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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 A01G 審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 A01G 審判 全部無効 1項3号刊行物記載 A01G 審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 A01G |
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管理番号 | 1146972 |
審判番号 | 無効2005-80345 |
総通号数 | 85 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1995-01-06 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2005-12-01 |
確定日 | 2006-10-23 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3243575号発明「培土とその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許出願:平成4年3月13日(特願平4-89862号) 設定登録:平成13年10月26日(特許第3243575号) 審判請求:平成17年12月1日 答弁書及び訂正請求書の提出:平成18年3月6日 弁駁書の提出:平成18年4月12日 請求人、被請求人へ審尋:平成18年5月23日 請求人より回答書提出:平成18年6月23日 被請求人より回答書提出:平成18年6月26日 請求人より上申書提出:平成18年7月20日 被請求人より上申書提出:平成18年7月24日 第2 請求人の主張 1.請求人は、本件特許の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由として、次の点を挙げ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第8号証を提出している。 [無効理由1]:本件特許の請求項1、3に係る発明は、甲第1号証ないし甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 [無効理由2]:本件特許の請求項2に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない。 [無効理由3]:本件特許の請求項2、4に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 [無効理由4]:本件特許明細書の記載は不備であるから、本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、特許法第36条第4項又は第5項の規定により特許を受けることができない。 2.また、請求人は、平成18年4月12日付け弁駁書において、平成18年3月6日付けの訂正請求で訂正しようとする請求項4に係る訂正事項は特許請求の範囲の実質上変更にあたるものであるから、該訂正は認められるべきではない、仮に訂正が認められた場合においても、訂正後の本件特許明細書の記載は不備であるから、訂正後の本件特許の請求項1、4に係る発明は、特許法第36条第4項又は第5項の規定により特許を受けることができない旨、主張している。 [証拠方法] 甲第1号証:特開平2-267180号公報 甲第2号証:特開平2-267181号公報 甲第3号証:特開昭57-7893号公報 甲第4号証:特開昭57-61688号公報 甲第5号証:特開昭57-61689号公報 甲第6号証:特開昭57-209690号公報 甲第7号証:特開昭58-146497号公報 甲第8号証:特開昭60-64700号公報 参考資料1:本件の出願に関する、平成13年7月2日受付けの意見書 参考資料2:本件の出願に関する、平成13年4月10日付けの拒絶理由 通知 第3 被請求人の主張 被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、請求人の主張に対し、次のように反論している。 1.無効理由1ないし3について 請求人が提出した甲第1号証ないし甲第8号証には、本件請求項1ないし請求項4に係る発明の構成である、反応生成物において蟻酸等の低位脂肪酸がカルシウム塩として固定されている点について記載がなく予測もできない、また、請求項2及び請求項4に係る発明の構成である、カルシウム塩化していない腐敗性廃棄物中の有機物を除去する点についても記載がなく予測もできないから、請求人の主張は失当である。 2.無効理由4について 平成18年3月6日付け訂正請求により本件特許明細書は訂正され、無効理由4はすべて解消した。 第4 訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 平成18年3月6日付けの訂正請求(以下「本件訂正請求」という)は、本件特許明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は次のとおりである。 (1)特許請求の範囲の請求項1、3を削除する。 (2)特許請求の範囲の請求項4に記載の「請求項1に記載の培土を製造する方法であって」を「請求項2に記載の培土を製造する方法であって」と訂正する。 (3)特許明細書段落【0006】に記載の「かつカルシウム塩化していない腐敗性廃棄物中の有機物が醗酵処理された有機質になっており、もしくは除去されている点に特徴を有するものである。」を「かつカルシウム塩化していない腐敗性廃棄物中の有機物が除去されている点に特徴を有するものである。」と訂正する。 (4)特許明細書段落【0007】に記載の「カルシウム塩を形成していない腐敗性廃棄物中の有機物を醗酵処理した有機質にし、あるいは水洗浄によって洗い流しすると共に」を「カルシウム塩を形成していない腐敗性廃棄物中の有機物を水洗浄によって洗い流しすると共に」と訂正する。 (5)特許明細書段落【0044】の「腐敗性廃棄物中の未反応有機物が醗酵処理された有機質になっておりあるいは除去されているので、」を「腐敗性廃棄物中の未反応有機物が除去されているので、」と訂正する。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 上記訂正事項について検討すると、訂正事項(1)は、請求項を削除しようとするものであるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、訂正事項(3)、(4)及び(5)は、訂正事項(1)により削除された請求項1、3に係る、発明の詳細な説明の記載を削除するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。 訂正事項(2)について検討すると、訂正前の請求項4に係る発明は、「請求項1に記載の培土を製造する方法であって、(中略)、カルシウム塩を形成していない腐敗性廃棄物中の有機物を水洗浄によって洗い流すと共に上記反応によって消和された水酸化カルシウムのほとんどを炭酸カルシウムに変換させたことを特徴とする、培土の製造方法。」というものであるが、訂正前の請求項1に係る発明は、「(前略)カルシウム塩化していない腐敗性廃棄物中の有機物が醗酵処理された有機質になっていることを特徴とする培土。」というものであり、カルシウム塩化していない腐敗性廃棄物中の有機物の処理方法が、訂正前の請求項1に係る発明では醗酵処理であるのに対し、訂正前の請求項4に係る発明では水洗であり、両者は一致していないから、訂正前の請求項4に係る発明は、「請求項1に記載の培土を製造する方法であって」が誤記であることは明らかである。そして、カルシウム塩化していない腐敗性廃棄物中の有機物の処理方法が水洗である培土は、訂正前の請求項2に係る発明であるから、訂正前の請求項4に係る発明における、「請求項1に記載の培土を製造する方法であって」は、「請求項2に記載の培土を製造する方法であって」の誤記であることは明らかであり、訂正事項(2)は、誤記の訂正を目的とする訂正である。 そして、上記訂正事項は、いずれも願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 3.むすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求は、特許法の一部を改正する法律(平成6年法律第116号、以下、「平成6年法」という)附則第6条の規定によりなお従前の例によるとされる平成6年法改正前特許法第134条第2項ただし書に適合し、特許法134条の2第5項において準用する平成6年法改正前特許法第126条第2項の規定に適合する。 よって、本件訂正請求のとおりの訂正を認める。 第5 本件発明 上記第4に示したとおり、本件に係る訂正が認められるから、本件の特許請求の範囲に係る発明は、上記訂正請求書に添付した訂正明細書の特許請求の範囲の請求項2及び4に記載された次のとおりのものと認める。 「【請求項2】 固液混合の腐敗性廃棄物と酸化カルシウムとの反応生成物より成り、上記酸化カルシウムの一部が、上記反応の際に腐敗性廃棄物中のアミノ酸を熱分解して生成された蟻酸等の低位脂肪酸、並びに上記腐敗性廃棄物中に元々含まれていた蟻酸等の低位脂肪酸を含む脂肪酸及びアミノ酸などの酸類をカルシウム塩として固定し、酸化カルシウムの残部が炭酸カルシウムに変換され、かつ、カルシウム塩化していない腐敗性廃棄物中の有機物が除去されていることを特徴とする培土。 【請求項4】 請求項2に記載の培土を製造する方法であって、固液混合の腐敗性廃棄物に酸化カルシウムを95%以上含む添加材を添加することにより急激な水和反応を生じさせ、この水和反応によって酸化カルシウム中のカルシウムイオンを解離させると共に腐敗性廃棄物中のアミノ酸から蟻酸等の低位脂肪酸を生成し、この低位脂肪酸並びに腐敗性廃棄物中に元々含まれている蟻酸等の低位脂肪酸を含む脂肪酸及びアミノ酸などの酸類と、解離された上記カルシウムイオンとによってカルシウム塩を生成し、かつ、カルシウム塩を形成していない腐敗性廃棄物中の有機物を水洗浄によって洗い流すと共に上記反応によって消和された水酸化カルシウムのほとんどを炭酸カルシウムに変換させたことを特徴とする、培土の製造方法。」 第6 無効理由に対する判断 I.無効理由1について 訂正により請求項1及び請求項3は削除された結果、無効理由1については対象が存在しない。 II.無効理由2、3について 1.請求人の提出した証拠の記載事項 (1)甲第1号証には次の事項が記載されている。 (1a)「本発明の土壌改良材は、上記した目的を達成するために、固液混合の腐敗性廃棄物と酸化カルシウムとの反応生成物より成る土壌改良材であって、」(2頁右上欄1行?4行)、 (1b)「本発明の原材料として用いられる腐敗性の廃棄物としては、豚し尿(糞を含む)、鶏糞その他の家畜糞尿、動物血液、上下水余剰汚泥、焼酎カスあるいはオカラカス等の食品製造工場から排出される腐敗性残渣などがある。これらは、例えば豚し尿の場合には通常86.5%?94.5%、乾燥鶏糞の場合には通常15?30%、上下水余剰汚泥の場合には通常75?97%、食品工場の腐敗性残渣の場合には通常75?95%の水分をそれぞれ含んでおり、本発明の原材料として用いるにあたっては水分が75?97%の状態に調整されることが望ましい。」(2頁右上欄13行?左下欄4行) (1c)「本発明に係る土壌改良材は、こうした原材料に添加剤を添加し、混合攪拌して得られる。具体的には、上記した腐敗性の産業廃棄物100重量部に対して所定の添加剤を5?50重量部加え、両者を反応させて製造される。 添加剤は次の条件を具備する高活性な生石灰を主成分とする。 (1)(当審注:原文は丸数字、以下同様)酸化カルシウムの含有率が高く(望ましくは95%以上)、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム及びその他の物質の含有率が低いこと。 尚、組成成分として酸化マグネシウムが少量(例えば5%以下)含まれていても良い。 (2)多孔性を有し、表面積及び比表面積が広大で、細孔組織が高度に発達していること。 (3)水に少量を接触させたときに、優れた分散性、例えば全方向に広く速やかに分散する性質を有すること。 (4)水に中量を添加したときに、激しくかつ速やかに反応して水蒸気を発生させること。 (5)水に一定量を添加したときに充分に反応し、理論値に近似した温度上昇が認められること。 (6)水と接触後の消石灰を主成分とするスラリーにおいて、沈降速度が小で、沈降現象が認められないこと。」(2頁左下欄5行?右下欄9行)、 (1d)「更に上記したように、本土壌改良剤は、有機体リン酸等の難分解性成分が分解されることによって生成された、無機質のリン酸カルシウムと、無機質と有機質の性質を備えた脂肪酸カルシウムと、有機化合物に無機物質が分散された有機体とを含有し、全体として見ると有機質に無機質が絡み合った複合体、換言すれば、有機質に無機質が適度に入りくんだ複合体として構成されている。このため、本土壌改良剤は適度の緩効性あるいは遅効性を備えている。 即ち、本発明では、カルシウムイオン(Ca2+)及び水酸基(OH-)の作用が根幹にあるが、反応生成時の添加材としての酸化カルシウムが高活性を有するために、カルシウムが物理的に全方向(立体的全方位)に均一に分散している。またこうした添加材を用いて生成される結果、生成時には、温度が上昇し、粘性が低下すると同時に、セルローズ、リグニン、高分子量蛋白質、リン脂質などがアルカリ性の下で励起され、酸化カルシウムと水との反応による局部的高熱によって原料が低分子化合物に分解されることになる。そして、分解された端末基に対してカルシウムが結合されて、比較的難溶性のカルシウム塩が形成される。 一方、遊離のカルシウムは、分解された種々な化合物とキレート化合物を形成し、その核となって分散される。即ち、分解が相当進行したカルボキシル基とは比較的難溶性のカルシウム塩を急速に形成する。遊離のリン酸基とは急速に安定したリン酸カルシウムを生じる。リン脂体中のリン酸基は部分的に遊離され、同様にリン酸カルシウムを形成する。」(3頁右上欄6行?左下欄17行) (1e)「酸素原子を含む吸電子性の基を有する高分子化合物には、カルシウムイオンが熱的及び機械的拡散により強力に作用し、これを分解すると同時にカルシウム塩として浸入する。 また、カルシウムと反応し易い状態になった基とは直ちに反応する。過剰に存在するカルシウムはキレート化合物として分散する。 更に、形成されたカルシウム化合物が、アミノ基やカルボキシル基を有する蛋白質を固定化しようとして作用する。」(3頁右下欄18行?右下欄7行)、 (1f)「[実施例1]豚し尿を主原料とする水分88.5重量%のスラリー800Kgに対して、高活性を有する生石灰を主成分とする添加剤を120Kg(原料に対して15重量%)添加し、特殊反応器内で攪拌しつつ10分間反応させた。 上記の反応過程において、生石灰と水分との水和反応および化学反応によって発生する反応熱によって、反応物スラリーの温度は上昇し、温度上昇度(反応物スラリー温度と原料スラリー温度の差)は32.5℃であった。 得られた反応物スラリーを屋根付きハウス(強制通風施設付)内で大気と接触させつつ風乾させ、含水率35.0重量%の反応生成物たる土壌改良材395Kgを得た。 原料中のアンモニア性窒素含有量は28,600mg/Kg(乾量基準)であったのに対し、本土壌改良材の当該成分は150mg/Kg(乾量基準)であった。 また、原料中の水溶性リン酸含有量は、27,700mg/Kg(乾量基準)であったのに対し、本土壌改良材の当該成分は121mg/Kg(乾量基準)であった。 従って、本実施例による土壌改良材では、アンモニア性窒素の除去率(削減率)は99.5%、水溶性リン酸の除去率(削減率)は99.6%に相当する。」(3頁右下欄13行?4頁左上欄19行)。 (2)甲第2号証には、次の事項が記載されている。 (2a)「本発明は、上記した目的を達成するために、固液混合の腐敗性産業廃棄物100重量部に対し、酸化カルシウムの含有量が95%以上でかつ多孔性を有する高活性な生石灰を主成分とする添加剤を5?50重量部添加し、これらを混合撹拌して反応させた後、得られたスラリー状の物質を乾燥させることにより、上記腐敗性廃棄物中に含まれる全リン酸の大部分が有効態のリン酸カルシウムとして安定され、また水溶性リン酸が元の量の2%以下に減少し、且つ、有機態リン酸、リン脂質、グリセライド、リグニンなどの難分解性成分が分解されて生成された、リン酸カルシウム、脂肪酸カルシウム、あるいはカルシウムの分散された有機体を含有している土壌改良材を得るようにした点に特徴を有するものである。」