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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  H01L
管理番号 1150380
審判番号 無効2006-80023  
総通号数 87 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-08-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-02-20 
確定日 2006-12-11 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3722271号発明「ウェーハ切断装置及びその方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3722271号の請求項1乃至2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3722271号の請求項1乃至2に係る発明についての出願は、平成12年2月18日に出願され、平成17年9月22日にその発明について特許権の設定登録がされたものである。
これに対して、平成18年2月20日に審判請求人・白澤榮樹により無効審判の請求がなされたところ、被請求人・株式会社東京精密より平成18年5月8日付けで審判事件答弁書の提出及び訂正請求がなされるとともに、請求人より平成18年6月20日付けで審判事件弁駁書が提出され、被請求人より平成18年9月19日付けで審判事件答弁書(第2回)が提出されたものである。

第2 訂正の適否
1.訂正の内容
平成18年5月8日付けの訂正請求書は、本件特許第3722271号の願書に添付された明細書(以下、願書に添付された図面と併せて「特許明細書」という。)を、訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであり、その内容は以下のとおりである。
なお、下線は対比の便宜のために当審において付したものである。

(1)訂正事項a
特許明細書における特許請求の範囲の請求項1の記載を、
「【請求項1】 2本のスピンドルとウェーハとを相対的に移動させることにより、2本のスピンドルに装着された2枚のブレードによって前記ウェーハを切断するウェーハ切断装置において、
前記2本のスピンドルは、一直線上で対向配置されるとともに夫々ブレード側から見て互いに逆方向に回転され、前記2枚のブレードによってウェーハを同時に切断することを特徴とするウェーハ切断装置。」から、
「【請求項1】 2本のスピンドルとウェーハとを相対的に移動させることにより、2本のスピンドルに装着された2枚のブレードによって前記ウェーハを切断するウェーハ切断装置において、
前記2本のスピンドルは、一直線上で対向配置されるとともに夫々ブレード側から見て互いに逆方向に回転され、各スピンドルの回転方向と前記ウェーハの切断送り方向とを一致させ、前記2枚のブレードによってウェーハを同時に切断することを特徴とするウェーハ切断装置。」と訂正する。

(2)訂正事項b
特許明細書における特許請求の範囲の請求項2の記載を、
「【請求項2】 2本のスピンドルとウェーハとを相対的に移動させることにより、2本のスピンドルに装着された2枚のブレードによって前記ウェーハを切断するウェーハ切断方法において、
前記2本のスピンドルを、一直線上で対向配置するとともに夫々ブレード側から見て互いに逆方向に回転させ、前記2枚のブレードによってウェーハを同時に切断することを特徴とするウェーハ切断方法。」から、
「【請求項2】 2本のスピンドルとウェーハとを相対的に移動させることにより、2本のスピンドルに装着された2枚のブレードによって前記ウェーハを切断するウェーハ切断方法において、
前記2本のスピンドルを、一直線上で対向配置するとともに夫々ブレード側から見て互いに逆方向に回転させ、各スピンドルの回転方向と前記ウェーハの切断送り方向とを一致させ、前記2枚のブレードによってウェーハを同時に切断することを特徴とするウェーハ切断方法。」と訂正する。

(3)訂正事項c
特許明細書の段落【0010】における「【課題を解決するための手段】
本発明は、前記目的を達成するために、・・・・・・ことを特徴としている。」を、
「【課題を解決するための手段】
本発明は、前記目的を達成するために、2本のスピンドルとウェーハとを相対的に移動させることにより、2本のスピンドルに装着された2枚のブレードによって前記ウェーハを切断するウェーハ切断装置において、前記2本のスピンドルは、一直線で対向配置されるとともに夫々ブレード側から見て互いに逆方向(夫々ブレード側から見て時計方向と反時計方向)に回転され、各スピンドルの回転方向と前記ウェーハの切断送り方向とを一致させ、前記2枚のブレードによってウェーハを同時に切断することを特徴としている。
本発明は、前記目的を達成するために、2本のスピンドルとウェーハとを相対的に移動させることにより、2本のスピンドルに装着された2枚のブレードによって前記ウェーハを切断するウェーハ切断方法において、前記2本のスピンドルを、一直線で対向配置するとともに夫々ブレード側から見て互いに逆方向(夫々ブレード側から見て時計方向と反時計方向)に回転させ、各スピンドルの回転方向と前記ウェーハの切断送り方向とを一致させ、前記2枚のブレードによってウェーハを同時に切断することを特徴としている。」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項aについて
訂正事項aは、2本のスピンドルの回転方向とウェーハの移動方向について、「各スピンドルの回転方向と前記ウェーハの切断送り方向とを一致させ」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
そして、特許明細書には、スピンドルの回転方向とウェーハの切断送り方向に関して、段落【0005】に、「前者のフルカット方法では、ウェーハの表面に生じるチッピングを抑えるために、スピンドルの回転方向(ブレードの切削点におけるスピンドルの回転方向)とウェーハの切断送り方向とが一致するように設定されている(以下、「ダウンカット」と称する)。」と記載されている。また、段落【0028】に「図5は、対向配置(一直線上に配置)された2本のスピンドル34、36を互いに逆方向に回転させながら、ウェーハWをC方向に移動させてウェーハWをダウンカットしている例が示されている。即ち、スピンドル34は、チッピングを抑えるため、図5上矢印A方向から見て時計回り方向に回転され、スピンドル36もチッピングを抑えるため、図5上矢印B方向(A方向と反対方向)から見て反時計回り方向に回転されている。」と記載されている。
してみると、訂正事項aは、上記記載事項に基づいてなされたものであって、特許明細書に記載した事項の範囲内であり、新規事項の追加には該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。。

