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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1148944
審判番号 不服2004-6662  
総通号数 86 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-10-19 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-04-01 
確定日 2006-12-08 
事件の表示 特願2000-106937「成膜方法及び半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年10月19日出願公開、特開2001-291713〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成12年4月7日の出願であって、平成15年10月27日付けで拒絶の理由が通知され、その指定期間内である平成16年1月19日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年2月4日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月1日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年4月27日付けで手続補正がなされ、さらに、当審における平成18年2月10日付けの審尋に対して、同年5月8日に回答書が提出されたものである。

2.平成16年4月27日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成16年4月27日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正内容
平成16年4月27日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)のうち、特許請求の範囲についてする補正をみると、その内容は、以下に示す請求項8を新たに追加することを含むものである。
「【請求項8】 前記シリコン含有絶縁膜にR(アルキル基)が含まれることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一に記載の成膜方法。」

(2)補正の適否の判断
特許法第17条の2第1項第3号の場合(補正が審判請求に伴ってされる場合)において特許請求の範囲についてする補正は、同条第4項第1号ないし第4号に掲げる、「請求項の削除」(1号)、「特許請求の範囲の減縮」(2号)、「誤記の訂正」(3号)、「明りょうでない記載の釈明」(4号)を目的とするものに「限る」と規定されている。
そして、「特許請求の範囲の減縮」(2号)の規定は、請求項の発明特定事項を限定して、これを減縮補正することによって、当該請求項がそのままその補正後の請求項として維持されるという態様による補正を定めたものとみるのが相当であって、補正前の請求項と補正後の請求項とは、一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものでなければならないと解すべきである。
そこで、本件補正を上記規定に照らし、その目的要件について検討すると、上記本件補正に係る請求項8の追加が、「請求項の削除」(1号)、「誤記の訂正」(3号)、「明りょうでない記載の釈明」(4号)に該当しないことは明らかである。また、当該請求項の追加は、単に、請求項を増加させる補正であり、補正前の請求項と補正後の請求項とは、一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものではないから、「特許請求の範囲の減縮」(2号)にも該当しない。
したがって、本件補正において特許請求の範囲についてする補正は、特許法第17条の2第4項で補正の目的とし得る事項として規定されたいずれにも該当しないものである。

(3)まとめ
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明

平成16年4月27日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?8に係る発明は、平成16年1月19日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】 シロキサン結合とSi-R結合(Rはアルキル基)とを有する化合物と、酸化性ガスと、H2とを含む反応ガスをプラズマ化して反応させ、誘電率が4.0よりも低いシリコン含有絶縁膜を被堆積基板上に成膜する成膜方法。」

