• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  C08L
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
管理番号 1147950
審判番号 無効2005-80317  
総通号数 85 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-07-06 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-11-04 
確定日 2006-11-27 
事件の表示 上記当事者間の特許第3604269号発明「医療容器用ポリプロピレン系樹脂組成物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3604269号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続きの経緯
本件特許第3604269号の請求項1に係る発明は、平成9年12月22日に特許出願され、平成16年10月8日にその発明について特許権の設定の登録がなされたものである。
その後、平成17年11月4日に請求項1に係る発明の特許に対して、審判請求人 株式会社プライムポリマーにより、本件無効審判請求がなされ、無効審判における答弁書の提出期間内である平成18年1月30日付けで被請求人 日本ポリプロ株式会社から答弁書が提出され、平成18年5月25日に口頭審理がなされ、同日付けで両当事者より口頭審理陳述要領書が提出され、その後審判請求人 株式会社プライムポリマーより平成18年6月23日付けで、上申書が提出されたものである。

II.請求人の主張及び証拠方法
1.請求人の主張の概要
請求人は、「特許第3604269号を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と主張し、その証拠方法として下記の甲第1?7号証及び参考資料1?8を提出している。
そして、無効とすべき理由の概略は以下のとおりである。
(1)無効理由1
本件特許発明は、その特許出願前日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証(特開平5-222078号公報)および甲第2号証に記載された発明(ならびに必要に応じ甲第4号証、甲第5号証参照)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、この特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきである。(第1回口頭審理調書 請求人3.の項参照)
(2)無効理由2
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないので、本件特許は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたもので、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とされるべきである。(第1回口頭審理調書 請求人2.の項参照)
2.証拠方法
甲第1号証:特開平5-222078号公報
甲第2号証:協和化学工業株式会社 DHT-4A カタログ、1996
年1月発行
甲第3号証:ポリプロピレンハンドブック、工業調査会、1998年5月
発行、298?299頁[甲第4号証の翻訳文とする](第
1回口頭審理調書 請求人3.の項参照)
甲第4号証:甲第3号証の原著である「Polypropylene Handbook」253?
254頁、奥付、1996年刊行(第1回口頭審理調書 請
求人1.の項参照)
甲第5号証:第十三改正日本薬局方、一般試験 45.プラスチック製水
性注射剤容器試験法 1.ポリエチレン製又はポリプロピレ
ン製水性注射剤容器の試験項目(98?99頁)
甲第6号証:株式会社プライムポリマー社所属 和田功作成の実験成績証
明書
甲第7号証:第十四改正日本薬局方、一般試験 55.プラスチック製水
性注射剤容器試験法 1.ポリエチレン製又はポリプロピレ
ン製水性注射剤容器の試験項目(195?196頁)
参考資料1:特開平6-236709号公報
参考資料2:特開平1-275608号公報
参考資料3:特開平3-74411号公報
参考資料4:特開平8-73532号公報
参考資料5:平成12年(行ケ)238号 審決取消請求事件判決文
参考資料6:平成15年(行ケ)198号 特許取消決定取消請求事件判決 文
参考資料7:平成6年(行ケ)173号 上告審判決文
参考資料8:平成17年(行ケ)10042号 特許取消決定取消請求事件 判決文

