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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41M
管理番号 1149691
審判番号 不服2004-8758  
総通号数 86 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-06-10 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-04-28 
確定日 2007-01-05 
事件の表示 平成 7年特許願第311909号「インクジェット記録用シート及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 6月10日出願公開、特開平 9-150571〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯・本願発明
本願は平成7年11月30日の出願であって、その請求項1ないし5に係る発明は、平成18年8月18日受付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】 記録層の表面を成形するための表面粗さ(Ra)が1μm以下である成形面に塗被成膜してなる記録層を中間層を介して支持体と重ね、成形面を記録層から剥離してなるインクジェット記録用シートであり、該記録層は少なくとも下層(中間層に近い層)と上層(中間層から遠い層)を有し、上層が上層固形分に対し80重量%以上の顔料を含有し、且つ該顔料の85重量%以上が平均粒径200nm以下のコロイド粒子であり、下層の顔料が、平均粒径500nm以下で、且つ上層中の顔料の平均粒径より大きい平均粒径のコロイド粒子からなる顔料であることを特徴とするインクジェット記録用シート。」

2.刊行物に記載された事項
2-1.これに対して、当審において通知された拒絶の理由に引用された、本願出願前国内において頒布された刊行物である特開平7-101142号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。
(1a)「【請求項1】支持体上にインク受理層を設けたインクジェット記録シートにおいて、支持体上に少なくとも1層以上のインク受理層、主成分として平均粒子径300nm以下のコロイド粒子からなる光沢発現層を順次積層してなり、JIS Z8741に規定される75度鏡面光沢度が、25%以上であることを特徴とするインクジェット記録シート。
【請求項3】光沢発現層の塗被組成物が、平均粒子径200nm以下のコロイド粒子を主成分とする請求項1又は2記載のインクジェット記録シート。
【請求項6】インク受理層の塗被組成物が、1.0μm以下の粒子径を30体積パーセント以上有する顔料を主成分とする請求項1?3のいずれか記載のインクジェット記録シート。
【請求項7】顔料が、カチオン性コロイド粒子である請求項6記載のインクジェット記録シート。」(特許請求の範囲 請求項1、3、6、7)
(1b)「【産業上の利用分野】本発明は、水性インクを用いて記録を行うインクジェット記録シートに関するものであり、インク吸収性に優れ、高い印字濃度が得られ、市販のアート・コート紙に匹敵する高い光沢度を有するインクジェット記録シート、・・・に関するものである。」(【0001】段落)
(1c)「一般に、インクジェット記録シートは、多孔性顔料を適用したインク吸収特性を有するインク受理層を設けて、画質を決定する色彩性や鮮鋭性のコントロールを行い、色再現性や画像再現性の向上を図っている。インク吸収性のあるインク受理層は、インクを吸収し保持するために、インク受理層中の空隙を多く有する必要がある。しかし、空隙の多いインク受理層は、インク受理層への入射光が散乱されてしまったり、透過が妨げられるため、不透明になり、空隙に浸透したインクに光が到達しにくくなるため画像が白っぽくなり、色再現性及び色濃度が低下する。又、空隙の多いインク受理層は、多孔質な表面となることから、高い光沢を望むことは難しい。」(【0005】段落)
(1d)「光沢を付与する処理は、スーパーカレンダー、グロスカレンダー等のカレンダー装置を用い、圧力や温度をかけたロール間に通紙することで塗層表面を平滑化する方法が一般的である。しかしながら、インクジェット記録シートに光沢を付与する目的で、高い線圧下でカレンダー処理を行うと、光沢は向上するが、塗層の空隙が減少し、インクの吸収が遅くなり、又、吸収容量の不足からインクのあふれが発生してしまう問題がある。」(【0009】段落)
