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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12P
管理番号 1148747
審判番号 不服2001-1122  
総通号数 86 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1992-10-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-01-25 
確定日 2006-12-04 
事件の表示 平成 2年特許願第419119号「ヒト腫瘍壊死因子結合蛋白」拒絶査定不服審判事件〔平成 4年10月23日出願公開、特開平 4-299989〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成2年12月26日(パリ条約による優先権主張1990年7月12日、イスラエル)に出願されたものであって、その請求項1?4に係る発明は、平成17年9月6日受付の手続補正書により補正された明細書および図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された、以下のとおりのものと認められる(以下、それぞれ本願発明1?4という。)。
「【請求項1】 ヒト腫瘍壊死因子結合蛋白I(TBP-I)であって、ヒト可溶性腫瘍壊死因子リセプターI型(TNF-RI)であるヒトTBP-Iの製造方法であって、
1) 全長ヒトTNF-RIをコードする、以下に示すヌクレオチド配列を有するDNA分子であってその5’末端にシグナルペプチドをコードするDNAが連結されたDNA分子、又は以下に示すヌクレオチド配列を有するDNA分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし全ヒトTNF-RIと同様の機能を有する蛋白をコードするDNA分子であってその5’末端にシグナルペプチドをコードするDNAが連結されたDNA分子を含む発現ベクターで真核細胞をトランスフェクションし、
2) 該トランスフェクションされた細胞を培養し、
3) 培地から、蛋白質分解的切断工程を要することなく、TBP-Iを単離する、
ことよりなる、上記方法:
(+1位のIleから434位のArgまでのアミノ酸配列に対応する1302ヌクレオチドからなる配列、具体的配列は省略)
【請求項2】 該DNA分子は発現ベクターに導入され、ジヒドロフォレートリダクターゼ(DHFR)をコードするDNAを含有する組換えベクターで、DHFR-欠損チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞にコトランスフェクションされる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】 該細胞はヌクレチドを含まない培地中での増殖により選択され、各クローンはメトトレキセート存在下での増殖により増殖され、増殖培地中に分泌される該TBP-Iは、TBP-Iに対するモノクローナル抗体及び/又はポリクローナル抗体との反応により検出される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】 得られるTBP-Iは、請求項1に示したアミノ酸配列の1-20番目のいずれかのアミノ酸残基から180-182番目のいずれかのアミノ酸残基までのアミノ酸配列からなる、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。」

2.原査定の拒絶の理由
一方、原審の拒絶査定の理由は、
「この出願の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献2.J.Biol.Chem.,January,1990,Vol.265,No.3,p.1531-1536
引用文献3.Cell,April,1990,Vol.61,No.2,p.351-359
引用文献4.Cell,1989,Vol.59,No.2,p.335-348」
というものである。

3.当審の判断
本願発明が原審の拒絶査定の理由により拒絶すべきものであるか否か、以下に検討する。
(3-1)原査定の引用文献に記載された技術的事項
原査定で引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である、引用文献2?4には、以下の技術的事項が記載されている。
引用文献2;J.Biol.Chem.,January,1990,Vol.265,No.3,p.1531-1536
「ヒト尿から精製された二つの腫瘍壊死因子結合蛋白」という表題の論文であり、