III.被請求人の主張及び証拠方法
1.被請求人の主張の概要
被請求人は、平成18年1月30日付けで答弁書を提出し、本件特許請求の範囲請求項1に係る発明の特許について「本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」と主張している。
2.証拠方法
乙第1号証:特開平11-181184号公報
乙第2号証:日本ポリプロ株式会社第2材料技術センター所属 鈴木昌和作 成の実験成績証明書
乙第3号証:樹脂製造部樹脂製造課 技術連絡メモ(96年11月15日付 け)
乙第4号証:アデカ・アーガス化学株式会社 カタログ「MARK NA- 11 -造核剤-」 平成元年7月20日発行
乙第5号証:特開平7-138421号公報
乙第6号証:特開平8-27335号公報
乙第7号証:特開平7-330973号公報

IV.請求項1に係る発明
請求項1に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであって、次のとおり記載されている。
「【請求項1】
(A)金属チタン含有量が1ppm以下であり、かつJIS K6758、230℃、2.16kg荷重に準拠したメルトフローレートが5?40g/10分であるポリプロピレン単独重合体、またはエチレン含有量が3重量%以下のプロピレン・エチレンランダム共重合体に、
(B)(b1)一般式(I):
【化1】

(ただし、R1は直接結合、硫黄又は炭素数1?9のアルキレン基又はアルキリデン基で
あり、R2及びR3は水素原子又は炭素数1?8のアルキル基であり、MはNaであり、nはMの価数である。)、
または(b2)一般式(II):
【化2】

(ただし、R4は水素原子又は炭素数1?8のアルキル基であり、MはNaであり、nはMの価数である。)により表されるフォスフェート系化合物、0.05?0.30重量%と、
(C)一般式(III):
Mg1-xAlx(OH)2(CO3)x/2・mH2O (III)
(ただし、xは0≦x≦0.5であり、mは3以下の数である。)
で表される複合水酸化物塩化合物、0.02?0.05重量%を下記式(1)の関係を満たすように配合してなる医療容器用ポリプロピレン系樹脂組成物。
b≦0.046-0.083a (1)
(ただし、a:樹脂組成物中の(I)または(II)の濃度(重量%)、b:樹脂組成物中の(III)の濃度(重量%)である。)」

V.当審の判断
(i)本件特許第3604269号の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)が、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるか否か(無効理由1)について検討する。
1.甲第1号証に記載された事項
甲第1号証(特開平5-222078号公報)には、以下の事項が記載されている。
(1-1)
「【請求項1】 プロピレン系重合体を基材とし、核剤として次の一般式(1)
【化1】

(ここで、R1、R2、R3及びR4は水素原子又は置換基を有していてもよい直鎖、分岐鎖もしくは環状のアルキル基を示し、Rは直接結合、硫黄原子又はアルキリデン基を示し、x及びyは0又は1を示し、nは金属の原子価を示し、Mは金属原子を示す)で表わされるリン酸エステルを含有する組成からなる樹脂を成型して得られる透明な注射筒又は透明な容器に薬剤液を充填してなる製剤。
【請求項2】 薬剤液が、造影剤である請求項1記載の製剤。
【請求項3】 薬剤液が、イオヘキソールを主成分とした液である請求項1記載の製剤。
【請求項4】 プロピレン系重合体を基材とし、核剤として次の一般式(1)
【化2】

(ここで、R1、R2、R3及びR4は水素原子又は置換基を有していてもよい直鎖、分岐鎖もしくは環状のアルキル基を示し、Rは直接結合、硫黄原子又はアルキリデン基を示し、x及びyは0又は1を示し、nは金属の原子価を示し、Mは金属原子を示す)で表わされるリン酸エステルを含有する組成からなる樹脂を成型して得られる、薬剤液を長期間充填しておくための透明な注射筒又は透明な容器。
【請求項5】 プロピレン系重合体が、0.5?100g/10分のメルトフローインデックス(ASTM D-1238により測定)を有するプロピレン単独重合体、プロピレンを主体とした他のモノマーとの結晶性共重合体及び結晶性ポリプロピレンを主体とした他のポリマーとのブレンド物より選ばれるものである請求項4記載の注射筒又は容器。
【請求項6】 プロピレン系重合体が、0.5?100g/10分のメルトフローインデックス(ASTM D-1238により測定)を有し、エチレン含有量が0.5?7重量%のエチレン・プロピレン共重合体である請求項4記載の注射筒又は容器。」
