• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A44B
管理番号 1147232
審判番号 不服2004-4096  
総通号数 85 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2004-01-15 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-03-01 
確定日 2006-11-10 
事件の表示 特願2002-165929「止め具、及び、紐止め装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 1月15日出願公開、特開2004- 8461〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成14年6月6日の出願であって、その請求項1に係る発明は、平成18年6月20日付け当審の拒絶理由通知に対して提出された平成18年8月21日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。(以下「本願発明」という。)
「止め具と、紐部材とを有する紐止め装置であって、
前記止め具は、外殻体と、少なくとも1つの保持部材とを含んでおり、
前記外殻体は、孔と、中空部とを有し、
前記孔は、前記外殻体の外部から前記中空部へと通じており、
前記中空部は、内壁面が球面状であり、
前記保持部材は、弾性体からなり、
前記弾性体は、有機質材料によって構成されているとともに、通孔部を有し、
前記通孔部は、前記弾性体を貫通し、相対向する両端でのみ開孔しており、
前記保持部材は、前記中空部に内蔵され、前記中空部の内壁面に対して非接触状態で動き得る外形を有しており、
前記紐部材は、一端側が、前記孔、及び、前記通孔部を貫通して、前記外殻体の外部に導かれ、他端が、前記外殻体の外壁面に備えられた紐止めに止められており、
前記保持部材は、前記紐部材との摩擦力により、前記紐部材上に保持され、前記中空部の内壁面に対して非接触状態で、動き得る、
ものであり、
紐止め装置。」

2.当審の拒絶理由
一方、当審において平成18年8月21日付けで通知した拒絶理由の概要は、本願発明は、本願出願前に頒布された、特開2001-169810号公報(引用例1)、特開2000-83713号公報(引用例2)、登録実用新案第3042071号公報(引用例3)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3.引用例の記載事項
特開2001-169810号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の記載がある。
a「【0001】【発明の属する技術分野】この発明は、装身用チェーンに取り付けられた留め具をスライドして所望の位置に配置することができる装身用チェーンの留め具スライド構造に関する。」 (段落【0001】)
b「【0006】【発明の実施の形態】以下に、この発明の装身用チェーンの留め具スライド構造の好適実施例について説明する。図1?図3に示す留め具10は、ケーシング1と、これに内蔵される筒状の弾性部材4とからなっている。ケーシング1は、図示例では略円筒形状をしているが、外面が多面体のものや、卵状やダルマ状など、任意の形状が可能であり、装身用チェーン2を挿通できる形態のものであればよい。」(段落【0006】)
c「【0007】装身用チェーン2は、ネックレスやブレスレットなどを構成する鎖であり、……この装身用チェーン2を、留め具10に挿通するため、ケーシング1には、貫通孔が設けられている。すなわち、ケーシング1には、装身用チェーン2を挿入する側の孔3aと、装身用チェーン2が貫通して出る側の孔3bを有している。」(段落【0007】)
d「【0009】次ぎに、弾性部材4は、図1(a)に示す1枚の金属製のバネ板を、図1(b)に示すように円筒状に湾曲させて、中央の合わせ目に直線状に延びるスリット状の切れ目5をもたせた筒状のバネからなっている。この弾性部材4は、内部に装身用チェーン2を貫挿すると該装身用チェーン2の外周を締付ける方向に付勢力が作用するように、装身用チェーン2の外周の径よりも短い径に設定されている。」(段落【0009】)
e「【0010】この弾性部材4の両端の開口がそれぞれ装身用チェーン2を挿入する側の孔4aと、装身用チェーン2が貫通して出る側の孔4bとなっている。……」(段落【0010】)
f「【0011】弾性部材4に装身用チェーン2を押通させると、装身用チェーン2の外周面によって弾性部材4が拡大方向に押し広げられるので、弾性部材4自体は縮小方向に付勢される。これによって弾性部材4に挿入された装身用チェーン2は、弾性部材4の付勢力による締付により、常時弾性部材4に挟圧される。」(段落【0011】)
g「【0012】ここで弾性部材4は、留め具10の中空内に収納されており、留め具10の前記出入用の孔が小径で弾性部材4が抜けない寸法に設定されている。従って、図2に示すように、装身用チェーン2に沿って留め具10をいずれかに引っ張ると、弾性部材4が連動して引っ張られ弾性部材の端部が留め具10の内壁と衝合し、動きが拘束される。」(段落【0012】)
h「【0013】更に留め具10を強く引っ張ると、弾性部材4の付勢力に抗して弾性部材4を拡開しながら装身用チェーン2が引き出される。これによって装身用チェーン2に沿って留め具10をスライドして装身用チェーン2に対する位置を変更することができる。留め具10を逆方向に引っ張れば、装身用チェーン2を挟圧する弾性部材4は留め具10内で逆方向に動いて反対側の孔の内壁と衝合し、前記と同様に弾性部材を拡開させながら装身用チェーンが逆方向に引き出されるので、留め具10を逆方向にスライドさせて位置を変更することができる。」(段落【0013】)
i「【0014】上記実施例では、1本の装身用チェーン2に取り付けられた留め具10をスライドして取付位置の変更を行う構成を例示したが、図3?5には一対に並んだ装身用チェーン2を束ねる留め具10がスライドして位置を変更する構成を示す。」(段落【0014】)
j「【0015】この留め具10は、ケーシング1に一対に並んだ装身用チェーン2を並行して嵌装し、ケーシング1内で各装身用チェーン2にそれぞれ弾性部材4が外嵌した構成からなっている。ここで図示例の場合、説明の便宜上、複数設けられた同一構成には符号に「’」を付けて区別する。即ち、ケーシング1には両端に一対の孔3a,3a’と3b,3b’が対向して形成されている。」(段落【0015】)
k「【0016】そして、それぞれの孔3a,3b間、および3a’、3b’間には弾性部材4,4’が配置されて、上記孔3a,3a’と3b,3b’を貫通する2本並列の装身用チェーン2,2’に嵌め込まれている。この装身用チェーン2,2’は、図4に示すように、並行に二重に巻いたチェーンであって、2本のチェーン2,2’を束ねるために留め具10が用いられている。あるいは、図5に示すように、1本の装身用チェーンの一対の端部側のチェーン2,2’を束ねるために留め具10が用いられている場合であってもよい。」 (段落【0016】)
l「【0017】この場合もそれぞれの装身用チェーン2,2’に対して留め具10を引っ張ることによって、装身用チェーン2,2’に対する留め具10の位置を変更することができる。……」(段落【0017】)

