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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01B
管理番号 1147873
審判番号 不服2004-16151  
総通号数 85 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-08-05 
確定日 2006-11-30 
事件の表示 平成 8年特許願第145254号「レーザ加工機」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年12月22日出願公開、特開平 9-329432〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯
本願は、平成8年6月7日の出願であって、平成16年7月2日付け(発送日;同月6日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年8月5日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年9月3日付で手続補正がなされたものである。

【2】平成16年9月3日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年9月3日付の手続補正を却下する。
[理由]
[1]新規事項の存否・補正の目的
イ.本件補正により、特許請求の範囲の請求項1?5は、次のように補正された。
「【請求項1】アクチュエータに取り付けられて移動されて、レーザ光をワークに集光するトーチとワークを保持移動させる機構を有し、レーザ光を用いてワークを加工するレーザ加工機において、
センサ部と検出対象物との距離に対応する電気信号Vdと所定の電気信号Vsとの差に対応する電気信号ΔVを出力するセンサ装置であって、前記電気信号ΔVが別途設定した電気信号Vt以上のときには前記出力は0であり、以下であるときには前記差に対応する電気信号ΔVを出力する手段を有するセンサ装置を備え、
そのセンサ部をトーチと同じ移動をさせまたセンシング位置をトーチ直下とすることにより、かつワークと対向したトーチをワーク外側まで移動させもしくはワークと対向したトーチがワーク外側に来るまでワークを移動させ、トーチがワークの外側にあるときも、トーチのワークに対するスタンドオフが所定スタンドオフから大きくずれないようにし、ピアシングを行わずに、ワークの端部からレーザ加工することを特徴とするレーザ加工機。
【請求項2】アクチュエータによりトーチをワーク表面に近づけるとき、およびワーク表面から離すときは、スタンドオフに関係なく、前記センサ装置のオンオフスイッチにより出力制御信号を電気信号ΔVとしてトーチの位置制御を行わせることを特徴とする請求項1に記載のレーザ加工機。
【請求項3】センサ装置が、前記電気信号ΔVが前記電気信号Vt以上のときであっても、出力電気信号を前記差に対応する電気信号ΔVとすることができる別の手段を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のレーザ加工機。
【請求項4】センサ装置が有する前記手段は、1つの入力端子には電気信号ΔVが入力され、他の入力端子には0信号が入力され、出力端子はセンサ装置の出力端子に接続されている切替えスイッチと、前記電気信号Vtを出力する設定器と、前記電気信号ΔVと前記電気信号Vtとを入力とし、前記電気信号ΔVが前記電気信号Vt以上のときに前記切替えスイッチに駆動信号を出力するコンパレータからなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のレーザ加工機。
【請求項5】センサ装置が有する前記別の手段は、1つの入力端子には電気信号ΔVが入力され、他の入力端子には0信号が入力され、出力端子はセンサ装置の出力端子に接続されている切替えスイッチと、前記電気信号ΔVと前記電気信号Vtとを入力とし、前記電気信号ΔVが前記電気信号Vt以上のときに前記切替えスイッチに駆動信号を出力するコンパレータとの間に接続されたオンオフスイッチであることを特徴とする請求項3に記載のレーザ加工機。」。
前記補正は、補正前の請求項1に記載「かつワークと対向したトーチをワーク外側まで移動させもしくはワークと対向したトーチがワーク外側に来るまでワークを移動させ、」を追加するものであるが、前記記載内容は、明細書中、段落番号【0021】、【0025】に記載されているから、前記補正が願書に最初に添付された明細書に記載された事項の範囲内においてなされたものであると言える。
また、前記補正は、補正前の対応する特許請求の範囲を限定的に減縮することを目的とするものである。

