• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01J
管理番号 1147109
審判番号 不服2004-7975  
総通号数 85 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-04-19 
確定日 2006-11-09 
事件の表示 平成 8年特許願第222606号「カラー受像管」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 8月26日出願公開、特開平 9-223469〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯
本願は、平成8年8月23日(優先権主張平成7年9月5日、平成7年12月13日)の出願であって、平成16年3月16日付け(発送日同年3月18日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年4月19日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成16年5月14日付けで手続補正がなされたものである。


2.平成16年5月14日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年5月14日付けの手続補正を却下する。
[理由]
本件補正は、特許請求の範囲の

「【請求項1】 水平方向にインライン配列された3個の陰極、制御電極、加速電極、及び集束電極系を有する電子銃を備えたインラインカラー受像管であって、
前記集束電極系は、所定のフォーカス電圧が印加される第1集束電極と電子ビームの偏向角度に応じて変化する電圧が印加される第2集束電極とを含み、
前記第1集束電極と前記第2集束電極は、電子ビーム通過部がビーム軸に関して非軸対称な構造を有し、
前記制御電極が、垂直方向に長手の非円形の電子ビーム通過孔を有しているカラー受像管。
【請求項2】 前記加速電極と前記第1集束電極との間に、第1補助電極および第2補助電極が設けられ、前記第1集束電極と前記第1補助電極とが導体で接続され、前記第2集束電極と前記第2補助電極とが導体で接続されている請求項1記載のカラー受像管。
【請求項3】 前記第1集束電極の前記第2補助電極との対向面に形成された非円形の電子ビーム通過孔の長手方向は水平方向であり、前記第2補助電極の前記第1集束電極との対向面に形成された非円形の電子ビーム通過孔の長手方向は垂直方向である請求項2記載のカラー受像管。
【請求項4】 前記加速電極と前記第1集束電極との間に第1補助電極および第2補助電極が設けられ、前記第1補助電極と前記第1集束電極とが導体で接続され、前記第2補助電極と前記加速電極とが導体で接続されている請求項1記載のカラー受像管。
【請求項5】 前記加速電極と前記第1集束電極との間に第1補助電極および第2補助電極が設けられ、前記第1補助電極と前記第2集束電極とが導体で接続され、前記第2補助電極と前記加速電極とが導体で接続されている請求項1記載のカラー受像管。
【請求項6】 前記加速電極と前記第1集束電極との対向部が非軸対称な構造である請求項1記載のカラー受像管。
【請求項7】 前記加速電極は、前記第1集束電極側に水平方向に長手の電子ビーム通過孔を有する請求項1記載のカラー受像管。
【請求項8】 前記第1集束電極は、前記加速電極側に垂直方向に長手の電子ビーム通過孔を有する請求項1記載のカラー受像管。
【請求項9】 前記加速電極と前記第1集束電極との間に、第1補助電極および第2補助電極を設け、前記加速電極と前記第1補助電極との対向部、および、前記第1補助電極と前記第2補助電極との対向部、および、前記第2補助電極と前記第1集束電極との対向部のうち、少なくとも1つの対向部が非軸対称な構造である請求項1記載のカラー受像管。
【請求項10】 前記加速電極は、前記第1補助電極側に水平方向に長手の電子ビーム通過孔を有する請求項9記載のカラー受像管。
【請求項11】 前記第1補助電極は、前記加速電極側に垂直方向に長手の電子ビーム通過孔を有する請求項9記載のカラー受像管。
【請求項12】 前記制御電極の電子ビーム通過孔が矩形または長円形である請求項1記載のカラー受像管。
【請求項13】 水平方向にインライン配列された3個の陰極、制御電極、加速電極および集束電極系を有する電子銃を備えたインラインカラー受像管であって、
前記集束電極系は、所定のフォーカス電圧が印加される第1集束電極と電子ビームの偏向角度に応じて変化する電圧が印加される第2集束電極とを含み、
前記第1集束電極と前記第2集束電極は、電子ビーム通過部がビーム軸に関して非軸対称な構造を有し、
前記制御電極の前記陰極側には、垂直方向に長手の非円形の電子ビーム通過孔が形成されていると共に、前記制御電極の前記加速電極側には、水平方向に長手の非円形の電子ビーム通過孔が形成されているカラー受像管。
【請求項14】 前記加速電極と前記第1集束電極との間に、第1補助電極および第2補助電極を設け、前記第1集束電極と前記第1補助電極とが導体で接続され、前記第2集束電極と前記第2補助電極とが導体で接続されている請求項13記載のカラー受像管。
【請求項15】 前記第1集束電極の前記第2補助電極との対向面に形成された非円形の電子ビーム通過孔の長手方向は水平方向であり、前記第2補助電極の前記第1集束電極との対向面に形成された非円形の電子ビーム通過孔の長手方向は垂直方向である請求項14記載のカラー受像管。
【請求項16】 前記加速電極と前記第1集束電極との間に第1補助電極および第2補助電極が設けられ、前記第1補助電極と前記第1集束電極とが導体で接続され、前記第2補助電極と前記加速電極とが導体で接続されている請求項13記載のカラー受像管。
【請求項17】 前記加速電極と前記第1集束電極との間に第1補助電極および第2補助電極が設けられ、前記第1補助電極と前記第2集束電極とが導体で接続され、前記第2補助電極と前記加速電極とが導体で接続されている請求項13記載のカラー受像管。
【請求項18】 前記加速電極と前記第1集束電極との対向部が非軸対称な構造である請求項13記載のカラー受像管。
【請求項19】 前記加速電極は、前記第1集束電極側に水平方向に長手の電子ビーム通過孔を有する請求項13記載のカラー受像管。
【請求項20】 前記第1集束電極は、前記加速電極側に垂直方向に長手の電子ビーム通過孔を有する請求項13記載のカラー受像管。
【請求項21】 前記加速電極と前記第1集束電極との間に、第1補助電極および第2補助電極を設け、前記加速電極と前記第1補助電極との対向部、および、前記第1補助電極と前記第2補助電極との対向部、および、前記第2補助電極と前記第1集束電極との対向部のうち、少なくとも1つの対向部が非軸対称な構造である請求項13記載のカラー受像管。
【請求項22】 前記加速電極は、前記第1補助電極側に水平方向に長手の電子ビーム通過孔を有する請求項21記載のカラー受像管。
【請求項23】 前記第1補助電極は、前記加速電極側に垂直方向に長手の電子ビーム通過孔を有する請求項21記載のカラー受像管。
【請求項24】 前記制御電極の電子ビーム通過孔が矩形または長円形である請求項13記載のカラー受像管。」
を、