さらに、引用例1の「図2に示すように、装身用チェーン2に沿って留め具10をいずれかに引っ張ると、弾性部材4が連動して引っ張られ弾性部材の端部が留め具10の内壁と衝合し、動きが拘束される」(上記記載g参照。)、「留め具10を逆方向に引っ張れば、装身用チェーン2を挟圧する弾性部材4は留め具10内で逆方向に動いて反対側の孔の内壁と衝合し」(上記記載h参照。)との記載及び図2を参照すると、中空部に収納された弾性部材は、中空部の内壁面に対して非接触状態で動き得る外形を有しているものと認められる。そして、図3ないし図5に示された2つの弾性部材を有する態様においても、留め具10の操作は、図2に示されたのと同様に行われることは、明らかである。

以上の記載及び図1ないし図5によれば、引用例1には、次の発明が記載されていると認められる。
「留め具と、装身用チェーンとを有する装置であって、
留め具は、ケーシングと、2つの弾性部材を含んでおり、
ケーシングは、孔と、中空部とを有し、
孔は、ケーシングの外部から中空部へと通じており、
弾性部材は、金属製のバネ板によってスリット状の切れ目を有する筒状に構成されており、
弾性部材は、中空部に収納され、中空部の内壁面に対して非接触状態で動き得る外形を有しており、
装身用チェーンは、孔、及び、弾性部材を貫通し、
弾性部材は、その付勢力による締付により装身用チェーンを挟圧する、装置。」

特開2000-83713号公報(以下「引用例2」という。)には、以下の記載がある。
m「【0018】弾性体21は、通孔部22を有し、中空部13に内蔵されており、通孔部22は、孔15、16に通じている。弾性体21の通孔部22の内径D2は、外殻体10の孔15あるいは16の内径D1よりも小さい。弾性体21は、ゴム、シリコンゴム等によって構成することができる。実施例において、弾性体21は、通孔部22を有するOリング状部材でなる。このOリング状部材でなる弾性体21に、針金等を用いた引っ掛け手段を引っ掛け、外殻体10の内部に導入することができる。従って、弾性体21を、外殻体10の内部に簡単に導入することができる。」(段落【0018】)
n「図12は装飾品として具体化された本発明に係る紐止め装置を示す図である。紐部材31は、外殻体10の外部から孔15を通って、外殻体10の内部に導かれ、外殻体10の孔16を通って外部に導かれる。紐部材31は、チェーン、繊維、球体結合紐部材またはそれらの組み合わせによって構成できる。紐部材31は、一端側の先端に、尖端状の差し込み片34を有する。紐部材31の他端部は、紐止め12にかけ止められる。」(段落【0047】、図12,図13、図14)

登録実用新案第3042071号公報(以下「引用例3」という。)には、以下の記載がある。
o「【0026】弾性部材は、バネ体に限られず、ゴム様体ないしは合成樹脂製のスポンジ様体なども可能である。図4はゴム様体を用いた実施形態であり、(1)はゴム様弾性部材6の斜視図、(2)はこのゴム様弾性部材6を半球体1aと1b中に内蔵した状態の断面図である。」 (段落【0026】)

