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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12P
管理番号 1147919
審判番号 不服2004-12714  
総通号数 85 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-07-06 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-06-21 
確定日 2006-11-29 
事件の表示 平成10年特許願第249573号「ルイスY-特異的モノクローナル抗体BR55-2に対する抗イディオタイプモノクローナル抗体およびその使用」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 7月 6日出願公開、特開平11-178594〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、1993年5月14日(パリ条約による優先権主張1992年5月22日、英国への出願3件)を国際出願日とする特願平6-500128号の一部を平成10年9月3日に新たな出願(特願平10-249573号)としたものであって、その請求項に係る発明は、平成17年11月30日付の手続補正書により補正された明細書および図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された、以下のとおりのものと認められる(以下、これを本願発明という。)。
「【請求項1】 モノクローナル抗体BR55-2(Ab1)に対するモノクローナルマウス内部像抗イディオタイプ抗体(Ab2)であって、Ab1に対し10倍過剰またはそれ以下の濃度において、BR55-2マウスIg2aのルイスY陽性ヒト乳癌細胞系に対する結合阻害で評価したとき、95%またはそれ以上の阻害能を有するものの製造法であって、マウスをBR55-2/マウスIgG3-F(ab')2-KLH-接合体で免疫化し、その脾臓細胞をマウスミエローマ細胞系SP2/0と融合させ、上記評価方法による阻害能95%またはそれ以上(BR55-2マウスIgG2aのSKBR5細胞系に対する結合阻害)のIgGを産生する培養ハイブリドーマ細胞を選択し、このハイブリドーマ細胞により抗イディオタイプ抗体を産生させ、この抗イディオタイプ抗体を単離、精製することを特徴とする方法。」

2.当審の通知した拒絶理由
(2-1)本願について、当審は平成17年5月26日付で以下の拒絶理由を通知した。
「この出願の請求項1?4に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1?8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1: 特開昭63-279169号公報
刊行物2: J.Immunol.145(1),p.224-232(1990)
刊行物3: IN VIVO,5,p.615-623(1991)
刊行物4: METHODS IN ENZYMOLOGY,Vol.178,p.3-48(1989)
刊行物5: Geburtshilfe Frauenheilkd.1990 Oct;50(10):785-8(特に785頁)
刊行物6: J.Immunother.1992 Jan;11(1):56-66
刊行物7: Veterinary Immunology and Immunopathology,20(1988)1-14
刊行物8: Hybridoma,Vol.9,No.2,1990,p.201-210(特に204頁下8?6行)」
(2-2)これに対し、請求人は、平成17年11月30日付で上述のとおり本願明細書を補正したが、補正後の請求項1に記載された「本願発明」は、補正前の請求項3に記載された発明に相当するものであり、実質的に補正されてはいない。

3.当審の判断
(3-1)本願発明
本願発明は、上述のとおりのものであり、
(i)「モノクローナル抗体BR55-2(Ab1)に対し10倍過剰またはそれ以下の濃度において、BR55-2マウスIg2aのルイスY陽性ヒト乳癌細胞系に対する結合阻害で評価したとき、95%またはそれ以上の阻害能を有する」という特定の性質を有する、モノクローナル抗体BR55-2(Ab1)に対するモノクローナルマウス内部像抗イディオタイプ抗体(Ab2)(以下、「本願発明によるモノクローナル内部像抗イディオタイプ抗体」という。)を、
(ii)「マウスをBR55-2/マウスIgG3-F(ab')2-KLH-接合体で免疫化し、その脾臓細胞をマウスミエローマ細胞系SP2/0と融合させ、上記評価方法による阻害能95%またはそれ以上(BR55-2マウスIgG2aのSKBR5細胞系に対する結合阻害)のIgGを産生する培養ハイブリドーマ細胞を選択し、このハイブリドーマ細胞により抗イディオタイプ抗体を産生させ、この抗イディオタイプ抗体を単離、精製すること」を特徴とする方法(以下、「本願発明の方法」という。)により製造する、
BR55-2(Ab1)に対する内部像抗イディオタイプ抗体の製造方法に係るものである。
