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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1149236
審判番号 不服2004-12075  
総通号数 86 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-02-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-06-11 
確定日 2006-12-22 
事件の表示 平成10年特許願第234696号「液体噴射記録装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 2月29日出願公開、特開2000- 62178〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成10年8月20日の出願であって、平成16年4月21日付で拒絶査定がなされ、これに対し同年6月11日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年7月9日付で明細書についての手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。

第2 平成16年7月9日付の明細書についての手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成16年7月9日付の明細書についての手続補正を却下する。
[理由]
1.本件補正について
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、

「液体流路の一端をなすノズルからある一定流路区間は断面積が一定であり、噴射素子近傍の前記液体流路の断面積が前記ノズルの断面積よりも大きくなるように流路配列方向にノズル幅より流路幅が広げられている液体噴射記録装置において、前記噴射素子による液滴噴射後の液体のメニスカスの後退位置が前記一定流路区間内であることを特徴とする液体噴射記録装置。」

と補正された。
本件補正は、「流路幅が広げられている」ことについて「流路配列方向にノズル幅より」との限定を付したものであるから、特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の限縮を目的としたものに該当する。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について検討する。

2.引用例
原査定の備考中にて引用され、本願の出願日前である平成10年7月28日に頒布された特開平10-193615号公報(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載又は図示されている。

(ア)「バブル発生用ヒータを有するヒータ基板と、複数のノズル流路と共通液室を構成するチャンネル基板と、前記ノズル流路の一部を構成する合成樹脂層とからなり、前記ヒータは前記ノズル流路内に配置されたサーマルインクジェットヘッドにおいて、前記ノズル流路が前記ヒータからノズルまでの間で最も狭くなる部分の断面積と長さをそれぞれA1 、L1 とし、同様に前記ヒータから共通液室までの間で最も狭くなる部分の断面積と長さをそれぞれA2 、L2とするとき、
(L1 /A1 2 )/(L2 /A2 2 )≦5.0
となることを特徴とするサーマルインクジェットヘッド。」(特許請求の範囲【請求項1】)

(イ)「本発明は、バブル発生用ヒータから発生する熱によりインク中に気泡を発生させ、発生した気泡の圧力によりインクドロップをノズルから噴射させ、記録を行なうサーマルインクジェットヘッドおよび記録装置に関するものであり、特に、サーマルインクジェットヘッドのインク流路の構造に関するものである。
【従来の技術】従来より、記録装置に対して高速化と高画質化が求められている。インクをノズルから噴射させ、記録を行なうサーマルインクジェット方式の記録装置においても例外ではない。」(公報段落【0001】?【0002】)

(ウ)「Si(シリコン基板)をODE(異方性エッチング)で加工」(公報段落【0010】)

(エ)「図8,図9は、メニスカスが静止した状態でヒータを駆動した場合の、好ましいインクドロップとメニスカスの運動の状態の説明図である。・・・インクドロップ15の吐出とともに、バブル13が小さくなり、それとともに、メニスカス12が後退する。しかし、図9(E)に示すように、メニスカス12の後退はノズル流路に止まる。ついで、インクのリフィルが行なわれ、図9(F)に示すように、メニスカス12はもとの状態となり、次の駆動のための準備状態となる。」(公報段落【0019】)

(オ)「その後、図13(F)に示すように、メニスカス12は、通常の場合よりノズル流路内の奥まで後退し、ノズル流路の断面積が狭い部分を超えて、断面積の広い部分に到達してしまう。これによって毛管力が弱くなってしまい、インクの再供給が遅れ、噴射不可能となり、図15に示したような白ヌケの画質欠陥を起こしてしまうという問題がある。
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、クロストークによるメニスカスの振動を抑制し、フェースフラッドによる不吐出や、メニスカスが後退しすぎることによる不吐出を防止して、安定した噴射を行ない、白ヌケの画質欠陥をなくすことを目的とするものである。」(公報段落【0023】?【0024】)

