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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
管理番号 1149029
審判番号 不服2005-944  
総通号数 86 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-08-01 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-01-13 
確定日 2006-12-13 
事件の表示 平成 5年特許願第350903号「サーマルヘッド」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 8月 1日出願公開、特開平 7-195721〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本願の経緯

本願は、平成5年12月31日付けの出願であって、平成16年12月3日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成17年1月13日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされたものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成18年9月1日付け手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。

「凸状部をもつアルミナ基板上にガラスグレーズ層を被着したサーマルヘッドにおいて、前記凸状部を円弧状横断面形状に形成し、かつ該凸状部の曲率半径を2?3mmとし、該凸状部の頂部から周側部にかけて40?85μmの範囲内の均等厚みのガラスグレーズ層を被着したことを特徴とするサーマルヘッド。」

2.当審の拒絶理由

当審において、平成18年6月27日付けで通知した拒絶の理由の概要は、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物である特開平5-177854号公報(以下、「引用文献1」という。)、特開平3-281261号公報(以下、「引用文献2」という。)、実願昭58-19041号(実開昭59-126643号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献3」という。)及び実願昭57-125219号(実開昭59-29246号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献4」という。)に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3.刊行物記載の発明の認定

[引用文献1記載の発明]

当審における拒絶の理由で引用した引用文献1には、以下の事項が図面と共に記載されている。

ア.段落【0009】
「図1(A)は本発明によるサーマルヘッドの一実施例を示す側面図、・・・。15は前記ヒートシンク5上に接着により、あるいはビスもしくはリベット等の適宜の固定具を用いて取り付けられた発熱体形成基板である。該発熱体形成基板15としては、アルミナ等のセラミック板あるいは金属板に絶縁膜を施したものが用いられる。該基板15はその長手方向に凸状部15aが形成されており、凸状部15aの頂部に発熱体列が蒸着等の膜形成技術により形成されている。図1(C)に示すように、該発熱体列1は基板15上に形成されたグレーズ層20、その上に形成された発熱抵抗体層21、その上に線上に多数形成された電極22および保護層23とからなる。」

したがって、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

「凸状部15aが形成されたアルミナからなる発熱体形成基板15上にグレーズ層20を形成したサーマルヘッド。」

[引用文献2乃至4の記載事項]

当審における拒絶の理由で引用した引用文献2乃至4には、以下の事項が記載されている。

イ.引用文献2の3頁左下欄2?13行
「上面にグレーズガラス層が形成さるべき金属基板の一部をプレス加工、圧延、押出し、または引抜きなどの塑性加工により突起部を形成するかまたは、溶射、蒸着、メッキ、切削などの塑性加工以外の加工により、断面が円弧などの曲面または2つの直線で画定される山形突起部を表面に形成して、その上に突起部を完全に埋めかつ上表面が平坦になるだけの厚さのグレーズガラス層を形成するか、または曲率半径の大なる曲面のグレーズガラス層で覆うことにより、突起部の頂部に形成される被覆グレーズガラス層の厚さを50μm以下に薄くし熱放散性の優れた金属基板とした。」

ウ.引用文献3の第4図
引用文献3の第4図から、サーマルヘッドの基板に形成された凸状部が円弧状横断面形状となっていることが看取できる。

エ.引用文献4の第3図
引用文献4の第3図から、サーマルヘッドの基板に形成された凸状部が円弧状横断面形状となっていることが看取できる。

4.本願発明と引用発明との対比

本願発明と引用発明とを対比する。

引用発明の「凸状部15a」、「アルミナからなる発熱体形成基板15」、「グレーズ層20」、「サーマルヘッド」は、それぞれ、本願発明の「凸状部」、「アルミナ基板」、「ガラスグレーズ層」、「サーマルヘッド」に相当するから、両者は、「凸状部をもつアルミナ基板上にガラスグレーズ層を被着したサーマルヘッド。」である点で一致し、次の点で相違するものと認める。

<相違点>
本願発明が、アルミナ基板の「凸状部を円弧状横断面形状に形成し、かつ該凸状部の曲率半径を2?3mmとし、該凸状部の頂部から周側部にかけて40?85μmの範囲内の均質厚みのガラスグレーズ層を被着した」ものであるのに対し、引用発明ではかかる構成が定かではない点。

5.相違点の判断

まず、相違点における凸状部の形状について検討する。
引用発明の凸状部15aについては、引用文献1の図1(A)?(D)及び図2(A),(B)の記載によれば、該凸状部15aが「台形状」であることが一応看取できるが、引用文献1では全体を通して単に「凸状部15a」と記載されているだけで、その形状が具体的に記載されているわけではないから、引用発明の凸状部15aの形状を「台形状横断面形状」と限定して解すべき理由はない。
そして、サーマルヘッドの基板に凸状部を設けるにあたり、凸状部を「円弧状横断面形状」とすることが引用文献2に記載されており(上記記載事項イ参照)、また、他にも例えば引用文献3及び引用文献4から看て取れるように(上記記載事項ウ、エ参照)、基板の凸状部を「円弧状横断面形状」とすることは、従来より周知の技術と認められる。
よって、引用発明においても上記引用文献2記載の事項及び周知技術を採用して、アルミナ基板の凸状部を円弧状横断面形状に形成することは、当業者が容易に為し得ることである。

