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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01M
管理番号 1149123
審判番号 不服2003-23448  
総通号数 86 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-12-04 
確定日 2006-12-18 
事件の表示 平成10年特許願第322672号「車両の故障診断装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 5月26日出願公開、特開2000-146768〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成10年11月12日の出願であって、平成15年6月30日付け及び平成15年10月6日付けの手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その請求項1-3に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1-3に記載されたとおりのものであり、請求項1に係る発明は次のものである。(以下で、「本願発明」という)
「【請求項1】車両に搭載される倒御装置の故障診断装置であって、
前記制御装置の故障判断を行い、該制御装置の故障発生時には故障情報を記憶するとともに当該故障情報に対応するON-OFF信号及び該ON-OFF信号に対応するシリアル信号をそれぞれ出力可能な制御ユニットと、
前記ON-OFF信号に対応した前記制御装置の故障表示、前記シリアル信号に対応した少なくとも数字もしくは文字の表示等を可能とした多重表示装置と、
該多重表示装置の表示を、前記ON-OFF信号に対応した表示又は前記シリアル信号に対応した表示とに切り換え指示する表示切換手段と、
該表示切換手段からの出力信号によつて、前記多重表示装置の表示を前記ON-OFF信号に対応した表示又は前記シリアル信号に対応した表示に切り換え制御する多重表示制御装置と、
前記制御ユニットに連結され、該制御ユニットに記憶された故障情報を取り出す故障診断テスタが接続可能なテスタ接続用端子と、
前記制御ユニットと前記多重表示制御装置とを連結する第一の連結路と、
前記制御ユニットと前記テスタ接続用端子とを連結する第二の連結路と、
同第二の連結路から分岐し、前記制御ユニットと前記多重表示制御装置とを連結する第三の連結路とを備え、
前記ON-OFF信号は、前記第一の連結路を介して前記多重表示制御装置へ出力され、
前記ON-OFF信号に対応するシリアル信号は、前記第二、第三の連結路を介して前記多重表示制御装置へ出力されることを特徴とする車両の故障診断装置。」

2.引用刊行物
これに対して原査定の拒絶理由で示された刊行物は、次のものである。

刊行物1:特開平8-230609号公報
刊行物2:特開平9-257520号公報
刊行物3:特開平7-294386号公報

刊行物1には、
「【0002】【従来の技術】従来の故障診断装置としては,例えば,車両のエアバックシステムの故障診断を行うためのものがある。図4は,エアバックシステムに適用された従来の故障診断装置の概略構成を示し,システムに故障が発生しているか否かを診断する故障有無診断器401と,システムの故障部位を診断する故障部位診断器402と,故障有無診断器401および故障部位診断器402の診断結果を表示する表示器403と,表示器403と故障有無診断器401および故障部位診断器402との間に配置され,表示器403と故障有無診断器401および故障部位診断器402との接続を切り換えるための診断結果切換器404と,診断結果切換器404を作動させて上記診断結果の何れか一方を選択的に表示器403へ出力するための診断結果切換スイッチ405とから構成される。」、

「【0003】なお,詳細な説明は省略するが,故障部位診断器402によって診断する故障部位としては,例えば,運転席のエアバックモジュールインフレーター,エアバックセンサーユニット,助手席エアバックモジュールインフレーター等があり,故障部位診断器402は,これらの部位の断線,電源へのショート,アースのショート,線間ショート,電源電圧異常,センサー故障,ダイオード故障等を診断する。」、

「【0004】また,故障有無診断器401は,上記故障部位診断器402によって何れかの部位が故障であると診断されると,システムに故障があると診断する。」、

「【0005】さらに,表示器403は,一個のLEDからなる警告灯であり,警告灯の点灯および消灯によって故障有無を表示し,警告灯の点滅パターンの違いによって故障部位を表示する構成である。これは,運転者等の一般ユーザーに対しては,点灯および消灯によって故障有無を通知し,メンテナンス作業や,修理を行うディーラーに対しては点滅パターンによって故障部位の詳細を通知できるようにしたものである。」、

