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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B43K
審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 B43K
管理番号 1147417
審判番号 不服2004-20878  
総通号数 85 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-08-06 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-10-07 
確定日 2006-11-15 
事件の表示 平成 7年特許願第 33068号「筆記具、塗布具における把持部構造」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 8月 6日出願公開、特開平 8-197883〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成7年1月30日の出願であって、平成16年8月31日付で拒絶査定がされ、これに対し、同年10月7日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付で手続補正がなされたものである。

2.平成16年10月7日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年10月7日付の手続補正を却下する。
[理由]
本件補正は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明についてのもので、本件補正により特許請求の範囲は、
「【請求項1】 軸筒の前方に、内部に気体又は液体又はゲル状体又はゼリ-状体を封入した変形可能な筒状の把持体を配置すると共に、前記封入物及び/又は把持体を着色してなる筆記具、塗布具における把持部構造。
【請求項2】 軸筒の前方に、内部に気体又は液体又はゲル状体又はゼリ-状体を封入した変形可能な筒状の把持体をその前端が前方に移動しないよう配置し、又、軸筒の前方部外面に螺子を設け、該螺子に螺合する螺子を内面に設けた回転部材を前記把持体の後部に連接せしめ、回転部材を回転させることにより前記把持体を径方向に変化し得るようなした請求項1記載の筆記具、塗布具における把持部構造。」から
「【請求項1】軸筒の前方に、内部に気体又は液体又はゲル状体又はゼリ-状体を封入した変形可能な筒状の把持体を配置すると共に、前記軸筒の表面にリブ、或いは、段部を形成し、或いは、リング部材を止着し、そのリブ或いは段部、或いは、リング部材によって前記把持体を軸筒に固定したことを特徴とする筆記具、塗布具における把持部構造。」に補正された。
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は、「封入物及び/又は把持体を着色してなる」点を発明の構成に欠くことができない事項としており、本件補正前の特許請求の範囲の請求項2に記載された発明は、上記の点に加え「軸筒の前方部外面に螺子を設け、該螺子に螺合する螺子を内面に設けた回転部材を前記把持体の後部に連接せしめ、回転部材を回転させることにより前記把持体を径方向に変化し得るようなした」点を発明の構成に欠くことができない事項としている。
しかしながら、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明が、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明に対応するとすると、補正前発明の構成に欠くことができない事項である「封入物及び/又は把持体を着色してなる」点を削除しており、補正前の特許請求の範囲の請求項2に記載された発明に対応するとすると、上記の点に加え、補正前発明の構成に欠くことができない事項である「軸筒の前方部外面に螺子を設け、該螺子に螺合する螺子を内面に設けた回転部材を前記把持体の後部に連接せしめ、回転部材を回転させることにより前記把持体を径方向に変化し得るようなした」点を削除していることが一見して明らかであるから、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1が、補正前の請求項1、2いずれの請求項に対応するとしても、本件補正は、「補正前発明の構成に欠くことができない事項の全部又は一部を限定するもの」ではなく、特許法第17条の2第3項第2号で規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものではない。
さらに、同法第17条の2第3項第1号で規定する「請求項の削除」、同法第17条の2第3項第3号で規定する「誤記の訂正」、同法第17条の2第3項第4号で規定する「明りょうでない記載の釈明」の何れを目的とするものでもないことは明らかである。
したがって、本件補正は特許法第17条の2第3項の規定に違反しており、その余の補正要件について検討するまでもなく、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されなければならない。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成16年10月7日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1及び2に係る発明は、平成15年8月4日付けの手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。
「【請求項1】軸筒の前方に、内部に気体又は液体又はゲル状体又はゼリ-状体を封入した変形可能な筒状の把持体を配置すると共に、前記封入物及び/又は把持体を着色してなる筆記具、塗布具における把持部構造。」