4.引用刊行物の記載事項

原査定の拒絶の理由において引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平6-168930号公報(以下、「引用刊行物」という。)には、次の事項が記載されている。
(a)「【特許請求の範囲】
・・・・・
【請求項6】 原料ガスとして有機シランと酸素あるいはオゾンとを用いる化学気相成長法であって、さらに過酸化水素(H2 O2 ),水素(H2 ),水(H2 O),炭化水素,アルコール,カルボニル化合物,カルボン酸の内の少くとも1種類を添加する事を特徴とする化学気相成長法。
【請求項7】 プラズマを照射することを特徴とする請求項6記載の化学気相成長法。
【請求項8】 基板表面へのプラズマ照射強度を周期的に変化させながら所望の薄膜を形成する事を特徴とする請求項7記載の化学気相成長法。
【請求項9】 前記プラズマ照射強度の周期的な変化を、プラズマの発生状態と非発生状態の繰り返しにより行う事を特徴とする請求項9記載の化学気相成長法。
【請求項10】 原料ガスに有機シランと、オゾンあるいは酸素と、過酸化水素衰,水素,水,炭化水素,アルコール,カルボニル化合物,カルボン酸の内の少なくともひとつを添加し、金属配線上に絶縁膜を金属配線の高さ以上の膜厚だけ形成する工程と、レジスト膜,有機シリカ膜等の平坦化膜を形成する工程と、反応性イオンエッチング法によりエッチバックする工程を含む事を特徴とする多層配線の製造方法。」
(b)「【0008】
【発明が解決しようとする課題】上述の従来のプラズマ化学気相成長法は、段差被覆性(ステップカバレッジ)が悪く、サブミクロンのアルミ配線間スペースを埋設する事ができなかった。サブミクロンのアルミ配線間スペースを埋設する為には、図11のように、プラズマ化学気相成長法と、オゾンとTEOSの熱化学気相成長法とを交互に行ったり、図12の様に、シリカ塗布膜を多数回形成する必要がある。しかし、10Torr程度の減圧下で形成されたオゾン-TEOS熱CVD膜やシリカ塗布膜は、膜中に含まれる水分が多く、機会的強度、絶縁特性等に問題があり、特に、下層アルミ配線と上層アルミ配線を接続するスルーホールの接続不良が生じるという欠点があった。また、高オゾン濃度条件で成膜すると膜中水分は減少するが、ステップカバレッジが劣化し、完全な埋め込みが出来なくなる不具合があった。さらにまた、図12のようなシリカ塗布膜をエッチバックする方法では、シリカ塗布膜を形成する工程や、エッチバックする工程が非常に複雑で、工程数の増加や、歩留まり低下を招くという欠点も有った。」
(c)「【0018】図3(a),(b)は、それぞれ、高周波オンおよびオフの時の基板表面近傍の様子を表すモデル図である。高周波イオンの時、図1のシャワー電極19と基板28の間にプラズマが発生する。プラズマ中では、酸素分子やTEOS分子は、電子45,酸素イオン47,TEOS解離分子46,酸素ラジカル55等に解離する。また、プラズマと基板の間には、シース電圧が発生し、酸素イオン47は、この電圧により加速され、ドリフトし、基板表面に衝突する。TEOS解離分子46も基板表面に向かって拡散し、形成膜表面で、熱分解或いは酸素イオン衝撃による分解によって膜形成前駆体50になる。さらに、形成膜表面で酸素ラジカル等と反応し、形成膜51が形成される。この際、形成膜51の表面には、非常に多くの酸素イオン衝撃があるため、膜形成前駆体50の寿命はかなり短く、形成膜表面での密度は低い。また、酸素イオン衝撃は、形成膜51を硬化させる作用があり、膜質が良好で、圧縮応力の膜の形成に役立っている。
【0019】さて、一旦高周波がオフになると(図3(b)参照)、電子および酸素イオン数は速やかに減少するが、TEOS解離分子46や酸素ラジカル55は、なおも残っている。これらは、形成膜51の表面に拡散して膜形成前駆体50となりやがて減少する。さらに、TEOS分子54とオゾン分子56も膜表面に向かって拡散し、反応してTEOS解離分子や膜形成前駆体となる。形成膜51の表面では、膜形成反応が熱化学反応のみであるため、形成膜表面に、膜形成前駆体が高密度で存在し、膜形成前駆体擬液体層59が形成される。この膜形成前駆体擬液体層59は、液体の性質を示すため、基板52に形成されている段差の側面低部の膜厚が厚くなり、段差側面の傾きを緩和する。」
(d)「【0042】図8は、本発明の第4のアルミ多層配線の層間絶縁膜平坦化法を表す縦断面図である。
【0043】本実施例では、まず、半導体素子等を形成した基板115上にアルミ配線114を形成する(図8(a))。次に、本発明の実施例1のプラズマ化学気相成長装置を用いて、図中(b),(c)のように、本発明のCVD膜116をアルミ配線の膜厚より厚く形成する。レジスト117を塗布しハードベークする。レジスト117と本発明のCVD膜116のエッチングレートが等しくなるように調整した反応性イオンエッチング法を用いて、エッチバックを行い、CVD膜の表面が平坦になるようにする。すると、平坦化された層間膜118が出来上がる。」
