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審決分類 審判 査定不服 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41N
管理番号 1147925
審判番号 不服2003-8971  
総通号数 85 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-05-20 
確定日 2006-11-27 
事件の表示 平成 5年特許願第203289号「高感度感熱孔版印刷原紙用ポリエステルフィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 2月28日出願公開、特開平 7- 52573〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成5年8月17日の出願であるが、平成15年4月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対し同年5月20日付けで拒絶査定に対する審判請求がされたものである。
当審において、これを審理した結果、平成18年3月28日付けで拒絶の理由を通知したところ、請求人は同年5月16日付けで意見書及び手続補正書を提出した。
そして、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記平成18年5月16日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである。

「【請求項1】 下記式(1)?(4)を同時に満足し、融点が150?240℃、厚みが0.5?3μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを和紙とラミネートした感熱孔版原紙であって、当該感熱孔版原紙の常温カール径および50℃カール径がそれぞれ18mm以上、常温カール径と50℃カール径の比が1.0?2.0であることを特徴とする高感度感熱孔版印刷原紙。
18≦S≦25 ………(1)
200≦F≦260 ………(2)
0.02≦Ra≦0.3 ………(3)
0.100≦ΔP≦0.150 ………(4)
[上記式中、Sは100℃で10分間処理後の加熱収縮率(%)、Fは100℃で10秒間後の加熱収縮応力(g/mm2)、Raは中心線平均粗さ(μm)、ΔPは面配向度を表す]」

第2 理由
2-1.当審における拒絶理由
当審において通知した平成18年3月28日付けの拒絶理由は、以下のとおりである。

「本件出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項乃至第6項に規定する要件を満たしていない。


A.請求項1に記載された発明は、高感度感熱孔版印刷原紙用フィルムとして、100℃で10分間処理後の加熱収縮率(S)と100℃で10秒間後の加熱収縮応力(F)とに関して、16≦S≦40、80≦F≦270、3000≦S×F≦7500であり、さらに中心線平均粗さ(Ra)が0.02≦Ra≦0.3、面配向度(ΔP)が0.100≦ΔP≦0.150である二軸延伸ポリエステルフィルムを用いることを構成要件とするものであるところ、実施例と比較例との試験結果の間にはこれら五式以外にもいろいろな直線又は曲線を用いて規定することが可能であることに加えて、これら五式が規定する範囲は広範囲に及ぶものであり、これら数式を満たすものがすべて穿孔感度及び耐カール性に優れ、印刷時の画像の解像度、濃度に優れた効果を奏するとの心証を得るには実施例が十分ではなく、また他に本件明細書の記載及び当該分野の技術常識に照らして、上記五式を満足するものが上記の優れた効果を奏するとの確証を得られるものではなく、上記五式がどのようにして導き出されたのか、その根拠、理由が不明であるから、結局特許を受けようとする発明、すなわち請求項1に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載されたものとは認めることはできず、したがって本件明細書の特許請求の範囲の記載は、平成6年改正法前特許法36条5項1号の規定に違反するものである。

B.請求項1には「常温カール径および50℃カール径がそれぞれ18mm以上、常温カール径と50℃カール径の比が1.0?2.0の二軸延伸フィルム」なる記載がある。
これに対応する明細書の「【0022】(4)常温カール 1.5μmのポリエステルフィルムに支持体としてマニラ麻の繊維からなる和紙を用い、接着剤としてビニル系樹脂をトルエンに溶解したものを用い、該フィルムと和紙をラミネートし、50℃のエアーオーブンで10秒間乾燥し感熱孔版原紙を得た。得られた原紙をB4サイズに切り、これをフラットな台上にフィルム面を上に置き、25℃で24時間後のカール径を測定した。 (5)50℃カール 常温カール測定時と同様の方法で感熱孔版原紙を作成し、得られた原紙をB4サイズに切り、これをフラットな台上にフィルム面を上に置き50℃-湿度90%の恒温恒湿中で1週間処理した後のカール径を測定した。」によれば、常温カールおよび50℃カールは1.5μmのポリエステルフィルムを支持体であるマニラ麻の繊維からなる和紙に接着剤を介して設けることで感熱孔版原紙を得て、特定条件で乾燥後特定サイズに裁断し、フィルム面を上にしてフラットな台に置き、さらに特定条件で配置後にカール径を測定することが理解できるけれども、この場合に得られた常温カール径および50℃カール径は感熱孔版原紙における測定値であること(ポリエステルフィルムにおける測定値ではない)に加え、特定な測定条件下で得られるものであり、さらにカール径がどこを測定したものであるかも不明であるから、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみからなるものであるとはいえないものとなり、本件明細書の特許請求の範囲の記載は、平成6年改正法前特許法36条5項2号および6項の規定に違反するものである。」

