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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G10H
管理番号 1147102
審判番号 不服2004-4526  
総通号数 85 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-08-17 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-03-04 
確定日 2006-11-09 
事件の表示 特願2000- 32472「携帯電話装置及び携帯電話装置の楽曲再生方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 8月17日出願公開、特開2001-222281〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.経緯
(1)手続
本願は、平成12年2月9日の出願である。
本件は、本願についてされた拒絶査定(平成16年1月23日付け)を不服とする平成16年3月4日の請求であり、同年4月5日付けで手続補正書(明細書及び図面についてする請求の日から30日以内にする補正)が提出された。

(2)査定
原査定の理由は、概略、下記のとおりである。
記(査定の理由)
本願各発明は、下記刊行物に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

刊行物1:特開平11-331404号公報
刊行物2:特開平11-15483号公報
刊行物3:特開平11-126084号公報
刊行物4:特開平9-54581号公報
刊行物5:特開平9-319373号公報(査定で提示)

2.補正の却下の決定
平成16年4月5日付けの補正について次のとおり決定する。
〈結論〉
平成16年4月5日付けの補正を却下する。
〈理由〉
(1)補正の内容
本件補正は下記の補正事項を含むものである。
記(補正事項)
請求項5について、
(a)「所定のルールに基づいて選択した楽曲データの全部または一部を予め前記記憶手段から前記楽曲データ記憶手段に転送しておき、」(補正前)とあるのを、「所定のルールに基づいて選択した楽曲データの一部を予め前記記憶手段から前記楽曲データ記憶手段に転送しておき、」(補正後)と補正する。
(b)「楽曲を再生するトリガがかかると、再生すべき楽曲データを選択し、」(補正前)とあるのを、「前記携帯電話装置に楽曲再生を伴う動作を実施させるトリガがかかると、前記動作に応じて予め決められている楽曲データを選択し、」(補正後)と補正する。
(c)「前記楽曲データ記憶手段に所定量の空きエリアが発生した場合に、続く楽曲データを前記記憶手段から読み出して前記楽曲再生手段に転送し、」(補正前)とあるのを、「前記楽曲データ記憶手段に所定量の空きエリアが発生した場合に、前記楽曲データ記憶手段に前記空きエリアが発生する直前まで該エリアに記憶されていた楽曲データに続く楽曲データを前記記憶手段から読み出して前記楽曲再生手段に転送し、」(補正前)と補正する。

(2)補正の適合性
(2-1)補正の目的
上記補正(請求項5についてする補正)は、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
(2-2)独立特許要件(第17条の2第5項)
上記補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そこで検討する。
(a)補正後発明
上記補正後の請求項5に係る発明(補正後発明という)は、下記のとおりである。
記(補正後発明)
【請求項5】 楽曲データが少なくとも記憶される記憶手段と、外部より取り込まれた楽曲データを記憶すると共に、記憶できる楽曲データ量が限られている楽曲データ記憶手段を含み、楽曲データを再生して楽音信号を発生する楽曲再生手段とを有する携帯電話装置の楽曲再生方法であって、
所定のルールに基づいて選択した楽曲データの一部を予め前記記憶手段から前記楽曲データ記憶手段に転送しておき、
前記携帯電話装置に楽曲再生を伴う動作を実施させるトリガがかかると、前記動作に応じて予め決められている楽曲データを選択し、前記選択された楽曲データと前記楽曲データ記憶手段に格納されている楽曲データとが一致した場合には、前記楽曲データ記憶手段に格納された前記楽曲データの再生を前記楽曲再生手段に実施させるとともに、
前記楽曲データ記憶手段に所定量の空きエリアが発生した場合に、前記楽曲データ記憶手段に前記空きエリアが発生する直前まで該エリアに記憶されていた楽曲データに続く楽曲データを前記記憶手段から読み出して前記楽曲再生手段に転送し、
前記続く楽曲データを前記楽曲データ記憶手段の前記空きエリアに記憶させるようにしたことを特徴とする携帯電話装置の楽曲再生方法。