(a)1531頁の要約欄に、「腫瘍壊死因子(TNF)に特異的に結合する二つの蛋白が、ヒトの尿からリガンド(TNF)アフィニティ精製と引き続く逆相高速液体クロマトグラフィーにより単離された。…どちらの蛋白も、TNFの細胞殺傷性効果に対する防護作用を与え、TNF-βよりもTNF-αと、より効果的に結合した。これらの蛋白のそれぞれに対して誘発された抗体は、細胞に対するTNFの結合に対し阻害効果を有しており、このことは、これらの蛋白の両方とも、TNF受容体と構造的に関連するものであることを示唆している。しかしながら、これらの二つの蛋白は、アミノ酸配列のアミノ末端において相違する;一方は、Asp-Ser-Val-Cys-Proであり、他方は、Val-Ala-Phe-Thr-Proである。…TNFに対する細胞表面受容体について二つの区別し得る分子種が存在し、細胞の系統が異なるとこれら二つの受容体の発現にも差があることを示す証拠が、最近提示された。この研究によりもたらされた発見は、これらの尿中のTNF結合蛋白が細胞表面TNF受容体のこれら二つの分子種の可溶性の形態を構成するという見解と矛盾しないものである。」と、
(b)1535頁右欄最下行?1536頁左欄29行に、「TNF結合蛋白が細胞表面と可溶性の両形態において存在することの基となる機構に関し、ある考えが、そのような二重の形態が見いだされる他の蛋白に関する研究から導き出すことができる。そのような現象に対するいくつかの機構が観察されており、そのそれぞれが当該タンパクの可溶性及び膜性形態の形成の間に異なる程度の相互依存性をほのめかしている。構造的に関連しているが、異なる遺伝子によりコードされ、かくして、互いに独立して形成されることができる可溶性及び膜性蛋白が知られている。蛋白の膜性及び可溶性の両形態は同じ遺伝子によりコードされているが、アルタナティブ・スプライシング経路を経て産生される異なる種類のmRNAの翻訳により、独立して合成される蛋白も存在する。イムノグロブリンの可溶性及び細胞随伴性の形態はその1例である。同じ蛋白の可溶性及び膜性の形態は、可溶性蛋白が膜性蛋白の分断により産生されるという、緊密に組み合わさった態様で形成されることもできる。IL-2受容体のα鎖の可溶性形態の構造的研究は、その形成に蛋白分解的な切断のような段階を含んでいることを示唆する。TBPIとTBPIIがどのような機構で産生されるのか決定することは、我々がこれらの分子の生理学的な機能を理解することにも寄与するであろう。これらの蛋白が細胞表面受容体とは独立して形成されるのか、或いはそれらの蛋白分解的切断により形成されるのか知ることは、特に興味深い。というのは、後者の場合、可溶性蛋白の形成は細胞の受容体量の減少をもたらし、かくして、当該細胞のTNFへの応答性を減少させる機構を構成するかもしれないからである。」と、
(c)1536頁左欄下7行?右欄2行に、「この研究における発見により提起されるもう一つの実用上重要であるかもしれない可能性は、サイトカインに対する受容体は、細胞に対して可溶性の形態で与えられたときは、サイトカインを隔離し、かくして、インヒビターとして働くかもしれないということである。受容体の構造に関する詳細な情報とそれを生物学的に活性な可溶性形態で産生するための方法を知ることは、我々に、病気におけるこれらのサイトカインへの過応答を抑制するための治療剤として働くかもしれない阻害性の分子を提供することができるかもしれない。」と記載されている。
引用文献3;Cell,April,1990,Vol.61,No.2,p.351-359
「ヒト55kd腫瘍壊死因子受容体の分子クローニングと発現」という表題の論文であり、
(d)355頁左欄15行?右欄16行に、「55kdTNF受容体cDNAの形質導入と発現はTNF結合活性を授ける 55kdTNF受容体のcDNAがTNFの特異的な結合を受容細胞に授けるのに必要な最小限の完全な情報を運ぶものであることを確定するために、二つの独立した発現系が研究された。第1に、1.3kbのEcoRI-EcoRIフラグメント(図2B)が、ヒト・サイトメガロウイルスの直接早期プロモータとSV40のoriを含む調整pXF3/oriベクター中にクローニングされた。この構築物がリポフェクチンを用いてCOS-1細胞中に形質導入され、一過性の発現が測定された。形質導入細胞の表面に対する125I-TNFの特異的な結合が、500倍過剰量の冷えたTNFの不在及び存在下での培養3日後に分析された。結合データとスカッチャード分析が図5に示される。形質導入COS細胞を用いて測定された約0.5nMのkd値は、殆どHEp2細胞にのみ発現する天然の55kdTNF受容体のkd値に匹敵する。COS細胞の内因性のTNF結合部位はヒト55kdTNF受容体型のそれと匹敵する親和性を有する。更に、ヒト55kdTNF受容体の細胞外領域に対するモノクローナル抗体htr-9が、当該内因性のCOS細胞受容体へのTNFの結合をほぼ完全に阻害する。我々は、それゆえ、主要な内因性のCOS細胞TNF受容体はヒト55kdTNF受容体のホモログであると想定する。抗55kdTNF受容体抗体を用いた免疫蛍光による研究は、1.3kbのEcoRI-EcoRIフラグメントの受容体構築物の比較的低い程度の発現が、図5の分析において計測された125I-TNFの結合が少数の強陽性の形質転換細胞から得られ、当該細胞の大多数が実質的に着色しないという事実の帰因するところであることを示すものである。