[2]独立特許要件
そこで、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

1.本願補正発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1?5は前記補正イ.のように補正されたところ、その請求項1は次のように記載されている。
「【請求項1】アクチュエータに取り付けられて移動されて、レーザ光をワークに集光するトーチとワークを保持移動させる機構を有し、レーザ光を用いてワークを加工するレーザ加工機において、
センサ部と検出対象物との距離に対応する電気信号Vdと所定の電気信号Vsとの差に対応する電気信号ΔVを出力するセンサ装置であって、前記電気信号ΔVが別途設定した電気信号Vt以上のときには前記出力は0であり、以下であるときには前記差に対応する電気信号ΔVを出力する手段を有するセンサ装置を備え、
そのセンサ部をトーチと同じ移動をさせまたセンシング位置をトーチ直下とすることにより、かつワークと対向したトーチをワーク外側まで移動させもしくはワークと対向したトーチがワーク外側に来るまでワークを移動させ、トーチがワークの外側にあるときも、トーチのワークに対するスタンドオフが所定スタンドオフから大きくずれないようにし、ピアシングを行わずに、ワークの端部からレーザ加工することを特徴とするレーザ加工機。」(以下、「本願補正発明」という。)

2.刊行物に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された、特開平5-185263号公報(平成5年7月27日発行、以下、「刊行物」という。)は「レーザ加工機の倣い制御装置」(発明の名称)に関し、図面とともに以下の記載がある。
a.「【0007】
【実施例】この発明の一実施例を図1ないし図4に基づいて説明する。図2に示すように、この倣い制御装置で昇降制御されるレーザ加工機はタレットパンチプレスと複合したものであり、タレット7を設置したフレーム8の上面にレーザ発振器9を設置し、フレーム8内に昇降自在に設けたガイド筒10の先端に、レーザ光を照射する照射ヘッド1が設けられている。」
b.「【0008】フレーム8の前方には、固定テーブル13aとスライドテーブル13bとからなるワークテーブル13が設けてあり、スライドテーブル13bは、キャリッジ14と共に、ベッド15のレール16上を前後(Y軸方向)に駆動される。キャリッジ14には横方向(X軸方向)に進退駆動されるワークホルダ(図示せず)が設けてあり、これらキャリッジ14とワークホルダの移動により、ワークテーブル13上のワークを前後左右に送り可能である。」
c.「【0009】図1に示すように、照射ヘッド1を設けたガイド筒10は、ボールねじ6aとサーボモータ12とからなる昇降装置6により昇降駆動可能である。照射ヘッド1は、対物レンズとアシストガスの噴出口(いずれも図示せず)を有する筒状のものであり、先端に変位センサ2が設けられている。変位センサ2は、ワークテーブル13上のワークWとの間隔dを非接触で検出するものであり、静電容量方式のものが用いられる。」
前記記載a.?c.から、
・ボールねじ6aとサーボモータ12とからなる昇降装置6に取り付けられて移動されて、レーザ光をワークWに対物レンズを介して照射する照射ヘッド1とワークWを保持移動させるキャリッジ14及びワークホルダを有し、レーザ光を用いてワークWを加工するレーザ加工機、が読みとれる。
また、前記記載c.から、照射ヘッド1の先端には変位センサ2が設けられており、したがって、
・変位センサ2は照射ヘッド1と同じ移動をすること、
・、変位センサ2の検出位置が照射ヘッド1の直下になっていること、が読みとれる。
d.「【0010】変位センサ2の出力電圧はセンサアンプ3で増幅され、その増幅電圧Vi は次段の制御部4に入力される。この制御部4は、入力されてくる電圧Viに応答して、ワークWと照射ヘッド1との間をワークWの板厚に応じて予め設定されている一定間隔dに制御する倣い制御手段17と、入力されてくる上記電圧Vi をワークWの板厚に応じて予め設定されている上限電圧値Vu および下限電圧値Vdと比較する上下限設定手段18と、上記入力電圧Vi が上限電圧Vu を上回るとき、および下限電圧Vdを下回るときに照射ヘッド1を現在高さに維持する制御をお行う現在高さ維持制御手段19とで構成されている。」
前記記載c.d.から、
・変位センサ2は、センサアンプ3を介して変位センサ2とワークWとの間隔dに対応する電圧Viを出力すること、
が読みとれる。
e.「【0013】制御部4の制御は、タレットパンチプレス全体の制御を行う数値制御装置NCによって行われる。・・・
【0015】すなわち、変位センサ2の出力電圧はセンサアンプ3で増幅され、その増幅電圧Vi が制御部4において、倣い制御手段17のサンプリング回路20により図4(A)に示すサンプリング信号の立ち上がりのタイミングでサンプリングされ、そのサンプリング電圧値Voが次段のサンプルホールド回路21で保持される。保持された電圧値Voは、次段の昇降指令回路22において適正高さに対応する目標電圧値Vref と比較され、その差分だけ照射ヘッド1を昇降すべき指令が出力されサーボコントローラ5に与えられる。これによりワークWとの間隔dが一定となるように照射ヘッド1の高さが制御される。」