(b)引用刊行物
原査定で引用された刊行物4(特開平9-54581号公報)には、名称を「自動演奏装置」とする発明について次のことが記載されている。
(ア)「本発明は、・・・フロッピー・ディスクなどの外部記憶媒体に記憶された演奏データを読み出して演奏を行う自動演奏装置において、演奏データをロードするためのバッファなどの領域を大きくすることなく、最初に演奏させる曲を選択するときも含めて、曲を選択してから実際に当該選択した曲の演奏データの再生が行われて演奏が開始されるまでの待ち時間を短縮化した自動演奏装置を提供することを目的とする。」(第2頁2欄の段落【0006】)
(イ)「本発明による自動演奏装置は、外部記憶媒体に記憶された演奏データをロードして自動演奏を行う自動演奏装置において、外部記憶媒体に記憶された少なくとも2つの演奏データの一部を記憶する記憶手段と、上記記憶手段に対し、上記外部記憶媒体に記憶された演奏データの一部をそれぞれロードするロード手段と、上記外部記憶媒体に記憶された演奏データの中から所望の演奏データを選択する選択手段と、上記選択手段によって選択された演奏データの一部をロードした上記記憶手段から、上記記憶手段にロードした演奏データを読み出す読み出し手段とを有するようにしたものである。」(第2頁2欄の段落【0008】)
(ウ)「そして、フロッピー・ディスク40をフロッピー・ディスク装置24にセットすると・・・フロッピー・ディスク40に記憶された演奏データの先頭部分をBuf[]にロードするロード処理ルーチンが実行される。・・・ロード処理ルーチンが起動されると、まずステップ502において、フロッピーディスク40に記憶されている演奏データの数をNSにセットする。・・・図3に示す例においては、フロッピー・ディスク40に・・・4個の演奏データが記憶されているので、NSには「4」がセットされる。 ステップ502の処理を終了すると、ステップ504へ進み、RAM16のテンポラリ・エリアに、NSに対応した数のバッファ(Buf[1]?Buf[NS])を生成する。図3に示す例においては、NSに「4」がセットされているので、Buf[1]?Buf[4]としてバッファa?バッファdを生成することになる。 ここで、Buf[1]?Buf[NS]として生成される各バッファの記憶容量の大きさは、上記したように、フロッピー・ディスク40における1クラスタのサイズ(例えば512バイト)と同じ大きさとする。」(段落0031?段落0035)
(エ)「従って、フロッピー・ディスク40をフロッピー・ディスク装置24にセットすると上記したロード処理ルーチンにより、図3に示すように、フロッピー・ディスク40に記憶された全ての演奏データの先頭クラスタがRAM16のテンポラリ・エリアに設定されたバッファBuf[]に記憶されることになる。なお、このロード処理ルーチンにおいてバッファBuf[]に書き込まれる演奏データは先頭クラスタのみであるため、極めて短時間でフロッピー・ディスク40に記憶された全ての演奏データに対して処理を行うことができる。」(段落0043)
(オ)「なお、この自動演奏装置においては、演奏データの先頭クラスタがロードされることになるBuf[]の他に、RAM16に自動演奏用テンポラリ・バッファを設定し、これら2つのバッファを用いて、一方の空いたバッファに演奏データを入力している間に、他方の入力済みのバッファを用いて音源30へ演奏データを出力し、これを交互に行うという方式を採用している」(段落0028)
(カ)「従って、自動演奏が行われていないときに(Play=0)、テン・キー18aにより選択されたフロッピー・ディスク40に記憶された第1番目の演奏データを自動演奏するために、プレイ・ボタン18bが押されたならば、P_CLのインクリメントに従ってバッファaに記憶された先頭クラスタを読み出してイベントを出力するとともに、自動演奏用テンポラリ・バッファtに第1番目の演奏データの先頭クラスタの次のクラスタのデータ「S1-2」(第3クラスタ)をロードする。そして、バッファaに記憶されている先頭クラスタの読み出しが終了すると、データ「S1-3」(第3クラスタ)をロードした自動演奏用テンポラリ・バッファtを読み出してイベントを出力するとともに、「S1-3」(第3クラスタ)の次のデータ「S1-3」(第4クラスタ)をバッファaにロードするというように、バッファaと自動演奏用テンポラリ・バッファtとの2つのバッファを用いて、一方の空いたバッファに演奏データを入力している間に、他方の入力済みのバッファを用いて音源30へ演奏データを出力する。」(段落0071)
(キ)「このときに、バッファb、バッファcおよびバッファdはそれぞれ、第2番目、第3番目、第4番目の演奏データの先頭クラスタをロードされた状態を保持しているので、例えば次に、テン・キー18aにより第3番目の演奏データが選択されて、プレイ・ボタン18bによりその自動演奏の開始が指示された場合には、バッファcにロードされた第3番目の演奏データの先頭データが即座に読み出されイベント出力される。また、自動演奏用テンポラリ・バッファtには、第3番目の演奏データの先頭クラスタの次のクラスタのデータ「S3-2」(第11クラスタ)をロードし、上記と同様に、バッファcと自動演奏用テンポラリ・バッファtとの2つのバッファを用いて、一方の空いたバッファに演奏データを入力している間に、他方の入力済みのバッファを用いて音源30へ演奏データを出力する。」(段落0072)
(ク)「【発明の効果】 本発明は、以上説明したように構成されているので、フロッピー・ディスクなどの外部記憶媒体に記憶された演奏データをロードするためのバッファなどの領域を大きくすることなく、最初に演奏させる曲を選択するときも含めて、曲を選択してから実際に当該選択した曲の演奏データの再生が行われて演奏が開始されるまでの待ち時間を著しく短縮化することができるという優れた効果を奏する。」(段落0075)