(3-2)引用刊行物に記載された技術的事項
これに対し、当審が上記拒絶理由通知で引用した刊行物には、以下の技術的事項が記載されている。
刊行物1:特開昭63-279169号公報
モノクローナル抗体BR55-2の使用法に関する特許公開公報であって、特許請求の範囲に、「モノクローナル抗体BR55-2およびその変異型の特異性を有するモノクローナル抗体あるいはその断片の治療上有効量を悪性疾患を持つ動物に投与することによる、動物の悪性疾患を抑制する方法。」(第7項)、「該悪性疾患が腫瘍である、特許請求の範囲第7項記載の方法。」(第9項)と記載され、また、発明の詳細な説明に、「抗Y特異的活性を有する多数のモノクローナル抗体が、ヒト胃癌、結腸癌、肺癌、卵巣癌、および、ヒト卵巣奇形癌細胞を有するマウスを免疫することにより産生されてきた。」(2頁右下欄6?9行)、「Y決定基の存在は腺癌と関連する糖脂質で見いだされているが、Y決定基上のエピトープとのみ反応するモノクローナル抗体は臨床的に有用であるとは思われない。これは、与えられた腫瘍組織内で多くの悪性細胞がY決定基を含む抗原を発現しているとしても、小数ではあるが重要な意味を持つ悪性細胞群はY決定基を発現せず、従ってY決定基モノクローナル抗体の投与に主眼を置く免疫治療に対してはおそらく抵抗性を示すと考えられるためである。」(2頁右下欄下4行?3頁左上欄6行)、「多様な抗原の多数の決定基上に存在するエピトープとの反応可能なモノクローナル抗体は、腺癌細胞の多数の異なる集団に結合できることによりはるかに優れた臨床的効果を有するため、必要とされている。」(3頁左上欄8?12行)、「本発明の主な目的はY-6およびB-7-2の双方の決定基に結合する検出用標識を施したモノクローナル抗体を用いて、該検出用標識モノクローナル抗体が該決定基に結合するか否かを決定することにより、決定基Y-6およびB-7-2の検出法を与えることである。」(3頁左上欄14?19行)、「本発明の別の目的は、決定基Y-6およびB-7-2と反応する非標識モノクローナル抗体あるいは治療用標識モノクローナル抗体を用いる、動物の悪性疾患の治療法を与えることである。」(3頁右上欄5?8行)、「本発明の方法で用いたモノクローナル抗体の主な利点は、以前の技術によるモノクローナル抗体とは異なり、該モノクローナル抗体は多数の決定基上に存在するエピトープに結合できることである。」(3頁左下欄1?5行)と記載され、腫瘍細胞に発現されるY-6抗原などの抗原に対するモノクローナル抗体であるBR55-2について、当該BR55-2の特異性を有するモノクローナル抗体が腺癌などの悪性疾患を抑制する作用を有することが記載されている。
刊行物2:J.Immunol.145(1),p.224-232(1990)
ルイスY抗原、そのモノクローナル抗体、及びその抗イディオタイプ抗体について記載された報文であり、「ルイスY抗原は炭化水素の抗原であり、…マウスの胚細胞の表面において発現され、多くのマウスの腫瘍細胞においても同様に発現される。抗ルイスY抗体が有するイデオトープを分析するために、抗ルイスYモノクローナル抗体AH-6(BALB/cのIgM)の有するイデオトピック決定基に対する、二つの抗イデオトピックなモノクローナル抗体Id-A1、Id-B4(両方ともBALB/cのIgG1)を生成させた。Id-A1、Id-B4(Ab2)の両方ともAH-6抗体(Ab1)の有する、パラトープ関連のイデオトープを認識した。また、それらの抗体は、AH-6のルイスY抗原との結合を特異的に阻害した。抗ルイスY抗原抗体のイデオトピックな結合性の高さが注目された。AH-6抗体を免疫することによりBALB/cマウスの血清中に産生される抗イデオタイプのポリクローナル抗体は、異なる研究所で確立されたいくつかの抗ルイスYモノクローナル抗体と交差反応した。……BALB/cマウスをId-B4および/またはId-A1のキーホールリンペットヘモシアニン複合体により免疫することにより、顕著な力価の抗ルイスY抗体(Ab1様のAb3)が血清中に誘発された。」(224頁左欄)と、腫瘍細胞に発現される抗原であるルイスY抗原に対するモノクローナル抗体であるAH-6に対する抗イデオタイプモノクローナル抗体のId-A1、Id-B4について、これらはAH-6のルイスY抗原との結合を特異的に阻害するものであり、また、これらにより動物を免疫すると、AH-6様の抗ルイスY抗体が血清中に誘発されることが記載されている。また、これらのモノクローナル抗イディオタイプ抗体の作成方法について、「抗イディオタイプのハイブリドーマの生成 BALB/cマウスが、1日目にCFA中の100μgのモノクローナル抗体の複合体により、さらに、28日目にIFA中の同量の抗体複合体により、免疫化された。42日目に、マウスは同量の複合体によるブースト注入を受け、細胞融合がその3日後にP3U1細胞を融合相手とする標準的手法で行われた。ハイブリドーマの培養上清が、後述する酵素連携のサンドイッチ・イムノアッセイにより、Ab1(AH-6)との結合活性でスクリーニングされた。AH-6との結合活性を有するIgG1を産生する二つのハイブリドーマライン、Id-B4とId-A1、が、二つの独立した融合において得られた。」(225頁左欄下35?45行)と記載され、これらがAH-6とルイスY抗原との結合を阻害することを確認する試験について、「結合阻害試験 Ab2がAb1のもとの抗原との結合を阻害する活性を試験するために、その表面にルイスY抗原を強く発現するヒト胃癌培養細胞MKN-74が、グルタルアルデヒドを用いてウエルの底に固定された。これに対し、抗イディオタイプハイブリドーマ(Ab2)の培養上清とビチオニン化されたAb1が加えられ、次いでアビジン-過酸化酵素とサブストレートの溶液が加えられた。」(225頁左欄下22?16行)と記載されている。