第2に、55kdTNF受容体の発現が、バキュロウイルス発現系を用いて研究された。1.3kbのEcoRI-EcoRIフラグメントが調整されたポリヘドリン・プロモータの制御下のpVL941プラスミド中にクローニングされ、相同組み換えによりAcNPウイルスに導入された。S19細胞が当該ウイルス構築物により感染されたとき、高度の顕著で特異的な細胞表面のTNF結合が観察された(表1を見よ)。」と、
(e)356頁右欄9行?357頁左欄11行に、「TNFの強力な生物活性の観点から、TNFインヒビターは重要な生理学的な役割を有しているかもしれない。ヒトの血清及び尿から最近見いだされたTNFインヒビターの意義はまだ理解されていないが、それはTNF沈下剤として機能するかもしれない。当該インヒビターの最初の20アミノ酸が55kdTNF受容体の成熟体の12番目の残基から始まる配列と一致するという発見は、当該インヒビターが当該受容体分子の細胞外領域のおそらく殆どを含有する可溶性のフラグメントであることを疑う余地を殆ど残していない。IL-2受容体のα鎖のような他のリンホカイン受容体の可溶性形態が、以前に報告され(ルービンら、1985年)、可溶性のIL-4受容体をコードする特別のmRNAが同定された(モズレイら、1989年)。55kdTNF受容体のゲノム・サザンブロット分析では、インヒビターをコードするかもしれない第2の明確な遺伝子が存在する証拠は得られない。更に、潜在的にインヒビターをコードし、ディフェレンシャル・スプライシングにより作り出された、より短いmRNAが存在する証拠は、種々の細胞系のノーザンブッロト分析により見いだされなかった。TNFインヒビターの特別なmRNAは、しかしながら、組織特異的なスプライシングの生起の結果であり、この研究で使用された細胞系では検出される必要はないのかもしれない。それゆえ、TNFインヒビターは組織特異的にディフェレンシャル・スプライスされた転写体によりコードされているという可能性がある。しかしながら、それは受容体分子が蛋白分解的にプロセッシングされることにより創り出されるということのほうがよりそれらしい。後者の可能性に関連し、二つのアミノ末端、すなわち受容体におけるロイシン(+1)及びインヒビターにおけるアスパラギン酸(12)、並びに、配列の比較により予言される潜在的な3番目のシグナルペプチド切断部位、イソロイシン(-8)の発見が好奇心をそそられる。初期翻訳生成物が広範な翻訳後のプロセッシングを受け、成熟した受容体及びインヒビター分子へと導かれるということも除外できない。」と記載され、
(f)353頁の図2「55kdTNF受容体のヌクレオチド及び予想されるアミノ酸配列、及び、55kdTNF受容体のcDNAクローンの図解的描写」の図の説明欄に、「(A)アミノ酸の番号付けはアミノ末端Leu(+1)から始まる;ヌクレオチドの番号付けは開始コドンから始まる。アミノ酸1-28と223-235は精製された受容体蛋白の配列決定によっても同定された。205-209残基はヒト胎盤から精製された受容体蛋白と一致する。推定上の経膜領域には下線が施されている。N結合グリコシレーションの可能性のある部位はアスタリスクで示す。システイン残基のパターンについては図6を参照されたい。(B)ハイブリダイゼーション・プローブA、B及びCを示す。cDNAのコード領域を枠で囲み、推定上のリーダー(L)、細胞外(EC)、経膜(TM)、細胞内(IC)及び非翻訳(5’nt、3’nt)領域を示す。」と記載され、A図に「Metから始まる29アミノ酸のリーダー部分とそれに続いてLeuValPro…と続く426アミノ酸からなる配列及びそれをコードするヌクレオチド配列」が示され、B図に当該タンパクの推定上の領域が示されており、1.3kbのEcoRI-EcoRIフラグメントが推定上のリーダー、細胞外及び経膜領域、並びに細胞内領域の半分以上を含むものであることが見て取れる。
引用文献4;Cell,1989,Vol.59,No.2,p.335-348
「マウス・インターロイキン-4受容体:分泌型及び膜結合型の分子クローニングとその特性付け」という表題の論文であり、
(g)335頁の要約欄に、「インターロイキン-4(IL-4)に対する受容体が広範に多様な初代細胞及び培養細胞系上に低いレベルで発現された。CTLL-2細胞の蛍光活性化ソーティングの結果、細胞あたり106IL-4受容体を発現するサブクローンCTLL19.4が単離された。これらの細胞は、IL-4受容体蛋白の精製とcDNAクローンの単離のためのハイブリッド控除cDNAプローブを調整するために使用された。3つのクラスのIL-4受容体のcDNAが同定された。第1のものは、細胞外、経膜、及び細胞質領域を含む140kdの膜結合IL-4受容体をコードしていた。第2のクラスは、細胞質領域が欠如しており、第3のものは、当該受容体の分泌形態をコードしていた。COS-7細胞で発現した全てのcDNAクローンは、天然のIL-4受容体に匹敵するIL-4結合特性を有していた。IL-4受容体の当該可溶性形態は、IL-4のCTLL細胞増殖を誘発する能力を阻害した。当該形態は、IL-4-依存性の免疫応答に対する特異的な制御分子であるのかもしれない。」と記載され、
