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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2008800249 審決 特許
無効200680021 審決 特許
無効200335239 審決 特許
無効2008800290 審決 特許
無効2010800100 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A61K
管理番号 1146974
審判番号 無効2005-80142  
総通号数 85 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-09-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-05-10 
確定日 2006-10-23 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3527053号発明「化粧料」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3527053号の請求項に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯

本件特許第3527053号の請求項1?3に係る発明についての出願は、平成9年3月11日に出願され、平成16年2月27日にその発明についての特許権の設定登録がされ、平成17年5月10日に請求人により無効審判の請求がされ、さらに平成17年8月1日に特許権者により訂正請求がされたものである。

2.訂正請求について

(1)訂正の内容
(訂正事項1)
請求項1中の「リン脂質を含有する(但しリポソームの形態で含有するものは除く)」を、「リン脂質(但しリポソームの形態で含有するものは除く)と、コレステロール及び/又はその誘導体を含有する」に訂正する。

(訂正事項2)
請求項2中の「更にコレステロール及び/又はその誘導体を含有する」を、「上記リン脂質とコレステロール及び/又はその誘導体との配合重量比が1:0.1?1:1である」に訂正する。

(2)訂正の適否
訂正事項1は、化粧料の配合成分として、リン脂質(但しリポソームの形態で含有するものは除く)に、更にコレステロール及び/又はその誘導体を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、

訂正事項2は、リン脂質(但しリポソームの形態で含有するものは除く)と、コレステロール及び/又はその誘導体の配合割合を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

また、上記各訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、且つ実質上特許請求の範囲を拡張し変更しないものであることが明らかである。
したがって、本件訂正は、特許法第134条の2第1項及び第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので、訂正を認める。

3.本件特許発明

上記2.のとおり訂正が許容されるので、本件請求項1?3の発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。

「【請求項1】
ホスファチジルコリン含有量が70重量%以上で、且つホスファチジルコリンと酸性リン脂質の重量比が、99.9:0.1?95:5であるリン脂質(但しリポソームの形態で含有するものは除く)と、コレステロール及び/又はその誘導体とを含有することを特徴とする化粧料。
【請求項2】
上記リン脂質とコレステロール及び/又はその誘導体との配合重量比が1:0.1?1:1であることを特徴とする請求項1に記載の化粧料。
【請求項3】
pH5以下であることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の化粧料。」

4.当事者の主張

(1)請求人は、甲第1?8号証を提出して、以下の無効理由1及び2により、本件特許は特許法第123条第1項第2号に該当するので、無効にすべき旨主張している。

(無効理由1)本件請求項1の発明は、甲第1号証乃至甲第2号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものである。

(無効理由2)本件請求項1?3の発明は、甲第1号証乃至甲第7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(証拠方法)
甲第1号証:特公平7-16362号公報
甲第2号証:旭化成工業株式会社,「卵黄油・卵黄レシチン」製品パンフレ ット,1996年7月頒布
甲第3号証:特開昭62-175414号公報
甲第4号証:特開昭63-287711号公報
甲第5号証:特開昭61-54231号公報
甲第6号証:是沢猛,「コレステロールの機能と応用」,FREGRANC E JOURNAL,臨時増刊15号,147?153頁,1996年3 月1日発行
甲第7号証:内藤昇等,「化粧品におけるリン脂質の開発と応用」,FRE GR ANCE JOURNAL,臨時増刊15号,98?108頁,1 996年3月1日発行

(2)被請求人は、請求人の主張はいずれも失当であると主張し、乙第1号証及び参考資料1を提出している。

(証拠方法)
乙第1号証:FREGRANCE JOURNAL,Vol.19,No. 8,pp.75-85,1991
参考資料1:Current Perspectives in the
Use of Lipid Emulsion,Ivan D.A.Jo hnston編,pp.35-61,1982年

5.当審の判断

5-1.無効理由2について

5-1-1.甲号証の記載の概要

【1】甲第1号証:特公平7-16362号公報

(1-1)「(技術分野)本発明は、原料たる粗レシチンよりホスファチジルコリン濃度の高いレシチンを採取する方法に係り、特に、ホスファチジルコリン濃度が低い植物性の原料レシチンから、高濃度のホスファチジルコリンを含むレシチンを有利に採取する方法に関するものである。
(背景技術)食品、化粧品、医薬品、更には一般工業の各分野において、乳化剤や分散剤等として広く利用されているレシチンは、多くの場合、ホスファチジルコリン(PC)の単体からなるものではなく、各種リン脂質の混合物であるのが実情である。」(第1頁第1欄第14行?第2欄第10行)

