ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G |
---|---|
管理番号 | 1149023 |
審判番号 | 不服2004-25111 |
総通号数 | 86 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1999-01-22 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2004-12-09 |
確定日 | 2006-12-15 |
事件の表示 | 平成9年特許願第168489号「電子写真感光体」拒絶査定不服審判事件〔平成11年1月22日出願公開、特開平11-15183〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成9年6月25日の出願であって、その請求項1ないし4に係る発明は、平成16年10月8日付けの手続補正書によって補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものであり、請求項1に係る発明は次のとおりのものと認める。 「導電性基体上に、少なくとも下引き層及び感光層を有する電子写真感光体において、該下引き層が有機珪素化合物で被覆された酸化チタン粒子と、下記一般式(I)で示されるジアミン成分を構成成分として有する共重合ポリアミドを含むことを特徴とする電子写真感光体。 は、それぞれ独立して置換基を有していてもよいシクロヘキシル環を表し、R1、R2 はそれぞれ独立して水素、アルキル基、アルコキシ基、アリール基を表す。)」(以下、「本願発明1」という。) 2.引用刊行物記載の発明 原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である、刊行物1及び刊行物2には以下の事項がそれぞれ記載されている。 (刊行物2:特開平8-328283号公報の記載事項) (2a)「【請求項1】導電性支持基体上に下引き層、電荷発生層及び電荷輸送層を有する電子写真用感光体において、前記下引き層が12/6/66共重合ナイロン及びメチルハイドロジェンポリシロキサン処理を施した二酸化チタンを含むことを特徴とする電子写真用感光体。」 (2b)「【0009】この発明は上述の点に鑑みてなされ、その目的は下引き層に用いられる樹脂と酸化チタンの組み合わせを最適化することにより、帯電特性や残留電位等の特性に優れると共に繰り返し使用時の安定性に優れる電子写真用感光体を提供することにある。」 (2c)「【0014】二酸化チタンの具体的な商品名としては、ルチル型超微粒子酸化チタンをメチルハイドロジェンポリシロキサンにより公知の方法で分散処理した市販品として「SI-UFTR-ZF」(有)三好化成製)がある。本発明において、二酸化チタンの含有量は、下引き層中に重量%で50?70%の範囲内に設定するのが望ましく、下引き層の膜厚は0.1?10μmが望ましく、好ましくは0.2?1μmの範囲で使用されるのが最も効果的である。」 (2d)実施例1ないし3として、混合溶媒に12/6/66共重合ナイロン(ダイセルヒュルス製ダイアミドT-171)3.15重量部とスチレン-マレイン酸ハーフエステル共重合体(BASF製AP-20)0.8重量部とメチルハイドロジェンポリシロキサン処理された二酸化チタン((有)三好化成製 SI-UFTR-ZF)6.1重量部とを混合し、ボールミルにて10時間分散し、二酸化チタンが10wt%の下引き層塗布液を作製し、この塗布液にアルミシリンダーを浸漬塗布し、乾燥厚み0.5μmの下引き層を設けた感光体を作製したこと、 比較例8として、実施例1の層構成において、下引き層中にスチレンマレイン酸ハーフエステル共重合体を含まない下引き層を0.5μmの厚みに塗布し感光体を作製したこと、 比較例9として、実施例1の層構成において、下引き層中にメチルハイドロジェンポリシロキサン処理されていない二酸化チタンを含有させた下引き層を0.5μmの厚みに塗布し感光体を作製したことが記載され、 作製した感光体の特性の評価として、L,L(低温,低湿:5℃,相対湿度20%)、N,N(常温,常湿:22℃,相対湿度50%)、H,H(高温,高湿:40℃,相対湿度85%)の各雰囲気下で、初期及び5万回繰り返し後の(1)電気特性である、暗部電位(Vd),明部電位(Vi),感度,残留電位(Vr)、(2)画像特性である、黒ベタ画像および白ベタ画像評価、(3)塗液安定性及び(4)密着性を評価した結果が表1に記載されている。