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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1149009
審判番号 不服2004-21441  
総通号数 86 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-08-15 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-10-14 
確定日 2006-12-07 
事件の表示 平成 8年特許願第 19210号「重合トナーの表面処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 8月15日出願公開、特開平 9-211891〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成8年2月5日の出願であって、その請求項1乃至4に係る発明は、平成16年3月8日付け及び平成16年11月15日付けの手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至4に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その内の請求項1に係る発明は次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 重合トナー粒子の分散液に表面処理剤を溶解または分散して、重合トナー粒子の表面処理をする第1の工程、表面処理された重合トナー粒子を乾燥する第2の工程、乾燥した重合トナー粒子を、圧縮空気により形成された気流中に投入することで該粒子表面に衝撃を与えて前記重合トナー粒子から前記表面処理剤の微小粒子を分離する第3の工程、前記気流中に浮遊する前記表面処理剤の微小粒子を吸引により除去する第4の工程からなることを特徴とする重合トナーの表面処理方法。」

2.引用刊行物に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布されたことが明らかな引用文献等2(特開平4-16860号公報:以下、「刊行物1」という)及び引用文献等4(特開平6-83100号公報:以下、「刊行物2」という)には、以下の事項が記載されている。

刊行物1
(1a)「(3)少くとも重合性単量体を分散液に分散させて重合開始剤の存在下で懸濁重合により所定の粒子径を成す静電潜像現像用トナー粒子本体を生成・作成する工程と、
前記静電潜像現像用トナー粒子本体の分散媒体中に、静電潜像現像用トナー粒子本体より小さな粒子径を有する外添剤をさらに添加・分散させる工程と、
前記分散系の溶媒温度を静電潜像現像用トナー粒子本体を成す合成樹脂のガラス転移点温度より高い温度に保ちつつ撹拌し、静電潜像現像用トナー粒子本体表面を外添剤で被覆した後、洗浄、脱水、乾燥せしめる工程とから成ることを特徴とする静電潜像現像用トナーの製造方法。」(特許請求の範囲の請求項3)
(1b)「このように、従来のトナーの製造製法においては、乾燥粉末状態で単純に機械的に外添剤を混合しているため、添加された外添剤は主に静電気的な力により付着しているのみである。このため、使用中(現像中)に、外添剤がトナー粒子から離脱してキャリアー粒子や感光体に付着し易いという不都合が認められる。つまり、前記離脱した外添剤が、しばしば感光体のクリーニング障害や現像性能の短期間低下を招来する主原因となっている。」(3頁左上欄9行?18行)
(1c)「実施例1
第1図は本実施例における静電潜像現像用トナーの製造工程を示めすフローチャートであり、先ずスチレンモノマー85部、アクリル酸ブチル15部およびアクリル酸3部からなる重合性単量体混合物を、・・・水性分散液中に添加し、撹拌しながら70℃で8時間重合Aを行い、エマルジョンを得た。
次に、上記で得たエマルジョン100部に、マグネタイト1.5部、カーボンブラック(リーガル330R)5部を、界面活性剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.1部を含む水Bを加え、・・・懸濁重合用反応分散液を得た。その後、前記懸濁重合用反応分散液を予備撹拌してからナノマイザで分散させ、さらにこの反応分散液を撹拌しながら60℃に加熱し、過酸化水素を添加し6時間重合Cを行った。
・・・この反応分散系Cをさらに80?90℃に除々に昇温し、30分ないし4時間程度保持することにより、造粒Dされる樹脂微粒子の粒子径は2?20μmの範囲で変化させることができる(造粒工程)。本実施例では3時間(90℃)維持することにより約11μmの樹脂粒子(トナー粒子本体)を作った。・・・
一方、前記造粒の終わったトナー粒子本体を水洗し、浮遊成分を除去した後、水600部の中に分散し、次いで粒径が15?20mμ(ミリミクロン)の疎水性シリカ微粉(R972)6部をメタノール50部に予め高速撹拌機(ナノマイザ)により分散湿潤した後に前記粒子分散液に加えた。・・・ 次に、上記分散液を2?4℃/分程度の速度で昇温しながら80℃にまで昇温した後、30?70分保持しながらプロペラ式撹拌機(ホモジナイザー)により比較的激しい乱流を起こす程度の撹拌処理Eを行い、前記樹脂粒子の表面に外添剤層を被着形成した。しかる後、ろ紙を用いて水を除き、蒸溜水により洗浄Fを行い、45℃で減圧乾燥Gを10時間行い表面処理(外添剤被覆)された乾燥トナー粒子を得、このトナー粒子を分級機にかけ粗大粒子を除去Hした。この分級工程Hは粗大粒子が発生しなければ不要であり、本発明では必須の工程ではない。
次いで、・・・このトナー粒子1kg当り、電子写真用フェライトキャリアー(FSL1020B)を40gの割合で混合して二成分現像剤を作成し。
・・・、トナーの保存性テストのため、ポリエチレン容器の中に入れて50℃の水槽の中に20時間放置した後も、凝集や固化は全く認められなかった。さらにまた、トナーの流動性について、定量的評価は省略したが、透明容器を振ることによる既存のトナーとの官能比較テストでも、より高い流動性を持つことが容易にわかった。
このトナーを用いて市販の電子写真複写機(BD5110東芝製)で複写画像を撮ったところ、画像濃度および白地部地汚れ、鮮鋭度あるいは定着性などいずれもテスト複写機の正規の現像剤と同等以上の初期特性が得られた。さらに、この現像剤の耐久性をテストするため、上記と同一の条件でトナーを多量に作り5万枚に及ぶ複写を行ったが、感光体へのトナー成分のフィルミングが殆ど認められず、また画質の変化も正規現像剤に比べて格段に少なく、耐刷性の向上が確認された。
さらに、このトナーを電子顕微鏡で観察したところ、形状は熱溶融によりほぼ完全な球形を呈しており、その表面は極めて均一かつ緻密に疎水性シリカで被覆されていた。しかも、この外観は寿命テストを行った後もほとんど変化が認められなかった。」(6頁左上欄14行?7頁右上欄6行)
(1c)「比較例1、2
前記実施例1の場合と同一の条件で、重合造粒が終わった樹脂粒子(トナー粒子本体)について、実施例1の場合と同じ条件で洗浄、乾燥および分級を行い、次に、疎水性シリカ(R972)を1部(比較例1)もしくは10部(比較例2)を添加し、ボールミルで30分混合(乾式混合)して2種類のトナーを製造した。
これらを電子顕微鏡で観察したところ、比較例1の場合は、シリカ粉が局在的であって粒子表面全面を覆っておらず、付着力も弱く、5万枚使用したものではシリカ粒子の大半が失われているのが認められた。また、画質は約2万枚程度から急激に濃度低下を来たした。
一方、比較例2の場合は、シリカが一見トナー全面を覆っているように見えるが、付着していない浮遊状態のものが多数観察された。このトナーは当初より画像濃度が著しく低く、クリーニング不良も生じるなど使用に耐えないものであった。これは、トナーから離脱するシリカが多量に生じるためと判断される。」(7頁左下欄3行?右下欄3行)

