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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16H
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16H
管理番号 1147935
審判番号 不服2004-6279  
総通号数 85 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-04-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-03-29 
確定日 2006-11-27 
事件の表示 平成 6年特許願第261565号「歯車」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 4月23日出願公開、特開平 8-105514〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成6年9月30日の出願であって、平成16年2月20日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年3月29日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年3月29日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成16年3月29日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成16年3月29日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】歯のシェービング工程,歯の研磨工程により仕上げ加工されて製作される歯車において、前記シェービング工程,歯の研磨工程で切削される切削代を熱処理による変形を考慮するとともに切削のサイクルタイムが減少可能な形状であって、歯車の使用時に噛合する範囲となる歯面部位のみにあらかじめ鍛造工法,圧造工法またはサイジング工法等で造形したことを特徴とする歯車。」
と補正された。(なお、下線は請求人が附したものであって、補正箇所を示すものである。)
上記補正は、請求項1に記載した発明の「切削代」について「熱処理による変形を考慮するとともに切削のサイクルタイムが減少可能な形状であって」との限定を付加するものであって、特許法第17条の2第3項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)刊行物に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭63-251128号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「リングギヤを製造するための方法」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。

(ア)「(1)重荷重駆動車軸におけるリングギヤ/ピニオンギヤのギヤセット用のリングギヤを製造する方法であって、該方法が、リングギヤ準鍛造品(106)を準備し、該リングギヤ準鍛造品の歯側面および歯元面がその後研磨によって取り除かれる十分な削りしろ部分を有しており、前記歯元面および歯側面以外の前記リングギヤ準鍛造品の表面を仕上げ機械加工(90)し、前記機械加工されたワークピースを浸炭熱処理(92)するようにし、前記ギヤの歯元面と歯側面を最終の仕上げ形状に研磨(94)する、各工程を含むリングギヤを製造するための方法。」(第1頁左下欄5行?19行)
(イ)「(5)研磨作業において、0.030インチよりも少ない分だけ材料が削り取られることを特徴とする特許請求の範囲第1項又は第2項記載の方法」(第1頁右下欄12行?15行)
(ウ)「本明細書に用いられるように、「精密鍛造」およびその派生語は「正味部品」すなわち、鍛造したままで(熱処理その他の非切削加工工程を受けて)使用し得る部品または「ほぼ正味部品」すなわち、機能表面から0.030インチ以下の材料除去を通常必要とする鍛造品を製造し得る(即ち圧力下で加工品を塊状で変形させる)鍛造法を意味する。」(第4頁左上欄3行?10行)
(エ)「ギヤ準鍛造品を精密鍛造する工程86」(第6頁右下欄19行?20行)
(オ)「以下にさらに詳細にのべるように、重要な特徴として、仕上ギヤ歯形の仕上研磨工程96がリングギヤ(およびピニオンギヤ)の最終熱処理工程92の後に行なわれ、これがため、歯形状が後の熱処理において変形されない。」(第7頁左上欄5行?10行)

以上の記載事項及び図面の記載からみて、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(引用発明)
「研磨によって取り除かれる十分な削りしろ部分を有しているリングギヤ準鍛造品を準備し、浸炭熱処理し、その後ギヤ面を最終仕上げ形状に研磨するリングギヤを製造するための方法。」

(3)対比・判断
本願補正発明と引用発明とをそれぞれの有する機能に照らしつつ対比すると、引用発明の「ギヤ面を最終仕上げ形状に研磨する」ことは、本願補正発明の「歯の研磨工程により仕上げ加工」して「製作」することに相当する。 そして引用発明の「研磨によって取り除かれる十分な削りしろ部分」は、本願補正発明の「歯の研磨工程で切削される切削代」に相当する。
また引用発明においては、ギヤ準鍛造品を精密鍛造する工程を有し(摘記事項(エ)参照)、精密鍛造は機能表面から0.030インチ以下の材料除去を通常必要とする鍛造品を製造し得る鍛造法をも意味する(摘記事項(ウ)参照)ことから、引用発明の「準鍛造品を準備」することは、「切削代を」「あらかじめ鍛造工法で造形」することに相当する。
ここで、本願補正発明の「鍛造工法,圧造工法またはサイジング工法等で」は何れかの工法であればよいのであるから、結局引用発明の「準鍛造品を準備」することは、本願補正発明の「切削代を」「あらかじめ鍛造工法,圧造工法またはサイジング工法等で造形」することに相当する。
さらに、引用発明の「リングギヤ」は、本願補正発明の「歯車」に相当し、引用発明も「歯車」自体の技術事項を包含している。
したがって、本願補正発明と引用発明は本願補正発明の用語を使用して記載すると下記の一致点及び相違点を一応有している。