(e)「【0051】図14は、本発明の第6の実施例のプラズマ化学気相成長装置の概略縦断面図である。本実施例の装置では、シリコン原料となる珪酸エチル(以下TEOSと呼ぶ)ガスは、この図では表されていないTEOSタンクから供給される液体状のTEOSを、マスフロー型の液体流量調節器175で流量調節し、蒸発器187で完全に気化させ、流量調節器176で流量調節されたヘリウムと混合されて生成される。オゾン含有酸素は、流量調節器174で流量調節された酸素を、無声放電型のオゾン発生器186に導入し、1?10%のオゾンを含有させて生成される。また、過酸化水素ガスは、恒温容器177内の液体過酸化水素185を流量調節器177で流量調節されたヘリウムでバブリングすることにより生成される。過酸化水素ガスの濃度は、恒温容器184の温度で調節されるが、本実施例では10?20℃の範囲で使用した。このようにして生成された、TEOSガス,オゾン含有酸素ガスおよび過酸化水素ガスは、TEOS導入口189,オゾン導入口188および酸化水素ガス導入口190からマニホールド208に導入される。マニホールド内では、これらのガスは混合され、ガス拡散板192に当たる事によって、ほぼ均一に拡散する。さらに、シャワー電極194に当たると、さらに均一に分散し、基板207の表面に吹き付けられる。基板207は、SiCサセプタ196上に装着され、石英板197を通して加熱ランプ198から光加熱され、200?450℃程度の温度に保持されている。シャワー電極194は、絶縁リング193によって他の部分と電気的に絶縁されており、RF発振器206で発生される13.56MHzの高周波が印加されている。排気管199は真空ポンプ201に接続されており、反応室195の圧力は、0.1?数十Torrに保持されている。
【0052】本実施例では、以上の様な装置を用いて、成膜温度200℃,成膜圧力10Torr,RFパワー100W,TEOS流量50SCCM,酸素(O2 )流量1SLM,オゾン濃度5%,過酸化水素(H2 O2 )流量0?5SCCMの成膜条件で絶縁膜を形成した。図16は種々の方法で形成した絶縁膜の、アルミ配線245上の縦断面形状を比較した図である。図16(a)は、従来のTEOSと酸素(O2 )のプラズマ気相成長法を用いた絶縁膜(以下TEOS/O2 系プラズマCVD膜と言う)、図16(b)は、本実施例の条件の内、過酸化水素(H2O2 )流量が0SCCMの場合(つまり、オゾン含有酸素のみを用いた場合)。図16(c)は、本実施例の条件の内、過酸化水素(H2 O2 )流量が5SCCMの場合を示している。図16(a)と(b)から、酸素の代わりにオゾン含有酸素を用いることにより、ステップカバレッジがかなり改善されたことが判るが、アスペクト比が1.0を越えるスペースに於いては、ボイド(鬆)249が生じることも判る。図16(c)から、オゾン含有酸素に加えてさらに過酸化水素ガス(H2 O2 )を添加することによって、アスペクト比が1.0を越えるスペースにおいてもボイド(鬆)の発生が無くなり、孤立アルミ配線の部分でもややフロー形状が形成されたことが判る。これらの結果は、添加された過酸化水素が、式(1)の様な化学式に従い分解し、
H2 O2 → H2 O + ・O ……(1)
酸素ラジカル(・O)と水(H2 O)を生成し、これらがTEOSの重合を促進するため、図3で示した膜形成前駆体50の生成が促進され、高周波電力を印加されプラズマが照射されている状態でも膜形成前駆体擬液体層59は形成されるためであると考えられる。
【0053】尚、本実施例では、添加ガスとして過酸化水素を用いたが、水素(H2 ),水(H2O),炭化水素,アルコール,カルボニル化合物,カルボン酸等のように酸素と反応して水(H2O)を生成する化合物を用いた場合、効果に差があるものの、同様の結果が得られた。また、過酸化水素を用いた場合、RF出力がゼロの場合も、過酸化水素を用いない場合に比べてフロー性の改善が認められた。また、本実施例では、有機シランガスとして、珪酸エチル(TEOS:化学式Si(OC2 H5 )4 )を用いたが、テトラメチルシラン(TMS:化学式Si(CH3 )3 ),テトラメチルシクロテトラシロキサン(TMCTS),オクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS),ヘキサメチルジシラザン(HMDS),トリエトキシシラン(化学式SiH(OC2 H5 )3 ),トリスジメチルアミノシラン(化学式SiH(N(CH3 )2 )3 )等のシリコン含有化合物を用いても同様の結果が得られる。」

