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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01N
管理番号 1147331
審判番号 不服2003-8261  
総通号数 85 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-06-13 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-05-09 
確定日 2006-11-16 
事件の表示 平成 5年特許願第320812号「防菌防黴用乳剤組成物及び防菌防黴方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 6月13日出願公開、特開平 7-149609〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成5年11月29日の出願であって、平成15年3月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月9日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同年6月6日及び同年6月9日に手続補正がなされたものである。

2.本願発明について

本願の請求項1?4に係る発明(以下、「本願発明1?4」という。)は、平成12年11月28日付け手続補正書、平成14年11月25日付け手続補正書、平成15年6月6日付け手続補正書及び平成15年6月9日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?4に記載されたとおりのものであり、その請求項1に係る発明は以下のとおりである。

「【請求項1】 2-メトキシカルボニルアミノベンズイミダゾールのトルエンスルホン酸塩又はドデシルベンゼンスルホン酸塩と、2,4,5,6-テトラクロロイソフタロニトリル、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン及び4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オンから選ばれる少なくとも1種と、極性溶媒とを含有することを特徴とする防菌防黴用乳剤組成物。」

(1)引用例及びその記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願前に頒布された刊行物である特開平2-59501公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の記載がある。

(摘記1-1)
「(1)第1殺菌剤を強力溶媒系に懸濁させ、選択した強有機酸をサスペンジョンに添加して溶液を得、
そして界面活性剤系および第2殺菌剤をこの溶液に添加することを特徴とする、殺菌組成物の製造方法。」(請求項1)
(摘記1-2)
「[産業上の利用分野]
本発明は殺菌剤に関し、特に木材の処理および/又は比較的長期の木材保護に対し予防殺菌組成物および/又は予防殺菌組成物の製造方法を供することを意図する。」(第3頁右上欄13行?16行)
(摘記1-3)、
「現在の殺菌剤処方は次の1つ又はそれ以上を含む多くの不利を有する:
・・・
・菌の防除を最高化するために別の添加剤を必要とする。
・・・
[発明の構成]
木材の処理用殺菌組成物および/又は木材処理用の殺菌組成物の製造方法を供することが本発明の目的である。これは上記不利を克服する方向への少なくともいくつかの道を進み、又は少なくとも有用な選択を公衆に供するであろう。」(第3頁左下欄8行?右下欄11行)
(摘記1-4)
「本発明は:
第1殺菌剤および第2殺菌剤、同時に溶媒/界面活性剤系を含み、それによって第1および第2殺菌剤は真の溶液にあり、一方この組成物は比較的濃厚であり、しかし組成物が稀釈される場合、第1殺菌剤は水性サスペンジョンとして主として存在し、第2殺菌剤はエマルジョン又はサスペンジョン形で主として存在する、ことを含む殺菌組成物にある。」(第3頁右下欄17行?第4頁左上欄6行)
(摘記1-5)
「本発明組成物は好ましくは第1殺菌剤として置換ベンズイミダゾール化合物、もっとも好ましくはカルベンダジム(メチルベンズイミダゾール-2-イルカルバメート)に基づく」(第4頁左上欄9行?12行)
(摘記1-6)
「界面活性系の添加後、第2殺菌剤を添加する。
これは低毒性および低コストであることが好ましい。
好ましい殺菌剤は殺菌活性金属、好ましくは銅又は亜鉛を基準とし、適当な有機酸の金属石鹸として添加する。有機酸は直鎖又は分枝鎖脂肪族カルボン酸、置換芳香族カルボン酸又は殺菌効果を有する好ましいナフテン酸を含むことができる。
好ましい殺菌剤、ナフテン酸亜鉛は少量のテレピン油又は同様の溶媒に予め溶解して取扱いを容易にするために粘度を減少させることができる。
さらに適当な第2殺菌剤の例はアルキルジメチルアミン、・・・を含み、上記すべての場合、アルキル基は好ましくは10?16個の炭素原子を有する脂肪族であり、又置換チアゾール、例えばチオシアナトメヂルヂオベンゾチアゾールを含むこともできる。」(第5頁左下欄8行?右下欄6行)
(摘記1-7)
「本発明による組成物の好ましい製造法を記載する。
N-メチロピロリドンを混合タンクに添加し、ゆっくり攪拌する。カルベンダジムをゆっくり添加し、完全にサスペンジョンができるまで混合する。ドデシルベンゼンスルホン酸をゆっくり添加し、溶液が透明になるまで混合を継続する。
好ましいカルベンダジムおよび好ましいドデシルベンゼンスルホン酸間の反応は環境温度で行なう。反応は発熱性であるが、一般にそれ程烈しくない。反応温度は非常に低温で経済的に遅いが、実際的又は経済的利点は25℃付近の温度を維持すること以外系にエネルギーを添加することにより得られない。必要な場合、冷却は適度の温度を維持するために要求できる。
反応および必要の場合の環境温度への冷却が完了すると、記載の界面活性剤を添加し、次いでナフテン酸亜鉛第2殺菌剤を添加する。攪拌は溶液が均一になるまで継続する。
次に本発明による殺菌組成物に含まれる成分割合の例を供する。この組成物は例として供するのみで、いずれにしても限定するものではない:
カルベンダジム 7.5重量部
ドデシルベンゼンスルホン酸 26.0重量部
N-メチルピロリドン 37.0重量部
ノニルフェノールエトキシレート(9E.O.) 13.0重量部
アルキルジメチルアミン 7.5重量部
ナフテン酸亜鉛(8%亜鉛) 9.0重量部
計 100.00 部
少なくとも本発明の好ましい形態によれば、木材の処理用殺菌組成物および/又はこれらの組成物の製造法を供することがわかる。これは高濃度で真の溶液を供する溶媒系に比較的低毒性の殺菌剤を使用する処理を供し、これは容易に輸送および取扱いができる。それ以上の利点はこの濃度組成物の稀釈により形成する処理溶液は、活性成分が異る2相、すなわち1相は水性相で1相は有機相、に担持されることでサスペンジョンおよびエマルジョンの双方の利点を有することである。これは木材にいくらか浸透を供すると共に木材表面に残留障壁を供する利点を有する。
使用殺菌剤は通常単純溶媒に溶け難く、組み合せた場合不安定な生成物を形成する。しかし本発明により供された組成物は低毒性、低刺激性、良好な熱安定性の利点を有し、処理段階でさらに添加剤を必要とせずに既知殺菌組成物より広い保護スペクトルを供する。」
(第5頁右下欄18行?第6頁左下欄5行)

