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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1147603
審判番号 不服2004-538  
総通号数 85 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-05-20 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-01-08 
確定日 2006-11-22 
事件の表示 平成 7年特許願第315975号「光スイッチ」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 5月20日出願公開、特開平 9-133884〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成7年11月9日の出願であって、平成15年12月3日付で拒絶査定がなされ、これに対し平成16年1月8日付で拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成15年9月19日付手続補正書によって補正された明細書の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
複数のV溝を並設して成る光ファイバ配列部材に受け側の光ファイバをその接続端面側を前記各V溝の長手方向に没入させて配列固定し、該受け側の光ファイバの接続端面側にマスター光ファイバを移動して該マスター光ファイバの接続端面側を前記光ファイバ配列部材のいずれかのV溝に選択的に挿入することによって該マスター光ファイバの接続端面と前記受け側の光ファイバの接続端面とを対向させて該受け側の光ファイバとマスター光ファイバとを切り換え自在に接続する光スイッチであって、前記受け側の光ファイバは接着剤によって前記光ファイバ配列部材に固定されており、この受け側の光ファイバの上部側には前記光ファイバ配列部材と同じ材質の受け側光ファイバ押え部材が設けられて前記接着剤を介して受け側光ファイバが光ファイバ配列部材と受け側光ファイバ押さえ部材とに挟まれて固定されており、該受け側光ファイバ押え部材は、前記光ファイバ配列部材と前記接着剤との線膨張係数差で生じる応力による光ファイバ配列部材の歪みを緩和抑制して受け側の光ファイバとマスター光ファイバとの光接続に支障が生じないようにできる程度の厚みに形成されていることを特徴とする光スイッチ。」(以下、「本願発明」という。)

3.引用刊行物記載の発明
原審において引用された特開平6-67101号公報(以下「引用刊行物」という。)には、次の事項が記載されている。

(ア)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は光スイッチと、この光スイッチに用いられる光ファイバ配列部材及びその製造方法に関する。」