(1-2)
「【0003】これらの問題を解決するため、近年予め薬剤液を充填した小容量のガラス製注射筒の検討がなされている。しかし、従来使用されている合成樹脂製注射筒では、その樹脂素材のほとんどにソルビトール系核剤を添加したポリプロピレン樹脂が使用されているため、薬剤液を長期間充填した場合、樹脂成分から添加剤、その分解物等が溶出するという問題があった。
【0004】また薬剤充填済注射筒に限らず、輸液用容器や注射用溶解液等の人体へ注入する薬剤液を長期間充填しておくための容器は、当該容器を構成する樹脂に薬剤液が長期間接触することにより樹脂添加剤が薬剤液中に溶出するおそれがあるため、安全性の面から充分な検討が要求されているが(日本薬局法、輸液用プラスチック容器試験法、溶出試験等、日本薬局法解説書、B-431)未だ充分満足すべきものではなかった。
【0005】一方、注射筒やこれらの容器においては薬剤液の濁り等を目視にて確認する必要性、投与量の確認の必要性等から透明性も要求される。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、注射筒又は容器に薬剤液を充填してなり、長期間保存しても透明性を失わず、樹脂添加成分が溶出しない製剤を提供することにあり、更にその製剤に用いる注射筒又は容器を提供することにある。」
(1-3)
「【0013】本発明の注射筒又は容器に用いる樹脂の組成は、プロピレン系重合体を基材とし、核剤として上記リン酸エステル(1)を含有することを特徴とするが、ここでプロピレン系重合体は、プロピレン単独重合体に限定されず、プロピレンを主体とする重合体であれば、他のモノマーとの結晶性の共重合体や結晶性ポリプロピレンと他のポリマーとのブレンド物をも含むものである。プロピレンを主体とした結晶性の共重合体としては、プロピレン・エチレンランダム共重合体、プロピレン・ブテン-1共重合体が好ましい。また、結晶性ポリプロピレンにブレンドする他のポリマーとしては、例えば、エチレン・ブテン共重合体等が挙げられる。これらのプロピレン系重合体のうち、特にプロピレンホモポリマー、又はプロピレンにエチレンを0.5?7重量%(より好ましくは0.5?5重量%)共重合させたエチレン・プロピレンランダム共重合体が透明性の点で好ましい。また、これらのプロピレン系重合体のうち、ASTM D-1238により測定したメルトフローインデックス(MFI)が0.5?100g/10分(より好ましくは5?50g/10分)であるものが好ましい。
【0014】また、本発明に用いる樹脂に配合される核剤は、上記一般式(1)で表わされるリン酸エステルであるが、当該一般式(1)中、Rで示されるアルキリデン基としては、メチリデン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、ブチリデン基、ヘキシリデン基、オクチリデン基、ノニリデン基、シクロペンチリデン基、シクロヘキシリデン基、シクロオクチリデン基等が挙げられる。R1 、R2 、R3 及びR4 で示されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、プロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、第2級ブチル基、第3級ブチル基、n-アミル基、第3級アミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、第3級オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。また、シクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。また、Mで示される金属原子としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、アルミニウム、ゲルマニウム、スズ、鉛、チタン、クロム、ビスマス、モリブデン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、ジルコニウム、アンチモン及びカドミウム等が挙げられる。その中で特に、リチウム、ナトリウム、カリウム等のIa族金属及びマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のIIa族金属が好ましい。」
(1-4)
「【0023】これらのリン酸エステル(1)の樹脂への添加量は、0.001?5.0重量%、特に0.01?3.0重量%、更に0.05?0.5重量%が好ましい。添加量が0.001重量%未満では得られる容器等の透明性及びこれに薬剤溶液を充填したときの溶出防止能が充分でない。
