータ、撮像データ処理部125からの画像データ等が入力し、これらのデータも基にしてレーザ光源制御部102、観察用光源117及びステージ制御部115を制御することにより、レーザ加工装置100全体を制御する。よって、全体制御部127はコンピュータユニットとして機能する。
【0052】
次に、図14及び図15を用いて、本実施形態の第1例に係るレーザ加工方法を説明する。図15は、このレーザ加工方法を説明するためのフローチャートである。加工対象物1はシリコンウェハである。
【0053】
まず、加工対象物1の光吸収特性を図示しない分光光度計等により測定する。この測定結果に基づいて、加工対象物1に対して透明な波長又は吸収の少ない波長のレーザ光Lを発生するレーザ光源101を選定する(S101)。次に、加工対象物1の厚さを測定する。厚さの測定結果及び加工対象物1の屈折率を基にして、加工対象物1のZ軸方向の移動量を決定する(S103)。これは、レーザ光Lの集光点Pが加工対象物1の内部に位置させるために、加工対象物1の表面3に位置するレーザ光Lの集光点を基準とした加工対象物1のZ軸方向の移動量である。この移動量を全体制御部127に入力される。
【0054】
加工対象物1をレーザ加工装置100の載置台107に載置する。そして、観察用光源117から可視光を発生させて加工対象物1を照明する(S105)。照明された切断予定ライン5を含む加工対象物1の表面3を撮像素子121により撮像する。この撮像データは撮像データ処理部125に送られる。この撮像データに基づいて撮像データ処理部125は観察用光源117の可視光の焦点が表面3に位置するような焦点データを演算する(S107)。
【0055】
この焦点データはステージ制御部115に送られる。ステージ制御部115は、この焦点データを基にしてZ軸ステージ113をZ軸方向の移動させる(S109)。これにより、観察用光源117の可視光の焦点が表面3に位置する。なお、撮像データ処理部125は撮像データに基づいて、切断予定ライン5を含む加工対象物1の表面3の拡大画像データを演算する。この拡大画像データは全体制御部127を介してモニタ129に送られ、これによりモニタ129に切断予定ライン5付近の拡大画像が表示される。
【0056】
全体制御部127には予めステップS103で決定された移動量データが入力されており、この移動量データがステージ制御部115に送られる。ステージ制御部115はこの移動量データに基づいて、レーザ光Lの集光点Pが加工対象物1の内部となる位置に、Z軸ステージ113により加工対象物1をZ軸方向に移動させる(S111)。
【0057】
次に、レーザ光源101からレーザ光Lを発生させて、レーザ光Lを加工対象物1の表面3の切断予定ライン5に照射する。レーザ光Lの集光点Pは加工対象物1の内部に位置しているので、溶融処理領域は加工対象物1の内部にのみ形成される。そして、切断予定ライン5に沿うようにX軸ステージ109やY軸ステージ111を移動させて、溶融処理領域を切断予定ライン5に沿うように加工対象物1の内部に形成する(S113)。そして、加工対象物1を切断予定ライン5に沿って曲げることにより、加工対象物1を切断する(S115)。これにより、加工対象物1をシリコンチップに分割する。
【0058】
第1例の効果を説明する。これによれば、多光子吸収を起こさせる条件でかつ加工対象物1の内部に集光点Pを合わせて、パルスレーザ光Lを切断予定ライン5に照射している。そして、X軸ステージ109やY軸ステージ111を移動させることにより、集光点Pを切断予定ライン5に沿って移動させている。これにより、改質領域(例えばクラック領域、溶融処理領域、屈折率変化領域)を切断予定ライン5に沿うように加工対象物1の内部に形成している。加工対象物の切断する箇所に何らかの起点があると、加工対象物を比較的小さな力で割って切断することができる。よって、改質領域を起点として切断予定ライン5に沿って加工対象物1を割ることにより、比較的小さな力で加工対象物1を切断することができる。これにより、加工対象物1の表面3に切断予定ライン5から外れた不必要な割れを発生させることなく加工対象物1を切断することができる。
【0059】
また、第1例によれば、加工対象物1に多光子吸収を起こさせる条件でかつ加工対象物1の内部に集光点Pを合わせて、パルスレーザ光Lを切断予定ライン5に照射している。よって、パルスレーザ光Lは加工対象物1を透過し、加工対象物1の表面3ではパルスレーザ光Lがほとんど吸収されないので、改質領域形成が原因で表面3が溶融等のダメージを受けることはない。
【0060】
以上説明したように第1例によれば、加工対象物1の表面3に切断予定ライン5から外れた不必要な割れや溶融が生じることなく、加工対象物1を切断することができる。よって、加工対象物1が例えば半導体ウェハの場合、半導体チップに切断予定ラインから外れた不必要な割れや溶融が生じることなく、半導体チップを半導体ウェハから切り出すことができる。表面に電極パターンが形成されている加工対象物や、圧電素子ウェハや液晶等の表示装置が形成されたガラス基板のように表面に電子デバイスが形成されている加工対象物についても同様である。よって、第1例によれば、加工対象物を切断することにより作製される製品(例えば半導体チップ、圧電デバイスチップ、液晶等の表示装置)の歩留まりを向上させることができる。
【0061】
また、第1例によれば、加工対象物1の表面3の切断予定ライン5は溶融しないので、切断予定ライン5の幅(この幅は、例えば半導体ウェハの場合、半導体チップとなる領域同士の間隔である。)を小さくできる。これにより、一枚の加工対象物1から作製される製品の数が増え、製品の生産性を向上させることができる。