次に、原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願前に頒布された刊行物である特開平4-69303公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の記載がある。

(摘記2-1)
「【従来の技術】
木材のかび発生を防止するための薬剤として、従来から2,4,5,6-(テトラクロロイソフタロニトリル)がその代表的なものとして提供されている。そしてこの薬剤を所定の濃度で水に分散乃至溶解させることによって木材防かび剤を調製し、木材を木材防かび剤に浸漬したり、あるいは木材に木材防かび剤を塗布したり散布したりして、防かび処理に供されている。
【発明が解決しようとする課題】
しかし、この薬剤は、低濃度では防かび効果が十分ではなく、防かび効果を十分に得るには高濃度で使用しなければならず、コスト等の面で満足することができないものであった。
本発明は上記の点に鑑みて為されたものであり、低濃度の配合で高い防かび効果を得ることができる木材防かび剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
本発明に係る木材防かび剤は、2,4,5,6-(テトラクロロイソフタロニトリル)に、メチレンビスチオシアネートと、3-ヨード-2-プロピニル-n-ブチルカーバネートと、2-メトキシカルボニルアミノベンズイミダゾールの三種のうち少なくとも一種を配合して成ることを特徴とするものである。」(第1頁左下欄15行?第2頁左上欄1行)
(摘記2-2)
「TCIPN単独では、またMBTCやIPBCやMERGAL単独では、高濃度で使用しないと十分な防かび効果を得ることができないが、TCIPNにMBTCやIPBCやMERGALを組み合わせて用いると、これらの相乗作用で、全体として低い濃度で高い防かび効果を得ることができるのである。」(第2頁左上欄14行?右上欄1行)
(摘記2-3)
「実施例2(当審注:実施例3の誤記と認める。)
TCIPNを0.14重量%の濃度で、MERGALを第6表に示す濃度でそれぞれ水に分散させることによって、木材防かび剤を調製した。この防かび剤について同様に防かび性能の試験をおこなった。結果を第6表に示す。
比較例4
MERGALのみを第7表に示す濃度で水に分散させることによって、木材防かび剤を調製した。
この防かび剤について同様にして防かび性能の試験をおこなった。結果を第7表に示す。




