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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F17C |
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管理番号 | 1149277 |
審判番号 | 不服2004-6230 |
総通号数 | 86 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1996-08-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2004-03-29 |
確定日 | 2006-12-21 |
事件の表示 | 平成 7年特許願第 51779号「ガスボンベ」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 8月30日出願公開、特開平 8-219393〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成7年2月15日に出願されたものであって、平成16年2月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年3月29日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものであって、その請求項1,2に係る発明は、平成18年7月13日付け手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1,2に記載されたものと認められるところ、請求項1は以下のとおりである(以下、本願発明という)。 【請求項1】全体として胴部とそれに続く鏡板部を有する形状に形成され、ガスバリア性を有する内殻と、該内殻を覆うように設けられ、炭素繊維のヘリカル巻とフープ巻が併用された耐圧性のFRP製外殻とを有するガスボンベであって、前記外殻を構成するFRPのM値(繊維方向における破断伸度/繊維方向に対して直角の方向における破断伸度)が2以下であり、前記外殻を構成するFRPは、炭素繊維の繊維体積含有率が40%以上70%以下であり、かつ、前記外殻を構成するFRPの繊維方向に対して直角方向の破断伸度が1.2%以上であることを特徴とするガスボンベ。 2.引用文献の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物である特公平5-88665号公報(以下、「引用文献1」という)には、以下の事項(a)?(c)が記載されている。 (a)即ち、本発明は、プラスチツク製内筒の外周を補強繊維シートで覆つた後、その上にフイラメントワインデング法にて繊維強化プラスチツク層を形成せしめることを特徴とする複合材料ボンベの製造方法である。(公報第3頁第5欄第1行?第5行) (b)マンドレルとなるプラスチツク製内筒の素材はボンベの内容物により選択する。一般にはポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66等)、ポリオレフイン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ABS樹脂等より選ばれ、特にLPGの場合にはポリエステルやナイロンが好ましい。ガス透過率の問題から、低ガス透過率のプラスチツクと複層化することも好ましい。例えば炭酸ガス用のボンベに対してはポリエステルのマンドレルの中間層にポリ塩化ビニリデンの薄層を介在させるのが好ましい。また、ガス透過率を低減させる目的で、ブロー成形の吹込用ガスとしてフツ素を含む窒素ガスを使用し、プラスチツク製内筒の内面をフツ素化処理してもよい。(公報第3頁第5欄第23行?第38行) (c)第1図は本発明方法による複合材料ボンベの一例を示す断面図である。図中1はブロー成形等により形成されたプラスチツク内筒(フイラメントワインデングのマンドレルとなる)、2はその胴部に巻回した補強繊維シート層、3はスパイラル巻きフイラメントワインデング層、4はボンベのノズル、5はガス透過性を改善するための金属箔(無くともよい)であり、6はボンベの最外層となるフープ巻きフイラメントワインデング層である。(公報第4頁第7欄第27行?第36行) 3.対比 本願発明と、引用文献1に記載された発明とを対比する。 引用文献1に記載された発明の「プラスチック製内筒」「スパイラル巻きフイラメントワインデング」「フープ巻フイラメントワインデング層」「繊維強化プラスチック層」は本願発明の「内殻」「ヘリカル巻」「フープ巻」「耐圧性のFRP製外殻」に、それぞれ相当する。また、引用文献1の「プラスチック製内筒」は(b)の記載からみて、ガスバリア性を有するものであると認められ、第1図からみて、本願発明でいう「全体として胴部とそれに続く鏡板部をを有する形状に形成」されていることは明らかである。 したがって、本願発明と、引用文献に記載された発明とは、 <一致点> 全体として胴部とそれに続く鏡板部を有する形状に形成され、ガスバリア性を有する内殻と、該内殻を覆うように設けられ、炭素繊維のヘリカル巻とフープ巻が併用された耐圧性のFRP製外殻とを有するガスボンベ。 で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1> 本願発明が、外殻を構成するFRPのM値(繊維方向における破断伸度/繊維方向に対して直角の方向における破断伸度)が2以下であるのに対し、引用文献には、「繊維強化プラスチック層」のM値についての記載がない点。 <相違点2>本願発明では、外殻を構成するFRPの炭素繊維の繊維体積含有率が40%以上70%以下であるのに対し、引用文献には、「繊維強化プラスチック層」の炭素繊維の繊維体積含有率についての記載がない点。 <相違点3>本願発明では、外殻を構成するFRPの繊維方向に対して直角方向の破断伸度が1.2%以上であるのに対し、引用文献には、「繊維強化プラスチック層」のFRPの繊維方向に対して直角方向の破断伸度についての記載がない点。 4.判断 上記<相違点1>について検討する。 当審において平成18年5月18日付けで通知した拒絶理由通知書において、「M値」の技術的意味及び、「M値」が2以下としたことによる効果について不明である点を指摘したところ、意見書において、M値は90度クラックの抑制パラメータであって、この値を2以下としたことによって、90度クラックの発生を抑制できる旨の主張がなされている。 しかしながら、ガスボンベのように様々な方向に引張力が作用する構造では、方向によって強度差を有する材料を用いるよりも、いずれの方向にも強度を有する材料を用いた方が強度的に優れていることは明らかである。言い換えれば、最も強度の大きい方向と最も強度の小さい方向の比は小さい(1に近い)ほど優れているということができる。 してみれば、FRPをガスボンベに用いる場合、FRPにおける強度の大きい方向である繊維方向の強度と、強度の小さい方向である繊維方向に対して直角方向の強度との比をより小さくすることは、当業者であれば当然行うべき事項であって、その比の値をどの数値以下とするかに格別の技術的な意味はない。 したがって、本願発明において、外殻を構成するFRPのM値(繊維方向における破断伸度/繊維方向に対して直角の方向における破断伸度)を2以下としたことは、格別の事項とは認められない。 上記<相違点2>について検討する。 本願発明では、繊維体積含有率を40%以上70%以下に限定しているが、この数値は、従来から周知の材料であるFRPにおいて一般的なものであり(例えば、特開平6-198792号公報には、「繊維の配合比は40%以上、80%以下、望ましくは45%以上、60%以下とする。」との記載があり、特開平6-888号公報には「繊維体積含有率60%」との記載がある。)、本願発明の「外殻」を構成するFRPにおいて繊維体積含有率を限定したことは、格別の事項とは認められない。 上記<相違点3>について検討する。 外殻を構成するFRPはガスボンベを構成する要素であり、ガスボンベが内部からの圧力に耐え得る強度が必要である以上、いずれの方向にもある程度以上の破断伸度は当然必要なものであり、FRPが繊維方向に対して直角方向において強度が小さいことが一般に知られていることを考慮すれば、「繊維方向に対して直角方向」を特定して、破断伸度を1.2%以上のものに限定したことは、格別の事項とは認められない。 そして、本願発明の効果は、引用文献に記載された発明及び周知技術から、当業者であれば予測できる程度のものであって格別なものではない。 5.むすび したがって、本願発明は、引用文献に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2について検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2006-10-11 |
結審通知日 | 2006-10-13 |
審決日 | 2006-11-10 |
出願番号 | 特願平7-51779 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F17C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 一ノ瀬 覚 |
特許庁審判長 |
寺本 光生 |
特許庁審判官 |
中西 一友 宮崎 敏長 |
発明の名称 | ガスボンベ |
代理人 | 伴 俊光 |