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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12C
管理番号 1149155
審判番号 不服2005-15676  
総通号数 86 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2004-01-08 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-08-16 
確定日 2006-12-20 
事件の表示 特願2002-158691「酵母入り発酵麦芽飲料」拒絶査定不服審判事件〔平成16年1月8日出願公開、特開2004-44〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯・本件発明

本件出願は、平成14年5月31日の特許出願であって、その請求項1乃至9に係る発明は、平成17年4月26日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至9に記載された事項により特定されるところ、請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。(以下、「本件発明1」という。)
「【請求項1】製品発酵麦芽飲料として、その外観発酵度が、外観最終発酵度と外観発酵度の差が1%未満であるように調整され、存在させる酵母が105?107cells/mlになるように調整された密封飲料容器充填低温流通用酵母入り発酵麦芽飲料。」

2.引用例記載事項

これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本件の出願日前に頒布された刊行物である特開昭63-36771号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の(a)?(i)の技術事項が記載されている。
(a)1.容器に充填された、製品ビールとして発酵が実質的に終了しているビールに、102 ?106 cells/mlの濃度で酵母を混在させてなる酵母入りビール。2.製品ビールとして発酵が実質的に終了しているビールが、外観最終発酵度と外観発酵度との差が7%未満のものである、特許請求の範囲第1項記載の酵母入りビール。・・・(特許請求の範囲)
(b)ところで、酵母入りビールというものが、外国、特にヨーロッパ、において製造されている。この公知の酵母入りビールは、典型的には、製品ビールとしての発酵が実質的に終了している状態に達する前のビールに酵母を添加して、その最終的な発酵、すなわち後発酵、をビン内で行なわせたものであって、小麦麦芽の使用あるいは乳酸菌の作用の併用等による効果をも含めて特徴のある香味のビールを醸出することを目的としたものである(公報第2頁右上欄第14行?左下欄第2行)
(c)本発明による酵母入りビールは製品ビールとして発酵の実質的に終了しているビールに酵母を少量混在させてなるものであって、混在させた酵母によって香味の経時変化が有意に防止されている。・・・酸化臭の本体が明らかではないので、本発明での酵母の作用は必ずしも明確ではないが、酵母の添加によって酸化臭の生成が抑制されるのはアルコール類のアルデヒド類への酸化が抑制されるためであろう・・・(公報第2頁左下欄第14行?右下欄第9行)
(d)本発明による容器に充填された酵母入りビールは、酵母を混在させるべきビールが製品ビールとして発酵が実質的に終了しているという点において前記したような従来の酵母入りビールと区別されるものである。このように、酵母を混在させる時点で対象ビールは製品ビールとして発酵が実質的に終了しているので、容器内で進行するかも知れない更なる発酵が少なく、従って容器充填時と消費者飲用時のビールの物性値、たとえばアルコール濃度、エキス濃度、二酸化炭素濃度、の変化は最少に抑えられている。容器へ充填したあとは、そのビールの服すべき環境はもはやビール生産者の制御の及ばないところであるから、本発明のこの要件は近代的量産品としてのビールにとって重要なものである。(公報第3頁左上欄第16行?右上欄第11行)
(e)ここで、製品として発酵が実質的に終了したビールというのは、低温で行なわれる後発酵が実質的に終了したビールということである。発酵の終了の程度は、外観最終発酵度と外観発酵度との差が10%未満、好ましくは7%未満、さらに好ましくは5%以下、である、と考えることができる。・・・(公報第3頁右上欄下から5行?左下欄第2行)