「【0006】以上の構成において,その動作を説明する。故障部位診断器402は,システムの故障部位を診断して,診断結果に該当する警告灯の点滅パターン信号を常時診断結果切換器404へ出力している。また,故障有無診断器401は,故障部位診断器402の診断結果に基づいて,システムの故障有無を診断し,診断結果に該当する警告灯の消灯信号または点灯信号を常時診断結果切換器404へ出力している。」、

「【0007】先ず,診断結果切換スイッチ405によって診断結果切換器404の接続が故障有無診断器401と表示器403に切り換えられている場合,故障有無診断器401からの消灯信号または点灯信号が診断結果切換器404を介して表示器403へ送出される。表示器403は,入力した消灯信号または点灯信号に基づいて,警告灯の消灯または点灯を行う。基本的に車両がユーザーに納品された状態においては,診断結果切換器404の接続が故障有無診断器401と表示器403に切り換えられているので,ユーザーは表示器403の点灯有無によってシステムの故障有無を知ることができる。」、

「【0008】一方,診断結果切換スイッチ405によって診断結果切換器404の接続が故障部位診断器402と表示器403に切り換えられている場合,故障部位診断器402からの点滅パターン信号が診断結果切換器404を介して表示器403へ送出される。表示器403は,入力した点滅パターン信号に基づいて,警告灯の点滅を行う。したがって,ディーラーが修理を行う場合に,診断結果切換器404の接続を故障部位診断器402と表示器403に切り換えることにより,点滅パターンによって故障部位の詳細を知ることができる。」、

「【0009】次に,診断結果切換スイッチ405による切り換えについて具体的に説明する。一般に,ユーザーは故障有無の診断結果のみを必要としているため,ユーザーに故障部位の診断結果を通知する必要はなく,さらに車両においてユーザーが必要としない不要なスイッチ類の増加を避けるために,診断結果切換スイッチ405は以下のようにして作動する構成となっている。」、

「【0010】イグニッションキーON後,7秒以内に運転席側のドアスイッチを5回以上ON-OFFすることにより,診断結果切換スイッチ405が作動し,診断結果切換器404の切り換えを行う。」、
が記載されている。

刊行物2には、
「【0002】【従来の技術】自動二輪車などの車両において、電子部品の異常を自己診断して、その結果をコードナンバーでディジタル表示部に表示する技術(第1従来技術)がある(実開昭62-156050号、実開平3-83133号等を参照)。……。なお、第1従来技術のようにディジタル表示部を用いるのに代えて、自己診断の結果を記号化して、電球あるいは発光ダイオードの点滅サイクルで表示する技術もある。」、

「【0003】【発明が解決しようとする課題】しかしながら、第2従来技術では水温センサを2つ使用するのでコスト的に不利である。また、電球あるいは発光ダイオードで表示するものは、乗員が瞬時に診断結果を読み取ることができないという問題があり、また、複数のコードを表示するときにはさらに時間がかかる不具合がある。」、

「【0007】請求項1の発明においては、走行中に乗員の見える位置に搭載されたメータ類中にエンジン状態あるいは走行状態表示用のディジタル表示部に、自己診断結果と共に前記スロットルポジションセンサの出力を表示させる。……」、

「【0013】メータ用CPU26では、通常は、水温のデータのみ温度に変換しディジタルの水温表示部18に表示するものであるが、このときに、自己診断の項目に、異常を示す“1”のデータが送信されたときは、水温表示部18に水温の表示と自己診断の結果の表示を交互に行うようになっている。」、