前記記載e.から、
・Viのサンプリング電圧値Voと適正高さに対応する目標電圧値Vref との差分に対応する指令値を出力する制御部4、が読みとれる。
f.「【0011】倣い制御手段17は、センサアンプ3から送られてくる電圧Vi を一定周期でサンプリングするサンプリング回路20と、サンプリングされた電圧値Voを更新しながら保持するサンプルホールド回路21と、保持された電圧値Voと照射ヘッド1の適正高さに対応する目標電圧値Vref との差分を演算し、その差分に応じた値だけ照射ヘッド1を昇降させる指令を出力する昇降指令回路22とで構成される。」
g.「【0016】上記制御動作の場合、照射ヘッド1がワークWの上方にあるので、センサアンプ3から出力される電圧Vi は制御部4の上下限設定手段18に設定されている下限電圧値Vdから上限電圧値Vu までの範囲内にあり、このとき上下限設定手段18からの出力は図4(B)に示すようにローレベルとなる。これに応答して、現在高さ維持制御手段19は、倣い制御手段17のサンプリング回路20を動作可能の状態に維持する。したがって、このとき倣い制御手段17による前記制御動作が可能である。」
前記記載f.g.から、
・制御部4は、照射ヘッド1がワークWの上方にあり、Viが上下限設定手段18で設定した上限電圧値Vu以下で下限電圧値Vd以上であるときは、Viのサンプリング電圧値Voと適正高さに対応する目標電圧値Vref との差分に対応する指令値を出力すること、が読みとれる。
h.「【0019】なお、ワークWの端部から加工を行う場合は、図3(B)に実線で示すように、照射ヘッド1を一旦ワークWの上に配置し、鎖線で示すようにワークWの端部から外れる位置に移動させた後に、再度ワークW側へ移動させる。このように、ワークWの端部から外れさせた後も、照射ヘッド1は開口23を通過する場合と同様に高さ維持を行う。そのため、照射ヘッド1とワークWとの間隔dを適正高さに調整した状態で、端部からの切断加工を開始できる。」
i.「【0017】照射ヘッド1が図3(A)に鎖線位置Pで示すように、ワークWの開口23に入りかけたときは、変位センサ2の出力電圧が急激に変化し、センサアンプ3から倣い制御手段17および上下限設定手段18に入力される電圧Vi は図4(C)に示すように上下限設定手段18に設定されている下限電圧値Vdを大きく下回ることになり、このときの上下限設定手段18の出力は図4(B)に示すようにハイレベルとなる。この出力に応答して、現在高さ維持制御手段19が倣い制御手段17のサンプリング回路20の動作を停止させる。」
j.「【0018】照射ヘッド1が開口23の口縁23aを過ぎるときに、変位センサ2の出力は再度急激に変化するため、センサアンプ3からの電圧Vi が大きくなり、上下限設定手段18に設定されている下限電圧値Vdから上限電圧値Vu までの範囲内の値に戻る。その結果、現在高さ維持制御手段19によるサンプリング回路20の動作停止が解除され、倣い制御手段17による照射ヘッド1の高さ制御が再開される。」
前記記載d.h.i.j.から、
・ワークWと対向した照射ヘッド1をワークWの端部から外れる位置に移動させたときも、Viが上下限設定手段18で設定した下限電圧値Vdを下回ることにより、照射ヘッド1を現在高さに維持する制御を行い、ワークWの端部から切断加工すること、が読みとれる。
以上の記載を勘案すると、刊行物には次の発明が記載されているものと認められる。
(刊行物に記載された発明)
「ボールねじ6aとサーボモータ12とからなる昇降装置6に取り付けられて移動されて、レーザ光をワークWに対物レンズを介して照射する照射ヘッド1とワークWを保持移動させるキャリッジ14及びワークホルダを有し、レーザ光を用いてワークWを加工するレーザ加工機において、
変位センサ2とワークWとの間隔dに対応する電圧Viのサンプリング電圧値Voと適正高さに対応する目標電圧値Vref との差分に対応する指令値を出力する制御部4であって、前記Viが上下限設定手段18で設定した下限電圧値Vdを下回るときは、その出力が照射ヘッド1を現在高さに維持する制御を行い、前記Viが上下限設定手段18で設定した上限電圧値Vu以下で下限電圧値Vd以上であるときは、Viのサンプリング電圧値Voと適正高さに対応する目標電圧値Vref との差分に対応する指令値を出力する手段を有する制御部4を備え、
変位センサ2を照射ヘッド1と同じ移動をさせ、また変位センサ2の検出位置を照射ヘッド1の直下とすることにより、ワークWと対向した照射ヘッド1をワークWの端部から外れる位置に移動させ、ワークWと対向した照射ヘッド1がワークWの端部から外れた位置にあるときも、照射ヘッド1が高さ維持を行い、ワークWの端部から切断加工するレーザ加工機。」(以下、「刊行物に記載された発明」という。)。

