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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  H04R
管理番号 1149523
審判番号 無効2004-80253  
総通号数 86 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2003-04-18 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-12-09 
確定日 2006-12-21 
事件の表示 上記当事者間の特許第3517736号発明「スピーカ用振動板の製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
出願日 平成13年10月5日
設定登録 平成16年2月6日
本件無効審判請求 平成16年12月9日
答弁書 平成17年3月7日
口頭審理陳述要領書(請求人) 平成17年6月3日
口頭審理陳述要領書(被請求人)平成17年6月13日
口頭審理 平成17年6月13日
技術報告書(請求人) 平成17年6月13日
上申書(被請求人) 平成17年6月24日
上申書(請求人) 平成17年7月20日
上申書(請求人) 平成17年7月21日
上申書(被請求人) 平成17年8月23日

2.本件特許発明
特許第3517736号の請求項1、2に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1、2に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
少なくとも複数の抄紙工程を備えており、一次抄紙で堆積した紙料を二次抄紙網に転写して、吸着せしめた状態を維持しながら、二次抄紙以降の漉き槽にある紙料分散液の液中に置き、上方に排水して堆積する多層漉き抄紙法を用いた、多層構造を特徴とするスピーカ用振動板の製造方法。
【請求項2】
請求項1の製造方法を用いて、二層以上を重ね合わせて堆積する多層構造のスピーカ用振動板。」
(以下、請求項1に係る発明を「本件特許発明1」といい、請求項2に係る発明を「本件特許発明2」という。)

3.請求人の主張
これに対して、請求人は、本件特許発明1、2の特許を無効とする、との審決を求め、その無効の理由として、本件特許発明1、2は、その出願前に頒布された刊行物である甲第1ないし5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、その特許は無効にされるべきであると主張し、証拠方法として次に掲げる甲第1号証ないし甲第5号証を提出している。

甲第1号証:特開昭48-50003号公報
甲第2号証:特公昭57-10638号公報
甲第3号証:特開平1-101105号公報
甲第4号証:米国特許1927902号公報
甲第5号証:特開平8-232200号公報

その他、甲第6ないし7号証が証拠として提出されていたが、これらは、平成17年6月13日の口頭審理において、資料11、12とすることを請求人は同意した(口頭審理調書参照)。
また、本件特許に関する被請求人の主張は根拠がないことを示す資料として、平成17年6月13日付口頭審理陳述要領書(請求人)添付の資料1ないし10、同日付技術報告書(口頭審理時に請求人が提出)、平成17年7月20日付上申書(請求人)添付の資料1ないし4を提出している。

4.被請求人の主張
本件発明は、甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、無効とされるべきものではないと主張し、証拠方法として乙第1、2号証を提出している。

5.証拠の内容
甲第1号証には、パルプなどの繊維質材を用いた少なくとも二つの層からなるスピーカ用のコーン紙を得る製造方法に関し、次に揚げる(a)ないし(c)の記載がなされている。
(a)この発明の目的とするところは、叩解度、強度および音響的エネルギ損失が異なる繊維質材を用い、接着剤をもってはり合わせることなしに一体とした少なくとも二層のコーン紙を構成し、スピーカの品質の向上と高性能化を計ることにある。・・・繊維質材の種類を変えてこの発明の目的とするコーン紙の強度および音響エネルギの損失を得ている(第2頁左上欄7行ないし20行)。
(b)漉きタンク内において、叩解度、強度および音響的エネルギ損失の異なる少なくとも二つの繊維質材の内、その一方の繊維質材を上記漉きタンク内に設けた漉き網にある程度堆積した後、他方の繊維質材を入れ、その繊維質材と先に入れた繊維質材の堆積しつつある部分とを混合しつつ堆積して積層し一体的に構成することを特徴とするスピーカコーン紙の製造方法(第1頁の特許請求の範囲)。
(c)上述したこの発明によるコーン紙の製造方法によれば、多層のコーン紙をも一度の漉き上げでつくることができ、また繊維質材の種類によって染色を変えて加えれば、コーン紙の表面と裏面とで色を変えることも可能である(第3頁右下欄10行ないし14行)。