(c)対比
補正後発明と刊行物4記載の発明とを対比する。
(c1)ハード構成
刊行物4の「曲の演奏データ」は、補正後発明にいう「楽曲データ」に相当する。
刊行物4の「フロッピー・ディスクなどの外部記憶媒体」は、補正後発明にいう「楽曲データが少なくとも記憶される記憶手段」に相当する。
刊行物4では、フロッピー・ディスク40に記憶された全ての演奏データの先頭クラスタが、それぞれ、RAM16のテンポラリ・エリアに設定されたバッファ(a?d)にロードされ記憶される。RAM16に設定されたバッファ(a?d)およびバッファtは、補正後発明にいう「外部より取り込まれた楽曲データを記憶すると共に、記憶できるデータ量が限られている楽曲データ記憶手段」に相当する。
刊行物4では、バッファ(a?d、t)から演奏データがMIDI出力端子20を介して音源30へ出力される。音源30は、補正後発明にいう「楽曲データを再生して楽音信号を発生する楽曲再生手段」に相当する。
上記各手段を有する自動演奏装置は楽曲を再生するものであるから、「楽曲再生方法」が開示されていると言うことができる。もっとも、刊行物4は、「自動演奏装置の楽曲再生方法」に係るものであり、「携帯電話装置の楽曲再生方法」とする補正後発明とは相違が認められる。
(c2)楽曲データの一部を予め転送しておくこと
刊行物4では、フロッピー・ディスク40がセットされると、まず、フロッピーディスク40に記憶されている演奏データの数NS(図3では4個)がセットされ、RAM16のテンポラリ・エリアに、上記数NSに対応した個数のバッファ(Buf[1]?Buf[NS]、図3ではバッファa?バッファd)が生成される。その後、フロッピー・ディスク40に記憶された全ての演奏データの先頭クラスタが、それぞれ、上記生成されたバッファ(a?d)にロードされ記憶されることは、前記のとおりである。
演奏データの先頭部分は演奏データの「一部」であるから、バッファ(a?d)に各演奏データの先頭部分がロードされるステップは、補正後発明にいう「楽曲データの一部を予め前記記憶手段から前記楽曲データ記憶手段に転送しておき、」に相当する。
(c3)所定のルール、楽曲データの一致
(c31)補正後発明の「所定のルールに基づいて選択した楽曲データ」および「前記選択された楽曲データと前記楽曲データ記憶手段に格納されている楽曲データとが一致した場合には、」について検討する。
(c32)補正後発明は、予め転送しておく楽曲データを「所定のルール」に基づいて選択するところ、「所定のルール」につき同表現を越える構成(具体)を何ら規定するものではない。他方、刊行物4では、フロッピーディスク40に記憶されている演奏データの全てを予め転送しておくところ、これは全てを選択することを「所定のルール」としていると見ることができる。
そうすると、刊行物4には、補正後発明にいう「所定のルールに基づいて選択した楽曲データの一部を予め前記記憶手段から前記楽曲データ記憶手段に転送しておき、」に相当する構成の開示が認められる。
(c33)もっとも、「所定のルール」につき本願明細書には、「ここで、所定のルールとは、再生すべき楽曲データを先行書込みするために既に記憶されている複数の楽曲データから一つの楽曲データを選択する規則をいい、例えば、過去に最も使用された楽曲データを選択することを内容とする規則や、直前に使用された楽曲データを選択する規則を使用することができる。」(段落0055)と記載されており、「演奏データの全て」を予め転送しておく刊行物4とは、実施レベルで相違が認められる。
