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審決分類 審判 査定不服 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41F
管理番号 1148780
審判番号 不服2003-6763  
総通号数 86 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-07-19 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-04-21 
確定日 2006-12-07 
事件の表示 平成 5年特許願第252936号「印刷機における操作駆動装置を位置定めする装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 6年 7月19日出願公開、特開平 6-198856〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成5年10月8日(パリ条約による優先権主張:1992年10月8日、ドイツ)の出願であるが、平成15年1月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対し同年4月21日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同日に手続補正がなされた後、当審において平成17年12月2日付けで拒絶理由通知が発せられ、平成18年6月9日付けで手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。
そして、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1乃至4には、以下のように記載されている。
「【請求項1】 駆動装置によって、印刷機(1)の印刷ユニット(2)内に配置された操作部材(10)、すなわちインキを調量する操作部材、版胴の周方向補正用操作部材および版胴の横方向補正用操作部材のいずれかの操作部材を位置定めする装置であって、
当該駆動装置は、前記操作部材(10)と結合されているモータ(9)から構成されており、
該操作部材(10)の実際位置を測定するポテンショメータ(11)が設けられており、
計算/調整装置(5)が設けられており、該計算/調整装置(5)は前記操作部材(10)の実際位置が目標位置から偏差すると、この偏差を打ち消す方向へ前記モータ(9)を駆動制御し、
前記モータ(9)は、前記目標位置の近傍領域外では連続的な動作形式で駆動制御され、前記目標位置の近傍領域内ではステップ動作形式で駆動制御される形式の装置において、
ステップ動作形式において前記計算/調整装置(5)は、パルス状制御電圧のパルス長さ(tp)または電圧レベルを変化させることで、その時駆動制御される必要のある全ての操作部材(10)が前記パルス状制御電圧の1クロック周期(tper)の間に等しい値の変位距離だけ変位するように各モータ(9)を駆動制御する、
ことを特徴とする、駆動装置によって操作部材を位置定めする装置。
【請求項2】 前記操作部材(10)として、印刷機(1)の印刷ユニット(2)におけるインキ路調節ねじが用いられる、請求項1記載の装置。
【請求項3】 前記操作部材(10)としてインキドクタローラが用いられる、請求項1記載の装置。
【請求項4】 最大のパルス持続時間(tpmax)を上回った場合、前記計算/調整装置(5)は警報装置(7)を作動させる、請求項1記載の装置。」

2.当審の拒絶の理由
当審において平成17年12月2日付で通知した拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。

「理由1:本件出願の請求項1乃至請求項5に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


1.特開昭58-112744号公報
2.特開昭56-157366号公報
3.特開昭61-262818号公報
4.特開昭57-89112号公報
5.特開昭56-82258号公報

理由2:本件出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項、第5項及び第6項に規定する要件を満たしていない。


A.請求項1において
(1)「印刷機における操作駆動装置を位置定めする装置」は、モータと、当該モータに結合されている所定の操作エレメントと、該操作エレメントの実際位置を測定するポテンショメータとから構成された操作駆動装置及び計算/調整装置とが印刷機に設けられており、該計算/調整装置は実際位置が所定の目標位置から偏差すると、この偏差を打ち消す方向へ前記操作駆動装置を駆動制御し、前記操作駆動装置は所定の領域外では連続的な動作形式で駆動制御され、所定の領域内ではステップ動作形式で駆動制御される形式の装置であって、ステップ動作形式において特有の駆動制御により位置定めをしてなるものであることが漠然と窺えるだけであり、どのような機構を用いて操作駆動装置を駆動制御して位置定めするのかが不明であることに加えて、それが十分に把握できる程度に詳細な説明に記載もされていないものである(「印刷機における操作エレメントを位置定めする装置」というのであればまだ理解はできるけれども、モータと、当該モータに結合されている所定の操作エレメントと、該操作エレメントの実際位置を測定するポテンショメータとから構成された操作駆動装置を位置決めするとなると、それを動かすモータとその実際位置を測定するポテンショメータ等のセンサが必要になるものと認める)。さらに、このような操作駆動装置の位置定めする装置が「印刷機における」と特定される必要性が不明であるし((仮に、操作駆動装置の位置定め装置が操作エレメントの位置定め装置であったとしても)印刷機に特化されるべき理由が不明であって、単なる位置定めする装置であるものとも読み取れる)、そのような記載にすることによる印刷機の全体像が具体的に把握できないものである。また、「所定の」なる記載が多々あるけれども、当該用語は単に定めがあることを意味するに過ぎないので、「所定の」では特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものとはいえないものである。

(2)「所定の領域(間隔)」なる用語があるけれども、「領域」と「間隔」とではその意味する定義が異なるものであるにもかかわらず、両者は同義語のように用いられている点(「領域」は面積のような広がりを示す用語であるのに対し、「間隔」は距離を示す用語であると認める)。