実施例3における第6表のNo1にみられるように、TCIPN0.14%とMERGAL0.1%の濃度の木材防かび剤はD=12.7の数値を得ることができたのに対して、TCIPNやMERGALを単独で使用する場合、同様なD値を得るには、比較例1における第2表のようにTCIPNの濃度を0.35%程度に調整する必要があり、また比較例4における第7表のようにMERGALの濃度を0.4%以上に調整する必要があり、実施例3のものは低濃度のTCIPNで高い防かび効果があることが確認される。」(第4頁左上欄12行?右下欄13行)
なお、(摘記2-3)について、この実施例を「実施例2」としているが、実施例2は、同引用例の第3頁右上欄12行以下に記載があること、(摘記2-3)において、「実施例3における第6表のNo1にみられるように」と記載されており、この実施例を実施例3としていることからみて、「実施例2」との記載は「実施例3」の誤記であると認められる。

(2)対比・判断

引用例1に記載の発明は、「殺菌組成物およびその製造法」に関するもので(摘記1-1)、その成分割合の例として、
「カルベンダジム 7.5重量部
ドデシルベンゼンスルホン酸 26.0重量部
N-メチルピロリドン 37.0重量部
ノニルフェノールエトキシレート(9E.O.) 13.0重量部
アルキルジメチルアミン 7.5重量部
ナフテン酸亜鉛(8%亜鉛) 9.0重量部
計 100.00 部」
が記載されている(摘記1-7)(以下、上記成分配合の例を「引用発明」という)。
引用例発明の殺菌組成物に含まれる成分割合の例と本願発明1とを対比する。
引用発明において、カルベンダジムは、メチルベンズイミダゾール-2-イルカルバメートのことであるから(摘記1-5)、「カルベンダジム」は、本願発明1の「2-メトキシカルボニルアミノベンズイミダゾール」と同一の化合物であり、引用発明の「N-メチルピロリドン」は、本願発明1の「極性溶媒」に相当する。また、本願明細書には、2-メトキシカルボニルアミノベンズイミダゾールを第1成分として乳剤組成物に添加することが記載されていることから(本願明細書、段落【0006】)、2種の防菌防黴化合物を併用する本願発明において、2,4,5,6-テトラクロロイソフタロニトリル、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン及び4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オンは、第2成分として添加されているものと認められる(同段落)。一方、引用例1には、「アルキルジメチルアミン」及び「ナフテン酸亜鉛」を第2殺菌剤として添加することが記載されているから(摘記1-6)、引用発明においても、第2成分として別種の殺菌性化合物を組成物に添加するものである。そうすると、本願発明1と引用発明とは、「2-メトキシカルボニルアミノベンズイミダゾールとドデシルベンゼンスルホン酸と、別種の殺菌性化合物と極性溶媒とを含有する組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。

(A)本願発明1は、2-メトキシカルボニルアミノベンズイミダゾールがトルエンスルホン酸又はドデシルベンゼンスルホン酸と塩を形成しているものであるのに対して、引用発明は、組成物に2-メトキシカルボニルアミノベンズイミダゾールとドデシルベンゼンスルホン酸が含まれているが、塩を形成しているか否かの記載はない点。
(B)本願発明1では、防菌防黴用乳剤組成物の第2成分として2,4,5,6-テトラクロロイソフタロニトリル、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン及び4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オンから選ばれる少なくとも1種を含有しているのに対して、引用発明では、第2成分として殺菌性化合物を添加しているものの、殺菌性化合物の具体的化合物として上記の3種は記載されていない点。
(C)本願発明1は、「組成物」が「防菌防黴用組成物」であるのに対して、引用発明は、「殺菌組成物」である点。
(D)本願発明1は、「乳剤組成物」であるのに対して、引用発明は、「組成物」である点。
そこで、これらの相違点について検討する。