(f)本発明は酵母を混在させるべき対象ビールとして、製品ビールとして発酵が実質的に終了したものを用いることによって、容器内でのビールの更なる発酵を防止しているのであり、・・・(公報第3頁右下欄下第6?9行)
(g)実施例2 製品ビールにビール醸造用下面酵母を2×102、2×103、2×104および2×105cells/ml添加し、30℃で2週間あるいは1ケ月、20℃で1ケ月あるいは2ケ月保存し、酵母を添加しないビールを対照として、5試料について酸化臭の強さ、香味の総合評価を比較した。いずれの試料についても大びんのヘッドスペース空気量は1.8mlに調整した。第2表および第3表に示すように、2×102cells/mlの微量添加であっても酵母を添加しない場合に比べて、新鮮さの保持、香味の総合評価の維持に明らかな効果がみられたが、大きな効果を得るには2×103あるいは2×104cells/mlの添加が必要であった。(公報第5頁右下欄下から8行?第6頁左上欄第7行)
(h)実施例3 製品ビールに、ビール醸造用下面酵母を・・・3×105 cells/ml添加し、30℃で1、3ケ月、20℃で1、3、6ケ月保存し、酵母を添加しないビールを対照として酸化臭の強さ、香味の総合評価の変化を調べた。・・・なお、30℃の保存では3ケ月で、酵母添加による酸化臭生成の抑制効果が顕著ではなくなるが、20℃の保存では6ケ月でもその効果がみられた。(公報第7頁左下第1?16行)
(i)実施例7 外観発酵度の異なるビール(外観最終発酵度はいずれも87.4%酵母濃度は0cell/ml)に2×102?106cells/mlのビール醸造用下面酵母を添加してヘッドスペースの空気量を1.8mlに調整し、20℃で2週間保存してから発酵度を調べた。外観発酵度の低いビール(残糖の多いビール)ほど酵母接触による発酵度の上昇が大きい。酵母添加量が外観発酵度の上昇に及ぼす影響も大きい。酵母添加量が2×104cells/ml以下であれば接触させるビールの発酵度(残糖)によらず、発酵度の上昇は5%以内にとどまる。2×105cells/ml以上の酵母添加量では外観最終発酵度と外観発酵度との差が5%以内のビールでなければ、5%以上の発酵度の上昇は避けられない。(公報第9頁左上欄第3行?右上欄第9行)
同じく特開平10-313850号公報(以下、「周知例2」という。)には、以下の(j)?(n)の技術事項が記載されている。
(j)【請求項1】酒類へ酵母を添加及び/又は酵母を酒類で希釈し、酒類中の酸化作用を有する物質を除去・低減させることを特徴とする酒類の品質劣化防止方法。・・・(【特許請求の範囲)】
(k)・・・一方では、酸化反応を遅らせるため酒類製品は低温下で保存したり、チルド流通、製品滞留月数の短縮など行っているが充分であるとは言えない。(段落【0002】)
(l)・・・三つとして、ビール製品中に酵母を添加し、酸素によるビール中の酸化を抑制し、経時的香味変化の防止(特公平7-40911号)がある。ビールは炭酸ガスを過剰に含む酒類であり、元々溶存酸素濃度は低く抑えられており、生成してきた品質劣化成分を酵母により代謝させることも主眼としている。(段落【0003】)
(m)本発明の実施の形態としては酒類へ酵母を添加及び/又は酵母を酒類で希釈するが、例えば・・・三つとして、酒類製品中に106 個/ml程度添加し、低温流通を行って生酵母により溶存酸素やそのほかの酸化作用を有する物質を除去する等が挙げられる。(段落【0011】)
(n)実施例1 まず、表1に示す17種の醸造酵母を用いYPD(酵母エキス、ペプトン、デキストロース)培地にて通気かくはん培養して菌体を得た。これら菌体を用い生酒製品中での増殖及び死滅の検討を行った。すなわち、容器入り清酒の生酒(アルコール濃度、15.3v/v%、清酒で火入殺菌処理を行っていないもの)に、酵母菌濃度が1×103 個/mlになるように添加し、5℃、10℃、20℃及び30℃の各温度で28日間保持した。経時的にサンプリングし、生菌数を通常のプレート(YPD培地使用)を用いる方法で測定した。・・・本試験に用いた17種の酵母のいずれもが、この条件では増殖して菌数を増加させることはなかった。30℃の条件では、用いた酵母いずれもが3日以内に死滅したが、5℃の条件ではほぼ菌の半数が生存した。したがって、低温と考えられる、0?10℃においては、容器中酵母存在で酒類中の溶存酸素やそのほかの酸化作用を有する物質の低減・除去に酵母の作用が持続する。一方、常温と考えられる10℃超?35℃では、酵母を添加及び/又は希釈して酒類中の酸化作用を有する物質、例えば溶存酸素を短期間で低減・除去した後、死滅する前に酵母を除去してもよい。酵母の酒類中での菌濃度は、低温では102 ?105 個/ml、常温では105 ?108 個/mlが好ましい。(段落【0013】?【0016】)