5.当審の判断

(1)引用発明
上記摘記事項(a)、(e)には、原料ガスとして、有機シランと、酸素あるいはオゾンとを用いるプラズマ化学気相成長法であって、さらに過酸化水素(H2 O2 )、水素(H2 )、水(H2 O)、炭化水素、アルコール、カルボニル化合物、カルボン酸の内の少くとも1種類を添加すること、及び、該有機シランとして、珪酸エチル(TEOS:化学式Si(OC2 H5 )4 )、テトラメチルシラン(TMS:化学式Si(CH3 )3 )、テトラメチルシクロテトラシロキサン(TMCTS)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、トリエトキシシラン(化学式SiH(OC2 H5 )3 )、トリスジメチルアミノシラン(化学式SiH(N(CH3 )2 )3 )等を用いることが示されている。
さらに、摘記事項(a)、(b)、(d)には、上記プラズマ化学気相成長法により、金属配線上に層間絶縁膜を形成することが開示されている。
したがって、これらを総合すると、引用刊行物には、次の事項が記載されていると認められる。
「原料ガスとして、
珪酸エチル(TEOS:化学式Si(OC2 H5 )4 )、テトラメチルシラン(TMS:化学式Si(CH3 )3 )、テトラメチルシクロテトラシロキサン(TMCTS)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、トリエトキシシラン(化学式SiH(OC2 H5 )3 )、トリスジメチルアミノシラン(化学式SiH(N(CH3 )2 )3 )等の有機シランと、
オゾンあるいは酸素と、
さらに、過酸化水素水、水素、水、炭化水素、アルコール、カルボニル化合物、カルボン酸の内の少くとも1種類を用いるプラズマ気相成長法によって、
金属配線上に層間絶縁膜を形成する方法。」(以下、「引用発明」という。)

(2)本願発明と引用発明との対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明において有機シランとして例示されている「テトラメチルシクロテトラシロキサン(TMCTS)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)」は、本願発明における「シロキサン結合とSi-R結合(Rはアルキル基)とを有する化合物」に相当するものである。また、引用発明における「原料ガス」、「オゾンあるいは酸素」、及び「金属配線上に層間絶縁膜を形成する」は、それぞれ本願発明における「反応性ガス」、「酸化性ガス」、及び「シリコン含有絶縁膜を被堆積基板上に成膜する」に相当する事項である。
そして、引用発明は、有機シランとして「テトラメチルシクロテトラシロキサン(TMCTS)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)」を使用することを包含し、同様に添加ガスとして「水素」を用いることも内包するものであるから、これらを組み合わせた原料ガスを使用することは、引用発明が当然に予定する形態の一つというべきである。
そうすると、両者は、
「シロキサン結合とSi-R結合(Rはアルキル基)とを有する化合物と、酸化性ガスと、H2とを含む反応ガスをプラズマ化して反応させ、シリコン含有絶縁膜を被堆積基板上に成膜する成膜方法。」
である点で一致し、次の点で相違するといえる。