(1-2)「乳化剤等に用いられるレシチンにあっては、ホスファチジルコリン(PC)を高い割合で含むものが好適とされているところから、PC濃度の低い植物性レシチンを原料とする場合には、PCの高濃度化を行なう必要が生じるのである。」(第2頁第3欄第16行?第20行)

(1-3)「実施例 1
油脂を含まない粉末大豆レシチン(ツルーレシチン工業製、SLP-ホワイト):30gを・・・レシチンとデキストリンとの粉末混合物を調製した。
次いで、この混合物を・・・液化二酸化炭素とエタノールとの混合溶媒(エタノール比率:16重量%)を連続的に注入して、PCの抽出を12時間行なった。・・・採取されたレシチンの組成を・・・分析し、その結果を下記第2表に示した。また、原料レシチン(コントロール)の組成も分析し、同表に合わせて示した。・・・
実施例 2?4
実施例1と同様な粉末混合物(粉末レシチン及びデキストリン粉末)を用いて、実施例1と同様にして、液化二酸化炭素とエタノールの混合溶媒(エタノール比率:8重量%)にて、PCの抽出を16時間行ない、その結果を第2表に合わせて示した。なお、抽出条件は、圧力:7MPa、溶媒の平均流量:400N/hを共通条件として、温度条件をそれぞれ変更した。
各々の分析結果より明らかなように、温度に関係なく高濃度のPCを含むレシチンが得られた。
実施例 5?7
実施例1と同様な粉末混合物(粉末レシチン及びデキストリン粉末)を用いて、実施例1と同様にして、超臨界二酸化炭素とエタノールの混合溶媒(エタノール比率:8重量%)にて、PCの抽出を16時間行ない、その結果を第2表に合わせて示した。」(第4頁第8欄第20行?第5頁第10欄第4行)

第2表には、実施例1?実施例7でホスファチジルコリンの割合が高められたレシチンのリン脂質組成が以下のとおり示されている。
実施例1(PC 85.0 PE11.2 LPC3.4)、実施例2(PC83.2 PE6.8 PA0.4 LPC4.3)、実施例3(PC83.5 PE7.8 PA0.3 LPC3.3)、実施例4(PC83.2 PE7.9 PA1.1 LPC3.3)、実施例5(PC78.5 PE12.4 PA0.5 LPC2.7)、実施例6(PC76.1 PE13.7 PA0.2 LPC2.3)、実施例7(PC77.3 PE15.2 PA3.7 LPC3.1)
[ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジン酸(PA)、リゾホスファチジルコリン(LPC)]

【2】甲第2号証:旭化成工業株式会社,「卵黄油・卵黄レシチン」製品パンフレット,1996年7月頒布

(2-1)「4.卵黄リン脂質の組成
リン脂質はいくつもの成分を含む複合物質です。卵黄リン脂質の主成分は約70%を占めるホスファチジルコリンです。他に15?20%のホスファチジルエタノールアミンとごくわずかですが右下表のような成分を含んでいます。
5.卵黄リン脂質と大豆リン脂質
商業的に取引されているリン脂質には、卵黄から抽出された卵黄リン脂質と大豆の搾油工程で発生してくる大豆リン脂質とがありますが、両者はリン脂質の組成の上で大きな相違があります。化学的にレシチンを意味するホスファチジルコリンが卵黄リン脂質の主成分(約70%含有)であるのに対し、大豆リン脂質においてホスファチジルコリンは卵黄リン脂質の半分以下(約30%含有)で少なく、他にホスファチジルエタノールアミンやホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリンが多く含まれています。各種用途に用いる場合も両者には違いがあります。卵黄リン脂質は大豆リン脂質よりも界面活性が強く、化粧品・医薬品に用いた場合大豆リン脂質よりも効果的であると考えられています。」(第3頁)

第3頁の表には、卵黄リン脂質の成分が、ホスファチジルコリン73.0%、ホスファチジルエタノールアミン14.9%、ホスファチジルセリン0.2%、ホスファチジルイノシトール0.5%、ホスファチジックアシド0.7%、プラズマローゲン1.0%、スフィンゴミエリン2.5% であることが示されている。