(イ)「【0019】図1は第1本実施例として示す光スイッチの全体構成を示す斜視図である。本実施例に係る光スイッチは、図示のように、基板1、光ファイバ(第1光ファイバ)2、カバープレート3、ファイバ導入溝1hおよび搬送機構5を含んで構成される。ここで、基板1、光ファイバ2及びカバープレート3は1個のファイバアレイユニットAの構成部品であり、このファイバアレイユニットAが複数(例えば12段)積層されてファイバ配列部材が形成される。
【0020】ここで、基板1の上面には基準端面Rから一定ピッチ間隔(例えば0.25mm)で多数(例えば80本)のファイバ固定溝(以下第1V溝という)1gが並設されている(図2,図3に示す)。基板1はシリコン等の半導体材料で形成され、全て同一形状、サイズになっているので、基板1の基準端面Rから個々の第1V溝1gまでの距離は全て対応しており、全ての基板1で同一になっている。
【0021】また、個々の第1V溝1gには光ケーブルCから供給された1本の第1光ファイバ2が途中まで挿入されている。その為、第1光ファイバ2の端部2aの前方には、第1光ファイバ2が挿入されていない領域ができ、この領域がファイバ導入溝(以下第2V溝という)1hとして機能する。また、各第1光ファイバ2はV溝の底部側壁に内接しており、この状態が接着剤で保持されているので、基板1の上面から第1光ファイバ2までの距離は全て同一になっている。
【0022】基板1の上面にはシリコン製カバープレート3が接合され、第1V溝1gに固定された第1光ファイバ2が保護されている。カバープレート3は第1光ファイバ2の端部を露出した状態で基板1に接合されているので、第2光ファイバ6との接続に支障は生じない。また、第1光ファイバ2は十分に当該第1光ファイバ2を埋設できる大きさのV溝の底部に固定されているので、カバープレート3は基板1の上面に対し面接触に近い状態で接合されている。その為、基板1にファイバアレイユニットAを接合した形状は全て同一になり、例えば基板1の基準端面Rから数えて10番目の光ファイバの距離は、どのファイバアレイユニットAでも同一になっている。
【0023】本実施例では、基準端面Rを揃えて複数のファイバアレイユニットAが積層されているので、基準端面Rから同一順位にある任意の第1光ファイバ2における基準端面Rからの距離は同一になっている。このような複数の同一基板は、1枚の細長い基板の長手方向に沿ってダイヤモンドカッタ等で複数のV溝を形成し、この基板を長手方向と直交する方向から切断することにより簡単に作製することができる。また、ホトエッチング技術により高精度で作製することができる。
【0024】さらに、基板1の上面に対し直交する方向における光ファイバの間隔は、使用する材料の肉厚のバラツキにより変化するが、シリコンウエハ等の半導体を使用する場合、ロット単位でバラツキがまとまっており1μm程度で管理することが可能なので、実用上は支障がない。
【0025】光ファイバ配列部材の前方には、搬送機構5が配置されている。搬送機構5はX方向に延在して配置された2本のリニアガイドレール5a、これらのリニアガイドレール5aに沿ってX方向に移動可能な2個のリニアガイドベアリング5b、これらのリニアガイドベアリング5bに保持されY方向に延在して配置されたリニアガイドレール5c、リニアガイドレール5cに沿ってY方向に移動可能なリニアガイドベアリング5d、リニアガイドベアリング5dに固定され光ファイバ(第2光ファイバ)6の端部をY-Z面に沿って回動させる回転板5eを備えている。各軸方向にはボールねじ等による動力伝達機構がある(図示せず)。その為、第2光ファイバ6を任意の第1V溝1gまで搬送することができる。なお、2本のリニアガイドレール5aはY方向に移動可能な移動装置(図示せず)に固定され、光スイッチは矩形状の収納部材7に収納されている。この収納部材7にマッチングオイルを入れることにより、または、第1、第2の光ファイバ2、6の結合端面に反射防止膜を蒸着することにより、スイッチングにおける光ファイバ間の光学特性(スイッチング損失、反射損失など)を安定化させている。
【0026】以下、図2及び図3を参照して、上記実施例に係る光スイッチを用いた光ファイバ接続方法を説明する。
【0027】図2は第1実施例に係る光スイッチの要部を示す斜視図、図3は光ファイバの接続状態を示す側断面図である。図3には、基板1の上面に形成された同一のV溝である第1V溝1gと第2V溝1hの位置関係が明確に示されている。
【0028】図1,図2に示されるように回転板5eにより第2光ファイバ6の端部6aは水平状態に維持されている。この状態で搬送機構5が駆動され、光ファイバ6の端部6aは所定の第1V溝1gに接近する。その後、第2光ファイバ6が接続される第1光ファイバ2を固定したV溝の一部で形成された第2V溝1hの真上に第2光ファイバ6の端部6aを配置する(図2参照)。この場合、基板1の上面におけるV溝の開口幅の分だけ位置精度が緩和されるので、位置合せが容易である。例えば、0.25mmピッチで隣接した状態でV溝が形成されている場合、V溝の開口幅(0.25mm)以内に第2光ファイバ6のコア中心が位置するように搬送機構5を駆動すればよい。
【0029】次に、回転板5eを反時計方向(図1の矢印方向)に回動させることにより、光ファイバ6の端部6aを第2V溝1hに係合させる(図3参照)。光ファイバ6は第2V溝1hに対し傾斜した状態で接触するので、光ファイバ6の先端には光ファイバの弾性変形による反力が作用する。その結果、第2光ファイバ6の端部6aは溝に沿って湾曲し、上述した反力がV溝と第2光ファイバ6との接合力として作用する。尚、この回転機構を省略した機構も考えられる。光ファイバ6をあらかじめ下方斜めに傾斜固定させておき、Z方向にリニアガイドベアリング5dを移動させることにより、同じような湾曲を与えることができる。
【0030】その後、搬送機構5の移動装置を駆動して第1光ファイバ2をY方向に移動させ、第2光ファイバ6の端部6aを第1光ファイバ2の端部2aに突き合わせる。以上の動作により、第2光ファイバ6を任意の第1光ファイバ2に光結合することができる。
【0031】このように、本実施例に係る光スイッチによると、第2光ファイバ6の位置決めをラフにすることができるので、位置決めが容易になる。また、コネクタフェルールを用いないため、ファイバアレイユニットAがコンパクトになり、装置を全体的に小型にすることができる。」

4.対比
本願発明と引用刊行物に記載された発明(以下、「引用発明」という。)を対比する。

(a)引用発明の「基板」、「第1光ファイバ」、「第2光ファイバ」、「ファイバ導入溝」が、それぞれ本願発明の「光ファイバ配列部材」、「受け側の光ファイバ」、「マスター光ファイバ」、「V溝」に相当する。

(b)引用刊行物の「【0021】 ・・・ 各第1光ファイバ2はV溝の底部側壁に内接しており、この状態が接着剤で保持されているので ・・・」(摘記(イ))の記載より、引用発明は、本願発明の「受け側の光ファイバは接着剤によって前記光ファイバ配列部材に固定されており」との技術的事項を有していることは明らかである。

(c)引用刊行物の「【0020】 ・・・ 基板1はシリコン等の半導体材料で形成され、 ・・・ 【0022】基板1の上面にはシリコン製カバープレート3が接合され、 ・・・」(摘記(イ))の記載から、「基板」と「カバープレート」は同じ材質であるので、引用発明と本願発明とは、「光ファイバ配列部材と同じ材質の他部材が設けられて」との技術的事項を有している点で共通する。