(h)338頁の図4「マウスIL-4受容体cDNA(複数)」の図の説明欄に、「(A)IL-4受容体のcDNAの制限酵素地図と図解的描写。酵素制限部位は酵素EcoRI(R)、PvulL(P)、HincII(H)およびSstl(S)について示す。C-16の制限酵素地図上の矢印はスプライスドナー及びアクセプター部位を示す。C-18及びB-4の制限酵素地図上の白四角は挿入配列と同定される。コーディング領域は囲われて、陰がふされている。チェックの部分はシグナル配列を示し、スラッシュ・マークは細胞外領域を意味し、黒塗りの部分は経膜領域を印し、点々は細胞内領域を示し、そして白抜きの部分(C-18及びB-4)は挿入配列によりコードされる6アミノ酸を示す。…」と記載され、A図にマウスから得たIL-4受容体の4つのcDNA、C-16、C-18、B-4およびB-2について、それらがコードするタンパクの推定上の領域が示されており、C-16がシグナル、細胞外及び経膜領域からなり、C-18がシグナル、細胞外及び挿入配列からなり、B-4が細胞外及び挿入配列からなり、B-2がシグナル、細胞外、経膜及び細胞内領域からなることが見て取れ、
(i)341頁右欄下9?1行に、「Fig.6Bに描写された試験結果は、クローンC-18およびB-4によりコードされるIL-4レセプターの実質的な量がIL-4に効果的に結合することができる形でCOS-7細胞培地中に分泌されたことを示唆する。一方、クローンC-16およびB-2によりコードされるIL-4レセプターは当該培地中に検出されなかった。このことは、アミノ酸209から232の間の推定上の経膜領域が実際にこれらのより大きな蛋白質を細胞膜に安定に繋ぎ止める能力があったことを示している。」と記載され、
(j)341頁の図6「COS-7細胞において発現された組み換えマウスIL-4受容体の結合特性」の図の説明欄に、「…(B)マウスIL-4レセプター・クローンC-16(白丸)、C-18(黒丸)、B-2(白三角)、およびB-4(黒三角)により形質転換されたCOS-7細胞から得た上清による、CTLL細胞に対する125I-IL-4の結合の阻害。CTLL細胞(1.33×107細胞/ml)が、125I-IL-4(3.5×10-10M)およびトランスフェクションから3日後のCOS-7細胞から得られた様々な濃度の上清とともにインキュベートされ、「実験方法」に記載されたようにアッセイが行われた。」と記載され、B図に「調整培地100%の付近では、細胞外領域のみを発現させたC-18(黒丸)では95%程度の阻害が生じるのに対し、細胞内領域を含む全長を発現させたB-2(白三角)でも10%弱の阻害が生じる」ことが図示されている。
(引用文献の記載事項に関する下線は、当審によるものである。)

(3-2)本願発明1と引用文献3に記載された技術的事項の対比
引用文献3には、上述のとおり、ヒト55kdTNF受容体をコードするヌクレオチド配列及びそれから推定されるアミノ酸配列が記載され(図2A)、当該ヌクレオチド配列の1.3kbのEcoRI-EcoRIフラグメント(図2B)をCOS-1細胞等に形質導入したところ、その細胞表面にヒトTNFに対し天然の55kdTNF受容体に匹敵する親和性を有する蛋白が発現したことが記載されており(3-1の(d))、当該1.3kbのフラグメントは、両図を対比すると、図2Aの55kdTNF受容体の-29位のシグナルペプチドN末端から細胞外領域、経膜領域を経て、細胞内領域の過半までを含む部分のアミノ酸配列をコードするヌクレオチドを含むものであることが明らかである(3-1の(f))。
一方、本願請求項1に記載された、ヒト腫瘍壊死因子リセプターI型(TNF-RI)の全長のアミノ酸配列である「+1位のIleから434位のArgまでのアミノ酸配列」及びそれをコードするヌクレオチド配列は、引用文献3の図2Aに記載された55kdTNF受容体のアミノ酸配列の-8位からその末尾の426位までの配列及びそれをコードするヌクレオチド配列と同じ配列である。そして、本願発明1において真核細胞のトランスフェクションに使用されるDNA分子は、当該アミノ酸配列に対応する1302ヌクレオチドからなる配列の5’末端にシグナルペプチドをコードするDNAが連結されたものであり、具体的には、本願の出願当初の明細書に添付された図1Dのアミノ酸配列の-21位のシグナルペプチドN末端から全配列の末尾の434位までに対応するヌクレオチドからなるものであるところ、当該図1Dの-21位から434位までのアミノ酸配列及びそれをコードするヌクレオチド配列は、引用文献3の図2Aの-29位のシグナルペプチドN末端から全配列の末尾の426位までのアミノ酸配列及びそれをコードするヌクレオチド配列と一致する。すなわち、両アミノ酸配列は、それぞれ推定したシグナルペプチドの長さが異なるだけのものであり、シグナルペプチドを含めた全体のアミノ酸配列及びそれをコードするヌクレオチド配列は同じものである。