(2)特許法29条の2違反について
(2)-1 先願明細書に記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前の他の出願であって、その出願後に出願公開された特願平6-312007号(特開平8-164692号公報参照)の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下「先願明細書」という。)には、以下のことが記載されている。
ア.「軸筒の握り部の外径と略同径とする太さの軟質内筒と、この軟質内筒にその端部において一体に連結せしめた軟質外筒とでグリップ本体を構成し、該グリップ本体の前記軟質内筒と軟質外筒との間に、該軟質外筒に適度の弾力性を付与する封入物を封入してなる筆記具用グリップ。」(【請求項1】)
イ.「軸筒1の握り部に封入物4を封入したグリップ本体5を嵌装着せしめて、グリップ本体5の外面に指圧が掛かった場合、封入物4により指圧に対する弾性力(反発力)を発揮せしめて掴み感触(グリップ感覚)と指先が疲れない様にしてなる。」(【0007】)
ウ.「グリップ本体5は、軸筒1の握り部に設けた断面リング状凹部6の外径と略同径とする太さの軟質内筒5-1と、この軟質内筒5-1の端部において一体に連結せしめた軟質外筒5-2とで構成し、該軟質外筒5-2と前記軟質内筒5-1との間に封入物4を封入することで、軟質外筒5-2に適度の弾力性を付与する様にしてある。軟質内筒5-1と軟質外筒5-2とは、適度の弾性を有する熱可塑性樹脂材、或いはゴム、エラストマー等の所望な軟質材料からなり」(【0008】?【0009】)
エ.「封入物4は、グリップ本体5内に封入される事で、指が触れる軟質外筒5-2 に指圧に対する適度の弾性力を付与する役目を成すもので、空気、不活性ガス等の気体、水等の液体、或いはゲル状物質からなり、指圧により軟質外筒5-2 が適度に凹むことで弾性力を発揮し得る封入量にてグリップ本体5内に封入する。...本実施例のグリップによれば...弾性力(反発力)をグリップ本体5内に封入した封入物4により発揮する構造である」(【0010】?【0011】)
以上の記載および図示からみて、先願明細書には、以下の発明が記載されている(以下、「先願発明」という。)
「軸筒1の握り部に、軟質内筒5-1と、この軟質内筒5-1の端部において一体に連結せしめた軟質外筒5-2とで構成し、その間に気体、液体、或いはゲル状物質からなる封入物4を封入した封入物4を封入することで、軟質外筒5-2に適度の弾力性を付与するグリップ本体5を嵌装着せしめてなる筆記具用グリップ。」
(2)-2 対比
本願発明と先願明細書に記載された発明とを対比する。
先願発明では「軸筒1の握り部」としているが、筆記具において「握り部」が軸筒の前方にあることは当然であるから、先願発明の「軸筒1の握り部」と、本願発明の「軸筒の前方」とは、同じ位置を別の表現としたにすぎない。
先願発明の「グリップ本体5」は、本願発明の「把持体」に相当し、
「グリップ本体5」は、内筒5-1と、内筒5-1の端部において一体に連結せしめた外筒5-2とで構成される筒状であり、封入物4を封入して、軟質外筒5-2に適度の弾力性を付与するので変形可能であるから、本願発明の「変形可能な筒状の把持体」と異ならない。
先願発明の「気体、液体、或いはゲル状物質」は、本願発明の「気体」、「液体」、「ゲル状体」、「ゼリ-状体」の選択肢のうち「気体」、「液体」、「ゲル状体」と一致する。
先願発明の「グリップ」は、本願発明の「把持部構造」に相当し、先願発明の「筆記具用グリップ」は、本願発明の「筆記具における把持部構造」、「塗布具における把持部構造」の選択肢のうち「筆記具における把持部構造」と一致する。
先願発明の「嵌装着せしめ」は、軸筒に筒状の把持体を取り付けることを表したものであり、本願発明の「配置する」に相当する。
そうすると、本願発明と先願発明は
「軸筒の前方に、内部に気体又は液体又はゲル状体を封入した変形可能な筒状の把持体を配置してなる筆記具における把持部構造。」の点で一致し、封入物及び/又は把持体を、本願発明では着色してなるのに対し、先願発明には、その着色についてふれるところがない点で一応相違する。
(2)-3 判断
上記相違点について検討する。
本願発明の「封入物及び/又は把持体を着色してなる」点は、複数の発明を択一形式で記載しており、把持体のみを着色してなるものを包含している。
筆記具において把持体を着色することは本願出願前から周知(例えば、実願昭48-133366号(実開昭50-78342号)のマイクロフィルム、実公昭63-39097号公報、実公平2-304号公報を参照)である。
してみれば、上記相違点に係る構成は、筆記具の把持体においては、周知・慣用技術に属するものであって、実質的な相違点を形成するものとはいえない。
(2)-4 むすび
したがって、本願発明は、先願発明と同一であり、しかも、本願発明の発明者が上記先願発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、本願発明は、特許法29条の2第1項の規定により特許を受けることができない。

