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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B32B
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B32B
管理番号 1147325
審判番号 不服2002-20559  
総通号数 85 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-03-13 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-09-12 
確定日 2006-11-16 
事件の表示 平成11年特許願第244537号「絵付インサートフィルムと絵付インサート成形品の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 3月13日出願公開、特開2001- 62957〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
この出願は平成11年8月31日の出願であって、平成14年5月22日付けで拒絶理由が通知され、平成14年6月21日付けで意見書が提出されたが、平成14年8月6日付けで拒絶査定された。これに対し、平成14年9月12日に審判請求がなされ、平成14年9月19日に明細書についての手続補正がなされたものである。

2.平成14年9月19日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成14年9月19日付け手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正事項
本件補正は、この出願の願書に最初に添付された明細書の特許請求の範囲請求項1の、
「透明樹脂フィルムと補強シートとの間に少なくとも絵柄層が形成された厚み250μm以上の絵付インサートフィルムであって、前記補強シートの厚みを除く積層物の総厚が200μm以下であり、かつ前記補強シートの色がCIE1976L*a*b*表色系(JIS Z 8729・1980)において下記の範囲内の暗色であることを特徴とする絵付インサートフィルム
9≦L*≦75
-40≦a*≦40
-60≦b*≦30」を
「不要な部分をトリミングした後、射出成形用金型内に挿入し、黒色系の成形樹脂を射出して、絵付インサート成形品を得るための厚み250μm以上の絵付インサートフィルムであって、透明樹脂フィルムと補強シートとの間に少なくとも絵柄層が形成され、前記補強シートの厚みを除く積層物の総厚が200μm以下であり、かつ前記補強シートの色がCIE1976L*a*b*表色系(JIS Z 8729・1980)において下記の範囲内の暗色であることを特徴とする絵付インサートフィルム。
9≦L*≦75
-40≦a*≦40
-60≦b*≦30」とする補正事項(以下、「補正事項1」という。)を含むものである。

(2)当審の判断
補正事項1に係る「不要な部分をトリミングした後、射出成形用金型内に挿入し、黒色系の成形樹脂を射出して、絵付インサート成形品を得るための」は、「絵付インサートフィルム」の使用方法について限定をするものであるが、該補正は、「絵付インサートフィルム」又は補正前の請求項1に記載された発明の他の「発明を特定するための事項」のいずれかを概念的により下位の「発明を特定するための事項」とする補正とはいえない。
よって、「不要な部分をトリミングした後、射出成形用金型内に挿入し、黒色系の成形樹脂を射出して、絵付インサート成形品を得るための」を追加する補正はいわゆる限定的減縮には該当しない。また、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれにも該当しないことは明らかである。

(3)むすび
以上のとおり、補正事項1を含む本件補正は、特許法第17条の2第4項各号のいずれを目的とするものにも該当しないから、特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成14年9月19日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、願書に最初に添付された明細書の特許請求の範囲請求項1に記載された事項により特定される、下記のとおりのものである。

「透明樹脂フィルムと補強シートとの間に少なくとも絵柄層が形成された厚み250μm以上の絵付インサートフィルムであって、前記補強シートの厚みを除く積層物の総厚が200μm以下であり、かつ前記補強シートの色がCIE1976L*a*b*表色系(JIS Z 8729・1980)において下記の範囲内の暗色であることを特徴とする絵付インサートフィルム
9≦L*≦75
-40≦a*≦40
-60≦b*≦30」

(2)原審における拒絶理由
原審における平成14年5月22日付けの拒絶理由通知は、以下の理由を含むものである。
「1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
・・・
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
<理由1、2>
・請求項1-3、6について:引用文献1
引用文献1には、透明シート/絵柄層/着色(補強)シートからなるインサートフイルム(図2)、透明シートは、200μm以下であること(0016)、インサートフイルム全体の厚みは、350μm以下であること、及び、黒色に着色すること(0032)が記載されており、この色は、請求項1の範囲を満足するものであるといえる。
・・・
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開平9-300397号公報 」
そして、この拒絶理由に対し、審判請求人は平成14年6月21日付け意見書において反論を行っている。