【0024】本発明に用いる樹脂には、更に他の添加剤、例えば中和剤、酸化防止剤、帯電防止剤、有機過酸化物等を添加することができる。
【0025】本発明にかかる樹脂に添加してもよい中和剤として代表的なものは、ステアリン酸金属塩、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の塩基性塩及びアルカリ土類金属の塩基性複塩等を挙げることができる。
【0026】ステアリン酸金属塩としては、ステアリン酸カルシウム(以下、化-STCと略す)、ステアリン酸マグネシウム及びステアリン酸亜鉛等を挙げることができる。また、上記ステアリン酸を他の脂肪酸と置換した金属塩も用いることができる。アルカリ土類金属の酸化物及び水酸化物としては、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウムが好ましいものとして例示できる。また、塩基性塩としては、上記した酸化物及び水酸化物が炭酸ガスにより一部中和されたもの、例えば、塩基性炭酸マグネシウム、塩基性炭酸カルシウム等が挙げられる。アルカリ土類金属の塩基性複塩としては、マグネシウムとアルミニウムの含水塩基性炭酸塩鉱物であるハイドロタルサイト類が挙げられる。以下これらをまとめてアルカリ土類金属の化合物と称する。これらのアルカリ土類金属の化合物は、1種又は2種以上が用いられる。また、特に好ましいものとしては、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト類が挙げられる。」
(1-5)
「【0031】前記のステアリン酸金属塩の添加量は、ポリプロピレン樹脂100重量部に対し0.005?1.00重量部の範囲が好ましい。前記のフェノール系酸化防止剤の添加量は、ポリオレフィン100重量部に対して0.001?3.0重量部、特に0.005?1.0重量部が好ましい。前記のホスファイト系又は有機ホスホナイト化合物の添加量は、ポリオレフィン100重量部に対して、0.001?5重量部、特に0.01?3.0重量部が好ましい。有機過酸化物の添加量は、通常組成物全体100重量部に対して0.001?0.5重量部が好ましい。
【0032】本発明にかかる注射筒又は容器は、例えば次の如くして製造した樹脂を射出成形等の成形手段により成形することにより作製できる。樹脂の製造は、例えば前記のプロピレン系重合体を基材として用い、これに核剤及び、中和剤、酸化防止剤等の添加剤を加えて混合し均一に分散させ、これを押出機により溶融ペレット化することにより行われる。また成形法としては、例えばこのペレットを再び加熱溶融し、180?280℃の範囲で、好ましくは、230±10℃の範囲で、射出成形により目的の形状に成形により作製するのが好ましい。」
(1-6)
「【0039】本発明の注射筒又は薬剤保存容器は、(a)内容物である水、薬剤溶液、その他の薬剤の樹脂添加剤成分の溶出、(b)異物確認試験のための樹脂の透明度を確保・維持する必要性がある。プラスチック製容器等は、軽量で破損しにくく、包装・輸送が簡便等の利点がある反面、熱及び光線等により経時的な影響を受け、透明性が変化する。透明性不良による不透明化は、異物検査を困難にする。また、酸化防止剤、紫外線吸収剤、又は可塑剤(安定剤)等の添加剤の溶出のおそれがあり、このことは、対照内容物が注射液である場合は、直接人体内へ入る為に、生体内におけるこれらの添加剤による血液毒性、急性毒性等の各種の毒性が重大な問題となることは予想されるところである(日本薬局方B-439)。薬剤充填済合成樹脂注射筒(容器)は、まだ、実用化に満足な状態ではなく、現在その作製のための基準は局方等で定められていないが、輸液用プラスチック容器試験法(日本薬局方)の基準は、参考基準となる。従って、上記輸液用プラスチック性容器試験法に従って、(1)透明性及び外観の検査、(2)溶出物試験を行い、更に(3)内容薬品に物理的・化学的に作用して、性状・品質等への影響を調べる薬剤安定性試験が必要である。以下にそれらの検討を行ったので、その実施例を挙げるが、薬剤液の例は、実施例で挙げた例に限定されるものではない。」
(1-7)
「【0050】以上の結果より、No.2に対して核剤である化-NA-11〔NA-11UY〕を添加してNo.3、No.4及びNo.5のような材質にすることにより、係数が45以上(空気中)又は57以上(蒸留水中)で示されるように、著しく透明性が改善された。従って、No.6の樹脂はもとより、これらのNo.3?No.5及びNo.8の樹脂を医薬品の容器として用いた場合にも、内容物の目視等の検出に支障をきたさないことが明らかとなった。」
2.対比・判断