次に、相違点における「凸状部の曲率半径を2?3mmとし、該凸状部の頂部から周側部にかけて40?85μmの範囲内の均質厚みのガラスグレーズ層を被着した」点について検討する。
上述したように、アルミナ基板の凸状部を円弧状横断面形状とすることは、当業者にとって想到容易であり、基板の円弧状凸状部上にガラスグレーズ層を該凸状部の頂部から側部にかけて設けるのであれば、該ガラスグレーズ層の厚みを、凸状部の頂部から周側部にかけて均等とすることも普通のことである。
その際、基板の凸状部の曲率半径が小さくなる程、凸状部上に均等にガラスグレーズ層を形成するのが困難になることは技術常識に照らして明らかである。また、引用文献1の【0010】?【0011】に「基板15の厚みは約1mm程度、凸状部15aの基板15の表面からの高さH3を0.8mm以上とし、カバー6の高さH2をそれ以下に設定した。このように、基板15に凸状部15aを設けてその頂部の発熱体列1の高さを駆動回路部の実装部の高さ以上に設定すれば、駆動回路部の実装部がカード7のような硬い被印刷物の送りの障害となることはなく、硬いものでも印刷できる。」と記載されているように、凸状部の高さは所定の高さ以上に設定されるものであることからすれば、引用発明において、凸状部の曲率半径の上限が当然に定まるものと把握できる。
してみれば、基板の凸状部の曲率半径として所望の範囲を要することは明らかであって、サーマルヘッド基板において、本願発明の如く「凸状部の曲率半径を2?3mm」とすることは、当業者が常識的に採用し得る程度の数値範囲にすぎないものといえる。
そして、サーマルヘッドにおけるガラスグレーズ層を、基板の凸状部の頂部から側部にかけて、40?85μmの範囲内の厚みで形成することは、例えば、引用文献2(上記記載事項イ参照)、特開平5-177855号公報(段落【0015】参照)等にみられるように、当業者にとって通常のことと認められる。
そうすると、相違点に係る「凸状部の曲率半径を2?3mmとし、該凸状部の頂部から周側部にかけて40?85μmの範囲内の均等厚みのガラスグレーズ層を被着した」ことは、当業者にとって単なる設計上の事項にすぎないものである。

なお、強いて、相違点における「凸状部の曲率半径を2?3mmとし、該凸状部の頂部から周側部にかけて40?85μmの範囲内の均質厚みのガラスグレーズ層を被着した」点について、その技術的意味を検討するに、本願明細書の段落【0013】には、
「基板凸部の頂上、即ち発熱体直下のグレーズ層の厚みは基板凸部の円弧の曲率半径とグレーズ供給量で決定される。図4は基板凸部の曲率半径R(mm)とグレーズ層厚T(μm)との関係を種々のグレーズ供給量について示した図である。同図中(イ)は供給量15.1(mg/cm2 )の場合、(ロ)は同じく17.8(mg/cm2 )、(ハ)は20.7(mg/cm2 )、(ニ)は24.8(mg/cm2 )の供給量の場合である。いずれも凸部曲率半径Rが2mmで高速印字に適した40?45μm厚のグレーズ層が得られ、凸部曲率半径3mm以上では昇華型のプリンタに適したグレーズ層厚60?85μmとなる。」
との記載がある。
この記載によれば、基板の凸状部に被着されたガラスグレーズ層の厚みは基板凸部の円弧の曲率半径とグレーズ供給量で決定されるものであるとされるが、そうすると、少なくとも、「ガラスグレーズ層の厚み」、「基板凸部の曲率半径」及び「グレーズ供給量」のそれぞれの数値が特定され結びつかなければ、技術的に意味を有することにはならない。
また、所望のガラスグレーズ層の厚みを得るためには、ガラスグレーズ層を構成する材料としてのガラス材の特性も重要な要因となるものと推察され、本願においても、明細書の段落【0012】に「グレーズ層の被着に当っては、スプレー等で均一に成膜されたグレーズ層を熱処理して基板の凸部を覆う均一なガラスグレーズ層を得るが、本発明では均一に被着されたグレーズ層を、適度な加熱と、ガラス溶解の粘度とにより基板凸部9の頂上に溶解ガラスが塗布されることになるので、頂上部が薄くなることはなく、凸部9の基部9cにおける裾部には溶解ガラスがたまり、凹凸のないなめらかなグレーズ層膜が得られる。」とあるとおり、ガラス材は、スプレー等で均一に成膜されうるものであること、適度な加熱により凸部の頂上に凹凸のないなめらかなグレーズ層膜が形成されること等の条件を満たすことを前提としたものと把握できる。
この点、本願発明においては、「円弧状横断面形状の凸状部の曲率半径」及び「ガラスグレーズ層の厚み」以外の本願明細書記載の作用効果を奏するに必要な構成が何も規定されていないのであるから、上記相違点に係る本願発明の構成に何らの技術的意味は認められず、上述したとおり、上記相違点に係る本願発明の構成は当業者にとって設計事項の域を超えるものとはいえない。

以上のとおり、相違点に係る本願発明の構成を想到することは当業者にとって想到容易であり、相違点に係る構成を採用することによって、格別の作用効果が奏されるとも認められない。

6.むすび

本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本願は、他の請求項を検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-10-03 
結審通知日 2006-10-10 
審決日 2006-10-23 
出願番号 特願平5-350903
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤本 義仁  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 藤井 靖子
國田 正久
発明の名称 サーマルヘッド  

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