刊行物3:IN VIVO,5,p.615-623(1991)
「抗イディオタイプガンワクチン:前臨床および臨床の研究」という表題の報文であり、抗イデオタイプ抗体を抗ガンワクチンとして用いること、及びその長所について、「ガンの活性のある免疫療法のアプローチにおいて、自己の不活化されたガン細胞、精製されたガン関連抗原(TAA)、及びTAAの内部像を有する抗イデオタイプ抗体(Ab2)が使用されてきた。これらにはそれぞれ長所と欠点がある。反応物の特異性はAb2が最も高い。これは、TAAが複数の抗原決定基を含み、ガン細胞が数多くの免疫原となる可能性があるTAAを発現するのに対し、Ab2はTAAの単一の抗原決定基を模倣するものであろうことによる。免疫寛容な状態のホスト、これには通常TAAに対して寛容なガン患者も含まれる、においては、Ab2は免疫を誘発するであろうが、TAAは誘発しないであろう。これは、マウスのAb2による免疫により、多糖抗原に対する免疫学的に非応答な状態が打破されることが示されることと類似している。抗体は、ガン由来成分が本質的にウイルスによる汚染の危険性を有するのに対し、比較的安全なワクチンの候補物である。更に、Ab2、特にモノクローナルなAb2、は大量に生産することが容易であるのに対し、自己ガン細胞はしばしば使用することができず、TAAは臨床的に意味のある純度に精製することが極めて難しい。多様なヒトTAAの内部像を有するAb2が実験動物においてTAAに特異的な免疫を誘発した。そのようなAb2調製物3種がすでにガン患者に適用されている。これらの研究を表1に要約する。このように、Ab2はヒトのガンに対する体液性及び細胞性免疫の、高度な特異性を有する調節剤である。しかしながら、Ab2ワクチンの臨床的な有効性は今のところ決定されていない。実験動物のガン系において、Ab2による免疫は、体液性及び細胞性の免疫だけでなく、ガンに対する防御免疫をも誘発した。」(615頁左欄下7行?右欄25行)と記載されいる。
刊行物4:METHODS IN ENZYMOLOGY,Vol.178,p.3-48(1989)
ジェルネらが提唱したイディオタイプネットワークに関するレビューであり、「ジェルネとその共同者によれば、Ab2αとAb2βの2種の抗イディオタイプ抗体を識別することができる。…Ab2β、または内部像抗イディオタイプ抗体、は、Ab1を産生するために用いた抗原を模倣する能力を有し、抗原に代替し、抗抗原応答を誘発することができる。Ab2αをAb2αとAb2γにサブグループ化する抗イディオタイプ抗体の代替的な分類が、ボナとコーラにより提案された。Ab2αは、非抗原結合部位のイディオトープを認識する。Ab2γは、抗原結合部位のイディオトープを認識するが、内部像ではなく、再帰性の株内あるいは種内のイディオトープにあたるものであろう。Ab2γは、抗原結合部位内のイディオトープを認識するという、Ab2βのそれと同様の特性を有するが、抗原の生物学的な模倣を示すことはできない。」(37頁20?35行、下線は合議体による)、「Ab2βとAb2γは、Ab1の抗原結合部位に結合する能力を共有する。この特徴は、阻害試験を用いて検出することができる。Ab1により認識される精製された抗原が入手可能であれば、それをELISAにおける固相被覆として用いることができる。…Ab2を含有する血清かハイブリドーマの上清が、Ab1の当該抗原被覆への結合を阻害する試みに用いられる。Ab1と抗原の結合の阻害は、標識されたAb1調製物を用いることにより検出することができる。定義に従えば、Ab2αはこのELISAにおいて結合を阻害しないであろうし、Ab2βとAb2γは結合を阻害しなければならない。これに代替する方法は、競合阻害ELISAにおいて、Ab2による抗原調製物の結合を阻害するために、最初にAb1による被覆を行うものである。抗原の結合は、Ab1あるいは当該抗原を認識する他の抗血清により検出することができる。Ab2βとAb2γは両方ともAb1と抗原の結合をブロックするが、これらの識別は、いくつかの異なる種から得られた当該抗原に対する抗血清を用いて、容易に行うことができる。…」(48頁5?30行)と記載されている。
刊行物5:Geburtshilfe Frauenheilkd.1990 Oct;50(10):785-8(特に785頁)
「イディオタイプ・ワクチンによる卵巣腫の免疫治療の試み」という表題の論文であり、785頁右欄11?17行に、「…誘導される抗体は、癌関連抗原の鏡像を保有し、それゆえ、癌に対する宿主の免疫応答を調整することができる。この系を誘導するために、我々は、卵巣上皮腫瘍の癌関連抗原CA125に対するモノクローナル抗体OC125を、F(ab’)2フラグメントとして使用した。」と記載されている。
刊行物6:J.Immunother.1992 Jan;11(1):56-66