「【0014】この表示モードとして、例えば図4に示すように、故障が発生していること(例えばErr表示)のみを水温(例えば85℃の表示)と交互に表示し(Errと85℃とを例えば2秒毎に交互表示)、別に設定されたモード切替えスイッチ28で乗員がモードを切替えて変更することによって、水温表示部18に直接、故障のコードナンバー(C12,C13,C14…)を水温と交互に表示させる機能を有している。なお、例えば図5に示すように、直接、故障のコードナンバーを水温(85℃)と交互に表示させる(コードナンバーC12,C13,C14…)ようにしてもよい。」、
が記載されている。

刊行物3には、
「【要約】【目的】複数の制御装置をデータバスによって連結した車両制御装置において、検査装置が無い場合にもワイヤーハーネスを増設することなく各制御装置の異常情報を表示することを可能とした車両制御装置を提供する。
【構成】マイクロコンピュータで構成された制御装置11から15には、それぞれ異常内容を表示する発光ダイオード111から115が設置されるとともに、データバス17によって情報交換が可能なように構成されている。データバスにはさらにコネクタ19を介して検査装置20が接続可能である。さらに制御装置の1つ(例えば内燃機関制御装置11)のテスト端子は接地可能な構成となっている。制御装置への電源投入後所定時間経過しても検査装置20から指令がなくかつテスト端子が接地されている場合には、内燃機関制御装置11は他の制御装置に対してデータバスを介して異常表示を指令する。」、
が記載されている。

3.刊行物1記載の発明
刊行物1記載の発明において、エアバックシステムに故障があった場合に、警告灯を点灯させる点灯信号が、故障有無診断器401から出力されるものと決めておくと、刊行物1の前記段落【0002】-【0010】の記載からみて、刊行物1には、
車両に搭載されるエアバックシステムの故障診断であって、
エアバックシステムの故障判断を行い、該エアバックシステムの故障発生時には故障有無診断器401は、故障部位診断器402からの診断結果に基づいて、点灯信号を出力して表示器403の警告灯を点灯させることで、エアバックシステムに故障有りということを表示可能であり、また故障部位診断器402は、エアバックシステムの故障部位を表示するための点滅パターン信号を出力して、表示器403の警告灯に、故障部位を点滅パターンとして表示可能であり、
表示器403の警告灯は、点灯という表示と、点滅パターンという表示の多重表示が可能なものであり、
該警告灯の表示を、点灯信号に対応した点灯の表示又は点滅パターン信号に対応した点滅パターンの表示とに切り換え指示する診断結果切換スイッチ405と、
該診断結果切換スイッチ405からの出力信号によって、前記警告灯の表示を前記点灯信号に対応した表示又は故障部位に対応する点滅パターン信号に対応した表示に切り替え制御する診断結果切換器404と、
前記故障有無診断器401と診断結果切換器404を連結する連結路(以下で、便宜上「第1の連結路」という)と、
前記故障部位診断器402と診断結果切換器404を連結する連結路(以下で、便宜上「第3の連結路」という)とを備え、
前記点灯信号は、第1の連結路を介して表示器403の警告灯へ出力され、
前記点灯信号に対応する点滅パターン信号は、第3の連結路を介して前記表示器403の警告灯へ出力されることを特徴とする車両の故障診断装置、
の発明が記載されている。