2-2.特許請求の範囲の記載不備
*当審の拒絶の理由Bについて
請求項1における「高感度感熱孔版印刷原紙」は、「式(1)?(4)を同時に満足し、融点が150?240℃、厚みが0.5?3μmの二軸延伸ポリエステルフィルム」と「和紙」とをラミネートしてなるものであることが規定され、かつ「当該感熱孔版原紙の常温カール径および50℃カール径がそれぞれ18mm以上、常温カール径と50℃カール径の比が1.0?2.0である」ことが特定された。
ここで、当該技術分野において、「和紙」は感熱孔版印刷原紙を構成する多孔性支持体として周知慣用のものであること、及び「和紙」(多孔性支持体)は該感熱孔版印刷原紙のカール性や印字特性等に影響を与えるものであることから、少なくとも「和紙」の厚さや坪量が明確にされる必要があるにもかかわらず、請求項1における「高感度感熱孔版印刷原紙」を構成している「和紙」は何ら特定がないものであり、依然として本願請求項1は特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみからなるものではない。
そして、感熱孔版印刷原紙において「常温カール径および50℃カール径がそれぞれ18mm以上、常温カール径と50℃カール径の比が1.0?2.0である」とすることは、多孔性支持体である「和紙」が不明でありながら特定な測定条件下で測定されたものであって、多孔性支持体である「和紙」が不明であるがゆえに、この特定の意味するところが不明瞭である。
さらに、該感熱孔版印刷原紙において測定されたカール径はどこを測定したものであるかについても意見書では言及がなかったものである。
したがって、本願明細書の特許請求の範囲の記載は平成6年改正法前特許法第36条第5項第2号及び第6項の規定を満たさないものである。

2-3.特許請求の範囲と発明の詳細な説明とにおける記載不備
2-3-1.本願明細書の発明の詳細な説明について
本願明細書の発明の詳細な説明には、従来の感熱孔版印刷原紙はポリエステル等の熱可塑性樹脂フィルムに多孔性薄用紙をラミネートしたものを使用しており、フィルム製造時および原紙作成時の取り扱い性および生産性に優れること、多孔性薄葉紙とのラミネートおよび印刷時の作業に十分耐え得る強度、弾性率を有すること、またかかるラミネート条件あるいは保存中の温湿度変化によりカールが生じないこと、熱穿孔感度が良いこと、多数回製版時においても熱穿孔感度が低下しないこと、熱穿孔の階調性が良いこと等が要求されてきたこと(本願明細書【0002】,【0003】)、従来技術におけるこのような課題の存在に鑑み、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された構成を採用することにより、好適な感熱孔版印刷原紙用フィルムを得ることができること(同【0005】,【0006】)、本願発明のポリエステルとして単一成分で構成されるホモポリマー同士、ホモポリマーと2種以上の成分を含む共重合体および該共重合体同士のブレンドポリエステルが好ましいこと(同【0008】)、本願発明のポリエステルフィルムの融点が150?240℃の範囲外にあると高度な穿孔感度が得られなかったり、フィルムの耐熱寸法安定性が悪化してカールが発生したり、印刷画像の階調性が劣ったりすること(同【0009】)、本願発明のポリエステルフィルムの厚みが0.5?3μmの範囲外にあると印字が不鮮明で濃淡むらが生じやすく、かつ耐刷性も著しく低下したり、穿孔性が悪化するため印刷時にむらが生じること(同【0010】)、本願発明のポリエステルフィルムにおける100℃で10分間処理後の加熱収縮率(S)が18?25%の範囲外にあると穿孔感度が不足して印刷時の画像濃度が低下したり、穿孔むらが生じやすくなること(同【0011】)、本願発明のポリエステルフィルムにおける100℃で10秒間処理後のフィルムの加熱収縮応力(F)が200?260g/mm2の範囲外にあると穿孔時に穴が広がる力が不足して、印刷時に鮮明な画像が得られるほどの十分な大きさを有する穿孔が得られなったり、太さむら、濃淡むらあるいは寸法変化が生じること(同【0011】)、本願発明のポリエステルフィルムにおける加熱収縮率と加熱収縮応力の積(S×F)が3000?7500の範囲外にあると穿孔時に穴が広がる力が不足して鮮明な画像が得られるほどの十分な大きさの穿孔が得られなかったり、カールが発生して原紙の取り扱い性及び搬送性が悪化すること(同【0012】)、本願発明では常温カール径と50℃カール径が18mm未満である孔版印刷機内での原紙の搬送性が不良となり、原紙詰り等のトラブルが生じる恐れがあること(同【0012】)、本願発明では常温カール径と50℃カール径の比が1.0?2.0の範囲外にあるとラミネート条件あるいは保存中の温湿度変化によりカールが生じやすくなること(同【0012】)、本願発明のポリエステルフィルムにおける中心線平均粗さ(Ra)が0.02?0.3μmの範囲外にあると作業性や印刷時の解像度、印字品位性を満足しないこと(同【0015】)、本願発明のポリエステルフィルムにおける面配向度(ΔP)が0.100?0.150の範囲外にあると穿孔時に太さむら、濃淡むらあるいは寸法変化が生じたり、印刷時の解像度や印字品位性が劣ること(同【0018】)が記載されている。
そして、上記【0005】,【0006】によれば、本願発明の構成(請求項1に記載された要件)を全て満足することが従来技術の有する課題を解決するために不可欠な条件であるとされているものの、本願明細書の実施例以外には、当該課題を解決できることが当業者において認識できることの裏付けになる記載は存在しない。

