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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1149460
審判番号 不服2004-8653  
総通号数 86 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-11-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-04-27 
確定日 2006-12-28 
事件の表示 平成 7年特許願第114649号「ファクシミリ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年11月22日出願公開、特開平 8-307591〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成7年5月12日の出願であって、平成16年3月18日付で拒絶査定がされ、これに対し、同年4月27日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明は、平成15年9月25日付の手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「原稿読取り部に原稿を通過させる原稿通過部歯車群と、画像記録部のプラテンローラを駆動し、且つ連続状のインクシートを搬送させる記録部歯車群と、前記画像記録部の手前の搬送準備位置までカット用紙を送る給紙部歯車群と、前記搬送準備位置から前記画像記録部を通過させて排紙部までカット用紙を搬送する用紙搬送・排紙部歯車群とを備え、所定のモードに合わせて制御モータの一方向への所定角度の回転により所定位相にて停止させた切換えカムにて、前記原稿通過部歯車群、記録部歯車群及び給紙部歯車群に個別に動力伝達する複数の遊星歯車を移動させるための各レバーの回動角度を規制し、前記制御モータの他方向への回転により、前記所定のモードに対応する前記複数の歯車群を選択的に駆動するように構成し、記録モード及びコピーモード時には、前記記録部歯車群を駆動させるように、所定の遊星歯車のレバーを位置させるべく前記切換えカムの停止位置を設定し、モード切り換え、給紙モード及び排紙モード時には、前記記録部歯車群を駆動させないように、所定の遊星歯車のレバーを位置させるべく前記切換えカムの停止位置を設定したことを特徴とするファクシミリ装置。」

3.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された、特開昭61-116570号公報(以下、「第1引用例」という。)には、次の事項が図面と共に記載されている。

(a)「本発明はファクシミリやプリンター等に使用される熱転写記録装置に於けるインクシートの供給ロール及びインクシート巻き取りロールを1個のモーターにより駆動可能にした装置に関するものである。」(1頁左下欄17行?右下欄1行)
(b)「第1図は本発明に係る装置の概略説明図であって、供給ロールlに巻き回されたインクシート2と記録材ロール3に巻き回された記録材(紙・プラスチックシート等)4が記録画情報に応じて発熱可能な発熱体5を有するサーマルヘッド6とプラテンローラ7の間を密着通過し得る如く構成され、このとき所定の記録画情報に応じた発熱体5の発熱によって、インクシート2のインクが記録材4へ剥離溶着されて記録画が熱転写される如く構成されている。また熱転写後は分離ローラ8によってインクシート2と記録材4が分離され、分離された一方のインクシート2は巻き取りロール9に巻き取られ、他方の記録材4はカッター10によって記録画後端からカットされて所定部から排出される。更にカット後は記録材4のカット先端が発熱体5の付近に来るように記録材4及びインクシート2を巻き戻して次の熱転写スタンバイ状態となる如く構成されている。
上記装置の駆動に当り、プラテンローラ7への駆動力はモーター14により減速系を介して伝達され、また供給ロール1及び巻き取りロール9への駆動力は前記モーター14の駆動と共に駆動し得るモーター15から夫々一方向クラッチ16,17を介し、更には減速系及び一定以上の負荷が掛かるとすべりを生ずるスベリクラッチを介して伝達されるように構成されている。」(2頁左上欄9行?右上欄14行)
(c)「次に上記の如く構成された装置の作用について第2図のタイミングチャートを参照して説明する。
記録が開始されるとモーター14が矢印a方向へ回転し、インクシート2と記録材4が前方へ搬送されると共にサーマルヘッド6の発熱体5によって記録材4に所定記録画が記録される。これと同時にモーター15も矢印b方向へ回転し、一方向クラッチ17を介してその駆動力が巻き取りロール9へ伝達され、該ロール9が矢印c方向へ回転することによってインクシート2が巻き取られる。」(2頁右下欄6行?15行)
(d)「次に一枚分の記録が終了すると記録材4は記録画後端がカッター10のカット位置を過ぎるまで上記と同様に搬送されると共にインクシート2も同速度で巻き取りロール9に巻き取られる。
記録材4が記録画後端からカットされた後はモーター14が-a方向へ逆回転し、記録材4のカット先端が発熱体5の位置付近へ来るように記録材4及びインクシート2を巻き戻す。これは記録材4がカットされた位置に於いてカット先端から発熱体5に至る部分には何も記録されていないので次の記録に際して先端余白部分をなくす為である。」(3頁左上欄8行?18行)
(e)「モーター14が-a方向へ逆回転すると同時にモーター15も-b方向へ逆回転し、前記b方向へ回転したときとは逆に巻き取りロール9への駆動力は一方向クラッチ17によって遮断され、且つ供給ロール1へは一方向クラッチ16を介して伝達されて該ロール1が矢印d方向へ回転する為にインクシート2も巻き戻される記録材4と同速度で巻き取られる。」(3頁左上欄19行?右上欄6行)
(f)第1引用例の第2図には、記録、紙送り、カット、及び巻戻しのそれぞれの状態に応じて、プラテン駆動用モータ及び供給ロール・巻取ロール駆動用モータの順方向及び逆方向の回転及び回転停止、巻取ロール及び供給ロールの順方向及び逆方向への駆動及び駆動停止、カッターの動作、並びにインクシートと記録紙の順方向及び逆方向への搬送及び搬送停止を行う動作を示したタイミングチャートが開示されている。