相違点(A)について
引用例1には、この組成物の製造法として、「第1殺菌剤を強力溶媒系に懸濁させ、選択した強有機酸をサスペンジョンに添加して溶液を得、そして界面活性剤系および第2殺菌剤をこの溶液に添加する殺菌組成物の製造方法」と記載され(摘記1-1)、具体的には、「N-メチルピロリドンを混合タンクに添加し、ゆっくり攪拌する。カルベンダジムをゆっくり添加し、完全にサスペンジョンができるまで混合する。ドデシルベンゼンスルホン酸をゆっくり添加し、溶液が透明になるまで混合を継続する。好ましいカルベンダジムおよび好ましいドデシルベンゼンスルホン酸間の反応は環境温度で行なう。反応は発熱性であるが、一般にそれ程烈しくない。反応温度は非常に低温で経済的に遅いが、実際的又は経済的利点は25℃付近の温度を維持すること以外系にエネルギーを添加することにより得られない。必要な場合、冷却は適度の温度を維持するために要求できる。」(摘記1-7)と記載されている。つまり、N-メチルピロリドン中でサスペンジョンであったカルベンダジムがドデシルベンゼンスルホン酸の添加により透明溶液になったということなので、上記両化合物は、極性溶媒N-メチルピロリドンに溶解し易い物質を形成したと考えられるところ、2-メトキシカルボニルアミノベンズイミダゾール(カルベンダジム)は、ベンズイミダゾール基を含む化合物であって塩基であることから、酸であるドデシルベンゼンスルホン酸と塩を形成しているものと推認される。してみれば、この点に実質的な相違はない。
相違点(B)(C)について
本願が解決しようとする課題は、本願明細書段落【0003】によれば、BCMにTPNを配合し製剤化すると、BCMが水や有機溶媒に不溶性のため不均一になりやすく、分離してしまう欠点があり、希釈すると防菌防黴効果が持続しないので、安定した防菌防黴用乳剤組成物にして、優れた防菌防黴効果を発揮するものを得ることである。
さて、上記したBCMの欠点は、刊行物1においても、認識されており、その点について刊行物1には、「BCMが通常単独溶媒に溶け難く、組み合わせた場合、不安定な生成物を形成する」と記載されている(摘記1-6)。
そして、引用発明では、「相違点(A)について」の項で判断したようにBCMをN-メチルピロリドン中でドデシルベンゼンスルホン酸塩にすることによって、BCMのドデシルベンゼンスルホン酸塩と極性溶媒との組成物にし、不安定な生成物を形成しないようにすることで上記欠点を解決している(摘記1-6)。
ところで、本願発明1は防菌防黴用乳剤組成物であって、BCMとテトラクロロイソフタロニトリルとを併用するものであるが、本願明細書の(従来の技術)の項には、BCMとTPNは殺菌組成物として従来使用されていた旨記載されている。
一方、引用例2には、BCM、あるいはTPNは単独では十分な防かび効果を得ることはできないが、BCMとTPNとを併用すると、相乗作用で全体として高い木材防かび効果を得ることができる旨記載されている(摘記2-2)。そうするとBCMとTPNを併用したものは公知であり、防菌と防かびとの機能を有する防菌防黴剤と呼称できるものであることも当業者に自明であるといえる。
してみると、防菌防黴用の組成物を得るためにBCMとTPNとの併用組成物とし、BCMの溶解性に起因する欠点を解決することで、安定した防菌防黴用組成物を得ることは、引用例1及び引用例2の記載事項から当業者が容易に着想し得ることである。
相違点(D)について
引用発明の殺菌組成物は、主剤である2-メトキシカルボニルアミノベンズイミダゾールのドデシルベンゼンスルホン酸塩を有機溶剤であるN-メチルピロリドンに溶解し、乳化剤であるノニルフェノールエトキシレート(9E.O.)を加えた液状のものであるから、乳剤組成物である。してみれば、引用発明の殺菌組成物は、防菌防黴用乳剤組成物であって、この点について実質的な相違はない。

また、作用効果についてみると、本願発明1の防菌防黴用乳剤組成物が安定な乳剤である点、防菌防黴効果において相乗効果が認められる点、極めて高い防菌・防黴効果が達成できる点、及び、従来実用面で適応できなかった各種用途へ拡大利用が可能となる点は、いずれも引用例1の「本発明は:第1殺菌剤および第2殺菌剤、同時に溶媒/界面活性剤系を含み、それによって第1および第2殺菌剤は真の溶液にあり、一方この組成物は比較的濃厚であり、しかし組成物が稀釈される場合、第1殺菌剤は水性サスペンジョンとして主として存在し、第2殺菌剤はエマルジョン又はサスペンジョン形で主として存在する、ことを含む殺菌組成物にある。」(摘記1-4)との記載、「使用殺菌剤は通常単純溶媒に溶け難く、組み合せた場合不安定な生成物を形成する。しかし本発明により供された組成物は低毒性、低刺激性、良好な熱安定性の利点を有し、」(摘記1-7)との記載又は引用例2の「TCIPNに・・・MERGALを組み合わせて用いると、これらの相乗作用で、全体として低い濃度で高い防かび効果を得ることができるのである。」(摘記2-2)との記載からみて、引用例1及び引用例2に記載された発明から予測されるものであって、本願発明1の効果を格別のものとすることはできない。