3.対比
そこで、本願補正発明と刊行物に記載された発明とを対比する。
3-1.刊行物に記載された発明における
「ボールねじ6aとサーボモータ12とからなる昇降装置6」、「ワークW」、「対物レンズを介して照射する照射ヘッド1」、「ワークWを保持移動させるキャリッジ14及びワークホルダ」、「適正高さに対応する目標電圧値Vref 」、「差分に対応する指令値」、「制御部4」、「変位センサ2の検出位置」、「ワークWの端部から外れる位置」、「切断加工」、「照射ヘッド1が高さ維持を行い」、
は、それぞれ、本願補正発明における
「アクチュエータ」、「ワーク」、「集光するトーチ」、「ワークを保持移動させる機構」、「所定の電気信号Vs」、「差に対応する電気信号ΔV」、「センサ装置」、「センシング位置」、「ワーク外側」、「レーザ加工」、「トーチのワークに対するスタンドオフが所定スタンドオフから大きくずれないようにし」、
に相当する。

3-2.本願補正発明における「Vd」と刊行物に記載された発明における「Vi」について、
刊行物に記載された発明における「変位センサ2とワークWとの間隔d」は、本願補正発明における「センサ部と検出対象物との距離」に相当するから、刊行物に記載された発明における「変位センサ2とワークWとの間隔dに対応する電圧Vi」は、本願補正発明における「センサ部と検出対象物との距離に対応する電気信号Vd」に相当すると言える。
また、刊行物に記載された発明における「Viが上下限設定手段18で設定した下限電圧値Vdを下回るとき」とは、変位センサ2がワークWの端部から外れる位置に移動した場合であり、したがって、本願補正発明における「電気信号ΔVが別途設定した電気信号Vt以上のとき」と、刊行物に記載された発明における「Viが上下限設定手段18で設定した下限電圧値Vdを下回るとき」は、共に「電気信号Vdに関連する信号の電圧値を判別してセンサ部がワークから外れる位置に移動したことを検知したとき」である点で共通する。
同様に、本願補正発明における「電気信号ΔVが別途設定した電気信号Vt・・・以下であるとき」も刊行物に記載された発明における「Viが上下限設定手段18で設定した上限電圧値Vu以下で下限電圧値Vd以上であるとき」も共に「電気信号Vdに関連する信号の電圧値を判別してセンサ部がワークと対向する位置にあることを検知したとき」である点で共通する。