甲第2号証には、多層構造のスピーカ用振動板の製造装置に関し、次に揚げる(d)ないし(f)の記載がなされている。
(d)この発明は少なくとも2層により構成されるスピーカ用振動板を接着工程を経ずして製造し得る装置を提供しようとしたもので、抄紙タンク内を成形型がアップダウンできるようにし、その抄紙タンク内に振動板の材料を交互に供給できるように構成したことを特徴とするものである(第1頁右欄24行ないし29行)。
(e)各原料タンク3、例えば、原料タンク3aには木材パルプが収容され、原料タンク3bには木材パルプ以外の繊維材液、詳しくは、合成繊維、金属繊維、ガラス繊維を浮遊状態にした液状原料が収められている。次にこの発明による装置を用いてスピーカ用振動板の成形作業の実際を説明する。先ず、成形型2に直接密着する形成層となる木材パルプを原料タンク3aから抄紙タンク3に所定のレベルまで導入する。原料が満たされたところでエヤシリンダ21中を真空状態にして、大気圧によりロッド22と共に成形型2を下降させ、液状原料中を下降する間にその表面に木材パルプを付着させる。この場合、成形型2の表面に小孔を多数穿けてあるので、真空による吸気がこの小孔に作用して原料を吸着層設する。成形型2に対する木材パルプの厚さは、抄紙タンク1中の滞留時間、あるいは真空による吸着時間、さらには真空圧の大小によって制御する。次で木材パルプを原料タンクに戻し、抄紙タンク1を空にして、再び、成形型2を上昇させる。そして、原料タンク3bから合成繊維の浮遊した液状原料を管路31を経由してポンプ32によって抄紙タンク1に送り込み、所定のレベルにする。この状態から負圧をエヤシリンダ21に作用させて成形型2を合成繊維を含む原料液中を下限まで下降移動させる。これにより、木材パルプの層の上側に合成繊維の層を層設する。この場合、成形型2に対して負圧が作用して合成繊維の層を形成する(第2頁左欄35行ないし右欄20行)。
(f)この発明のスピーカ用振動板の製造装置によれば、抄紙タンクに対し、任意の原料を導入して溜め、この抄紙タンク中に成形型を沈めながら原料を吸着させて、成形型の表面に振動板を形成する層を設け、これを異った原料中で所望の回数繰返し行うように構成したので所望の層の層設でき、しかも各層間に接着剤が存在しないので、品質のばらつき、チップなどがなく、振動板の物理的性質、ヤング率、内部損失などを容易にコントロールでき、原料の配合を変化させて得た振動板より多層の振動板の方が優れた特性をもつ振動板とすることができ、しかも、それを容易に製作することができる(第2頁右欄31行ないし43行)。

