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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G21C
管理番号 1148741
審判番号 不服2006-5070  
総通号数 86 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-12-07 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-03-17 
確定日 2006-12-08 
事件の表示 特願2000-304664「沸騰水型原子炉用燃料集合体の下部タイプレート」拒絶査定不服審判事件〔平成13年12月 7日出願公開、特開2001-337187〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成12年10月4日(優先日、平成12年3月24日)の出願であって、平成18年2月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成18年3月17日に審判請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成17年5月2日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。(以下「本願発明」という。)
「多数本の燃料棒が所定の正方格子状配列の束として上部タイプレートおよび下部タイプレートによって上下両端で支持されてなる沸騰水型原子炉用燃料集合体の下部タイプレートにおいて、多数の貫通孔を有する平板状フィルタ部材を前記燃料棒の下部端栓を支持する上部支持板の下方に該上部支持板から離して内蔵し、前記平板状フィルタ部材は、その部材厚みをT、前記貫通孔の最大直径をDとしたとき、D<T、T≦5mm、且つD≦4mmを満たすことを特徴とする沸騰水型原子炉用燃料集合体の下部タイプレート。」

3.引用刊行物に記載された発明
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された特開平8-240680号公報(以下「引用刊行物」という。)には、「原子炉用の下部タイプレート・アセンブリ、並びに原子炉用の燃料バンドル及び下部タイプレート・アセンブリ」の発明に関して以下の事項が記載されている。
<記載事項1>
「【請求項10】 上部タイプレートと下部タイプレート・アセンブリとの間に支持されている複数の燃料棒を含んでいる原子炉用の燃料バンドル及び下部タイプレート・アセンブリであって、該下部タイプレート・アセンブリは、上側格子部及び下側本体部であって、前記上側格子部は、複数の燃料棒支持ボスを有しており、該ボスは、複数のウェブにより相互連結されて該ボスの間に流れ開口を形成しており、前記本体部は、入口ノズルと、内側に流室を画成するように底部の前記ノズルと前記上側格子部との間に延在している周壁とを含んでいる、上側格子部及び下側本体部と、前記流室内に配置されている破片捕取装置であって、該破片捕取装置は、一対の重ね合わせた板を含んでおり、該板の各々は、実質的に同じ寸法、形状及びピッチの複数の孔を有しており、前記一対の板のうちの一方の板の前記孔は、該一対の板のうちの他方の板の前記孔からずれている、破片捕取装置とを備えた原子炉用の燃料バンドル及び下部タイプレート・アセンブリ。」
<記載事項2>
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、一般的には原子炉に関し、特に、沸騰水型原子炉の燃料バンドル用の下部タイプレート・アセンブリに関する。更に詳細には、本発明は、下部タイプレート・アセンブリに組み込まれた破片捕取装置に関する。この破片捕取装置は、垂直方向に相隔たった一対の比較的厚い板で構成されており、各々の板には、同様な寸法及びピッチの比較的大きな孔が形成されているが、上板の孔の配列は下板の孔の配列からずれている。この破片捕取装置は、下部タイプレート・アセンブリを通流してその下流の燃料バンドル域に流入する冷却材の圧力損失を最小にするように構成されている。」
<記載事項3>
「【0005】BWR用の燃料バンドルは通例、下部タイプレート・アセンブリと上部タイプレート・アセンブリとの間に支持されている。(略)」
<記載事項4>
「【0010】下部タイプレート・アセンブリのタイプレート格子に関しては、マトリクスを成す円筒形の複数のボス及びウェブが一般には格子を形成している。ボスは燃料棒端栓を支承するような寸法を有している。(略)」
<記載事項5>
「【0006】下部タイプレート格子の上方において、各々の燃料バンドルはマトリクス(行列)を成す複数の起立した燃料棒を含んでいる。(略)」
<記載事項6>
「【0017】本発明によれば、破片捕取装置が下部タイプレート・アセンブリの流室内において下部タイプレート格子の上流に設けられている。好適な構成の破片捕取装置は、一対の比較的厚い板で形成されており、各々の板には、比較的大きな孔が形成されている。2つの板の孔の寸法及びピッチは同じであるが、上板の孔の配列は、2つの直交した方向の各々における孔の間隔の半分に等しい距離だけずれている。」
<記載事項7>
「【0025】
【実施例】図1に燃料集合体の代表例が総体的に参照番号10で示されている。燃料集合体10は、燃料バンドルを形成している複数の燃料棒12を含んでいる。棒12は、上端が上部タイプレート14に連結されていると共に下端が下部タイプレート格子16によって支持されており、この格子は、総体的に参照番号18で示す下部タイプレート・アセンブリの一部を形成している。(略)」
<記載事項8>
「【0028】本発明の第1の実施例によれば、破片捕取カートリッジ36は、図5?図11に明示のように、比較的厚い実質的に平らな一対の上板40と下板42とで形成されている。特に図5及び図6に示すように、上板40には複数の比較的大きな孔44が形成されており、これらの孔は、実質的に正方形の板40の4つの側縁48、50、52及び54によって画成された実質的に正方形の境界域46内に正方形配列状に配置されている。各々の孔44は実質的に正方形であって、丸みを付けた隅部(コーナ)56を有している。(略)」
<記載事項9>
「【0033】上述の実施例では、以下の寸法が適当と考えられる。
上板及び下板の孔の側長 0.240インチ
上側及び下側のリガメントの列内の幅 0.100インチ
上板及び下板の厚さ 0.450インチ
間隙G 0.10インチ(略)」
<記載事項10>
「【0034】図16及び図17は第3の実施例を示す。この実施例の全体的な二重板構造も同様であり、この場合、対応した類似要素を表すために、同様の参照番号に接頭辞「2」を加えたものを用いている。この第3の実施例では、両方の板240及び242における孔244及び268は円形であり、頂部から底部まで内向きのテーパを付けてある。(略)」