(2頁右上欄15行?左下欄9行)、 (2b)「本発明の原材料として用いられる腐敗性の廃棄物としては、豚し尿(糞を含む)、鶏糞その他の家畜糞尿、動物血液、上下水余剰汚泥などの腐敗性産業廃棄物、焼酎カスあるいはオカラカス等の食品製造工場から排出される腐敗性残渣などがある。これらは、例えば豚し尿の場合には通常86.5%?94.5%、乾燥鶏糞の場合には通常15?30%、上下水余剰汚泥の場合には通常75?97%、食品工場の腐敗性残渣の場合には通常75?95%の水分をそれぞれ含んでおり、本発明の原材料として用いるにあたっては水分が75?97%の状態に調整されることか望ましい。」(2頁左下欄10行?右下欄2行)、 (2c)「添加剤は次の条件を具備する高活性な生石灰を主成分とする。 (1)酸化カルシウムの含有率が高く(望ましくは95%以上)、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム及びその他の物質の含有率が低いこと。 尚、組成成分として酸化マグネシウムが少量(例えば5%以下)含まれていても良い。 (2)多孔性を有し、表面積及び比表面積が広大で、細孔組織が高度に発達していること。 (3)水に少量、例えば水約10?15m1に1?2gを接触させたときに、優れた水分散性、即ち、全方向に相当広く分散する性質を有すること。 (4)水に中量、例えば水約15?20mlに5?10gを添加したときに、数秒以内に激しく反応して水蒸気を発生させること。 (5)水に一定量、例えば水100m1に20gを添加したときに充分に反応し、理論値に近似した温度上昇が認められること。 (6)水と接触後の消石灰を主成分とするスラリーにおいて、沈降速度が小、例えば上記(5)に記載した割合で添加し、15分放置した状態において沈降現象が認められないこと。」(2頁右下欄8行?3頁左上欄10行)、 (2d)「即ち、本発明では、カルシウムイオン(Ca2+)及び水酸基(OH-)の作用が根幹にあるが、反応生成時の添加材としての酸化カルシウムが高活性を有するために、カルシウムが物理的に全方向(立体的全方位)に均一に分散している。またこうした添加材を用いて生成される結果、生成時には、温度が上昇し、粘性が低下すると同時に、セルローズ、リグニン、高分子量蛋白質、リン脂質などがアルカリ性の下で励起され、酸化カルシウムと水との反応による局部的高熱によって原料が低分子化合物に分解されることになる。そして、分解された端末基に対してカルシウムが結合されて、比較的難溶性のカルシウム塩が形成される。 一方、遊離のカルシウムは、分解された種々な化合物とキレート化合物を形成し、その核となって分散される。即ち、分解が相当進行したカルボキシル基とは比較的難溶性のカルシウム塩を急速に形成する。遊離のリン酸基とは急速に安定したリン酸カルシウムを生じる。リン脂体中のリン酸基は部分的に遊離され、同様にリン酸カルシウムを形成する。」(4頁右上欄5行?左下欄6行)、 (2e)「酸素原子を含む吸電子性の基を有する高分子化合物には、カルシウムイオンが熱的及び機械的拡散により強力に作用し、これを分解すると同時にカルシウム塩として浸入する。 また、カルシウムと反応し易い状態になった基とは直ちに反応する。過剰に存在するカルシウムはキレート化合物として分散する。 更に、形成されたカルシウム化合物が、アミノ基やカルボキシル基を有する蛋白質を固定化しようとして作用する。」(4頁左下欄7行?16行)。 (2f)「[実施例1]豚し尿を主原料とする水分88.5重量%のスラリー800Kgに対して、高活性を有する生石灰を主成分とする添加剤を120Kg(原料に対して15重量%)添加し、特殊反応器内で撹拌しつつ10分間反応させた。 上記の反応過程において、生石灰と水分との水和反応および化学反応によって発生する反応熱によって、反応物スラリーの温度は上昇し、温度上昇度(反応物スラリー温度と原料スラリー温度の差)は32.5℃であった。 得られた反応物スラリーを屋根付きハウス(強制通風施設付)内で大気と接触させつつ風乾させ、含水率35.0重量%の反応生成物395Kgを得た。 原料中のアンモニア性窒素含有量は28,600mg/Kg(乾量基準)であったのに対して、反応生成物中の当該成分は150mg/Kg(乾量基準)であった。 また、原料中の水溶性リン酸含有量は、27,700mg/Kg(乾量基準)であったのに対して、反応生成物中の当該成分は121mg/Kg(乾量基準)であった。 本実施例によるアンモニア性窒素の除去率(削減率)は99.5%、水溶性リン酸の除去率(削減率)は99.6%に相当し、これらにおいて顕著な効果が認められる。」(4頁右下欄2行?5頁左上欄8行) (2g)「カルシウムが分散された有機体、即ち、有機質に無機質が適度にいりくんだ複合体として構成されているので、団粒構造を有し、土壌の活性化と疎水性、吸水性を備え、肥効性成分を容易かつ確実に吸収することかできると共に、肥効性を持続させて地力を高めることができるものである。」(11頁左下欄17行?右下欄3行)。 なお、甲第3号証ないし甲第8号証には、汚泥を発酵して堆肥化する技術に関する記載がされている。 2.対比、判断 (2-1)請求項2に係る発明について (1)対比 上記1.(1)(2)の記載事項によれば、甲第1号証及び甲第2号証には、いずれも「固液混合の腐敗性廃棄物と酸化カルシウムとの反応生成物より成り、酸化カルシウムと水との反応による局部的高熱によって腐敗性廃棄物が低分子化合物に分解され、分解された端末基に対してカルシウムが結合された比較的難溶性のカルシウム塩が形成され、さらに遊離のカルシウムが、分解された種々な化合物とキレート化合物を形成し、このカルシウム化合物と分解が相当進行したカルボキシル基とが反応して比較的難溶性のカルシウム塩が形成されている土壌改良材」の発明(以下、「甲1、2発明1」という。)が記載されていると認められる。 そこで、請求項2に係る発明と甲1、2発明1とを対比すると、請求項2に係る発明の「培土」と甲1、2発明1の「土壌改良材」は、いずれも土壌資材である点で共通するから、両者は、 「固液混合の腐敗性廃棄物と酸化カルシウムとの反応生成物より成り、 上記酸化カルシウムの一部が、上記反応の際に腐敗性廃棄物中の成分を熱分解して生成された低分子化合物をカルシウム塩として固定した、土壌資材」である点で一致し、次の点で相違する。 相違点1:反応の際に形成されるカルシウム塩が、請求項2に係る発明では、「腐敗性廃棄物中のアミノ酸を熱分解して生成された蟻酸等の低位脂肪酸、並びに上記腐敗性廃棄物中に元々含まれていた蟻酸等の低位脂肪酸を含む脂肪酸及びアミノ酸などの酸類のカルシウム塩」であるのに対し、甲1、2発明1では、カルボキシル基すなわち酸類と反応したカルシウム塩が形成されることは示されているものの、腐敗性廃棄物中の成分の熱分解により生成された低分子化合物、及び元々含まれていた化合物の組成が不明で、どのような酸類とのカルシウム塩が形成されているか不明な点。 相違点2:請求項2に係る発明では、酸化カルシウムの残部が炭酸カルシウムに変換されているのに対し、甲1、2発明1では、酸化カルシウムの残部が炭酸カルシウムに変換されているか否か不明な点。 相違点3:土壌資材が、請求項2に係る発明では「培土」であるのに対し、甲1、2発明1では「土壌改良材」である点。 相違点4:請求項2に係る発明では、カルシウム塩化していない腐敗性廃棄物中の有機物が除去されているのに対し、甲1、2発明1では、カルシウム塩化していない腐敗性廃棄物中の有機物を除去することは示されていない点。 (2)相違点の判断 上記相違点1について検討すると、請求項2に係る発明において、腐敗性廃棄物中のアミノ酸を熱分解して生成された蟻酸等の低位脂肪酸、並びに上記腐敗性廃棄物中に元々含まれていた蟻酸等の低位脂肪酸を含む脂肪酸及びアミノ酸などの酸類のカルシウム塩が形成されるのは、腐敗性廃棄物に対して、本願特許明細書の段落【0007】に記載されているような酸化カルシウムを95%以上含む添加剤を添加させることにより生ずる反応であると認められるところ、甲第1号証及び甲第2号証には、腐敗性廃棄物に対して添加される酸化カルシウムは、酸化カルシウムの含有量が95%以上のものであることが記載されている(1c、2c)。 