甲第1号証に記載された上記摘記事項(1-1)?(1-7)を勘案すると、甲第1号証には、「メルトフローレートが0.5?100g/10分(ASTM D-1238により測定)であるプロピレン単独重合体、またはエチレン含有量が0.5?7重量%のプロピレン・エチレン共重合体に、一般式(1)で表されるリン酸エステルを好ましい量として0.05?0.5重量%配合し、さらに、中和剤としてアルカリ土類金属の塩基性複塩であるマグネシウムとアルミニウムの含水塩基性炭酸塩鉱物であるハイドロタルサイト類を含有する組成からなる樹脂を成型して得られる透明な注射筒」に係る発明が記載されているといえる。
そこで、本件発明と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、
後者の「プロピレン単独重合体、またはエチレン含有量が0.5?7重量%のプロピレン・エチレン共重合体」、「一般式(1)で表わされるリン酸エステル」、「マグネシウムとアルミニウムの含水塩基性炭酸塩鉱物であるハイドロタルサイト類」、「を含有する組成からなる樹脂を成型して得られる透明な注射筒」は、前者の「ポリプロピレン単独重合体、またはエチレン含有量が3重量%以下のプロピレン・エチレンランダム共重合体」、「一般式(I)により表されるフォスフェート化合物」、「複合水酸化物塩化合物」、「医療容器用樹脂組成物」にそれぞれ相当する。
そうすると、両者は、
「ポリプロピレン単独重合体、またはエチレン含有量が0.5?3重量%のプロピレン・エチレンランダム共重合体に
一般式(I):
【化1】

(ただし、R1は直接結合、硫黄又はアルキリデン基であり、R2及びR3は水素原子又は炭素数1?8のアルキル基であり、MはNaであり、nはMの価数である。)により表されるフォスフェート系化合物、0.05?0.30重量%と、複合水酸化物塩化合物を配合してなる医療容器用ポリプロピレン系樹脂組成物」の点で一致し、次の点で相違している。
相違点ア
ポリプロピレン単独重合体、またはプロピレン・エチレンランダム共重合体について、本件発明が「金属チタン含有量が1ppm以下であり、かつJIS K6758、230℃、2.16kg荷重に準拠したメルトフローレートが5?40g/10分である」としているのに対し、甲第1号証に記載された発明では、「メルトフローレートが0.5?100g/10分(ASTM D-1238により測定)」としている点
相違点イ
複合水酸化物塩化合物について、本件発明が
「Mg1-xAlx(OH)2(CO3)x/2・mH2O (III)
(ただし、xは0≦x≦0.5であり、mは3以下の数である。)
で表される複合水酸化物塩化合物、0.02?0.05重量%」としているのに対し、甲第1号証に記載された発明では、「マグネシウムとアルミニウムの含水塩基性炭酸塩鉱物であるハイドロタルサイト類」とし、その使用量について明記していない点
相違点ウ
フォスフェート系化合物と複合水酸化物塩化合物の配合について、本件発明が
「式(1)
b≦0.046-0.083a (1)
(ただし、a:樹脂組成物中の(I)または(II)の濃度(重量%)、b:樹脂組成物中の(III)の濃度(重量%)である。)の関係を満たすように配合してなる」としているのに対し、甲第1号証に記載された発明では、格別明記していない点
この相違点について検討する。
相違点アについて
甲第1号証に記載されたポリプロピレン重合体のMFR(MFIと同義語)は、ASTM D-1238により測定した結果で記載されているが、JIS K6758の項(「JISハンドブック11 プラスチック」 財団法人 日本規格協会 1996年4月20日第1版発行 776頁-777頁参照)によれば、測定はJIS K7210の表1の条件14[試験温度230℃、試験加重21.18N{2.16kgf}]とする、と記載されており、一般に汎用されるポリプロピレンのMFRの測定は、試験温度230℃、試験加重2.16kgfで行われるものが含まれるものといえる。
そして、ASTM D-1238による測定においても、試験温度230℃、試験加重2.16kgfで行われるものが含まれているといえる(特開平9-296085号公報参照)から、甲第1号証に記載のポリプロピレン重合体におけるMFRの値については、本件発明のMFRの値と重複する部分を有していると解される。
そして、甲第1号証に記載されたポリプロピレン重合体が、本件発明と同様に医療容器用ポリプロピレン重合体として使用されるものであることを勘案すれば、甲第1号証に記載されたポリプロピレン重合体においても、本件発明のポリプロピレン重合体においても、MFRの物性においては、医療容器用として備えるべき同様のMFRを有するものというべきであって、当業者の予想を超える格別の構成の差異とはいえない。