【0062】
また、第1例によれば、加工対象物1の切断加工にレーザ光を用いるので、ダイヤモンドカッタを用いたダイシングよりも複雑な加工が可能となる。例えば、図16に示すように切断予定ライン5が複雑な形状であっても、第1例によれば切断加工が可能となる。これらの効果は後に説明する例でも同様である。
【0063】
なお、レーザ光源は一つに限らず複数でもよい。例えば、図17はレーザ光源が複数における本実施形態の第1例に係るレーザ加工方法を説明する模式図である。これは、三つのレーザ光源15,17,19から出射された三つのレーザ光を加工対象物1の内部に集光点Pを合わせて異なる方向から照射している。レーザ光源15,17からの各レーザ光は加工対象物1の表面3から入射する。レーザ光源19からのレーザ光は加工対象物1の裏面3から入射する。これよれば、複数のレーザ光源を用いるので、レーザ光がパルスレーザ光に比べてパワーが小さい連続波レーザ光であっても、集光点の電界強度を多光子吸収が発生する大きさにすることが可能となる。同様の理由により集光用レンズがなくても多光子吸収が発生させることが可能となる。なお、この例では三つのレーザ光源15,17,19により集光点Pを形成しているが、本発明はこれに限定されずレーザ光源が複数であればよい。
【0064】
図18はレーザ光源が複数における本実施形態の第1例に係る他のレーザ加工方法を説明する模式図である。この例は、複数のレーザ光源23が切断予定ライン5に沿って一列に配置された三つのアレイ光源部25,27,29を備えている。アレイ光源部25,27,29の各々において同じ列に配置されたレーザ光源23から出射されたレーザ光が一つの集光点(例えば集光点P1)を形成する。この例によれば切断予定ライン5に沿って複数の集光点P1,P2,・・・を同時に形成することができるので、加工速度を向上させることができる。また、この例では、表面3上であって切断予定ライン5と直交する方向にレーザスキャンすることで改質領域を複数列同時に形成することも可能である。
【0065】
[第2例]
次に、本実施形態の第2例について説明する。この例は光透過性材料の切断方法及び切断装置である。光透過性材料は加工対象物の一例である。この例では、光透過性材料としてLiTaO3からなる厚さが400μm程度の圧電素子ウェハ(基板)を用いている。
【0066】
第2例に係る切断装置は、図14に示すレーザ加工装置100及び図19、図20に示す装置から構成される。図19及び図20に示す装置について説明する。圧電素子ウェハ31は、保持手段としてのウェハシート(フィルム)33に保持されている。このウェハシート33は、圧電素子ウェハ31を保持する側の面が粘着性を有する樹脂製テープ等からなり、弾性を有している。ウェハシート33は、サンプルホルダ35に挟持されて、載置台107上にセットされる。なお、圧電素子ウェハ31は、図19に示されるように、後に切断分離される多数個の圧電デバイスチップ37を含んでいる。各圧電デバイスチップ37は回路部39を有している。この回路部39は、圧電素子ウェハ31の表面に各圧電デバイスチップ37毎に形成されており、隣接する回路部39の間には所定の間隙α(80μm程度)が形成されている。なお、図20は、圧電素子ウェハ31の内部のみに改質部としての微小なクラック領域9が形成された状態を示している。
【0067】
次に、図21に基づいて、第2例に係る光透過性材料の切断方法について説明する。まず、切断対象材料となる光透過性材料(第2例においては、LiTaO3からなる圧電素子ウェハ31)の光吸収特性を測定する(S201)。光吸収特性は、分光光度計等を用いることにより測定可能である。光吸収特性が測定されると、その測定結果に基づいて、切断対象材料に対して透明若しくは吸収の少ない波長のレーザ光Lを出射するレーザ光源101を選定する(S203)。第2例においては、基本波波長が1064nmであるパルス波(PW)型のYAGレーザが選定されている。このYAGレーザは、パルスの繰り返し周波数が20Hzであり、パルス幅が6nsであり、パルスエネルギは300μJである。また、YAGレーザから出射されるレーザ光Lのスポット径は、20μm程度である。
【0068】
次に、切断対象材料の厚さを測定する(S205)。切断対象材料の厚さが測定されると、その測定結果に基づいて、レーザ光Lの集光点が切断対象材料の内部に位置するように、レーザ光Lの光軸方向における切断対象材料の表面(レーザ光Lの入射面)からのレーザ光Lの集光点の変位量(移動量)を決定する(S207)。レーザ光Lの集光点の変位量(移動量)は、切断対象材料の厚さ及び屈折率に対応して、たとえば切断対象材料の厚さの1/2の量に設定される。
【0069】