(【0023】?【0036】) (2e)表1には、画像特性が、無処理の二酸化チタンを用いた比較例9が、低温低湿から高温高湿にわたり微小白点があるのに対して、メチルハイドロジェンポリシロキサン処理を施した二酸化チタンを用いた実施例1ないし3、比較例8は、各環境下ですべて良好であること、電気特性は、実施例1ないし3、比較例8及び9のいづれも良いことが示されている。 (2f)「【0046】【発明の効果】導電製支持基体上に下引き層を介して感光層が積層され、前記下引き層が12/6/66ナイロンとメチルハイドロジェンポリシロキサン処理された二酸化チタンからなるので、繰り返し使用時の帯電性能の低下や残留電位の上昇による画像欠陥等を抑制することができ、いかなる環境下においても繰り返し安定製に優れた電子写真用感光体が得られる。」 (刊行物1:特開平4-31870号公報の記載事項) (1a)「導電性基体上に、少なくとも下引き層及び感光層を設けた電子写真感光体において、該下引き層に下記一般式(I)で示されるジアミン成分を構成成分として有する共重合ポリアミドを含むことを特徴とする電子写真感光体。 (式中、R1、R2、R3、R4、R5及びR6はそれぞれ独立して、水素原子、メチル基又はエチル基を表わす。)」(特許請求の範囲第1項) (1b)「下引層に要求される特性としてまず第一に電子写真特性に影響を及ぼさないことが挙げられる。このためには電気抵抗が低いこと、電気抵抗が外部環境の変化にたいして極端に変化しないことが必要である。第二に感光層に対してキャリアーの注入性がないことも必要である。感光層に対しキャリアーの注入性のある下引き層を用いると帯電電位を減少させ、結果的に画像のコントラストを低下させたり、カブリの原因となる。第三に感光体の電気特性を阻害しない範囲で、基体表面の様々な欠陥を被覆するため、なるべくその膜厚が厚くできることも必要である。更に、塗布により下引き層を設ける場合には、第四としてその塗布液の液性が安定であることも必要である。」(第2頁右上欄第1行目?第15行目) (1c)「下引き層には、必要に応じて各種の添加剤を加えることができる。添加剤として、電気抵抗を調節するためには、例えば・・・酸化チタン、酸化アルミニウム・・・を用いることができる。」(第4頁左上欄第11行目?第19行目) (1d)「[発明の効果]本発明における特定の共重合ポリアミドを用いた下引き層の塗布液は、液の経時安定性や、金属酸化物微粒子を分散した場合の分散液の分散安定性に優れる。そのため、液の管理が容易であり非常に生産性よく基体に塗布することができる。また下引き層の電気抵抗の湿度依存性が小さいため、低温低湿下において繰返し使用しても感度の低下や残留電位の蓄積がほとんどなく、安定した電気特性を示す。」(第5頁左上欄第1行目?第10行目) (1e)一般式(I)の具体例の共重合ポリアミド(4)が、以下のものであることが記載されている。 (第3頁下欄) (1f)「実施例-2 前記具体例中に示した共重合ポリアミド(4)の・・・溶液に、・・・酸化アルミニウム・・・を混合し・・・全固形分8重量%の下引き層塗布液を調整した。・・・次にこの下引き層塗布液に表面を・・・アルミシリンダーを浸漬し、引上げることにより乾燥後の膜厚が1.0μmとなるように下引き層を設けた。・・・感光体Aとする。」(第5頁左下欄第6行目?第6頁左上欄下から第6行目) (1g)比較例-2 実施例-2において、共重合ポリアミドとして比較例-1で用いた6/6、6/12(組成比46/24/30モル%)を用いた以外は実施例-2と同様に行ない感光体Bを作製した。 感光体A、Bを感光体特性測定機に装着し、各環境条件下・・・残留電位(Vr)を測定した。その結果を表1に示すが、本発明の感光体Aは、特に低温、低湿下において感度の低下や残留電位の上昇が少なく、非常に安定した電気特性を示すことがわかる。 表1(省略) 次にこれらの感光体を市販の半導体レーザプリンタ(反転現像方式)に装着し、上記の各環境条件下でプリントを行ない画像評価を行った。その結果、本発明の感光体Aは各環境条件において良好なプリント画像が得られたが、比較例の感光体Bは、5℃、15%RHの条件において、黒地画像濃度が若干低下する傾向が見られた。」(第6頁左上欄下から第5行目?左下欄第2行目) (1h)表1には、感光体Aが、低温低湿の5℃、15%、高温高湿の35℃、85%で、感度低下、残留電位の上昇が少ないこと、感光体Bは、高温高湿では、感光体Aと同じく、感度低下、残留電位の上昇が少ないが、低温低湿では、感度低下、残留電位の上昇が大きいことが示されている。