(1e)「本発明のインクジェット記録シートにおいて、記録面に水性インクが与えられた時、水性インクが光沢発現層を透過し、光沢発現層の下に位置するインク受理層で速やかにインク吸収させることができる。即ち、光沢発現層ではインクの殆どを透過させる機能を、インク受理層ではインク吸収性や染料定着性の機能を持たせ、2層構造の機能分離化によって光沢発現層の光沢性を特長づけることができる。
光沢性の向上については、粒径の小さな顔料により得られることから、コロイド粒子をインク受理層の組成物として適用する方向で検討した。しかし、・・・。
・・・、コロイド粒子を主成分とする塗被組成物をインク受理層面上に光沢発現層として設けることにより、上記の問題点を回避し、光沢が発現すること、該インク受理層の鮮鋭性や色彩性に依存した特性の得られることが判った。」(【0031】?【0033】段落)
(1f)「本発明に係る光沢発現層に適用されるコロイド粒子とは、水中に懸濁分散してコロイド状をなしているものであり、コロイダルシリカ、・・・が挙げられる。・・・。光沢発現という観点からは、コロイド粒子の平均粒子径が200?300nm付近を最大とする傾向があり、該コロイド粒子の平均粒子径は300nm以下、好ましくは200nm以下が良い。」(【0036】【0037】段落)
(1g)「インク受理層における溶媒成分の浸透が遅くなると、光沢発現層においてインクが滞留してインクの拡散が生じることになるから溶媒成分の浸透は速くなければならない。
浸透の速度は、インク受理層の塗層構造と関係しており、更に塗層構造は適用される顔料の粒子径に依存し、該粒子径に比例して顔料間に形成される空隙径が小さくなることから、インクの浸透は速くなる。本発明で云うインク受理層が1次粒子径が数nm?数百nmの粒子が凝集或いは会合してなる多孔性顔料を主成分とする塗被組成物からなるものであると十分な浸透の速度を確保することが可能となる。」(【0041】【0042】段落)
(1h)「インク受理層中の水溶性接着剤の配合量は、顔料100重量部に対して、3?70重量部、好ましくは5?50重量部であり、・・・。
本発明に係る光沢発現層に接着剤を配合する場合には、上記の水溶性接着剤が適用できるが、・・・、配合量としては、2?30重量部が好ましい。」(【0048】?【0050】段落)
(1i)「本発明の光沢発現層は、コロイド粒子と併用して公知の白色顔料を1種類以上用いることが出来るが、・・・、該コロイド粒子/該白色顔料の重量比を80/20以上、より好ましくは90/10以上とする必要がある。」(【0053】段落)
(1j)「【作用】光沢の発現は、塗層を構成する顔料の粒子径と関係しており、粒子径が200?300nmを最大となる傾向がある。・・・。
光沢は、自明のことながら、表面における光の反射率であり、表面の粗さにより、その程度が決定される。このことから、本発明者等は、表面は平滑であり、内部でインクジェット記録特性を確保することを考え、特定のコロイド粒子を適用して、光沢発現層とインク受理層という2層構造のインクジェット記録シートにより、本発明の目的が完成するに至ることが判った。」(【0077】【0078】段落)
(1k)「実施例に於いて示す「部」及び「%」は特に明示しない限り絶乾重量部及び絶乾重量%を示す。」(【0082】段落)
(1l)「実施例8
[インク受理層の塗工]インク受理層は、支持体の表面に塗設した。該インク受理層の塗被組成物は、カチオン性コロイド粒子として、針状のコロイダルシリカを酸化アルミニウム水和物により変性した針状のカチオン性コロイダルシリカ(スノーテックスUP-AK(1):日産化学工業社製;平均粒子径 幅10?20nm×長さ50?200nmの凝集体)100部、接着剤として、ポリビニルアルコール(PVA117:クラレ社製)30部を主成分とした。この組成物の固形分濃度を10%として、ゲートロールコータで、乾燥塗工量2g/m2となるように塗工、乾燥した。
[光沢発現層の塗工]インク受理層表面に、光沢発現層を塗設した。光沢発現層の組成物は、コロイド粒子として、平均粒子径が40nmの多孔性無定形シリカ・アルミナ(USB-1:触媒化成社製)100部、接着剤として、実施例1と同じラテックス5部を主成分とした。この組成物を固形分濃度20%として、エアーナイフコータで、乾燥塗工量10g/m2となるように塗工、乾燥し、実施例1と同条件でカレンダー処理を行い、実施例8のインクジェット記録シートを得た。」(【0103】【0104】段落)
(1m)【0109】段落の【表2】には、実施例8についての75℃鏡面光沢度、印字濃度の値、インク吸収性の評価が記載されている。