(2)訂正事項bについて
訂正事項bも、訂正事項aと同様に、2本のスピンドルの回転方向とウェーハの移動方向について、「各スピンドルの回転方向と前記ウェーハの切断送り方向とを一致させ」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項bは、特許明細書に記載した事項の範囲内であり、新規事項の追加には該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項cについて
訂正事項cは、訂正事項a及びbによる特許請求の範囲の記載の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項cは、特許明細書に記載した事項の範囲内であり、新規事項の追加には該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3.訂正の適否についてのまとめ
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き及び同条第5項において準用する特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第3 本件発明
前述のとおり、本件訂正が認められたことにより、本件特許の請求項1乃至2に係る発明(以下、「本件発明1」乃至「本件発明2」という。)は、訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】 2本のスピンドルとウェーハとを相対的に移動させることにより、2本のスピンドルに装着された2枚のブレードによって前記ウェーハを切断するウェーハ切断装置において、
前記2本のスピンドルは、一直線上で対向配置されるとともに夫々ブレード側から見て互いに逆方向に回転され、各スピンドルの回転方向と前記ウェーハの切断送り方向とを一致させ、前記2枚のブレードによってウェーハを同時に切断することを特徴とするウェーハ切断装置。
【請求項2】 2本のスピンドルとウェーハとを相対的に移動させることにより、2本のスピンドルに装着された2枚のブレードによって前記ウェーハを切断するウェーハ切断方法において、
前記2本のスピンドルを、一直線上で対向配置するとともに夫々ブレード側から見て互いに逆方向に回転させ、各スピンドルの回転方向と前記ウェーハの切断送り方向とを一致させ、前記2枚のブレードによってウェーハを同時に切断することを特徴とするウェーハ切断方法。」

第4 請求人の主張の概要
請求人は、下記甲第1、2号証を提出し、審判請求書及び審判事件弁駁書において、本件特許の請求項1乃至2に係る発明は、甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであると主張している。
[甲号各証]
甲第1号証:特開平11-26402号公報
甲第2号証:特開平9-205071号公報

第5 被請求人の主張の概要
被請求人は、上記請求人の主張に対して、審判事件答弁書及び審判事件答弁書(第2回)において、本件特許の請求項1乃至2に係る発明は、甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないと反論している。

第6 甲号各証の記載内容及び引用発明
請求人の提出した甲第1、2号証には、以下の技術的事項が記載されている。
1.甲第1号証
(1-イ)段落【0001】
「【発明の属する技術分野】本発明は、半導体ウェーハ、フェライト等の被加工物を精密に切削することができる精密切削装置に関し、詳しくは、切削用の2つのブレードを対峙させて配設することにより、切削効率の向上を図った精密切削装置に関するものである。」

(1-ロ)段落【0021】
「切削領域19には、Y軸方向に略一直線上に配設してY軸方向に軸心を有する第一のスピンドル20及び第二のスピンドル21と、第一のスピンドル20、第二のスピンドル21の先端に装着した第一のブレード22、第二のブレード23とを備えており、第一のスピンドル20と第一のブレード22とで第一の切削手段24を構成し、第二のスピンドル21と第二のブレード23とで第二の切削手段25を構成している。また、第一のブレード22と第二のブレード23とが対峙するように、第一のスピンドル20と第二のスピンドル21とは略一直線上に配設されており、第一のスピンドル20及び第二のスピンドル21は、それぞれ独立してZ軸方向に移動可能である。」

(1-ハ)段落【0029】?【0031】
「以上のように構成されるダイシング装置10を用いて、被加工物、例えば図2に示した半導体ウェーハ14の切削を行う際は、第一のスピンドル20及び第二のスピンドル21のY軸方向の移動を適宜に制御することによって様々な方法で切削を行うことができる。
例えば、図6(A)に示すように、最初に第一のブレード22と第二のブレード23とをチャックテーブル11に保持された半導体ウェーハ14のY軸方向の両端部に位置付け、第一のスピンドル20及び第二のスピンドル21を下降させると共に、チャックテーブル11をX軸方向に移動させて、即ち、チャックテーブル11と第一の切削手段24及び第二の切削手段25とのX軸方向の相対的移動によって、図7(A)のように半導体ウェーハ14の表面のY軸方向の最も外側に形成されたストリートを、第一のブレード22及び第二のブレード23によって2本同時にX軸方向に切削する。この場合、2本のストリートは同一のストロークで切削される。
そして次に、第一のスピンドル20及び第二のスピンドル21を中心に向かって所定距離、例えばストリート間の間隔だけ割り出し送りし、同様にチャックテーブル11をX軸方向に移動させてストリート15を2本ずつX軸方向に同一のストロークで切削していき、図7(B)のように切削溝を形成していく。」

(1-ニ)段落【0032】?【0033】
「図6においては図示していないが、実際には第一のブレード22及び第二のブレード23には、先端にブレード固定用のフランジ等が装着され、また、ブレードはブレードカバーによって覆われている。従って、半導体ウェーハ14の中央部(例えば図7(B)において切削溝が形成されていない部分)においては、第一のブレード22と第二のブレード23とを所定間隔割り出し送りすると切削手段同士が衝突してしまう場合がある。よって、順次割り出し送りされる所定間隔よりも、第一のブレード22と第二のブレード23とが最も接近できる間隔が広い場合には、図6(C)に示すように、切削されない領域は、どちらか片方のブレード、例えば第一のブレード22によって切削を行う。こうして図7(C)に示すように全てのストリートの切削が行われる。
以上のようにして切削することにより、第一のブレード22と第二のブレード23とは同一のストロークで無駄なく同時に各ストリートを切削することができる。」

(1-ホ)図4?6の記載によれば、2本のスピンドルが一直線上で対向配置されることが看取できる。

上記記載事項及び図面の記載からみて、甲第1号証には次の発明(以下、「引用発明1」及び「引用発明2」)が記載されていると認められる。
[引用発明1]
2本のスピンドルとウェーハとを相対的に移動させることにより、2本のスピンドルに装着された2枚のブレードによって前記ウェーハを切削する精密切削装置において、
前記2本のスピンドルは、一直線上で対向配置され、前記2枚のブレードによってウェーハを同時に切削する精密切削装置。
[引用発明2]
2本のスピンドルとウェーハとを相対的に移動させることにより、2本のスピンドルに装着された2枚のブレードによって前記ウェーハを切削する精密切削方法において、
前記2本のスピンドルは、一直線上で対向配置され、前記2枚のブレードによってウェーハを同時に切削する精密切削方法。