刊行物2
(2a)「従来トナーに無機化合物あるいは有機化合物の微粒子を添加する例は公知であり、その添加によってトナーに充分かつ均一な摩擦帯電電荷を与え、かつ転写効率を高めることが知られている。同時に、流動性を向上して現像器中のトナーのブリッジ現像やスリーブのフィルミング現像を防止し、トナーの搬送性を良好に保ち、連続複写時でも高画像濃度を維持することができることも知られている。しかし、従来技術で得られる微粒子を外添したトナーでは、コピーを続けるにつれて、トナーに未付着の微粒子やトナーに対して付着力の弱いために脱離した微粒子が感光体表面を傷つけるという問題点があった。また、感光体上の前記微粒子をクリーニングしきれない場合、しだいに付着し、感光体上にフィルミングが発生する。そのためコントラストの低下、印字背景部のカブリが著しくなる問題が残っている。
トナーに未付着の微粒子やトナーに対して付着力の弱いために脱離した微粒子が上述の問題点の原因であることは、感光体表面を電子顕微鏡で観察することにより判明した。すなわち、そこにはトナーに付着することなく、かつ凝集体の状態の微粒子が数多く認められた。さらに感光体上のフィルミングの発生した箇所及び傷になっている箇所を分析したところ、微粒子が主な成分であることも判明した。」(【0005】【0006】)
(2b)「本発明の第1の目的は、トナーに未付着の微粒子やトナーに対して付着力の弱い微粒子が少なく、感光体表面を損傷させることを防止するトナーを提供することにある。」(【0010】)
(2c)「本発明では、少なくとも着色剤含有樹脂粒子及び該樹脂粒子の平均粒径により小さい平均粒径を有する微粒子とから成るトナーにおいて、該トナーを圧縮空気による気流中に投入し、トナーの表面に付着している該微粒子数がN0からN1に変化させた際に、(N1/N0)が0.95以上となる程度の強さで微粒子が樹脂粒子表面に付着してなることを特徴とするトナーを用いることによって上記目的を達成するものである。」(【0016】)
(2d)「圧縮空気によって気流を発生させる装置の一例として、PJM-100NP(日本ニューマチック工業社製の気流式粉砕装置)が挙げられる。本発明では、前記の装置を用い、エア圧6kg/cm2、流量85m3/hの圧縮空気と共にトナーを400g/hの割合で装入してトナーに対する微粒子の付着力を評価したが、この方法に限られるものではない。気流式粉砕装置を用いると、気流中でトナー同士が衝突し、その微粒子の付着しているトナー表面が削れるため、この装置から得られてくるトナーには、トナーに未付着の微粒子や弱く付着していた微粒子は含まれていなく、トナーへの微粒子の付着力を評価する手段としては有効である。」(【0017】)
(2e)「実施例1
合成例の体積平均粒径10μmの分級品に対してシリカ微粒子(ワッカーケミカルズ イーストアジア社製 HDK H2000)の含有量が0.55wt%で前記r×cが5.5になるように、上記ヘンシェルミキサーを用いて混合羽回転数2000rpmで5分間混合分散させて、シリカ微粒子含有トナー(以下、トナーAとする)を得た。トナーAの一部はPJM-100NP(日本ニューマチック工業社製の気流式粉砕装置)を用い、エア圧6kg/cm2、流量85m3/hの圧縮空気と共に400g/hの割合で装入し、トナーへの付着力の弱い微粒子を除去したトナー(以下、トナーaとする)を得た。蛍光X線装置によって、トナーAの表面に付着している微粒子数(N0)とトナーaでの微粒子数(N1)を測定して、(N1/N0)が0.97のトナーが得られたことが判明した。
次にトナーA5部を鉄粉キャリア(日本鉄粉社製TEFV200/300)95部と混合して2成分系現像剤を作った。
上記現像剤を市販の電子写真複写機(リコー社製FT4520改造機)にセットし、23℃、60%RH環境において複写したところ、画像濃度1.49(マクベス反射濃度計、Macbeth社製RD-514)を呈し、細線がくっきりとしており、絵、写真のハーフトーン再現性が良くカブリのない鮮明な画像が得られた。さらに1万枚の連続複写を行ったところ、初期画像と同時にカブリのない鮮明な画像が得られた。次に10℃、15%のRH環境下で2万枚連続複写後の感光体表面を光学顕微鏡で観察したところ、フィルミング現象やシリカ微粒子による傷は見られなかった。」(【0051】?【0053】)

