• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1147019
審判番号 不服2004-22889  
総通号数 85 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2003-04-09 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-11-05 
確定日 2006-11-06 
事件の表示 特願2002-195648「インクジェットプリンタ用インクカートリッジ」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 4月 9日出願公開、特開2003-103803〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成6年10月26日の出願である特願平6-287292号を国内優先権主張の基礎とした平成7年9月11日の出願である特願平7-258101号の一部を平成14年7月4日に新たな特許出願としたものであって、
平成16年9月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月5日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年12月6日付けで明細書についての手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成16年12月6日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容及び目的
平成16年3月25日付け手続補正は、平成16年9月30日付けの拒絶査定と同日付けで補正の却下が行われているので、平成15年8月4日付けの手続補正が本件補正の直前のものとなる。
そして、本件補正前後の【請求項1】の記載を比較すると、本件補正は、補正前の【請求項1】の「通孔を備えた弁体」を「通孔、及び前記インク供給針と係合するインク供給針嵌合孔とを備えた弁体」と構成を限定し、さらに、補正前の【請求項1】の「前記の弁体の通孔は、常時は前記インク供給口の壁面に対向して封鎖され、」及び「また前記インク供給針により前記弁体が押圧移動されたとき、」を、「前記の弁体の通孔は、常時は前記インク供給口の壁面に対向して封鎖されて前記インク室から前記インク供給針にインクの供給を断ち、」及び「また前記インク供給針嵌合孔に前記インク供給針が挿通されることにより前記弁体が押圧移動されたとき、」と弁体の作動状態及び作動時点を限定したものと認められ、本件補正は特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものである。

2.補正発明の認定
本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)は、本件補正により補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された次の通りのものと認める。

「インクを貯留するインク室と、前記インク室と連通すると共に、インク供給針が挿入されるインク供給口とを備えたインクジェットプリンタ用インクカートリッジにおいて、
通孔、及び前記インク供給針と係合するインク供給針嵌合孔とを備えた弁体が前記インク供給口に装填され、
前記弁体の通孔は、常時は前記インク供給口の壁面に対向して封鎖されて前記インク室から前記インク供給針にインクの供給を断ち、
また前記インク供給針嵌合孔に前記インク供給針が挿通されることにより前記弁体が押圧移動されたとき、前記弁体の通孔は、前記インク供給口の壁面に非対向な位置に移動して開放されて前記インク室から前記インク供給針にインクの供給可能な状態とする
インクジェットプリンタ用インクカートリッジ。」

3.補正発明の独立特許要件の判断
以下、補正発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものかどうかを検討する。

3-1.本件出願の優先権主張に係る(特許法第29条規定適用に関する)出願日遡及効について
本件出願に係る分割原出願である特願平7-258101号は国内優先権が主張されているが、その出願時点に、明細書の詳細な説明における【従来の技術】、【発明が解決しようとする課題】、【作用】及び【実施例】に係る各記載が、国内優先権の基礎とされる特願平6-287292号の記載に対して大幅に加入されるとともに表現が補正され、添付される図面についても、新たに【図5】、【図7】、【図8】、【図10】、【図11】及び【図12】が追加されており、これらの図面に記載された実施例は、明らかに分割原出願の現実の出願日である平成7年9月11日において追加された記載であり、これらの記載内容について、国内優先権主張の基礎とされた特願平6-287292号出願に記載されていたものとは認められない。
そして、補正発明の「インク供給針が挿通されることにより前記弁体が押圧移動されたとき」の特定に係る記載根拠と認められる【図12】は、分割原出願の現実の出願日に追加されたものであるから、補正発明の分割自体が適法であるとしても、原出願の国内優先権に係る出願日遡及効は、認められない。
よって、拒絶理由通知で提示された特開平6-316082号公報(以下、「引用文献1」という。)は、補正発明に対して、出願前に公開されたものと認める。