(カ)「クロストークによりメニスカスが後退しすぎた場合でも、メニスカスが、ヒータからノズルまでの流路内で、チャネル基板で構成した断面積が最も小さい部分より後退することはなく、毛管力不足によるインクジェット再供給の遅れを起こすことなく、不吐出を防止することができる。」(公報段落番号【0031】)

(キ)「サーマルインクジェットヘッドは、チャネル基板4と、ポリイミド層9が形成されたヒータ基板8を接着剤により貼り合わせて作成されている。ヒータ基板8は、例えば、Siにより構成され、複数のヒータ1a、1b、1c、・・・、および、図示しない共通電極、個別電極、駆動回路等が形成されている。その上に、電極などを保護するための保護膜10が形成され、さらにその上に、合成樹脂層としてポリイミド層9が形成される。ポリイミド層9によって、ノズル流路の一部であるヒータ1a、1b、1cの上部からインクリザーバ前方部6までのピット2a、2b、2c、・・・が、例えば、エッチングなどにより形成される。一方、チャネル基板4も、Siで構成され、ノズル流路5a、5b、5c、・・・と、インクリザーバ前方部6を有するインクリザーバ7が、ODEで形成される。ODEで形成されたノズル流路は、三角柱状である。」(公報段落【0033】)

(ク)「図3のようなサーマルインクジェットヘッドでは、請求項1および3でいうところのノズル流路がヒータからノズルまでの間で最も狭くなる部分は斜線(1)の部分であり、同様にヒータから共通液室までの間で最も狭くなる部分は斜線の部分(2)である。よって、請求項1および3でいうところのA1 、L1 は破線でハッチングした(1)の部分の断面積と長さであり、同様にA2 、L2 は破線でハッチングした(2)の部分の断面積と長さである。」(公報段落番号【0038】)(審決注:( )付き数字は、公報では丸囲み数字であるが、表記の都合上書き改めてある。)

引用例1の(キ)、(ク)の記載と図面第3図を参照すれば、ノズル流路のA1,L1の破線でハッチングした区間、つまりノズルからL1の区間では断面積A1で一定である三角柱状であることが理解される。
このことと、引用例1の記載事項(エ)とあわせると、インクドロップとともに後退したメニスカスが、ヒーターからノズルまでの流路内で、断面積が最も小さい、つまり断面積A1である部分より後退しないことが理解される。

また、引用例1の図面第1,3,4図を参照すると、ノズル流路の断面積がヒータ近傍では三角柱状部分にピット分の断面積が加わった大きさとなっており、ピットがノズル流路の三角柱状部分に対し、ノズル流路配列方向に対し垂直な方向(下方)に位置していることから、実質的にノズル流路配列方向に対し垂直な方向にノズル流路の幅を広げていることが看取される。

よって、引用例1の記載(ア)?(ク)を含む引用例1の全記載及び図示からみて、引用例1には以下の発明が記載されているものと認める(以下、「引用発明1」という。)。

「ノズル流路がノズルからL1の区間では三角柱状で断面積A1であり、ヒータ近傍のノズル流路の断面積が前記断面積A1よりも大きくなるように、ノズル流路配列方向に垂直な方向にノズル流路の幅が広げられているサーマルインクジェット方式の記録装置において、インクドロップの吐出とともに後退したメニスカスが、ヒータからノズルまでの流路内で、断面積が最も小さいA1である部分より後退することはないサーマルインクジェット方式の記録装置。」