【3】甲第3号証:特開昭62-175414号公報

(3-1)「レシチン0.1?10重量%・・・油分0.1?50重量%・・・よりなる水中油型の乳化化粧料」(特許請求の範囲第1項)

(3-2)「本発明は、安全性の高いレシチンを乳化剤とし、また低級一価アルコールの配合による清涼感を有しながらも、均一で安定なエマルジョン状態を維持し得る新規な水中油(O/W)型の乳化化粧料を提供することを目的とする。」(第1頁右下欄第1行?第5行)

(3-3)「本発明に適用されるレシチンとしては、通常入手される大豆レシチン、卵黄レシチンを始めとして、これらを加工して得られる精製レシチン、水素添加レシチン、さらに主要成分たるフォスファチジルコリン、フォスファチジルエタノールアミン、フォスファチジルセリン、フォスフアチジルイノシトールなども使用し得る。」(第2頁左下欄第4行?第10行)

(3-4)「本発明で用いられる油分とは、通常化粧料に用いられる油分であればよく、特に限定されない。例えば、流動パラフィン、スクワラン等の炭化水素類、オリーブ油、大豆油等の油脂類、ミシロウ、ラノリン等のロウ類、・・・セタノール、コレステロール等のアルコール類・・・などが挙けられる。」
(第3頁左上欄第9行?第18行)

(3-5)「実施例7 モイスチャーローション
(A)卵黄レシチン 1
(B)エタノール 8
(C)流動パラフィン 5
ミリスチン酸オクチルドデシル 10
香料 0.2
(D)1,3-ブタンジオール 5
精製水 5
(E)精製水 65.8
・・・
実施例8 エモリエントクリーム
(A)大豆精製レシチン 1
ショ糖脂肪酸エステル 0.2
(B)イソプロパノール 7
プロピレングリコール 10
精製水 5
(C)ジメチルポリシロキサン 10
スクワラン 5
セタノール 3
香料 0.3
(D)精製水 58.5
・・・
実施例9 エモリエントローション
(A)大豆精製レシチン 2
(B)エタノール 10
(C)2-エチルヘキサン酸トリグリセライド 25
香料 0.2
(D)グリセリン 10
精製水 5
(E)精製水 47.8
・・・
実施例10 ミルキィホワイト
(A)水素添加レシチン 1.5
エタノール 5
イソプロパノール 12
(B)スクワラン 5
アスコルビルパルミテート 5
香料 0.2
(C)グリセリン 8
ヒアルロン酸ナトリウム 0.001
精製水 63.299」(第5頁)

【4】甲第6号証:是沢猛,「コレステロールの機能と応用」,FREGRANCE JOURNAL,臨時増刊15号,第147?153頁,1996年3月1日発行

(6-1)「コレステロールは様々な用途,たとえば化粧品用の乳化剤,保湿剤や,エビなどの甲殻類養殖の飼料添加剤として,その他ビタミンD3,ステロイドホルモン等の医薬品原料として重要な物質となっている。」(第147頁右欄第4行?第8行)

(6-2)「化粧料 コレステロールは乳化剤,あるいは乳化安定剤として古くから用いられているが,皮膚浸透性がよく,皮脂あるいは毛髪脂質中に多く含まれていることから皮膚の栄養剤として栄養クリーム,ヘアーローション等に用いられている。」(第151頁右欄第5行?第10行)

【5】甲第7号証:内藤昇 等,「化粧品におけるリン脂質の開発と応用」,FREGRANCE JOURNAL,臨時増刊15号,第98頁?第108頁,1996年3月1日発行

(7-1)「リピッドエマルジョンは基本的には基剤として植物油(大豆油)10?20%,乳化剤としてリン脂質0.8?1.8%及び等張化剤としてグリコール類約2.5%以上を含むO/W型エマルジョンである。」(第101頁左欄第17行?第21行)