3.対比・判断

本件発明1は、製品発酵麦芽飲料として、その外観発酵度が、外観最終発酵度と外観発酵度の差を1%未満であるように調整し、かつ存在させる酵母を105?107cells/mlとなるように調整することにより、発酵麦芽飲料において、酵母を存在させて、酵母入り発酵麦芽飲料特有の香味を付与することができ、かつ、視覚的にも酵母の存在を確認できる程度の酵母の存在を保持することができ、しかも、飲料容器に充填後の酵母による発酵等の反応を実質的に抑制し、飲料容器に充填後の酸化臭等による香味の変化を防止し、充填時の品質を維持させた密封飲料容器充填低温流通用酵母入り発酵麦芽飲料を提供したものである。
これに対して、引用例1には、「容器に充填された、製品ビールとして、外観最終発酵度と外観発酵度との差が7%未満のものである、製品ビールとして発酵が実質的に終了しているビールに、102 ?106 cells/mlの濃度で酵母を混在させてなる酵母入りビール。」が記載されているといえる。(以下、「引用例発明」という。)
本件発明1と引用例発明とを対比すると、後者の「ビール」は、前者の「発酵麦芽飲料」に相当し、後者の「容器に充填」する際にも当然に密封充填するものと解されることから、両者は、「製品発酵麦芽飲料として、外観最終発酵度と外観発酵度の差が調整され、酵母を一定の濃度になるように調整された密封飲料容器充填酵母入り発酵麦芽飲料。」である点で一致し、
(1)製品発酵麦芽飲料として、外観最終発酵度と外観発酵度との差及び存在させる酵母の濃度に関して、前者が、「1%未満」及び「105?107cells/ml」と特定しているのに対して、後者が「7%未満」及び「102 ?106 cells/ml」である点、
(2)前者が、「低温流通用」と特定しているのに対して、後者が、そうでない点
で相違している。
そこで、上記相違点について検討する。

相違点(1)について、
本件発明1においては、本件明細書の段落【0010】に記載されたとおり、視覚的に酵母の存在を確認できる程度の105?107cells/mlの酵母を存在させても、酵母による更なる発酵が起こり難く、アルコール生成、炭酸ガスの発生などが殆ど起こらないように、製品発酵麦芽飲料として、外観最終発酵度と外観発酵度の差を1%未満とするものである。
これに対して、引用例1には、ビールに酵母を混在させて香味の経時変化を有意に防止することが記載され(上記記載事項(c))、上記記載事項(g)及び(h)並びに第2表乃至第4表によれば、ビール中の酵母濃度が高まるほど、また、保存温度が低いほど(30℃保存よりも20℃保存の方が)酸化臭の強さが低下し、香味の総合評価は向上することが見て取れる。
そして、引用例1には、外観最終発酵度と外観発酵度との差が好ましくは7%未満、さらに好ましくは5%以下であることが記載され(上記記載事項(e))、製品ビールとして発酵が実質的に終了したものを用いることによって、容器内でのビールの更なる発酵を防止し、従って容器充填時と消費者飲用時のビールの物性値、たとえばアルコール濃度、エキス濃度、二酸化炭素濃度の変化を最少に抑えられることが記載され(上記記載事項(d)及び(f))、酵母添加量が増加すると外観発酵度が上昇し、2×105cells/ml以上の酵母添加量では外観最終発酵度と外観発酵度との差が5%以内のビールでなければ、5%以上の発酵度の上昇は避けられないことが記載され、具体的に第8表によれば外観最終発酵度と外観発酵度との差が小さいほど、発酵度の上昇が少ないことが見て取れる。(上記記載事項(i))
ここで、 ビール中の酵母濃度及び製品ビールとして、外観最終発酵度と外観発酵度との差は、目的に応じて、当業者が適宜最適化するものであり、引用例発明においては、上記のように発明の目的からは外観最終発酵度と外観発酵度との差が少なく酵母濃度が高いことが望ましいことは明らかであることから、引用例発明において、酸化臭を抑えるために酵母濃度を可能な限り高めて105cells/ml以上とし、同時に、アルコール生成、炭酸ガスの発生を防止するために、製品ビールとして、外観最終発酵度と外観発酵度との差を可能な限り少なくして1%未満とすることに格別の困難性はなく、それを妨げる特段の理由も見出せない。
そして、本件発明1において、製品発酵麦芽飲料として、外観最終発酵度と外観発酵度の差が1%未満であるように調整し、存在させる酵母濃度を105?107cells/mlとすることに臨界的意義も見出せず、それにより当業者が予期し得ない効果を奏するものでもない。
なお、本件発明1と引用例発明は、酵母の濃度に関して、105?106cells/mlの濃度範囲で重複するものであるから、酵母の濃度に関しては実質的な相違はないということもできる。