そうすると、引用文献3において55kdTNF受容体の形質導入に用いた、図2Aのアミノ酸配列のシグナルペプチドのN末端から細胞内領域の過半までをコードするDNA分子は、本願の図1Dのアミノ酸配列のシグナルペプチドのN末端から細胞内領域の過半の同じアミノ酸までをコードするDNA分子と同じものであるから、「全長ヒトTNF-RIの細胞内領域の過半までをコードする以下に示すヌクレオチド配列の部分を有するDNA分子であってその5’末端にシグナルペプチドをコードするDNAが連結されたDNA分子(+1位のIleから434位のArgまでのアミノ酸配列に対応する1302ヌクレオチドからなる配列、具体的配列は省略)」であるといえる。
よって、引用文献3には、1)全長ヒトTNF-RIの細胞内領域の過半までをコードする以下に示すヌクレオチド配列の部分を有するDNA分子であってその5’末端にシグナルペプチドをコードするDNAが連結されたDNA分子(+1位のIleから434位のArgまでのアミノ酸配列に対応する1302の具体的なヌクレオチドからなる配列、具体的配列は省略)を含む発現ベクターで真核細胞をトランスフェクションし、2) 該トランスフェクションされた細胞を培養し、3)当該培養細胞により、当該DNA分子がコードする全長ヒトTNF-RIの細胞内領域の過半までを発現させることにより、培養細胞の細胞表面にヒトTNFに対し天然の受容体に匹敵する親和性をもって結合する蛋白が生成したことが記載されているといえる。
そこで、本願発明1と引用文献3に記載された技術的事項を対比すると、
両者は、
「ヒト腫瘍壊死因子リセプターI型(TNF-RI)に関連するヒト腫瘍壊死因子に結合する蛋白の製造方法であって、
1) 全長ヒトTNF-RIの少なくとも細胞内領域の過半までをコードする以下に示すヌクレオチド配列の部分を有するDNA分子であってその5’末端にシグナルペプチドをコードするDNAが連結されたDNA分子を含む発現ベクターで真核細胞をトランスフェクションし、
2) 該トランスフェクションされた細胞を培養し、
3)ヒト腫瘍壊死因子に結合する蛋白を取得する
ことを含む、方法
(+1位のIleから434位のArgまでのアミノ酸配列に対応する1302ヌクレオチドからなる配列、具体的配列は省略)」
である点で一致するが、
(i)「ヒト腫瘍壊死因子リセプターI型(TNF-RI)に関連するヒト腫瘍壊死因子に結合する蛋白」が、本願発明1においては、「可溶性のヒト腫瘍壊死因子リセプターI型(TNF-RI)」すなわち「ヒト腫瘍壊死因子結合蛋白I(TBP-I)」であるのに対し、引用文献3では、「ヒト腫瘍壊死因子リセプターI型(TNF-RI)の細胞内領域の過半までの部分」である点(相違点1)、
(ii)本願発明1が、シグナル部分を含む全長ヒトTNF-RIをコードするDNA分子でトランスフェクションされた真核細胞の培養「培地から、蛋白質分解的切断工程を要することなく、TBP-Iを単離する」ことにより、可溶性のTNF-RIであるTBP-Iを得るものであるのに対し、引用文献3では、シグナル部分を含み、全長ヒトTNF-RIの細胞内領域の過半までをコードするDNA分子でトランスフェクションされた培養細胞の細胞表面に、TNF-RIの親和性を有する蛋白が発現されたことを確認したに留まり、当該培養細胞の培地に、可溶性のTNF-RIが存在することも、それを培地から採取することも記載されていない点(相違点2)、
で、相違する。

(3-3)上記相違点についての判断
上記相違点について、以下検討する。
(i)相違点1について
上述のとおり、引用文献2に、ヒトの尿中からTNFに特異的に結合する二種類の蛋白が得られ、これらは細胞表面に発現するTNF受容体の二種類の分子種それぞれの可溶性の形態であることが想定されたこと(3-1の(a))、そしてこのようなサイトカインの可溶性の形態は、サイトカインが細胞表面の受容体に結合し、生理活性を発揮することを阻害する作用を有するかもしれず、サイトカインへの過応答を抑制するための医薬としての用途が見込まれるかもしれない旨(3-1の(c))が記載され、本願発明のTNF-RIに該当する55kdTNF受容体についても、引用文献3に、「TNFの強力な生物活性の観点から、TNFインヒビターは重要な生理学的な役割を有しているかもしれない。ヒトの血清及び尿から最近見いだされたTNFインヒビターの意義はまだ理解されていないが、それはTNF沈下剤として機能するかもしれない。当該インヒビターの最初の20アミノ酸が55kdTNF受容体の成熟体の12番目の残基から始まる配列と一致するという発見は、当該インヒビターが当該受容体分子の細胞外領域のおそらく殆どを含有する可溶性のフラグメントであることを疑う余地を殆ど残していない。」と記載されている(3-1の(e)前半)とおり、ヒトの血清及び尿中に存在する、その可溶性の形態と想定される蛋白に生理学的な有用性があることが見込まれているから、当該55kdTNF受容体すなわちTNF-RIの可溶性の形態の蛋白を、引用文献3に記載された55kdTNF受容体の遺伝子等に関する情報を利用して、遺伝子組み換えの手法により多量に生産することは、これらの文献に記載された事項に基づいて、当業者が十分に動機付けられることである。
(ii)相違点2について