したがって、上記記載事項1乃至10及び図面に基づけば、引用刊行物には、
「マトリクス(行列)を成す複数の起立した燃料棒12のバンドルが、上部タイプレート・アセンブリと下部タイプレート・アセンブリとの間に支持されている沸騰水型原子炉の燃料バンドルの下部タイプレート・アセンブリにおいて、前記燃料棒12の下端の燃料棒端栓を支持する下部タイプレート格子16の上流で下部タイプレート・アセンブリの流室内において設けられている破片捕取装置が、垂直方向に相隔たった一対の比較的厚い板で構成されており、各々の板には、同様な寸法及びピッチの比較的大きな孔が形成されているが、上板の孔の配列は下板の孔の配列からずれている沸騰水型原子炉の燃料バンドルの下部タイプレート・アセンブリ。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

4.対比
本願発明と引用発明とを比較する。
(1)引用発明の「複数の起立した」は本願発明の「多数本の」に、以下同様に、「マトリクス(行列)を成す」は「所定の正方格子状配列の」に、「バンドル」は「束」に、「沸騰水型原子炉の燃料バンドル」は「沸騰水型原子炉用燃料集合体」に、「下端の燃料棒端栓」は「下部端栓」に相当する。
(2)引用発明の「上部タイプレート・アセンブリ」、「下部タイプレート・アセンブリ」は、本願発明の「上部タイプレート」、「下部タイプレート」に相当するので、引用発明の「上部タイプレート・アセンブリと下部タイプレート・アセンブリとの間に支持されている」は、本願発明の「上部タイプレートおよび下部タイプレートによって上下両端で支持されてなる」に相当する。
(2)引用発明の「下部タイプレート格子16」、「上流に」、「下部タイプレート・アセンブリの流室内において設けられている」は、本願発明の「上部支持板」、「下方に」、「内蔵し」に相当するので、引用発明の「下部タイプレート格子16の上流で下部タイプレート・アセンブリの流室内において設けられている」は、本願発明の「上部支持板の下方に該上部支持板から離して内蔵し」に相当する。
(3)
ア.引用発明の「破片捕取装置」は、図10,11等からみて、平板状部材であることは明らかであるので、本願発明の「平板状フィルタ部材」に相当する。
イ.引用発明の破片捕取装置に形成された「同様な寸法及びピッチの比較的大きな孔」は、本願発明の「多数の貫通孔」に相当する。
ウ.引用発明の「形成されている」は本願発明の「有する」に相当する。
エ.以上のことから、引用発明の「破片捕取装置が、垂直方向に相隔たった一対の比較的厚い板で構成されており、各々の板には、同様な寸法及びピッチの比較的大きな孔が形成されている」という構成は、本願発明の「多数の貫通孔を有する平板状フィルタ部材」に相当する。

