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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60G
管理番号 1148855
審判番号 不服2004-3605  
総通号数 86 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-07-07 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-02-25 
確定日 2006-12-15 
事件の表示 平成8年特許願第354912号「車両のフロントサスペンション」拒絶査定不服審判事件〔平成10年7月7日出願公開、特開平10-181322〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成8年12月20日の出願であって、平成16年1月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年2月25日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1、2に係る発明は、平成15年10月20日付けの手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定されるものと認められるが、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は、次のとおりである。
「【請求項1】 車輪を回転自在に支持するハウジングをロアリンクとアッパリンクとで車体に対し上下揺動可能に支持するマルチリンク式フロントサスペンションにおいて、ハウジングの上部に中間リンクを上下方向の軸にて回動可能に取付け、該軸の中心線と上記ロアリンクのハウジング下部への取付点とを結ぶ直線にてキングピン軸を構成し、上端部を車体側部材に首振り可能に取付けたダンパの下端部を、上記中間リンクにほぼ前後方向の結合軸にて軸結合し、基端部を車体側部材に軸着したアッパリンクの先端部を平面視で二股に構成し、該アッパリンクの二股の先端部を、上記キングピン軸より外側の位置にて、上記中間リンクに軸結合したことを特徴とする車両のフロントサスペンション。」

3.引用例とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された特開平5-178041号公報(以下、「引用例」という)には、「車両のサスペンション装置」に関して、図1?16とともに次の事項が記載されている。

ア.「【0029】図1?図4は本発明の第1実施例に係わるFF型車の前輪用サスペンション装置を示し、1は車輪(前輪)2を回転自在に支持する車輪支持部材としてナックル部材であって、該ナックル部材1の中央部には、ドライブシャフト(図示せず)を挿通する挿通口3が形成されている。4は上記ナックル部材1の下端を車体側に連結するロアアーム、5は上記ナックル部材1の上端を車体側に連結するアッパアーム、6は車輪2の上下動を緩衝するショックアブソーバからなるダンパー装置である。」

イ.「【0031】上記ナックル部材1には、その挿通口3付近から後方に延びるアーム部1aが一体形成され、該アーム部1aの先端にステアリング装置のタイロッド20が連結されている。また、ナックル部材1の上端には連結部材21が装着されているとともに、該連結部材21には、上記アッパアーム5及びダンパー装置6の下端が連結されている。」

ウ.「【0032】上記ナックル部材1の上端と連結部材21との連結部においては、図5に詳示するように、ナックル部材1の上端に上下方向に延びる上下軸23が取付けられ、該上下軸23の外周にはスリーブ部材24が嵌着されている。・・・・・よって、上記連結部材21は、ナックル部材1の上端に対し、上下軸23の廻りにのみ回転可能に設けられ、上記上下軸23と直交する軸廻りの回転力に対しては上記スリーブ部材24の外周面と第1ボス部21aの内周面との間での面接触により抵抗するようになっている。」

エ.「【0033】また、上記アッパアーム5の一端(車体内側端)は、上記クロスメンバ14上に取付けられたブラケット31に対し、軸線が車体前後方向に延びるラバーブッシュ32を介して上下揺動可能に連結されている一方、アッパアーム5の他端部(車体外側端部)には、ダンパー装置6の下端を前後両側から挟むように二股状に分岐した一対の分岐部5a,5aが形成され、該各分岐部5aの先端は、それぞれ軸線が前後方向に延びるラバーブッシュ33を介して上記連結部材21に上下揺動可能に連結されている。」

オ.「【0034】さらに、上記ダンパー装置6の上端は、車体7に対し、ラバーマウント36を介して弾性的に支持されており、ダンパー装置6の上部外周にはコイルスプリング37が配設されている。一方、ダンパー装置6の下端にはブラケット38が嵌着され、該ブラケット38は、ダンパー装置6への嵌着部から二股状に延びる一対のアーム部38a,38aを有し、該両アーム部38a,38aは、上記アッパアーム5の各分岐部5a,5aの内側に位置し、かつ上記連結部材21に対しこの分岐部5a,5aと同一の軸線廻りに上下揺動可能に連結されている。」