4.対比
(ア)第1引用例に記載された発明(以下、「引用発明」という。)においては、記録材ロール3に巻き回された紙等の記録材4が記録画情報に応じて発熱可能な発熱体5を有するサーマルヘッド6とプラテンローラ7の間を密着通過し得る如く構成されており(前掲(b))、「サーマルヘッド6」及び「プラテンローラ7」を合わせたものは、本願発明の「画像記録部」に相当する。
(イ)引用発明においては、モーター14によりプラテンローラ7を駆動すると共に、モーター15から一方向クラッチ16,17を介して供給ロール1及び巻き取りロール9に駆動力を伝達することにより、前記供給ロール1に巻き回されたインクシート2を前記巻き取りロール9に巻き取っており(前掲(b))、したがって引用発明は、本願発明の「画像記録部のプラテンローラを駆動し、且つ連続状のインクシートを搬送させる」手段に相当する構成を備えている。
(ウ)引用発明においては、記録材4が記録画後端からカットされた後、モーター14が逆回転し、紙等の記録材4のカット先端がサーマルヘッド6の発熱体5の位置付近へ来るように記録材4を巻き戻して次の熱転写スタンバイ状態となる如く構成されており(前掲(d)及び(b))、本願発明の「画像記録部の手前の搬送準備位置まで用紙を送る」手段に相当する構成を備えている。
(エ)引用発明においては、記録材4がサーマルヘッド6とプラテンローラ7の間を密着通過する際、インクシート2のインクが前記記録材4へ剥離溶着されて記録画が熱転写され、分離ローラ8により前記インクシート2及び記録材4が分離されると、前記記録材4はカッター10によって記録画後端からカットされて所定部から排出される構成となっており(前掲(b))、前記「所定部」は、本願発明の「排紙部」に相当する。
したがって、引用発明は、本願発明の「搬送準備位置から画像記録部を通過させて排紙部まで用紙を搬送する」手段に相当する構成を備えている。
(オ)引用発明は、ファクシミリ等に使用される装置であるから(前掲(a))、本願対象と相違しない。

以上を踏まえ、本願発明と引用発明を対比すると、両者は、
「画像記録部のプラテンローラを駆動し、且つ連続状のインクシートを搬送させる手段と、前記画像記録部の手前の搬送準備位置まで用紙を送る手段と、前記搬送準備位置から前記画像記録部を通過させて排紙部まで用紙を搬送する手段とを備えたことを特徴とするファクシミリ装置。」である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1] 本願発明が、「原稿読み取り部に原稿を通過させる原稿通過部歯車群」を備えており、さらに、プラテンローラの駆動及びインクシートの搬送を行う「記録部歯車群」、搬送準備位置までの用紙の搬送を行う「給紙部歯車群」、及び搬送準備位置から画像記録部を通過して排紙部までの用紙の搬送を行う「用紙搬送・排紙部歯車群」を備えているのに対し、引用発明では、前記「原稿通過部歯車群」、「記録部歯車群」、「給紙部歯車群」、及び「用紙搬送・排紙部歯車群」に相当する構成を備えていない点。