甲第3号証には、セメントを主成分とする無機質板材の製造方法に関し、次に揚げる(g)ないし(i)の記載がなされている。
(g)[従来の技術]従来、セメントを主成分とする無機質板材の製造方法として、抄造法、あるいは長網法によるものが周知である。
[従来技術の問題点]上記製造手段のうち、抄造法によるものは、セメント、シリカ分、補強繊維、骨材等から成るセメント水溶液より固形分を丸網シリンダにより抄き取り、この薄膜を積層していくため、抄き上げ時に繊維の配向性が付きやすく、長さ方向に対する曲げ強度に優れた板材となし得る利点を有する反面、薄膜を多層に積層していくため層間剥離が生じやすいと言った欠点が有った。一方、長網抄造法によるものはセメントスラリーをフローボックスよりベルト上へ層状に供給し、濾水しつつ板材体を一時に成形出来、前述のような層間剥離の問題は無い反面、繊維に配向性を付するのは殆ど不可能で長尺板材にあっては、曲げ強度を十分に高め得ない欠点が有った(第1頁左下欄下から5行ないし右下欄15行)。
(h)[発明が解決する問題点]この発明は上記問題点に鑑み、両者の長所を有効に組み合わせ、互いに有する欠点を解消し、もって層間剥離の生じない充分な強度を有する無機質板材を製造する方法を提供することを目的としてなされたものである。
[問題点を解決する技術]この発明の無機質板材の製造方法は全補強繊維量の60?20%の補強繊維とセメントからなる水溶液を丸網シリンダで抄き上げ、ベルト上に薄膜として抄き取り、該薄膜上に、シリカ分とセメントと補強残部とから成るスラリーをフローボックスより層状に供給して積層し、該積層体をメーキングロール上に巻き取り、所定厚さとした後に平らに切開してプレスし、板状体となすことを特徴とするものである。
[作用]丸網抄造法による場合、セメント組成中に含まれる繊維の配向性が付与されやすい。一方、長網抄造法による場合、繊維の配向性は付与し難いが一時に厚手の板体が製造出来る。そこで、第1図に示すようにセメント組成物においてセメントと繊維のみからなる水溶液1を丸網シリンダ2によりベルト3上に抄き取り、繊維配向性のあるセメント成分のみの薄膜4を成形し、この上にシリカ分及びセメント分と補強繊維とから成るスラリー5をフローボックス6より供給し、両者を積層してメーキングロール8に巻き取り、必要厚さとなれば、これを切開して平らにしプレスするのである。従って、成形板体中には補強繊維が一定方向に配向され、かつ、積層数が少ないにもかかわらず厚手の板材が成形可能となる(第1頁右下欄下から5行ないし右上欄8行)。
(i)[効果]この発明は以上説明したように、繊維の配向性については丸網抄造法の、積層数の減少については長網抄造法の特質を取り入れると共に、両者のもつ欠点を解消したものであり、層間剥離の生じにくい厚手の板材を抄造法によって容易に製造可能となるものである(第2頁左下欄下から2行ないし右下欄5行)。

甲第4号証には、ラジオ用スピーカの振動板、あるいは音を拡大したり再生するユニットの振動板を製造する方法に関し、以下の記載がなされている。
(j)説明数字1は、取り入れ用開口と排出用の開口のあるタンク2が取り付けてある枠を示す。これらの開口を通して、合成した繊維の抄紙液がポンプで注入され、必要なレベルで維持される。枠の両端には、サイドブロック4をガイドするようになっている縦のガイド3がある。このサイドブロックのうちの1個に、柔軟なホース7で適当な真空ポンプにつながっている真空バルブブロック5が取り付けてある。ブロック4にはシャフト8が軸受けを使ってつないである。このシャフトには、吸引型が、図2に示したような方法でいくつか取り付けてある。これは、バキュームヘッダーのエンドブロック6で出来ており、この内の一つは、いろいろな位置で弁のブロック5に相互につながるように配置してある。バキュームヘッダーのシャフト9はブロック6につなげてある。このシャフト9は、図3に示してあるデバイスににている一群の抄紙型デバイスにつながっている。これらは、プレート11とステム10に取り付けてある、細かく編んだワイヤースクリーン12で出来ている。ここで、ステム10はヘッダーシャフト9につながっているが、取り外せるようになっている。次に説明するような形で振動板を形成できるように、ステムには開口13があって、吸引システムで、スクリーン12の内側で部分的な真空状態を作れるようになっている。(第2頁右欄3行ないし27行、翻訳文第3頁下から11行ないし第4頁2行)。
(k)抄紙液はタンク2へ入れられ、吸引ポンプ42が働き、動力手段34がギアへ伝わる。カム28によってカムレバー26が上へ上がる。このカムレバーは、弁22、23を持ち上げてライン20、21を開けて空気圧をかける。弁24、25はこの動作時点では閉じている。ブロック4と抄紙型機械装置が上がるように、空気圧はシリンダーの底部まで導かれ、ピストン18、19を上へ上げる。これは、それぞれの抄紙型がタンクの中の液面よりも上になるようにするためである。カムがゆっくり回転するとともにカムレバーは下がって、弁22、23を通してかかっていた空気圧を遮断し、弁24、25を開く。この結果、空気は逃げ、ブロック4は、ピストンがストロークの下限に達するまで、あるいは、空気圧が抄紙型機械装置の重量と同じになるまで、もしくは、再びピストンを動作させデバイスを上げるまで下降する。この時、吸引型は槽に浸され、抄紙液は、抄紙機のスクリーン上に堆積するときに似たかたちでスクリーン12の上に堆積する。カムは更に回転して空気を再度シリンダーに入れ、型を槽から上げる。カムは、槽から型を部分的に上げ、そこで型を、スクリーンの下部に抄紙液の厚い層ができるのに必要な時間、保持するような形状にしてもよい。このようにして、スクリーンの外側のリムには非常に薄い抄紙液のフィルムが、内側あるいは頂点には比較的厚いフィルムが堆積し、厚みの異なる振動板が成型される。スクリーンが槽から出ると、最初の一列のスクリーンが取り除かれる一方で、シャフト8は180度回転して別のスクリーンを一列、浸す位置に持ってくる。図示した配置で、タイミングを自動的にとらせるように制御できることが判る。こうすることによって、型の希望部分を繊維性の懸濁液の中に希望時間、保つことができ、一定のフィルムあるいは一定でないフィルムを型に堆積させることができることになる(第2頁右欄下から16行ないし第3頁左欄27行、翻訳文第4頁下から17行ないし最終行)。

