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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C09D
管理番号 1147028
審判番号 不服2005-5031  
総通号数 85 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-01-20 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-03-24 
確定日 2006-11-06 
事件の表示 平成 8年特許願第173882号「防錆塗料組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 1月20日出願公開、特開平10- 17795〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成8年7月3日の出願であって、平成17年1月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成17年3月24日に拒絶査定に対する審判請求があり、同年4月22日に手続補正がなされ、その方式補正が同年6月20日になされたものである。

2.平成17年4月22日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成17年6月20日に方式補正された、同年4月22日付けの手続補正を却下する。

[理由]
該補正は、特許請求の範囲の請求項4において、3種のリン酸金属塩のうちの一つである「K2ZnP2 O7・2H2O」を削除し、明細書の記載からそれに関する記載をすべて削除したものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そこで、補正後の発明が特許出願の際、独立して特許を受けることができるか否かについて以下検討する。補正後の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「補正後の発明」という。)は下記のとおりである。

(1)補正後の発明
「【請求項1】 下記式(1)
(Ma xNb y)Pn O3n+1 ・・・・・・(1)
x=0.01?3、y=0.5 ?3、n=1?4
ax+by=n+2
(式中M、Nは金属で、aはMの原子価、bはNの原子価を表わす。)で表わされるリン酸金属塩を有効成分として含有してなる防錆塗料組成物(ただし、リン酸金属塩がZn2NaP3O10・9H2O又はSr2NaP3O10である場合を除く)。」

(2)刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された刊行物である特開昭59-150088号公報(以下、「引用例」という。)には、「1以上の結晶性金属ポリりん酸塩を含むことを特徴とする金属防蝕組成物」(摘記a:特許請求の範囲、請求項1)、「該ポリりん酸塩が陽イオン成分として1以上の多価金属を含む特許請求の範囲第1項記載の組成物」(摘記b:同、請求項2)、「該ポリりん酸塩が亜鉛、ナトリウム、カリウム、ストロンチウム、バリウム、銅、又はそれらの混合物のポリりん酸塩である特許請求の範囲第1項記載の組成物」(摘記c:同、請求項3)、「該ポリりん酸塩が2亜鉛モノナトリウムトリポリりん酸塩である特許請求の範囲第3項記載の組成物」(摘記d:同、請求項5)に係る発明が記載され、該ポリりん酸塩の一例としてZn2NaP3O10・9H2Oが示され(摘記e:3頁左上欄9?10行)、さらに、「この発明に係わるポリりん酸塩は防蝕剤として種々の用途に供することができる。特に防蝕ペンキとして金属構造物又は車輌等の表面に従来と同様に、スプレー法、浸漬法、電着、粉末コーティング法等により塗布することができる。このペンキは下塗材として、あるいは単独のコーティング材として用いることができる。この物質は無毒であり、水溶性が小さく、したがって、腐食性環境下でも長寿命を保つことができる。」(摘記f:3頁右上欄14行?同頁左下欄2行)と記載されている。

(3)対比、判断
そこで、補正後の発明と引用例に記載された発明を比較すると、引用例における金属防蝕組成物は、摘記fにあるようにペンキとして用いられているので、塗料組成物ということができ、両者は、「特定のリン酸金属塩を有効成分として含有してなる塗料組成物」という点では一致するが、下記の点で相違している。
[相違点]
イ:リン酸金属塩が、補正後の発明は、(Ma xNb y)Pn O3n+1
x=0.01?3、y=0.5 ?3、n=1?4、ax+by=n+2
(式中M、Nは金属で、aはMの原子価、bはNの原子価を表わす。)で表わされるものであるのに対して、引用例に記載された発明では、陽イオン成分として1以上の多価金属を含む結晶性金属ポリりん酸塩であって(摘記a、b)、具体的には、亜鉛、ナトリウム、カリウム、ストロンチウム、バリウム、銅、又はそれらの混合物のポリりん酸塩(摘記c)である点。
ロ:補正後の発明は、防食性と赤褐色の錆汁を透明性あるいは白色系に転換する錆転換性を有する防錆組成物であるのに対して、引用例に記載された発明には、錆転換性についての記載はなく、防蝕(以下、「防食」と記す。)組成物とある点。