[相違点2] 本願発明においては、給紙、搬送、画像記録及び排紙の対象となる用紙として、カット用紙が用いられているのに対し、引用発明においては、カット用紙でなく、ロール状の記録材が用いられている点。

[相違点3] 本願発明が、「所定のモードに合わせて制御モータの一方向への所定角度の回転により所定位相にて停止させた切換えカムにて、前記原稿通過部歯車群、記録部歯車群及び給紙部歯車群に個別に動力伝達する複数の遊星歯車を移動させるための各レバーの回動角度を規制し、制御モータの他方向への回転により、所定のモードに対応する複数の歯車群を選択的に駆動するように構成し」、「記録モード及びコピーモード時には、前記記録部歯車群を駆動させるように、所定の遊星歯車のレバーを位置させるべく前記切換えカムの停止位置を設定し、モード切り換え、給紙モード及び排紙モード時には、前記記録部歯車群を駆動させないように、所定の遊星歯車のレバーを位置させるべく前記切換えカムの停止位置を設定し」ているのに対し、引用発明は、そのような構成を備えていない点。

5.判断
上記相違点について検討する。

[相違点1について]
原稿を読み取るための原稿搬送機構を備えたファクシミリ装置は周知である。
また、引用発明は、モーターによりプラテンローラ、巻き取りロール等を駆動して、インクシートを前方に搬送するとともに、記録材の給紙、排紙を含む所定位置への搬送を行っている。
さらに、ファクシミリ装置において、装置を構成する個々の部位を駆動するための複数の歯車群を設けることは、当業者に周知の技術である。例えば、原査定の拒絶の理由に引用された特開平4-280759号公報(以下、「第2引用例」という。)には、「10は、分離ローラで、その一端部にギヤ11が、そのボス部に設けられたワンウエイクラッチ11aを介して、固設されており、ギヤ11がC方向に回転する時、分離ローラ10は分離パッド12と対で、原稿13を1枚ずつ分離して給紙する。14は、センサローラで、その一端部にギヤ15が固設されており、原稿13を副走査方向に搬送する。16は、密着型ラインセンサで、原稿13の文字情報を読み取り、電気信号に変換するものである。
次に、駆動伝達系について説明する。ステッピングモータ1の回転軸に固設されたギヤ2の回転は、ギヤ17,ギヤ18,ギヤ19,ギヤ19’を介し、ギヤ15に伝達され、センサローラ14を回転駆動し、分離ローラ10はギヤ15,ギヤ20,ギヤ41を介し、ギヤ11が回転することで回転駆動される。」(段落【0015】?【0016】)、及び「プラテンローラ4の回転駆動には、ギヤ2の回転をギヤ17’,ギヤ18’,ギヤ21を介し、ギヤ5に伝達する経路と、ギヤ18’,ギヤ22,ギヤ23を介し、ギヤ5に伝達する経路の、2つの伝達経路がある。」(段落【0017】)と記載されており、原稿読み取り部に原稿を搬送するためのローラをモータにより回転駆動するための歯車群、及びプラテンローラをモータにより回転駆動するための歯車群がそれぞれ開示されている。
したがって、引用発明に上記周知技術を適用して、原稿、インクシート、及び記録用紙を搬送するための複数の歯車群を設けることは、当業者が容易に想到し得たものと認められ、前記複数の歯車群のそれぞれにどのような機能を持たせるかは、当業者が必要に応じて適宜選択し得る設計事項に過ぎない。

[相違点2について]
ファクシミリ装置において、記録用紙としてカット用紙を用いることは、普通に行われていることであり、引用発明において、ロール状の記録材に代えてカット用紙を用いることは、阻害要因もなく当業者が必要に応じて適宜選択し得る設計事項にすぎない。