さらに、医療容器用ポリプロピレン系樹脂からなる医療容器については、液体バッグや袋のように柔軟な物性を有するものから注射筒や瓶形状の硬い物性を有するものまで多種多様の製品が有り、これらの物性の異なる製品を目的として製造されることを勘案すると、MFRの測定の表現方法が例え異なったとしても、ポリプロピレン重合体のMFRについては、前記医療容器用ポリプロピレン重合体として採用される以上、それらの物性に適合したMFR値を有する重合体を採用することは当然のことであるから、ポリプロピレン重合体のMFR値については、当業者がその製品の目的に応じて適宜設定すべき事項であるといえ、本件発明がポリプロピレン重合体について、MFRの値を「JIS K6758、230℃、2.16kg荷重に準拠したメルトフローレートが5?40g/10分である」とすることに格別創意工夫を要するものということはできない。
また、ポリプロピレン重合体の金属チタン含有量が1ppm以下のものを採用することについては、甲第1号証に記載されているポリプロピレン重合体が、医療用ポリプロピレンであることを勘案すると、医療用に使用される以上、薬局方に規定されているといないとにかかわらず、できるだけ異物を含まない純度の高いポリプロピレン重合体を採用すべきことは、当然のことであるし、医療容器用として採用する場合には、薬局方に規定した条件を満たす容器とすることも当然のことであり(そうでないと医療容器として使用できないことになる)、薬局方に規定されている項目を満たすためには、その試験項目に適合する材料を選択する必要があることは自明のことである。
さらに、ポリプロピレン重合体を精製することにより不純物を除外して、医療用に適した重合体とすることは、当業者間には明らかなことであるから、ポリプロピレン重合体中の不純物の1種である金属チタンを除くことによって医療容器としての機能に影響のないポリプロピレン重合体を得ようとすることは、格別のことではない。
その上、金属チタン含有量の殆どないポリプロピレン重合体も、本件特許出願前において周知(例えば、特開平7-330973号公報参照、該公報には、ジルコニウム系触媒により製造され、本件発明に含まれるMFR値を有するプロピレン系重合体が記載されている。また、特開平5-112682号公報参照、該公報には、ジルコニウム系触媒により製造され、本件発明に含まれるMFR値を有するプロピレン系重合体が記載されている。)であり、金属チタン含有量の殆どないポリプロピレン重合体を採用すれば、必然的に金属チタン含量が1ppm以下のポリプロピレン重合体を採用することとなるのであるから、金属チタン含量が1ppm以下のポリプロピレン重合体を採用することに格別の技術的困難があるということはできない。
そうすると、ポリプロピレン重合体を採用する場合、前記薬局方に規定された強熱残分項目試験を満足するものとして、不純物を含まないポリプロピレン重合体を採用すればよいのであるから、ポリプロピレン重合体の採用に当たり、不純物として残留している金属チタン含有量の少ない、あるいは全く含まないポリプロピレン重合体を採用すればよいことは明らかである。
したがって、この相違点は当業者であれば容易になし得たものということができる。
相違点イについて
甲第1号証には、マグネシウムとアルミニウムの含水塩基性炭酸塩鉱物であるハイドロタルサイト類が使用できることが記載され、ハイドロタルサイト類はポリプロピレン重合体の中和剤として配合されているものである。
一方、本件発明の複合水酸化物塩化合物は、「DHT-4A:マグネシウム・アルミニウム・ハイドロオキサイド・カーボネート・ハイドレート(協和化学工業(株)製)」と記載(明細書段落【0022】の記載を参照。)され、中和剤として添加されている(明細書段落【0005】、【0020】、【0032】の記載も参照。)。
そして、刊行物1に記載されたハイドロタルサイト類は本件発明の複合水酸化物塩化合物であるMg1-xAlx(OH)2(CO3)x/2・mH2Oで表される化合物と格別異なるものではない(甲第2号証参照。)。
そうすると、両者の複合水酸化物塩化合物は、中和剤としての機能を有するものとしてポリプロピレン重合体に添加されることは明らかである。
ところで、甲第1号証の実施例においては、中和剤としてNo.1には、ステアリン酸カルシウムとハイドロタルサイトが配合され、No.2-No.8には、ステアリン酸カルシウムのみが配合されている。