「【請求項1】 水平方向にインライン配列された3個の陰極、制御電極、加速電極、及び集束電極系を有する電子銃を備えたインラインカラー受像管であって、
前記集束電極系は、所定のフォーカス電圧が印加される第1集束電極と電子ビームの偏向角度に応じて変化する電圧が印加される第2集束電極とを含み、
前記第1集束電極と前記第2集束電極は、電子ビーム通過部がビーム軸に関して非軸対称な構造を有し、
前記制御電極が、垂直方向に長手の非円形の電子ビーム通過孔を有し、
前記加速電極と前記第1集束電極との間に、第1補助電極および第2補助電極が設けられ、前記第1集束電極と前記第1補助電極とが導体で接続され、前記第2集束電極と前記第2補助電極とが導体で接続されており、
前記第1集束電極の前記第2補助電極との対向面に形成された非円形の電子ビーム通過孔の長手方向は水平方向であり、前記第2補助電極の前記第1集束電極との対向面に形成された非円形の電子ビーム通過孔の長手方向は垂直方向であるカラー受像管。
【請求項2】 水平方向にインライン配列された3個の陰極、制御電極、加速電極、及び集束電極系を有する電子銃を備えたインラインカラー受像管であって、
前記集束電極系は、所定のフォーカス電圧が印加される第1集束電極と電子ビームの偏向角度に応じて変化する電圧が印加される第2集束電極とを含み、
前記第1集束電極と前記第2集束電極は、電子ビーム通過部がビーム軸に関して非軸対称な構造を有し、
前記制御電極が、垂直方向に長手の非円形の電子ビーム通過孔を有し、
前記加速電極と前記第1集束電極との対向部が非軸対称な構造であるカラー受像管。
【請求項3】 前記加速電極は、前記第1集束電極側に水平方向に長手の電子ビーム通過孔を有する請求項2記載のカラー受像管。
【請求項4】 前記第1集束電極は、前記加速電極側に垂直方向に長手の電子ビーム通過孔を有する請求項2記載のカラー受像管。
【請求項5】 水平方向にインライン配列された3個の陰極、制御電極、加速電極、及び集束電極系を有する電子銃を備えたインラインカラー受像管であって、
前記集束電極系は、所定のフォーカス電圧が印加される第1集束電極と電子ビームの偏向角度に応じて変化する電圧が印加される第2集束電極とを含み、
前記第1集束電極と前記第2集束電極は、電子ビーム通過部がビーム軸に関して非軸対称な構造を有し、
前記制御電極が、垂直方向に長手の非円形の電子ビーム通過孔を有し、
前記加速電極と前記第1集束電極との間に、第1補助電極および第2補助電極を設け、
前記加速電極と前記第1補助電極との対向部、および、前記第1補助電極と前記第2補助電極との対向部、および、前記第2補助電極と前記第1集束電極との対向部のうち、少なくとも1つの対向部が非軸対称な構造であるカラー受像管。
【請求項6】 前記加速電極は、前記第1補助電極側に水平方向に長手の電子ビーム通過孔を有する請求項5記載のカラー受像管。
【請求項7】 前記第1補助電極は、前記加速電極側に垂直方向に長手の電子ビーム通過孔を有する請求項5記載のカラー受像管。
【請求項8】 水平方向にインライン配列された3個の陰極、制御電極、加速電極および集束電極系を有する電子銃を備えたインラインカラー受像管であって、