[相違点3について]
ファクシミリ装置において、モータの一方向への回転によりカムを回転駆動し、該カムの回転位置が示す複数のモードに応じて、駆動力の伝達経路及び伝達先を切り換えること、及び前記モータの他方向への回転により、前記各モードに応じて複数の搬送手段を選択的に駆動することは、当業者に周知の技術である。例えば、前掲第2引用例には、「本発明では、前記モータが逆回転すると、前記カムが回転駆動され、前記伝達手段における駆動力の伝達経路や伝達先を切り換える。この時、前記カムの回転位置によって、切り換え状態が異なっている。(途中省略)また、前記カムが「受信モード」の位置にあるときは、前記伝達手段において、駆動力が前記第1の搬送手段のみに伝達され、前記第2の搬送手段,分離・供給手段及び切断手段には伝達されないような切り換え状態となっている。従って、受信動作時では、前記モータが正回転すると、前記第1の搬送手段のみが駆動されることになる。(途中省略)また、前記カムが「コピーモード」の位置にあるときは、前記伝達手段において、駆動力が前記第1及び第2の搬送手段,分離・供給手段のみに伝達され、前記切断手段には伝達されないような切り換え状態となっている。従って、コピー動作時では、前記モータが正回転すると、前記第1及び第2の搬送手段,分離・供給手段のみが駆動されることになる。」(段落【0006】、【0008】、【0010】)と記載されている。
さらに、ファクシミリ装置において、複数の遊星歯車のそれぞれと他の歯車とのかみ合わせを、モードに応じて複数のレバーの位置をカムで規制することにより制御することも、当業者に周知の技術である。例えば、前掲第2引用例には、「図4は図1のファクシミリ装置における受信モード時の動作状態を示す側面図である。図4において、送信切り換えアーム30は、ギヤ19’とギヤ15が噛み合わない位置に、受信切り換えアーム33は、ギヤ21とギヤ5が噛み合う位置に、切断切り換えアーム35は、ギヤ23とギヤ24,ギヤ5が噛み合わない位置に、それぞれ、カム25により規制されている。この状態を「受信モード」と呼ぶ。(途中省略)図6は図1のファクシミリ装置におけるコピーモード時の動作状態を示す側面図である。図6において、送信切り換えアーム30は、ギヤ19’とギヤ15が噛み合う位置に、受信切り換えアーム33は、ギヤ21とギヤ5が噛み合う位置に、切断切り換えアーム35は、ギヤ23とギヤ24,ギヤ5が噛み合わない位置に、それぞれ、カム25により規制されている。この状態を「コピーモード」と呼ぶ。」(段落【0026】、【0028】)と記載されており、前記「ギヤ19’」及び「ギヤ21」が、他のギヤとのかみ合わせが制御される遊星歯車として機能し、前記「送信切り換えアーム30」及び「受信切り換えアーム33」が、カムにより位置が規制されるレバーとして機能している。
引用発明においても、記録、紙送り等の各モードに応じて、装置の各部位の動作及び動作の停止を制御しており(前掲(f))、引用発明に上記周知技術を適用して、前記各部位への動力伝達の制御を、モードに応じて回転させたカムにより複数のレバーの動きを規制して、複数の遊星歯車と歯車群とのかみ合わせを制御することにより行うことは、当業者が容易に想到し得たものと認められ、前記複数のモードをどのように設定し、また各モードにおいてそれぞれの歯車群の駆動及び駆動停止をどのように制御するかは、必要に応じて当業者が適宜決定し得る設計事項にすぎない。

そして、本願発明の奏する作用効果も、引用発明及び周知技術の奏する作用効果から当業者が予測できる以上の格別のものとも認められない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-10-25 
結審通知日 2006-10-31 
審決日 2006-11-13 
出願番号 特願平7-114649
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木方 庸輔  
特許庁審判長 杉山 務
特許庁審判官 田中 幸雄
伊知地 和之
発明の名称 ファクシミリ装置  
代理人 山本 尚  

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