本願発明1に関し、本願明細書には、「真核細胞宿主は、全I型TNFリセプターをコードするcDNAよりなるプラスミッドで、本発明に従いトランスフェクションされる。好適な真核細胞宿主は哺乳動物の細胞(例えばヒト、サル、マウス及びチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞)である。これらは細胞表面リセプターに加えて、該蛋白の可溶性型を与え、蛋白分子に対して翻訳後の修飾(例えば正しい部位での正しい折たたみ又はグリコシル化を含む)を与える。」(【0031】)、「好適な態様において、CHO細胞は図1Dに示すI型TNF-RcDNAでトランスフェクションされ、これらが細胞表面リセプターとTBP-I、その可溶性型、及び/又はその前駆体及び類似体を産生する。」(【0033】)と、細胞表面リセプターが発現すると共に、その可溶型が分泌される旨が記載され、実際に、I型TNF-RcDNAの全長を発現させた、例3において、「E13cDNAそしてさらにTBP-Iにコードされる蛋白の関係を探るために、この蛋白をCHO細胞中で発現させた。E13cDNAを発現ベクター中に導入し、ジヒドロフォレートリダクターゼ(DHFR)cDNAを含有する組換えベクターでDHFR欠損細胞中にコトランスフェクションした。ヌクレオテドを含まない培地中で増殖させて選択した後、各クローンをメソトレキセート存在下で増殖させて増幅した。TBP-Iの位置的に異なるエピトープに結合する数個のモノクローナル抗体と反応するいくつかのクローンが検出された(図2)。蛋白の発現は、ヒトTNFの細胞への特異的結合の増加に相関した(表3)。この蛋白に対するポリクローナル抗体とモノクローナル抗体を使用した高感度の免疫測定法(操作法、例1f)を適用して、その表面にヒトTNF-Rを発現するCHO細胞の培地中に、また可溶性型の蛋白が検出された(表3)。TNF-Rを発現した5つの異なるCHOクローンのすべてがこの可溶性蛋白を産生した。この細胞表面リセプターを発現しない他のいくつかのトランスフェクションされたクローンは、その可溶性型も産生しなかった。逆相HPLCで解析すると、CHO酸性可溶性TNF-Rは単一のピークとして溶出し、保持時間はTBP-Iと同じであった(図3)。」(【0058】、【0059】)と、そのことが確認されている。
すなわち、本願発明1は、シグナル部分を含む全長ヒトTNF-RIをコードするDNA分子を真核細胞に形質導入し、当該細胞を培養して当該DNA分子を発現させると、TNF-RIが細胞表面に発現するだけでなく、その可溶型も培地中に分泌されることを見いだしたことに基づくものであり、当該分泌蛋白を単離精製することにより可溶型のTNF-RI(TBP-I)を得るものであるといえる。
これに対し、TNF結合蛋白が細胞表面型と可溶性型の両形態において存在することは、上述のとおり、引用文献2及び3により本願優先日当時すでに公知であり、このような両形態が存在することのもととなる機構について、引用文献2には、これを考察するにあたって、同様の形態を有する他の蛋白について観察された、(1)異なる遺伝子によりコードされ、互いに独立して形成される機構、(2)同じ遺伝子のアルタナティブ・スプライシングにより産生された異なるmRNAの翻訳により、互いに独立した蛋白として合成される機構、及び、(3)最初に産生された膜性蛋白の蛋白分解的な切断により可溶性蛋白が産生される機構が参考となる旨が記載され(3-1の(b))、引用文献3には、55kdTNF受容体に関しては、(1)ゲノム上に可溶性形態をコードする遺伝子の存在は確認されていないこと、(2)培養細胞系では可溶性形態をコードするmRNAは検出されなかったことが記載され、それゆえ、生体においては組織特異的にディフェレンシャル・スプライシングが行われる可能性は残されるものの、(3)受容体分子が蛋白分解的にプロセッシングされて可溶性形態が生じている可能性の方が高い旨が記載されている(3-1の(e)後半)。
そして、引用文献3において参照されている(3-1の(e))モズレイらの文献である引用文献4には、マウスのIL-4受容体について、同一の受容体遺伝子に基づく膜結合型および可溶性型をコードする複数のmRNA(cDNA)が得られたことが記載されている(3-1の(g))。引用文献4は、IL-4受容体の可溶性型と膜結合型がアルタナティブ・スプライシングにより産生される異なるmRNAに基づくものであることを記述するものであり、その一環として、上記複数のcDNAをCOS-7細胞に形質導入し、発現させたところ、上述のとおり、膜結合型のクローンC-16及びB-2からは可溶性型が産生しなかった旨が記載されている(3-1の(i))ものの、当該記載で参照する図6Bには、上述のとおり、「調整培地100%の付近では、細胞外領域のみを発現させたC-18(黒丸)では95%程度の阻害が生じるのに対し、細胞内領域を含む全長を発現させたB-2(白三角)でも10%弱の阻害が生じる」ことが図示されており(3-1の(j))、このことから、引用文献4には、細胞外領域のみを発現させた場合に比べて少量ではあるものの(10%/95%=0.11倍)、「IL-4レセプター(IL-4R)の経膜領域および細胞内領域を含む全長のcDNAをベクターに組み込み、細胞を形質転換して蛋白質を発現させたところ、IL-4と結合することによりIL-4がIL-4Rに結合するのを阻害する活性をもつ蛋白質が培養上清中に可溶化された」ことが記載されているといえる。