カ.「【0035】上記連結部材21とアッパアーム5(分岐部5a)及びダンパー装置6の下端(詳しくはブラケット38のアーム部38a)との連結部においては、図6に詳示するように、アッパアーム5の各分岐部5a先端のラバーブッシュ33の軸方向内側にそれぞれダンパー装置6下端のブラケット38の各アーム部38aの先端部側面が内接されているとともに、このラバーブッシュ33とアーム部38aの先端部とをアッパアーム5の両分岐部5a,5aで各々貫通する1本の連結軸39が設けられており、該連結軸39の外周にはスリーブ部材40が上記ブラケット38の両アーム部38a,38aの先端部間に挟まれた状態で嵌着されている。・・・・・よって、上記連結部材21、アッパアーム5及びダンパー装置6は、互いに上記連結軸39の廻りにのみ相対回転可能(上下揺動可能)に連結されている。」

キ.「【0037】 次に、上記第1実施例の作用・効果を説明するに、車輪2がタイロッド20からの操舵力をナックル部材1を介して受けて左右に操舵されるとき、上記ナックル部材1の下端側つまりロアアーム4側の瞬間回転中心点は、該ロアアーム4を構成する2本のリンク部材11,12の軸線同士の交点O1である。また、ナックル部材1の上端側の瞬間回転中心点は、該ナックル部材1が連結部材21との連結軸である上下軸23廻りに回動するとともに、ダンパー装置6、連結部材21及びアッパアーム5からなる構造体がダンパー装置6上端の車体連結点(ラバーマウント36の中心点)とアッパアーム5の車体連結点(ラバーブッシュ32の中心点)とを結ぶ直線L1廻りに回動変位することから、上記上下軸23の軸延長線L2と上記直線L1との交点O2となる。従って、仮想キングピン軸は、上記二つの交点O1,O2を通る直線L3となるが、この仮想キングピン軸L3は、車輪2の幅方向中心線L4側に寄りかつ略鉛直に立ち上がるようになり、車輪2の回転中心線L5上では車輪2の幅方向中心線L4よりも若干車体内側を通り、車輪2の接地面では若干ネガティブキングピンオフセット(-Δ)となるよう車輪2の幅方向中心線L4よりも若干車体外側を通る理想のものに近付くようになるので、サスペンション性能の向上を図ることができる。」

ク.「【0053】また、上記第1実施例では、連結部材21、アッパアーム5及びダンパー装置6を、略車体前後方向に延びる1本の連結軸39廻りに互いに相対回転可能つまり上下揺動可能に枢着する構成としたが、本発明は、連結部材21をダンパー装置6の下端に連結軸廻りに上下揺動可能に枢着するとともに、アッパアーム5を、上記ダンパー装置6又は連結部材21に対し、上記連結部材21とダンパー装置6との連結軸とは別の連結軸の廻りに上下揺動可能に枢着するようにしてもよい。」

4.発明の対比
(1)本願発明の構成事項と引用例の記載事項とを対比する。
引用例の「ナックル部材1」は、本願発明の「ハウジング」と同様に、車輪を回転自在に支持するものであり、本願発明の「ロアリンク」に相当する「ロアアーム4」と本願発明の「アッパリンク」に相当する「アッパアーム5」とで車体に対し上下揺動可能に支持されている(記載事項ア参照)。
引用例の「FF型車の前輪用サスペンション装置」は、連結部材21を介してアッパアーム5とナックル部材1を連結しているから(記載事項ア、イ参照)、本願発明の「マルチリンク式フロントサスペンション」、「車両のフロントサスペンション」に相当する。
引用例の「連結部材21」はナックル部材1(ハウジング)の上部に上下方向の軸である上下軸23にて回動可能に取付けられているから(記載事項イ、ウ参照)、本願発明の「中間リンク」に相当する。
引用例の「ダンパー装置6」は、本願発明の「ダンパ」と同様に、下端部はほぼ前後方向の結合軸である連結軸39にて連結部材21(中間リンク)に軸結合されており(記載事項オ、カ参照)、上端部は車体に対し弾性的に支持されているから(記載事項オ参照)、上端部を車体側部材に首振り可能に取付けたものといえる。
引用例の「アッパアーム5」は、本願発明の「アッパリンク」と同様に、基端部を車体側部材であるブラケット31に軸着しており(記載事項エ参照)、先端部を一対の分岐部5a,5aにより平面視で二股に構成し(記載事項エ参照)、二股の先端部を連結部材21(中間リンク)に連結軸39で軸結合している(記載事項カ参照)。