3-3.本願明細書中の記載「【0021】・・・c.制御信号ΔVが設定値Vtを超えると、制御信号は0となり、ドライバ3aは停止する。このときのトーチ1のスタンドオフhは、制御信号ΔVが設定値Vtを超えるまでに要する時間とセンサ装置の制御遅れ時間の間に、ドライバ3aが下降する分だけ所定スタンドオフHより小さくなっている(位置P3)。実際にはHとhはあまり違わない。」を参照すると、本願補正発明における「出力は0であ」る状態では、スタンドオフは所定スタンドオフHより僅かに小さい値に維持されると解し得る。このことを考慮すると、本願補正発明における「出力は0である」ことも、刊行物に記載された発明における「その出力が照射ヘッド1を現在高さに維持する制御を行」うことも、共に「トーチの高さを維持するような指令を出力する」点で共通する。
以上のことから、本願補正発明と刊行物に記載された発明とは、
(一致点)
「アクチュエータに取り付けられて移動されて、レーザ光をワークに集光するトーチとワークを保持移動させる機構を有し、レーザ光を用いてワークを加工するレーザ加工機において、
電気信号Vdに関連する信号の電圧値を判別して前記センサ部がワークから外れる位置に移動したことを検知したときトーチの高さを維持するような指令を出力し、電気信号Vdに関連する信号の電圧値を判別してセンサ部がワークと対向する位置にあることを検知したときにはセンサ部と検出対象物との距離に対応する電気信号Vdと所定の電気信号Vsとの差に対応する電気信号ΔVを出力する手段を有するセンサ装置を備え、
そのセンサ部をトーチと同じ移動をさせまたセンシング位置をトーチ直下とすることにより、かつワークと対向したトーチをワーク外側まで移動させ、トーチがワークの外側にあるときも、トーチのワークに対するスタンドオフが所定スタンドオフから大きくずれないようにし、ワークの端部からレーザ加工するレーザ加工機。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点)
相違点1:電気信号Vdに関連する信号について、
本願補正発明では、「電気信号Vdに関連する信号」が、センサ部と検出対象物との距離に対応する電気信号Vdと所定の電気信号Vsとの差に対応する電気信号ΔVであるのに対し、刊行物に記載された発明では、「電気信号Vdに関連する信号」が、センサ部と検出対象物との距離に対応する電気信号Vdである点。
相違点2:トーチの高さを維持するときのセンサ装置の出力について、
本願補正発明におけるセンサ装置の出力は0であるのに対し、刊行物に記載された発明では、トーチを現在高さに維持するものである点。
相違点3:ピアシングについて、
本願補正発明では、「ピアシングを行わずに、ワークの端部からレーザ加工する」のに対し、刊行物に記載された発明では、ワークの端部からレーザ加工する際ピアシングを行うか否か、明記されていない点。

4.当審の判断
相違点1.について、
本願補正発明と刊行物に記載された発明との差異は、要するに、センサ部が、
a.センサ部と検出対象物との距離の現在値に相当する電気信号から目標値に相当する所定の電気信号を予め差し引いた後の信号を判別する(本願補正発明の構成)のか、あるいは、
b.センサ部と検出対象物との距離の現在値に相当する電気信号を判別する(刊行物に記載された発明の構成)のか、
の差異であるが、ともに、信号を判別することにより、センサ部がワークから外れる位置に移動したことを検知したときトーチの高さを維持するような指令を出力する点に変わりはなく、また、a.の場合の差をとる点の回路構成に格別の特徴も認められないから、いずれの構成を採用するかは、当業者が実施の際、適宜選択し得る設計的事項に過ぎない。

相違点2.について、
ヘッドの現状高さを維持するにあたり、現状維持を指令する指令値として零の値を出力することは周知である(例えば、特開平6-134589号公報、【0019】参照)から、刊行物に記載された発明において、トーチの高さを維持する指令値として周知の零の値を出力する構成とすることは、当業者が容易になし得るところと言えるものである。