そうすると甲1、2発明1においても、請求項2に係る発明と同様の腐敗性廃棄物に同じ酸化カルシウムを添加している以上、同じ反応が起こることは明らかであり、さらに甲第1号証及び甲第2号証には、土壌改良材中に脂肪酸カルシウムが含まれていることが記載されており(1d、2a)、甲1、2発明1においても、腐敗性廃棄物中のアミノ酸を熱分解して生成された蟻酸等の低位脂肪酸、並びに上記腐敗性廃棄物中に元々含まれていた蟻酸等の低位脂肪酸を含む脂肪酸及びアミノ酸などの酸類のカルシウム塩が形成されているといえる。 したがって、相違点1に係る構成は実質的な相違ではない。 相違点2について検討すると、請求項2に係る発明において、酸化カルシウムの炭酸カルシウムへの変換は、本願特許明細書の記載によれば、添加剤としての酸化カルシウムが固液混合の腐敗性廃棄物と反応して一部がカルシウム塩に一部が水酸化カルシウムに変換し、この水酸化カルシウムが炭酸ガスと反応して炭酸カルシウムに変換されるものと考えられる。そして、炭酸ガスは空気中に存在するものであるから、固液混合の腐敗性廃棄物と酸化カルシウムとを反応させ、空気の存在下に置くと、酸化カルシウムの残部の炭酸カルシウムへの変換が行われることは明らかである。 一方、甲第1号証、甲第2号証には、実施例として、固液混合の腐敗性廃棄物と酸化カルシウムとを反応させ、強制通風施設付きハウス内で大気と接触させつつ風乾することが記載されているから、甲1、2発明1においても、酸化カルシウムの残部の炭酸カルシウムへの変換が起こっていることは明らかであり、相違点2に係る構成も実質的な相違ではない。 相違点3について検討すると、甲1、2発明1の土壌改良材は土壌と混合して使用することを目的とするものである。一方、請求項2に係る発明の「培土」について、本件特許明細書には、単独で栽培用土壌として使用することの他、他の培土と混合して使用することも記載されており、「土壌改良材」としたか、「培土」としたかに実質的な差異はない。 また、甲第1号証又は甲第2号証には「土壌改良材」を単独で栽培用土壌として使用することは記載されていないが、甲第1号証又は甲第2号証には、甲1、2発明1の土壌改良材は、団粒構造を有し、土壌の活性化と疎水性、吸水性を備え、肥効性成分を容易かつ確実に吸収することができると共に、肥効性を持続させて地力を高めることができる(1d、2g)という、栽培用土壌に適した特性を有することが記載されているから、これを単独で栽培用土壌として使用することは当業者が容易になしうることである。 相違点4について検討する。 まず、「カルシウム塩化していない腐敗性廃棄物中の有機物が除去」の内容について検討すると、本件特許明細書には、「酸化カルシウムを添加することによって、カルシウム化合物が生成されるだけでなく、腐敗性廃棄物中に含有されているアンモニアやアミン類などの塩基性成分がガス状となって除去される。」(段落【0022】)、「反応生成物中の有機物を・・・、反応生成物を水洗浄して洗い流すことにより除去する。」(段落【0026】)、「有機物と水酸化カルシウムの除去にあたってはその全てを取り去る必要はなく、可及的にその大半を除去するようにすれば良い。」(段落【0028】)と記載されている。 一方、図2には、豚糞尿を原料とする反応生成物(A)?(C)と、乾燥した豚糞尿(D)と、豚糞尿の堆肥化物(E)とを、それぞれ4回の水洗浄をした後に塩酸で洗浄したときの各洗浄時の有機物の溶出量を示したグラフが示され、乾燥した豚糞尿(D)と、豚糞尿の堆肥化物には、元々水不溶性で酸で溶出する有機物が10%程度含まれていること、酸化カルシウムと反応させた反応生成物では、水不溶性で酸で溶出する有機物が20?40%と増加していることが示され、この増加分は水不溶性のカルシウム塩であると解される。さらに、豚糞尿を原料とする反応生成物(A)?(C)において、4回の水洗浄により除去される有機物の総量は50%程度あることが示されている。 そうすると、相違点4に係る「カルシウム塩化していない腐敗性廃棄物中の有機物が除去」とは、カルシウム塩化で難溶塩化した有機物以外の有機物が除去対象とされる有機物であり、これは、ガス状化により除去することと、残った反応生成物を水洗浄することとにより、反応生成物中の有機物の50%程度存在する水溶性の有機物を除去することと解される。 これに対し、甲1、2発明1では、(1f)、(2f)の記載からみて、ガス状化により有機物の一部が除去されているものと認められるが、水洗浄を行っていないことから、反応生成物中の有機物の50%程度存在すると見られる水溶性の有機物が残存しており、カルシウム塩化していない腐敗性廃棄物の大半が除去されているものではない。 そして、本件請求項2に係る発明は、上記相違点4に係る構成を含む全体として、本件特許明細書の段落【0043】、【0044】に記載されている、蟻酸を含む低位脂肪酸等の酸類がカルシウム塩として安定した状態で固定化されているので、時期に応じて上記脂肪酸カルシウム等が順次分解されることにより、肥効性成分が緩効性で、有効微生物の増殖及び活性化並びに生態系の生育活性化に有効な土壌環境を保持できること、腐敗性廃棄物中の未反応有機物が除去されているので、塩基過剰や未醗酵有機物による弊害を生じることもない等の特有の作用効果を奏するものと認められる。 なお、審判請求人は、審判請求の理由及び回答書において、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明の反応生成物について、野外で使用する、あるいは野外に野積みすると可溶性有機物の大半が流出し、請求項2に係る発明と実質的に同じになる、発酵のために野外に野積みすることは普通に行われることであると主張しているが、甲第1号証、甲第2号証には、固液混合の腐敗性廃棄物と酸化カルシウムとの反応を、屋根付きハウス内で行うことが記載されており、その後、野外で野積みすることは記載されていないし、示唆もない。また、甲1、2発明1は反応生成物を発酵させるものではないから、野外に長期間野積みする必要性もなく、甲1、2発明1を実施すると、請求項2に係る発明と同じになるものともいえない。 よって、本件請求項2に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明ではなく、また、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることもできない。 (2-2)請求項4に係る発明について 請求項4に係る発明は、請求項2に記載の培土を製造する方法であるところ、請求項2に記載の培土が、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明ではなく、また、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないことは上記のとおりであるが、請求項4に係る発明の培土の製造方法と甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明とについても対比し検討する。 上記1.(1)(2)の記載事項によれば、甲第1号証及び甲第2号証には、いずれも「固液混合の腐敗性廃棄物に酸化カルシウムを95%以上含む添加材を添加することにより急激な水和反応を生じさせ、この水和反応によって、酸化カルシウム中のカルシウムイオンを解離させると共に腐敗性廃棄物が分解された低分子化合物を生成し、分解された低分子化合物とカルシウムとによってカルシウム塩を生成する培土の製造方法」の発明(以下、「甲1、2発明2」という。)が記載されていると認められる。 請求項2に係る発明について検討した事項をふまえて、請求項4に係る発明と甲1、2発明2とを対比すると、両者は、 「固液混合の腐敗性廃棄物に酸化カルシウムを95%以上含む添加材を添加することにより急激な水和反応を生じさせ、この水和反応によって、酸化カルシウム中のカルシウムイオンを解離させると共に腐敗性廃棄物が分解された低分子化合物を生成し、分解された低分子化合物とカルシウムとによって、カルシウム塩を生成する土壌資材の製造方法。」である点で一致し、少なくとも次の点で相違する。 相違点5:請求項4に係る発明では、カルシウム塩化していない腐敗性廃棄物中の有機物を水洗浄により洗い流すのに対し、甲1、2発明2では、カルシウム塩化していない腐敗性廃棄物中の有機物を水洗浄により洗い流していない点。 上記相違点5に係る構成については、請求項2に係る発明における相違点4について述べたとおり、甲第1号証、甲第2号証に何ら示されていない。 そして、本件請求項4に係る発明は、上記相違点5に係る構成を含む全体として、請求項2に係る発明について述べたと同様の明細書記載の特有の作用効果を奏するものと認められる。 