2.甲第2号証
(2-イ)段落【0001】
「【発明の属する技術分野】本発明は、ダイシング技術、特に、ダイヤモンドブレードによってダイシングするホイールダイシング技術に関し、例えば、半導体装置の製造工場において、半導体ウエハ(以下、ウエハという。)をダイシングするのに利用して有効な技術に関する。」

(2-ロ)段落【0003】
「ところで、ブレードによる切削方法には、ブレードが切削して行く進行方向側が下側になるように回転されるダウンカット法と、ブレードが切削して行く進行方向側が上側になるように回転されるアッパカット法とがある。ダウンカット法はアッパカット法に比べて切削面の状態が良好になるとともに、ウエハ表面へのチッピング等の影響が出にくいため、現在ではダウンカット法が主流になっている。ダイシング装置においてダウンカット法によってウエハをダイシングするためには、ブレードは進行方向側が下側になるように常に回転させる必要がある。そこで、従来のダイシング装置においては、ブレードは往路だけで切削を実行し、復路では切削を実行せずに単に復帰移動だけするように構成されている。」

(2-ハ)段落【0005】
「【発明が解決しようとする課題】従来のダイシング装置においては、ブレードは往路だけでしか切削を実行しないため、復路の戻り時間は無駄になってしまい、作業能率が低下するという問題点がある。今後、ウエハの大径化やペレットサイズの小形化が進展すると、切削が実行されないブレードの戻り時間のロスはきわめて重大な問題になる。」

(2-ニ)段落【0035】?【0037】)
「図4は本発明の実施形態3であるダイシング装置を示す一部省略斜視図である。
本実施形態3が前記実施形態1と異なる点は、1枚のブレードを180度反転させる代わりに、正回転ブレード19Aおよび逆回転ブレード19Bが互いに平行に並べられてそれぞれ設備されているとともに、一対のZ方向移動装置12A、12Bによって各別に昇降されるように構成されている点にある。
往路の切削に際して、正回転ブレード19Aによってウエハ1がスクライブライン3に沿ってダウンカットされる。次いで、復路の切削に際して、正回転ブレード19Aが往路用Z方向移動装置12Aによって上昇されてウエハ1から離反された後に、復路用Z方向移動装置12Bによって逆回転ブレード19Bが下降され、ウエハ1の次のスクライブライン3が逆回転ブレード19Bによってダウンカットされる。本実施形態3においても、ウエハ1は往路復路のいずれにおいてもダウンカットされるため、前記実施形態1と同様の効果が得られる。」

(2-ホ)段落【0042】?【0043】
「ブレードを往路復路のいずれについても切削して行く進行方向が下側になるように回転させてウエハをダウンカットの状態で切削することにより、切削に際してウエハ表面にチッピング等の悪影響が発生するのを抑制することができるため、往路復路のいずれについてもウエハの切削後の状態を良好に維持することができる。
往路復路のいずれについてもダウンカットするに際して、ブレードの回転を正逆回転させなくて済むため、作業効率が低下するのを防止することができる。」

第7 当審の判断
1.本件発明1について
(1)対比
本件発明1と引用発明1とを対比すると、本件発明1もブレードにより切削を行っていることは明らかであるから、両者の一致点及び相違点は以下のとおりと認められる。
[一致点]
「2本のスピンドルとウェーハとを相対的に移動させることにより、2本のスピンドルに装着された2枚のブレードによって前記ウェーハを切削する装置において、
前記2本のスピンドルは、一直線上で対向配置され、前記2枚のブレードによってウェーハを同時に切削する装置。」である点。
[相違点1]
本件発明1は、2枚のブレードによってウェーハを切断するウェーハ切断装置であるのに対し、引用発明1は、2枚のブレードによってウェーハを切削する精密切削装置である点。
[相違点2]
ピッチ生成手段が、本件発明1では、「前記2本のスピンドルは、夫々ブレード側から見て互いに逆方向に回転され、各スピンドルの回転方向と前記ウェーハの切断送り方向とを一致させ」ているのに対して、引用発明1では、2本のスピンドルの回転方向については特定されていない点。

(2)相違点についての検討
ア.相違点1について
ブレードによってウェーハを切断することは例示するまでもなく従来周知の技術手段であり、引用発明1において、2枚のブレードによってウェーハを切断するウェーハ切断装置とすることに格別困難性は見出せない。

イ.相違点2について
本件発明1において、「前記2本のスピンドルは、夫々ブレード側から見て互いに逆方向に回転され、各スピンドルの回転方向と前記ウェーハの切断送り方向とを一致させ」とすることは、本件特許明細書の段落【0005】における「前者のフルカット方法では、ウェーハの表面に生じるチッピングを抑えるために、スピンドルの回転方向(ブレードの切削点におけるスピンドルの回転方向)とウェーハの切断送り方向とが一致するように設定されている(以下、「ダウンカット」と称する)。」との記載、及び、段落【0028】における「図5は、対向配置(一直線上に配置)された2本のスピンドル34、36を互いに逆方向に回転させながら、ウェーハWをC方向に移動させてウェーハWをダウンカットしている例が示されている。即ち、スピンドル34は、チッピングを抑えるため、図5上矢印A方向から見て時計回り方向に回転され、スピンドル36もチッピングを抑えるため、図5上矢印B方向(A方向と反対方向)から見て反時計回り方向に回転されている。」との記載からみて、「2本のスピンドル」が、それぞれダウンカットとなるようにその回転方向が設定されることに外ならない。
一方、ブレードによってウェーハを切断するウェーハ切断装置において、ウェーハの表面に生じるチッピングを抑えるためにダウンカットを採用することは甲第2号証(上記摘記事項(2-ロ)、(2-ホ)参照)に記載されている他、特開平2-178005号公報第2頁左上欄第12?17行、同右下欄第1?6行、特開平3-36003号公報第1頁左下欄下から4行?右下欄第10行等に記載されているように従来周知の事項にすぎないものである。
そして、2つのブレードによりウェーハを同時に切削する装置において、各ブレードを同じカットモードとなるようにスピンドルの回転方向を設定することも当業者が通常採用する事項にすぎない。
してみると、引用発明1において2本のスピンドルの回転方向を、それぞれダウンカットとなるように設定すること、すなわち、夫々ブレード側から見て互いに逆方向に回転され、各スピンドルの回転方向と前記ウェーハの切断送り方向とを一致させるようにすることは当業者が容易になし得たことである。