「マウスモノクローナル抗体OC125のF(ab’)2フラグメントの静脈内および腹腔内投与に対するヒト抗体応答」という表題の論文であり、「我々は、マウスモノクローナル抗体OC125のF(ab’)2フラグメントの投与に続く、18名の患者の、マウスモノクローナル抗体に対するヒトの免疫応答(HAMA)を特性付けた。」(56頁要約1?3行)、「抗アイソタイプ応答が低い力価で短期間の傾向を示したのに対し、抗イディオタイプ応答は高い力価で、著しい持続性を有した。」(同15?17行)と記載されている。
刊行物7:Veterinary Immunology and Immunopathology,20(1988)1-14
「ウシヘルペスウイルス-1(BHV-1)モノクローナル抗体に対する抗イディオタイプ試薬の特性付け」という表題の論文であり、「当該モノクローナル抗体の精製されたF(ab’)2フラグメントが動物を免疫するために使用され、最大の抗イディオタイプ活性を有する血清がELISAにより同定された。」(1頁要約1?4行)、「BHV-1によるELISA阻害アッセイを用いて、抗イディオタイプ試薬が抗BHV-1モノクローナル抗体のBHV-1への結合を阻害したことは、抗イディオタイプ抗体が、当該モノクローナル抗体の抗原結合部位に結合することにより、97kDの糖タンパク質のエピトープを模倣するものであることを示している。」(同7?9行)と記載されている。
刊行物8:Hybridoma,Vol.9,No.2,1990,p.201-210(特に204頁下8?6行)
「オリゴサッカライドY特異的モノクローナル抗体とそのアイソタイプスイッチ変異体」という表題の論文であり、「モノクローナル抗体BR55-2により定義されるY抗原は、乳癌、…小細胞肺癌に限定された分布を有する。」(201頁要約3?5行)、「ヒト乳癌…の代表的なセルライン(MCF-7とSKBR5)が、モノクローナル抗体BR55-2、PRD8及びD156-45により定義される炭水化物の構造を含有する糖タンパク質の存在について、さらに試験された。乳癌セルラインMCF-7及びSKBR5は、これら3種の全てによって検出される、分子量6万から20万以上の糖タンパク質を表す一連の豊富なバンドを示した(第2図)。」(204頁37?44行)と記載されている。
(上記刊行物の記載中の下線は当審によるものである。)
(3-3)本願発明と刊行物1に記載された発明との対比
本願発明によるモノクローナル内部像抗イディオタイプ抗体は、「人における保護的抗癌免疫性の誘発を目的とする治療および予防的活性免疫化のためのルイスY癌関連抗原の代替物」(本願明細書【0056】)等として使用するためのものであり、より具体的には、本願明細書の【0030】に「内部像抗-idMab(Ab2)による免疫化により誘発される抗体(Ab3)は、Ab1と同様の結合特性を有する。従って、抗-idBR55-2Mabでの免疫化により引き起こされる免疫反応は、ルイスY抗原陽性癌細胞に特異的である。結果として、防御抗癌免疫は人において抗-idBR55-2Mabによる免疫化により誘発し得る。」と記載されているとおり、当該モノクローナル内部像抗イディオタイプ抗体(Ab2)をワクチンとして用いることにより、動物体内において当該モノクローナル内部像抗イディオタイプ抗体のAb1にあたるモノクローナル抗体BR55-2と同様の特異性を有する抗体(Ab3)を産生させ、当該Ab3がAb1と同様にルイスY抗原陽性癌細胞に特異的に結合することに基づく防御抗癌作用を得ようとするものである。
これに対して、刊行物1には、上述のとおり、腫瘍細胞に発現されるY-6抗原などの抗原に対するモノクローナル抗体であるBR55-2について、当該BR55-2の特異性を有するモノクローナル抗体を腺癌などの悪性疾患を抑制するために使用することが記載されている。
刊行物1に記載された発明と本願発明とを対比すると、本願明細書には、「BR55-2に特異性のあるモノクローナル抗体(例えば、ウィスター、欧州特許第285059号…参照)は、人の固体癌の大部分に選択的に発生する炭化水素決定基であるルイスY6抗原を同定する。」(本願明細書【0007】)と記載され、ここで引用されている欧州特許第285059号は日本国特許公報である刊行物1に対応する欧州特許明細書であることからみて、本願明細書におけるルイスY抗原はルイスY6抗原であり、刊行物1におけるY-6抗原に該当するものと認められるから、両者は、腫瘍細胞に発現されるルイスY抗原に特異的に結合するというモノクローナル抗体BR55-2の特異性を有する抗体を癌細胞抑制のために用いることに関する点で一致するが、
(3-3-1)刊行物1に記載された発明が癌細胞抑制のためにBR55-2自体を動物に投与するのに対し、本願発明ではBR55-2に対するモノクローナル内部像抗イディオタイプ抗体をワクチンとして動物に投与することにより、動物体内においてBR55-2の特異性を有する抗体を産生させ、当該抗体が癌細胞抑制のために働くものであり、そのためのモノクローナル内部像抗イディオタイプ抗体を製造する方法を特許請求の対象としている点で相異し、
また、