4.対比・検討
本願請求項1の冒頭で、「車両に搭載される倒御装置」は、「車両に搭載される制御装置」の誤記と認められる。
本願発明と刊行物1記載の発明を対比すると、
刊行物1記載の「エアバックシステム」が、車両に搭載される制御装置であること、つまり車両が衝突して所定以上の負の加速度が発生したのを検知してエアバッグ(air bag)を膨らませるようになっている制御装置であること、は明らかであり、エアバックシステムには、運転席のエアバックモジュールインフレーター,エアバックセンサーユニット,助手席エアバックモジュールインフレーター等が含まれ、これらの部位の断線,電源へのショート,アースのショート,線間ショート,電源電圧異常,センサー故障,ダイオード故障等を診断する「故障部位診断器402」、および「故障有無診断器401」は、エアバックシステムに付随するものであり、エアバックシステム、故障部位診断器402及び故障有無診断器401からなる全体が、制御ユニットであるという対応付けができる。(これを、「対応付け1」という。用語「対応付け1」については、この対比・検討の末尾で用いる。)
また、刊行物1記載の発明における故障部位の情報が、本願発明における故障情報に相当する。
(注:用語「故障情報」は、本願明細書段落【0007】の「……表示切換手段のスイッチ操作により、シリアル信号による故障情報を多重表示装置に直ちに表示することが可能となり、詳細な故障情報を迅速に把握できる……」及び段落【0011】の「……、エンジンやミッション内のどこが故障であるかは、セット/リセットスイッチ操作部2bの操作により表示部1b,1cに示すように「01」もしくは「10」等の表示により視認される。」という記載で明らかなように、故障部位の情報である。)
そして、刊行物1記載の「表示器403の警告灯」、「診断結果切換スイッチ405」、「診断結果切換器404」、「第一の連結路」及び「第三の連結路」がそれぞれ、本願発明の「多重表示装置」、「表示切換手段」、「制御装置の故障表示又は前記故障内容の表示に切り換え制御する多重表示制御装置」、「第一の連結路」及び「第三の連結路」に相当していることが明らかである。
また、本願発明の「故障情報に対応するON-OFF信号」は、故障情報に対応するON-OFF信号に対応した前記制御装置の故障表示を可能としたものであるから、「故障情報に対応するON-OFF信号」と、刊行物1記載の「点灯信号」はいずれも、故障情報に対応した制御装置の故障表示を可能とするための信号である、という点で共通する。
さらにまた、刊行物1記載の「点滅パターン信号」は、本願発明の「故障内容に対応するON-OFF信号」に相当するものといえ、いずれも制御装置内の故障情報を表示するための信号である。
したがって、本願発明と刊行物1記載の発明の両者は、
車両に搭載される制御装置の故障診断装置であって、
前記制御装置の故障判断を行い、該制御装置の故障発生時には当該故障情報に対応した制御装置の故障表示を可能とするための信号及び前記故障情報を表示するための信号をそれぞれ出力可能な制御ユニットと、
前記故障内容に対応した前記制御装置の故障表示、前記故障内容を表示するための表示を可能とした多重表示装置と、
該多重表示装置の表示を、前記制御装置の故障表示又は前記故障情報の表示とに切り換え指示する表示切換手段と、
該表示切換手段からの出力信号によつて、前記多重表示装置の表示を前記制御装置の故障表示又は前記故障情報の表示に切り換え制御する多重表示制御装置と、
前記制御ユニットと前記多重表示制御装置とを連結する第一の連結路と、
前記制御ユニットと前記多重表示制御装置とを連結する第三の連結路とを備え、
前記制御装置の故障表示を可能とするための信号は、前記第一の連結路を介して前記多重表示制御装置へ出力され、
前記故障情報を表示するための信号は、前記第三の連結路を介して前記多重表示制御装置へ出力されることを特徴とする車両の故障診断装置、
である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1
本願発明は、多重表示装置が、故障情報に対応する信号に対応した制御装置の故障表示、シリアル信号に対応した少なくとも数字もしくは文字の表示等を可能としたものであるのに対し、
刊行物1記載の発明は、多重表示装置が、警告灯であって、点灯によるエアバックシステム(制御装置)の故障表示、点滅表示によるエアバックシステムの故障部位の表示が可能なものである点。

相違点2
本願発明は、故障情報に対応した制御装置の故障表示を可能とするための信号が「故障情報に対応するON-OFF信号」であって、該「ON-OFF」信号が、制御ユニットに出力可能であって、第一の連結路を介して多重表示制御装置へ出力されるのに対し、
刊行物1記載の発明は、エアバックシステム(制御装置)の故障表示を可能とするための信号が「点灯信号」であり、該「点灯信号」が、制御ユニットに出力可能であって、第一の連結路を介して多重表示制御装置へ出力される点。