そして、甲第1号証の明細書段落【0025】?【0026】に記載された事項を参酌すると、ステアリン酸カルシウムとハイドロタルサイト類は同列に使用されることが記載されているのであるから、実施例に挙げられているステアリン酸カルシウムに代えてハイドロタルサイト類を単独で採用することは格別予想外のことということはできないし、その際、ハイドロタルサイト類の使用量として、どの程度の量とするかは、中和剤として採用するものである以上、その機能を満足する量であれば十分であるから、ステアリン酸カルシウムの配合量を参酌しながら、薬局方に規定されている試験項目に適合するようにハイドロタルサイト類の使用量を検討すること(同じ目的(機能)で使用する場合であっても、使用する化合物が異なれば同じ量を使用しても得られる作用効果が同等であるとはいえないことが多い。)は、当業者であれば適宜なし得ることであって、本件発明が「0.02?0.05重量%」としたことにより格別顕著な効果を奏したものということはできない。
なお、本件発明の出願公開公報(乙第1号証である特開平11-181184号公報の明細書段落【0030】の表1参照)には、複合水酸化物塩化合物としてミズカラックを0.03重量%添加したもの(実施例1)は、DHT-4Aを採用した場合と殆ど同じ結果が得られていることが記載されており、このことからみても、本件発明が、特定のハイドロタルサイト類を採用したことにより格別顕著な効果を奏したものである、といえないことは明らかである。
相違点ウについて
本件発明において、「式(1)b≦0.046-0.083a (1)」については、aは「a:樹脂組成物中の(I)または(II)の濃度(重量%)」とし、aの取りうる値としては「0.05?0.30重量%」であることが記載されているから、式(1)におけるbの取りうる値は、aが0.05の場合、0.042となり、aが0.30の場合、0.021となるから、したがって、bは0.021≦b≦0.042となる。
しかしながら、「一般式(III):・・・で表される複合水酸化物塩化合物、0.02?0.05重量%を下記式(1)の関係を満たすように配合してなる」と記載され、bについては「b:樹脂組成物中の(III)の濃度(重量%)である」と記載されている。
そうすると、樹脂組成物中の(III)の濃度とは、複合水酸化物塩化合物の濃度であるから、bについては、「0.02?0.05重量%」と「式(1)b≦0.046-0.083a (1)」の2種類の定義がされていることとなり、しかも、bの値はそれぞれの定義により異なった範囲の値を示している。
また、実施例1?4、比較例1?8をみても、式(1)を満たさない組成物は比較例5のみであって、その他に式(1)を満たさない組成物について如何なる結果が得られるのか何ら示されていない(なお、比較例1?2、6は、本件発明の中和剤が配合されていない点で、また、比較例3は、プロピレン・エチレンランダム共重合体のエチレン含有量が範囲外であり、比較例4は、ホスフェート化合物の量が本件発明の範囲外であり、比較例7?8は、MFRが本件発明の範囲外であるから、組成物の前提として、式(1)の適用ができる組成物ではない)。
そうすると、式(1)については、その技術的裏付けとなる根拠が十分に示されておらず、比較例5にbの値が0.005であるものが示されているものの1例のみであり、しかも、bの境界値(0.021、0.042)付近の比較例は何ら示されていないから、結局、式(1)を採用することによって得られる本件発明の効果は臨界的なものということはできず、式(1)によって規定された組成物とすることに技術的意義があるとはいえない。
そして、本件発明によって奏される効果も、格別顕著なものということはできない。
したがって、本件発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(ii)本件発明が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるか否か(無効理由2)について検討する。
本件発明においては、(A)成分であるポリプロピレン単独重合体、またはエチレン含有量が3重量%以下のプロピレン・エチレンランダム共重合体は、「金属チタン含有量が1ppm以下」であるとし、1ppmを越えると透明性の発現が十分でなかったり、また、局方試験項目の強熱残分項目を満足しなくなる旨、本願明細書に記載(明細書段落【0010】されている。
そこで、本件発明の実施例について検討する。
まず、実施例1?4にはTi含有量(ppm)について、いずれも「1未満」と記載されており、1ppmの場合については何ら記載されていない(請求項1においては、「1ppm以下」と1を含むことが記載されている)。また、「1未満」では具体的な特定の数値を示すものではないから、限りなく1に近い含有量を示しているのか、限りなく0に近い含有量を示しているのか明確でなく、具体的な実験結果を記載したものとは言い難い。