したがって、両者は、
「多数本の燃料棒が所定の正方格子状配列の束として上部タイプレートおよび下部タイプレートによって上下両端で支持されてなる沸騰水型原子炉用燃料集合体の下部タイプレートにおいて、多数の貫通孔を有する平板状フィルタ部材を前記燃料棒の下部端栓を支持する上部支持板の下方に該上部支持板から離して内蔵したことを特徴とする沸騰水型原子炉用燃料集合体の下部タイプレート。」の点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点]
平板状フィルタ部材が、本願発明は、その部材厚みをT、前記貫通孔の最大直径をDとしたとき、D<T、T≦5mm、且つD≦4mmを満たすのに対して、引用発明は、垂直方向に相隔たった一対の比較的厚い板で構成されており、各々の板には、同様な寸法及びピッチの比較的大きな孔が形成されているが、上板の孔の配列は下板の孔の配列からずれている点。

5.当審の判断
上記相違点について検討する。
(1)上記相違点に係る本願発明の発明特定事項によれば、本願発明の多数の貫通孔を有する平板状フィルタ部材は、一枚構成であるということができ、一方、引用発明の平板状フィルタ部材は、上板、下板の2枚構成である。
しかしながら、引用刊行物1の記載全体からみて、引用刊行物1に記載された2枚構成の平板状フィルタ部材は、1枚構成の多数の貫通孔を有する平板状フィルタ部材の従来技術を改良したものであることであることは当業者ならば自明なことである。また、沸騰水型原子炉用燃料集合体の下部タイプレートにおいて、多数の貫通孔を有する平板状フィルタ部材を燃料棒の下部端栓を支持する上部支持板の下方に該上部支持板から離して内蔵したものにおいて、前記平板状フィルタ部材を、複数の貫通孔を有する一枚の金属薄板から構成することは、周知技術でもある(特開平3-255984号公報の特許請求の範囲、段落【0011】、図1)。

(2)相違点に係る本願発明の発明特定事項である「平板状フィルタ部材は、その部材厚みをT、前記貫通孔の最大直径をDとしたとき、D<T、T≦5mm、且つD≦4mmを満たすこと」について検討する。
ア.D<Tについて
本願明細書には、上記D<Tと限定したことにより、燃料集合体の下部タイプレートの下方から進入する異物の形状が線状の場合、平板状フィルタ部材の貫通孔の中心軸に対して45度以下で進入する上記異物を、上記貫通孔において捕獲できることが記載されている(段落【0023】)。
しかしながら、原子炉運転時において、燃料集合体の下部タイプレートの下方から異物又は冷却材が上記貫通孔の中心軸に対して45度以下で進入する割合がどの程度なのか、本願明細書に説明されていないので、D<Tと規定したことによる原子炉運転時における効果が不明である。
また、引用刊行物には、平板状フィルタ部材に設けられる貫通孔の形状を円形とすることも記載されている(記載事項10)。
よって、上記D<Tとの限定は、当業者が適宜になし得る程度の設計事項である。