引用文献4に記載された上記事項は、当業者に、培養真核細胞の細胞表面に発現した膜結合型の受容体が、微量ではあるが、当該培養細胞系に備わっている蛋白質分解的な過程などの何らかの機構により切断され、可溶化されたことを想起させるものであると認められるから、引用文献3により、可溶性型が、膜結合受容体とは異なる遺伝子の産物ないし同じ遺伝子のmRNAのアルタナティブ・スプライシングによる産物ではなく、膜結合型の蛋白分解により生成する可能性が強く示唆されているTNF-RIについても、膜結合型受容体の遺伝子の全長を培養真核細胞で発現させた際に、蛋白質分解的切断工程を別途設けなくても、膜結合型の受容体とともに、培地中にその可溶化形態の若干量が分泌されるかもしれないことは、当業者が容易に予測し得ることであり、それを確認するために培地中に可溶化形態が分泌されているか否か調べることは、当業者が容易に想起し得ることである。
そして、このようにして得られた可溶性形態の産生の程度に関し、本願明細書には、E13cDNA(ヒトTNFレセプターの細胞内領域を含む全長のコード領域を含む;図1AのB参照)を含む発現ベクターでトランスフェクションされた細胞(R-16およびR-17)がI型ヒト可溶型TNFレセプターを30または49pg/ml産生したことが示され(公開公報12頁表3)、一方、I型TNFレセプターの可溶性領域をコードするDNAでトランスフェクションした場合は、「培養上澄液に10ng/ml迄の濃度のTBP-Iが検出された」ことが記載されている(【0075】、【0076】)。これらの可溶性TNFレセプターの産生量を単純に対比してみると、全長型での産生量は、細胞外型の49pg/10ng(すなわち10000pg)=0.005倍であり、このことから、全長のcDNAによるトランスフェクションにより可溶性TNFレセプターが産生するとしても、その量は極めて少量であり、細胞外領域のみをトランスフェクションした場合との比率は、引用文献4のIL-4の場合(0.11倍)と比べて、はるかに小さい比率であることが窺える。
そうすると、本願発明1により産生する可溶性TNF-Rの量は、引用文献4に記載された事項から十分に予想し得る範囲内のものであり、本願発明1が、この点で、予想しがたい格別の効果を奏するものとはいえない。
そして、その様にして分泌された少量ないし微量の可溶性TNF-Rを単離すること自体には格別の困難性は見いだせない。

(3-4)請求人の主張について
審判請求人は、本願は原査定の理由で拒絶すべきものである旨を指摘した当審の平成18年5月31日付のFAXによる審尋に対し、平成18年6月21日付のFAXによる回答書において、
(i)「引用文献4においては、図6Bの実験内容を誰よりもよく知る著者自身が、自らの実験に基づき、IL-4レセプターの全長をコードするcDNAを含むクローンB-2をCOS-7細胞で発現させても、培地中には何らのIL-4レセプターも検出されなかった、すなわち、可溶性IL-4レセプターは検出されなかったと報告しているのであり、引用文献4を読んだ当業者は、引用文献4には著者が報告したとおりのことが記載されていると理解するのが極めて自然である。」と主張し、また、
(ii)「仮に、引用文献4の図6Bのデータから、培地中に可溶性IL-4レセプターが産生されることが記載されているとしても、それは、COS-7細胞の培養液の上清の阻害活性に基づいており、極めて根拠に乏しいものであり、従って、それらのデータと、直接的に測定して求めた本願発明のTBP-Iの産生量とを対比して、本願発明の産生量の比率を論じること自体、全く妥当性に欠けるものである。」と主張する。
しかしながら、
上記(i)の点については、引用文献4の図6Bを見れば、細胞内領域を含む全長を発現させたB-2でも、調整培地100%の付近では、細胞外領域を発現させた場合よりもはるかに少ない程度であるが、IL-4受容体を発現する細胞に対するIL-4の結合が阻害されることは、明らかである。引用文献4は、IL-4受容体の可溶性型と膜結合型がアルタナティブ・スプライシングにより産生される異なるmRNAに基づくものであることを記述するものであり、上記複数のcDNAをCOS-7細胞に形質導入し、発現させる実験は、その一環として、天然において観察される可溶型のIL-4受容体が可溶型のmRNAの翻訳産物であることを立証するために行ったものであると考えられるから、細胞外領域のみを発現させた場合に対して無視し得る程度の阻害を生じた上記実験の結果に基づいて、膜結合型のクローンC-16及びB-2からは可溶性型が産生しなかった旨を記載したものであると解されるが、そのことは、IL-4受容体の細胞内領域を含む全長を培養真核細胞において発現させた際に、本願発明でTNF受容体について得られた程度の微少量の可溶性受容体の発現も生じないことを意味するものではないことは、図6Bを見れば明らかである。