そして、補正後発明の「前記選択された楽曲データと前記楽曲データ記憶手段に格納された楽曲データとが一致した場合には、」との判定は、「所定のルール」が「複数の楽曲データから一つの楽曲データを選択する規則」(本願明細書、上記段落0055)であることに伴う構成であることが認められるところ、刊行物4には、これに相当する構成について記載はない。
(c4)楽曲再生を伴う動作、トリガ
(c41)補正後発明の「携帯電話装置に楽曲再生を伴う動作を実施させるトリガがかかると、前記動作に応じて予め決められている楽曲データを選択し、」について検討する。
(c42)本願明細書には「メロディを再生する旨のトリガがかかり」(段落0006他)と記載されていることから、補正後発明の「楽曲再生を伴う動作」とは「メロディを再生する」動作のことであり、「トリガ」とは、「(携帯電話装置に)メロディを再生する動作を実施させるトリガ」であることが認められる。
他方、刊行物4では、プレイ・ボタン18bが押されたときに、テン・キー18aにより既に選択されている演奏データの番号をレジスタ「Play」に記憶して(図6、ステップ614)、その後、楽曲の再生を実施させる。「プレイ・ボタン18bが押されたこと」をトリガとして、楽曲の再生を実施させるためのその後の処理を開始することが認められる。
そうすると、刊行物4と補正後発明とは、少なくとも、「(携帯電話装置に)楽曲再生を伴う動作を実施させるトリガがかかると、・・・楽曲データの再生を前記楽曲再生手段に実施させる」点において一致することが認められる。
(c43)もっとも、補正後発明では、トリガがかかった後において、「前記動作に応じて予め決められている楽曲データを選択(し、)」するのに対して、刊行物4では、トリガがかかる前に(プレイ・ボタン18bが押される前に)、予め転送された楽曲(フロッピー・ディスクに記憶された全曲)の中から楽曲データの番号がテン・キー18aにより選択されている。相違が認められる。
(c5)楽曲データ記憶手段の動作
(c51)刊行物4では、バッファaを読み出して予め記憶された第1番目の演奏データのクラスタ「S1-1」を出力するとともに、テンポラリ・バッファtに第1番目の演奏データの次のクラスタ「S1-2」をロードする。バッファaに記憶されているクラスタ「S1-1」の読み出しが終了すると、テンポラリ・バッファtを読み出して次のクラスタ「S1-2」出力するとともに、バッファaに次のクラスタ「S1-3」をロードする。
このような2つのバッファ(a、t)を用い書込みと読出しを交互に行う方式について詳しく見ると、バッファaの読出しが終了しバッファaが空き状態となった時点から(すなわち、所定量の空きエリア(1バッファ分)が発生したこととなる)、当該バッファaにバッファdに記憶されていた演奏データに続く演奏データが書き込まれる。
すなわち、刊行物4のバッファ(a、d)は、補正後発明と、その動作原理「楽曲データ記憶手段に所定量の空きエリアが発生した場合に、楽曲データ記憶手段に(楽曲データ記憶手段に空きエリアが発生する直前まで該エリアに)記憶されていた楽曲データに続く楽曲データを記憶手段から読み出して楽曲再生手段に転送し、前記続く楽曲データを楽曲データ記憶手段の前記空きエリアに記憶させるようにした」を同じくするものである。
(c52)もっとも、補正後発明では「空きエリアが発生する直前まで該エリアに記憶されていた楽曲データに続く楽曲データ」であるのに対して、刊行物4では「空きエリアが発生する直前まで該エリアとは別のエリアに記憶されていた楽曲データに続く楽曲データ」であり、「続く楽曲データ」が続くとする「空きエリアが発生する直前まで記憶されていた楽曲データ」が記憶されていた「エリア」につき相違が認められる。

