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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B61L
管理番号 1147199
審判番号 不服2005-4615  
総通号数 85 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-03-17 
確定日 2006-11-09 
事件の表示 特願2000-274309「輸送機関における情報提供システム及び情報提供方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 3月27日出願公開、特開2002- 87267〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本件出願は、平成12年9月11日の出願であって、その請求項1ないし13に係る発明は、平成17年1月17日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項8には次のとおり記載されている。

「運行ダイヤ情報を輸送機関の情報提供システムに入力し、上記輸送機関を特定する情報を上記情報提供システムに入力した後に、
上記情報提供システムが、
上記運行ダイヤ情報及び上記輸送機関を特定する情報に基づいて輸送機関の各運行区間における運行時間を求め、
上記運行時間に対応する時間だけ乗客に情報を提供し続けるための提供データを、複数の広告データを記憶した媒体から広告データを選択して並べることによって生成して記録し、
上記輸送機関の各運行区間において、各運行区間に対応する提供データを再生して乗客に提供し、
上記輸送機関の乗客の総重量を測定し、この総重量に基づいて提供データを変更する
ことを特徴とする輸送機関における情報提供方法。」(以下「本願発明」という。)

2.刊行物
(1)原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-287242号公報(以下「刊行物1」という。)には、「車内案内情報装置」と題して、図面とともに次の事項が記載されている。