相違点(2)について
本件発明1においては、本件明細書の段落【0013】に記載されたとおり、発酵に用いた酵母を加熱殺菌処理など行なわずに105?107cells/ml存在させていることから、比較的高温に置かれると酵母が死滅し、自己消化等による香味変化が避けられないところ、壜もしくは缶容器に充填した飲料を、低温で流通する系に載せることにより長期に充填直後の品質を維持するものであり、具体的に表【4】及び表【5】には、20℃の保存温度では、酸化臭はあまり問題にならず、10℃では全く問題とならないが、30℃になると、酸化臭が強くなることが示されている。
しかしながら、酸化反応を遅らせるために酒類製品をチルド流通させることは周知の技術である(必要なら、上記記載事項(k)参照)から、引用例発明において、酵母入り麦芽飲料を低温流通用に供することは、酒類製品に関する周知技術の適用にすぎず、当業者が適宜なし得ることである。
なお、前記のとおり、引用例1の第2表及び第3表によれば、保存温度が低いほど(30℃保存よりも20℃保存の方が)、酸化臭の強さが低下し、香味の総合評価は向上していることが見て取れるから、より低温で保存すれば酸化臭の強さが低下し、香味の総合評価は向上することは当業者が当然に期待するところであるし、酒類製品中に106 個/ml程度生酵母を添加し、低温流通を行って生酵母により溶存酸素やそのほかの酸化作用を有する物質を除去することも知られ(上記記載事項(m)参照)、低温と考えられる0?10℃においては、容器中酵母の作用が持続する(上記記載事項(n)参照)ことも知られている。
そして、本件発明1の視覚的にも酵母の存在を確認でき、充填後の酸化臭等による香味の変化を防止できるとする明細書記載の効果も、上記記載事項(c)、(d)、(g)及び(n)等引用例1及び周知技術から当業者が予期しうる効果にすぎない。

したがって、本件発明1は、本件の出願日前に頒布された引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、審判請求人は、審判請求書において「(1)引用例1に記載のものは、もともと、酵母を安定的に存在させるということを目的とするものではなく、『ビールの容器内での更なる発酵を極力防止した状態で、混在させた酵母の微小な発酵等の反応によって酸化臭の生成等を抑制して、香味の経時変化が有意に防止されているビールを提供するもの』であるから、『酵母の微小な発酵等の反応』の行えるような発酵度を保持していることが必要であり、『発酵の終了の程度は、外観最終発酵度と外観発酵度との差が10%未満、好ましくは7%未満、さらに好ましくは5%以下であると考えることができる。』といっても、第1表の未処理ビールの外観発酵度(%)83.9、外観最終発酵度は、87.8%であるから外観最終発酵度と外観発酵度との差が3.9%となっているように、外観最終発酵度と外観発酵度との差は、なお、少なくても3%以上の外観発酵度を有しており、少なくても数%の外観最終発酵度と外観発酵度との差を有していることが必要であり、引用例1の発明において、『外観最終発酵度と外観発酵度の差が1%未満』のようなものが対象とされていないことは明らかである、(2)周知例2には、上記記載事項(k)及び(n)の如く、チルド流通(低温流通)のような手段のみでは酸化反応などの製品の劣化が防止し得ないことまた、5℃という低温条件では、酵母の半数が死滅して、安定に生存した状態で存在し得えないことが示されているのに対して、本願発明においては、『外観最終発酵度と外観発酵度の差が、1%未満』という発酵度と、『低温流通(10℃以下)』という流通温度の組み合わせにより、『105?107cells/ml』という高濃度の酵母を存在させても長期間安定して発酵麦芽飲料中に酵母を存在させることを可能とし、かかる構成により、『酸化臭の程度が、0.0』というような格別の効果を達成しているものである、(3)引用例1に記載のものは、その奏される効果は、製品ビールとして発酵の実質的に終了しているビールに酵母を少量混在させて、ビールの容器内での更なる発酵を極力防止した状態で、混在させた酵母の微小な発酵等の反応によって酸化を抑制し、酸化臭の生成等を抑制して、香味の経時変化が有意に防止されているビールを提供するものであり、固定化酵母を存在させている構成があることや、『ビール中に混在させる酵母がばらばらの菌体からなるものであっても、固定化したものであってもよいことは前記したところであるが、ばらばらの菌体からなるものである場合には、本発明製品中に菌体が分散していて飲用時に違和感を与えることがあり、また酵母菌体の沈殿を待って飲用するという配慮が必要となる。』と記載されているように、本願発明のように『酵母を安定的に存在させる。』という作用効果を奏するものではない。」旨主張しているので検討する。