また、本件発明1の作用効果についてみても、引用発明1及び上記従来周知の事項から当業者が予測し得る範囲内のものであって、格別顕著なものとはいえない。

したがって、本件発明1は、引用発明1及び上記従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、被請求人は審判事件答弁書及び審判事件答弁書(第2回)において、概略、下記(ア)?(エ)の点について主張している。
(ア)甲第2号証の図3には正回転ブレード19Aと逆回転ブレード19Bとが一直線上に直列に並べられたダイシング装置(甲第2号証段落番号【0032】?【0033】)、図4には正回転ブレード19Aと逆回転ブレード19Bとが互いに平行に並べられたダイシング装置(甲第2号証段落番号【0035】?【0036】)が開示されており、これらは、2枚のブレードで同時に切断するものではないが、一台のダイシング装置に2枚のブレードを備えた構成において各々のブレードの回転方向を正回転とに変えたダイシング装置、すなわち同一方向から見て逆回転に回転するダイシング装置である。このことから、審判請求人は「2枚のブレードを同一方向から見て逆回転に回転することが通常の技術常識に反することは多言を要しない。」と主張しているが、審判請求人が自ら提出した甲第2号証には「2枚のブレードを同一方向から見て逆回転に回転する」ダイシング装置が開示されており、上記審判請求人の主張は成立しない。更に、「単一の被加工物である半導体ウェーハを2枚のブレードによって同時に切断する場合」に、2本のスピンドルを同一方向から見て同一方向に回転させることは必ずしも必要な構成とはいえない。(審判事件答弁書第5頁第27行?第6頁第30行参照)
(イ)請求人の主張は、「甲第2号証の開示に従って2枚のブレードを共にダウンカット方向に回転せしめる」という前提に基づいているが、そもそもこの前提の設定は以下の理由から無理がある、として、
理由1)2枚のブレードを使って切削する場合において、各ブレードのカットモードと各ブレードの切削タイミング(同時か、往路又は復路のみか)との組み合わせは6パターンあり(ハーフカットかフルカットかの条件を追加すればさらに増える)、数多くあるパターンの中から「2枚のブレードを共にダウンカット方向に回転せしめる」を選び出しこれを前提とすることは本発明を知得後、本発明の構成を引き出すために上記前提を恣意的に設定した主張である、
理由2)甲第1号証及び甲第2号証においても上記前提に基づかない切削装置が開示されているという実例から、「甲第1号証に開示されているとおり単一の被加工物である半導体ウェーハを2枚のブレードによって同時に切断するに際し、甲第2号証の開示に従って2枚のブレードを共にダウンカット方向に回転せしめると、必然的に2枚のブレードの回転方向は同一方向から見て同一方向になる。」という主張は当業者の技術常識に基づく主張ではなく、審判請求人による根拠がない架空の前提に基づく主張である、
旨を主張している。(同第6頁下から2行?第8頁第24行参照)
(ウ)甲第2号証では、チッピング等の影響を出にくくするためにダウンカット法を提唱するもので、いかなる場合にもダウンカット法が有効と述べているわけではない。甲第2号証の【0003】の記載は、ダウンカット法について述べているが、単独のブレードでの切削について述べたもので、2枚のブレードの同時切削について示唆するものではない。(審判事件答弁書(第2回)第5頁第10?21行参照)
(エ)甲第2号証の各実施形態と本件特許発明とでは排液の回収に関する思想が異なる。即ち、甲第1号証、甲第2号証のいずれにも、一方向側での切削液の回収、切削液の混入防止、切粉のチップへの付着防止については課題としておらず、したがって切削液を一方側に集める為に、各スピンドルを同方向に回転することは示唆されないから、甲第1号証と甲第2号証の記載を組み合わせても本件特許発明は容易になされない。(同第3頁第12行?第5頁第9行、第5頁下から3行?第6頁21行参照)

しかしながら、(ア)の点については、甲第2号証は、被請求人も認めているように、2枚のブレードで同時に切断するものではなく、往路の切削では正回転ブレード19Aによってダウンカットを行い、復路では逆回転ブレード19Bにより、往路と復路のいずれにおいてもダウンカットを行えるようにしたものである(上記摘記事項(2-ハ)参照)。そうすると、単に、往路と復路で別個のブレードにより切削を行うダイシング装置において2枚のブレードを同一方向から見て逆回転に回転することが開示されていることをもって、審判請求人の「単一の被加工物である半導体ウェーハを2枚のブレードによって同時に切断する場合に、2枚のブレードを同一方向から見て逆回転に回転することが通常の技術常識に反することは多言を要しない。」との主張が成り立たないということはできない。また、以下に述べるように、2枚のブレードで同時に切断するものにおいて2本のスピンドルを同一方向から見て同一方向に回転させることは当業者が普通に採用する事項である。
(イ)の理由1について、被請求人は2枚のブレードを使って切削する場合の各ブレードのカットモードと各ブレードの切削タイミングとの組み合わせは6パターンあるとしている。しかしながら、上記甲第2号証に記載されている、ウェーハの表面に生じるチッピングを抑えるために往路と復路のいずれにおいてもダウンカットを用いるという事項を勘案すれば、2枚のブレードで同時に切削するダイシング装置において、2枚のブレードを一方がダウンカット、他方がアップカットとなるように各ブレードのカットモードと切削タイミングを設定することは通常考え難く、2枚のブレードで同時にダウンカットを行うようカットモードと切削タイミングを設定することは当業者が普通に採用する事項であるというべきである。してみると、「2枚のブレードを共にダウンカット方向に回転せしめる」との前提の設定が無理があるということはできない。
(イ)の理由2についても、甲第2号証は、上述のとおり2枚のブレードで同時に切断するものではないから、上記前提とは異なるパターンを選択している実例ということはできない。また、甲第1号証も、2本のスピンドルの回転方向について記載がされていないだけで、上記前提に基づかない切削装置ということはできない。
(ウ)の点については、上述のとおり、2枚のブレードで同時に切削するダイシング装置において、2枚のブレードを一方がダウンカット、他方がアップカットとなるように各ブレードのカットモードと切削タイミングを設定することは通常考え難く、2枚のブレードで同時にダウンカットを行うようカットモードを設定することは当業者が普通に採用する事項であるというべきである。
さらに(エ)の点について、確かに甲第1号証、甲第2号証のいずれにも、一方向側での切削液の回収について示唆するところはないが、2枚のブレードで同時に切削するダイシング装置において、各ブレードを同じカットモードとなるようにスピンドルの回転方向を設定することが当業者が通常採用する事項にすぎないことは上述のとおりである。そして、各ブレードを同じカットモードにすることにより切削液の回収が一方向側でできることも自明の事項にすぎないから、甲第1,2号証に切削液の回収について示唆されていないことをもって甲第1号証と甲第2号証の記載を組み合わせても本件特許発明が容易になされないということはできない。
よって、被請求人の上記主張は採用することができない。