(3-3-2)本願発明による「BR55-2(Ab1)に対するモノクローナル内部像抗イディオタイプ抗体(Ab2)」が、モノクローナルマウス内部像抗イディオタイプ抗体(Ab2)であり、Ab1に対し10倍過剰またはそれ以下の濃度において、BR55-2マウスIg2aのルイスY陽性ヒト乳癌細胞系に対する結合阻害で評価したとき、95%またはそれ以上の阻害能を有するものである点、そして、
(3-3-3)そのような内部像抗イディオタイプ抗体を、(i)マウスをBR55-2/マウスIgG3-F(ab')2-KLH-接合体で免疫化し、(ii)その脾臓細胞をマウスミエローマ細胞系SP2/0と融合させ、(iii)阻害能95%またはそれ以上(BR55-2マウスIgG2aのSKBR5細胞系に対する結合阻害)のIgGを産生する培養ハイブリドーマ細胞を選択し、このハイブリドーマ細胞により抗イディオタイプ抗体を産生させ、この抗イディオタイプ抗体を単離、精製することにより、製造するものである点で相違する。
(3-4)本願発明と刊行物1に記載された発明との相異点についての判断
(3-4-1)モノクローナル内部像抗イディオタイプ抗体をワクチンとして用いる点について
この点に関し、刊行物3には、ガン関連抗原(TAA)の内部像を有する抗イデオタイプ抗体(Ab2)を抗ガンワクチンとして用いることが記載され、多様なヒトTAAの内部像を有するAb2が実験動物においてTAAに特異的な免疫を誘発し、実験動物のガン系において、体液性及び細胞性の免疫だけでなく、ガンに対する防御免疫をも誘発したことが記載されている。
ここで、「内部像」とは、本願明細書にも、「Ab1およびAb2の間の結合がAb1が引き寄せられる抗原により阻害される場合、抗原認識を司る抗体可変領域を含むため、イディオタイプは結合部位関連と見なされる。これらの形態的には疑似抗原エピトープであるイディオタイプは、これらのエピトープの内部像といわれる。」(特許公表公報2頁左下欄下4?1行)と記載されているように、もとの抗原のエピトープと形態的に類似する抗体のイディオタイプのことであり、このことから、「内部像を有する抗イディオタイプ抗体」とは、Ab1のイディオタイプに対して誘発された抗イディオタイプ抗体(Ab2)であって、もとのAb1を誘発する抗原のエピトープと形態的に類似する疑似エピトープをイディオタイプとして有する抗体を意味することは明らかであり、当該Ab2はもとの抗原と類似する疑似エピトープを有するから、もとの抗原が有するのと同様の免疫反応性を有し得、また、もとの抗原がAb1とAb2との結合を阻害するのと同様に、Ab2がもとの抗原とAb1との結合を阻害することも明らかである(この点については、本願明細書でも触れられているジェルネらが提唱したイディオタイプネットワークに関し、本願優先日前に頒布されたレビューである、引用刊行物4にも記載されている。)。
そして、刊行物2には、BR55-2と同じくルイスY抗原に対するモノクローナル抗体であるAH-6について、これを用いてマウスを免疫化することにより、これに対する抗イデオタイプモノクローナル抗体(Id-A1、Id-B4)を得たことが記載されているところ、これらの抗イデオタイプモノクローナル抗体はAH-6のルイスY抗原との結合を特異的に阻害するものであり、また、これらにより動物を免疫すると、AH-6様の抗ルイスY抗体が血清中に誘発されることから、刊行物2に記載された上記抗イディオタイプモノクローナル抗体はルイスY抗原の内部像を有する、モノクローナル内部像抗イディオタイプ抗体に他ならない。
してみると、刊行物3により、ガン関連抗原の内部像を有する抗イデオタイプ抗体を抗ガンワクチンとして用いること、及びその免疫療法としての長所が知られており、また、刊行物2により、他のモノクローナル抗体に対するものではあるが、ルイスY抗原に対してもモノクローナル内部像抗イディオタイプ抗体が実際に得られたことが知られていたのであるから、刊行物1に記載された発明において、癌細胞抑制作用を有する「BR55-2の特異性を有するモノクローナル抗体」を動物に投与することに替えて、当該抗体を動物体内において産生させるためのワクチンとして、BR55-2に対するモノクローナル内部像抗イデオタイプ抗体、すなわち、BR55-2とその抗原であるルイスY抗原との結合を特異的に阻害する程度にBR55-2との結合性が強いモノクローナル抗イデオタイプ抗体、を用いることは、刊行物1?4に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることと認められる。
この点につき、請求人は、審査段階での平成14年11月28日付の意見書において、「刊行物3(注.当該意見書では引例2)に記載の抗イディオタイプ抗体は、タンパク質や糖タンパク質に特異的なものであり、炭水化物、特にルイスY炭水化物に特異的なものでなく、刊行物3は、ルイスY決定基のような癌細胞の炭水化物決定基に対する抗イディオタイプ抗体が免疫化剤として合理的に使用できることを教示しないうえ、炭水化物は元来免疫原性が乏しいものと考えられているものであるから、刊行物3から、抗腫瘍免疫性を誘導するための免疫化用医薬として、ルイスY炭水化物の特性を有する抗イディオタイプ抗体を使用することは、到底予測することができない」旨、主張している。