なお、審査官は審査過程において、本願各請求項に係る発明について優先権主張に係る出願日遡及効が認められないことを明確に指摘しているところはない。
しかしながら、補正発明と同様に、本件出願時の各請求項に係る発明は、「インク供給針により押圧移動させられたとき前記インク供給口を開放する弁体」と特定され、査定時の各請求項に係る発明も、「前記インク供給針が挿通されることにより前記弁体が押圧移動されたとき、前記弁体の通孔は、・・・移動して開放され」と特定されるものである。
係る弁体構成は、分割出願の現実の出願日に追加された【図12】に記載されるものであって、原出願の国内優先権の基礎とされる特願平6-287295号には記載のないものであることは明らかである。
よって、審査官は、本件出願時点における本願各請求項に係る発明に関し、国内優先権に係る出願日遡及効が認められないことを認識した上で、分割原出願の現実の出願日を前提に、出願日前に公開されていることを要件とする特許法第29条第2項の規定に係る文献として前記引用文献1を扱っているものと推察される。
他方、出願人である請求人自身も、この国内優先権主張の基礎とされる特願平6-287292号出願との関係について何ら言及しておらず、また、前記のように分割原出願には明らかに新たな実施例が追加されていることからして、本願各請求項に係る発明の優先権主張に係る出願日遡及効が認められないことについて、請求人も十分に認識した上で対応していることが窺える。
以上のとおりであるから、査定時の本願各請求項に係る発明についても、優先権主張に係る出願日遡及効は認められない。

3-2.引用文献の記載内容
3-2-1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用され、前記のごとく本願の出願の日前に頒布された引用文献1には、次の事項が図示とともに記載されている。

ア.【特許請求の範囲】
「【請求項1】 記録媒体に記録像を形成するためのインクを吐出するインクジェットヘッドと、インクを貯蔵するインクタンクと、前記ヘッドにインクタンクからインクを供給するためのインク供給手段とを有するインクジェットプリンタにおいて、
前記インクタンク側には多孔質の弾性部材で構成されたインク供給手段を有し、前記ヘッド側には半球面状の硬質部材で構成され、前記インクタンク側のインク供給手段と嵌脱可能なインク供給手段を有することを特徴とするインクジェット記録装置。」

イ.段落【0006】「【課題を解決するための手段】インクタンクのインク供給口を多孔質の弾性部材で形成し、前記インク供給口に係合するインク取り入れ口に孔を有する半球面状の硬質部材で形成したことを特徴とする。」

ウ.段落【0007】「【作用】本発明による構成のインク供給装置によると、インクタンクを装着した時点で半球面状に形成されたインク取り入れ口が係合するインクタンクのインク供給口を加圧し弾性体で形成されているためインク取り入れ口の形状に沿う形で拡張するそれに従ってインク供給口の通常閉じている孔が開きインクの通過できる通路となる。一方、インクタンクを外す段階ではインクタンクのインク供給口がインク取り入れ口より離れるに従って、インク供給口がインク取り入れ口と密着状態でありなが孔が閉じて行くため、インク供給口とインク取り入れ口との間にインクを残さないインクタンク構造が可能となる。さらに、インク取り入れ口をなだらかな半球面状態に形成した事によりインク供給口に機械的ダメージを与える事がないため安全性が高く、繰り返し着脱強度も強くする事が可能となる。」

エ.段落【0009】「図1は本発明に於けるインク供給装置の断面図であり、図2、3は図1におけるA部の拡大図である。13はインクタンクであり内部に・・・インクが充填されている。インクはインクタンク13のインク供給口25とインク取り入れ口15を介して細い流路を通り矢印の方向に流れヘッド15に通じる。」

オ.段落【0010】「次にA部拡大図において、13はインクタンクである。インクタンク13の底面には孔が開いておりその孔を塞ぐようにインク供給口25が配置されている。インク供給口25の端面を固定するため固定部材24がインクタンク13に溶着されている。」

カ.段落【0011】「インク取り入れ口15はヘッド15の一部である。インク取り入れ口15にはインクを取り入れる孔15bがある。その孔を塞ぐようにキャップB26がかぶさっている。キャップB26の表面には多数の微細な孔を開け、半球形状に形成させている。」