(7-2)「乳化剤としてのリン脂質に、高純度のPCやPEを単独で用いると,得られたエマルションは,クリーミングや水層分離をおこし,非常に安定性が悪いと報告されている。一般にリン脂質は分子構造上,そのエマルション-水分散系の界面電位(ゼータ電位におおよそ等しい)がpHにより変動するイオン性リン脂質と,それがほとんど変動しない電気的に中性のリン脂質に分類できる。Fig.6に示すように,PC・PEの単独エマルションは,液性が中性近傍である使用pH領域において,電気的にほぼ中性であることがわかる。これに対し,イオン性リン脂質であるPS・PIなどを含んでいるIntralipidでは,ゼータ電位が上昇し,その結果エマルション同士の凝集が妨げられ,安定性が向上していることがわかる。Rydhagらによれば,PCやPEに少量のPAやPSが含まれるエマルションの界面には,液晶ゲル構造が形成され,その厚さ約80Åであると報告されている。一般に,実在のあるいは市販のリン脂質には適量のイオン性のリン脂質が含まれており,高い乳化特性を示す。」(第101頁右欄第10行?第102頁左欄第2行)

(7-3)「最近では高水添で高品質なリン脂質が普及し,これらの欠点が大幅に解消され、安定性が向上した。その結果,化粧品分野へのリピッドエマルションの応用も可能となった。また,この高水添リン脂質を,コレステロールと併用することによって,乳化力および経時安定性がさらに向上することが報告されている。」(第102頁右欄第5行?第11行)

5-1-2.対比・判断

A)請求項1について
甲第3号証には、レシチンを含有する化粧料が記載されている(3-1)。
そこで、本件請求項1の発明と甲第3号証に記載された発明とを比較すると、レシチンの主要成分がフォスファチジルコリンであることは周知の事項であるから、両者は、「ホスファチジルコリンを含むリン脂質を含有する化粧料」である点で一致する。
しかし、両者は、(1)前者では、リン脂質が「ホスファチジルコリン含有量が70重量%以上で、且つホスファチジルコリンと酸性リン脂質の重量比が、99.9:0.1?95:5」であるのに対し、後者では、リン脂質中のホスファチジルコリンの含有量、その他のリン脂質成分については明示されていない点、及び、(2)前者は、コレステロール及び/又はその誘導体を含有するのに対して、後者では、コレステロール及び/又はその誘導体を配合することについて明示されていない点で相違する。
以下、この相違点について検討する。

相違点1)
甲第1号証には、化粧品の分野等において乳化剤として利用されているレシチンは、各種リン脂質の混合物であり、そのうちホスファチジルコリンを高い割合で含むものが好適であることが(1-1)(1-2)、また、表2には、実施例1乃至実施例7によって得られたレシチンの組成の分析結果が示されている。
それによれば、実施例2のレシチンは、「ホスファチジルコリン(PC)」の含有量が「83.2重量%」で、「ホスファチジン酸(PA)」(本件請求項1の発明の「酸性リン脂質」に相当)の含有量が「0.4重量%」であるので、ホスファチジルコリンと酸性リン脂質の重量比は、「99.52:0.48」となる。
同様にして、実施例3のレシチンは、「ホスファチジルコリン(PC)」の含有量が「83.5重量%」で、ホスファチジルコリンと酸性リン脂質の重量比は、「99.64:0.36」、
実施例4のレシチンは、「ホスファチジルコリン(PC)」の含有量が「83.2重量%」で、ホスファチジルコリンと酸性リン脂質の重量比は、「99.64:0.36」、
実施例5のレシチンは、「ホスファチジルコリン(PC)」の含有量が「78.5重量%」で、ホスファチジルコリンと酸性リン脂質の重量比は、「99.37:0.63」、
実施例6のレシチンは、「ホスファチジルコリン(PC)」の含有量が「76.1重量%」で、ホスファチジルコリンと酸性リン脂質の重量比は、「99.74:0.26」、
実施例7のレシチンは、「ホスファチジルコリン(PC)」の含有量が「83.5重量%」で、ホスファチジルコリンと酸性リン脂質の重量比は、「99.64:0.36」である。
したがって、実施例2乃至実施例7のレシチンは、ホスファチジンコリン(PC)含有量70重量%以上で、ホスファチジルコリンと酸性リン脂質の重量比99.9:0.1?95:5で含有するものである。