しかしながら、本件については、ルイスY決定基に対するモノクローナル抗体BR55-2がすでに得られていたのであり、その抗腫瘍性も知られていたのであるから、仮にルイスY決定基の免疫原性が低いものであったとしても、そのことは、タンパク質である当該モノクローナル抗体を基に内部像抗イディオタイプ抗体を得るうえで障害になるはずはなく、むしろ、抗腫瘍性のBR55-2の特異性を有するモノクローナル抗体を誘発するためのもとの抗原に代わる免疫原性の高い抗原として、当該内部像抗イディオタイプ抗体を得ようとする動機付けにさえなり得るものであるから、請求人の上記主張は的を射ないものである。
(3-4-2)モノクローナル内部像抗イディオタイプ抗体の特定について
本願発明は、上記モノクローナル内部像抗イディオタイプ抗体を、上述の(3-3-2)の由来および特性を有するものに特定するものである。
しかしながら、刊行物2にも記載されているように、一般に、特定のモノクローナル抗体に対するモノクローナルな抗イディオタイプ抗体を得るために、当該モノクローナル抗体によりマウス等の動物を免疫し、当該免疫した動物の脾臓細胞に周知のハイブリドーマ法を適用し、得られた各種のハイブリドーマから、当該モノクローナル抗体と結合性を有するモノクローナル抗体を産生するクローンを選択する手法は、当業者によく知られており、また、特にモノクローナル内部像抗イディオタイプ抗体については、(3-4-1)で上述した、もとのモノクロ-ナル抗体とその抗原との結合を特異的に阻害するという内部像抗体の特性を利用して、例えば刊行物2にも記載されているようなもとの抗原を発現する細胞を用いた結合阻害試験を行い、もとのモノクロ-ナル抗体とその抗原との結合を特異的に阻害する程度に当該モノクロ-ナル抗体との結合性が強いモノクローナル抗体を産生するクローンを選択することによりこれを得ることは、当業者であれば容易に想起し得ることである(この点について、必要なら、刊行物4の48頁5?30行を参照されたい。)。
そして、本願発明において規定する(3-3-2)の特性については、例えばSKBR5細胞系などのルイスY陽性ヒト乳癌細胞系がBR55-2と結合することは、引用刊行物8にも記載されており、よく知られているから、ルイスY抗原として当該細胞系を選択し、内部像抗イディオタイプ抗体のスクリーニング系として、BR55-2のルイスY陽性ヒト乳癌細胞系への結合阻害試験を採用することは、当業者が適宜になし得ることである。また、その際にBR55-2としてBR55-2/マウスIgG2aを用いることも、格別のことではない。そして、内部像抗イディオタイプ抗体としては、上記阻害率が高い方がもとの抗原と形態的に近く、疑似抗原として好ましいことは明らかであると認められ、スクリーニングの基準を阻害率95%以上とすることも、本願明細書をみてもこの数値に格別の臨界的意義があるとも認められないから、当業者が適宜設定し得ることである。
(3-4-3)モノクローナル内部像抗イディオタイプ抗体の作成方法について
本願発明は、更に、上記(3-3-2)の由来、特性を有する本願発明のモノクローナル内部像抗イディオタイプ抗体を、上記(3-3-3)の製造法により、製造することを特徴とするものである。
これにつき、(3-4-2)で上述のとおり、一般に、特定のモノクローナル抗体に対するモノクローナルな抗イディオタイプ抗体を、当該モノクローナル抗体によりマウス等の動物を免疫し、当該免疫した動物の脾臓細胞に周知のハイブリドーマ法を適用し、得られた各種のハイブリドーマから、当該モノクローナル抗体と結合性を有するモノクローナル抗体を産生するクローンを選択することにより得ることは、当業者によく知られており、モノクローナル内部像抗イディオタイプ抗体を、もとのモノクロ-ナル抗体とその抗原との結合を特異的に阻害する程度に当該モノクロ-ナル抗体との結合性が強いモノクローナル抗体を産生するクローンを選択することにより得ることは、当業者であれば容易に想起し得ることである。
そして、本願発明において規定する上記(3-3-3)の(i)の点については、内部像抗イディオタイプ抗体は、もとの抗体の抗原決定基認識部位に対する抗体であるから、マウスを免疫化して当該内部像抗イディオタイプ抗体を誘発させるためには、理論上はもとの抗体の定常領域(Fc)は必要なく、抗原決定基認識部位が含まれるF(ab’)2の部分があれば十分であると認められ、実際、もとの抗体のF(ab’)2を免疫原として投与し、抗イディオタイプ抗体を得た事例は、例えば引用刊行物5?7にも記載されているとおり、多々知られている。
そして、KLHは、免疫原の担体として常用のものであるから、F(ab’)2にこれを結合したものを免疫原とすることも、当業者が適宜になし得ることである。
また、(3-3-3)の(ii)の点については、マウスミエローマ細胞系SP2/0は、モノクローナル抗体を得るためのハイブリドーマ細胞を作製する際の常用の細胞である。
そして、(3-3-3)の(iii)の点について、ルイスY抗原としてSKBR5細胞系を選択し、内部像抗イディオタイプ抗体のスクリーニング系として、BR55-2のSKBR5細胞系への結合阻害試験を採用すること、その際にBR55-2としてBR55-2/マウスIgG2aを用いること、そして、スクリーニングの基準を阻害率95%以上とすることは、(3-4-2)に上述のとおり、当業者が適宜なし得ることである。