図22に示されるように、実際のレーザ光Lの集光点Pの位置は、切断対象材料雰囲気(たとえば、空気)中の屈折率と切断対象材料の屈折率との違いにより、集光用レンズ105で集光されたレーザ光Lの集光点Qの位置よりも切断対象材料(圧電素子ウェハ31)の表面から深いところに位置するようになる。すなわち、空気中の場合、「レーザ光Lの光軸方向でのZ軸ステージ113の移動量×切断対象材料の屈折率=実際のレーザ光Lの集光点移動量」という関係が成り立つことになる。レーザ光Lの集光点の変位量(移動量)は、上述した関係(切断対象材料の厚さ及び屈折率)を考慮して設定される。その後、X-Y-Z軸ステージ(本実施形態においては、X軸ステージ109、Y軸ステージ111及びZ軸ステージ113により構成される)上に配置された載置台107に対してウェハシート33に保持された切断対象材料を載置する(S209)。切断対象材料の載置を終えると、観察用光源117から光を出射して、出射した光を切断対象材料に照射する。そして、撮像素子121での撮像結果に基づいて、レーザ光Lの集光点が切断対象材料の表面上に位置するようにZ軸ステージ113を移動させてフォーカス調整を行う(S211)。ここでは、観察用光源117によって得られる圧電素子ウェハ31の表面観察像を撮像素子121により撮像し、撮像データ処理部125が、撮像結果に基づいて、観察用光源117から出射された光が切断対象材料の表面上で焦点を結ぶようにZ軸ステージ113の移動位置を決定し、ステージ制御部115に出力する。ステージ制御部115は、撮像データ処理部125からの出力信号に基づいて、Z軸ステージ113の移動位置が、観察用光源117から出射された光が切断対象材料の表面上に焦点を結ぶ、すなわちレーザ光Lの集光点を切断対象材料の表面上に位置させるための位置となるようにZ軸ステージ113を制御する。
【0070】
観察用光源117から出射された光のフォーカス調整が終わると、レーザ光Lの集光点を切断対象材料の厚さ及び屈折率に対応した集光点に移動させる(S213)。ここでは、切断対象材料の厚さ及び屈折率に対応して決定されたレーザ光Lの集光点の変位量分だけZ軸ステージ113をレーザ光Lの光軸方向に移動させるように、全体制御部127がステージ制御部115に出力信号を送り、出力信号を受けたステージ制御部115がZ軸ステージ113の移動位置を制御する。上述したように、切断対象材料の厚さ及び屈折率に対応して決定されたレーザ光Lの集光点の変位量分だけZ軸ステージ113をレーザ光Lの光軸方向に移動させることにより、レーザ光Lの集光点の切断対象材料の内部への配置が完了する(S215)。
【0071】
レーザ光Lの集光点の切断対象材料の内部への配置が完了すると、レーザ光Lを切断対象材料に照射すると共に、所望の切断パターンにしたがってX軸ステージ109及びY軸ステージ111を移動させる(S217)。レーザ光源101から出射されたレーザ光Lは、図22に示されるように、集光用レンズ105により、隣接する回路部39の間に形成された所定の間隙α(上述したように、80μm)に臨む圧電素子ウェハ31の内部に集光点Pが位置するように集光される。上述した所望の切断パターンは、圧電素子ウェハ31から複数の圧電デバイスチップ37を分離するために、隣接する回路部39の間に形成された間隙にレーザ光Lが照射されるように設定されており、レーザ光Lの照射状態をモニタ129で確認しながらレーザ光Lが照射されることになる。
【0072】
ここで、切断対象材料に照射されるレーザ光Lは、集光用レンズ105により、図22に示されるように、圧電素子ウェハ31の表面(レーザ光Lが入射する面)に形成された回路部39にレーザ光Lが照射されない角度で集光される。このように、回路部39にレーザ光Lが照射されない角度でレーザ光Lを集光することにより、レーザ光Lが回路部39に入射するのを防ぐことができ、回路部39をレーザ光Lから保護することができる。
【0073】
レーザ光源101から出射されたレーザ光Lを、圧電素子ウェハ31の内部に集光点Pが位置するように集光させ、この集光点Pにおけるレーザ光Lのエネルギー密度が切断対象材料の光学的損傷若しくは光学的絶縁破壊のしきい値を越えると、切断対象材料としての圧電素子ウェハ31の内部における集光点P及びその近傍のみに微小なクラック領域9が形成される。このとき、切断対象材料(圧電素子ウェハ31)の表面及び裏面に損傷を及ぼすことはない。
【0074】
次に、図23?図27に基づいて、レーザ光Lの集光点を移動させてクラックを形成する点について説明する。図23に示される略直方体形状の切断対象材料32(光透過性材料)に対して、切断対象材料32の内部にレーザ光Lの集光点が位置するようにレーザ光Lを照射することにより、図24及び図25に示されるように、切断対象材料32の内部における集光点及びその近傍のみに微小なクラック領域9が形成される。また、レーザ光Lの集光点がレーザ光Lの光軸に交差する切断対象材料32の長手方向Dに移動するように、レーザ光Lの走査あるいは切断対象材料32の移動が制御されている。
【0075】
レーザ光源101からはレーザ光Lがパルス状に出射されることから、レーザ光Lの走査あるいは切断対象材料32の移動を行った場合、クラック領域9は、図25に示されるように、切断対象材料32の長手方向Dに沿ってレーザ光Lの走査速度あるいは切断対象材料32の移動速度に対応した間隔を有して複数のクラック領域9が形成されていくことになる。レーザ光Lの走査速度あるいは切断対象材料32の移動速度を遅くすることにより、図26に示されるように、クラック領域9間の間隔を短くして、形成されるクラック領域9の数を増やすことも可能である。また、レーザ光Lの走査速度あるいは切断対象材料の移動速度を更に遅くすることにより、図27に示されるように、クラック領域9が、レーザ光Lの走査方向あるいは切断対象材料32の移動方向、すなわちレーザ光Lの集光点の移動方向に沿って連続的に形成されることになる。クラック領域9間の間隔(形成されるクラック領域9の数)の調整は、レーザ光Lの繰り返し周波数及び切断対象材料32(X軸ステージあるいはY軸ステージ)の移動速度の関係を変化させることでも実現可能である。また、レーザ光Lの繰り返し周波数及び切断対象材料32の移動速度を高くすることでスループットの向上も可能である。
【0076】