2.本件発明2について
(1)対比
本件発明2と引用発明2とを対比すると、本件発明2もブレードにより切削を行っていることは明らかであるから、両者の一致点及び相違点は以下のとおりと認められる。
[一致点]
「2本のスピンドルとウェーハとを相対的に移動させることにより、2本のスピンドルに装着された2枚のブレードによって前記ウェーハを切削する方法において、
前記2本のスピンドルは、一直線上で対向配置され、前記2枚のブレードによってウェーハを同時に切削する方法。」である点。
[相違点3]
本件発明1は、2枚のブレードによってウェーハを切断するウェーハ切断方法であるのに対し、引用発明1は、2枚のブレードによってウェーハを切削する精密切削方法である点。
[相違点4]
ピッチ生成手段が、本件発明1では、「前記2本のスピンドルは、夫々ブレード側から見て互いに逆方向に回転され、各スピンドルの回転方向と前記ウェーハの切断送り方向とを一致させ」ているのに対して、引用発明1では、2本のスピンドルの回転方向については特定されていない点。

(2)相違点についての判断
相違点3及び4は、それぞれ実質的に上記相違点1及び2と同じであるので、相違点3及び4についての判断は、上記1(2)において検討したとおりである。
よって、本件発明2は、引用発明2及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第8 むすび
以上のとおり、本件発明1乃至2は、甲第1号証に記載の発明及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1乃至2についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明1乃至2についての特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ウェーハ切断装置及びその方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本のスピンドルとウェーハとを相対的に移動させることにより、2本のスピンドルに装着された2枚のブレードによって前記ウェーハを切断するウェーハ切断装置において、
前記2本のスピンドルは、一直線上で対向配置されるとともに夫々ブレード側から見て互いに逆方向に回転され、各スピンドルの回転方向と前記ウェーハの切断送り方向とを一致させ、前記2枚のブレードによってウェーハを同時に切断することを特徴とするウェーハ切断装置。
【請求項2】
2本のスピンドルとウェーハとを相対的に移動させることにより、2本のスピンドルに装着された2枚のブレードによって前記ウェーハを切断するウェーハ切断方法において、
前記2本のスピンドルを、一直線上で対向配置するとともに夫々ブレード側から見て互いに逆方向に回転させ、各スピンドルの回転方向と前記ウェーハの切断送り方向とを一致させ、前記2枚のブレードによってウェーハを同時に切断することを特徴とするウェーハ切断方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、2本のスピンドルに装着された2枚のブレードを回転させて、半導体ウェーハをダイス状に切断するウェーハ切断装置及びその方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
半導体ウェーハをダイス状に切断するダイシング装置は、スピンドルに装着されたブレードを高速回転させて半導体ウェーハをストリートに沿ってダイス状に切断し、チップ毎に分断する装置である。
【0003】
従来のダイシング装置には、2本のスピンドルを有するデュアル式のダイシング装置が知られている(特開平8-25209号公報、実開昭59-156753号公報等)。このダイシング装置によれば、2枚のブレードで半導体ウェーハの2本のストリートを同時に切断することができるので、半導体ウェーハの切断時間を短縮することができるという利点がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記従来のデュアル式のダイシング装置は、スピンドルを1本から2本に増やすことで切断時間を略半分に短縮することが可能であるが、それ以上に切断効率を向上させる点やウェーハを高品質高スループットで切断する点については期待できないという欠点があった。
【0005】
ところで、ダイシング装置では、1枚のブレードでストリートをフルカットする方法と、2枚の異種ブレードを使用してストリートを2段カット(1枚目のブレードでハーフカットし、2枚目のブレードでフルカット)する方法がある。前者のフルカット方法では、ウェーハの表面に生じるチッピングを抑えるために、スピンドルの回転方向(ブレードの切削点におけるスピンドルの回転方向)とウェーハの切断送り方向とが一致するように設定されている(以下、「ダウンカット」と称する)。また、後者の2段カット方法のハーフカット時においてはやはり表面のチッピングを抑えるため、フルカット方法と同じ回転方向に設定されているが、2枚目のブレードでフルカットする場合には、ウェーハの裏面に生じるチッピングを抑えるために、スピンドルの回転方向とウェーハの切断送り方向とが逆方向に設定されている(以下「アップカット」と称する)。
【0006】
更に、このようなダウンカットによるフルカット又はダウンカット及びアップカットによる2段カットにおいても、スループットを向上させる観点から、ウェーハは往方向移動時に切断され、復方向移動時にはブレードを上方向に逃がして切断加工を行わず、ウェーハは切断開始位置に高速復帰移動される。要するに、双方向で高品質切断加工を実施しようとすると、往復共夫々1枚のブレードで加工するか又は高速で回転しているスピンドルを逆転させる必要があり、いずれにしてもスループットは低下する。
【0007】
一方、ダイシング装置では、ブレードの切削点に切削液を供給しながら切断加工を実施しているが、この切削液の供給に関しても、半導体ウェーハを精度よく切断する観点から適切で確実な供給が要求されている。
【0008】