2-2.同じく、当審において通知された拒絶の理由に引用された、本願出願前国内において頒布された刊行物である特開平7-82694号公報(以下、「刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。
(2a)「【請求項1】紙基材の表面に、JIS Z8741に規定される60゜鏡面光沢度が30%以上の擬ベーマイト層を有する塗工紙。
【請求項3】平滑な型表面に、擬ベーマイト塗工液を塗布し、その上に基材となる紙を密着させ、乾燥して擬ベーマイト層を形成した後、型から基材となる紙を剥離して擬ベーマイト層を紙上に移行させる、塗工紙の製造方法。」(特許請求の範囲 請求項1、3)
(2b)「【発明が解決しようとする課題】インクジェット記録方式においては、ノズルの閉塞を防止するために、インクには多量の溶媒が含まれている。・・・。本発明は、インクの吸収性が良好で、高い色再現性を有し、かつ、表面の光沢性の良好な塗工紙を提供することを目的とする。」(【0005】段落)
(2c)「本発明の塗工紙は、好ましくは、平滑な型表面に、擬ベーマイト塗工液を塗布し、その上に基材となる紙を密着させ、乾燥して擬ベーマイト層を形成した後、型から基材となる紙を剥離して擬ベーマイト層を紙上に移行させることにより製造することができる。
このとき使用する型の材質としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート等のプラスチック、または金属等が特に限定されず採用される。型の形状としては、表面が平滑なものであれば、平板状のものだけでなく、ロール状あるいは、可撓性のあるフィルム状の型も使用できる。」(【0011】【0012】段落)

2-3.同じく、当審において通知された拒絶の理由に引用された、本願出願前国内において頒布された刊行物である特開平4-363292号公報(以下、「刊行物3」という。)には、次の事項が記載されている。
(3a)「【請求項1】基材フイルムの一方の面に染料受容層を剥離可能に設けてなる受容層転写フイルムを、受像シートの基材に重ねて貼り合わせた後、基材フイルムを剥離することを特徴とする熱転写受像シートの製造方法。
【請求項2】染料受容層の表面に接着剤層が設けられている請求項1に記載の熱転写受像シートの製造方法。」(特許請求の範囲 請求項1、2)
(3b)「【作用】受容層転写フイルムの受容層の表面を感熱又は感圧接着性としておくことによって、目止処理及び加熱を要することなく、表面平滑性に優れた熱転写受像シートを生産性良く安価に提供することが出来る。」(【0005】段落)
(3c)「受容層の表面には、これらの層の転写性を良好にする為に感熱又は感圧接着剤層を設けることが好ましい。これらの接着剤層は、染料受容層を基材に転写後は、得られた受像シートの中間層として機能する。」(【0011】段落)

2-4.同じく、当審において通知された拒絶の理由に引用された、本願出願前国内において頒布された刊行物である特開昭60-94174号公報(以下、「刊行物4」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(4a)「実質的に表面が平滑な剥離材(1)の表面に、金属酸化物微粉末を含有する導電性塗料(2)を塗布し、ついで、該塗料の塗布面に接着剤層(3)を介して基材(4)を貼着し、その後剥離材(1)を除去することを特徴とする導電性塗膜の形成方法。」(特許請求の範囲 第1項)
(4b)「本発明は・・・、塗膜の表面を平滑にし、かつ塗膜と基体の間に接着剤を介在させる塗膜の形成方法を見出したものであって、」(第1頁右下欄2?5行)
(4c)「本発明においては、まず、第1図の工程(イ)に示すように剥離材1に導電性塗料2を塗布する。剥離材は、表面ができるだけ平滑なものを使用する必要があり、この表面の平滑性が導電性塗料に転写され、最終的な塗膜面が平滑化し、透明性が改良された。」(第1頁右下欄16行?第2頁左上欄1行)
(4d)「工程(ロ)に示すように、導電性塗料2の塗布面に接着剤層3を設ける。接着剤層に使用する接着剤は、一般にドライラミネートに使用されている通常の接着剤を用いることができ、・・・が挙げられる。」(第2頁右上欄19行?同頁左下欄4行)
(4e)「上記の工程(ロ)については、第2図の工程(ロ’)に示すように、前もって接着剤層3を設けた基材4を導電性塗料2側に貼着する方法でもよい。」(第2頁左下欄8?11行)