主張(1)について
引用例1には上記記載事項(c)のとり、発酵の実質的に終了しているビールに酵母を少量混在させて酵母の添加によってアルコール類のアルデヒド類への酸化を抑制して酸化臭の生成が抑制されることは記載されているが、「混在させた酵母の微小な発酵等の反応によって酸化臭の生成等を抑制する」(引用部の下線は当審によるものである。)ことは記載されていないから、請求人の主張は根拠がない。
また、引用例発明において、仮に、多少の発酵が起こっているとしても、本件発明1も、「外観最終発酵度と外観発酵度の差」が0ではなく、1%未満であるのだから、微少な発酵が起こっていないとはいえないものである。
なお、引用例発明も、本件発明1も共にビールに酵母を添加して酸化臭等による香味の経時的変化を防止するものである。
本件発明1は、引用例発明を更に改良して「外観最終発酵度と外観発酵度の差を1%未満」として飲料容器に充填後の酵母による発酵等の反応を実質的に抑制することにより更に香味の経時的変化を防止するものと解されるが、前記のとおり、引用例1には、外観最終発酵度と外観発酵度との差を小さくすることにより、容器内でのビールの更なる発酵を防止しすることが記載されており、たとえ、引用例1が、酵母の微小な発酵等の反応を行えるような発酵度を保持していることが必要であるものであったとしても、そのことが「外観最終発酵度と外観発酵度の差が1%未満」とすることを阻害するとまではいえない。

主張(2)について
上記記載事項(k)は、酵母を含有しない製品に関するものであり、上記記載事項(n)は、対象がビールではなくアルコール度の高い清酒であり、両者は対象製品が異なることから、これらの記載が阻害要因になるとはいえず、審判請求人の主張は採用できない。

主張(3)について
引用例1においても、105?106cells/ml程度の大量の酵母を添加してビール中に混在させ、酸化臭の生成を抑制するものであるから、酵母は安定的に存在しているものとするものと解されるし、本件明細書を検討しても、本件発明1において、予想外に酵母が安定的に存在しているものとも認められないことから、審判請求人の主張は採用できない。
なお、酵母を視覚的に確認できる程度存在させた、酵母入り飲料特有な香味を有するビールは周知のものにすぎず(必要なら上記記載事項(b)参照)、ビールに酵母を視覚的に確認できる程度安定的に存在させることは周知の課題にすぎない。

4. むすび

以上のとおり、本件発明1は、その出願前日本国内において頒布された上記の引用刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項に係る発明について判断するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-10-19 
結審通知日 2006-10-23 
審決日 2006-11-06 
出願番号 特願2002-158691(P2002-158691)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中島 庸子内田 淳子  
特許庁審判長 河野 直樹
特許庁審判官 鵜飼 健
鈴木 恵理子
発明の名称 酵母入り発酵麦芽飲料  
代理人 小澤 誠次  
代理人 廣田 雅紀  

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