甲第5号証には、型の表面に繊維による粉粒体の遮蔽層を形成させてから、その上に粉粒体層、又は粉粒体と繊維の混合体層を形成させることにより、粉粒体が保有する機能を製品の内容物や製品の周囲の環境などに有効に作用させ得る型抄造品を安定的に容易に製造し得る方法及び装置に関し、以下の記載がなされている。
(l)図1において符号1、2、3は複数の原料槽を示すもので、第1の原料槽1は図9に一例を示す複層型抄造品4の粉粒体遮蔽層aを形成させる繊維を主体とする懸濁液
を給送管5により供給し、第2の原料槽は中間層bを形成させる粉粒体層か、粉粒体と繊維の混合体層bを形成させる懸濁液を給送管6により供給し、第3の原料槽3は被覆層cを形成させる原料懸濁液を給送管7により供給するもので、・・・同図において符号8は型抄造品4を成形する型を示すもので、希望する製品の内側に合致する形状に形成して、その全面に図2?図5に示すように微細な搾水孔9を開口させ、上部には吸引管10を接続した減圧室11を連設することにより、この型8を原料槽1?3内の懸濁液中に浸漬して、吸引管10により減圧室11内を減圧すると、懸濁液中の液分は搾水孔9と吸引管10を経て排出され、懸濁原料が型8の外面に付着するから、第1の原料槽1では型8の表面に粉粒体の遮蔽層aが、第2の原料槽2では遮蔽層aの上に粉粒体層か、粉粒体と繊維の混合体層bが、第3の原料槽3では粉粒体層か、粉粒体と繊維の混合体層bの上に被覆層cが形成される(第3頁右欄11行ないし43行)。
(m)本発明に係る複層型抄造品の製造方法及び装置は、型の表面にあらかじめ繊維により粉粒体の遮蔽層を形成させて置き、その上に粉粒体層か、粉粒体と繊維の混合体層を形成させるから、吸湿、脱臭、磁気・電磁波の放射、薬効、肥効、その他、の機能を有する粉粒体の層が確実に内在する製品を原料ロスもなく確実に製造できて、しかも型抄造によるため製品は均一性に優れて価格も安い特徴があり、・・・(第4頁右欄37行ないし44行)。

6.当審の判断
6-1.本件特許発明1と甲第1、2号証に記載された発明との対比
(1)本件特許発明1と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、本件特許発明1は、多層構造を特徴とするスピーカ用振動板の製造方法において、「一次抄紙で堆積した紙料を二次抄紙網に転写して、吸着せしめた状態を維持しながら、二次抄紙以降の漉き槽にある紙料分散液の液中に置き、上方に排水して堆積する多層漉き抄紙法を用いた」点を要件とするものといえるところ、甲第1号証記載の発明は、甲第1号証の前掲記載(a)ないし(c)によれば、多層構造を特徴とするスピーカコーン紙(本件特許発明でいうスピーカ用振動板に相当)の製造方法である点では本件特許発明1と共通性があるものの、その具体的な製造方法として、漉きタンク内において、叩解度、強度および音響的エネルギ損失の異なる少なくとも二つの繊維質材の内、その一方の繊維質材を上記漉きタンク内に設けた漉き網にある程度堆積した後、他方の繊維質材を入れ、その繊維質材と先に入れた繊維質材の堆積しつつある部分とを混合しつつ堆積して積層し一体的に構成する製造方法を採るものであり、本件特許発明1の製造方法とはその構成が全く異なり、本件特許発明1の上記要件を開示もしくは示唆するものではないことは明らかである。
さらに、甲第1号証の前掲記載(c)によれば、甲第1号証記載の発明が、多層のコーン紙をも一度の漉き上げで製造することを意図したものであることからすると、甲第1号証の発明において、本件特許発明1の要件である上記のような複数の抄紙工程からなる製造方法を採ることは全くの想定外のことと認められる。