3.対比、判断
刊行物1の記載事項1aに記載された「光沢発現層」について、同1hには、接着剤を配合する場合、その配合量は2?30重量部が好ましいことが、同1iには、コロイド粒子と併用して公知の白色顔料を、コロイド粒子/該白色顔料の重量比で80/20以上、より好ましくは90/10以上の比率で用いることができることが記載されているから、記載事項1a?1mからみて、刊行物1には、下記の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると云える。
「支持体上にインク受理層と、平均粒子径200nm以下のコロイド粒子を主成分とする光沢発現層を順次積層してなるインクジェット記録用シートであって、光沢発現層は、接着剤の配合量が2?30重量部であり、且つ該層に含まれる顔料の80重量%好ましくは90重量%以上が上記コロイド粒子であり、インク受理層の顔料が、1.0μm以下の粒子径を30体積パーセント以上有するものであるインクジット記録用シート。」
そして、記載事項1lには、実施例8として、上記刊行物1発明の実施例と云えるインクジェット記録シートを製造する方法が記載されている。
本願発明1と、刊行物1発明とを対比すると、後者における「インク受理層」、「光沢発現層」は、各々、前者における「下層」、「上層」に相当し、後者における「インク受理層」と「光沢発現層」を併せたものが前者における「記録層」に相当する。そして、刊行物1発明における「光沢発現層は、接着剤の配合量が2?30重量部であ」ることは、記載事項1hのインク受理層中の接着剤の配合量の記載からみて、顔料100重量部に対する接着剤の配合量を云うものと認められるから、光沢発現層の固形分に対する顔料の含有量が約77?98重量%であることを意味すると認められ、この値は、本願発明1における上層における顔料の上層固形分に対する含有量と重複する。また、刊行物1発明における顔料中の平均粒径200nm以下のコロイド粒子の比率と、本願発明1における顔料中の平均粒径200nm以下のコロイド粒子の比率は重複する。
さらに、記載事項1lの実施例8に記載された、光沢発現層の固形分に対する顔料の含有量、顔料中の平均粒径200nm以下のコロイド粒子の比率は、いずれも本願発明1のそれに含まれるものである。
してみると、両者は、
「記録層は少なくとも下層と上層を有し、上層が上層固形分に対し80重量%以上の顔料を含有し、且つ該顔料の85重量%以上が平均粒径200nm以下のコロイド粒子であるインクジット記録用シート。」
で一致し、下記の点で相違する。
(i)本願発明1は、記録層の表面を成形するための表面粗さ(Ra)が1μm以下である成形面に塗被成膜してなる記録層を中間層を介して支持体と重ね、成形面を記録層から剥離してなるインクジェット記録用シートであり、下層が中間層に近い層であり、上層が中間層から遠い層であるのに対し、刊行物1発明は、支持体上に下層と上層を順次積層してなるインクジェット記録用シートであって、中間層は存在せず、下層が中間層に近い層であり、上層が中間層から遠い層であるということもない点。
(ii)本願発明1は、下層の顔料が、平均粒径500nm以下で、且つ上層中の顔料の平均粒径より大きい平均粒径のコロイド粒子からなる顔料であるのに対し、刊行物1発明は、下層の顔料は、1.0μm以下の粒子径を30体積パーセント以上有するものではあるが、平均粒径500nm以下との特定はなく、しかも、上層中の顔料の平均粒径より大きい平均粒径を有するとの特定もない点。