4.対比・判断
本願請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)と引用例1記載の発明とを対比すると、引用例1記載の発明の「留め具」及び「装置」は、それぞれ本願発明の「止め具」及び「紐止め装置」に相当する。
また、本願発明の「紐部材」は各種デザインのチェーン、各種デザインの紐またはそれらの組み合わせでなるものであるから(段落【0038】参照)、引用例1記載の「装身具チェーン」は、本願発明の「紐部材」に相当する。
引用例1記載の発明の「弾性部材」は、その付勢力による締付により弾性部材に挿入された装身用チェーンを挟圧する(上記記載f参照。)ものであり、装身用チェーンとの摩擦力により、装身用チェーン上に保持されていると認められるので、引用例記載の発明の「弾性部材」は本願発明の「保持部材」に相当し、引用例1記載の発明の「ケーシング」は本願発明の「外殻体」に相当する。
そうすると、本願発明と引用例1記載の発明とは、
「止め具と、紐部材とを有する紐止め装置であって、
前記止め具は、外殻体と、少なくとも1つの保持部材とを含んでおり、
前記外殻体は、孔と、中空部とを有し、
前記孔は、前記外殻体の外部から前記中空部へと通じており、
前記保持部材は、弾性体からなり、
前記保持部材は、前記中空部に内蔵され、前記中空部の内壁面に対して非接触状態で動き得る外形を有しており、
前記紐部材は、前記孔、及び、保持部材を貫通し、
前記保持部材は、前記紐部材との摩擦力により、前記紐部材上に保持され、前記中空部の内壁面に対して非接触状態で、動き得る
紐止め装置」
である点で一致し、以下の点で相違する。

・相違点1:本願発明では、中空部は内壁面が球面状であるのに対して、引用例1記載の発明では、中空部の内壁面が球面状であるとの記載がない点。
・相違点2:本願発明では、弾性体は有機質材料によって構成されているとともに、通孔部を有し、通孔部は弾性体を貫通し相対向する両端でのみ開孔しており、紐部材は通孔部を貫通するのに対して、引用例1記載の発明では、弾性体は金属製のバネ板によってスリット状の切れ目を有する筒状に構成され、紐部材は弾性体を貫通する点。

・相違点3:本願発明では、紐部材は、一端側が、孔、及び、通孔部を貫通して、外殻体の外部に導かれ、他端が、前記外殻体の外壁面に備えられた紐止めに止められているのに対して、引用例1記載の発明では、紐部材の一端側について特段の記載はなく、また、外殻体の外壁面には紐止めは備えられていない点。

各相違点の検討
(1)相違点1について
止め具の外郭体の中空部内壁面を球状とすることは普通に行われていることであり、そして、引用例1には、「ケーシング1は、図示例では略円筒形状をしているが、外面が多面体のものや、卵状やダルマ状など、任意の形状が可能であり、装身用チェーン2を挿通できる形態のものであればよい。」(上記記載b参照。)と記載されているから、本願発明の相違点1に係る事項とすることは、当業者が必要に応じ適宜なし得たことである。

(2)相違点2について
止め具の保持部材をなす弾性体として、有機質材料により構成し、弾性体を貫通し両端でのみ開孔する通孔部を設け、通孔部に紐部材を貫通させるようにした弾性体は、引用例2あるいは3に記載されているように本願の出願前に公知のものであるから、引用例1記載の発明において、金属製のバネ板によってスリット状の切れ目を有する筒状に構成された弾性体に代えて、上記周知の弾性体を採用して本願発明の相違点2に係る事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(3)相違点3について
引用例1には、紐部材の端部に関しては特段の記載はないが、各種装身具の紐部材において、一端側が外殻体の孔及び通孔部を貫通して外殻体の外部に導かれ、他端が前記外殻体の外壁面に備えられた紐止めに止められているという形態は、引用例2に記載されているように公知の形態であって、装身具の紐部材の端部を本願発明のような形態とすることは当業者が容易になし得ることにすぎない。
また、審判請求人は、紐部材の捻じれを防止すると言う課題達成手段として、「紐部材は、他端が、外殻体の外壁面に備えられた紐止めに止められ」ている構成要件要素と、「保持部材は、中空部の内壁面に対して非接触状態で動き得る」という構成要件要素が一体不可分に結び付いていなければならない旨、主張しているが、紐部材の捻じれという現象は、「紐部材は、他端が、外殻体の外壁面に備えられた紐止めに止められ」ている場合のみに特異的に生じるものではなく、ネックレス等の装身具を使用していれば、捻じれの程度の差はあっても当然生じ得る現象であり、紐部材の捻じれを防止するという課題達成手段として、紐部材の他端が外殻体の外壁面に備えられた紐止めに止められていなくてはならないというものではないから、審判請求人の主張は採用できない。

しかも、本願発明が奏する効果も、引用例1から3記載の発明から当業者が予測できる範囲のものであって、格別顕著なものとはいえない。
したがって、本願発明は、引用例1から3記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、残余の請求項について検討を行うまでもなく、本願は当審で通知した上記拒絶理由によって拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-09-11 
結審通知日 2006-09-13 
審決日 2006-09-26 
出願番号 特願2002-165929(P2002-165929)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A44B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 竹下 和志  
特許庁審判長 寺本 光生
特許庁審判官 宮崎 敏長
中西 一友
発明の名称 止め具、及び、紐止め装置  
代理人 阿部 美次郎  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