(3)「ステップ動作形式で駆動制御すること」が記載されているけれども、これは図4で示されるような、駆動時にフィードバック制御を行うことを意味することであると解しても良いのか否か不明である(拒絶の理由1.では「ステップ動作形式で駆動制御すること」をフィードバック制御を行うことと捉えて判断した)。

(4)「所定の操作エレメント全てが前記パルス状制御電圧1クロック周期tperの間に等しい値の変位距離だけ変位するように前記操作駆動制御装置を駆動制御する」ことが記載されているけれども、所定の操作エレメントが何であるのか不明である上に、なにゆえ所定の操作エレメント全てが前記パルス状制御電圧1クロック周期tperの間に等しい値の変位距離だけ変位するように制御しなければいけないのかが分かるように発明の詳細な説明に記載されていない(例えば、操作エレメントがインキ路調節ねじである場合、印刷時には通常インキ路調節ねじの全てが等しい値の変位距離だけ変位するように制御することの方が珍しいものである)。

B.請求項2乃至4において、操作エレメントがそれぞれインキ路調節ねじ、版胴の周方向及び/又は横方向への補正用、又はインキドクタローラであることが記載されているけれども、詳細な説明にはそれら各々の操作エレメントを設けた印刷機における操作駆動装置を位置定めする装置について十分に開示されていない(操作エレメントの使用箇所によって生じるであろう特有の効果についても読み取れないものであるし、インクドクタローラである場合には特定の胴版である必要があるものであると認める)。

C.請求項5において、「所定の距離に達しなかった場合」に計算/調整装置がどう作用するかは詳細な説明に記載されていない。」

3.明細書の記載事項
平成18年6月9日付の手続補正書によって補正された、本件補正後の明細書には、次の事項が記載されている。

ア.「【従来の技術】
印刷機には、多数の操作エレメントが設けられており、それらの位置定めは著しく高い精度で行なう必要がある。この高い精度の下でだけ、印刷物に課せられる高い品質要求が充足される。所定の操作エレメントとして、例えば個々の印刷ユニットへインキ案内をインキ路毎に調量するインキ路調節ねじが用いられる。印刷機のタイプに応じて印刷機の各々の版胴に、所属の操作モータと変位発信器を有する32のインキ路調節ねじが配属されている。さらにインキドクターの回転変位が個別の操作モータにより調整される。精密に動作するさらなる操作エレメントは、レジスタを補正するために、版胴を周方向へおよび横方向へ操作するのに用いられる。」(【0002】)

イ.「【発明の解決すべき課題】
本発明の課題は、印刷機の操作エレメントにおける調整操作過程を、高い位置定め精度で実施する装置を提案することである。」(【0004】)

ウ.「本発明の装置の実施例では、計算/調整装置は、目標位置と実際位置との偏差が所定の領域(間隔)外に存在すると、モータを連続的に駆動制御する。通常はこの構成は、印刷機のプリセット中にのみ用いられる。この操作により印刷機のための準備時間が短縮される。」(【0010】)

エ.「図2には本発明による装置の回路装置が示されている。計算/調整装置5はモータ9を電力部8を介して、本発明により、モータ9がステップ作動形式で動作するように駆動制御する。パルス持続時間tpは、モータ9が1クロック周期tper内に所定の変位距離を経過するように、選定されている。モータ9のその都度の位置はしたがって操作エレメント10のその都度の位置は、応答ポテンショメータ11を介して検出され、A/D変換器12を介して計算/調整装置5へ供給される。」(【0014】)

オ.「図4に操作エレメント10を駆動制御するためのフローチャート示されている。プログラムはステップ13からスタートする。ステップ14で実際値の、目標値からの偏差(Ist-Soll)が求められる。この偏差△(Ist-Soll)が目標値を中心とする所定の範囲(間隔)よりも大きいとモータは、この偏差△(Ist-Soll)が前記の間隔より小さくなるまで連続的に動かされる。ステップ16において、実際値と目標値との偏差△(Ist-Soll)が目標値を中心とする所定の許容範囲よりも小さいか否かが検査される。小さい時は、ステップ17でモータ17が停止される。他方、この偏差△(Ist-Soll)が許容範囲よりも大きいと、ステップ18で、所定のパルス長さtpが、操作エレメント10の所望の操作区間に相応するか否かが検査される。相応しない時は、ステップ19で、所望の操作変位に相応する新たなパルス長さtpが算出される。このループはパルス長さtpが操作エレメント10の所定の操作変位を生じさせるまで続けられる。この状態に達すると、直ちにステップ20でモータが定められたパルス長さtpでクロック制御される。偏差△(Ist-Soll)が許容範囲よりも小さいと、これは再びプログラムステップ16で検査されて、ステップ17でモータが停止される。」(【0016】,【0017】)