キ.段落【0012】「図3に示す様に、インクタンク13をヘッド15にセットすると、インク取り入れ口15のC面がインク供給口25の中央部分(図中D)を加圧してゆく。一定量変形させるとE部で度当たりし、インクタンク13aと突起15aとが嵌合する。その段階でインク供給口25のD面は左右に引っ張られる。材料上には予め無数の孔が設けられているが弾性力により孔は閉じられている。変形させる事でインク供給口25の孔が拡大される。キャップB26の微細な孔と合致したところでインクの通路となる。インク供給口25は弾性部材のためキャップB26の表面に密着しシールの役目も果たすためインク漏れが発生しない。インクタンク13を外すときには徐々にインク供給口25の変形が復帰し、孔が収縮していきインクの供給を止めインクタンク13とヘッド15は分離状態となる。」

ク.段落【0013】「【発明の効果】以上説明したように、本発明によればインク供給口の弾性効果によりインク取り入れ口への密着効果が向上する。さらに、ヘッドにセットしたときのみインク流路が開口するため、インクタンクをヘッドから切りはなしたときのインク漏れを防止できる。」

してみるに、【図1】及び図1のA部を拡大した図面であるとされる【図2】或いは【図3】を参照するに、
段落【0010】にあるように、インクタンク13には固定部材24によって固定されたインク供給口25が設けられており、これがインクタンク13の底面の孔を塞ぐように配置されていることが把握できる。
他方、請求項1には、「インクタンク側には多孔質の弾性部材で構成されたインク供給手段を有」すること、段落【0006】には、「インクタンクのインク供給口を多孔質の弾性部材で形成」したものであることがそれぞれ記載されており、前記インク供給口25とは、多孔質の弾性部材で形成された部材であることが把握できる。
また、同様に【図1】?【図3】を参照するに、段落【0011】の記載からは、インクジェットプリンタ本体側のヘッド15の一部であるインク取り入れ口15は、キャップB26がかぶさったインク取り入れ孔15bを有する凸状部材(番号は付されていない)に設けられていることが把握できる。
そして、段落【0009】によれば、「インクはインクタンク13のインク供給口25とインク取り入れ口15を介して細い流路を通り矢印の方向に流れヘッド15に通じる。」とあり、また、段落【0012】によれば、「インクタンク13をヘッド15にセットすると、インク取り入れ口15のC面がインク供給口25の中央部分(図中D)を加圧してゆく。」、「インクタンク13aと突起15aとが嵌合する。」及び「その段階でインク供給口25のD面は左右に引っ張られる。材料上には予め無数の孔が設けられているが弾性力により孔は閉じられている。変形させる事でインク供給口25の孔が拡大される。キャップB26の微細な孔と合致したところでインクの通路となる。」と記載されていることから、インクタンク13をヘッド15に装着すると、前記凸状部材がインク取り入れ口25を加圧して変形すると、インク取り入れ口25に予め設けられた無数の孔が拡大され、インクの通路を形成することが把握できる。

よって、これらの記載からみて、当該引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる。

「インクを貯留するインク室と、前記インク室と連通すると共に、インクジェットプリンタ本体側のヘッド15の一部である凸状部材が挿入されるところの、
インクタンク13の底面に開いている孔とを備えたインクジェットプリンタ用インクタンクにおいて、
前記凸状部材と係合する多孔質の弾性部材からなるインク供給口25が前記インクタンク13の底面に開いている孔に装填されており、
前記インク供給口25は、常時は予め設けられた無数の孔が閉じており、前記インク室からのインク流出を断っており、
インクジェットプリンタのヘッド15に装着される際に、ヘッド15の凸状部材が前記インクタンク13の底面に開いている孔に挿通されることにより、インク供給口25が加圧して変形されると、前記無数の孔が拡大されてインク室から凸状部材に設けられたインク取り入れ口15にインクの供給を可能な状態とされるインクジェットプリンタ用インクタンク。」(以下、「引用文献1記載発明」という。)