上述した所望の切断パターンに沿ってクラック領域9が形成されると(S219)、物理的外力印加又は環境変化等により切断対象材料内、特にクラック領域9が形成された部分に応力を生じさせて、切断対象材料の内部(集光点及びその近傍)のみに形成されたクラック領域9を成長させて、切断対象材料をクラック領域9が形成された位置で切断する(S221)。
【0077】
次に、図28?図32を参照して、物理的外力印加による切断対象材料の切断について説明する。まず、所望の切断パターンに沿ってクラック領域9が形成された切断対象材料(圧電素子ウェハ31)は、サンプルホルダ35に挟持されたウェハシート33に保持された状態で切断装置に配置される。切断装置は、後述するような吸引チャック34、この吸引チャック34が接続される吸引ポンプ(図示せず)、加圧ニードル36(押圧部材)、加圧ニードル36を移動させるための加圧ニードル駆動手段(図示せず)等を有している。加圧ニードル駆動手段としては、電動又は油圧等のアクチュエータを用いることができる。なお、図28?図32においては、回路部39の図示を省略している。
【0078】
圧電素子ウェハ31が切断装置に配置されると、図28に示されるように、分離する圧電デバイスチップ37に対応する位置に吸引チャック34を近づけていく。吸引チャック34を分離する圧電デバイスチップ37に近接もしくは当接させた状態で吸引ポンプ装置を作動させることにより、図29に示されるように、吸引チャック34に分離する圧電デバイスチップ37(圧電素子ウェハ31)を吸着させる。吸引チャック34に分離する圧電デバイスチップ37(圧電素子ウェハ31)を吸着させると、図30に示されるように、ウェハシート33の裏面(圧電素子ウェハ31が保持された面の裏面)側から分離する圧電デバイスチップ37に対応する位置に加圧ニードル36を移動させる。
【0079】
加圧ニードル36がウェハシート33の裏面に当接してから更に加圧ニードル36を移動させると、ウェハシート33が変形すると共に加圧ニードル36により圧電素子ウェハ31に外部から応力を印加されて、クラック領域9が形成されているウェハ部分に応力が生じてクラック領域9が成長する。クラック領域9が圧電素子ウェハ31の表面及び裏面まで成長することにより、圧電素子ウェハ31は、図31に示されるように、分離する圧電デバイスチップ37の端部において切断されて、圧電デバイスチップ37が圧電素子ウェハ31から分離されることになる。なお、ウェハシート33は、上述したように粘着性を有しているので、切断分離された圧電デバイスチップ37が飛散するのを防ぐことができる。
【0080】
圧電デバイスチップ37が圧電素子ウェハ31から分離されると吸引チャック34及び加圧ニードル36をウェハシート33から離れる方向に移動させる。吸引チャック34及び加圧ニードル36が移動すると、分離された圧電デバイスチップ37は吸引チャック34に吸着しているので、図32に示されるように、ウェハシート33から離されることになる。このとき、図示しないイオンエアーブロー装置を用いて、イオンエアーを図32中矢印B方向に送り、分離されて吸引チャック34に吸着している圧電デバイスチップ37と、ウェハシート33に保持されている圧電素子ウェハ31(表面)とをイオンエアー洗浄している。なお、イオンエアー洗浄の代わりに、吸引装置を設けて、塵等を吸引することで切断分離された圧電デバイスチップ37及び圧電素子ウェハ31の洗浄を行うようにしてもよい。環境変化により切断対象材料を切断する方法としては、内部のみにクラック領域9が形成された切断対象材料に対して温度変化を与える方法が存在する。このように、切断対象材料に対して温度変化を与えることにより、クラック領域9が形成されている材料部分に熱応力を生じさせて、クラック領域9を成長させて切断対象材料を切断することができる。
【0081】
このように、第2例においては、集光用レンズ105により、レーザ光源101から出射されたレーザ光Lを、その集光点が光透過性材料(圧電素子ウェハ31)の内部に位置するように集光することで、集光点におけるレーザ光Lのエネルギー密度が光透過性材料の光学的損傷若しくは光学的絶縁破壊のしきい値を越え、光透過性材料の内部における集光点及びその近傍のみに微小なクラック領域9が形成される。そして、形成されたクラック領域9の位置にて光透過性材料が切断されるので、発塵量が極めて低く、ダイシング傷、チッピングあるいは材料表面でのクラック等が発生する可能性も極めて低くなる。また、光透過性材料は、光透過性材料の光学的損傷若しくは光学的絶縁破壊により形成されたクラック領域9に沿って切断されるので、切断の方向安定性が向上し、切断方向の制御を容易に行うことができる。また、ダイヤモンドカッタによるダイシングに比して、ダイシング幅を小さくすることができ、1つの光透過性材料から切断された光透過性材料の数を増やすことが可能となる。これらの結果、第2例によれば、極めて容易且つ適切に光透過性材料を切断することができる。
【0082】
また、物理的外力印加又は環境変化等により切断対象材料内に応力を生じさせることにより、形成されたクラック領域9を成長させて光透過性材料(圧電素子ウェハ31)を切断するので、形成されたクラック領域9の位置にて光透過性材料を確実に切断することができる。
【0083】
また、加圧ニードル36を用いて光透過性材料(圧電素子ウェハ31)に応力を加えることにより、クラック領域9を成長させて光透過性材料を切断しているので、形成されたクラック領域9の位置にて光透過性材料をより一層確実に切断することができる。
【0084】