(d)一致点・相違点
補正後発明と刊行物4記載の発明との一致点及び相違点は、下記のとおりである。
記(一致点)
楽曲データが少なくとも記憶される記憶手段と、外部より取り込まれた楽曲データを記憶すると共に、記憶できる楽曲データ量が限られている楽曲データ記憶手段を含み、楽曲データを再生して楽音信号を発生する楽曲再生手段とを有する楽曲再生方法であって、
楽曲データの一部を予め前記記憶手段から前記楽曲データ記憶手段に転送しておき、
楽曲再生を伴う動作を実施させるトリガがかかると、前記楽曲データ記憶手段に格納された前記楽曲データの再生を前記楽曲再生手段に実施させるとともに、
前記楽曲データ記憶手段に所定量の空きエリアが発生した場合に、前記楽曲データ記憶手段に記憶されていた楽曲データに続く楽曲データを前記記憶手段から読み出して前記楽曲再生手段に転送し、
前記続く楽曲データを前記楽曲データ記憶手段の前記空きエリアに記憶させるようにした楽曲再生方法。
記(相違点)
〈相違点1〉
補正後発明では、その対象を「携帯電話装置の楽曲再生方法」とするものであり、そのため、再生する楽曲は、「携帯電話装置に楽曲再生を伴う動作を実施させるトリガがかかると、前記動作に応じて予め決められている楽曲データを選択し」、再生を実施させるのに対し、
刊行物4では、その対象を「自動演奏装置の楽曲再生方法」とするものであり、そのため、再生する楽曲は、予め転送された楽曲(フロッピー・ディスクに記憶された全曲)の内からテン・キー18aにより選択され、その後、「楽曲再生を伴う動作を実施させるトリガがかかると」(プレイ・ボタン18bが押されると)、再生を実施させる点。
〈相違点2〉
補正後発明では、「楽曲データ記憶手段に格納されている楽曲データ」は「所定のルールに基づいて選択した楽曲データ」であり、記憶手段に記憶された楽曲データの一部であることから、「前記選択された楽曲データと前記楽曲データ記憶手段に格納されている楽曲データとが一致した場合には」との判定を経た後、再生されるのに対し、
刊行物4では、「楽曲データ記憶手段に格納されている楽曲データ」は「所定のルールに基づいて選択した(楽曲データ)」ものではなく記憶手段に記憶された楽曲データの全部であることから、「前記選択された楽曲データと前記楽曲データ記憶手段に格納されている楽曲データとが一致した場合には」との判定を経ることなく再生される点。
〈相違点3〉
補正後発明では、「続く楽曲データ」は、「空きエリアが発生する直前まで該エリアに記憶されていた楽曲データ」に続くのに対して、
刊行物4では、「続く楽曲データ」は、「空きエリアが発生する直前まで該エリアとは別のエリアに記憶されていた楽曲データ」に続く点。