イ.T≦5mmについて
本願明細書の段落【0039】には、平板状フィルタ部材が、多数の貫通孔を形成してなる一枚構成ではなく、2層構造の平板状フィルタ部材における上流側の第1金属細板層について、「上流側の金属細板を5mmを超えた厚いものとすると、これら金属細板が整流器として働いてしまい、異物の軸線が冷却材の流れ方向に一致し易くなってフィルタ部を通過しやすくなり、異物補足性能が低下してしまうためである。」と記載され、多数の貫通孔を形成してなる平板状フィルタ部材の厚みTをT≦5mmと規定した効果について記載されている。
そして、本願発明の一枚構成の平板状フィルタ部材においても上記効果が生じるとしても、多数の貫通孔を形成してなる平板状フィルタ部材の厚みが厚くなると、多数の貫通孔は整流器として作用することは、当業者ならば自明なことといえる。
また、本願発明において、多数の貫通孔を有する平板状フィルタ部材
の厚みの上限値を5mmと規定した点に臨界的意義があるとはいえない。
よって、上記T≦5mmとの限定は、格別なものとはいえない。

なお、審判請求人は、平成18年6月9日付けの手続補正書の【請求の理由】(5)において、上流側のフィルタの厚みを5mm以下とした効果として、下部タイプレートの局部圧力損失係数の増大が抑えられる旨を主張している。
しかしながら、本願明細書には、フィルタ(金属細板)が整流器として作用しないようにフィルタの厚みを5mm以下とした点が記載されているに過ぎず、下部タイプレートの局部圧力損失係数の増大することを抑えるために、フィルタの厚みを5mm以下した点が記載されているとはいえない。
また、上記手続補正書の参考図1,2には、フィルタ厚みを0から20mmに変えた場合の、局所圧力損失係数及び(局所圧力損失係数)/(フィルタ厚み)のグラフが図示されているが、このグラフは、本願明細書の記載に基づくものではないので、採用できない。
さらに、本願明細書及び図面の記載、並びに、仮に上記グラフが採用できたとしても、フィルタの厚みを5mm以下とした点に臨界的な意義があるともいえない。
したがって、上記請求人の主張は採用できない。

ウ.D≦4mmについて
本願明細書の段落【0024】には、「捕捉対象異物の特に線状異物の長
さをLとするとき、D≦0.4×Lとすれば、異物捕捉性能が格段に向上することが明らかとなっている。一方、炉内で照射されている燃料集合体内で引っ掛かってフレッティング等を起こす可能性の異物の長さは概ね10mm以上であることが経験的に言われている。そこで、長さ10mm以上の線状異物捕捉する必要から、上記線状異物の長さLを10mmとし、本発明ではフィルタ部材の貫通孔の最大直径Dを4mm以下とする。」と記載されている。
してみると、請求人が「異物捕捉性能が格段に向上するとする」平板状フィルタ部材の貫通孔の直径は、線状異物の長さに依存し、例えば、線状異物の長さが20mmの場合には、D≦8mmとなるので、本願発明の発明特定事項である「平板状フィルタ部材は、貫通孔の最大直径をDとしたとき、D≦4」は、平板状フィルタ部材が捕獲する異物の形状、長さに応じて、その上限値が変わる程度の限定に過ぎないということができ、格別なものとはいえない。

エ.以上のア.?ウ.で検討した点を総合すると、上記相違点にかかる本願発明の発明特定事項は、引用刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

また、本願発明の効果は、引用刊行物の記載及び周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。

よって、本願発明は、引用刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-10-10 
結審通知日 2006-10-11 
審決日 2006-10-25 
出願番号 特願2000-304664(P2000-304664)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G21C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 青木 洋平  
特許庁審判長 江塚 政弘
特許庁審判官 柏崎 正男
森口 良子
発明の名称 沸騰水型原子炉用燃料集合体の下部タイプレート  
代理人 佐藤 年哉  
代理人 花村 太  
代理人 佐藤 正年  

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