また、甲第2号証には、卵黄リン脂質は大豆リン脂質よりも界面活性が強く、化粧品・医薬品に用いた場合大豆リン脂質よりも効果的であること(2-1)、そして、卵黄リン脂質の組成は以下のとおりであることが記載されている。
ホスファチジルコリン73.0%、ホスファチジルエタノールアミン14.9%、 ホスファチジルセリン0.2%、ホスファチジルイノシトール0.5%、ホスファチジックアシド0.7%、プラズマローゲン1.0%、スフィンゴミエリン2.5%

該組成におけるホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、及びホスファチジックアシドは「酸性リン脂質」に相当し、その合計量は1.4%であるから、当該卵黄リン脂質組成におけるホスファチジルコリンと酸性リン脂質の含有量比は、「98.12:1.88」である。したがって、該卵黄リン脂質は、ホスファチジルコリン(PC)含有量70重量%以上で、ホスファチジルコリンと酸性リン脂質の重量比99.9:0.1?95:5で含有するものである。

ところで、甲第3号証の化粧料において、「ホスファチジルコリンを含むリン脂質」が乳化剤としての機能を目的として配合されることは明らかであるから(3-2)、そのリン脂質として、乳化剤として好適であるとされる甲第1号証あるいは甲第2号証に記載された、「ホスファチジルコリン含有量が70重量%以上で、且つホスファチジルコリンと酸性リン脂質の重量比が、99.9:0.1?95:5」であるリン脂質を採用することは、当業者が容易になし得ることである。

相違点2)
甲第6号証には、コレステロールが化粧料のための乳化剤又は乳化安定剤あるいは皮膚の栄養剤として用いられることが記載されている(6-1)(6-2)。また、甲第7号証には、化粧料のための乳化剤として使用される高水添リン脂質を、コレステロールと併用することによって、乳化力及び経時安定性がさらに向上することが記載されている(7-1)(7-2)(7-3)。
前記甲第3号証に記載された化粧料において、ホスファチジルコリンを含むリン脂質は、乳化剤として使用されるものである(3-2)から、リン脂質の乳化剤としての機能を向上させ、かつ皮膚の栄養剤としても作用するコレステロールを、甲第3号証の化粧料に配合することは、当業者が容易に想到し得ることである。

審判被請求人は、甲第7号証において文献番号22として引用されている乙第1号証の表1の、レシチンとコレステロールから得られるレシチン複合体の代表的組成の値をもとに、コレステロールと併用している高水添リン脂質は、本件請求項1の発明のものと比べて、PC含有量が低く、かつPCに対して大量の酸性リン脂質を含むものであるから、本件請求項1の発明におけるリン脂質のような組成の異なるリン脂質に対してコレステロールを併用した場合に、同様の乳化能が得られるか否か、さらに高い乳化安定性を達成できるかどうかを当業者が予測することはできない旨主張している。
しかし、甲第7号証にいう水添リン脂質の組成を、乙第1号証表1の組成に限定して解すべき根拠はない。
したがって、甲第7号証(乙第1号証)の記載に接した当業者は、リン脂質の組成の如何によらず、コレステロールの併用が、リン脂質の乳化作用を向上させると認識するのが自然である。
よって、審判被請求人の主張は採用できない。

以上のとおり、本件請求項1の発明と甲第3号証に記載された発明の相違点に係る構成は、甲第1、2、6 及び7号証の記載に基づいて当業者が容易に想到し得たものと認められる。
また、本件請求項1の発明における分散性及び安定性にかかる効果は、甲第7号証に記載された乳化力及び経時安定性の向上からみて、予想外のものとは認められない。
したがって、本件請求項1の発明は、甲第1号証ないし甲第3号証、甲第6号証、及び甲第7号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものである。

B)請求項2について
請求項2の発明は、請求項1の発明を、更にリン脂質とコレステロール及び/又はその誘導体との配合重量比が1:0.1?1:1であるものに特定する発明である。
リン脂質に配合されるコレステロールの有効配合量の範囲を決定することは、実施に際して、当業者が当然行うことであるから、例えば、1:0.1?1:1とすることは、当業者が容易になし得ることである。
そして、請求項1の発明が、甲第1号証ないし甲第3号証、甲第6号証、及び甲第7号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであるであることは、前記A)に記載したとおりであるので、請求項2の発明も、甲第1号証ないし甲第3号証、甲第6号証、及び甲第7号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものである。