(e)相違点等の判断
〈相違点1について〉
(e11)通話機能に加え、楽曲データを記憶する記憶手段と、記憶した楽曲データを再生して楽音信号を発生する楽曲再生手段等を設けて、記憶した楽曲データに基づく自動演奏を可能とした携帯電話装置は、原査定で引用された刊行物1や、それ以外にも例えば特開平9-101786号公報、特開平11-112615号公報、特開平11-242490号公報等に示されるように、本願の出願前に周知のものであり、また、このようにした携帯電話装置は、電話装置であるばかりではなく、楽曲の自動演奏装置とも言い得るものである。すなわち、自動演奏装置の楽曲再生方法を携帯電話装置に適用することは当業者にとって適宜の事項である。
相違点1に係る構成は、刊行物4に記載の自動演奏装置の楽曲再生方法(キャッシング技術)を携帯電話装置に採用することにより、当業者が容易になし得ることである。
(e12)楽曲の自動演奏が可能な携帯電話装置において、楽曲データの選択は、前掲刊行物(刊行物1、特開平9-101786号公報、特開平11-112615号公報、特開平11-242490号公報)にも示されるように、ユーザによる選択再生動作、着信音や保留音の生成動作等の楽曲再生を伴う携帯電話装置の動作に応じてなされるのが通常であるから、補正後発明にいう「前記携帯電話装置に楽曲再生を伴う動作を実施させるトリガがかかると、前記動作に応じて予め決められている楽曲データを選択する」は、刊行物4に記載の自動演奏装置の楽曲再生方法を携帯電話装置に採用した際における楽曲データの選択についての通常の態様を言うに過ぎない。
〈相違点2について〉
(e21)楽曲データのキャッシング技術(転送のタイムラグなしにリアルタイムで楽音を再生すること)において、キャッシュ(先行書き込み)しておく楽曲の個数をどの程度とするか(全部か一部か)は、記憶容量等を勘案した設計上の選択的事項というべきものである。
他方、転送する楽曲の個数を全部ではなく一部とした場合には残りの楽曲は楽曲データ記憶装置に記憶されていないので、これに伴い、「前記選択された楽曲データと前記楽曲データ記憶手段に格納された楽曲データとが一致した場合には、」との判定ステップを設ける必要が生ずることは、処理プロセスの設計上、必然の事項ともいうべきものである。これには、刊行物2(段落0035、図6)、刊行物3(段落0018、図3)、刊行物5(段落0058?段落0060、図10)などが参照される。
(e22)同じく、楽曲データのキャッシング技術において、キャッシュしておく楽曲データを「所定のルールに基づいて選択した」(例えば、使用頻度の高いもの、前回使用したもののみに限定する)ものとすることは、キャッシングの一手法として常套であることは周知の事項である。これには、原査定で引用された刊行物2(第1頁【要約】)、刊行物3(段落0017)、刊行物5(段落0036?段落0045、図6)などが参照される。
(e23)相違点2に係る構成は、刊行物4において、生成するバッファの個数および同バッファにロードする演奏データの個数について、上記事情(設計上の選択的事項であること)および上記周知の事項を参照することにより、当業者が容易になし得ることである。
〈相違点3について〉
(e31)本願発明の「楽曲データ記憶手段」は、本願明細書の記載に照らすと、例えば、「FIFOバッファ」(先行書き込みデータの読み出しによって所定量の空き領域が生じた場合に、後続するデータの書き込みがなされる先入れ、先出しタイプのバッファ)であると解し得、そして、本願発明の「前記楽曲データ記憶手段に所定量の空きエリアが発生した場合に、前記楽曲データ記憶手段に前記空きエリアが発生する直前まで該エリアに記憶されていた楽曲データに続く楽曲データを前記記憶手段から読み出して前記楽曲再生手段に転送し、前記続く楽曲データを前記楽曲データ記憶手段の前記空きエリアに記憶させる」は、上記「FIFOバッファ」を用いた場合の通常の楽曲データの転送態様を言うにすぎないものと認められる。他方、刊行物4の「楽曲データ記憶手段」は、2つのバッファを用い書込みと読出しを交互に行う方式(いわゆる「交替バッファ」)である。
そうすると、相違点3は、換言すれば、楽曲データ記憶手段として「FIFOバッファ」(本願発明)を用いるか、「交替バッファ」(刊行物4)を用いるかという点に尽きる。
(e32)ところで、「FIFOバッファ」自体は「交替バッファ」と共にバッファ手段の一つとして周知のものであり(これには、例えば、特開平8-7088号公報(2頁の請求項3)、特開平6-75847号公報(1頁の要約)、特開昭63-167949号公報(2頁右下欄2行?11行)、特開平10-187154号公報等が参照される。)、「交替バッファ」と「FIFOバッファ」のいずれを用いるかは、そのバッファリング機能の同一性から、当業者には適宜であり設計的事項というべきものである。
(e33)相違点3に係る構成は、刊行物4において、その「交替バッファ」に代えて上記周知の「FIFOバッファ」を用いることにより、当業者が容易になし得ることである。
〈効果等〉
以上、補正後発明の相違点1から相違点3までは、いずれも、当業者が容易になし得ることであるところ、これらを総合してみても格別の作用をなすものではない。補正後発明の効果も、刊行物4および上記周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