3-2-2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用され、前記のごとく本願の出願の日前に頒布された実願昭63-41614号(実開平1-143492号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献2」という。)には、次の事項が図示とともに記載されている。

ア.実用新案登録請求の範囲
「(1) 流通路が夫々穿設された移動体及び固定体を有し、前記移動体と固定体とのうちいずれか一方に、固定支持された筒体と該筒体に内蔵された手動弁とを備えてなる接続部材を取り付けると共に、前記移動体と固定体とのうちの他方に、前記接続部材に対向して配置されて一方の前記流通路の一端が開口された接続面を設け、前記接続部材の筒体に、他方の前記流通路が連通する大径内孔と、前記摺動弁が摺動自在に嵌入される小径内孔と、これらの両内孔間に形成された弁座とを設け、前記接続部材の摺動弁に、その内部を軸方向に延び且つ一端が前記接続面と対向する接続開口部とされた流体通孔と、前記接続開口部の開口縁に装着されたシール部材と、前記弁座に対向して配置してあり前記流体通孔と前記大径内孔とを連通、遮断する弁頭部とを設けた流路接続装置において、
前記摺動弁の弁頭部の着座面が、前記弁座の軸芯に対し直交する平面となるように形成されていることを特徴とする流路接続装置。」

イ.9頁10行?10頁7行、第1図及び第2図
「次に、この実施例の作用を説明する。
先ず、図外の駆動シリンダ等を作動させることにより移動体3を前方に移動させれば、第1図に示す状態を維持しながら接続部材8の摺動弁7先端に装着されたシール部材15が、固定体5の接続面9に当接する。
このような状態から、移動体3を更に前方に移動させれば、摺動弁7がばね13に付勢力に抗して筒体6内を後方に相対移動することにより、第2図に示すように、該摺動弁7の弁頭部17に形成された着座面17aが、筒体6に形成された弁座12から離座して、この両者間の隙間Sを介して大径内孔10と貫通孔16とが連通状態となる。これにより、移動体3の流通路2と固定体5の流通路4とは、大径内孔10、貫通孔16及び流体通孔14を介して接続された状態になると共に、摺動弁7先端と接続面9との間のシールは、この両者間において圧縮されたシール部材15により良好に行われる。」

ウ.11頁9行?12頁2行
「(考案の効果)
以上のようにこの考案に係る流路接続装置によれば、摺動弁の弁頭部の着座面を、弁座の軸芯に対し直交する平面となるように形成して、摺動弁が後方に相対移動した際に、その移動量の増加に対する摺動弁と弁座との間の有効開口面積の増加率が最大となるように構成したので、流路の接続時に摺動弁が移動する量を最小にすることが可能となり、これにより、従来のように摺動弁の着座面及び弁座をテーパ面で形成していた場合と比較して、摺動弁の移動範囲が小さくなり、当該流路接続装置の小型化及び軽量化が図られることになる。」

3-3.補正発明と引用発明との対比
(補正発明と引用文献1記載発明との対比)
引用文献1記載発明における凸状部材は、インクジェットプリンタのヘッドに設けられたものであって、通常インク供給針と呼称される部材に相当すること、また、引用文献1記載発明における「インクタンク13の底面に開いている孔」は、前記凸状部材が挿通する孔であり、通常「インク供給口」と呼称されるものに相当することは明らかである。
また、引用文献1記載発明における「インク供給口」は、凸状部材が「インクタンク13の底面に開いている孔」に挿通されることにより加圧され、【図3】に示されるように上向きに変形されることで、予め設けられた無数の孔が拡大されて、インクが通過し得るようになる機能に照らして、弁構成をなしているものである。
また、「カートリッジ」とは、着脱可能な小容器を指すものであって、「インクカートリッジ」と「インクタンク」とが同等のものであることは明らかである。