3.当審の判断
この出願の請求項1に係る発明(以下、単に「本願発明」という)と、刊行物1に記載された発明(請求項3に係る発明)とを対比する。
刊行物1に記載された発明における、懸濁重合により生成された「静電潜像現像用トナー粒子本体」は、本願発明の「重合トナー」に相当する。
また、刊行物1に記載された発明における「外添剤」は、本願発明の「表面処理剤」に相当する。
なお、審判請求人は、審判請求書において、本願発明の表面処理剤は、「シリカ等の微粒子あるいはその表面を疎水化処理したような外添剤」とは別異のものであるように主張するが、本願発明でいう「表面処理剤」は、電荷制御剤や流動性向上剤などを意味する(本願明細書段落【0008】)としているのであり、「流動性向上剤」は、流動性向上を目的とする外添剤の機能そのものであって、本願発明の「表面処理剤」と刊行物1に記載された発明の「外添剤」とは、なんら区別がつかない。
したがって、両者は、
「重合トナー粒子の分散液に表面処理剤を溶解または分散して、重合トナー粒子の表面処理をする第1の工程、表面処理された重合トナー粒子を乾燥する第2の工程からなる重合トナーの表面処理方法。」
である点で一致し、
本願発明が、さらに、「乾燥した重合トナー粒子を、圧縮空気により形成された気流中に投入することで該粒子表面に衝撃を与えて前記重合トナー粒子から前記表面処理剤の微小粒子を分離する第3の工程」及び「前記気流中に浮遊する前記表面処理剤の微小粒子を吸引により除去する第4の工程」を備えるのに対して、刊行物1に記載された発明は、第3の工程及び第4の工程に相当する工程を有していない点で相違する。