相違点:本願発明はシリコン含有絶縁膜の誘電率が4.0よりも低いことを明示しているのに対して、引用発明は、絶縁膜の誘電率の数値を示していない点。

(3)相違点の検討
まず、一般に要求される層間絶縁膜の誘電率(比誘電率)について考察する。
層間絶縁膜の誘電率は、配線間の容量増加によるデバイスの動作速度の低下を抑制する観点から、その数値を低くすることが有効である。そのため、従来から広く使用されているSiOx膜の誘電率(約4程度)に比べて低誘電率のものが望まれており、これを達成すべく種々の開発が行われている(要すれば、特開2000-21867号公報の段落【0002】、【0003】、特開平11-330070号公報の段落【0002】、【0003】、特開平11-330235号公報の段落【0003】、【0004】、特開平11-87330号公報の段落【0002】、【0003】、特開平10-209144号公報の段落【0009】、【0010】、特開平11-217440号公報の段落【0002】、特開平11-288931号公報の段落【0002】、【0003】、特開平8-222560号公報の段落【0007】、【0008】、国際公開99/41423号パンフレットの第2頁第4?6行参照)。
次に、本願発明における誘電率の数値について仔細にみる。
当該誘電率の数値に関しては、本願明細書の段落【0033】等に記載されているが、そこには本願発明に係るシリコン含有絶縁膜の誘電率の値が「従来用いられているSiO2 膜の誘電率4.0?4.1よりも低い値である」旨説明されているから、本件発明における「4.0」という誘電率の数値自体は、従来のSiO2 膜の誘電率に起因することが理解できる。
そうすると、本願発明における「誘電率が4.0よりも低い」という事項は、その数値自体が特有の臨界的意義を有するのではなく、実験的に得られた本願発明に係るシリコン含有絶縁膜の誘電率の値が、単に「従来用いられているSiO2 膜の誘電率4.0?4.1よりも低い値である」ことを確認的に示したものであるというべきである。
また、本願発明に係る成膜方法は、「誘電率が4.0よりも低いシリコン含有絶縁膜」となる点を発明特定事項としているものの、所定の原料ガスを選択すること以外に、どのような手法を駆使して、この低誘電率を達成し得たのかを具体的に特定するものではなく、発明の詳細な説明をみても、これを直ちに想起させる解説は見当たらない。よって、当該「誘電率が4.0よりも低いシリコン含有絶縁膜」となる点は、単に、所望する誘電率の数値を発明特定事項として掲げたにすぎず、これを達成する具体的な成膜手法は、所定の原料ガスを選択することを除き、当業者の通常能力により選択し得る適宜の手段を指し、特別な手法によることを意図するものではないと解することができる。そして、「従来用いられているSiO2 膜の誘電率4.0?4.1よりも低い値」とすることは、前述の如く、当該技術分野において所望されている事項に他ならないことは前述のとおりである。
これらの点を勘案すると、引用発明においては、層間絶縁膜の誘電率の明示はないものの、それが層間絶縁膜である以上、従来の絶縁膜よりも低誘電率化を図ること、すなわち誘電率が4.0よりも低くすることは、上記のとおり自明な要請事項というべきであるから、この要請に従い、プラズマ化学気相成長の条件を調整するなど、当業者が熟知する適宜の手法を駆使して、引用発明における層間絶縁膜の誘電率を4.0よりも低い値とすることは、技術思想として特段の創意や格別の困難性を要するものではない。