そこで、上記の相違点について検討する。
イ.の点について
補正後の発明の式(1)で示されるリン酸金属塩におけるM、Nは、単に、「金属」とあるだけで特定されているわけではないので、引用例に記載された発明における「陽イオン成分が亜鉛、ナトリウム、カリウム、ストロンチウム、バリウム、銅、又はそれらの混合物」(摘記c)の「それらの混合物」の場合に相当する。
そして、引用例には、「それらの混合物」の具体例として「2亜鉛モノナトリウムトリポリりん酸塩」(摘記d)が示されているので、これに極めて近似し、かつ摘記cの条件を満たす亜鉛とカリウムの混合物からなる結晶性の「2亜鉛モノカリウムトリポリりん酸塩」(注:Zn2KP3O10)も、引用例に記載されている発明におけるポリりん酸金属塩の一つであるものと認められる。
この「2亜鉛モノカリウムトリポリりん酸塩」(注:Zn2KP3 O10)は、カリウムは1価、亜鉛は2価の金属であるから、補正後の発明の式(1)におけるM=カリウム(K)、N=亜鉛(Zn)、a=1、b=2、x=1、y=2、n=3の場合に相当し、本願発明の式(1)で表わされるリン酸金属塩の範疇に入るものである。
同様に、引用例に記載されている発明におけるポリりん酸金属塩の一つとして、陽イオン成分に亜鉛イオンとナトリウムイオンを選択した場合における、「モノ亜鉛3ナトリウムトリポリりん酸塩」(注:ZnNa3P3O10)は、本願発明の式(1)におけるM=ナトリウム(Na)、N=亜鉛(Zn)、a=1、b=2、x=3、y=1、n=3の場合に相当し、補正後の発明の式(1)で表わされるリン酸金属塩の範疇に入るものである。
したがって、イ.の点に差は存在しない。

ロ.の点について
補正後の発明の効果をみると防食性を効果の一つとして評価しているところからみて補正後の発明の組成物は「防食性組成物」であるともいえる。
そして、引用例には発明の効果である錆転換性についての記載はないが、ポリりん酸塩が防食剤であることは、記載されており(摘記f)、発明の構成が全く同じであるなら、同じ効果を奏するものと認められるから、引用例に記載された発明の中には、補正後の発明の効果と同様な効果を有するものも存在し、本件の場合、「防食性組成物」と「防錆性組成物」との間に実質的な差はないものである。
以上のとおりであるから、補正後の発明は、引用例に記載された発明と同一発明であり、特許法第29条第1項第3号により特許を受けることはできないものである。
よって、該補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
上記のとおり平成17年4月22日付けの手続補正が却下されたので、本願発明は、平成16年12月17日付け手続補正書の特許請求の範囲に記載された請求項1?請求項6に記載されたとおりものとなるが、請求項1に係る発明については、同項の補正はなされてはいないので、上記の補正後の発明と同じものである。

請求人は、引用例に記載(摘記e)されているZn2NaP3O10・9H2Oを補正により削除し、結晶水の異なるZn2NaP3O10・2H2O、Zn2NaP3O10・H2Oは非晶性であり錆転換性作用が優れているが、Zn2NaP3O10・9H2Oは錆転換性作用が劣るものである、とデータを示して主張しているが、明細書には、結晶水についての説明は全くなく、しかも、実施例4(表1)を見るとwH2Oとあるだけで、結晶水の数が明確でないうえ、特許請求の範囲請求項1においては、2亜鉛モノナトリウムトリポリりん酸塩の9水塩を除いているだけであって、結晶水の数について、これを特定の値とする限定はないので、請求人の主張は、明細書の記載に基づく主張ではなく、採用できない。
また、本願発明の効果である錆転換作用は、引用例に記載された発明の防食効果とは違うものであると主張するが、錆転換作用は必須成分として含有するリン酸金属塩によってもたらされるものであるところ、上記2.(3)で述べたように引用例に記載された発明が含有するポリりん酸金属塩は、本願発明で規定するリン酸金属塩に該当するものを含むものであるから、リン酸金属塩が同じものであるなら同じ効果がもたらされるものと認められる。

したがって、上記2.と同様の理由により本願発明は拒絶すべきものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、引用例に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることはできない。
他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-08-21 
結審通知日 2006-08-29 
審決日 2006-09-13 
出願番号 特願平8-173882
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 泰之小川 由美  
特許庁審判長 原 健司
特許庁審判官 原田 隆興
岩瀬 眞紀子
発明の名称 防錆塗料組成物  
代理人 斎下 和彦  
代理人 斎下 和彦  
代理人 野口 賢照  
代理人 小川 信一  
代理人 小川 信一  
代理人 野口 賢照  

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