しかしながら、前記従来のデュアル式のダイシング装置のように、単にスピンドルを2本配置しただけのものでは、スピンドルの相互位置と回転方向によっては、一方のブレードに供給された切削液の排液が他方のブレードの切削液供給に悪影響を与えたり、あるいは各々のブレードの切削点に供給された切削液の排液同士が混ざり合って散乱するので、この散乱した排液に邪魔されて切削液を切削点に確実に供給することができないという欠点があった。また、排液が散乱すると、排液に混入している切削粉が切削点に入ってチッピングを引き起こしたり、あるいは切削粉がチップに付着するので、チップに悪影響を与えるという欠点もあった。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、2本のスピンドルを有するウェーハ切断装置であって、ウェーハを効率よく切断することができるとともに高品質高スループットを図ることができるウェーハ切断装置及びその方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、前記目的を達成するために、2本のスピンドルとウェーハとを相対的に移動させることにより、2本のスピンドルに装着された2枚のブレードによって前記ウェーハを切断するウェーハ切断装置において、前記2本のスピンドルは、一直線で対向配置されるとともに夫々ブレード側から見て互いに逆方向(夫々ブレード側から見て時計方向と反時計方向)に回転され、各スピンドルの回転方向と前記ウェーハの切断送り方向とを一致させ、前記2枚のブレードによってウェーハを同時に切断することを特徴としている。
本発明は、前記目的を達成するために、2本のスピンドルとウェーハとを相対的に移動させることにより、2本のスピンドルに装着された2枚のブレードによって前記ウェーハを切断するウェーハ切断方法において、前記2本のスピンドルを、一直線で対向配置するとともに夫々ブレード側から見て互いに逆方向(夫々ブレード側から見て時計方向と反時計方向)に回転させ、各スピンドルの回転方向と前記ウェーハの切断送り方向とを一致させ、前記2枚のブレードによってウェーハを同時に切断することを特徴としている。
【0011】
2本のスピンドルを有し、該2本のスピンドルとウェーハとを相対的に移動させることにより、2本のスピンドルに装着された2枚のブレードによって前記ウェーハを切断するウェーハ切断装置において、前記2本のスピンドルは、各々の回転方向が切り換えられるように構成されている。
【0012】
2本のスピンドルを有し、該2本のスピンドルとウェーハとを相対的に移動させることにより、2本のスピンドルに装着された2枚のブレードによって前記ウェーハを切断するウェーハ切断方法において、前記2本のスピンドルは、各々の回転方向が切り換えられるように構成され、該2本のスピンドルを、互いに逆方向に回転させてウェーハを切断する。
【0013】
2本のスピンドルを有し、該2本のスピンドルとウェーハとを相対的に移動させることにより、2本のスピンドルに装着された2枚のブレードによって前記ウェーハを切断するウェーハ切断方法において、前記2本のスピンドルは、各々の回転方向が切り換えられるように構成され、該2本のスピンドルを、同一方向に回転させてウェーハを切断する。
【0014】
請求項1、2に記載の発明によれば、一直線上に対向配置された2本のスピンドルを互いに逆方向に回転させるとともに、2本のスピンドルとウェーハとを相対的に移動させて2枚のブレードでウェーハをダウンカット又はアップカットする。このように、一直線上に対向配置された2本のスピンドルを互いに逆方向に回転させると、各々のブレードの切削点に供給されている切削液の排液が同一方向に排出されるので、排出側一方向にのみ排液飛散防止カバー等を設ければよく、構造が簡単である。また、本発明は、同一カットモード(ダウンカット又はアップカット)で切断する場合、2本のスピンドルを同方向に回転させるものと比較してスループットが高くなる(図5)。
【0015】
一方、2本のスピンドルを平行に配置した場合には、2枚のブレードを同一切削ライン上に配置したときに各々の切削液は混ざり合うことなく逆方向に排出されるので隣のブレードに対して悪影響を及ぼさない。よって、切削液を切削点に確実に供給することができる(図10)。また、2本のスピンドルを前後にシフトして平行に配置した場合には、1枚目のブレードでダウンカットし、2枚目の異種ブレードでアップカットを同時にできるので、高品質高スループットを図ることができる(図11)。
【0016】
2本のスピンドルを有し、2本のスピンドルの回転方向を切り換えられるように構成された装置であり、更にこの切り換えをプログラム設定可能としたダイシング装置をも含むものであって、2本のスピンドルを対向配置し互いに逆回転した場合には、請求項1に記載の発明と同様に、切削液の排液処理構造を簡素化することができるとともに、同一カットモードで切断する場合高スループットを図ることができる。更に2本のスピンドルを同方向に回転した場合、1段目のダウンカットと2段目のアップカットを同時にでき、異種ブレードでの2段カットを高品質高スループットで行うことができる。一方、2本のスピンドルを並列配置した場合で互いに逆回転した場合、2枚のブレードを1直線上に配置したとき、切削液が互いに干渉しない。更に、2枚のブレードをスピンドル軸方向前後にシフトして配置させることにより、1枚目のブレードでダウンカットし、2枚目の異種ブレードでアップカットを同時にできるので、2段カットで高品質高スループットを図ることができる。又、並列配置で同方向回転の場合は排液飛散防止構造を簡略化できると共に、同一カットモード切断において高スループットが図れる(図12)。
【0017】
2本のスピンドルを互いに逆方向に回転させてウェーハを切断すると、2本のスピンドルを対向配置した場合には、排液処理構造の簡素化が図れると共に、同一カットモードで切断するときに同方向回転に比べ高スループットが図れる(図5)。
【0018】
また2本のスピンドルを並列配置した場合、切削液が互いに干渉しないようにできるので、切削液を切削点に確実に供給できる。また2枚のブレードを前後にシフトして配置することにより、2段カットを高品質高スループットで行うことができる(図11)。
【0019】
2本のスピンドルを同一方向に回転させてウェーハを切断する場合において、2本のスピンドルを対向配置した場合には、1枚目のブレードでダウンカットし、2枚目の異種ブレードでアップカットを同時にできるので、高品質高スループットを図ることができる(図7)。また、2本のスピンドルを並列配置した場合には、同一カットモード(ダウンカット又はアップカット)で切断したきに、スループットが高くなると共に排液処理構造の簡素化が図れる(図12)。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下添付図面に従って本発明に係るウェーハ切断装置及びその方法の好ましい実施の形態について詳説する。