前記集束電極系は、所定のフォーカス電圧が印加される第1集束電極と電子ビームの偏向角度に応じて変化する電圧が印加される第2集束電極とを含み、
前記第1集束電極と前記第2集束電極は、電子ビーム通過部がビーム軸に関して非軸対称な構造を有し、
前記制御電極の前記陰極側には、垂直方向に長手の非円形の電子ビーム通過孔が形成されていると共に、前記制御電極の前記加速電極側には、水平方向に長手の非円形の電子ビーム通過孔が形成されており、
前記加速電極と前記第1集束電極との間に、第1補助電極および第2補助電極を設け、
前記第1集束電極と前記第1補助電極とが導体で接続され、前記第2集束電極と前記第2補助電極とが導体で接続されており、
前記第1集束電極の前記第2補助電極との対向面に形成された非円形の電子ビーム通過孔の長手方向は水平方向であり、前記第2補助電極の前記第1集束電極との対向面に形成された非円形の電子ビーム通過孔の長手方向は垂直方向であるカラー受像管。
【請求項9】 水平方向にインライン配列された3個の陰極、制御電極、加速電極および集束電極系を有する電子銃を備えたインラインカラー受像管であって、
前記集束電極系は、所定のフォーカス電圧が印加される第1集束電極と電子ビームの偏向角度に応じて変化する電圧が印加される第2集束電極とを含み、
前記第1集束電極と前記第2集束電極は、電子ビーム通過部がビーム軸に関して非軸対称な構造を有し、
前記制御電極の前記陰極側には、垂直方向に長手の非円形の電子ビーム通過孔が形成されていると共に、前記制御電極の前記加速電極側には、水平方向に長手の非円形の電子ビーム通過孔が形成されており、
前記加速電極と前記第1集束電極との対向部が非軸対称な構造であるカラー受像管。
【請求項10】 前記加速電極は、前記第1集束電極側に水平方向に長手の電子ビーム通過孔を有する請求項9記載のカラー受像管。
【請求項11】 前記第1集束電極は、前記加速電極側に垂直方向に長手の電子ビーム通過孔を有する請求項9記載のカラー受像管。
【請求項12】 水平方向にインライン配列された3個の陰極、制御電極、加速電極および集束電極系を有する電子銃を備えたインラインカラー受像管であって、
前記集束電極系は、所定のフォーカス電圧が印加される第1集束電極と電子ビームの偏向角度に応じて変化する電圧が印加される第2集束電極とを含み、
前記第1集束電極と前記第2集束電極は、電子ビーム通過部がビーム軸に関して非軸対称な構造を有し、
前記制御電極の前記陰極側には、垂直方向に長手の非円形の電子ビーム通過孔が形成されていると共に、前記制御電極の前記加速電極側には、水平方向に長手の非円形の電子ビーム通過孔が形成されており、
前記加速電極と前記第1集束電極との間に、第1補助電極および第2補助電極を設け、
前記加速電極と前記第1補助電極との対向部、および、前記第1補助電極と前記第2補助電極との対向部、および、前記第2補助電極と前記第1集束電極との対向部のうち、少なくとも1つの対向部が非軸対称な構造であるカラー受像管。
【請求項13】 前記加速電極は、前記第1補助電極側に水平方向に長手の電子ビーム通過孔を有する請求項12記載のカラー受像管。
【請求項14】 前記第1補助電極は、前記加速電極側に垂直方向に長手の電子ビーム通過孔を有する請求項12記載のカラー受像管。」