また、複数の回路部39が形成された圧電素子ウェハ31(光透過性材料)を各圧電デバイスチップ37毎に切断分離する場合、集光用レンズ105により、隣接する回路部39の間に形成された間隙に臨むウェハ部分の内部に集光点が位置するようにレーザ光Lを集光し、クラック領域9を形成させるので、隣接する回路部39の間に形成された間隙の位置において、圧電素子ウェハ31を確実に切断することができる。
【0085】
また、光透過性材料(圧電素子ウェハ31)の移動あるいはレーザ光Lを走査して集光点をレーザ光Lの光軸に交差する方向、たとえば直交する方向に移動させることにより、クラック領域9が集光点の移動方向に沿って連続的に形成されることになり、切断の方向安定性がより一層向上して、切断の方向制御をより一層容易に行うことができる。
【0086】
また、第2例においては、発塵粉体がほとんどないため発塵粉体の飛散防止のための潤滑洗浄水が不要となり、切断工程でのドライプロセス化を実現することができる。
【0087】
また、第2例においては、改質部(クラック領域9)の形成がレーザ光Lによる非接触加工にて実現されるため、ダイヤモンドカッタによるダイシングにおけるブレードの耐久性、交換頻度等の問題が生じることはない。また、第2例においては、上述したように、改質部(クラック領域9)の形成がレーザ光Lによる非接触加工にて実現されるため、光透過性材料を完全に切断しない、光透過性材料を切り抜くような切断パターンに沿って、光透過性材料を切断することが可能である。本発明は、前述した第2例に限定されるものではなく、たとえば、光透過性材料は圧電素子ウェハ31に限られることなく、半導体ウェハ、ガラス基板等であってもよい。レーザ光源101も、切断する光透過性材料の光吸収特性に対応して適宜選択可能である。また、第2例においては、改質部として、レーザ光Lを照射することにより微小なクラック領域9を形成するようにしているが、これに限られるものではない。たとえば、レーザ光源101として超短パルスレーザ光源(たとえば、フェムト秒(fs)レーザ)を用いることで、屈折率変化(高屈折率)による改質部を形成することができ、このような機械的特性の変化を利用してクラック領域9を発生させることなく光透過性材料を切断することができる。
【0088】
また、レーザ加工装置100において、Z軸ステージ113を移動させることによりレーザ光Lのフォーカス調整を行うようにしているが、これに限られることなく、集光用レンズ105をレーザ光Lの光軸方向に移動させることによりフォーカス調整を行うようにしてもよい。
【0089】
また、レーザ加工装置100において、所望の切断パターンにしたがってX軸ステージ109及びY軸ステージ111を移動するようにしているが、これに限られることなく、レーザ光Lを所望の切断パターンにしたがって走査するようにしてもよい。
【0090】
また、吸引チャック34に圧電素子ウェハ31を吸着させた後に、加圧ニードル36により圧電素子ウェハ31を切断するようにしているが、これに限られることなく、加圧ニードル36により圧電素子ウェハ31を切断した後に、切断分離された圧電デバイスチップ37を吸引チャック34に吸着させるようにしてもよい。なお、吸引チャック34に圧電素子ウェハ31を吸着させた後に、加圧ニードル36により圧電素子ウェハ31を切断することにより、切断分離された圧電デバイスチップ37の表面が吸引チャック34にて覆われることになり、圧電デバイスチップ37の表面に塵等が付着するのを防ぐことができる。
【0091】
また、撮像素子121として赤外線用のものを用いることにより、レーザ光Lの反射光を利用してフォーカス調整を行うことができる。この場合には、ダイクロイックミラー103を用いる代わりにハーフミラーを用い、このハーフミラーとレーザ光源101との間にレーザ光源101への戻り光を抑制するような光学素子を配設する必要がある。なお、このとき、フォーカス調整を行うためのレーザ光Lにより切断対象材料にダメージが生じないように、フォーカス調整時にレーザ光源101から照射されるレーザ光Lの出力は、クラック形成のための出力よりも低いエネルギー値に設定ことが好ましい。
【0092】
第2例の観点から本発明の特徴を以下に説明する。
【0093】
本発明に係る光透過性材料の切断方法は、レーザ光源から出射したレーザ光を、その集光点が光透過性材料の内部に位置するように集光し、光透過性材料の内部における集光点及びその近傍のみに改質部を形成させる改質部形成工程と、形成された改質部の位置にて光透過性材料を切断する切断工程と、を備えていることを特徴としている。
本発明に係る光透過性材料の切断方法では、改質部形成工程において、レーザ光の集光点が光透過性材料の内部に位置するようにレーザ光を集光することで、光透過性材料の内部における集光点及びその近傍のみに改質部が形成される。切断工程では、形成された改質部の位置にて光透過性材料が切断されることになり、発塵量が極めて低く、ダイシング傷、チッピングあるいは材料表面でのクラック等が発生する可能性も極めて低くなる。また、光透過性材料は、形成された改質部の位置で切断されるので、切断の方向安定性が向上し、切断方向の制御を容易に行うことができる。また、ダイヤモンドカッタによるダイシングに比して、ダイシング幅を小さくすることができ、1つの光透過性材料から切断された光透過性材料の数を増やすことが可能となる。これらの結果、本発明によれば、極めて容易且つ適切に光透過性材料を切断することができる。
【0094】
また、本発明に係る光透過性材料の切断方法においては、発塵粉体がほとんどないため、発塵粉体の飛散防止のための潤滑洗浄水が不要となり、切断工程でのドライプロセス化を実現することができる。