C)請求項3について
本件請求項3の発明は、請求項1又は2の発明をpH5以下のものとして特定する発明であるところ、甲第7号証には、「Fig.6に示すように,PC・PEの単独エマルジョンは,液性が中性近傍である使用pH領域において,電気的にほぼ中性であることがわかる。これに対し,イオン性リン脂質であるPS・PIなどを含んでいるIntralipidでは,ゼータ電位が上昇し,その結果エマルジョン同士の凝集が妨げられ,安定性が向上していることがわかる」と記載されている。そして、甲第7号証のFig6には、PCやPEにイオン性リン脂質であるPS・PIなどを含んでいるIntralipdについては、中性近傍のpH領域からpH5以下の領域まで、PCやPE単独エマルジョンの場合と比べて、ゼータ電位が高いことが示されているので、リン脂質がPCやPEに、イオン性リン脂質であるPS・PIなどを含んでいれば、pH5以下の領域であってもエマルジョンとして安定であるということが示唆されている。
したがって、ホスファチジルコリン(PC)にPS・PIなどの酸性リン脂質(イオン性リン脂質に相当)を含む請求項1の化粧料であって、pH5以下のものは、当業者が容易に想到し得るものである。

審判被請求人は、i)本件特許明細書に記載された実施例1及び実施例2と比較例1及び比較例2とを比較して、従来のリン脂質ではpH6.5の場合よりもpH5.0の場合に分散安定性が大きく損なわれるが、本件特許発明の化粧料(実施例1)ではpH5.0においても優れた分散安定性が維持されており、本件特許発明の化粧料は、pH5以下において特に効果が顕著であること、ii)甲第7号証のFig6は、コレステロールを含有しないIntralipidの特性を教示しており、コレステロールを含有するものの効果を示唆するものではない旨主張している。
この主張について以下検討する。
i)比較例1(比較例2)は実施例1(実施例2)と比べると、PC含有量が少ない(前者が50%、後者が70%)だけでなく、PCと酸性リン脂質の重量比が、相違(前者が99.9:0.1、後者が99.5:0.5)するものである。低pH領域における安定性が、酸性リン脂質の存在によって影響されることは甲第7号証に示されているから(7-2、Fig6)、実施例1(実施例2)に比較して酸性リン脂質の含有量が顕著に少ない比較例1(比較例2)の成績を根拠として、本件請求項3の発明が、予想外の効果を奏するものと認めることはできない。
ii)コレステロールを含むものであっても、リン脂質の組成がPCの他に、PS・PIなどの酸性リン脂質(イオン性リン脂質に相当)を含んでいるのであれば、pH5以下の領域において安定なエマルジョンを形成することは予測可能である。
よって審判被請求人の主張はいずれも採用できない。

したがって、請求項3の発明は、請求項1及び2の発明について示した理由を含めて、甲第1号証ないし甲第3号証、甲第6号証、及び甲第7号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものである。

7.むすび
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1-3の発明は、甲第1号証ないし甲第3号証、甲第6号証、及び甲第7号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