と補正することを含むものである。

上記補正は、
・補正前の請求項(以下、「旧請求項」という。)1,2,4,5,12,13,14,16,17,24を削除し、
・補正後の請求項(以下、「新請求項」という。)1は、旧請求項3(旧請求項1を引用した旧請求項2をさらに引用したもの)を独立形式に改めて請求項の番号を繰り上げたもの、
・新請求項2は、旧請求項6(旧請求項1を引用したもの)を独立形式に改めて請求項の番号を繰り上げたもの、
・新請求項3は、旧請求項7(旧請求項1を引用したもの)に、旧請求項6で限定した特定事項を附加したものを、新請求項2の引用形式で表したもの、
・新請求項4は、旧請求項8(旧請求項1を引用したもの)に、旧請求項6で限定した特定事項を附加したものを、新請求項2の引用形式で表したもの、
・新請求項5は、旧請求項9(旧請求項1を引用したもの)を独立形式に改めて、請求項の番号を繰り上げたもの、
・新請求項6は、旧請求項10(旧請求項1を引用した請求項9を引用したもの)を、新請求項5の引用形式で表したもの、
・新請求項7は、旧請求項11(旧請求項1を引用した請求項9を引用したもの)を、新請求項5の引用形式で表したもの、
・新請求項8は、旧請求項15(旧請求項13を引用した旧請求項14を引用したもの)を独立形式に改めて、請求項の番号を繰り上げたもの、
・新請求項9は、旧請求項18(旧請求項13を引用したもの)を独立形式に改めて、請求項の番号を繰り上げたもの、
・新請求項10は、旧請求項19(旧請求項13を引用したもの)に、旧請求項18で限定した特定事項を附加したものを、新請求項9の引用形式で表したもの、
・新請求項11は、旧請求項20(旧請求項13を引用したもの)に、旧請求項18で限定した特定事項を附加したものを、新請求項9の引用形式で表したもの、
・新請求項12は、旧請求項21(旧請求項13を引用したもの)を独立形式に改めて、請求項の番号を繰り上げたもの、
・新請求項13は、旧請求項22(旧請求項13を引用した旧請求項21を引用したもの)を、新請求項12の引用形式で表したもの、
・新請求項14は、旧請求項23(旧請求項13を引用した旧請求項21を引用したもの)を、新請求項12の引用形式で表したもの、
であるから、新請求項の1、2、5?9、12?14に関する補正については、請求項の削除を目的とする事項に該当し、新請求項3、4、10、11に関する補正については、請求項に記載した事項を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする事項に該当する。
そうすると、「特許請求の範囲」全体について減縮があったことになるから、「特許請求の範囲」全体に減縮があれば、「特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明」について独立特許要件の判断が必要となるものであり、以下に、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本件補正発明1」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか(特許法第17条の2第5項において読み替えて準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について検討する。