なお、請求人は、平成15年7月31日付けの審判請求書の手続補正書において、(A)引用例1記載の発明は、低毒性、低刺激性、良好な熱安定性を有し、容易に輸送および取扱いができる殺菌組成物を提供することを目的としているのに対し、本件発明は、BCMと他の殺菌剤を混用すると、BCMが水や有機溶媒に不溶性のため、不均一になりやすく、分離してしまい水で希釈して使用すると、分散性に劣り安定した防菌防黴効果が得られないことを解決し、水系等に均一かつ安定に分散させ、かつ、極めて高い防菌防黴効果を持続することを目的とするものであって、目的(解決課題)が相違する、(B)引用例1に第2殺菌剤として示されたドデシルジメシルアミンを用いた場合、本件発明の目的を達成し、効果を奏することができない、(C)強有機酸としてサリチル酸を用いた場合には、本件発明の目的を達成し、効果を奏することができない、(D)引用例1には、得られた殺菌組成物がどの程度の殺菌効果、安定性等を有するものであるのかも記載がないので、技術的に本件発明の目的とする観点での実施可能性の低いものである、との主張をしている。
しかしながら、(A)及び(D)については、引用例1に成分配合例として、2-メトキシカルボニルアミノベンズイミダゾールとドデシルベンゼンスルホン酸とを含有する組成物が記載されており、「使用殺菌剤は通常単純溶媒に溶け難く、組み合せた場合不安定な生成物を形成する。しかし本発明により供された組成物は低毒性、低刺激性、良好な熱安定性の利点を有し、処理段階でさらに添加剤を必要とせずに既知殺菌組成物より広い保護スペクトルを供する」との記載があるのであるから(摘記1-7)、引用発明の目的が本願発明1の目的と相違するとすることはできず、引用例1に、殺菌効果、安定性の程度(定量的)についての記載がないからといって、本件発明の目的を解決する要件を引用例1から着想することを阻害するものではないから、請求人の(A)及び(D)の主張は採用できない。
引用例2には、2,4,5,6-テトラクロロイソフタロニトリルに2-メトキシカルボニルアミノベンズイミダゾールを組み合わせて用いると、これらの相乗作用で、全体として低い濃度で高い防かび効果を得ることができる旨の記載があり(摘記2-2)、第2成分として2,4,5,6-テトラクロロイソフタロニトリルを選択した場合、ドデシルジメシルアミン等の他の第2成分を選択した場合より、高い防かび効果を奏することは予測されることであるから、請求人の(B)の主張は採用できない。
引用例1には、「2-メトキシカルボニルアミノベンズイミダゾールとドデシルベンゼンスルホン酸と、第2成分と極性溶媒とを含有する組成物」(引用発明)が記載されており、サルチル酸を使用したものではないから、この点は相違点ではなく、(C)についても請求人の主張は採用できない。
また、請求人は、同手続補正書において、比較実験として製造例A?C及び比較例A?Fのデータ(7日、14日、21日及び28日)を追加しているが、本願出願の当初明細書には、5日目及び10日目の防黴効果については記載があるものの10日目以降のデータは示されていない。したがって、比較実験として記載された14日?28日のデータについては、当初明細書の記載に基づかないものであって、当該データを参酌することはできない。したがって、請求人が引用例2記載の発明に相当する例とした比較例Aは、7日目において、黴の生育が認められないから、この点においても本願発明1が格別の効果を奏するとすることはできない。

(3)結論

よって、本願発明1は、引用例1及び引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

3.むすび

以上のとおり、本願発明1は、本願の出願前に頒布された刊行物である引用例1及び引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

したがって、本願発明2?4を検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-09-08 
結審通知日 2006-09-12 
審決日 2006-09-26 
出願番号 特願平5-320812
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松本 直子吉良 優子山田 泰之  
特許庁審判長 原 健司
特許庁審判官 鈴木 紀子
原田 隆興
発明の名称 防菌防黴用乳剤組成物及び防菌防黴方法  
代理人 飯田 敏三  

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