2-3-2.発明の詳細な説明に記載された発明と特許請求の範囲に記載された発明との対比
*当審の拒絶の理由Aについて
実施例を中心に、特に本願明細書の【0035】及び【0036】における表1及び2の記載を、より詳細に検討する。
高感度感熱孔版印刷原紙を形成する二軸延伸ポリエステルフィルムを評価するにあたって、物性項目として表1には「融点(℃)」、「ΔP(面配向度)」、「Ra(中心線平均粗さ(μm))」、「S(100℃で10分間処理後の加熱収縮率(%))」、「F(100℃で10秒間後の加熱収縮応力(g/mm2))」、「S×F」、同じく表2には「常温カール径(mm)」、「50℃カール径(mm)」、「カール径常温/50℃(常温カール径と50℃カール径の比)」の欄が設けられ、評価項目として「原紙実用特性」の例示である「穿孔感度」、「印字品位性」の欄が設けられている。
そして、上記物性項目の測定値に関して、本願明細書には「融点(℃)」が150℃?240℃であること(【0009】)、「ΔP(面配向度)」が0.100以上0.150以下であること(【0018】;請求項1における式(4)に相当。)、「Ra(中心線平均粗さ(μm))」0.02以上0.3以下であること(【0015】;請求項1における式(3)に相当。)、「S(100℃で10分間処理後の加熱収縮率(%))」が18以上25以下であること(【0011】;請求項1における式(1)に相当。)、「F(100℃で10秒間後の加熱収縮応力(g/mm2))」が200以上260以下であること(【0011】;請求項1における式(2)に相当。)、「S×F」が3000以上7500以下であること(【0012】)、「常温カール径(mm)」及び「50℃カール径(mm)」が18mm以上であること(【0012】)、「カール径常温/50℃(常温カール径と50℃カール径の比)」が1.0?2.0であること(【0012】)が好ましいことが記載されている。
ここで、表1及び2をさらに注視すると、上記物性項目の測定値において、「ΔP(面配向度)」が0.121以上0.125以下である場合、「S(100℃で10分間処理後の加熱収縮率(%))」が18以上25以下である場合、「F(100℃で10秒間後の加熱収縮応力(g/mm2))」が200以上260以下である場合、「S×F」が3600以上6500以下である場合、及び「カール径常温/50℃(常温カール径と50℃カール径の比)」が1.1?1.6である場合の少なくとも一つの場合を満たせば、上記評価項目である原紙実用特性が良好な結果となりうることが把握できる。
してみると、好ましい感熱孔版印刷用フィルムを得るための条件が、どの物性項目によって定められるものであるか窺い知ることができないものである。つまり、好ましい感熱孔版印刷用フィルムを得るために、上述の表1及び表2を注視して把握できる場合である「ΔP(面配向度)」が0.121以上0.125以下であること、「S(100℃で10分間処理後の加熱収縮率(%))」が18以上25以下であること、「F(100℃で10秒間後の加熱収縮応力(g/mm2))」が200以上260以下であること、「S×F」が3600以上6500以下であること、及び「カール径常温/50℃(常温カール径と50℃カール径の比)」が1.1?1.6であることを全て満たす必要があるのか、あるいは上述の表1及び表2を注視して把握できる場合よりも広い数値範囲を有する場合を含んでいる本願発明の構成(請求項1に記載された要件)を全て満たす必要があるのか、それとも「S(100℃で10分間処理後の加熱収縮率(%))」が18以上25以下であること(上記式(1))及び「F(100℃で10秒間後の加熱収縮応力(g/mm2))」が200以上260以下であること(上記式(2))のみを満たすだけで十分であるのか、はたまた上述の表1及び表2を注視して把握できる場合のうちの一つの場合だけ、例えば「ΔP(面配向度)」が0.121以上0.125以下である場合を満足するだけでいいのか等が明らかであるように本願明細書には記載されていない。
さらにいうなれば、当該技術分野において、同様の感熱孔版印刷実用特性をえるための物性項目として、原査定に引用された特開平5-116215号公報では100℃?160℃におけるフィルム縦方向の最大熱収縮応力YMD(g/mm2)及びYTD(g/mm2)を基にした「(YMD+YTD)/2」や「YTD/YMD」等を用いて、本願実施例と同様の評価(原紙実用特性としての穿孔感度、印字品位性)をしていることから、感熱孔版印刷用フィルムが良好な感熱孔版印刷実用特性を備えるためには、必ずしも上記物性項目で測定された物性値でのみ特定されるものであるのか否かも不明である。
また、本願明細書には、上記物性項目について、それらがどのように導出されたかについて何ら根拠が示されておらず、当然のことながら、本願発明の構成のようにそれら物性項目を組み合わせることの根拠についても何ら開示されていない。