相違点3
本願発明は、制御装置内の故障情報を表示するための信号が「ON-OFF信号に対応するシリアル信号」であって、該「シリアル信号」が、制御ユニットに出力可能であって、第三の連結路を介して多重表示制御装置へ出力されるのに対し、
刊行物1記載の発明は、エアバックシステム(制御装置)内の故障部位を表示するための信号が「点滅パターン信号」であって、該「点滅パターン信号」が、制御ユニットに出力可能であって、第三の連絡路を介して多重表示制御装置へ出力される点。

相違点4
本願発明は、「制御ユニットに連結され、該制御ユニットに記憶された故障情報を取り出す故障診断テスタが接続可能なテスタ接続用端子」及び「前記制御ユニットと前記テスタ接続用端子とを連結する第二の連結路」を備えたものであり、第三の連結路は、第二の連結路から分岐したものであるのに対し、
刊行物1記載の発明はそれらについて記載がない点。

相違点5
本願発明は、制御ユニットが、制御装置の故障発生時には故障情報を記憶するものであるのに対し、
刊行物1記載の発明は、それについて記載がない点。

前記相違点について検討すると、
相違点1について
刊行物2に、車両の電子部品の異常を自己診断するものにおいて、明細書段落【0014】に、多重表示(Err表示とコードナンバー表示)をするディジタル画面について記載があり、段落【0002】,【0003】に、自己診断の結果を電球あるいは発光ダイオードの点滅サイクルで表示するものより、ディジタル表示部を用いると便利ということが記載されており、
また、車両の異常情報をディスプレイ画面を用いて表示させるのに、ユーザを対象とする一層目の情報として簡単な情報をディスプレイに表示させ、所定操作時には、メンテナンス作業者を対象者とする二層目の情報として詳細情報を同じディスプレイに表示させることが従来周知[例:特開平10-266889号公報(平成10年10月6日公開)の段落【0035】にユーザー向けの第一層目の情報例として、「自動変速機が故障しました。近くのディーラーで点検して下さい。」を表示させること、段落【0035】にディーラ向けの第二層目の情報例として「自動変速機内ソレノイドNo3が故障しました。確認して取り替えて下さい。」と表示させることが記載されている]であるから、
刊行物1記載の発明において、警告灯に代えて、ディジタル表示画面の多重表示装置を採用し、ユーザに対しては簡単な「エアバックシステムが故障」を意味する表示をし、診断結果切換スイッチ105の操作により、修理を行うディーラー用に、エアバックシステム内の故障部位を表す数字もしくは文字からなる詳細情報であるコードナンバーの表示ができるようにすることは、当業者が容易に想到できたものである。

相違点2について
前記「相違点1について」で示したとおり、刊行物1記載の発明において、ディジタル表示画面の多重表示装置を採用することは当業者が容易に想到できたものであり、そうした場合に、エアバックシステムの故障表示を可能とするための信号として、点灯信号に代えて、エアバックシステム内の故障情報に対応するON-OFF信号を採用し、該信号を制御ユニットに出力可能とし、第一の連結路を介して前記多重表示制御装置へ出力するようにすることは、当業者が必要に応じて適宜選択できた設計的事項であり、前記したような制御ユニットに出力する信号の変更をしたことで格別の効果が生じたとも認められない。