【0095】
また、本発明に係る光透過性材料の切断方法においては、改質部の形成がレーザ光による非接触加工にて実現されるため、従来の技術のようにダイヤモンドカッタによるダイシングにおけるブレードの耐久性、交換頻度等の問題が生じることはない。また、本発明に係る光透過性材料の切断方法においては、上述したように改質部の形成がレーザ光による非接触加工にて実現されるため、光透過性材料を完全に切断しない、光透過性材料を切り抜くような切断パターンに沿って、光透過性材料を切断することが可能である。
【0096】
また、光透過性材料には、複数の回路部が形成されており、改質部形成工程において、隣接する回路部の間に形成された間隙に臨む光透過性材料部分の内部に集光点が位置するようにレーザ光を集光し、改質部を形成させることが好ましい。このように構成した場合には、隣接する回路部の間に形成された間隙の位置において、光透過性材料を確実に切断することができる。
【0097】
また、改質部形成工程において、光透過性材料にレーザ光を照射する場合に、回路部にレーザ光が照射されない角度でレーザ光を集光することが好ましい。このように、改質部形成工程において、光透過性材料にレーザ光を照射する場合に、回路部にレーザ光が照射されない角度でレーザ光を集光することにより、レーザ光が回路部に入射するのを防ぐことができ、回路部をレーザ光から保護することができる。
【0098】
また、改質部形成工程において、集光点をレーザ光の光軸と交差する方向に移動させることにより、改質部を集光点の移動方向に沿って連続的に形成することが好ましい。このように、改質部形成工程において、集光点をレーザ光の光軸と交差する方向に移動させることにより、改質部を集光点の移動方向に沿って連続的に形成することで、切断の方向安定性がより一層向上して、切断の方向制御をより一層容易に行うことができる。
【0099】
本発明に係る光透過性材料の切断方法は、レーザ光源から出射したレーザ光を、その集光点が光透過性材料の内部に位置するように集光し、光透過性材料の内部における集光点及びその近傍のみにクラックを形成させるクラック形成工程と、形成されたクラックの位置にて光透過性材料を切断する切断工程と、を備えていることを特徴としている。
【0100】
本発明に係る光透過性材料の切断方法では、クラック形成工程において、レーザ光の集光点が光透過性材料の内部に位置するようにレーザ光を集光することで、集光点におけるレーザ光のエネルギー密度が光透過性材料の光学的損傷若しくは光学的絶縁破壊のしきい値を越え、光透過性材料の内部における集光点及びその近傍のみにクラックが形成される。切断工程では、形成されたクラックの位置にて光透過性材料が切断されることになり、発塵量が極めて低く、ダイシング傷、チッピングあるいは材料表面でのクラック等が発生する可能性も極めて低くなる。また、光透過性材料は、光透過性材料の光学的損傷若しくは光学的絶縁破壊により形成されたクラックに沿って切断されるので、切断の方向安定性が向上し、切断方向の制御を容易に行うことができる。また、ダイヤモンドカッタによるダイシングに比して、ダイシング幅を小さくすることができ、1つの光透過性材料から切断された光透過性材料の数を増やすことが可能となる。これらの結果、本発明によれば、極めて容易且つ適切に光透過性材料を切断することができる。
【0101】
また、本発明に係る光透過性材料の切断方法においては、発塵粉体がほとんどないため、発塵粉体の飛散防止のための潤滑洗浄水が不要となり、切断工程でのドライプロセス化を実現することができる。
【0102】
また、本発明に係る光透過性材料の切断方法においては、クラックの形成がレーザ光による非接触加工にて実現されるため、従来の技術のようにダイヤモンドカッタによるダイシングにおけるブレードの耐久性、交換頻度等の問題が生じることはない。また、本発明に係る光透過性材料の切断方法においては、上述したようにクラックの形成がレーザ光による非接触加工にて実現されるため、光透過性材料を完全に切断しない、光透過性材料を切り抜くような切断パターンに沿って、光透過性材料を切断することが可能である。
【0103】
また、切断工程において、形成されたクラックを成長させることにより光透過性材料を切断することが好ましい。このように、切断工程において、形成されたクラックを成長させることにより光透過性材料を切断することにより、形成されたクラックの位置にて光透過性材料を確実に切断することができる。
【0104】
また、切断工程において、押圧部材を用い、光透過性材料に応力を加えることにより、クラックを成長させて光透過性材料を切断することが好ましい。このように、切断工程において、押圧部材を用い、光透過性材料に応力を加えることにより、クラックを成長させて光透過性材料を切断することにより、クラックの位置にて光透過性材料をより一層確実に切断することができる。
【0105】
本発明に係る光透過性材料の切断装置は、レーザ光源と、光透過性材料を保持する保持手段と、レーザ光源から出射されたレーザ光を、その集光点が光透過性材料の内部に位置するように集光させる光学素子と、光透過性材料の内部におけるレーザ光の集光点及びその近傍のみに形成された改質部の位置にて光透過性材料を切断する切断手段と、を備えたことを特徴としている。
【0106】