・ 「【0003】車内案内情報表示装置は、行先案内や次駅案内等の案内文章を、列車が駅を出発した直後や、次の駅へ到着する一定距離手前に到達したときなど予め定めたタイミングにだけ表示したり、あるいは列車の走行中、同一の案内文章を常に繰り返し表示するようになっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このような従来の技術では、表示される内容が、行先案内や次駅案内など固定的に定めたものだけなので、特に、同一の列車に毎日乗車する通勤客などは表示内容への関心が低く注目度に欠けていた。
【0005】また駅を出発した直後など予め定められた期間だけ行先案内等の表示を行うものでは、駅間距離が長い場合に表示の消灯している期間が長くなり、車内案内表示装置が有効に活用されないという問題があった。
【0006】さらに、同一の内容を繰り返し表示するものでは、始発駅に長く停車している場合や駅間距離が長い場合に、乗客からの注目度が次第に低くなり、先の場合と同様に車内案内表示装置が有効活用されないという問題があった。
【0007】本発明は、このような従来の技術が有する問題点に着目してなされたもので、行先案内等の定型的な文章のほかに各種の情報を表示することで乗客に対するサービス向上を図ることのできる車内案内情報表示装置を提供することを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】かかる目的を達成するための本発明の要旨とするところは、次の各項の発明に存する。
[1]列車内の乗客に向けて各種の情報を表示する車内案内情報表示装置(10)において、前記各種の情報を列車内の乗客に向けて表示するための表示装置(45)と、予め内容の定められた定型文章を複数種類記憶した定型文章記憶手段(62)と、無線通信により送られてくる情報を受信する受信手段(43)と、前記定型文章記憶手段(62)に記憶されている複数種類の定型文章のうち列車の運行状態に応じた定型文章を列車の運行状態に応じたタイミングで前記表示装置(45)へ表示するとともに、前記受信手段(43)によって受信した情報を前記定型文書の表示されない空き時間を用いて前記表示装置(45)へ表示する表示制御手段(70)と、を具備することを特徴とする車内案内情報表示装置(10)。
【0009】[2]前記表示制御手段(70)は、列車の運行状態を基にして次の定型文章の表示を開始するまでの空き時間の長さを算出する空き時間算出手段(66)と、前記受信手段(43)によって受信した情報を記憶する受信情報記憶手段(58)と、前記受信情報記憶手段(58)に記憶されている情報を前記表示装置(45)へ表示するのに要する表示所要時間の長さを、乗客に向けてひとまとまりに表示すべき一連の情報を単位とした情報集合ごとに算出する表示所要時間算出手段(60)と、前記空き時間算出手段(66)の算出した空き時間の長さと前記表示所要時間算出手段(60)の算出した前記情報集合ごとの表示所要時間とを基にして、次に定型文章の表示を開始するまでの間に前記受信情報記憶手段(58)に記憶されているいずれかの情報集合を前記表示装置(45)へ表示すべきか否かを判定する表示可否判定手段(72)と、を具備することを特徴とする[1]記載の車内案内情報表示装置(10)。」
・ 「【0015】表示制御手段(70)は、定型文章記憶手段(62)に記憶されている複数種類の定型文章のうち列車の運行状態に応じた定型文章を列車の運行状態に応じたタイミングで表示装置(45)へ表示するとともに、受信手段(43)によって受信した情報を定型文書の表示されない空き時間を用いて表示装置(45)へ表示する。」
・ 「【0018】また、受信した文章の表示中に定型文章を表示すべきタイミングが到来し、表示中の受信文章がその途中で途切れてしまうようなことがないよう、表示制御手段(70)は、受信した文章を空き時間に表示すべきか否かを以下のようにして判別している。」
・ 「【0031】FMラジオ放送局31からは、天気予報やニュースなど一般文字放送がFM文字多重放送により放送される。FMラジオ放送局32は、いわゆる企業チャンネル放送を行っており、契約した企業の作成した文字情報をFM文字多重放送を通じて流している。企業チャンネル放送の放送内容は、メッセージ編集機33で作成された後、公衆電話回線網34を通じてFMラジオ放送局32へ伝送されるようになっている。当該企業チャンネルを通じて、たとえば、各種の宣伝や、沿線イベント情報など放送される。」
・ 「【0041】定型文章記憶部62は、行先案内や次駅案内など、予め定められた内容の定型文章を記憶したメモリ回路である。定型文章記憶部62には、記憶してある各定型文章ごとに、それを表示すべきタイミングが登録されている。たとえば、次駅案内では、駅発車後数秒後と、次駅到着の所定時間前に表示すべきことと各次駅案内がどの駅を発車後に表示すべきものであるか等を示す情報が登録されている。
【0042】運行状態情報収集部64は、列車の運行状態に関する各種の情報を収集する回路部分である。ここでは、列車番号、現在時刻、列車状態(異常の発生等)、走行位置、走行速度、ドア開閉状態、駅間距離、駅間走向所要時間(固定情報メモリ)等の情報が各種センサにより検知され収集される。
【0043】空き時間算出部66は、運行状態情報収集部64の収集した列車の運行状態に関する情報を基にして、次に定型文章を表示すべきタイミングが到来するまでの空き時間を算出する回路部分である。すなわち、現在、定型文章および受信した文章(受信文章)のいずれかを表示しているときは、その表示が終了してから、次の定型文章の表示を開始するまでに存在する空き時間を算出する。また現在、何も表示していないときは、現時点から、次の定型文章を表示すべきタイミングまでの時間を空き時間として算出する。
【0044】表示情報選択部70は、定型文章、受信文章(優先情報または通常情報)のうちどの文章を表示すべきかを選択する回路としての表示可否判定部72を備え、表示可否判定部72によって選択された文章を優先情報記憶部56、通常情報記憶部58、定型文章記憶部62のいずれかより読み出し、表示情報送信部80へ送出する回路である。
【0045】表示可否判定部72は、空き時間算出部66の算出した空き時間と、表示所要時間算出部60によって算出された表示所要時間とを比較し、次に定型文章を表示すべきタイミングが到来するまでの間に、通常情報記憶部58に格納されている受信文章を表示可能か否かを判定する機能を備えている。」
・ 「【0050】始発駅80を発車後、5秒経過後あるいは約10メートル走行した時点(矢印b)で、行先案内、次停車駅案内、乗換案内等が表示される。駅間所要時間が1?2分以上あり、受信文書を表示可能な空き時間がある場合には、駅間(矢印c)にて、各種の受信情報が表示装置45に表示される。たとえば、広告文や宣伝文、リアルタイムで受信したニュースや天気予報等を表示する。」