したがって、本件請求項4に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明ではなく、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることもできない。 III.無効理由4について 請求人が主張する、本件明細書の不備は、概略次のようなものである。 a.請求項2に係る発明において、反応後の腐敗性廃棄物から、カルシウム塩化していない有機物を除去する方法が不明である。 また、請求項2に係る発明に対応する実施例がなく、請求項2に係る発明に係る培土が提供できるか不明である。 さらに、甲第1号証、甲第2号証では、有機物を除去しないで使用しており、カルシウム塩化していない有機物を除去する技術的意義が不明である。 b.請求項1に係る発明を引用している請求項4に記載の工程では、請求項1に係る発明の培土を製造できない。 また、請求項1に係る発明の実施例がなく、その実施方法及び効果が不明である。 さらにカルシウム塩化していない有機物を洗い流す技術的意義も不明である。 c.特許請求の範囲の「蟻酸等」、「脂肪酸及びアミノ酸など」、「酸類」、「ほとんど」の記載は不明りょうであり、発明の範囲が不明りょうである。 d.請求項1、2に係る発明には市販の生石灰(酸化カルシウム)との反応が含まれるように記載されており、実施不能な部分を含んでいる。 これらについて以下検討する。 a.について 本件特許明細書には、「酸化カルシウムを添加することによって、カルシウム化合物が生成されるだけでなく、腐敗性廃棄物中に含有されているアンモニアやアミン類などの塩基性成分がガス状となって除去される。」(段落【0022】)、「反応生成物中の有機物を・・・、反応生成物を水洗浄して洗い流すことにより除去する。」(段落【0025】)、「有機物と水酸化カルシウムの除去にあたってはその全てを取り去る必要はなく、可及的にその大半を除去するようにすれば良い。」(段落【0014】)と記載され、「カルシウム塩化していない腐敗性廃棄物中の有機物が除去」とは、有機物のガス状化と、反応生成物の水洗浄により除去することは明らかであり、10%程度のもともと含まれる難溶性物質とカルシウム塩化して水不溶性となった有機物を除いて、カルシウム塩化していない腐敗性廃棄物の大半が除去されている状態を意味していると解することができるから、カルシウム塩化していない有機物を除去する方法が不明であるとはいえない。 また、本件特許明細書の段落【0034】には、豚糞尿に酸化カルシウムを主成分とする添加材を添加し、その反応生成物を水洗浄して培土を得た実施例が記載され、この実施例は本件請求項2、4に係る発明の実施例に相当する。 そして、段落【0035】、【0036】には、上記実施例の結果が示され、既存の培土と遜色のないメロンを栽培することができたことが記載されているから、請求項2に係る発明に係る培土が提供できることは明らかであり、技術的意義が不明であるということもできない。 なお、本件特許明細書には、訂正により削除された請求項1又は3に係る発明の実施例が、段落【0031】ないし【0033】に記載されているが、これらが請求項2又は4に係る発明の実施例に相当しないことは明らかであり、これらが「実施例」として記載されていることのみをもって、明細書の記載が当業者が容易に実施しうる程度に記載されていないとすることはできない。 b.について 上記訂正により、請求項4に係る発明は請求項2に係る発明を引用するものに訂正されており、不備は解消されている。 また、実施例、技術的意義については「a.について」で述べたとおりであり、この点の不備はない。 c.について 「蟻酸等」が「低位脂肪酸」の例示であること、「脂肪酸及びアミノ酸など」が、腐敗性廃棄物の熱分解により生じた種々の酸の例示であること、「酸類」が脂肪酸及びアミノ酸を含む「酸」一般を示す総称として使用されていることは明らかである。 また、化学反応で反応が100%行われることは現実にはありえないことであり「ほとんど」とは、可能な限り除去することを意味していることは明らかであって、この記載により発明の範囲が不明りょうであるとはいえない。 d.について 請求項1に係る発明は訂正により削除されたので、請求項2に係る発明について検討すると、請求項2に係る発明における「酸化カルシウム」は、請求項2に係る発明の構成から、「固液混合の腐敗性廃棄物と酸化カルシウムとの反応により腐敗性廃棄物中のアミノ酸を熱分解」しうるものであることは明らかである。 そして、本件特許明細書の段落【0010】には、このような酸化カルシウムの条件が記載されており、図1には市販の生石灰では、有機物を熱分解しうる高熱状態が得られないことが示されている。 すなわち、「酸化カルシウムの一部が、反応の際に腐敗性廃棄物中のアミノ酸を熱分解して生成された蟻酸等の低位脂肪酸、並びに上記腐敗性廃棄物中に元々含まれていた蟻酸等の低位脂肪酸を含む脂肪酸及びアミノ酸などの 酸類をカルシウム塩として固定」されないものは、請求項2に係る発明に相当しないことは明らかであり、請求項2に係る発明が、実施不能な部分を含んでいるということはできない。 したがって、本件特許明細書の記載には、請求人が主張するような不備はない。 第7 むすび 以上のとおり、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件請求項2及び4に係る発明についての特許を無効とすることはできない。 審判費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 培土とその製造方法 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 削除 【請求項2】固液混合の腐敗性廃棄物と酸化カルシウムとの反応生成物より成り、上記酸化カルシウムの一部が、上記反応の際に腐敗性廃棄物中のアミノ酸を熱分解して生成された蟻酸等の低位脂肪酸、並びに上記腐敗性廃棄物中に元々含まれていた蟻酸等の低位脂肪酸を含む脂肪酸及びアミノ酸などの酸類をカルシウム塩として固定し、酸化カルシウムの残部が炭酸カルシウムに変換され、かつ、カルシウム塩化していない腐敗性廃棄物中の有機物が除去されていることを特徴とする培土。 【請求項3】 削除 【請求項4】請求項2に記載の培土を製造する方法であって、固液混合の腐敗性廃棄物に酸化カルシウムを95%以上含む添加材を添加することにより急激な水和反応を生じさせ、この水和反応によって酸化カルシウム中のカルシウムイオンを解離させると共に腐敗性廃棄物中のアミノ酸から蟻酸等の低位脂肪酸を生成し、この低位脂肪酸並びに腐敗性廃棄物中に元々含まれている蟻酸等の低位脂肪酸を含む脂肪酸及びアミノ酸などの酸類と、解離された上記カルシウムイオンとによってカルシウム塩を生成し、かつ、カルシウム塩を形成していない腐敗性廃棄物中の有機物を水洗浄によって洗い流すと共に上記反応によって消和された水酸化カルシウムのほとんどを炭酸カルシウムに変換させたことを特徴とする、培土の製造方法。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は、家畜糞尿、上下水余剰汚泥その他の腐敗性廃棄物(焼酎カス、動物血液等を含む)に所定の処理を施すことにより、そのまま単独で栽培用の土壌として使用することのできる、培土とその製造方法に関するものである。 【0002】 【従来技術とその問題点】 例えば育苗用の培土は、保水性と透水性に優れ、肥効性成分を必要量含んだものが最適である。ところが、土そのものは、その物理的構造や化学的組成あるいは有機物含有量にもにばらつきがあり、通常は、養分量が少なく、また水持ち、水はけの点でも充分でない。このため、従来は、土に保水性や透水性を良くする資材、あるいは堆肥化された有機物や、微生物菌体などの各種資材を混入することによりこれを調整するようにしている。 【0003】 しかしながら、こうした培土は、土の性質にあわせてその短所を補うような資材を適量、混入する必要があり、資材の選択と量調整が難しい。また、混入する資材自体もそれぞれ特有の問題を有する。例えば堆肥を利用するものの場合、充分な堆肥化に時間がかかるばかりでなく、土に混入したときに微生物によって窒素が吸収され、窒素飢餓の現象を起こすことがある。また、微生物菌体を担持体に担持させて土に混入するものの場合には、環境の変化に対する適応能力の点で問題がある。 