してみれば、引用文献1記載発明の「インクタンク13」、「凸状部材」及び「インクタンク13の底面に開いている孔」は、補正発明の「インクカートリッジ」、「インク供給針」及び「インク供給口」に相当する。

よって、補正発明と引用文献1記載発明とは、以下の一致点を有する一方、相違点として抽出した相違がある。

<一致点>
インクを貯留するインク室と、前記インク室と連通すると共に、インク供給針が挿入されるインク供給口とを備えたインクジェットプリンタ用インクカートリッジにおいて、
弁体が前記インク供給口に装填され、
前記弁体は、常時は前記インク供給口を封鎖して前記インク室から前記インク供給針にインクの供給を断ち、
また前記インク供給針が挿通されることにより前記弁体が押圧移動されたとき、前記弁体は移動して、前記インク供給口を開放して前記インク室から前記インク供給針にインクの供給可能な状態とする
インクジェットプリンタ用インクカートリッジ。

<相違点>
補正発明では、インク供給口に装填された弁体に関して、「通孔、及び前記インク供給針と係合するインク供給針嵌合孔とを備えた」と特定されると共に、
弁体の作動に関して、「前記弁体の通孔は、常時は前記インク供給口の壁面に対向して封鎖されて前記インク室から前記インク供給針にインクの供給を断ち、」及び「また前記インク供給針嵌合孔に前記インク供給針が挿通されることにより前記弁体が押圧移動されたとき、前記弁体の通孔は、前記インク供給口の壁面に非対向な位置に移動して開放されて前記インク室から前記インク供給針にインクの供給可能な状態とする」と特定されているのに対して、
引用文献1記載発明では、そのような特定がされたものでない点。

3-4.相違点の判断及び補正発明の進歩性の判断
引用文献2には、インクジェットプリンタ用のインクカートリッジに係るものではないが、摺動弁を用いた流路接続装置の構成が記載されている。
そして、当該摺動弁構成においては、前記に摘示したように、固定体1と流路接続を図る接続部材8に設けられた小径内孔11を摺動する摺動弁7があり、これには小径内孔11の壁面に対向して貫通孔16が設けられており、摺動弁7には常時はばね13による付勢力が働いており、摺動弁7端部の弁頭部17に形成した弁座12が接続部材8の小径内孔11の一端開口にある着座面17aに着座するように構成されている。
ここで、流路接続を図る場合には、当該接続部材8を固定体5に対して移動させると、摺動弁7は固定体5の接続面9に当接し、更に移動されると、ばね13に抗して摺動弁7が小径内孔11内を左方に移動して、弁座12と着座面17aとが離座すると共に、摺動弁7の貫通孔16が小径内孔11の壁面との対向を解かれることで、接続部材8の流通路2と固定体5の流通路4とは、大径内孔10、貫通孔16及び流体通孔14を介して接続された状態になるようにされている。
よって、当該引用文献2には、摺動弁に設けられた貫通孔が、常時は小径内孔の壁面に対向して封鎖されており、当該摺動弁が接続作動に際して、押圧移動されると、小径内孔の壁面と非対向な位置に移動されて開放されて、接続部材と固定体との流路が連通可能な状態となる流路接続装置が記載されている。
そして、当該流路接続装置における弁作動が、相違点に係る弁体の作動と共通するものであることは明らかである。
また、当該流路接続装置は、特定の技術分野に特化したものではなく、いずれの技術分野においても適用可能なものと認められる。
ただし、相違点に係る弁体は、インク供給針と係合するインク供給針嵌合孔を備えており、インク供給針が挿通されることにより押圧移動されるものとなっており、この点では差異がある。
しかしながら、引用文献2に係る流路接続装置においては、固定体5の接続面9と摺動弁7の接続開口部を当接させる際に、図外の駆動シリンダ等で作動させられ、接続が達成された後も、この図外装置により当接関係が維持されるものであることから、特段に固定体側から突出した部材を設けることを要しないことは明らかである。
他方、インクカートリッジとヘッドとをインクの供給可能な状態に接続するに際して、インクカートリッジに設けられた開口部とヘッド側のインク供給針とを係合関係になすことは、流路接続を図る上で技術常識に属するものであり、特開平6-238909号公報、特開平6-210864号公報、特開昭63-3961号公報等にみられるようにきわめて周知の構成であって、格別なものではない。
したがって、引用文献2に記載される流路接続装置の構成を引用文献1記載発明に弁構成として適用する際に、周知の構成であるインクカートリッジに設けられた開口部とヘッド側のインク供給針との係合関係を持ったものとなすことは、当業者であれば容易に採用し得た程度のものである。