【0021】
図1は本発明が適用された半導体ウェーハのダイシング装置10の斜視図であり、図2はその平面図である。図1に示すように、ダイシング装置10は、主として切断部12、洗浄部14、カセット収納部16、エレベータ部18、及び搬送装置20等から構成されている。
【0022】
このダイシング装置10によるウェーハWの切断工程について説明すると、まず、カセット収納部16には粘着シートを介してフレームに貼られたウェーハが複数枚収納されている。加工前のウェーハWは、エレベータ部18によって順次引き出され、そして、引き出されたウェーハWは図2に示す位置P4にセットされる。次に、このウェーハWは、搬送装置20によって位置P1のプリロードステージを介して切断部12の不図示のカッティングテーブル(位置P2)上に載置される。ここで、ウェーハWはカッティングテーブルに吸着保持される。吸着保持されたウェーハWは、アライメント用撮像装置22、24によってウェーハW上のパターンが画像認識され、これに基づいてアライメントされる。
【0023】
そして、アライメントされたウェーハWは図2に示す、切断部12の矢印A、Bで示すY軸方向移動と図示しない紙面と垂直なZ軸方向移動、及びカッティングテーブルの矢印C、Dで示すX軸方向移動との複合動作によってチップに切断される。先ずカッティングテーブルがX軸方向に移動して2本のストリートが切断刃ユニット26、28の2枚のブレード30、32によって同時に切断される。最初の2本のストリートが切断されると、切断刃ユニット26、28をストリートのピッチ分だけY軸方向に移動させ、そして、カッティングテーブルを再びX軸方向に移動させることにより次の2本のストリートが2枚のブレード30、32によって切断される。なお、1本のストリートを2段カットする場合には、最初のブレードはハーフカットのみを行い、次のブレードはフルカットのみを行って2段カットを遂行する。このような切断動作を繰り返して行い、一方向(X方向)の全てのストリートの切断が終了すると、カッティングテーブルを90°回動させて、前記切断したストリートに直交する他方向(図2上でY方向)のストリートを2枚のブレード30、32によって順次切断する。これにより、ウェーハWはダイス状に切断され、チップ毎に分断される。
【0024】
切断終了したウェーハWは、カッティングテーブルの移動で位置P2に戻された後、搬送装置20によって位置P3の洗浄部14のスピナテーブルに搬送される。ここでウェーハWは、洗浄水により洗浄された後、エアブローによって乾燥される。乾燥したウェーハWは、搬送装置20によって位置P4に搬送され、エレベータ部18によってカセット収納部16に収納される。以上が前記ダイシング装置10による1枚のウェーハWの切断工程である。
【0025】
切断部12の切断刃ユニット26、28は図3の如く、高周波モータが内蔵されたスピンドル34、36、及びスピンドル34、36の先端部に装着されたブレード30、32を有している。これらの切断刃ユニット26、28の2本のスピンドル34、36は、対向配置されるとともに各々の軸心がY軸方向と一致する位置に設置されている。また、切断刃ユニット26、28は、ホルダ42、44を介してスピンドル移動機構46に連結され、スピンドル移動機構46によってY軸方向に各々独立して移動される。このスピンドル移動機構46は、リニアモータを適用しており、その詳細な構成は周知であるのでここでは省略する。
【0026】
図4は、切断刃ユニット26の先端部の詳細図である。切断刃ユニット28は切断刃ユニット26と同様の構造なので、切断刃ユニット28の説明は省略する。切断刃ユニット26のブレード30は、フランジカバー48と称されるカバーによって上部が覆われており、このフランジカバー48に冷却水供給用チューブ50、及び切削水供給用チューブ52が接続されている。冷却水供給用チューブ50は、フランジカバー48の下部に設けられた一対のL字状ノズル54、54に連結されている。一対のノズル54、54は、ブレード30を挟むように並設されるとともに、ノズル54、54の噴射口(不図示)が、ブレード30によるウェーハWの切削部に向けて形成されている。したがって、冷却水供給用チューブ50から供給された冷却液56は、ノズル54の噴射口から前記切削部に供給される。また、切削水供給用チューブ52から供給された切削液58は、フランジカバー48の内側に設けられたノズル60からブレード30の刃先に供給されて付着され、付着された状態でブレード30によるウェーハWの切削点に供給される。
【0027】
次に、前記の如く構成された切断刃ユニット26、28によるウェーハWの切断方法について、図5?図7を参照しながら説明する。
【0028】
図5は、対向配置(一直線上に配置)された2本のスピンドル34、36を互いに逆方向に回転させながら、ウェーハWをC方向に移動させてウェーハWをダウンカットしている例が示されている。即ち、スピンドル34は、チッピングを抑えるため、図5上矢印A方向から見て時計回り方向に回転され、スピンドル36もチッピングを抑えるため、図5上矢印B方向(A方向と反対方向)から見て反時計回り方向に回転されている。
【0029】
このような条件のもと、ウェーハWをC方向に移動させると、2枚のブレード30、32によって2本のストリートが同時にフルカットされていき、その2本のストリートにカットラインL1、L2が形成されていく。
【0030】
図6は、2本のストリートをフルカットした時の、ウェーハWと切断刃ユニット26、28の位置関係を示す図である。この後、次の2本のストリートをフルカットする場合には、ブレード30、32をZ方向に逃がした後各々ストリートの1ピッチ分Y方向に移動させるとともに、ウェーハをD方向に高速で移動させて切断開始位置に位置させる。この後ブレード30、32をZ方向に戻し、ウェーハWをC方向に低速で移動させると、2枚のブレード30、32によって次の2本のストリートが同時にフルカットされる。
【0031】
このように、本実施の形態の切断刃ユニット26、28によれば、対向配置された2本のスピンドル34、36を互いに逆方向に回転させたので、各々のブレード30、32の切削点に供給されている切削液(排液)58、58が図5上矢印で示すように同方向(ブレード30、32の回転方向側)に排出されるので、排液飛散防止カバー等の排液処理構造を簡素化できる。また、本実施の形態は、同一カットモード(ダウンカット又はアップカット)で切断する場合、2本のスピンドルを同方向に回転させるものと比較してスループットが高くなる。