ここにおいて、上記に記載された発明は、「車内案内情報表示装置」とされるが、この装置が車内案内情報を表示するために行う一連の流れは、これを「車内案内情報表示方法」と呼ぶことができる。

そうすると、これらの記載事項及び図示内容を総合すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認めることができる。

「列車番号、駅間走行所要時間(固定情報メモリ)等の列車の運行状態に関する情報を車内案内情報表示装置に収集した後に、
上記車内案内情報表示装置が、
上記列車の運行状態に関する情報に基づいて、
次駅到着前に次の定型文章が表示されるまでに存在する空き時間だけ情報を提供するための表示情報を、複数の広告等を記憶した受信情報記憶手段から広告等を選択して生成し、
各駅間において、各駅間に対応する情報を乗客に表示する車内案内情報表示方法。」
なお、「駅間走向所要時間」は、「駅間走行所要時間」の誤記であることは明らかであるので、上記のとおり認定した。

3.対比
(1)本願発明と引用発明とを対比すると、以下の事項が明らかである。
(ア)引用発明の「列車番号、駅間走行所要時間(固定情報メモリ)等の列車の運行状態に関する情報を車内案内情報表示装置に収集した後に、」のステップにおいて、「駅間走行所要時間(固定情報メモリ)」は、本願発明の「運行ダイヤ情報」と、少なくとも「運行に関する既定の情報」との概念で共通し、また「列車番号」は本願発明の「輸送機関を特定する情報」に相当し、また「車内案内情報表示装置」は本願発明の「輸送機関の情報提供システム」に相当し、また「収集した」は本願発明の「入力した」に相当するので、本願発明の「運行ダイヤ情報を輸送機関の情報提供システムに入力し、上記輸送機関を特定する情報を上記情報提供システムに入力した後に、」とは、少なくとも「運行に関する既定の情報を輸送機関の情報提供システムに入力し、上記輸送機関を特定する情報を上記情報提供システムに入力した後に、」という概念で共通するということができる。
(イ)引用発明の「次駅到着前に次の定型文章が表示されるまでに存在する空き時間だけ情報を提供するための表示情報を、複数の広告等を記憶した受信情報記憶手段から広告等を選択して生成し、」のステップにおいて、「次駅到着前に次の定型文章が表示されるまでに存在する空き時間」は、運行時間に含まれる一部の時間であるから、本願発明の「運行時間に対応する時間」に相当するといえ、また「表示情報」は本願発明の「提供データ」に相当し、また「広告等」は本願発明の「広告データ」と少なくとも「広告を含むデータ」との概念で共通するといえ、また「受信情報記憶手段」は本願発明の「媒体」に相当するから、本願発明の「運行時間に対応する時間だけ乗客に情報を提供し続けるための提供データを、複数の広告データを記憶した媒体から広告データを選択して並べることによって生成して記録し、」と、少なくとも「運行時間に対応する時間だけ乗客に情報を提供し続けるための提供データを、複数の広告を含むデータを記憶した媒体から広告を含むデータを選択して生成し、」との概念で共通する。
(ウ)引用発明の「各駅間において、各駅間に対応する表示情報を乗客に表示」するステップにおいて、「各駅間」は本願発明の「輸送機関の各運行区間」に相当し、また「表示情報を乗客に表示する」際に記憶されている情報を再生し乗客に提供していることは明らかであるから、本願発明の「輸送機関の各運行区間において、各運行区間に対応する提供データを再生して乗客に提供」に相当するということができる。
(エ)引用発明の「車内案内情報表示方法」は、その機能・作用からみて、本願発明の「輸送機関の情報提供方法」に相当する。

そうすると、本願発明と引用発明との一致点、相違点は以下のとおりとなる。

(2)一致点
「運行に関する既定の情報を輸送機関の情報提供システムに入力し、上記輸送機関を特定する情報を上記情報提供システムに入力した後に、
上記情報提供システムが、
運行時間に対応する時間だけ乗客に情報を提供し続けるための提供データを、複数の広告を含むデータを記憶した媒体から広告を含むデータを選択して生成し、
上記輸送機関の各運行区間において、各運行区間に対応する提供データを再生して乗客に提供する輸送機関の情報提供方法。」