従って、上記(3-3-3)の(i)、(ii)および(iii)の点は、当業者がモノクローナル抗体BR55-2(Ab1)に対するモノクローナルマウス内部像抗イディオタイプ抗体(Ab2)を作製するにあたり、それぞれ公知の具体的な手段を採用したものであるといえる。
(3-4-4)本願発明の奏する効果について
本願明細書には、本願発明の方法により得られたと認められるモノクローナル内部像抗イデオタイプ抗体(明細書【0024】、【0025】)のうち、抗-idBR55-2♯E4について、当該抗体を用いてウサギ並びにアカゲザルを免疫して得られた血清ないし精製Ig(Ab3)がBR55-2と同様にSKBR細胞等のルイスY抗原陽性ガン細胞並びに抗-idBR55-2♯E4に結合すること、当該精製Ab3によりBR55-2と同様にヒトPBMCによるSKBR細胞に対する抗体依存性細胞毒性(ADCC)が媒介されること(図26)、また、BR55-2により媒介される補体依存性細胞毒性が抗-idBR55-2♯E4により阻害されること(図38)が記載されている。
本願明細書に記載された本願発明によるモノクローナル内部像抗イデオタイプ抗体の有するこれらの効果は、本来BR55-2が有することが知られていた効果の範囲内のものであり、また、刊行物3の記載から、そのモノクローナル内部像抗イデオタイプ抗体が有することが期待される効果を超えるものではない。
また、本願明細書を見ても、本願発明は、上記(3-3-3)の(i)、(ii)および(iii)の具体的な手段を採用することにより、初めて実施し得る、すなわち、他の免疫手段、ハイブリドーマ細胞作製手段、および/またはスクリーニング手段を用いた場合では、本願発明のモノクローナルマウス内部像抗イディオタイプ抗体(Ab2)が得られないものであるとも認められない。
(3-5)請求人の主張について
(3-5-1)これにつき、審判請求人は、上記補正書と同時に提出した平成17年11月30日付の意見書において、当審が引用した刊行物3の621頁右欄25行?622頁左欄末5行に、「抗癌免疫応答の調節剤としてのAb2の可能性は確立されているが、ここで検討した研究において、多くの重要な問題点が未解答のまま残っている」として、未解決の問題点が列記されていること、また、請求人が提出した参考資料1(J.Immunol.,Vol.148,821-826(1992))に、CD4に対する抗体Leu-3aの4つの抗イディオタイプ抗体のうちの一つがマウスにおいて抗CD4レスポンスを誘導したが、他の種では誘導しなかった旨が記載され、同じく参考資料2(Waxenecker博士の宣誓書)には、免疫法で得られた抗体がすべてルイスY特異抗体のルイスY結合を阻害する能力を有するとは限らないことが実験的に証明されていることを根拠として、
(i)「特定の癌抗原に対する抗イディオタイプ抗体を提供することは、一般的には知られていたと言ってもよいものであるが、現実問題として、抗癌免疫性を付与できるワクチンに使用可能な、「真の」抗イディオタイプ抗体(すなわち、抗原の真のミモトープ)を得ることは、決して容易なことではなく、解明されなければならない多くの問題点が残されていた。…これは、免疫法で得られた抗体がワクチンとして現実に使用可能であるような結合阻害能を有しているとは限らないことに起因するものである。」と主張し、
(ii)「本願発明の目的物である内部像抗イディオタイプ抗体についての阻害能に基づく限定は、抗癌免疫性を付与するワクチンとして使用できる内部像抗イディオタイプ抗体を得るための必須条件であり、本願発明の重要な特徴である。刊行物1?8のいずれにも、BR55-2/マウスIgG3-F(ab')2-KLH-接合体で免疫化したマウスの脾臓細胞をマウスミエローマ細胞系SP2/0と融合させて得られたハイブリドーマにより産生されるIgGについて、特定の阻害能によるスクリーニングを経ない限り、有用な内部像抗イディオタイプ抗体を得ることができないことを開示または示唆する記載は存在しない。従って、刊行物1?8から本願発明を想到することは困難であり、本願発明は特許性を有するものと思料する。」と主張する。
(3-5-2)しかしながら、
(i)刊行物3に列記された問題点は、a)ワクチン接種の候補として、Ab1上の非結合部位関連のイディオトープ(フレームワーク領域)に結合するAb2ではなくて、結合部位に関連するAb2(内部像Ab2)を選ぶべきこと、b)ポリクローナルなAb2を調製すると、抗体のある割合しか抗原を模倣しないため、誘発される抗原特異的なAb3の割合を高めるためには、パラトピックなモノクローナルAb2を用いるべきこと、c)生体内でAb2に対する十分な免疫応答を得るために、適切なアジュバントを使用すべきこと、d)生体内でAb2のFc部分に起因する不要な免疫応答を避けるべきこと、というものであり、いずれも、Ab1による免疫で内部像Ab2が産生されること自体を否定するものではない。
また、参考資料1には、上述のとおり、CD4に対する抗体Leu-3aの4つの抗イディオタイプ抗体のうちの一つがマウスにおいて抗CD4レスポンスを誘導したが、他の動物種では誘導しなかった旨が記載され、このことから、抗体Leu-3aについては内部像抗体が得られなかったことが考察されているが、一方、刊行物3には、(3-2)、(3-4-1)で上述したとおり、すでに多数のヒトTAAの内部像を有するAb2が実験動物においてTAAに特異的な免疫を誘発したことが示されており、参考資料1の特定の抗体に関する否定的な記載1つをもって、Ab1一般について、これによる免疫で内部像Ab2が産生されることが稀れであるということにはならない。