(2)また、本件特許発明1と甲第2号証に記載された発明とを対比すると、甲第2号証の前掲記載(d)ないし(f)によれば、甲第2号証記載の発明は、多層構造のスピーカ用振動板の製造装置であって、先ず、抄紙タンクに任意の原料、例えば、木材パルプを導入して溜め、この抄紙タンク中に成形型を沈めながら前記原料を吸着させて、成形型の表面に振動板を形成する木材パルプ層を設け、次いで、抄紙タンクに異なった原料、例えば、合成繊維を含む液状原料を導入して溜め、この抄紙タンク中に成形型を沈めながら前記原料を吸着させて、前記木材パルプの層の上側に合成繊維の層を層設することにより、多層構造のスピーカ用振動板を製造するものであることから、本件特許発明1とは、多層構造を特徴とするスピーカ用振動板の製造方法であり、少なくとも複数の抄紙工程を備えている点、また、一次抄紙で堆積した紙料(甲第2号証記載の発明でいう木材パルプ層)を二次抄紙以降の漉き槽にある分散液(甲第2号証記載の発明でいう合成繊維を含む液状原料)の液中に置き、堆積する多層漉き抄紙法を用いた点で共通しているといえるものの、上記多層漉き抄紙法についてみると、本件特許発明1では、「一次抄紙で堆積した紙料を二次抄紙網に転写して、吸着せしめた状態を維持しながら、二次抄紙以降の漉き槽にある紙料分散液の液中に置き、上方に排水して堆積する」のに対し、甲第2号証に記載された発明では、一次抄紙で成形型に堆積した紙料(甲第2号証記載の発明でいう木材パルプ層)を成形型に堆積させたまま、二次抄紙以降の漉き槽にある紙料分散液の液中に置き、堆積するようにしており、係る構成は本件特許発明1の上記構成とは明らかに相違する。