ここで、相違点に抽出した補正発明の特定には、「前記インク供給針嵌合孔に前記インク供給針が挿通されることにより前記弁体が押圧移動されたとき、」とされるものの、弁体をインク供給針自体が押圧移動するのか、或いはインク供給針のいずれの部位により押圧移動するのかまでの明記はない。
してみるに、当該相違点に係る前記特定は、単に、インク供給針が挿通されたことを契機に、弁体の押圧移動が行われるものと解する余地がある。
他方、インク供給針がインク供給針嵌合孔に挿通されることで弁体を押圧移動させることでインクの供給可能な状態を得る構成は、本願出願前に各種形態のものが周知であり、例えば、特開平6-31930号公報、特開平5-301350号公報、実願昭62-109914号(実開昭64-16334号)のマイクロフィルム等がある。
そして、これらのいずれにおいても、インク供給針自体が弁体を押圧移動するものとして構成されていることに鑑みれば、引用文献1記載発明に、引用文献2の係る流路接続装置の弁構成を採用するにあたり、インクカートリッジに設けられた開口部とヘッド側のインク供給針とを係合関係になすと共に、インク供給針を挿通する際にインク供給針自体が弁体を押圧移動するようになすことは、当業者であれば容易に想到し得た程度のことである。

以上のとおりであり、相違点に係る特定を採用することは当業者であれば容易になし得た程度のことであり、それに基づく作用効果も当業者が容易に推察可能なものである。

3-5.まとめ
以上のとおり、補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許をすることができないものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

[補正の却下の決定のむすび]
本件補正前の請求項1を限定的に減縮した補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないから、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、補正の却下の結論のとおり決定する。

第3 本件審判請求についての当審の判断

1.本願発明の認定
本件補正が却下されたから、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成15年8月4日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。

「【請求項1】 インクを貯留するインク室と、前記インク室と連通すると共に、インク供給針が挿入されるインク供給口とを備えたインクジェットプリンタ用インクカートリッジにおいて、
通孔を備えた弁体が前記インク供給口に装填され、前記弁体の通孔は、常時は前記インク供給口の壁面に対向して封鎖され、また前記インク供給針により前記弁体が押圧移動されたとき、前記弁体の通孔は、前記インク供給口の壁面に非対向な位置に移動して開放され、前記インク室からインク供給針にインクを供給可能な状態とするインクジェットプリンタ用インクカートリッジ。」

2.本願発明と引用発明との対比
本願発明は、前記「第2 補正の却下の決定」における「1.本件補正の内容及び目的」で確認したように、補正発明における「通孔、及び前記インク供給針と係合するインク供給針嵌合孔とを備えた弁体」なる特定から「前記インク供給針と係合するインク供給針嵌合孔」を備える限定を削除し、弁体の作動状態及び作動時点に係る限定を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに前記の各限定を行ったものに相当する補正発明が、前記「第2 補正の却下の決定」における「3.補正発明の独立特許要件の判断」に記載したとおり、引用文献1、引用文献2の記載及び周知の構成に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用文献1、引用文献2の記載及び周知の構成に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4 むすび
本件補正は却下されなければならず、本願発明が特許を受けることができない以上、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-09-05 
結審通知日 2006-09-06 
審決日 2006-09-20 
出願番号 特願2002-195648(P2002-195648)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 門 良成  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 長島 和子
國田 正久
発明の名称 インクジェットプリンタ用インクカートリッジ  
代理人 木村 勝彦  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