相違点3について
本願発明で「故障情報に対応するON-OFF信号」は、それ自体シリアル信号であるから、本願請求項1での「ON-OFF信号に対応するシリアル信号」という記載は、意味不明りょうな記載である。
しかしもし、「ON-OFF信号に対応するシリアル信号」が、ON-OFF信号を文字や数字をあらわすコードに変換した信号、という意味であったとしても、前記「相違点1について」で示したとおり、刊行物1記載の発明において、ディジタル表示画面の多重表示装置を採用することは当業者が容易に想到できたものであり、刊行物1記載の発明で第三の連結路がシリアル信号伝送路であることも明らかであるから、点滅パターン信号を文字や数字をあらわすコード信号に変換して、該コード信号を、制御ユニットに出力可能とし、シリアル信号伝送路である第三の連結路を介して多重表示制御装置へ出力されるようにすることは、当業者が必要に応じて適宜選択できた設計的事項である。

相違点4について
刊行物3の【要約】の【目的】,【構成】欄には、車両制御装置において、検査装置が無い場合にも各制御装置の異常情報を表示することを可能とした車両制御装置において、情報交換が可能なバスにコネクタを介して検査装置が接続可能であることが記載されている。
したがって、前記「相違点1について」で示したとおり、刊行物1記載の発明において、ディジタル表示画面の多重表示装置を採用することは当業者が容易に想到できたものであり、そうした場合に、シリアル信号伝送路であるディーラ向けの詳細情報を伝送する第三の連結路に、故障診断テスタをテスタ接続用端子を介して接続して、故障診断テスタと制御ユニットで情報交換が可能なようにすることは当業者が容易に想到できたものであり、その際、故障診断テスタで、制御ユニットに記憶された故障情報を取り出すことも当業者が普通に採用できた構成である。
[注:故障診断テスタで、制御ユニットに記憶された故障情報を取り出すことは、本願出願時の明細書に記載がなく、新規事項の追加に該当するが、、従来周知である(例:特開平10-138780号公報の段落【0050】に「……新しい情報は順次追加で書き込まれた情報であり、このようはデータを外部接続による故障診断用テスタ20で利用できることになる。本故障記憶装置は、このようにして使用することもできる。」と記載がある)]
そして、制御ユニットと前記テスタ接続用端子とを連結する連結路を、第二の連結路と命名すれば、第三の連結路は、第二の連結路から分岐したものとなるのは、当然のことである。

相違点5について
車両に車載の故障診断装置に、故障情報を記憶させる記憶装置を設けることは従来周知であるから(例えば、前記特開平10-138780号公報の段落【0024】,【0025】,【0030】,【0050】の記載を参照)、刊行物1記載の発明において、制御ユニットに故障情報を記憶させる記憶装置を設け、故障発生時に故障情報を記憶させることは、当業者が必要に応じて適宜採用できた程度の事項である。

そして、相違点1-5を総合的に判断しても、本願発明は、刊行物1記載の発明及び従来周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであり、その効果も当業者の予想範囲内のものである。

なお、エアバックシステムにはそれを制御するための制御装置があるのは自明であるから、エアバックシステムの制御装置が、車両に搭載される制御装置であり、エアバックシステムの制御装置に付随するものが「故障部位診断器402」と「故障有無診断器401」であり、エアバックシステムの制御装置と、「故障部位診断器402」と、「故障有無診断器401」からなる全体が制御ユニットであるという対応付けもできる。(これを「対応付け2」)という。本審決は、前記「対応付け1」に基いて、本願発明について、刊行物1記載の発明との対比・検討を行ったものである。「対応付け2」に基いて、対比・検討する場合は、エアバックシステムの故障診断を、エアバックシステムの制御装置の故障診断に変更することは当業者が適宜に選択できたものである、という認定をした上で、本審決と同様の論理過程で、本審決と同じ結論に至ることが明らかである。

5.むすび
したがって、本願請求項1に係る発明は、刊行物1記載の発明および従来周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、その余の請求項について検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-10-11 
結審通知日 2006-10-13 
審決日 2006-10-26 
出願番号 特願平10-322672
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 郡山 順  
特許庁審判長 高橋 泰史
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
菊井 広行
発明の名称 車両の故障診断装置  
代理人 長屋 二郎  
代理人 高橋 昌久  

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