相違点3.について、
刊行物中には、ワークの端部からレーザ加工するにあたり、ピアシングを行う旨の記載は見あたらない。したがって、刊行物の記載を見る限り、相違点3.を実質的な差異であるとすることはできない。
尤も、刊行物中にはピアシングを行わない旨の記載も見あたらない。
しかしながら、ピアシングは加工開始時における被加工物に対する穴開けであると解される以上、刊行物に記載された発明におけるように、被加工物の端部から切断加工する場合、ピアシングの必要性がないことは明らかであるから、この点から見ても、相違点3.を実質的な差異であるとすることはできない。
そして、本願補正発明の作用効果も、刊行物に記載された発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本願補正発明は、刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
なお、審判請求人は、審判請求書中で、本願補正発明は制御信号の急激な変化を捉えてトーチの停止制御を行っている点で、刊行物に記載された発明とは異なる旨、主張しているが、制御信号の急激な変化を捉えるための構成が本願補正発明中に十全に記載されているとは言えない以上、前記主張は特許請求の範囲の記載に基づくものとは言えない。
また、刊行物に記載された発明においても、刊行物中に変位センサ2の出力が急激に変化する旨、記載されており(【2】[2]2.i.j.参照)、変位センサ2の出力が制御部4での信号(制御信号)を発生させているのであるから、結局、刊行物に記載された発明においても、制御信号の急激な変化を捉えていると言えるものである。
以上の点で、請求人の主張は採用し得ない。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

【3】本願発明
平成16年9月3日付の手続補正は前記のとおり却下されたので、本願の請求項1?5に係る発明は、平成16年6月11日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1には次のとおりに記載されている。
「【請求項1】アクチュエータに取り付けられて移動されて、レーザ光をワークに集光するトーチとワークを保持移動させる機構を有し、レーザ光を用いてワークを加工するレーザ加工機において、
センサ部と検出対象物との距離に対応する電気信号Vdと所定の電気信号Vsとの差に対応する電気信号ΔVを出力するセンサ装置であって、前記電気信号ΔVが別途設定した電気信号Vt以上のときには前記出力は0であり、以下であるときには前記差に対応する電気信号ΔVを出力する手段を有するセンサ装置を備え、
そのセンサ部をトーチと同じ移動をさせまたセンシング位置をトーチ直下とすることにより、トーチがワークの外側にあるときも、トーチのワークに対するスタンドオフが所定スタンドオフから大きくずれないようにし、ピアシングを行わずに、ワークの端部からレーザ加工することを特徴とするレーザ加工機。」(以下、「本願発明」という。)

【4】対比・当審の判断
本願発明と刊行物に記載された発明との対比すると、両者の一致点は次のとおりである。
(一致点)
「アクチュエータに取り付けられて移動されて、レーザ光をワークに集光するトーチとワークを保持移動させる機構を有し、レーザ光を用いてワークを加工するレーザ加工機において、
電気信号Vdに関連する信号の電圧値を判別して前記センサ部がワークから外れる位置に移動したことを検知したときトーチの高さを維持するような指令を出力し、電気信号Vdに関連する信号の電圧値を判別してセンサ部がワークと対向する位置にあることを検知したときにはセンサ部と検出対象物との距離に対応する電気信号Vdと所定の電気信号Vsとの差に対応する電気信号ΔVを出力する手段を有するセンサ装置を備え、
そのセンサ部をトーチと同じ移動をさせまたセンシング位置をトーチ直下とすることにより、トーチがワークの外側にあるときも、トーチのワークに対するスタンドオフが所定スタンドオフから大きくずれないようにし、ワークの端部からレーザ加工するレーザ加工機。」
また、両者の相違点は【2】[2]3-3に記載したとおりである。
そして、相違点に対する当審の判断は、【2】[2]4.相違点1.について?相違点3.について、に記載したとおりである。

【5】むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
前記のとおり、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものであるから、本願のその他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-09-27 
結審通知日 2006-10-03 
審決日 2006-10-16 
出願番号 特願平8-145254
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01B)
P 1 8・ 121- Z (G01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大和田 有軌  
特許庁審判長 上田 忠
特許庁審判官 濱野 隆
下中 義之
発明の名称 レーザ加工機  
代理人 山本 浩  

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