4.当審の判断
本件補正により、請求項1には、操作部材として「インキを調量する操作部材、版胴の周方向補正用操作部材および版胴の横方向補正用操作部材」が該当すること、ステップ動作形式において、「その時駆動制御される必要のある全ての操作部材がパルス状制御電圧の1クロック周期(tper)の間に等しい値の変位距離だけ変位するように各モータを駆動制御する」ことが追加特定された。
そこで、当該追加特定がなされた請求項1の記載について検討する。
まず、上記3.の摘記ア及びイより、印刷機において各操作部材における正確な位置定めが必要であること、同摘記エ及びオより、正確な位置定めのためにステップ動作形式で操作部材の駆動制御を行うことが理解できる。
他方、上記3.の摘記ウによれば、本件発明の実施例では、迅速な連続的動作形式は、印刷機のプリセット時にのみ使用するものとされている。
ここで、プリセット時において、操作部材、特に印刷機のインキ路調節ねじは多数個存在し、インク供給量に応じて各々調節されるものであり、それらの操作範囲が同程度であること、及び初期位置にリセットするために同時操作することを想定した場合、関連するインキ路調節ねじ全部について同様な操作を行うであろうことは理解できるけれども、本件請求項1には迅速な連続的動作形式を、印刷機のプリセット時にのみ使用するとの特定がないことから、印刷稼働中にも、当該動作形式が使用されているものと理解せざるを得ない。
そして、本件請求項1における操作部材としては、インク路調節ねじのみならず、版胴の周方向補正用操作部材及び版胴の横方向補正用操作部材も包含されており、両者の操作範囲が同じ程度であるか否かは窺い知れないことであるから、駆動制御される必要のある全ての操作部材を全く等しい変位距離だけ変位する制御を行った場合には、各々の操作部材に係る操作終了時点は、当然に異なるものと予想され、正確かつ迅速な位置定めの制御を可能ならしめるという本件発明の効果との対比からして、その技術的意味を理解することはできない。
請求人は、上記追加特定した特許請求の範囲の記載を前提として、平成18年6月9日付けの意見書において、本件発明では「モータをステップ動作形式で駆動制御する」とはクロック周期でモータを駆動制御することを意味していること(意見書第4頁第31行?第32行)、位置決めが正確に行われる必要のある、操作部材の目標位置近傍領域では、モータがステップ動作で駆動制御され、この領域において、1クロック周期の間に、その時駆動制御される必要のある全ての操作部材が等しい距離だけ変位するということ(同第4頁第47行?第49行)、正確な位置定めのためのステップ動作形式がクロック周期でモータを駆動制御することにより、1クロック周期の間に各操作部材が変位する距離が等しいので、フィードバック応答システムが不要となること、及び請求項1において操作部材を、インキを調量する操作部材、版胴の周方向補正用操作部材および版胴の横方向補正用操作部材のいずれかの操作部材に特定することにより、本件発明は位置決めが正確に行われる必要のある、操作部材の目標位置近傍領域では、モータがステップ動作で駆動制御され、この領域において、1クロック周期の間に、その時駆動制御される必要のある全ての操作部材が等しい距離だけ変位すること(同第5頁第10行?第16行)を主張している。
しかしながら、上記で検討したように、1クロック周期の間に、その時駆動制御される必要のある全ての操作部材が等しい変位距離だけ変位することの技術的意味が理解できないとした指摘は依然として解消していない。
したがって、上記2.のA.(4)における拒絶の理由は妥当であり、特許法第36条第4項及び第5項第1号の規定により、特許を受けることができない。

また、1クロック周期の間に、その時駆動制御される必要のある全ての操作部材が等しい変位距離だけ変位する、本件発明のステップ動作形式に関して、上記3.の摘記エによれば、モータ9(操作エレメント10)の位置はパルス持続時間tper毎に応答ポテンショメータ11により検出され、計算/調整装置5に送られていることが明らかであり、同摘記オによれば、本件発明におけるステップ動作形式が図4におけるステップ16→ステップ18→ステップ20→ステップ16という閉ループを必要とするものであることから、本件発明ではフィードバック制御により位置定めを行っていると解すべきである。
そうしてみると、上記2.のA.(3)における拒絶の理由に対して、請求人が、フィードバック制御を必要としないとした回答は、妥当な主張とはいえない。
したがって、本件請求項1における「モータをステップ動作形式で駆動制御する」ことは、本件明細書に記載されているフィードバック制御を含まずに、それ以外の制御であると解することができない以上、請求項1の記載は特許請求の範囲が特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみから記載されたものでないことになり、請求項1に係る発明は特許法第36条第5項第2号及び第6項の規定により、特許を受けることができない。

5.むすび
したがって、本件出願は明細書及び図面の記載が不備であるため、特許法第36条第4項、第5項及び第6項の規定により、特許を受けることができない。
そして、本願請求項1に係る発明が特許を受けることができない以上、本件出願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-07-07 
結審通知日 2006-07-12 
審決日 2006-07-26 
出願番号 特願平5-252936
審決分類 P 1 8・ 534- WZ (B41F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 江成 克己  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 藤井 靖子
藤井 勲
発明の名称 印刷機における操作駆動装置を位置定めする装置  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 ラインハルト・アインゼル  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  

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