そこでまず、相違点(i)について検討する。
刊行物2には、インクジェット記録方式に用いる表面の光沢性の良好な塗工紙の製造方法として、平滑な型表面に、塗工液を塗布し、その上に基材となる紙を密着させ、乾燥して塗工液から層を形成した後、型から基材を剥離して層を紙上に移行させる塗工紙の製造方法が記載されている。
よって、刊行物1発明において、光沢性の向上と良好なインク吸収性を共に備えることを目的として、支持体への記録層の形成手段として刊行物2に記載された方法を採用して、記録層の表面を成形するための成形面に塗被成膜してなる記録層を支持体と重ね、成形面を記録層から剥離してなるインクジェット記録用シートとすることは当業者が容易に想到し得たことである。
そして、本願発明1においては、記録層を中間層を介して支持体と重ねているが、型の表面に塗工液を塗布、乾燥することにより形成した層を支持体と重ね、型表面から該層を剥離して支持体に転写する方法において、該層の転写を確実なものとするために接着剤層を介して該層と支持体を重ねることは、刊行物3及び4に記載されているように各種の技術分野において本願出願前周知の事項であるから、刊行物1発明において、支持体への記録層の形成手段として刊行物2に記載された方法を採用するにあたり、接着剤層の如き中間層を介して記録層と支持体を重ねるようにすることは当業者が適宜為し得たことである。
その際、下層が中間層に近い層になり、上層が中間層から遠い層となることは、インクジェット記録用シートの層構成及び支持体への記録層の形成手段からみて当然のことである。
さらに、本願発明1においては、型表面の表面粗さ(Ra)が1μm以下と限定しているが、刊行物2?4に記載の如き、型の表面に塗工液を塗布、乾燥することにより形成した層を支持体と重ね、型表面から該層を剥離して支持体に転写する方法において、型の平滑性が支持体に転写された層の平滑性に直接反映することは、例えば刊行物4の記載事項4cにも記載されているとおり、本願出願前周知の事項であり、しかも、刊行物2には、光沢の優れたインクジェット記録用シートを得るために平滑な型表面を用いることが記載されているところであるから、型表面の表面粗さ(Ra)を1μm以下と特定することは、当業者が目的に応じて適宜為し得たことである。
そして、本願明細書を検討しても、支持体への記録層の形成手段として刊行物2に記載された方法を採用したこと、さらには、中間層を介して重ねたこと、型表面の表面粗さ(Ra)を1μm以下に限定したことにより、当業者が予測し得ない格別な効果が奏されたものとは認められない。

次に、相違点(ii)について検討する。
刊行物1の記載事項1e、1jに記載されているように、刊行物1発明は、光沢発現層にはインクの殆どを透過させるとともに光沢を発現させる機能を、インク受理層にはインク吸収、保持する機能を持たせ、インクジェット記録用シートに要求される機能を2層に分離したものである。
そして、光沢の発現及びインクの透過機能が、粒径の小さなコロイド粒子を顔料として層に配合することにより得られること、及び、インクの速やかな吸収、保持機能が、層に大きな空隙をもたらす粒径の比較的大きい顔料を層に配合することにより得られることは、刊行物1の記載事項1e、1c、1gにも示されるとおり、本願出願前周知の事項である。また、インク受理層に配合する顔料として平均粒径が500nm以下の顔料を用いることも、例えば、特開平7-117335号公報の【0174】段落、特開平6-297830号公報に記載されているように、本願出願前周知の事項である。、
しかも、刊行物1には、インク受理層が含有する顔料が、針状のカチオン性コロイダルシリカ(スノーテックスUP-AK(1):日産化学工業社製;平均粒子径 幅10?20nm×長さ50?200nmの凝集体)であり、光沢発現層が含有する顔料は平均粒子径が40nmの多孔性無定形シリカ・アルミナ(USB-1:触媒化成社製)であるインクジェット記録シート、即ち、下層の顔料が、平均粒径500nm以下で、且つ上層中の顔料の平均粒径より大きい平均粒径のコロイド粒子からなる顔料であるインクジェット記録シート、の製造方法が実施例として記載されているところである(記載事項1l)。
してみれば、刊行物1発明において、下層の顔料を、平均粒径500nm以下で、且つ上層中の顔料の平均粒径より大きい平均粒径のコロイド粒子からなる顔料とすることは、当業者にとって容易に想到し得たことである。
そして、本願明細書の記載を検討しても、下層の顔料の平均粒径を500nm以下と限定したこと、及び下層の顔料と上層の顔料の平均粒径を上記の関係にしたことにより格別顕著な効果が奏されたものとは認められない。

さらに、本願発明1が、相違点(i)及び(ii)で挙げた構成を共に備えたことによる効果について本願明細書の記載を検討しても、当業者が予測し得ない格別顕著な効果が奏されたとものは認められない。

よって、本願発明1は、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、請求項2ないし5に係る発明についての判断を示すまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-09-25 
結審通知日 2006-10-17 
審決日 2006-10-30 
出願番号 特願平7-311909
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤井 勲  
特許庁審判長 岡田 和加子
特許庁審判官 秋月 美紀子
山口 由木
発明の名称 インクジェット記録用シート及びその製造方法  
代理人 金谷 宥  

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