6-2.判断
そこで、本件特許発明1と甲第2号証に記載された発明との上記相違点について、以下検討する。
(ア)甲第3号証の前掲記載(h)によれば、甲第3号証に記載の発明は、セメントと繊維からなる水溶液を丸網シリンダによりベルト上に抄き取り、繊維配向性のあるセメント成分のみの薄膜を成形し(いわゆる丸網抄造法)、この上にシリカ分及びセメント分と補強繊維とから成るスラリーをフローボックスより供給し(いわゆる長網抄造法)、両者を積層してメーキングロールに巻き取り、必要厚さとなれば、これを切開して平らにしプレスすることにより、セメントを主成分とする無機質板材を製造する製造方法に係るものであり、当該製造方法が、少なくとも複数の抄造工程を備え、積層体を製造する点では本件特許発明1と共通性があるといえる。
しかしながら、上記甲第3号証に記載の発明は、抄き上げ時に繊維の配向性が付きやすく、長さ方向に対する曲げ強度に優れた板材となし得るという丸網抄造法の特質と、厚い板状体を一時に成形できるという長網抄造法の特質を取り入れることにより、両者の持つ欠点を解消し、成形板体中に補強繊維を一定方向に配向させ、かつ、積層数が少ないにもかかわらず厚手の無機質板材を成形可能とするために(前掲記載(g)ないし(i))、セメントと繊維のみからなる水溶液1を丸網シリンダ2によりベルト3上に抄き取り、繊維配向性のあるセメント成分のみの薄膜4を成形し、この上に、シリカ分及びセメント分と補強繊維とから成るスラリー5をフローボックス6より供給し、両者を積層するという製造方法をセメントを主成分とする無機質板材を製造する製造方法として採用したこと(前掲記載(h)、(i))を開示しているにすぎないものであり、かかる甲第3号証の開示が、およそ本件特許発明1のスピーカ振動板の製造方法における上記相違点に係る発明特定事項「一次抄紙で堆積した紙料を二次抄紙網に転写して、吸着せしめた状態を維持しながら、二次抄紙以降の漉き槽にある紙料分散液の液中に置き、上方に排水して堆積する」を開示もしくは示唆するものでないことは明らかである。
この点、請求人は、甲第3号証でいう丸網シリンダ2で水溶液1を抄き上げ薄膜とし、この薄膜をベルト3に移すことが、本件特許発明1でいう「一次抄紙で堆積した紙料を二次抄紙網に転写」することに相当する旨主張しているが、甲第3号証では、「全補強繊維量の60?20%の補強繊維とセメントからなる水溶液を丸網シリンダで抄き上げ、ベルト上に薄膜として抄き取り」との記載、あるいは、「セメント組成物においてセメントと繊維のみからなる水溶液1を丸網シリンダ2によりベルト3上に抄き取り、繊維配向性のあるセメント成分のみの薄膜4を成形し」(甲第3号証の前掲記載(h))との記載があるのみであり、当該記載から、甲第3号証に、一次抄紙で堆積した紙料を二次抄紙網に転写することが開示されているとすることはできない。
また、甲第3号証に記載された無機質板材の製造方法は、上述したように、丸網抄造法による抄造工程と長網抄造法による抄造工程とを組み合わせたものであり、第1次の抄造工程である前記丸網抄造法による抄造工程は、セメントと繊維からなる水溶液を丸網シリンダによりベルト上に抄き取る工程、すなわち、丸網でなくベルト上に薄膜を成形する工程をいうのであるから、甲第3号証の製造方法が一次抄造で堆積した原料を二次抄造網に転写する転写工程を有するものであるとするには、前記ベルト上に成形された薄膜をさらに他の網体等に転写する工程を有する必要があるところ、甲第3号証にはこのような工程は記載されていない。そうすると、甲第3号証は、単に複数の抄造工程を組み合わせた無機質板材の製造方法を開示するに止まり、一次抄造で堆積した原料を二次抄造網に転写する転写工程を開示もしくは示唆するものとはいえない。したがって、請求人の上記主張は採用することができない。
上記のとおり、請求人の上記主張は認められないが、仮に、甲第3号証の上記記載が、一次抄紙で堆積した紙料を二次抄紙網に転写することを開示するものと解し得たとしても、甲第3号証に記載の製造方法は、セメントを主成分とする無機質板材の製造方法であって、層間剥離を生じない充分な強度を有する厚手の無機質板材の製造方法に係るものであり、当該製造方法を、甲第3号証に記載の製造方法の製造対象(セメントを主成分とする無機質板材)とはその機能、構造、求められる特性が全く異なるスピーカ用振動板の製造方法に適用することは、甲第3号証では全く想定されていないし、当業者が容易に着想することができたとも認められない。

(イ)甲第4号証の前掲記載(j)、(k)によれば、甲第4号証には、抄紙型デバイスを抄紙液が入ったタンクに浸し、抄紙型デバイスのスクリーン12の下面から上面の方向に抄紙液を流して、スクリーンの下面側に抄紙液を堆積させるラジオ用スピーカの振動板、あるいは音を拡大したり再生するユニットの振動板を製造する方法、すなわち、抄紙網(甲第4号証でいうスクリーン)の下面から上面の方向に抄紙液を流し、抄紙網の下面側に抄紙液を堆積させるスピーカ等の振動板の製造方法が開示されているにすぎないものであり、かかる甲第4号証の開示が、本件特許発明1の上記相違点に係る発明特定事項「一次抄紙で堆積した紙料を二次抄紙網に転写して、吸着せしめた状態を維持しながら、二次抄紙以降の漉き槽にある紙料分散液の液中に置き、上方に排水して堆積する」を開示もしくは示唆するものでないことは明らかである。