(3)特許法29条第2項違反について
(3)-1 引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された、実願昭56-142818号(実開昭58-50888号)のマイクロフィルム(以下「刊行物」という。)には、以下のことが記載されている。
あ.「可動体を薄いゴム・ビニール系の皮膜で覆うことを特徴とする可動体密封式筆記保持具」(実用新案登録請求の範囲)
い.「この実用新案は液体から粘土状の固体までの任意の硬さをもつ可動体を薄いゴム・ビニール系の皮膜で覆った筆記保持具に関するものである。」(明細書第1頁7?10行)
う.「ゴム・ビニール系の被膜1であり、その内部には任意の硬さをもつ可動体2を有する。従つて本考案を筆記具に、はめ込むことにより指に加わる力の大小に応じて内部の可動体は移動し、指先の形状に変化する」(明細書第1頁17行?第2頁2行)
え.図面から、可動体2を覆ったゴム・ビニール系の被膜1が、筆記具3の軸の前方にはめ込まれていること、可動体2を覆ったゴム・ビニール系の被膜1は筒状であることが看取できる。
刊行物において「本考案」としているものは「筆記保持具」であるが、前記刊行物には、筆記具3に可動体2を覆ったゴム・ビニール系の被膜1がはめ込まれた図示(前記摘示の記載え.)があり、可動体を薄いゴム・ビニール系の皮膜で覆ったものが筆記保持具であり(前記摘示の記載い.)、筆記保持具がはめ込まれた部位で筆記具を保持することは自明であり、筆記具を保持するとは、把持することと等価であるから、前記刊行物には、筆記具における把持部の構造が記載されていると認定し得る。
したがって、刊行物には、以下の発明が記載されている。
「軸の前方に、その内部に液体から粘土状の固体までの任意の硬さをもつ可動体を有する筒状の薄いゴム・ビニール系の皮膜からなる可動体密封式筆記保持具をはめ込んだ筆記具における把持部の構造」(以下、「刊行物発明」という。)
(3)-2 対比
刊行物発明の「軸の前方」は、本願発明の「軸筒の前方」と「筆記具の前方」である点で共通する。
刊行物発明の「液体」は、本願発明の「気体」、「液体」、「ゲル状体」、「ゼリ-状体」の選択肢のうち「液体」と一致する。
本願発明の「把持体」は、封入物を除外したものであるから、刊行物発明の「薄いゴム・ビニール系の皮膜1」が、これに相当する。
刊行物では、封入物と「把持体」を併せた筆記保持具を変形可能である(「指の形状に変化する」(前記摘示の記載う.))と記載しているが、ゴム・ビニール系の皮膜1も内部の可動体の動きにつれて変形可能であることは自明であるから、刊行物発明の「薄いゴム・ビニール系の皮膜1」は、本願発明と同様に変形可能な把持体ということができる。
刊行物発明の「筆記具における把持部の構造」は、本願発明の「筆記具、塗布具における把持部構造」のうち「筆記具における把持部構造」と一致する
刊行物発明の「はめ込まれている」は、本願発明の「配置する」を別異の表現としたにすぎない。
そうすると、本願発明と刊行物発明とは「筆記具の前方の筆記具を把持する部分に、内部に液体を封入した変形可能な筒状の把持体を配置する筆記具における把持部構造」の点で一致し、下記の点で相違している。
相違点1:把持体を配置する筆記具の部位を、本願発明では軸筒とするのに対し、刊行物発明では軸としている点
相違点2:封入物及び/又は把持体を、本願発明では着色してなるのに対し、刊行物発明は、着色について記載されていない点で相違する。
(3)-3 判断
上記相違点について検討する。
相違点1について
刊行物発明を引用した刊行物には筆記具として鉛筆が記載されているから、把持体を配置する部位を軸と呼んだが、本願発明では筆記具としてボールペンを例示しているため、軸の中が中空になっており軸筒と呼んだにすぎない。したがって、この相違点は実質的な相違点ではない。
相違点2について
本願発明の「封入物及び/又は把持体を着色してなる」点は、複数の発明を択一形式で記載しており、把持体のみを着色してなるものを包含するものである。
筆記具において、把持体を着色することは本願発明の出願前から周知技術(実公平2-304号公報、実公昭63-39097号公報参照)である。
そうすると、刊行物発明の把持体に上記周知技術である着色してなる構成を採用して、相違点にかかる本願発明の構成にすることは当業者が容易に想到できるものと認められる。
そして、そのことによる作用効果も刊行物発明に上記周知技術を適用したものにおいて、当業者が当然予測できるものである。
(3)-4 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物に記載された発明、及び、上記の本出願前に周知の技術などに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。

(4)結論
本願発明は、先願発明と実質同一であり、しかも、その発明者が先願発明の発明者と同一であるとも、本願出願の時において、その出願人が上記先願の出願人と同一であるとも認めらないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができず、さらに、刊行物に記載された発明、及び、上記の本出願前に周知の技術などに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定によっても特許を受けることができない。
そうである以上、本願請求項2に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-09-06 
結審通知日 2006-09-12 
審決日 2006-09-25 
出願番号 特願平7-33068
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B43K)
P 1 8・ 161- Z (B43K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 砂川 充  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 藤本 義仁
藤井 靖子
発明の名称 筆記具、塗布具における把持部構造  

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