【0004】 いずれにしろ、従来の培土は、土に所定の資材を混入して成るにすぎないため、その作用を人為的に制御するのが難しく、保水性や透水性あるいは肥効性成分を充分に確保することのできないものが多い。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】 本発明の目的は、上記した従来の培土とその製法の問題点を解消することにある。即ち、本発明は、土に資材を混入するという手段を用いることなく、保水性と透水性に富み、かつ肥効性成分が緩効性で、短時間かつ低コストで製造できる、新規な培土とその製造方法を提供するものである。 【0006】 【課題を解決するための手段】 本発明の培土は、上記した目的を達成するために、固液混合の腐敗性廃棄物と酸化カルシウムとの反応生成物より成り、上記酸化カルシウムの一部が、上記反応の際に腐敗性廃棄物中のアミノ酸を熱分解して生成された蟻酸等の低位脂肪酸、並びに上記腐敗性廃棄物中に元々含まれていた蟻酸等の低位脂肪酸を含む脂肪酸及びアミノ酸などの酸類をカルシウム塩として固定し、酸化カルシウムの残部が炭酸カルシウムに変換され、かつカルシウム塩化していない腐敗性廃棄物中の有機物が除去されている点に特徴を有するものである。 【0007】 また、本発明の培土の製造方法は、固液混合の腐敗性廃棄物に酸化カルシウムを95%以上含む添加材を添加することにより急激な水和反応を生じさせ、この水和反応によって酸化カルシウム中のカルシウムイオンを解離させると共に腐敗性廃棄物中のアミノ酸から蟻酸等の低位脂肪酸を生成し、この低位脂肪酸並びに腐敗性廃棄物中に元々含まれている蟻酸等の低位脂肪酸を含む脂肪酸及びアミノ酸などの酸類と、解離された上記カルシウムイオンとによってカルシウム塩を生成し、かつ、カルシウム塩を形成していない腐敗性廃棄物中の有機物を水洗浄によって洗い流しすると共に上記反応によって消和された水酸化カルシウムのほとんどを炭酸カルシウムに変換させた点に特徴を有するものである。 【0008】 本発明の原材料には腐敗性の廃棄物が有効利用される。腐敗性廃棄物には、豚し尿(糞を含む)、鶏糞その他の家畜糞尿、動物血液、上下水余剰汚泥、焼酎カス等の食品製造工場から排出される腐敗性残渣などがある。例えば豚し尿の場合には通常86.5%?94.5%、乾燥鶏糞の場合には通常15?30%、上下水余剰汚泥の場合には通常75?97%、食品工場の腐敗性残渣の場合には通常75?95%の水分をそれぞれ含んでいるが、本発明の原材料として用いるには水分を75?97%の状態に調整することが望ましい。 【0009】 上記原材料には、酸化カルシウムを主成分とする添加剤が添加されて混合撹拌される。具体的には、上記した腐敗性の産業廃棄物100重量部に対して所定の添加剤を5?25重量部加え、両者を反応させる。 【0010】 添加剤は、次の条件を具備する高活性なものが望ましい。酸化カルシウムの含有率が高く(望ましくは95%以上)、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム及びその他の物質の含有率が低いこと。尚、組成成分として酸化マグネシウムが少量(例えば5%以下)含まれていても良い。多孔性を有し、表面積及び比表面積が広大で、細孔組織が高度に発達していること。水に少量を接触させたときに、優れた分散性、例えば全方向に広く速やかに分散する性質を有すること。水に中量を添加したときに、激しくかつ速やかに反応して水蒸気を発生させること。水に一定量を添加したときに充分に反応し、理論値に近似した温度上昇が認められること。更に必要によっては、水と接触後の消石灰を主成分とするスラリーにおいて、沈降速度が小で、沈降現象が認められないこと。 【0011】 本発明に使用される添加材(イ)が水に添加されたときの昇温速度を、市販の生石灰と比較した結果を図1に示す。市販の生石灰は、空気接触していない開封直後のもの(ロ)と、開封後、湿度90%の環境下に1時間放置したもの(ハ)と、開封後、同様の環境下に4時間放置したもの(ニ)の3種類を用意した。同図は、初期水温20度Cの水100mlに本添加材(イ)と上記3種類の市販生石灰(ロ)?(ニ)をそれぞれ20g添加したときの昇温速度(度C/秒)の違いをグラフで示してある。 【0012】 この図から明らかなように、本添加材(イ)は他の市販品(ロ)から(ニ)に比べて昇温速度が著しく大、即ち、極めて短時間(1秒前後)で高い温度まで急上昇していることが解る。このことは、水和反応によって添加材中の酸化カルシウムからカルシウムのほとんどが瞬間的にイオン化して解離されることと、腐敗性廃棄物中に含まれている有機物を熱分解するに必要な局部的高熱状態が創りだされることを意味している。 【0013】 従って、本添加材を腐敗性廃棄物中に添加すると、同廃棄物中のセルローズ、リグニン、高分子量蛋白質、リン脂質などがアルカリ性の下で励起され、酸化カルシウムと水との反応による局部的高熱によって低分子化合物に分解される。そして、急速に解離されたカルシウムイオンが、上記分解された低分子化合物の端末基あるいは上記リン脂質、高位脂肪酸のみならず、蟻酸や酢酸といった低位脂肪酸とも結合して、反応生成物中に難溶性の安定したカルシウム塩を生じさせる。この化学反応、特に低位脂肪酸との錯塩反応によって生成されたカルシウム化合物は、例えば消石灰や前記市販の生石灰を添加した場合の凝集作用によって生成される物理的にのみ安定な物質とは全く異質のものとなる。これらの場合には、カルシウムイオンの解離度も低くあるいは解離する速度も緩やかで、また腐敗性廃棄物中の有機物の分解も不十分なために、カルシウム塩を生成し得ない。 【0014】 図2は、腐敗性廃棄物中に含まれるこうした可溶性有機酸及びアミノ酸等の酸類が、本発明における上記反応生成物中に難溶性のカルシウム塩として固定されていることを示すための実験結果のグラフである。同図(A)?(E)は、豚糞尿を原料とする反応生成物(A)?(C)と、乾燥した豚糞尿(D)と、豚糞尿の堆肥化物(E)とを、それぞれ4回の水洗浄をした後に塩酸で洗浄したときの各洗浄時の有機物の溶出量を計測したものである。同図(A)は上記原材料に対して前記添加材を20%添加したときの反応生成物の結果を、同図(B)は添加材が10%の場合の反応生成物の結果を、また同図(C)は添加材が5%の場合の反応生成物の結果をそれぞれ示している。 【0015】 この図から明らかなように、乾燥豚糞尿及びその堆肥化物では水洗浄後の酸洗浄によっては有機物の溶出量が僅かであるのに対し、本発明に係る反応生成物では、いずれの場合においても水洗浄によっては溶出しなくなった後で、酸洗浄によって有機物が著しく溶出しているのが解る。このことは、反応生成物以外のもの(D),(E)については、これらに含まれる有機物のほとんどが水溶性のものであるのに対して、本発明に係る反応生成物は、有機物を水に難溶性で酸に可溶性のカルシウム化合物として内包していることを示すものである。 【0016】 本発明でカルシウム塩として固定される上記蟻酸は、本来、比較的に不安定であって揮散し易い物質である。しかしながら、本発明では上記した反応によって瞬間的に多量に解離されたカルシウムイオンが、蟻酸とすばやく結合してこれを蟻酸カルシウムとして固定する。蟻酸等の低位脂肪酸は、腐敗性廃棄物中に元々含まれているだけでなく、前記した反応熱によって腐敗性廃棄物中の蛋白質やアミノ酸が熱分解されることによっても生成される。新たに生成されたこの蟻酸等を含む低位の脂肪酸も、前記カルシウムイオンによってカルシウム塩として固定される。ちなみに水酸化カルシウムを添加材として使用した場合には、蟻酸の固定、即ちカルシウム塩の形成は極めて困難で、蟻酸は残存して空中に揮散するか、雨水などの水分により流出することになる。 【0017】 本発明に係る反応生成物中に蟻酸が蟻酸カルシウムとして固定されていることを示すため、次のような試験を行った。豚糞尿を主原料とするスラリーに前記添加剤を添加撹拌後、乾燥させたもの(スラリーと添加剤との比率が2:1のものを試料1,同比率が1:1のものを試料2,同比率が1:2のものを試料3とする)と、上記スラリーに消石灰を1:1の割合で添加撹拌後、乾燥させたもの(試料4)と、上記スラリーのみを乾燥させたもの(試料5)とのそれぞれについて、水に浸漬させて所定時間経過後の上澄み中に含まれる蟻酸の有無を高速液体クロマトグラフ法により検定した。次いで、引き続いてこれらの試料1?5を塩酸溶液に浸漬させてその浸漬中に含まれる蟻酸の有無を再度調べた。