(3)相違点
(ア)本願発明は、「運行に関する既定の情報」として「運行ダイヤ情報」を有し、そして「運行ダイヤ情報及び輸送機関を特定する情報に基づいて輸送機関の各運行区間における運行時間を求め、」というステップを有するのに対し、引用発明のものは、列車の運行状態に関する情報の一つとして「駅間走行所要時間」を入力しているので、そのようなステップを有しない点。
(イ)「広告を含むデータ」に関し、本願発明は、「広告」であるのに対し、引用発明のものは、「広告等」である点。
(ウ)「提供データ」に関し、本願発明は、広告データを選択して「並べることによって」生成して「記録」するのに対し、引用発明は、単に広告データを選択して生成する点。
(エ)本願発明は、「輸送機関の乗客の総重量を測定し、この総重量に基づいて提供データを変更する」のに対し、引用発明はそのような構成を有しない点。

4.相違点についての判断
(1)相違点(ア)について
引用発明のものにおいて、各駅間の走行所要時間は、予め入力される情報であるが、運行ダイヤ情報すなわち列車番号、停車駅名、各駅の到着時間、出発時間等を入力し、この情報に基づき、列車番号及び各駅の列車の発着時刻から各駅間の運行時間を求めるようにして、上記相違点に係る本願発明の構成を想到することは、当業者であれば容易になし得たことということができる。

(2)相違点(イ)について
引用発明のものは、広告のほか、次駅案内、天気予報、ニュース、沿線イベント情報も表示するが、これを単に広告のみに限定することは、当業者であれば適宜なし得た程度の変更にすぎず、格別の構成の差異とはいえない。

(3)相違点(ウ)について
引用発明のものにおいて、広告を表示することが可能な運行時間の長さが長ければ、複数の広告を選択し並べるようにすることは、刊行物1の記載(上記2.(1)の【0005】-【0006】参照。)から表示装置の消灯時間の長期化や同一内容の繰り返し表示を回避するとの技術課題が読み取れることを考慮すれば、普通になし得た事項というべきであり、そして選択して生成した提供データを一時的に記録する程度のことは、適宜採用し得た技術事項にすぎないから、上記相違点(ウ)に係る本願発明の構成は、格別の技術的な困難性が伴うものとはいえない。

(4)相違点(エ)について
一般に広告とは、「広く世間に告げ知らせること。特に、顧客を誘致するために、商品や興行物などについて、多くの人に知られるようにすること。」(株式会社岩波書店 広辞苑第五版)であるから、広告主であれば、できるだけ多くの人に知られるように広告しようとすることは、普通に考えるはずである。すると、広告代理業者が広告主の希望した視聴者数(テレビの場合視聴率)を条件として、実際の視聴者数に基づき広告を決定していくことも、普通に行うことといえ、例えば原査定の拒絶の理由で周知例として示した特開平10-22955号公報等に示されているように技術的にも実現されており、特に、この文献においては、現在の視聴率情報により広告を選択的に変更決定する技術思想も示されている。
そうすると、引用発明において、視聴者数すなわち列車内の乗客数に応じて広告主の条件に合う広告に変更する程度のことは、当業者であれば容易に想到し得たものというべきである。
また、列車内の乗客数を列車の総重量から推定することは、例えば特開昭53-131609号公報、特開平3-104774号公報、特開平5-142020号公報等に示されているとおり、出願前周知の技術である。

(5)そして、本願発明の全体構成により奏される効果も、刊行物1に記載された発明及び周知の技術から当業者であれば予測し得る範囲のものである。
したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願発明については、特許法第29条第2項により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-09-05 
結審通知日 2006-09-12 
審決日 2006-09-25 
出願番号 特願2000-274309(P2000-274309)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B61L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村上 哲  
特許庁審判長 高木 進
特許庁審判官 渋谷 善弘
丸山 英行
発明の名称 輸送機関における情報提供システム及び情報提供方法  
代理人 前田 実  
代理人 山形 洋一  

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