(一致点)
「歯の研磨工程により仕上げ加工されて製作される歯車において、歯の研磨工程で切削される切削代をあらかじめ鍛造工法,圧造工法またはサイジング工法等で造形した歯車。」
(相違点1)
仕上げ加工が、本願補正発明では「歯のシェービング工程,歯の研磨工程」であるのに対し、引用発明では「歯の研磨工程」である点。
(相違点2)
切削代を、本願補正発明では、「熱処理による変形を考慮する」「形状」とするのに対し、引用発明では、そのような考慮をしているか否か明らかでない点。
(相違点3)
切削代を、本願補正発明では、「切削のサイクルタイムが減少可能な形状であって、歯車の使用時に噛合する範囲となる歯面部位のみ」に設けるのに対し、引用発明では、そのようになっているか否か明らかでない点。

以下、上記相違点について検討する。
(相違点1について)
歯車の分野においては、歯の仕上げ加工を行う場合に、歯のシェービング工程も歯の研磨工程と共に普通に行われている工程である。したがって、引用発明においても、歯のシェービング工程,歯の研磨工程によるとすることにより、上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たものに過ぎない。

(相違点2について)
引用発明では、研磨工程を最終熱処理工程の後に行っており(摘記事項(オ)参照)、熱処理による変形を研磨により修正する技術思想が示唆されていると認められる。したがって、上記技術思想を鑑みると、引用発明において、切削代を設ける際に熱処理による変形を考慮することにより、上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が格別の創意なくなし得たものである。

(相違点3について)
歯車の使用時に噛合しない範囲に切削代を設けないことは、歯の仕上げ加工を行う場合において周知技術に過ぎないものである(例、特開昭57-204366号公報の第2頁右上欄18行?左下欄11行及び第6図、特開平5-318234号公報の段落【0010】?【0012】、【0015】及び図4参照)。そして、引用発明も上記周知技術も共に歯の仕上げ加工に関する技術と捉えることが出来るから、引用発明の「切削代」を上記周知技術のごとく「歯車の使用時に噛合する範囲となる歯面部位のみ」に設けることに格別の困難性は認められない。またその際に、切削代が減少することによって切削のサイクルタイムも当然減少することを鑑みると、切削のサイクルタイムが減少可能な形状とすることは当業者が適宜なし得たことに過ぎないものである。
したがって、結局、引用発明に周知技術を適用することにより、上記相違点3に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

これらの相違点に関連して請求人は、審判請求書の請求の理由において、
「3.なお、今回の補正による新〔請求項1〕に係る発明については、切削代は、熱処理による変形を考慮するとともに、切削のサイクルタイムが減少可能な形状に形成されていることを特徴としており、先に審査官殿ご指摘の引用文献1(特開昭63-251128号公報)には、このような動機付けとなる内容も示唆も記載されておりませんので、本願の新〔請求項1〕の発明は、引用文献1の存在に係わらず十分な進歩性を有し、特許されるものであると思料いたします。」(【本願発明が登録されるべき理由】3.の項参照)等主張している。
しかしながら、上記2.(3)の相違点2、及び相違点3において検討したように、引用発明において、切削代を熱処理による変形を考慮することは当業者が格別の創意なくなし得たものである。また、切削代を歯車の使用時に噛合しない範囲に設けないのは、歯の仕上げ加工を行う場合において周知技術であること、及び切削代が減少することによって切削のサイクルタイムも当然減少することを鑑みると、切削のサイクルタイムが減少可能な形状とすることは当業者が適宜なし得たことに過ぎないものである。よって請求人の上記主張は採用できない。

また、本願補正発明の効果を検討しても、引用発明、及び上記周知技術の奏するそれぞれの効果の総和以上の格別顕著な効果を奏するものとは認められない。

したがって、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明(引用発明)及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明1について
(1)本願発明1
平成16年3月29日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1及び2に係る発明は、平成16年1月9日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載されたとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】歯のシェービング工程,歯の研磨工程により仕上げ加工されて製作される歯車において、前記シェービング工程,歯の研磨工程で切削される切削代を歯車の使用時に噛合する範囲となる歯面部位のみにあらかじめ鍛造工法,圧造工法またはサイジング工法等で造形したことを特徴とする歯車。」

(2)刊行物に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1及びその記載事項は、前記2.(2)に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明1は、前記2.で検討した本願補正発明から「切削代」の限定事項である「熱処理による変形を考慮するとともに切削のサイクルタイムが減少可能な形状であって」との構成を省いたものである。
そうすると、本願発明1の構成要件を実質的にすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記2.(3)に記載したとおり、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も、同様の理由により、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
したがって、本願の請求項1に係る発明(本願発明1)は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2及び3に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-09-04 
結審通知日 2006-09-26 
審決日 2006-10-10 
出願番号 特願平6-261565
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16H)
P 1 8・ 121- Z (F16H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鳥居 稔  
特許庁審判長 亀丸 広司
特許庁審判官 常盤 務
村本 佳史
発明の名称 歯車  
代理人 清水 義久  

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