3.対比
そこで本願補正発明と引用発明1とを対比する。

引用発明1の「ノズル流路」、「ノズルからL1の区間」、「ヒータ」及び「サーマルインクジェット方式の記録装置」は、本願補正発明の「液体流路」、「ノズルからある一定流路区間」、「噴射素子」及び「液体噴射記録装置」に、それぞれ相当する。
また、引用発明1の「ノズル」がノズル流路の一端をなしていることも自明であるから、引用発明1の「ノズル」と本願補正発明の「ノズル」とは同じものである。
また、引用発明1では、ノズルと三角柱状のノズル流路とは同じ断面積A1で、同じ幅を有していることから、引用発明1と本願補正発明では、ヒータ近傍の液体流路(ノズル流路)の断面積がノズルの断面積よりも大きくなるようにノズル幅より流路幅が広げられている点では共通している。
さらに、引用発明1の「インクドロップの吐出とともに後退したメニスカスが、ヒータからノズルまでの流路内で、断面積が最も小さいA1である部分より後退することはない」ことは、本願補正発明の「噴射素子による液滴噴射後の液体のメニスカスの後退位置が前記一定流路区間内であること」と同様であることも明らかである。

してみれば両者は、

「液体流路の一端をなすノズルからある一定流路区間は断面積が一定であり、噴射素子近傍の前記液体流路の断面積が前記ノズルの断面積よりも大きくなるようにノズル幅より流路幅が広げられている液体噴射記録装置において、前記噴射素子による液滴噴射後の液体のメニスカスの後退位置が前記一定流路区間内である液体噴射記録装置。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点]
流路幅を広げるにあたり、本願補正発明では流路配列方向に流路幅が広げられているのに対し、引用発明1では流路配列方向に垂直な方向に広げられている点。

4.判断

[相違点]について

本願発明において、流路面積をヒータ近傍において広げることについて一定の意義があるとしても、その流路幅の広げる方向を流路配列方向としたことによる技術的意義は不明である。
請求人はこの点につき、平成16年7月9日付の審判請求の理由についての手続補正書第3頁下から7行目?第4頁第3行目にて以下のように主張する。

「原査定の備考において、上述のように、本願明細書段落0013に記載した先行技術である特開平10-193615号公報(以下、単に先行技術と呼ぶ)の図8,図9に、液滴噴射後のメニスカス後退位置がノズル付近の一定流路区間内で収まっていることが記載されているとしている。
しかし、先行技術は流路配列方向についての流路幅はノズルから噴射素子近傍まで、一定である。すなわち、先行技術では噴射素子近傍の流路配列方向の流路幅を広げていない。そのため、流路抵抗が大きく、液体の再供給が遅く、また液滴の吐出時の液滴量などについても高精細の印字には対応できないものであった。そのため、引用文献Aや本願補正発明のように噴射素子近傍の流路幅を流路配列方向に広げ、流路抵抗を小さくして液体の再供給性能を向上させているのである。」

しかし、この主張のごとく、噴射素子近傍を流路配列方向に垂直な方向ではなく、流路配列方向に広げたことによる技術的意義を裏付ける記載は本願の明細書中に一切無い。
むしろ、例えば本願明細書段落【0019】には、

「この液体流路3となる溝は、図1に示すように、ノズル5から一定の区間は断面積が一定の狭隘流路部21を構成し、噴射素子6近傍では、液体流路3の断面積がノズル5の断面積よりも大きくなるように、少なくともノズル5の配列方向に流路幅が広げられている幅広流路部22を構成している。なお、ここでは図2に示したように、液体流路3は高さが一定であるが、これに限らず、噴射素子6の存在する幅広流路部22についてさらに高さ(深さ)方向にも広げて断面積を増加させてもよい。」

との記載のごとく、流路配列方向と共に流路配列方向に垂直な方向に広げることによってもメニスカスの後退位置が一定流路区間内である作用を奏し得ることを示唆する記載が存在する。
さらに、引用例1の記載事項(オ)、(カ)を参照すれば、引用発明1において流路の幅を広げる方向は本願補正発明とは異なるものの、本願補正発明と同様に噴射素子による液滴噴射後の液体のメニスカスの後退位置が一定流路区間内とすることにより、毛細管力の低下によるインクの再供給の遅れを防止するという本願補正発明と同様の効果を奏していることも明らかである。
また、サーマルインクジェット方式の記録装置において、流路をノズル近傍で同じ幅とし、ヒータ近傍で流路配列方向に流路幅を広げることも原審で引用した特開平5-185592号公報にみられるがごとく一般に行われている周知技術である。
してみれば、流路の幅を広げる方向として流路配列方向、流路配列方向に垂直な方向のいずれを採用してもメニスカスの後退位置が一定流路区間内とするためには同様な作用をなすと解することを妨げる事情はなく、引用発明1において流路の幅を広げるにあたり、その方向をいずれとするかは当業者が選択し得る設計事項の範疇である。