(1)引用例に記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先日前である平成3年4月18日に頒布された刊行物である特開平3-93135号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、

(1-1)「本発明は、蛍光体スクリーン面の全域において高い解像度が得られるように構成したカラー受像管装置に関する。」(1頁右欄17行?同19行)

(1-2)「第1図に示すように、水平一直線上にインライン配列された3個の陰極1a,1b、1cは制御格子電極2,加速電極3、第1補助電極18、第2補助電極19、第1集束電極4、第2集束電極5および最終加速電極6とともにインライン型電子銃を形成している。
第1集束電極4の第2集束電極側の端面に縦長の電子ビーム通過孔4a,4b,4cが、そして、第2集束電極5の第1集束電極側の端面に横長の電子ビーム通過孔5a,5b,5cがそれぞれ軸非対称レンズ電界生成手段として設けられていて、第2集束電極5の最終加速電極6側の端面および最終加速電極6の第2集束電極4側の端面に主レンズ電界生成用の電子ビーム通過孔5d,5e,5fおよび6a,6b,6cがそれぞれ設けられているのは従来どおりである。
第1補助電極18は第1集束電極4に接続されているので、これに一定のフォーカス電圧Vfocがかかる。第2補助電極19は第2集束電極5に接続されているので、これには電子ビームの偏向角度の増大に伴い、フォーカス電圧Vfocから漸次に上昇するダイナミック電圧がかかる。
第1補助電極18、第2補助電極19および第1集束電極4の第2補助電極側端面には、第2図の(a),(b),(c)に示すような非円形の電子ビーム通過孔18a,18b,18c:19a,19b,19c:4d,4e,4fが、それぞれ軸非対称レンズ電界生成手段として設けられている。ただし、第1補助電極18の電子ビーム通過孔18a,18b,18cはいずれも、加速電極3側の面で円形の開口を有し、かつ、第2補助電極19側の面に横長矩形の開口を有している。また、第2補助電極19の電子ビーム通過孔19a,19b,19cは垂直方向に長軸を置く矩形状のもので、第1集束電極4の第2補助電極19側の端面に設けられた電子ビーム通過孔4d,4e,4fは水平方向に長軸を置く矩形状のものである。」(4頁左上欄17行?同左下欄13行)

が記載されている。

したがって、これらの記載事項によると、引用例1には、つぎのとおりの発明、

「水平方向にインライン配列された3個の陰極1a,1b,1c、制御格子電極2、加速電極3、及び第1集束電極4と第2集束電極5を有するインライン型電子銃を備えたカラー受像管装置であって、
前記第1集束電極4と第2集束電極5は、一定のフォーカス電圧Vfocが印加される第1集束電極4と電子ビームの偏向角度の増大に伴い、漸次に上昇するダイナミック電圧7が印加される第2集束電極5とを含み、
前記第1集束電極4と前記第2集束電極5は、電子ビーム通過孔4a,4b,4cと電子ビーム通過孔5a,5b,5cが縦長と横長の構造を有し、
前記制御格子電極2が、電子ビーム通過孔を有し、
前記加速電極3と前記第1集束電極4との間に、第1補助電極18および第2補助電極19が設けられ、前記第1集束電極4と前記第1補助電極18とが導体で接続され、前記第2集束電極5と前記第2補助電極19とが導体で接続されており、
前記第1集束電極4の前記第2補助電極19との対向面に形成された矩形状の電子ビーム通過孔4d,4e,4fの長手方向は水平方向であり、前記第2補助電極19の前記第1集束電極4との対向面に形成された矩形状の電子ビーム通過孔19a,19b,19cの長手方向は垂直方向であるカラー受像管装置。」(以下、これを「引用例1に記載の発明」という。)