上記(ii)の点について、請求人は、「図6Bから読み取れる10%弱の阻害とは、培養上清の阻害であり、培養上清中の可溶性IL-4受容体そのものによる阻害を指すものではないことは明らかであり、培養上清中に通常存在することが予想される、アルブミン、プロテアーゼなどの他の成分による阻害の可能性が否定できない」旨、主張するが、アルブミンやプロテアーゼなどが、どのようにしてIL-4受容体を発現する細胞に対するIL-4の結合を阻害するのか、何も述べておらず、また、そのような阻害作用が当業者に自明のことともいえないから、引用文献4の図6Bを見た当業者が、培養真核細胞においてIL-4受容体の細胞内領域を含む全長を発現させた場合でも、微少量の可溶性受容体は生じたことをまず想起することを妨げる事情は、特にないものと認められる。
そして、本願明細書の記載によれば、本願発明1において可溶性形態が格別の量産生したのではないことが推認できるのは、上述のとおりである。
この点につき、当審は、本願発明における可溶性形態の産生の程度がどれほどのものであるのか客観的に判断できるデータを示すことが必要である旨、繰り返し請求人に伝えてきた。
すなわち、平成18年1月10日付でFAXにより送付した審尋書において、「5.本願明細書に『本発明は、ヒトTBP-1、その前駆体及びその類似体の製造法であって、真核細胞、好ましくはCHO細胞を、全I型ヒトTNFレセプターまたはその可溶性領域をコードするDNA分子を含む発現ベクターでトランスフェクションすることを含む該製造法に関する。全DNA分子を用いる場合には、該トランスフェクションされた細胞から、細胞表面レセプターとともに可溶性蛋白が産生され、培地中に分泌される。』(【0007】)と記載されているとおり、本願請求項に係る発明においても、発現した全ての膜結合型TNF-レセプターが可溶性TNF-BPとして培地中に分泌されるわけではない。そして、本願実施例等をみても、発現した膜結合型TNF-レセプターに対してどの程度の量が可溶性TNF-BPとして分泌されたのかも定かでない。」と指摘し、更に、平成18年5月31日付けでFAXにより送付した審尋書においては、(3-3)で上述のとおり、本願明細書に記載された、TNF受容体の細胞内領域を含む全長と細胞外のみを発現させた場合の可溶性型の産生量の比率から、本願発明1により可溶性TNFレセプターが産生するとしても、「その量は極めて少量であり、細胞外領域のみをトランスフェクションした場合との比率は、引用文献4のIL-4の場合(0.11倍)と比べて、はるかに小さい比率であることが窺える。」旨を指摘した。
しかしながら、請求人は、この点につき、今に至るまで、何ら具体的なデータを示していない。そして、このような本願発明の奏する効果が格別のものであることを裏付ける客観的データを伴わない請求人の主張は、採用することができない。

(3-5)まとめ
以上のとおりであるから、本願発明1は、原査定で引用された本願優先日前に頒布された刊行物である引用文献2?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
そして、本願発明1を実施するにあたって、宿主とする哺乳動物細胞や発現に適するベクターを選択すること(本願発明2)、産生した蛋白質を抗体により検出すること(本願発明3)、また、このようにして得られた可溶化された蛋白質のアミノ酸配列を決定すること(本願発明4)等は、当業者が周知技術を適用する等して、適宜なし得たことであり、本願明細書をみても、(3-3)で上述したとおり、これにより引用文献2?4に記載された事項から予測しがたい格別の効果を奏するものとも認められない。
なお、請求人は、当審の先の平成18年1月10日付のFAXによる審尋に対して提出した平成18年1月30日付のFAXによる回答書において、本願発明1においてトランスフェクションされる真核細胞をCHO細胞に特定することを内容とする補正案を提示しているが、本願発明の可溶性形態の産生の程度をみた実施例で用いた真核細胞はいずれもCHO細胞であるところ、当該実施例の結果を見ても、本願発明が格別の効果を奏するとはいえないのは、上述のとおりであるから、当該補正案の発明も引用文献2?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願発明1?4は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本特許出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-07-05 
結審通知日 2006-07-07 
審決日 2006-07-25 
出願番号 特願平2-419119
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 六笠 紀子  
特許庁審判長 種村 慈樹
特許庁審判官 長井 啓子
佐伯 裕子
発明の名称 ヒト腫瘍壊死因子結合蛋白  
代理人 浅村 肇  
代理人 歌門 章二  
代理人 長沼 暉夫  
代理人 浅村 皓  

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