(3)当審の判断
(3-1)刊行物の記載事項
原審における拒絶理由通知で引用された、この出願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平9-300397号公報(以下、「刊行物1」という。)には下記の事項が記載されている。
ア:「【請求項2】 透明なアクリルフィルムと着色シートの間に少なくとも木目導管柄層、下地層からなる印刷層が形成され、印刷層の下地層の色と着色シートの色とが同系色であることを特徴とするアクリルインサートフィルム。」
イ:「【0010】ただし、a*、b*はJIS Z8729におけるL*a*b*表色系における表示単位である。」
ウ:「【0032】・・・下地層4の後に、さらに下地層4に近い茶色、あるいはそれに黒、黄、赤系統の色が適度に混じった着色シート5を積層し、・・・具体的には、汎用のプラスチックシート中に、木目を構成する黄・赤・茶・黒などの顔料を含有させたものを用いるとよい。」
エ:「【0038】アクリルインサートフィルム1を金型外で予備成形および打ち抜き加工し、打ち抜いたアクリルインサートフィルム1一枚一枚を金型内に設置する場合は、厚みが薄いと打ち抜いた後のハンドリング性が悪く生産性が低下するので、アクリルインサートフィルム1の厚みは比較的厚い方がよい。具体的には、アクリルインサートフィルム1の全体の厚みは350μm以上、特に500?600μmが好ましい。500μmより薄いと、アクリルインサートフィルム1にこしがなく、金型内に挿入する際に変形してうまく保持されないという不具合があり、600μmより厚いと大きな熱源を使用しても予備成形に時間がかかるという不具合がある。着色シート5の厚みは、150μm以上が好ましい。150μmより薄いと、アクリルフィルム2が200μm以上になり、安定して印刷できないという不具合がある。」
オ:「【0044】【実施例】実施例1
厚さ125μmのメタクリル酸メチルフィルムをアクリルフィルムとし、下記組成のインキを用い、木目導管柄層、パターン化した下地層、パターン化した着色層、接着層をグラビア印刷法で順次形成した。」
カ:「【0060】実施例3
実施例1と同様のアクリルフィルムに、下記組成のインキを用い、木目導管柄層、全面ベタの下地層をグラビア印刷法で順次形成した。
【0061】
木目導管柄層
バインダー 熱硬化性アクリル樹脂 60重量%
顔料 カーボンブラック 40重量%
下地層
バインダー 熱硬化性アクリル樹脂 65重量%
顔料 ファストイエロー(黄) 5重量%
顔料 ベンガラ(赤茶) 20重量%
顔料 カーボンブラック(黒) 10重量%
【0062】 また、厚さ400μmのカーボンブラック顔料入りアクリロニトリルブタジエンポリスチレンシートを着色シートとした。
【0063】 ここで、下地層はa*=28、b*=25であり、着色シートはa*=-4、b*=-5であった。・・・
【0066】 次いで、両者を熱プレス機に積み重ね、5kg/m2の圧力と120℃の熱で5分間放置して接着し、アクリルインサートフィルムを得た。
・・・
【0068】 このようにして得た木目柄成形品は、全体に黒っぽい深絞り度の大きい成形品であった。」

(3-2)対比・判断
上記摘示ア、イ、オ、カから、刊行物1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「厚さ125μmのメタクリル酸メチルフィルムである透明なアクリルフィルムと、厚さ400μmのカーボンブラック顔料入りでJIS Z8729におけるL*a*b*表色系におけるa*=-4、b*=-5であるアクリロニトリルブタジエンポリスチレンシートである着色シートとの間に、木目導管柄層、下地層がグラビア印刷法で形成されたアクリルインサートフィルム」