その検定結果を総括して表1に示す。 【表1】 【0018】 以上の結果から明らかなように、試料1から3はいずれも酸溶液中に蟻酸の存在が認められているのに対し、消石灰及び未処理スラリーでは酸溶液中には蟻酸が存在せず、むしろ水溶液中に多量に存在している。このことは、試料1から3の場合に蟻酸が酸化カルシウムと反応して錯塩化し、水には溶出しない蟻酸カルシウムが酸によって溶出しており、一方、消石灰の場合には単に凝集作用によって蟻酸が水酸化カルシウムと結合しているにすぎない結果を示す。 【0019】 図3は、図2(B)の反応生成物においてカルシウム塩として固定された低位脂肪酸の種類(同図A)と、同量の豚糞尿に水酸化カルシウムを添加して混合撹拌したときの低位脂肪酸の種類(同図B)とを量的なグラフで示したものである。本発明の反応生成物は、水酸化カルシウム添加の場合に比べて約2倍の量の低位脂肪酸を含み、またその内に3%強の蟻酸を含んでいる。水酸化カルシウム添加の場合には低位脂肪酸の量も少なく、蟻酸が検出されていない。このことは、腐敗性廃棄物中に含まれていた低位脂肪酸が上記反応過程で酸化カルシウムと反応してカルシウム塩化されるばかりでなく、腐敗性廃棄物中に含まれている蛋白質等が分解されて生成された低位脂肪酸が同様にカルシウム塩化されていることを示すものである。 【0020】 上記の化学反応によって、腐敗性廃棄物中に含まれる高位の脂肪酸も同様にカルシウム塩として形成される。また腐敗性廃棄物中に含まれる他の有機物、例えば水溶性リン酸は、その約98%が有効態のリン酸カルシウムとして固定される。有効態のリン酸カルシウムは、腐敗性廃棄物中に含まれるリン酸及びリン脂質中に含まれるリン酸と添加材との反応によって生成されるので、反応生成物中からは、原材料たる腐敗性廃棄物中に含まれていた水溶性リン酸及び脂質が著しく減少する。グリセライドを比較的に多量に含有する腐敗性廃棄物の場合には、このグリセライドも活性力の強い酸化カルシウムによって安定した難溶性のカルシウム塩となる。このため、上記反応生成物自体は嫌気性醗酵やガスあるいは害虫の発生等を生じることがない。 【0021】 カルシウム塩の生成に寄与しないカルシウムイオンの残部は、消和反応によって水酸化カルシウムに、また炭酸ガスと接触して炭酸カルシウムにそれぞれ変換されて反応生成物中に混在する。カルシウム塩を含めたこれらのカルシウム化合物の割合の一例を示すと、添加した酸化カルシウムの量を100とした場合、水酸化カルシウムが約18%、炭酸カルシウムが約48%、カルシウム塩が約34%である。 【0022】 酸化カルシウムを添加することによって、カルシウム化合物が生成されるだけでなく、腐敗性廃棄物中に含有されているアンモニアやアミン類などの塩基性成分がガス状となって除去される。すなわち、水和反応時に脱窒現象が行われる。この結果、反応生成物中の窒素含有量を適量に調整することが可能となる。従って、本培土では、窒素過多現象や後醗酵による経時変化や嫌気性環境の形成が防止される。 【0023】 添加材による反応時間は、長すぎると練り現象(ペースト化、微細化)を呈し、生成される培土が団粒構造になりにくく、また乾燥しにくくなることから、一般的には15分以内が望ましい。但し、原材料中に、例えばリン脂質、液状油分、塩基性物質、難分解性の高分子化合物などの反応しにくい物質が含まれている場合には反応時間は適宜延長される。添加材は、一回で上記量を添加せずに、多回に分割して添加するようにしても良い。 【0024】 このようにして反応生成物は、上記したカルシウム化合物と、未反応の有機物及び無機物とが混在し、特にカルシウム化合物が酸化カルシウムの前記した活性により物理的に全方向(立体的全方位)に均一に分散した物質となる。 【0025】 図4は上記組成から成る反応生成物を乾燥後、12m2の土壌に12Kg混入してすき返した試験区と、反応生成物を投与しない対照区とについて、約6カ月間(平成3年5月14日乃至同年11月21日)にわたり、土壌水分のpF値を測定した結果をグラフで示したものである。図中実線は試験区におけるpF値の動向を示し、波線は対照区のpF値の動向を示す。この図から明らかなように、上記した期間中、対照区ではpF値が0から3.0の間で激しく上下動しているのに対し、試験区では同値が1.2から2.8の間にとどまっている。特に、この年の秋口の長雨の季節に対照区ではpF値が極端に下がっているのに対して試験区では、1.5から2の間を保持している。このことから、上記反応生成物が混入された区域では、土壌の保水性と透水性とが理想的な状態に保持されているのが解る。 【0026】 本発明の培土は、上記反応生成物に更に次の処理を施すことによって得られる。 先ず、反応生成物中の有機物を醗酵等して有機化するか、反応生成物を水洗浄して洗い流すことにより除去する。有機物を有機化した場合には、本培土中に、水溶性の肥効性成分とカルシウム塩化した難溶性の肥効性成分とが混在し、結果的には有機質に無機質が入り込んだ複合体を形成する。また、有機物を除去した培土では、全体が無機質化し、そのうちのカルシウム塩が植物の根から生じる酸によって溶かされたときに内部の有機質が肥効性成分として作用し、あるいは土中微生物の餌料となる。このようにして本培土では、有害ガスの発生や有害微生物の発生、増殖といった有機化していない有機物による弊害が除去される。 【0027】 次に、カルシウム化合物のうち、水酸化カルシウムを炭酸カルシウムに変換する。反応生成物中の有機物を醗酵させる場合には、醗酵時に発生する炭酸ガスによってそのまま水酸カルシウムを炭酸カルシウムに変換させれば良い。勿論、反応生成物に炭酸ガスを強制的に接触させるようにしても良い。また、水酸化カルシウムは、水洗浄によってその大部分を洗い流すようにしても良い。水洗浄を行うときに炭酸ガスを吹き込むようにすれば、上記した有機物及び水酸化カルシウムの除去と、水酸化カルシウムの炭酸カルシウムへの変換を同時に行うことができる。 【0028】 このようにして、本培土中から水酸化カルシウムが除去される結果、そのpH値がほぼ中性を保つようになる。また、反応生成物中の有機物をも前記のようにして除去した場合には、本培土は、全体が水に難溶性の物質の集合体となる。尚、有機物と水酸化カルシウムの処理は、その時間的先行を問うものではない。また、有機物と水酸化カルシウムの除去にあたってはその全てを取り去る必要はなく、可及的にその大半を除去するようにすれば良い。 【0029】 更にまた、本発明の培土は、中間過程生成物である前記反応生成物が酸化カルシウムを急激に腐敗性廃棄物に対して拡散して得られる結果、体積が一旦膨張した後、乾燥されることによって多数の空隙を生じ、気孔率あるいは空隙率の大きな物質として生成される。こうした物理的構造は、反応生成物中の有機物及び水酸化カルシウムに上記した処理を施した後においても変わることはなく、本培土を保水性と透水性に富んだ物質として特徴づける。 【0030】 【実施例】 以下、本発明の実施例を示す。図5は、本発明に係る培土を製造するためのシステムを示している。同図において、図中符号1は腐敗性廃棄物の原料投入ホッパ、2は酸化カルシウムを主成分とする前記添加材のサイロで、貯留物の所定量がそれぞれコンベア11,21を介して反応機3に移送される。この反応機内で腐敗性廃棄物と酸化カルシウムとを混合撹拌させて得られた反応生成物は、反応機下方の移送タンク4に一旦滞留された後、移送ポンプ5によって移送管路51を介して乾燥室6へと搬送される。乾燥室6では、温風等によって反応生成物が強制乾燥される。温風の熱源は、他の廃棄物焼却処理システムを本システムに並設し、ここから導くようにすると良い。 【0031】 乾燥を終えた反応生成物は、搬送コンベア61によって醗酵槽7内に投入され、未反応の有機物が醗酵処理されると同時に発生した炭酸ガスによって反応生成物中に含まれている水酸化カルシウムが炭酸カルシウムに変換される。尚、図中符号71は醗酵調整装置を示す。醗酵槽7から取り出された物質は、カルシウム塩と炭酸カルシウムと有機体とその他の無機物とが適度に入り組んだ複合体の本発明に係る培土を構成する。 【0032】 上記装置を使用して培土を製造した一例を示すと、先ず、原材料として豚糞尿100Kgに対して酸化カルシウムを10Kg添加し、これを反応機中で15分間混合撹拌し、スラリー状の反応生成物110Kgを得た。これを温度30度cの乾燥室にて乾燥し、約20%の水分を除去した後、醗酵槽に投入した。