が記載されているものと認める。

(2)対比・判断
本件補正発明1と引用例1に記載の発明とを対比する。
引用例1に記載の発明における「3個の陰極1a,1b,1c」、「制御格子電極2」、「加速電極3」、「第1集束電極4と第2集束電極5」、「インライン型電子銃」、「カラー受像管装置」、「一定のフォーカス電圧Vfoc」、「第1集束電極4」、「電子ビームの偏向角度の増大に伴い、漸次に上昇するダイナミック電圧7」、「第2集束電極5」、「電子ビーム通過孔4a,4b,4cと電子ビーム通過孔5a,5b,5c」、「縦長と横長の」、「第1補助電極18」、「第2補助電極19」、「矩形状の電子ビーム通過孔4d,4e,4f」、「矩形状の電子ビーム通過孔19a,19b,19c」、「カラー受像管装置」は、それぞれ、
本件補正発明1における「3個の陰極」、「制御電極」、「加速電極」、「集束電極系」、「電子銃」、「インラインカラー受像管」、「所定のフォーカス電圧」、「第1集束電極」、「電子ビームの偏向角度に応じて変化する電圧」、「第2集束電極」、「電子ビーム通過部」、「ビーム軸に関して非軸対称な」、「第1補助電極」、「第2補助電極」、「非円形の電子ビーム通過孔」、「非円形の電子ビーム通過孔」、「カラー受像管」に相当する。

したがって、両者は、

【一致点】
「水平方向にインライン配列された3個の陰極、制御電極、加速電極、及び集束電極系を有する電子銃を備えたインラインカラー受像管であって、
前記集束電極系は、所定のフォーカス電圧が印加される第1集束電極と電子ビームの偏向角度に応じて変化する電圧が印加される第2集束電極とを含み、
前記第1集束電極と前記第2集束電極は、電子ビーム通過部がビーム軸に関して非軸対称な構造を有し、
前記制御電極が、電子ビーム通過孔を有し、
前記加速電極と前記第1集束電極との間に、第1補助電極および第2補助電極が設けられ、前記第1集束電極と前記第1補助電極とが導体で接続され、前記第2集束電極と前記第2補助電極とが導体で接続されており、
前記第1集束電極の前記第2補助電極との対向面に形成された非円形の電子ビーム通過孔の長手方向は水平方向であり、前記第2補助電極の前記第1集束電極との対向面に形成された非円形の電子ビーム通過孔の長手方向は垂直方向であるカラー受像管。」
で一致し、

【相違点】
「本件補正発明1では、制御電極の電子ビーム通過孔が、垂直方向に長手の非円形であるのに対して、
引用例1に記載の発明では、制御格子電極2の電子ビーム通過孔が、どのような形状であるか不明である点。」

で相違する。

そこで、上記【相違点】について検討する。
同じく、原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先日前である昭和58年1月20日に頒布された刊行物である特開昭58-10354号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに、

(2-1)「第3図に示す実施例では、G1電極12のビーム通過孔13,14,15を縦長スロットとなすことにより、前記軸非対称レンズを得ている。」(3頁左上欄11行?14行)

(2-2)「前記軸非対称レンズの動作を第6図により説明すると、同図(a)は、G1電極付近の垂直断面を示し、同図(b)は、同水平断面を示している。垂直方向では、G1電極12のビーム通過孔幅が大きいので、最外周ビーム44は、軸から十分に離れた陰極部分を出射する。一方、陰極前面に生じる等電位線42の曲率は小さいので、陰極10から比較的遠い点にクロスオーバ40を生じる。また、水平方向では、最外周ビーム45が軸に近い陰極部分を出射し、陰極前面に生じる等電位線43の曲率は大きいので、陰極10に比較的近い点にクロスオーバ41を生じる。」(3頁左上欄19行?右上欄10行)

(2-3)「しかもスポット径が小さくなる。この実験結果を第7図により説明すると、・・・。そして同図(b)に示す最適フォーカス時には、水平方向径が最小で、垂直方向径が、これよりも若干大きい、縦長楕円の良好なビームスポットが得られる。」(3頁右上欄18行?左下欄7行)