本願発明と引用発明を対比する。
引用発明の「木目導管柄層」と「下地層」とで本願発明の「絵柄層」に相当する層を形成するものといえ、絵柄層に相当する層が形成されているということは、引用発明の「アクリルインサートフィルム」は本願発明の「絵付インサートフィルム」に相当するといえる。
また、引用発明の「着色シート」は上記摘示エの記載からみて、本願明細書において「【0025】ただし、不要部分をトリミングした絵付インサートフィルム1の一枚一枚を射出成形用金型内に挿入する際、絵付インサートフィルム1のハンドリング性が悪くならないように、つまり生産性が低下しないようにするには、絵付インサートフィルム1の総厚が250μm以上必要である。250μm未満であると、絵付インサートフィルム1にこしがなく、射出成形用金型内に挿入する際に変形してうまく保持されないという不具合が生ずる。・・・そこで、本発明においては、厚みを得るための補強シート6を設け、さらにこの補強シート6の色を特定の範囲とする。これが第二の特徴である。」とされる本願発明の補強シートと、成形用金型内に挿入する際のハンドリング性を考慮して、厚みを得るためのシートである点で共通するから、引用発明の「着色シート」は本願発明の「補強シート」に相当する。
さらに、引用発明の着色シートは、JIS Z8729におけるL*a*b*表色系におけるa*=-4、b*=-5であるから、本願発明の「-40≦a*≦40、-60≦b*≦30」を満たすものである。
そして、引用発明のアクリルフィルムの厚さが125μm、着色シートの厚さが400μmであるから、引用発明のアクリルインサートフィルムの厚さは少なくとも525μm、すなわち、250μm以上である。
してみれば、両者は、
「透明樹脂フィルムと補強シートとの間に少なくとも絵柄層が形成された厚み250μm以上の絵付インサートフィルムであって、前記補強シートの色がCIE1976L*a*b*表色系(JIS Z 8729・1980)において下記の範囲内の色であることを特徴とする絵付インサートフィルム
-40≦a*≦40
-60≦b*≦30」
である点で一致し、以下の点で一応相違する。
○相違点1
本願発明では「補強シートの厚みを除く積層物の総厚が200μm以下」であるのに対し、引用発明では、着色シートの厚みを除く積層物の総厚が不明である点。

○相違点2
本願発明の補強シートが「CIE1976L*a*b*表色系(JIS Z 8729・1980)において 9≦L*≦75」であって、また、その色が「暗色」とされているのに対し、引用発明の着色シートは、L*の値が規定されておらず、また、「暗色」か否か不明である点。

上記相違点について、以下検討する。
○相違点1について
引用発明では、着色シート以外に存在する層は、厚さ125μmのメタクリル酸メチルフィルムである透明なアクリルフィルムと、グラビア印刷法で形成された木目導管柄層及び下地層である。ここで、木目導管柄層及び下地層の厚みは不明であるが、通常グラビア印刷における各層の厚みは数μm程度であるから、引用発明における、厚さ125μmのメタクリル酸メチルフィルムである透明なアクリルフィルムと、グラビア印刷法で形成された木目導管柄層及び下地層とを合わせた厚み、すなわち、着色シートを除く積層物の総厚は200μm以下であるといえる。
よって、相違点1は実質的な相違点ではない。
○相違点2について
引用発明の着色シートは摘示ア、ウにあるように、下地層に近い茶色、あるいはそれに黒、黄、赤系統の色が適度に混じった色にしようとするものであって、そのために摘示カのとおりカーボンブラック顔料を添加しているものと認められ、しかも、全体に黒っぽい成形品が得られた(摘示カ参照)とされているのであるから、着色シートも黒系統のものであるといえ、そのL*の値は75以下であるといえる。その一方、L*の値が9未満であれば、「黒っぽい」ではなく「黒」と表現すべきものであることと、一般にカーボンブラック顔料を含む合成樹脂シートのL*の値は少なくとも9以上とはいえることから、結局、引用発明の着色シートのL*は9≦L*≦75を満たすものといえる。
そして、上記のとおり、引用発明の着色シートは9≦L*≦75を満たす黒系統のものであるといえるから、「暗色」といえる。

よって、相違点2も実質的な相違点ではない。
以上のとおり、相違点1,2は実質的な相違点ではないから、本願発明と引用発明とに実質的な差異はない。

(3-3)まとめ
したがって、本願発明は刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
よって、原査定の判断は、その結論において妥当であるから、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-09-13 
結審通知日 2006-09-20 
審決日 2006-10-03 
出願番号 特願平11-244537
審決分類 P 1 8・ 572- Z (B32B)
P 1 8・ 113- Z (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平井 裕彰  
特許庁審判長 松井 佳章
特許庁審判官 川端 康之
澤村 茂実
発明の名称 絵付インサートフィルムと絵付インサート成形品の製造方法  

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