(d)引用刊行物の「【0022】基板1の上面にはシリコン製カバープレート3が接合され、第1V溝1gに固定された第1光ファイバ2が保護されている。 ・・・」(摘記(イ))の記載から、「基板」と「カバープレート」の間に「第1光ファイバ」が挟まれて固定されていることは明らかであるから、引用発明と本願発明とは、「受け側光ファイバが光ファイバ配列部材と他部材とに挟まれて固定されており」との技術的事項を有している点で共通する。

したがって、両者は、
「複数のV溝を並設して成る光ファイバ配列部材に受け側の光ファイバをその接続端面側を前記各V溝の長手方向に没入させて配列固定し、該受け側の光ファイバの接続端面側にマスター光ファイバを移動して該マスター光ファイバの接続端面側を前記光ファイバ配列部材のいずれかのV溝に選択的に挿入することによって該マスター光ファイバの接続端面と前記受け側の光ファイバの接続端面とを対向させて該受け側の光ファイバとマスター光ファイバとを切り換え自在に接続する光スイッチであって、前記受け側の光ファイバは接着剤によって前記光ファイバ配列部材に固定されており、この受け側の光ファイバの上部側には前記光ファイバ配列部材と同じ材質の他部材が設けられて受け側光ファイバが光ファイバ配列部材と他部材とに挟まれて固定されている光スイッチ。」
である点で一致し、次の点で相違する。

相違点:
本願発明が、「前記接着剤を介して受け側光ファイバが光ファイバ配列部材と受け側光ファイバ押さえ部材とに挟まれて固定されており、該受け側光ファイバ押え部材は、前記光ファイバ配列部材と前記接着剤との線膨張係数差で生じる応力による光ファイバ配列部材の歪みを緩和抑制して受け側の光ファイバとマスター光ファイバとの光接続に支障が生じないようにできる程度の厚みに形成されている」のに対し、引用発明は受け側光ファイバが光ファイバ配列部材とカバープレートとに挟まれて固定されており、光ファイバ配列部材とカバープレート間の接着剤について、特に規定されておらず、さらに、カバープレートの厚みについて、特に条件等が規定されていない点。

5.判断
上記相違点につき検討すると、光ファイバ配列部材の技術分野において、接着剤を介して光ファイバを配列部材と押え部材で挟んで固定することは本出願前周知であり(例えば、特開平5-241042号公報、図1、図4等参照)、当該周知技術を引用発明の光ファイバ配列部材に適用して、本願発明のように、接着剤を介して受け側光ファイバが光ファイバ配列部材と受け側光ファイバ押さえ部材とに挟まれて固定するようにすることは、当業者が適宜なし得る程度のことにすぎない。
そして、引用発明及び上記周知技術には、光ファイバ配列部材の歪みの緩和抑制について、特に規定されていないが、上記周知技術を引用発明に適用することにより、本願発明と同様に、光ファイバ配列部材と同じ材質の受け側光ファイバ押え部材を設け、接着剤を介して受け側光ファイバが光ファイバ配列部材と受け側光ファイバ押さえ部材とに挟まれて固定されることになるのであるから、結果として、本願明細書にも記載されているように、「 ・・・ 受け側光ファイバ押え部材は光ファイバ配列部材と同じ材質であるために、受け側光ファイバ押え部材の線膨張係数は光ファイバ配列部材の線膨張係数と等しく ・・・ 光ファイバ配列部材と前記接着剤との線膨張係数差によって生じる応力が、光ファイバ配列部材を歪める方向に加わったり、受け側の光ファイバを光ファイバ配列部材から剥離する方向に加わったとしても、その応力が受け側光ファイバ押え部材からの逆向きに働く応力によって緩和抑制され、光ファイバ配列部材の歪みや受け側の光ファイバの光ファイバ配列部材からの剥離は抑制される。」(【0011】)こととなる。したがって、上記周知技術を引用発明に適用することにより、当然の結果として「光ファイバ配列部材と前記接着剤との線膨張係数差で生じる応力による光ファイバ配列部材の歪みを緩和抑制」しているものである。
また、光スイッチや光ファイバ配列部材の技術分野において、実用に耐えうる程度の光接続を確保することは当業者が当然考慮するべき技術事項であること、さらに、本願発明において、受け側光ファイバ押え部材の厚みについて、「受け側の光ファイバとマスター光ファイバとの光接続に支障が生じないようにできる」こと以上の、例えば具体的な厚さ等の構成は示されていないことから、上記周知技術を引用発明に適用する際にも、「受け側の光ファイバとマスター光ファイバとの光接続に支障が生じないようにできる程度の厚みに形成」していると解するのが相当である。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用刊行物記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-09-01 
結審通知日 2006-09-12 
審決日 2006-09-28 
出願番号 特願平7-315975
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 早川 貴之三橋 健二  
特許庁審判長 瀧本 十良三
特許庁審判官 井上 博之
鈴木 俊光
発明の名称 光スイッチ  
代理人 山▲崎▼ 京介  
代理人 山▲崎▼ 京介  

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