したがって、本件特許請求項1-3は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し無効とすべきものである。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
化粧料
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスファチジルコリン含有量が70重量%以上で、且つホスファチジルコリンと酸性リン脂質の重量比が、99.9:0.1?95:5であるリン脂質(但しリポソームの形態で含有するものは除く)と、コレステロール及び/又はその誘導体とを含有することを特徴とする化粧料。
【請求項2】
上記リン脂質とコレステロール及び/又はその誘導体との配合重量比が1:0.1?1:1であることを特徴とする請求項1に記載の化粧料。
【請求項3】
pH5以下であることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の化粧料。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、特定組成からなるリン脂質を含有する化粧料に関し、さらに詳細には、分散安定性が良好で、特に低pH下での分散安定性に優れ、酸性物質等を安定に配合することができる化粧料に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、リン脂質は天然由来の乳化剤として知られており、多くの分野で多目的に利用されている。生体膜の主要構成成分であるリン脂質の二分子膜からなる閉鎖小胞であるリポソームは、生体膜モデルとして研究に用いられるとともに、古くから薬剤のマイクロカプセルとして医薬品や化粧品への利用が試みられていた。特に、化粧料分野においては、リポソームのみならず、極めて安全性の高い乳化剤、あるいは保湿剤としてクリーム、乳液、化粧水、ファンデーション等に使用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来のリン脂質は、上述した効果を有するものの、反面、両性物質であるためにpHの影響を受け易く、特に、pHが低い系での分散性に劣るという問題を有していた。そのため、リン脂質を配合した系においては、有機酸等の酸性物質を配合することが困難であった。従って、pHの影響を受け難く、特に酸性物質を配合した低pHの系においても分散性並びに安定性に優れたリン脂質を配合した化粧料の開発が望まれていた。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、これらの事由に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、ホスファチジルコリン含有量が高く、かつ、特定量の酸性リン脂質を含有するリン脂質を配合することにより上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち本発明は、ホスファチジルコリン含有量が70重量%以上で、且つ、ホスファチジルコリンと酸性リン脂質の重量比が、99.9:0.1?95:5であるリン脂質を含有することを特徴とする化粧料である。以下、本発明をさらに詳述する。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明で用いられるリン脂質は、ホスファチジルコリン(以下、「PC」と記す)含有量が70重量%(以下、単に「%」と記す)以上であることを必須とし、より好ましくは、75%である。リン脂質中のPC含有量が低いと、界面膜の安定性が損なわれ、沈澱や凝集を生じてしまう。70%以上のPCを含有するリン脂質としては、例えば、大豆レシチン、卵黄レシチン等、あるいはそれらの精製物や水素添加物等を挙げることができる。本発明においては、これらの1種又は2種以上を、適宜組み合わせて用いることができる。
【0007】
さらに、本発明で用いられるリン脂質は、酸性リン脂質を特定量含有することを必須とする。酸性リン脂質としては、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、リゾホスファチジルイノシトール、リゾホスファチジルセリン等が挙げられる。これらは、単独で添加されるほか、大豆レシチン等の酸性リン脂質を含むリン脂質を配合することによってもその効果を得ることができる。本発明においては、以上のような酸性リン脂質の1種又は2種以上を、適宜組み合わせて用いることができる。
【0008】
PCと酸性リン脂質の重量比は、99.9:0.1?95:5である。PCに対する酸性リン脂質の重量比が上記未満の場合、リン脂質が分散するのに必要な電荷を得ることが出来ず、分散性が不充分なものとなり、凝集等が起こりやすい。また、PCに対する酸性リン脂質の重量比が上記を超える場合は、界面膜が弱くなり、結果として安定性の良好なものが得られ難い。
【0009】
本発明の化粧料においては、リン脂質の膜安定化を向上するために、上記必須成分に加え、さらにコレステロール及び/又はその誘導体を含有することが好ましい。コレステロール及び/又はその誘導体としては、例えば、コレステロール、ジヒドロコレステロール、ステアリン酸コレステリル、ヒドロキシステアリン酸コレステリル、オレイン酸ジヒドロコレステリル、ノナン酸コレステリル、酪酸コレステリル、酪酸ジヒドロコレステリル、マカデミアナッツ油脂肪酸コレステリル等が例示され、これらの1種又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0010】
コレステロール及び/又はその誘導体の含有量としては、リン脂質:コレステロール及び/又はその誘導体の配合重量比が1:0.1?1:1の範囲が好ましい。この範囲よりリン脂質が多すぎるときには、コレステロール及び/又はその誘導体を加えたことによる安定性の向上が充分に発揮されない場合がある。この範囲よりコレステロール及び/又はその誘導体が多すぎるときには、コレステロール及び/又はその誘導体の結晶が析出することがあり、安定性上好ましくないことがある。
【0011】
本発明の化粧料は、上述した特定組成のリン脂質を用いることにより、優れた分散性並びに安定性を得ることができるが、就中、低pH、すなわちpH5以下の系での効果が従来のリン脂質と比較してより顕著なものとなる。従って、pHの制約を受けることなく製品化することが可能であり、さらには、各種の効能効果を有する酸性物質、例えば、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、コハク酸、酒石酸、dl-ピロリドンカルボン酸、安息香酸及びそれらの塩類等を配合しても、安定性に優れた化粧料を得ることができる。
【0012】
本発明品の化粧料には、上記必須成分の他に、通常化粧料に配合される成分、例えば、油剤、界面活性剤、粉体、顔料、染料、水溶性高分子、多価アルコール、低級アルコール、保湿剤、紫外線吸収剤、防腐剤、香料、美容成分等を本発明の効果を妨げない範囲で配合することができる。
【0013】
【実施例】
次に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより何等限定されるものではない。
【0014】
実施例1?3及び比較例1?3
皮膚外用剤表1に示す組成の皮膚外用剤を製造し、その分散安定性について評価した。
【0015】
【表1】