と記載されている。

(2-4)さらに、図面の、第6図の(a)と(b)とを対比すると、(a)は垂直方向断面、(b)は水平方向断面を示しており、G1電極12のビーム通過孔13,14,15の縦長スロット直後の最外周ビームは、(a)の垂直方向最外周ビーム44の幅のほうが、(b)の水平方向最外周ビーム45の幅より広くなっていることが見て取れる。

そうすると、上記記載事項(2-4)によれば、引用例2記載のものにおいても、本願明細書にいう物点は縦長になっており、物点がレンズ作用でフォーカスされて蛍光面に結像されたものが、スポットであるから、物点が縦長になれば、横長に歪んだ周辺スポットは、横長歪みが修正されて円に近い形状になることは、明らかである。

したがって、上記記載事項(2-1)?(2-4)によると、引用例2には、ビーム通過孔を縦長にすることによって、物点を縦長にし、周辺スポットの横長歪みを修正するという技術思想が記載されていると認められる。

したがって、引用例1に記載の発明に引用例2に記載の技術思想を適用して、引用例1に記載の発明における、制御格子電極2の電子ビーム通過孔を、縦長、つまり、垂直方向に長手の非円形にすることによって、物点を縦長にし、周辺スポットの横長歪みを修正することは、当業者が容易になし得たことである。

そして、本件補正発明1の効果は、引用例1に記載の発明及び引用例2に記載の事項に基づいて当業者が予測可能な範囲内のものである。

したがって、本件補正発明1は、引用例1に記載の発明及び引用例2に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において読み替えて準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


3.本願発明について
平成16年5月14日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?24に係る発明は、出願当初の明細書及び図面の記載から見て、その特許請求の範囲の請求項1?24に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1?3に係る発明(以下、「本願発明1」?「本願発明3」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】水平方向にインライン配列された3個の陰極、制御電極、加速電極、及び集束電極系を有する電子銃を備えたインラインカラー受像管であって、
前記集束電極系は、所定のフォーカス電圧が印加される第1集束電極と電子ビームの偏向角度に応じて変化する電圧が印加される第2集束電極とを含み、
前記第1集束電極と前記第2集束電極は、電子ビーム通過部がビーム軸に関して非軸対称な構造を有し、
前記制御電極が、垂直方向に長手の非円形の電子ビーム通過孔を有しているカラー受像管。
【請求項2】 前記加速電極と前記第1集束電極との間に、第1補助電極および第2補助電極が設けられ、前記第1集束電極と前記第1補助電極とが導体で接続され、前記第2集束電極と前記第2補助電極とが導体で接続されている請求項1記載のカラー受像管。
【請求項3】 前記第1集束電極の前記第2補助電極との対向面に形成された非円形の電子ビーム通過孔の長手方向は水平方向であり、前記第2補助電極の前記第1集束電極との対向面に形成された非円形の電子ビーム通過孔の長手方向は垂直方向である請求項2記載のカラー受像管。」


4.引用例に記載の発明
引用例1に記載の発明は、前記「2.(1)」に記載したとおりである。


5.対比・判断
本願発明3は、上記本件補正発明1と同一であり、本願発明1及び2は、本件補正発明1から発明特定事項の一部を削除したものである。
そうすると、本願発明3と同一であり、また本願発明1及び2の発明特定事項を全て含み、さらに他の特定事項を付加したものに相当する本件補正発明1が、前記「2.(2)」に記載したとおり、引用例1に記載の発明及び引用例2に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1?3も、本件補正発明1についての判断で示したのと同様の理由により、引用例1に記載の発明及び引用例2に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである


6.むすび
以上のとおり、本願発明1?3は、引用例1に記載の発明及び引用例2に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願発明1?3が特許を受けることができないものであるから、その余の請求項4?24に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-09-13 
結審通知日 2006-09-14 
審決日 2006-09-27 
出願番号 特願平8-222606
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01J)
P 1 8・ 575- Z (H01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松岡 智也渡戸 正義堀部 修平  
特許庁審判長 杉野 裕幸
特許庁審判官 山川 雅也
小川 浩史
発明の名称 カラー受像管  
代理人 特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