したがって、本願補正発明は引用例1記載の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により独立して特許を受けることができない。

5.補正却下の決定のむすび

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本件審判請求についての当審の判断

1.本願発明の認定
平成16年7月9日付の明細書についての手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項5に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成16年3月5日付で補正された請求項5に記載された以下のとおりのものである。

「液体流路の一端をなすノズルからある一定流路区間は断面積が一定であり、噴射素子近傍の前記液体流路の断面積が前記ノズルの断面積よりも大きくなるように流路幅が広げられている液体噴射記録装置において、前記一定流路区間の体積が噴射される液滴の体積より大きいことを特徴とする液体噴射記録装置。」

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願日前である平成5年7月27日に頒布された特開平5-185592号公報(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載又は図示されている。

(ケ)「液路内の1つの面に電気抵抗素子を有し、該電気抵抗素子に通電することにより気泡を発生し、前記電気抵抗素子の面にほぼ平行方向にインクを吐出するものであり、前記液路が、吐出口に隣接して、当該断面積がほぼ一定の部分があること、該一定の部分の後方において、当該断面積が吐出口の2倍以上に広がっており、当該領域に前記電気抵抗素子があること、前記断面積がほぼ一定の後端から、前記電気抵抗素子の先端までの長さAが、吐出口の高さPhの1/2より大きいこと、および前記吐出口から前記電気抵抗素子までの最短距離が、前記吐出口の高さPhの半分と前記断面積一定部分の長さとの和の2倍以内であること、を特徴とする液体噴射ヘッド。」(特許請求の範囲【請求項1】)

(コ)「【産業上の利用分野】本発明は、特には熱エネルギーを利用して吐出を行う液体噴射ヘッドに関する。本発明は、液体を多種の目的のために噴射する装置に適用可能で、好ましくは、プリンタおよびその複合機器に最適である。」(公報段落【0001】)

(サ)「図12は実施例8にかかる噴射ヘッドの液路を示す模式的平面図である。本実施例で用いるヘッドは、シリコンウエハに電気抵抗素子5および不図示の電極をスパッタリングにより形成し、SiO2 保護膜を約1μm成膜した上に、感光性樹脂によって隔壁7を形成した後、ガラス天板(不図示)を接着し、各ヘッドを切断により取り出したものである。なお切断面は吐出口面と平行である。2は吐出口、Cは吐出口に隣接した液路断面積が一定の部分で、その長さls は15μmである。吐出口サイズは、幅20μm,高さ20μmである。dとしては吐出口幅20μmをとる。電気抵抗素子5のサイズは25μm×30μmであり、電気抵抗素子5の前縁(吐出口側縁)から吐出口2までの長さは35μmである。PWは電気抵抗素子5がある部分の液路幅で45μmである。したがって、電気抵抗素子の部分の液路断面積は、吐出口隣接領域の液路断面積の2.25倍である。液路は電気抵抗素子付近で一定の断面形状45μm×20μmである。このい部分の長さは80μmである。その後方(共通液室側)では、再び液路断面積が30μm×20μmに減少している。液路全長は170μmである。」(公報段落【0091】)

(シ)「本例および、比較例として、ls が2.5μm,10μm,20μm,25μm,30μm,35μm,40μmであるヘッドの吐出速度υと吐出体積Vd の値を図13(a)に、その時のls /(ρυd2 /η)の値を図13(b)に示す。」(公報段落【0093】)