(ii)請求人は、本願発明に規定する方法によらない限り、有用な内部像抗イディオタイプ抗体を得ることができない旨、主張するが、上述の参考資料2の実験報告書の実験結果は、請求人も認めるとおり、本願発明の方法によりマウスを免疫して得た抗イディオタイプ抗体の全てが、必ずしも所望の特異性(本願発明の場合、BR55-2/マウスIgG2aのルイスY陽性ヒト乳癌細胞系に対する結合を95%以上阻害する能力)を有していない事実を証明しようとするものであり、免疫化により種々のタイプの抗イディオタイプ抗体が生じ、内部像抗体のみが生じるとは限らないことを示すに過ぎないものであって、BR55-2/マウスIgG3-F(ab')2-KLH-接合体で免疫化したマウスの脾臓細胞をマウスミエローマ細胞系SP2/0と融合させて得られたハイブリドーマにより産生されるIgGについて、内部像抗体のスクリーニング手段としてルイスY陽性ヒト乳癌細胞系を用いることにより、はじめて本願発明の内部像抗体が得られることを示すものとはいえず(実際、当該実験は、スクリーニング手段として合成LeYを用いるものであり、ルイスY陽性ヒト乳癌細胞系を用いてすらいない。)、また、95%以上の阻害能力を有するものを選択することにより、内部像抗体として予期しがたい格別のものが得られることを示すものともいえない。
すなわち、「BR55-2に対するモノクローナル内部像抗イデオタイプ抗体」であって、上記(i)?(iii)の手法により得られるものは、この手法に限らず、例えばAH-6について刊行物2に記載されているように、BR55-2により動物を免疫し、当該免疫した動物の脾臓細胞に周知のハイブリドーマ法を適用し、各種のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得、当該ハイブリドーマから、内部像抗イディオタイプ抗体ともとの抗体との周知の特異的な結合性を利用して、周知の結合阻害試験により、BR55-2とその抗原であるルイスY抗原との結合を特異的に阻害する程度にBR55-2との結合性が強い抗イデオタイプのモノクローナル抗体を産生するクローンを選択することによっても、得ることができないとはいえないから、請求人の上記主張は根拠がない。
請求人の上記主張が、免疫をF(ab’)2を用いて行うことにより、内部像抗体を得る確率を高めることができたということであるのならば、免疫により抗イディオタイプ抗体を得るのにF(ab’)2を用いることは刊行物5?7にも記載されるとおり通常の手法であり、また、上記(i)で述べたとおり、生体内で抗イディオタイプ応答を得る際は、Fc部分に起因する不要な免疫応答を避けるべきことは、刊行物3に記載され、当業者に知られていたものといえるから、そのような効果が得られたとしても、そのことは、当業者が容易に予測し得る範囲のことであり、格別の効果とはいえない。
なお、請求人の上記主張が、仮に、本願発明で定義した阻害能を有する抗イディオタイプ抗体が、刊行物2に記載されている免疫法や、刊行物5?7に記載されているF(ab’)2を用いる免疫法によっても、生成すること自体がまれであり、同じ方法を適用しても必ずしも生成するとは限らないということを主張するものであるなら、先の当審による拒絶理由通知書においても指摘したように、本願明細書には当業者が本願発明のモノクローナル内部像抗イディオタイプ抗体を再現性をもって作成(スクリーニングでなく、作成)できる程度に記載されていないという、特許法第36条第4項違反の瑕疵が存在することになる。
(3-6)結論
そうすると、本願発明による内部像抗体は、引用刊行物1?4および8に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであり、本願発明の方法は、本願発明1の内部像抗イディオタイプ抗体を製造するにあたり、刊行物5?7などにより周知の当業者が通常用いる範囲内の手法を採用したものであり、これにより予測しがたい格別の効果が得られるものともいえないから、本願発明は、引用刊行物1?8に記載された発明及び本願優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-06-28 
結審通知日 2006-07-04 
審決日 2006-07-18 
出願番号 特願平10-249573
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C12P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平田 和男引地 進深草 亜子  
特許庁審判長 種村 慈樹
特許庁審判官 佐伯 裕子
鵜飼 健
発明の名称 ルイスY-特異的モノクローナル抗体BR55-2に対する抗イディオタイプモノクローナル抗体およびその使用  
代理人 岩崎 光隆  
代理人 青山 葆  
代理人 小島 一晃  
代理人 中嶋 正二  

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