(f)まとめ(独立特許要件)
以上によれば、補正後発明は、刊行物4に記載された発明および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(2-3)小括(適合性)
したがって、上記補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。

(3)むすび(決定)
以上、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明
平成16年4月5日付けの手続補正は上記のとおり却下する。
本願の請求項1から請求項8までに係る発明は、本願明細書等(平成15年12月26日付け手続補正書により補正された明細書及び図面)の記載からみて、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1から請求項8までに記載した事項により特定されるとおりのものであるところ、このうち、請求項5に係る発明(本願発明という)は、下記のとおりである。
記(本願発明)
【請求項5】 楽曲データが少なくとも記憶される記憶手段と、外部より取り込まれた楽曲データを記憶すると共に、記憶できる楽曲データ量が限られている楽曲データ記憶手段を含み、楽曲データを再生して楽音信号を発生する楽曲再生手段とを有する携帯電話装置の楽曲再生方法であって、
所定のルールに基づいて選択した楽曲データの全部または一部を予め前記記憶手段から前記楽曲データ記憶手段に転送しておき、
楽曲を再生するトリガがかかると、再生すべき楽曲データを選択し、前記選択された楽曲データと前記楽曲データ記憶手段に格納されている楽曲データとが一致した場合には、前記楽曲データ記憶手段に格納された前記楽曲データの再生を前記楽曲再生手段に実施させるとともに、
前記楽曲データ記憶手段に所定量の空きエリアが発生した場合に、続く楽曲データを前記記憶手段から読み出して前記楽曲再生手段に転送し、
前記続く楽曲データを前記楽曲データ記憶手段の前記空きエリアに記憶させるようにしたことを特徴とする携帯電話装置の楽曲再生方法。

4.査定の検討
(1)引用刊行物の記載
原査定で引用された刊行物4には、前記のとおりの記載がある。

(2)対比(対応関係、一致点・相違点)
本願発明と刊行物4記載の発明とを対比する。補正後発明と刊行物4記載の発明との上記対応関係を援用すると、本願発明と刊行物4記載の発明との一致点および相違点は、下記のとおりである。
記(一致点)
楽曲データが少なくとも記憶される記憶手段と、外部より取り込まれた楽曲データを記憶すると共に、記憶できる楽曲データ量が限られている楽曲データ記憶手段を含み、楽曲データを再生して楽音信号を発生する楽曲再生手段とを有する楽曲再生方法であって、
所定のルールに基づいて選択した楽曲データの一部を予め前記記憶手段から前記楽曲データ記憶手段に転送しておき、
楽曲を再生するトリガがかかると、前記楽曲データ記憶手段に格納された前記楽曲データの再生を前記楽曲再生手段に実施させるとともに、
前記楽曲データ記憶手段に所定量の空きエリアが発生した場合に、続く楽曲データを前記記憶手段から読み出して前記楽曲再生手段に転送し、
前記続く楽曲データを前記楽曲データ記憶手段の前記空きエリアに記憶させるようにした楽曲再生方法。
記(相違点)
〈相違点1〉
本願発明では、その対象を「携帯電話装置の楽曲再生方法」とするものであり、そのため、再生する楽曲は、「楽曲を再生するトリガがかかると、再生すべき楽曲データを選択し」、再生を実施させるのに対し、
刊行物4では、その対象を「自動演奏装置の楽曲再生方法」とするものであり、そのため、再生する楽曲は、予め転送された楽曲(フロッピー・ディスクに記憶された全曲)の内からテン・キー18aにより選択され、その後、「楽曲を再生するトリガがかかると」(プレイ・ボタン18bが押されると)、再生を実施させる点。
〈相違点2〉
上記補正後発明に係る相違点2と同じ。
〈相違点3〉
本願発明では、予め転送しておく楽曲データが記憶手段に記憶された楽曲データの「全部または一部」であるのに対して、刊行物4では、「一部」である点。

(3)相違点の判断
〈相違点1について〉
上記補正後発明に係る相違点1についてした判断と同様である。
〈相違点2について〉
上記補正後発明に係る相違点2についてした判断と同じである。
〈相違点3について〉
楽曲データのキャッシング技術において、楽曲データの全部をキャッシュしておくことは、キャッシングの一手法として常套であることは周知の事項である。これには、原査定で引用された刊行物2、刊行物3、刊行物5などが参照される。
相違点3に係る構成は、刊行物4において、上記周知技術を参照することにより、当業者が容易になし得ることである。
〈効果等〉
以上、本願発明の相違点1から相違点3までは、いずれも、当業者が容易になし得ることであるところ、これらを総合してみても格別の作用をなすものではない。補正後発明の効果も、刊行物4および上記周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

(4)まとめ
したがって、本願発明は、刊行物4に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願の請求項5に係る発明は、刊行物4に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、残る他の請求項について特に検討をするまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-09-11 
結審通知日 2006-09-12 
審決日 2006-09-25 
出願番号 特願2000-32472(P2000-32472)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G10H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小宮 慎司宮下 浩次益戸 宏  
特許庁審判長 新宮 佳典
特許庁審判官 松永 隆志
堀井 啓明
発明の名称 携帯電話装置及び携帯電話装置の楽曲再生方法  
代理人 志賀 正武  
代理人 渡邊 隆  

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