引用例2の記載事項(サ)と図面第12図より、Cは吐出口に隣接した液路断面積が一定の部分でその長さがls、吐出口サイズが、幅20μm,高さ20μmであることから、吐出口に隣接した液路断面積が一定の部分の体積は、

20(μm)×20(μm)×ls(以下、「式1」とする。)

で、得られることが理解される。

また、引用例2の記載事項(シ)及び図面第13図を参照すると、横軸のls(μm)が25μmの点において、インクの吐出体積は7.8×10-9cm3程度、少なくとも8.0×10-9cm3を越えない値であることが看取される。

ここで、lsが25μmである場合、つまりインクの吐出体積が7.8×10-9cm3程度、少なくとも8.0×10-9cm3を越えない値の場合について、吐出口に隣接した液路断面積が一定の部分の体積を求めると、前記「式1」のlsに25μmを代入すればよいので、その体積は、

20(μm)×20(μm)×25(μm)=10000(μm3)

であり、単位の換算により、
10000(μm3)=10×10-9(cm3)

となる。

よって、引用例2の記載(ケ)?(シ)を含む全記載及び図示からみて、引用例2には以下の発明が記載されているものと認める(以下、「引用発明2」という。)。

「液路が、吐出口に隣接して液路断面積がほぼ一定の部分があり、該一定の部分の後方において液路断面積が吐出口の2倍以上に広がった領域があり、この領域に電気抵抗素子がある、液体噴射ヘッドを用いたプリンタにおいて、液路の吐出口に隣接した液体断面積が一定の部分の体積が10×10-9(cm3)であり、そのときの吐出体積が8.0×10-9(cm3)を越えない値である液体噴射ヘッドを用いたプリンタ。」

3.対比・判断

そこで、本願発明と引用発明2とを対比する。

引用発明2の「液路」、「吐出口」、「電気抵抗素子」、「吐出体積」及び「液体噴射ヘッドを用いたプリンタ」は、本願発明の「液体流路」、「ノズル」、「噴射素子」、「噴射される液滴の体積」及び「液体噴射記録装置」にそれぞれ相当する。
また、引用発明2の「液路が、吐出口に隣接して液路断面積がほぼ一定の部分があり、該一定の部分の後方において液路断面積が吐出口の2倍以上に広がった領域があり、この領域に電気抵抗素子がある」ことは、本願発明の「液体流路の一端をなすノズルからある一定流路区間は断面積が一定であり、噴射素子近傍の前記液体流路の断面積が前記ノズルの断面積よりも大きくなるように流路幅が広げられている」ことと等しく、引用発明2の「液路断面積がほぼ一定の部分」は、本願発明の「一定流路区間」に相当している。

一方、引用発明2の、液路の吐出口に隣接した液体断面積が一定の部分の体積は10×10-9(cm3)であり、そのときの吐出体積が8.0×10-9(cm3)を越えない値であることから、液路の吐出口に隣接した液体断面積が一定の部分の体積は、吐出体積よりも常に大きいといえる。
すると、引用発明2の「液路の吐出口に隣接した液体断面積が一定の部分の体積が10×10-9(cm3)であり、そのときの吐出体積が8.0×10-9(cm3)を越えない値である」ことは、本願発明の「一定流路区間の体積が噴射される液滴の体積より大きいこと」を包含する。

してみれば、両者の間の発明特定事項に差異はなく、本願発明と引用発明2とは同一であるので、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない。

なお、原審において通知された拒絶の理由は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、としたものだが、前記引用例2についての認定は原審と当審で変わるところはなく、実質的に特許法第29条第1項第3号の規定による拒絶の理由が通知されていたものと認める。

第4 むすび

本件補正は補正却下されなければならず、本願発明は上記引用例2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-10-20 
結審通知日 2006-10-25 
審決日 2006-11-07 
出願番号 特願平10-234696
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B41J)
P 1 8・ 113- Z (B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 時男  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 島▲崎▼ 純一
尾崎 俊彦
発明の名称 液体噴射記録装置  
代理人 柳澤 正夫  

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