【0032】
図7は、2本のスピンドル34、36を対向配置するとともに、2本のスピンドル34、36を同方向に回転させた一対の切断刃ユニットの例が示されている。この例では、図8、図9の如く、1枚目のブレード30でウェーハWをダウンカット(図8(A))して、ウェーハWにハーフカットのカットラインLaを形成し、2枚目の異種ブレード32でカットラインLa内をアップカット(図8(B))して、ウェーハWにフルカットのカットラインLbを形成する。この切断方法によれば、最初の複数本のカットは、ブレード30のみで行い、この後、ブレード30でカットされたカットラインLaをブレード32でフルカットする。この時のフルカットは、ブレード30によるハーフカットと同時に実施できるので、高品質高スループットを図ることができる。
【0033】
図10は、2本のスピンドル34、36を並列配置した一対の切断刃ユニットの例が示されている。この切断刃ユニットにおいても、各々のスピンドル34、36を互いに逆方向に回転させると、各々の切削液58、58は混ざり合い干渉することなく、図10上矢印で示すように逆方向に排出されるので他方に対して悪影響を及ぼさない。よって、2本のスピンドル34、36を並列配置した切断部でも、切削液58、58を切削点に確実に供給することができる。したがって、ウェーハWに焼きつき等の切断不良が全く発生せず、また切断部に切粉も混入せずウェーハWを精度よく切断することができる。
【0034】
図11は、2本のスピンドル38、40を並列配置するとともにY方向に所定量ずらして配置した一対の切断刃ユニットの例が示されている。この切断刃ユニットにおいても、各々のスピンドル34、36を互いに逆方向に回転させると、各々の切削液58、58は混ざり合うことなく、図11上矢印で示すように逆方向に排出されるので散乱しない。よって、ウェーハWを精度よく切断することができる。
【0035】
また、図11の切断刃ユニットにおいても、1枚目のブレード32でウェーハWをダウンカットして、ウェーハWにハーフカットラインを形成し、2枚目の異種ブレード30でハーフカットラインをアップカットして、ウェーハWにフルカットのカットラインを形成することができる。この切断方法によれば、最初の複数本のカットは、ブレード32のみで行い、この後、ブレード32でカットされたハーフカットラインをブレード30でフルカットする。この時のフルカットは、ブレード32によるハーフカットと同時に実施できるので、高品質高スループットを図ることができる。なお、ブレード30、32を図11の回転方向に対して逆転させた場合、2本のスピンドル34、36はY方向に所定量ずらして配置されているので、各々の切削液58、58は混ざり合うことなく排出される。よって、この場合も同様にウェーハWを精度よく切断することができる。また、この場合には、ブレード30でハーフカットを行い、ブレード32でフルカットを行う。
【0036】
図12は、2本のスピンドル38、40を並列配置するとともにY方向に所定量ずらして配置し、且つ、2本のスピンドル38、40を同方向に回転させた一対の切断刃ユニットの例が示されている。この切断刃ユニットにおいても、2本のスピンドル38、40はY方向に所定量ずらして配置されているので、各々の切削液58、58は混ざり合うことなく排出される。よって、この切断刃ユニットも同様にウェーハWを精度よく切断することができる。更にブレード30、32に供給された切削液は同一方向に排出されるので、飛散防止カバー等の構造を簡素化できる。また、この切断刃ユニットは、同一カットモード(ダウンカット又はアップカット)で切断する場合、スループットが高くなる。
【0037】
【発明の効果】
以上説明したように本発明に係るウェーハ切断装置及びその方法によれば、2本のスピンドルを有するダイシング装置において、2本のスピンドルが一直線上に配置された場合及び平行に配置された場合の2本のスピンドルの最善の回転方向を規定したので、装置の構造を簡素化でき、更にウェーハを効率よく切断することができるとともに高品質高スループットを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明が適用されたダイシング装置の全体斜視図
【図2】図1に示したダイシング装置の平面図
【図3】図1に示したダイシング装置の切断部の構造を示す平面図
【図4】図3に示した切断部の切断刃ユニットの構造を示す斜視図
【図5】図3に示した切断部によるウェーハ切断方法を示す説明図
【図6】図3に示した切断部で2本のストリートが切断された状態を示す説明図
【図7】対向する2本のスピンドルでストリートを2段カットする切断部の平面図
【図8】図7に示した切断部で2段カット方法を実施した説明図
【図9】2段カット方法で切断された半導体ウェーハの拡大断面図
【図10】2本のスピンドルを並列配置した切断部の構造を示す平面図
【図11】2本のスピンドルを並列配置するとともにY方向にずらして配置し、且つ2本のスピンドルを逆方向に回転させた切断部の構造を示す平面図
【図12】2本のスピンドルを並列配置するとともにY方向にずらして配置し、且つ2本のスピンドルを同方向に回転させた切断部の構造を示す平面図
【符号の説明】
W…半導体ウェーハ、10…ダイシング装置、12…切断部、26、28…切断刃ユニット、30、32…ブレード、34、36…モータ、38、40…スピンドル、46…スピンドル移動機構、56…冷却液、58…切削液
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2006-10-11 
結審通知日 2006-10-18 
審決日 2006-10-31 
出願番号 特願2000-40981(P2000-40981)
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 塩澤 正和  
特許庁審判長 前田 幸雄
特許庁審判官 菅澤 洋二
中島 昭浩
登録日 2005-09-22 
登録番号 特許第3722271号(P3722271)
発明の名称 ウェーハ切断装置及びその方法  
代理人 小野 尚純  
代理人 奥貫 佐知子  
代理人 飯田 隆  
代理人 松浦 憲三  
代理人 松浦 憲三  

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