(2)以上の対比関係から、引用例に次の発明が記載されているとみることができ、これは本願発明との一致点といえる。
【一致点】
「車輪を回転自在に支持するハウジングをロアリンクとアッパリンクとで車体に対し上下揺動可能に支持するマルチリンク式フロントサスペンションにおいて、ハウジングの上部に中間リンクを上下方向の軸にて回動可能に取付け、上端部を車体側部材に首振り可能に取付けたダンパの下端部を、上記中間リンクにほぼ前後方向の結合軸にて軸結合し、基端部を車体側部材に軸着したアッパリンクの先端部を平面視で二股に構成し、該アッパリンクの二股の先端部を、上記中間リンクに軸結合した車両のフロントサスペンション。」
に係る発明である点。

(3)一方、引用例に記載された発明と本願発明との間に、次の相違点が認められる。
【相違点1】
本願発明では、中間リンクをハウジングに回動可能に取付ける上下方向の軸の中心線とロアリンクのハウジング下部への取付点とを結ぶ直線にてキングピン軸を構成しているのに対して、引用例に記載された発明では、ロアアーム4を構成する2本のリンク部材11,12の軸線同士の交点O1とダンパー装置6上端の車体連結点とアッパアーム5の車体連結点とを結ぶ直線L1と上下軸23の軸延長線L2との交点O2の二つの交点O1,O2を通る直線を仮想キングピン軸L3としている点(記載事項キ参照)。
【相違点2】
アッパリンクの二股の先端部を、中間リンクに軸結合する位置が、本願発明では、キングピン軸より外側の位置であるのに対して、引用例に記載された発明では、仮想キングピン軸L3の内側である点。

5.当審の判断
(1)上記相違点1について検討する。
サスペンション装置において、ロアリンクを一本のリンク部材とし、その先端を車輪を回転自在に支持するハウジングの下部に一つのボールジョイントで結合し、中間リンクをハウジングに回動可能に取付ける上下方向の軸の中心線とロアリンクのハウジング下部への取付点(ボールジョイントの中心)とを結ぶ直線にてキングピン軸を構成することは従来周知である(例えば、実公平6-9847号公報、特公平6-59768号公報、特公昭62-46363号公報参照)。
したがって、引用例に記載された発明において、ロアアーム4(ロアリンク)を一本のリンク部材とし、その先端を車輪を回転自在に支持するナックル部材1(ハウジング)の下部に一つのボールジョイントで結合することにより、キングピン軸を、中間リンクをハウジングに回動可能に取付ける上下方向の軸の中心線とロアリンクのハウジング下部への取付点とを結ぶ直線にて構成し、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることに、格別の技術的困難性があるとは認められない。

(2)上記相違点2について検討する。
引用例に記載された発明においては、連結部材21に結合されるアッパアーム5の先端部は平面視で二股に構成されているから、連結部材21はアッパアーム5に対して連結軸39廻りの回転以外は拘束されているものであり(記載事項エ、カ参照)、さらに、引用例には、連結部材21とアッパアーム5の軸結合に関して、アッパアーム5を連結部材21に対し、連結部材21とダンパー装置6との連結軸とは別の連結軸で軸結合する点も記載されている(記載事項ク参照)。してみれば、アッパアーム5と連結部材21との結合については、連結軸39と同様に車両前後方向の軸廻りのみの回転が確保されている限り、連結軸39以外の連結軸で軸結合されることに、格別の困難性はないというべきである。
また、サスペンション装置において、アッパリンクの先端部を軸結合する位置をキングピン軸より外側の位置とし、アッパリンクのリンク長を長くとることは、従来周知である(例えば、実公平6-9847号公報、特公平6-59768号公報、特公昭62-46363号公報、特開平7-276939号公報参照)。
そうすると、引用例に記載された発明において、アッパアーム5(アッパリンク)を連結部材21(中間リンク)に対し、連結部材21(中間リンク)とダンパー装置6(ダンパ)との連結軸とは別の連結軸で軸結合する際に、その別の連結軸で軸結合する位置をキングピン軸より外側の位置とし、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることに、格別の技術的困難性があるとは認められない。

(3)また、上記相違点1、2で指摘した構成を併せ備える本願発明の作用効果は、引用例の記載事項及び上記周知技術から、当業者であれば予測できる程度以上のものではない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そしてこのような特許を受けることができない発明を包含する本願は、本願の請求項2に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-08-30 
結審通知日 2006-09-26 
審決日 2006-10-10 
出願番号 特願平8-354912
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 増岡 亘  
特許庁審判長 鈴木 久雄
特許庁審判官 平瀬 知明
永安 真
発明の名称 車両のフロントサスペンション  
復代理人 白濱 國雄  
代理人 大房 孝次  

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