(第6頁右上欄) 3.対比 上記刊行物2の記載事項から、刊行物2には、「導電性支持基体上に下引き層、電荷発生層及び電荷輸送層を有する電子写真用感光体において、下引き層が12/6/66共重合ナイロン及びメチルハイドロジェンポリシロキサン処理を施した二酸化チタンを含む電子写真用感光体。」(以下、「刊行物2発明」という。)が記載されているところ、本願発明1と刊行物2発明とを比較する。 (ア)刊行物2発明の「導電性支持基体」「電荷発生層及び電荷輸送層」「メチルハイドロジェンポリシロキサン処理を施した二酸化チタン」「電子写真用感光体」は、本願請求項1記載の発明の「導電性基体」「感光層」「有機珪素化合物で被覆された酸化チタン粒子」「電子写真感光体」にそれぞれ相当する。 (イ)刊行物2発明の「12/6/66共重合ナイロン」と、本願発明1の「一般式(I)で示されるジアミン成分を構成成分として有する共重合ポリアミド」は、ともに共重合ポリアミドである点では共通している。 したがって、本願発明1と刊行物2発明との間には、以下のような一致点及び相違点がある。 (一致点) 導電性基体上に、少なくとも下引き層及び感光層を有する電子写真感光体において、下引き層が有機珪素化合物で被覆された酸化チタン粒子と、共重合ポリアミドを含む電子写真感光体である点。 (相違点) 共重合ポリアミドが、本願発明1では、一般式(I)で示されるジアミン成分を構成成分として有するものであるのに対して、刊行物2発明では、12/6/66共重合ナイロンであり、一般式(I)で示されるジアミン成分を構成成分として有さない点。 4.判断 上記相違点について検討すると、刊行物1には、本願発明1の一般式(I)で示されるジアミン成分を構成成分として有する共重合ポリアミドと同じ共重合ポリアミドを含む下引き層を有する感光体が、共重合ポリアミド6/6、6/12を含む下引き層を有するものに比べて、高温、高湿下はもとより、低温、低湿下においても、感度の低下、残留電位の上昇が少なく安定した電気特性を示すこと、各環境条件において良好なプリント画像が得られたことが記載されているから、刊行物2発明の12/6/66共重合ナイロンに代えて、より電気特性の優れた刊行物1に記載された、本願発明1の一般式(I)で示されるジアミン成分を構成成分として有する共重合ポリアミドを用いることは、当業者が容易になし得たものといえる。 さらに、本願発明の高温高湿から低温低湿にわたる全環境下で電気特性及び微小黒点の有無で評価された画像特性が良好であるという効果について検討すると、刊行物2には、いかなる環境下においても電気特性の繰り返し安定性が優れることが記載され、画像特性としては、白ベタのカブリ、黒ベタの微小白点が評価され、無処理の二酸化チタンを用いた比較例9が、低温低湿から高温高湿にわたり微小白点があるのに対して、メチルハイドロジェンポリシロキサン処理を施した二酸化チタンを用いた実施例1ないし3、及び比較例8は、画像特性がすべて良好であることが示されていること、及び、刊行物1には、高温、高湿下はもとより、低温、低湿下においても、感度の低下、残留電位の上昇が少なく安定した電気特性を示すこと、各環境条件において良好なプリント画像が得られたことが記載されていることから、予測し得たものであり、刊行物2と刊行物1を組み合わせたことに伴い、予想外の相乗的な効果が奏されているということはできない。 5.むすび 以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、刊行物2及び刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、請求項2ないし4に係る発明についての判断を示すまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2006-10-12 |
結審通知日 | 2006-10-17 |
審決日 | 2006-10-30 |
出願番号 | 特願平9-168489 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G03G)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 菅野 芳男 |
特許庁審判長 |
山口 由木 |
特許庁審判官 |
秋月 美紀子 岡田 和加子 |
発明の名称 | 電子写真感光体 |
代理人 | 長谷川 曉司 |
代理人 | 吉村 俊一 |