さらに、引用発明における層間絶縁膜の誘電率を4.0よりも低い値とすることを阻害する要因の有無について検討する。
引用刊行物には、水素等の添加ガスによる作用効果として、ステップカバレッジの改善が挙げられ、その理由として、以下のように説明されている。
「【0052】・・・・・
図16(c)は、本実施例の条件の内、過酸化水素(H2 O2 )流量が5SCCMの場合を示している。図16(a)と(b)から、酸素の代わりにオゾン含有酸素を用いることにより、ステップカバレッジがかなり改善されたことが判るが、アスペクト比が1.0を越えるスペースに於いては、ボイド(鬆)249が生じることも判る。図16(c)から、オゾン含有酸素に加えてさらに過酸化水素ガス(H2 O2 )を添加することによって、アスペクト比が1.0を越えるスペースにおいてもボイド(鬆)の発生が無くなり、孤立アルミ配線の部分でもややフロー形状が形成されたことが判る。これらの結果は、添加された過酸化水素が、式(1)の様な化学式に従い分解し、
H2 O2 → H2 O + ・O ……(1)
酸素ラジカル(・O)と水(H2 O)を生成し、これらがTEOSの重合を促進するため、図3で示した膜形成前駆体50の生成が促進され、高周波電力を印加されプラズマが照射されている状態でも膜形成前駆体擬液体層59は形成されるためであると考えられる。
【0053】尚、本実施例では、添加ガスとして過酸化水素を用いたが、水素(H2 ),水(H2 O),炭化水素,アルコール,カルボニル化合物,カルボン酸等のように酸素と反応して水(H2 O)を生成する化合物を用いた場合、効果に差があるものの、同様の結果が得られた。また、過酸化水素を用いた場合、RF出力がゼロの場合も、過酸化水素を用いない場合に比べてフロー性の改善が認められた。・・・」(摘記事項(e)参照)
請求人は、上記引用刊行物の記載に基いて、『この記載は、明らかに、過酸化水素によって成膜ガスの反応を促進することを教示しており、意図的に不完全な酸化を行う本願請求項1、5に記載の発明とは対極のことを行っています。特に、上記段落番号0052の「フロー形成が形成された」及び「TEOSの重合を促進する」なる記載は、段落番号0052の成膜条件によってアルキル基等が残留しない高品位な膜が形成されることを開示しており、そのような膜の誘電率は、例え引用文献1に明示されていなくとも、アルキル基が残留する本願請求項1、5に記載のシリコン含有絶縁膜よりも高くなります。』と主張する。
しかしながら、当該「膜形成前駆体」、「膜形成前駆体擬液体層」自体は、その液体の性質などからみて(摘記事項(c)参照)、C-H結合(原料ガスに起因するアルキル基等)が完全に排除されたものではなく、少なからずこれを包含するものであると考えるのが妥当であること(例えば、審査段階で提示されている刊行物:特開平5-239649号公報の段落0005を参照)や、上記「TEOSの重合を促進する」ことは、結果として、当該「膜形成前駆体」の生成を促進し、ひいては「膜形成前駆体擬液体層」の形成につながることを考え合わせると、「TEOSの重合を促進する」なる記載をもって、ただちに「アルキル基等が残留しない高品位な膜が形成される」とは言い難い。
してみると、引用発明における層間絶縁膜は、アルキル基等(C-H結合)を包含せず、結果として誘電率が4.0よりも高い値とすることを、欠くことができない必須の条件としているとまではいえないから、引用刊行物における上記説明をもって、引用発明における層間絶縁膜の誘電率を4.0よりも低い値とすることを阻害するものと考えるのは妥当ではない。
さらに付言するに、本願発明においては、絶縁膜中にアルキル基が存在することを発明特定事項としているわけではないから、アルキル基の存在の有無を拠り所とする請求人の主張は、既に採用の限りではないが、層間絶縁膜中にアルキル基等を残存させることにより誘電率を低くすることはよく知られた事項であることに照らすと(要すれば、特開平3-86725号公報の第5頁左下欄第10行?右上欄第7行、第8頁左上欄第10?17行、特開平11-87330号公報の段落【0012】、特開平10-256363号公報の段落【0004】、特開平11-288931号公報の段落【0036】?【0038】、【0048】、【0076】?【0078】、国際公開99/41423号パンフレットの第7頁第10?18行参照)、このようなアルキル基残留による低誘電率化に着目した本願の技術思想にも、格別の創意工夫を見い出すことはできない。

このように、本願発明は、上記引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特にこれを阻害する要因も見当たらない。そして、上記相違点に係る構成を備えることにより奏される本願発明の作用効果も格別顕著なものとはいえない。

6.むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-08-22 
結審通知日 2006-09-12 
審決日 2006-09-26 
出願番号 特願2000-106937(P2000-106937)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 572- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 和瀬田 芳正  
特許庁審判長 城所 宏
特許庁審判官 日比野 隆治
市川 裕司
発明の名称 成膜方法及び半導体装置  
代理人 岡本 啓三  
代理人 岡本 啓三  

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