本発明に係る光透過性材料の切断装置では、光学素子により、レーザ光の集光点が光透過性材料の内部に位置するようにレーザ光が集光されることで、光透過性材料の内部における集光点及びその近傍のみに改質部が形成される。そして、切断手段が、光透過性材料の内部におけるレーザ光の集光点及びその近傍のみに形成される改質部の位置で光透過性材料を切断するので、光透過性材料は、形成された改質部に沿って確実に切断されることになり、発塵量が極めて低く、ダイシング傷、チッピングあるいは材料表面でのクラック等が発生する可能性も極めて低くなる。また、光透過性材料は、改質部に沿って切断されるので、切断の方向安定性が向上し、切断方向の制御を容易に行うことができる。また、ダイヤモンドカッタによるダイシングに比して、ダイシング幅を小さくすることができ、1つの光透過性材料から切断された光透過性材料の数を増やすことが可能となる。これらの結果、本発明によれば、極めて容易且つ適切に光透過性材料を切断することができる。
【0107】
また、本発明に係る光透過性材料の切断装置においては、発塵粉体がほとんどないため、発塵粉体の飛散防止のための潤滑洗浄水が不要となり、切断工程でのドライプロセス化を実現することができる。
【0108】
また、本発明に係る光透過性材料の切断装置においては、改質部がレーザ光による非接触加工にて形成されるため、従来の技術のようにダイヤモンドカッタによるダイシングにおけるブレードの耐久性、交換頻度等の問題が生じることはない。また、本発明に係る光透過性材料の切断装置においては、上述したように改質部がレーザ光による非接触加工にて形成されるため、光透過性材料を完全に切断しない、光透過性材料を切り抜くような切断パターンに沿って、光透過性材料を切断することが可能である。
【0109】
本発明に係る光透過性材料の切断装置は、レーザ光源と、光透過性材料を保持する保持手段と、レーザ光源から出射されたレーザ光を、その集光点が光透過性材料の内部に位置するように集光させる光学素子と、光透過性材料の内部におけるレーザ光の集光点及びその近傍のみに形成されるクラックを成長させて光透過性材料を切断する切断手段と、を備えたことを特徴としている。
【0110】
本発明に係る光透過性材料の切断装置では、光学素子により、レーザ光の集光点が光透過性材料の内部に位置するようにレーザ光が集光されることで、集光点におけるレーザ光のエネルギー密度が光透過性材料の光学的損傷若しくは光学的絶縁破壊のしきい値を越え、光透過性材料の内部における集光点及びその近傍のみにクラックが形成される。そして、切断手段が、光透過性材料の内部におけるレーザ光の集光点及びその近傍のみに形成されるクラックを成長させて光透過性材料を切断するので、光透過性材料は、光透過性材料の光学的損傷若しくは光学的絶縁破壊により形成されたクラックに沿って確実に切断されることになり、発塵量が極めて低く、ダイシング傷、チッピングあるいは材料表面でのクラック等が発生する可能性も極めて低くなる。また、光透過性材料は、クラックに沿って切断されるので、切断の方向安定性が向上し、切断方向の制御を容易に行うことができる。また、ダイヤモンドカッタによるダイシングに比して、ダイシング幅を小さくすることができ、1つの光透過性材料から切断された光透過性材料の数を増やすことが可能となる。これらの結果、本発明によれば、極めて容易且つ適切に光透過性材料を切断することができる。
【0111】
また、本発明に係る光透過性材料の切断装置においては、発塵粉体がほとんどないため、発塵粉体の飛散防止のための潤滑洗浄水が不要となり、切断工程でのドライプロセス化を実現することができる。
【0112】
また、本発明に係る光透過性材料の切断装置においては、クラックがレーザ光による非接触加工にて形成されるため、従来の技術のようにダイヤモンドカッタによるダイシングにおけるブレードの耐久性、交換頻度等の問題が生じることはない。また、本発明に係る光透過性材料の切断装置においては、上述したようにクラックがレーザ光による非接触加工にて形成されるため、光透過性材料を完全に切断しない、光透過性材料を切り抜くような切断パターンに沿って、光透過性材料を切断することが可能である。
【0113】
また、切断手段は、光透過性材料に応力を印加するための押圧部材を有していることが好ましい。このように、切断手段が光透過性材料に応力を印加するための押圧部材を有することにより、この押圧部材により光透過性材料に応力を印加してクラックを成長させることが可能となり、形成されたクラックの位置において光透過性材料をより一層確実に切断することができる。
【0114】
また、光透過性材料は、その表面に複数の回路部が形成された光透過性材料であって、光学素子は、隣接する回路部の間に形成された間隙に臨む光透過性材料部分の内部に集光点が位置するようにレーザ光を集光することが好ましい。このように構成した場合、隣接する回路部の間に形成された間隙の位置において、光透過性材料を確実に切断することができる。
【0115】
また、光学素子は、回路部にレーザ光が照射されない角度でレーザ光を集光することが好ましい。このように、光学素子が回路部にレーザ光が照射されない角度でレーザ光を集光することにより、レーザ光が回路部に入射するのを防ぐことができ、回路部をレーザ光から保護することができる。
【0116】
また、集光点をレーザ光の光軸と交差する方向に移動させるための集光点移動手段を更に備えていることが好ましい。このように、集光点をレーザ光の光軸と交差する方向に移動させるための集光点移動手段を更に備えることにより、クラックを集光点の移動方向に沿って連続的に形成することが可能となり、切断の方向安定性がより一層向上して、切断の方向制御をより一層容易に行うことができる。
【0117】
【発明の効果】
【0118】