(ウ)甲第5号証には、前掲記載(l)、(m)によれば、粉粒体の層が内在する複層型抄造品の製造方法に関し、その全面に微細な搾水孔9を開口させ、上部に吸引管10を接続した減圧室11を連設した型8を原料槽1?3内の懸濁液中に浸漬して、吸引管10により減圧室11内を減圧し、懸濁液中の液分を搾水孔9と吸引管10を経て型8の上方に排出させ、懸濁原料を型8の外面に付着させることにより、第1の原料槽1では型8の表面に粉粒体の遮蔽層aが、第2の原料槽2では遮蔽層aの上に粉粒体層b等が、第3の原料槽3では粉粒体層b等の上に被覆層cを形成する製造方法が開示されており、抄造型(甲第5号証でいう微細な搾水孔9を開口させた型8)の下面から上面の方向に原液(甲第5号証でいう混濁液)を流して抄造型の下側外面に原料を堆積する点で、本件特許発明1の製造方法と共通性を有するといえる。
しかしながら、甲第5号証の開示が、本件特許発明1のスピーカ振動板の製造方法における上記相違点に係る発明特定事項「一次抄紙で堆積した紙料を二次抄紙網に転写して、吸着せしめた状態を維持しながら、二次抄紙以降の漉き槽にある紙料分散液の液中に置き、上方に排水して堆積する」を開示もしくは示唆するものでないことは明らかであり、さらに、甲第5号証に開示の製造方法は、吸湿、脱臭、磁気・電磁波の放射、薬効、肥効、その他、の機能を有する粉粒体の層が内在する製品を原料ロスがなく確実にしかも均一に製造することを可能とする製造方法であって、当該製造方法を、甲第5号証に記載の製造方法の製造対象とはその機能、構造、求められる特性が全く異なるスピーカ用振動板の製造方法に適用することは、甲第5号証では全く想定されていないし、当業者が容易に着想することができたとも認められない。

(エ)そして、上記相違点に係る発明特定事項については、明細書に「一次抄紙で堆積した紙料は、水素結合する前の膨張した湿紙の状態を保ち、網目状に荒れた紙料の裏面側へ堆積するように、二次抄紙網へ転写して置く。この時、紙料は抄紙網の下に吸着しており、この状態から、二次以降の紙料分散液の液中に置いて、上方に排水しながら所定の量を堆積する方法である。この抄紙法の長所は、一次抄紙の紙料が十分に水を含んだ所へ、二次以降の紙料液に浮遊している繊維が絡み付いて堆積する事にある。この為、乾燥後は、積層した境界が明確に判別できる多層構造になり、機械的な結合と水素結合によって、強固に一体化した振動板ができる。」(段落番号0011)との記載があり、一次抄紙網に接触していた紙料面の方が他の面より表面が荒れており、繊維が絡みつきやすいことは推測されるので、上記発明特定事項を具備する本件特許発明1は、明細書の上記記載のような、機械的な結合と水素結合によって、強固に一体化した振動板ができるという格別の作用効果を奏するものと認められる。

(オ)したがって、上記相違点に係る発明特定事項を具備する本件特許発明1は、上記甲第1ないし5号証に記載された発明及び記載事項を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

(カ)なお、請求人は、上記各甲号証の外、資料1ないし12(平成16年12月9日、平成17年6月13日提出)、技術報告書(平成17年6月13日提出)、資料1ないし4(平成17年7月20日提出)を提出しているが、何れの資料を検討しても、上記相違点を当業者が容易に想到することができたものとすることはできない。

6-3.本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1を引用する形式で記載された発明であって、本件特許発明1の製造方法を用いて、二層以上を重ね合わせて堆積する多層構造のスピーカ用振動板に係る特許発明であるから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、上記甲第1ないし5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

7.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び提示した証拠方法によっては、本件特許発明1、2に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-09-09 
結審通知日 2005-09-15 
審決日 2005-09-27 
出願番号 特願2001-343884(P2001-343884)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (H04R)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 藤内 光武
特許庁審判官 新宮 佳典
堀井 啓明
登録日 2004-02-06 
登録番号 特許第3517736号(P3517736)
発明の名称 スピーカ用振動板の製造方法  
代理人 古橋 伸茂  
代理人 北原 潤一  
代理人 小林 浩  
代理人 高山 道夫  

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