ついで、「高感度感熱孔版印刷原紙」を構成している「和紙」について述べる。
上記「2-2.特許請求の範囲の記載不備」のとおり、請求項1における「和紙」については何ら特定されていないものである。
他方、本願明細書の実施例の表2によると、測定された「常温カール径」、「50℃カール径」、「常温カール径と50℃カール径の比」、及び「原紙実用特性」としての「穿孔感度」や「印字品位性」を評価する記載がある。
しかしながら、多孔性支持体である「和紙」がどのようなものであるか皆目見当が付かないものであるにもかかわらず、そのような「和紙」を多孔性支持体として用いた感熱孔版印刷原紙を測定し、そこで得られた常温カール径や50℃カール径及びそれらの比となる値を求めて、印字特性が優れるか否かと評価することは如何なる意味をもつものであるのか定かでない。
さらに、本願発明の実施例として4つの具体例があげられ、それらが好ましい感熱孔版印刷原紙であると評価されている特定の物性条件さえ満たせば、多孔性支持体がどのような和紙であろうと所望のカール性や印字特性が得られると当業者が認識することができないものであることに加えて、本願明細書の発明の詳細な説明にも和紙について十分に記載されていないものであるから、どうすれば所望の効果を得ることができるのかが裏付けられていないものである。

よって、本願発明の構成を全て満たすことにより、上記所望の感熱孔版印刷原紙用ポリエステルフィルムを設けた高感度感熱孔版印刷原紙が得られるというものであるところ、本願請求項1に記載された構成を全て満足することが、本願明細書及び本願出願時の技術常識に照らして、具体例の開示が無くとも当業者に理解できるものであったことを認めるに足りる証拠はない。
したがって、本件明細書の特許請求の範囲の記載は、平成6年改正法前特許法36条5項1号の規定に違反するものである。

2-4.当審の判断
上記のとおりであるから、当審の拒絶の理由が依然として解消されておらず、当審の拒絶の理由は妥当である。

第3 むすび
以上のとおり、本願請求項1の記載が明細書のサポート要件に規定する要件を満たしていないもの(特許法第36条第5項第1号違反)であるし、特許請求の範囲の記載が不明瞭である(特許法第36条第5項第2号及び第6項違反)から、本願発明は特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-10-02 
結審通知日 2006-10-04 
審決日 2006-10-17 
出願番号 特願平5-203289
審決分類 P 1 8・ 534- WZ (B41N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中澤 俊彦  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 藤井 勲
長島 和子
発明の名称 高感度感熱孔版印刷原紙用ポリエステルフィルム  

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