相違点について検討する。
ア.刊行物2には、現像剤を使用中にトナー表面から離脱してしまうような付着力の弱い外添剤の脱離による課題認識が記載されている(2a)。さらに、刊行物1には、トナー粒子表面から外添剤が離脱してキャリアーや感光体表面に付着し、感光体のクリーニング障害や現像性能の低下を生じることが記載されている(1b)。このように、トナー表面から脱離して遊離した外添剤粒子、あるいは遊離したものが凝集した外添剤粒子の弊害は、本願発明の出願前より周知であったものと認められる。
また、刊行物2には、粉砕装置を使用して、トナー表面の外添剤付着量を、粉砕前と粉砕後とで、ある範囲の比率になるようにすることが記載されている(2c)。すなわち、そのような付着力の弱い外添剤をトナー表面から積極的に離脱させ、分離することが示されている。具体的には、トナーから脱離しやすい外添剤を、本願明細書に記載する気流式粉砕装置「PMJ-100NP」を使用して、トナー表面から外して分離して分離前後のトナー量を測定している(2d,2e)。したがって、このような装置を使用すれば、トナー表面に弱く結合した外添剤粒子を分離しうるのは誰にでも予測ができることであるし、この装置の使用は、当然に、本願発明でいう「乾燥した重合トナー粒子を、圧縮空気により形成された気流中に投入することで該粒子表面に衝撃を与えて前記重合トナー粒子から前記表面処理剤の微小粒子を分離する」、すなわち第3の工程に該当するものである。
刊行物1に示された、重合トナー粒子の分散剤に表面処理剤を分散して表面処理する方法によって得られた表面処理トナーは、比較例1、2に示す表面処理剤を乾式混合する場合に比べて、分離したあるいは弱く付着した表面処理剤が少ないものであるが(1b、1c)、刊行物1に記載された発明の表面処理トナーに対して、分離したあるいは弱く付着した表面処理剤の微小粒子をさらに除去するために、刊行物2に記載された気流式粉砕装置を適用して、付着力の弱い表面処理剤粒子を分離せんとすることは、上記周知の課題認識に則って、当業者が容易に想到することである。
イ.次に工程4について検討する。
刊行物2における気流式粉砕装置においては、名称として「粉砕装置」としているが、トナー表面の付着力の弱い外添剤を剥離するだけでなく、トナーと、トナーから離脱した外添剤との分離をも行わなければ、N1/N0比は測定できないから、該装置においても、気流による分級作用が利用されていることは明らかである。
そして、一般に、気流式分級機において、微小成分を分級機から分け取るために、気流と共に微小成分を抜き出すことは、当然というよりも必然のことである。更に、その手段として吸引を用いることは慣用技術あるいは、常套手段にすぎない(例えば、拒絶査定において周知事項として示された特開平7-92735号公報参照)。
したがって、刊行物2における気流式粉砕装置、すなわち分級機には、微小成分の抜出し方法についての明記はなくとも、分級機の先にはサイクロンやバッグフィルターのような捕集手段を介して吸引手段を当然に備えるものであり、刊行物2に記載された気流式粉砕装置による付着力の弱い表面処理剤粒子の分離工程には、気流と共に微小成分を吸引により除去する工程が付随しているものである。

そして、本願発明の効果は、刊行物1及び2に記載された発明から当業者が容易に予測できるものである。

4.むすび
したがって、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいてその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-09-26 
結審通知日 2006-10-03 
審決日 2006-10-16 
出願番号 特願平8-19210
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菅野 芳男  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 福田 由紀
岡田 和加子
発明の名称 重合トナーの表面処理方法  
代理人 伊東 忠彦  

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