醗酵槽からほぼ72時間後に取り出したところ、約40Kgの培土を得ることができた。この培土は、カルシウム化合物が15Kg(乾物重量)で、醗酵した有機物及び他の無機物が12Kg(乾物重量)であった。 【0033】 上記培土のpH値等及び組成成分中のカルシウムとマグネシウムとカリウムの重量%を、中間生成物としての反応処理物と比較する。先ず、中間処理物としての反応生成物は、pHが12.6、ECが6.9、全カルシウム量が28.2%、全マグネシウム量が1.54%、全カリウム量が1.48%であったのに対して、本発明方法の最終工程を経て生成された本培土は、pHが7.78、ECが2.62、全カルシウム量が25.8%、全マグネシウム量が0.88%、全カリウム量が0.66%であった。 【0034】 本培土をメロン栽培に施用した実施例を示す。豚糞尿に酸化カルシウムを主成分とする添加材を添加し、その反応生成物を水洗浄して本発明に係る培土を得た。静岡県立磐田農業高校に委託し、同温室において、上記培土のみをポットに入れ、平成3年9月24日にアールスフェボリット系統の品種のメロンを定植し、同年12月13日(75日目)に収穫した。比較例として、AからFの6種類の培土を用いた。Aは既存培土(水田作工を加工したもの)、Bは本培土とシラス(火山性軽石)を50%ずつ混合したもの、Cは本培土30%にシラス70%を混合したもの、Dは本培土20%にシラス80%を混合したもの、Eは本培土50%に上記既存培土50%を混合したもの、Fは本培土50%にシラス50%を混合し、かつ元肥肥料としてリン酸を加えたものである。尚、栽培管理は慣行通りとした。 【0035】 7個のメロンを20人のパネラーによって官能試験したところ、表2に示す結果が得られた。評価は5段階評価法を採り、5は非常に美味しい、4は美味しい、3は普通、4はまずい、1は非常にまずいを示す。 【表2】 【0036】 この結果から明らかなように、本発明に係る培土は、単独で使用した場合にも、糖度、味、臭い等において既存培土のものと遜色のないメロンを栽培することができた。糖度が対照区Aより優れているにもかかわらず、評価の点で若干劣ったのは、本発明に係る培土を用いたものに対して、他よりも水をかけすぎたことによる。対照区も含めて実施例では水が適宜投与されるが、本発明に係る培土の場合、保水性に富んでいるにもかかわらず、白っぽい褐色状を呈しているために、見かけ上、乾燥しているかのように見受けられ、他に比べて多量の水が投与されたためである。 【0037】 本発明による物質が培土として利用できることは、本実施例の対照区B乃至Dからも理解できる。これらの対照区では、本発明に係る培土をシラスによって所定の量、薄めてある。シラスを混入した結果、これらの培土は、本発明に係る培土単独のものに比べて透水性が更に良好となるものの保水性が低下した培土となる。この結果、多量の水が投与された場合、シラスの混入量に対応する分だけの水は透過し、本発明に係る培土の量に対応した分の水が内部に貯えられることとなる。 【0038】 本実施例のB乃至Dにおける収穫物の糖度と味の評価を見るに、本発明に係る培土の混入量に対応した結果となっている。即ち、本発明培土を50%混入したBが最も優れ(リン酸を初期投与したものFよりも高い値となっている)、本発明培土の混入量が少なくなるにつれ、糖度と評価が減少している。このことは、本発明培土が適量の水分を投与されていさえすれば、良好な培土として使用できることを示すものである。 【0039】 更に、本発明に係る培土と既存培土とを混合した対照区Eを見るに、上記した対照区B乃至Dとは異なり、混入された既存培土によって本発明に係る培土が薄められているだけでなく、影響を受け、その特性が充分に発現されない状態を示している。 【0040】 また、この他、本培土は、小松菜、ほうれん草、茄子、トマト、キュウリなどの各種作物の育成用培土として一般に使用することができる。これらの培土として使用した場合には、カルシウム塩中に含まれている種々の有機酸が栽培植物の根に吸収され易い形態となっており、それぞれの植物特性を高めるように作用する。例えば、糖度の向上、含水率の低下、耐病性の向上、澱粉含量の増大、葉厚の向上を図る。また、開花時期を早め、根張りも良好となるなどの実施例が報告されている。 【0041】 上記のようにして、本発明に係る培土は、単独であるいは他の培土と混合して使用することができるが、育成する植物及び/あるいは原材料と成る腐敗性廃棄物の種類によっては、初期施肥を施すようにしても良い。もちろん、その量は、従来の培土に比べて少量で済む。 【0042】 【発明の効果】 以上述べたように、本発明によれば次の効果を奏する。本発明に係る培土は、固液混合の腐敗性廃棄物に酸化カルシウムが反応、拡散して生成されるので、体積が膨張した後、乾燥されることによって多数の空隙を生じており、気孔率あるいは空隙率の大きな物質となる。このため、カルシウム化合物が全方向に均一に分散した、団粒構造を有する培土を提供できる。 【0043】 また、蟻酸を含む低位脂肪酸等の酸類がカルシウム塩として安定した状態で固定化されているので、時期に応じて酸性物質や有効微生物の発する酸によって上記脂肪酸カルシウム等が順次分解されることにより、肥効性成分が緩効性で、有効微生物の増殖及び活性化並びに生態系の生育活性化に有効な土壌環境を保持できる。 【0044】 また、本発明に係る培土は、酸化カルシウムを利用しながらも、水酸化カルシウムが除去あるいは炭酸カルシウムに変換され、また、腐敗性廃棄物中の未反応有機物が除去されているので、塩基過剰や未醗酵有機物による弊害を生じることもない。 【0045】 更に、本発明によれば、腐敗性廃棄物と酸化カルシウムの水和反応を利用するものであるから、腐敗性廃棄物の有効利用を図ることができるばかりでなく、コストをあまりかけることなく有効な培土を提供できる。 【0046】 また、本発明によれば、腐敗性廃棄物に酸化カルシウムを反応させたときに、局所的に発生する高熱によって有機物を低位脂肪酸に分解し、これをカルシウム塩化するので、比較的多量の低位脂肪酸を非水溶性で酸可溶性の状態で安定して固定できる。 【図面の簡単な説明】 【図1】本発明に使用される酸化カルシウムの消化反応速度を示すグラフ 【図2】腐敗性廃棄物中の可溶性有機酸及びアミノ酸等の酸類が、本発明における反応生成物中に難溶性のカルシウム塩として固定されていることを示すための実験結果のグラフで、(A)?(E)は、豚糞尿を原料とする反応生成物(A)?(C)と、乾燥した豚糞尿(D)と、豚糞尿の堆肥化物(E)とを、それぞれ4回の水洗浄をした後に塩酸で洗浄したときの各洗浄時の有機物の溶出量を計測したものであり、(A)は原材料に対して添加材を20%添加したときの反応生成物の結果を、(B)は添加材が10%の場合の反応生成物の結果を、また(C)は添加材が5%の場合の反応生成物の結果を示す。 【図3】図2(B)の反応生成物においてカルシウム塩として固定された低位脂肪酸の種類(A)と、同量の豚糞尿に水酸化カルシウムを添加して混合撹拌したときの低位脂肪酸の種類(B)とを量的なグラフで示したものである。 【図4】反応生成物を乾燥後、12m2の土壌に12Kg混入してすき返した試験区と、反応生成物を投与しない対照区とについて、約6カ月間にわたり、土壌水分のpF値を測定した結果をグラフで示したものである。 【図5】本発明に係る培土を製造するためのシステムの一例を示す。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2006-09-11 |
結審通知日 | 2006-09-11 |
審決日 | 2006-09-19 |
出願番号 | 特願平4-89862 |
審決分類 |
P
1
113・
113-
YA
(A01G)
P 1 113・ 534- YA (A01G) P 1 113・ 121- YA (A01G) P 1 113・ 531- YA (A01G) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 坂田 誠 |
特許庁審判長 |
山口 由木 |
特許庁審判官 |
鈴木 紀子 脇村 善一 |
登録日 | 2001-10-26 |
登録番号 | 特許第3243575号(P3243575) |
発明の名称 | 培土とその製造方法 |
代理人 | 渡辺 喜平 |
代理人 | 植田 茂樹 |
代理人 | 植田 茂樹 |
代理人 | 田中 有子 |