また、Ti含有量が「1ppm未満」以外の例として、比較例6に唯一Ti含有量3ppmの例が記載されているものの、中和剤は実施例1?4のDHT-4Aと異なり「ミズカラック」を使用するものであるから、比較例6が他の条件が同じである実施例4と比較して、ヘイズ値(透明性)、第13改正日本薬局方一般試験の値において劣る結果がみられるとしても、原因はTi含有量と中和剤の種類の違いによるものであり、これをもって直ちにTi含有量の違いのみによるものとすることはできない。
そうすると、ポリプロピレン系重合体中のTi含有量が1ppmを越えると透明性の発現が十分でなかったり、局方試験項目の強熱残分項目を満足しなくなるとは直ちにいえるものではない。
したがって、本件発明の「金属チタン含有量が1ppm以下」という構成については、実施例に金属チタン含有量が具体的な数値をもって示されておらず、また、該構成をとることによる効果も実施例及び比較例を検討しても明確に確認できる程度に記載されていないから、本件発明は発明の詳細な説明に当業者が容易に実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。

VI.被請求人の主張について
被請求人は、乙第1?2号証を提出して、
「特許第3604269の特徴部分である『金属チタン含有量が1ppm以下のポリプロピレン重合体を使用』することの技術的意義を検証する」として実験成績証明書を示している。
しかしながら、当該実験に使用されたポリプロピレン重合体と本件発明に使用されたポリプロピレン重合体とは、メルトフローレートも、その製造方法も全く異なっており、当該実験による結果が、本件発明のポリプロピレン重合体について『金属チタン含有量が1ppm以下のポリプロピレン重合体を使用』することの技術的意義を検証するものであるとはいえない。
したがって、当該実験成績証明書に、金属チタン含有量の違いによるポリプロピレン樹脂組成物の透明性の優劣に関する結果が示されているとしても、このことが本件発明に係るポリプロピレン樹脂組成物の透明性についての効果の裏付けとなるものではない。
そして、本件発明において、金属チタン含有量が1ppm以下のポリプロピレン重合体を使用したものであっても、本件明細書の表2に記載の比較例1ではヘイズ値が初期値20で蒸気滅菌後では30であり、比較例2ではヘイズ値が初期値29で蒸気滅菌後では34であり、比較例3では、エチレン含量が4.1重量%であるものは、ヘイズ値が初期値13で蒸気滅菌後では50であり、比較例4では、ヘイズ値が初期値40で蒸気滅菌後では50であり、比較例6では、金属チタン含有量が3ppmのものではあるがヘイズ値は初期値35で蒸気滅菌後では42であり、一方、表1の実施例2では、ヘイズ値が初期値34で蒸気滅菌後では40であることが記載されている。
そうすると、比較例1?2、4からみて、金属チタン含有量が1ppm以下のポリプロピレン系重合体を使用しても、造核剤や中和剤によっては、透明性に影響を及ぼすものであり、また、比較例6と実施例2からみると、金属チタン含有量が1ppmを超えた場合であっても透明性に格別相違するといえるような影響があるとはいえないのである。
そうであれば、金属チタン含有量が1ppm以下のポリプロピレン重合体を使用することが、直ちに、本件発明において技術的意義があるということはできない。
なお、請求項1に記載された特定事項により、本件発明が格別顕著な効果を奏する、ということができないことは、上記「相違点イについて」でも述べたように、本件発明の前記記載の出願公開公報の表1に記載の当初実施例1として記載されたミズカラック(DHT-4Aではなく)を使用した例との比較からも明らかである。
したがって、被請求人の主張は、採用できない。

VII.むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、または、本件特許出願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-10-03 
結審通知日 2006-10-06 
審決日 2006-10-17 
出願番号 特願平9-365779
審決分類 P 1 113・ 536- Z (C08L)
P 1 113・ 121- Z (C08L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 三谷 祥子  
特許庁審判長 宮坂 初男
特許庁審判官 一色 由美子
船岡 嘉彦
登録日 2004-10-08 
登録番号 特許第3604269号(P3604269)
発明の名称 医療容器用ポリプロピレン系樹脂組成物  
代理人 須藤 阿佐子  
代理人 鈴木 俊一郎  
代理人 須藤 晃伸  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