本発明に係る加工対象物切断方法によれば、半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の表面に溶融や切断予定ラインから外れた割れが生じることなく、加工対象物を切断することができる。よって、加工対象物を切断することにより作製される製品(例えば、半導体チップ)の歩留まりや生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本実施形態に係るレーザ加工方法によってレーザ加工中の加工対象物の平面図である。
【図2】
図1に示す加工対象物のII-II線に沿った断面図である。
【図3】
本実施形態に係るレーザ加工方法によるレーザ加工後の加工対象物の平面図である。
【図4】
図3に示す加工対象物のIV-IV線に沿った断面図である。
【図5】
図3に示す加工対象物のV-V線に沿った断面図である。
【図6】
本実施形態に係るレーザ加工方法によって切断された加工対象物の平面図である。
【図7】
本実施形態に係るレーザ加工方法における電界強度とクラックの大きさとの関係を示すグラフである。
【図8】
本実施形態に係るレーザ加工方法の第1工程における加工対象物の断面図である。
【図9】
本実施形態に係るレーザ加工方法の第2工程における加工対象物の断面図である。
【図10】
本実施形態に係るレーザ加工方法の第3工程における加工対象物の断面図である。
【図11】
本実施形態に係るレーザ加工方法の第4工程における加工対象物の断面図である。
【図12】
本実施形態に係るレーザ加工方法により切断されたシリコンウェハの一部における断面の写真を表した図である。
【図13】
本実施形態に係るレーザ加工方法におけるレーザ光の波長とシリコン基板の内部の透過率との関係を示すグラフである。
【図14】
本実施形態の第1例に係るレーザ加工方法に使用できるレーザ加工装置の概略構成図である。
【図15】
本実施形態の第1例に係るレーザ加工方法を説明するためのフローチャートである。
【図16】
本実施形態の第1例に係るレーザ加工方法により切断可能なパターンを説明するための加工対象物の平面図である。
【図17】
レーザ光源が複数に関する本実施形態の第1例に係るレーザ加工方法を説明する模式図である。
【図18】
レーザ光源が複数に関する本実施形態の第1例に係る他のレーザ加工方法を説明する模式図である。
【図19】
本実施形態の第2例において、ウェハシートに保持された状態の圧電素子ウェハを示す概略平面図である。
【図20】
本実施形態の第2例において、ウェハシートに保持された状態の圧電素子ウェハを示す概略断面図である。
【図21】
本実施形態の第2例に係る切断方法を説明するためのフローチャートである。
【図22】
本実施形態の第2例に係る切断方法によりレーザ光が照射されている光透過性材料の断面図である。
【図23】
本実施形態の第2例に係る切断方法によりレーザ光が照射された光透過性材料の平面図である。
【図24】
図23に示す光透過性材料のXXIV-XXIV線に沿った断面図である。
【図25】
図23に示す光透過性材料のXXV-XXV線に沿った断面図である。
【図26】
集光点の移動速度を遅くした場合における図23に示す光透過性材料のXXV-XXV線に沿った断面図である。
【図27】
集光点の移動速度をさらに遅くした場合における図23に示す光透過性材料のXXV-XXV線に沿った断面図である。
【図28】
本実施形態の第2例に係る切断方法の第1工程を示す圧電素子ウェハ等の断面図である。
【図29】
本実施形態の第2例に係る切断方法の第2工程を示す圧電素子ウェハ等の断面図である。
【図30】
本実施形態の第2例に係る切断方法の第3工程を示す圧電素子ウェハ等の断面図である。
【図31】
本実施形態の第2例に係る切断方法の第4工程を示す圧電素子ウェハ等の断面図である。
【図32】
本実施形態の第2例に係る切断方法の第5工程を示す圧電素子ウェハ等の断面図である。
【符号の説明】
1・・・加工対象物、3・・・表面、5・・・切断予定ライン、7・・・改質領域、9・・・クラック領域、11・・・シリコンウェハ、13・・・溶融処理領域、15,17,19,23・・・レーザ光源、25,27,29・・・アレイ光源部、31・・・圧電素子ウェハ、37・・・圧電デバイスチップ、100・・・レーザ加工装置、101・・・レーザ光源、105・・・集光用レンズ、109・・・X軸ステージ、111・・・Y軸ステージ、113・・・Z軸ステージ、P・・・集光点
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2006-02-16 
結審通知日 2006-02-20 
審決日 2006-03-03 
出願番号 特願2001-278768(P2001-278768)
審決分類 P 1 123・ 121- YA (B23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 昌人  
特許庁審判長 西川 恵雄
特許庁審判官 佐々木 正章
菅澤 洋二
登録日 2003-03-14 
登録番号 特許第3408805号(P3408805)
発明の名称 加工対象物切断方法  
代理人 櫻井 義宏  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 小野 尚純  
代理人 奥貫 佐知子  
代理人 城戸 博兒  
代理人 城戸 博兒  
代理人 櫻井 義宏  
代理人 飯田 隆  
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