【0016】
(製造方法)
A:成分1?6を均一に混合し、75℃に加熱する。
B:成分7?10を均一に混合し、75℃に加熱する。
C:AにBを添加混合し、室温まで冷却して皮膚外用剤を得た。
【0017】
(評価方法)
分散安定性表1で得られた皮膚外用剤を50℃の恒温槽に1カ月放置した後、リン脂質の分散性を肉眼にて観察し、下記基準より評価した。
(評価)(基準)
○:分散性が良好である。
△:やや凝集又は沈澱の傾向がみられる。
×:明らかに凝集又は沈澱している。
上記評価方法により得られた結果を表1に併せて示す。
【0018】
評価結果から明らかなように、本発明に係わる特定組成のリン脂質を含有する実施例1?3は、広いpH域において分散安定性に優れていた。特に、低pHにおける分散安定性は、顕著なものであった。
【0019】
実施例4 美容液
(成分) (%)
1.水素添加大豆リン脂質(注4) 1.0
2.コレステロール 0.5
3.1,3-ブチレングリコール 15.0
4.メチルパラベン 0.2
5.アルキル変性カルボキシビニルポリマー 0.3
6.水酸化ナトリウム 0.02
7.エタノール 5.0
8.精製水 残量
(注4)PC含有量が90%で、PCと酸性リン脂質との重量比が99:1
【0020】
(製造方法)
A:成分1?4を均一に混合し、75℃に加熱する。
B:成分5?6及び8を均一に混合し、75℃に加熱する。
C:AにBを添加混合し、室温まで冷却した後、成分7を添加混合して美容液を得た。
実施例4は、リン脂質の分散安定性に優れた美容液であった。
【0021】
実施例5 乳液
(成分) (%)
1.水素添加大豆リン脂質(注5) 2.0
2.コレステロール 1.5
3.スクワラン 5.0
4.グリセリン 10.0
5.1,3-ブチレングリコール 15.0
6.メチルパラベン 0.2
7.カルボキシビニルポリマー 0.2
8.水酸化ナトリウム 0.01
9.精製水 残量
(注5)PC含有量が75%で、PCと酸性リン脂質との重量比が99.5:0.5
【0022】
(製造方法)
A:成分1?6を均一に混合し、75℃に加熱する。
B:成分7?9を均一に混合し、75℃に加熱する。
C:AにBを添加混合し、室温まで冷却して乳液を得た。
実施例4は、リン脂質の分散安定性に優れた乳液であった。
【0023】
実施例6 化粧水
(成分) (%)
1.水素添加大豆リン脂質(注6) 0.5
2.コレステロール 0.2
3.グリセリン 5.0
4.1,3-ブチレングリコール 15.0
5.メチルパラベン 0.2
6.乳酸 0.5
7.乳酸ナトリウム 0.5
8.精製水 残量
(注6)PC含有量が99%で、PCと酸性リン脂質との重量比が99:1
【0024】
(製造方法)
A:成分1?5を均一に混合し、75℃に加熱する。
B:成分6?8を均一に混合し、75℃に加熱する。
C:AにBを添加混合し、室温まで冷却して化粧水を得た。
実施例6は、リン脂質の分散安定性に優れた化粧水であった。
【0025】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明の化粧料は、特定組成からなるリン脂質を含有することにより、優れた分散安定性を有するものである。特に、低pH域での分散安定性が従来のリン脂質と比較して顕著に優れているため、酸性物質を安定に共存させることが可能となり、それらが本来有する効能効果を発現することができる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2006-08-16 
結審通知日 2006-08-21 
審決日 2006-09-08 
出願番号 特願平9-74605
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (A61K)
最終処分 成立  
特許庁審判長 森田 ひとみ
特許庁審判官 谷口 博
弘實 謙二
登録日 2004-02-27 
登録番号 特許第3527053号(P3527053)
発明の名称 化粧料  
復代理人 今村 正純  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  
代理人 今村 正純  
代理人 新谷 紀子  
復代理人 新谷 紀子  

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