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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23L
管理番号 1150465
審判番号 不服2004-15045  
総通号数 87 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-09-02 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-07-20 
確定日 2007-01-04 
事件の表示 平成8年特許願第510690号「運動競技の間の水分補給および栄養摂取の用途のための組成物ならびにその製造法」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 3月28日国際公開、WO96/08979、平成10年9月 2日国内公表、特表平10-508744〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯・本件発明

本件出願は、平成7年9月21日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1994年9月22日、米国)を国際出願日とする出願であって、その請求項1乃至6に係る発明は、平成16年8月19日付けの手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至6に記載された事項により特定されるところ、請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。(以下、「本件発明1」という。)
「【請求項1】実質的に等張な溶液の形で、経口摂取に適した炭水化物を基調としたスポーツ飲料組成物であって、蒸留した脱イオン水の中に、炭水化物、腸管を通じての水の取込みを増強する、1以上の塩、及びアミノ酸基を含み、トレハロースが、存在する炭水化物の少なくとも主要な割合を占め、且つ、トレハロースの量が、水100mlあたり5?11.34gであることを特徴とするスポーツ飲料組成物。」

2.引用例記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本件の出願日前に頒布された刊行物であるカナダ国特許出願公開第2119070号明細書(以下、「引用例1」という。)には、(a)「1.還元性を示す澱粉部分分解物に非還元性糖質生成酵素を作用させる方法により製造されたトレハロースを有効成分とする糖質からなるエネルギー用糖源。・・・5.エネルギー用糖源が、経口又は非経口使用のためのものであることを特徴とする請求項1記載のエネルギー用糖源。・・・」(クレーム)が記載され、(b)「エネルギー用糖源としては、古くから、グルコース、フラクトースなど還元性を示す糖質が利用されてきた。しかしながら、これら還元性を示す糖質は、その還元性のため保存安定性が悪く、通常、アミノ酸、ビタミンなど他の栄養物質などの共存下において一層不安定なものとなる。」(明細書第1頁下から13?7行)こと、(c)「・・・さらに、このような新規生化学的手段により製造されたトレハロースは、還元性を示さない安定な糖質であることから、より広範な用途に向けることのできる全く新しいエネルギー用糖源であることを見い出し、加えて、このトレハロースを有効成分として含有せしめたエネルギー補給用組成物を確立して、本発明を完成した。また、本発明のエネルギー補給用組成物は、トレハロースが還元性を示さず、安定性が高いことから、他の栄養物質、薬効物質などを併用して、より総合的な栄養組成物にすることも、また、より治療効果を高めた医薬組成物にすることも有利に実施できる。」(明細書第3頁第19行?第4頁第4行)こと、(d)「本発明のエネルギー補給用組成物は、トレハロース単体であってもよいが、通常、トレハロースとともに、目的に応じて他の可食性又は生体に投与可能な物質、例えば、蛋白質、アミノ酸、脂質、他の糖質、ビタミン、ミネラルなどの薬効物質、又は抗菌物質、酵素、ホルモン、サイトカインなどの薬効物質などから選ばれる1種又は2種以上を含有せしめて製造される。この際、必要ならば他の適宜の物質、例えば、呈味料、着色料、着香料、安定剤、増量剤、賦形剤などの1種又は2種以上を使用することも随意であり、また、得られる組成物を目的に応じて適宜の形状に選択することも随意である。このようにして得られるエネルギー補給用組成物は、経口的また非経口的に使用され、毒性、副作用の懸念もなく、よく代謝利用され、生体へのエネルギー補給に有利に利用することができる。本発明のエネルギー用糖源の使用量は、固形物当たり、トレハロースとして、大人1日当たり約1乃至1,000グラム、好ましくは、約5乃至500グラムの範囲から適宜選択される。」(明細書第7頁下から3行?第8頁第16行)こと、(e)「図1、図2の結果から明らかなように、トレハロースはやや遅れる傾向があるもののグルコースと同様の挙動を示し、血糖値、インスリン値ともに、投与後、約30乃至45分間で最大値を示した。従って、経口投与によるトレハロースは、実験2の生体外での消化性試験結果とは違って、生体内で容易に消化吸収、代謝利用されて、エネルギー源になることが判明した。」(明細書第14頁第7?16行)こと、(f)「実施例6 乳酸飲料 脱脂乳10重量部を80℃で20分間加熱殺菌した後、40℃に冷却し、これにスターター0.3重量部を加えて約37℃で10時間醗酵させた。次いで、これをホモジナイズした後、実験1-3の方法で製造した結晶性トレハロース粉末4重量部、蔗糖1重量部及び異性化糖シラップ2重量部を加えて70℃に保って殺菌した。これを冷却し、適量の香料を加え、ビン詰めして製品を得た。本品は、風味、甘味が酸味とよく調和した高品質の乳酸飲料であるとともにエネルギー補給用組成物として有利に利用できる。 実施例7 粉末ジュース 噴霧乾燥により製造したオレンジ果汁粉末33重量部に対し、実験1-2の方法で製造したトレハロース含水結晶50重量部、蔗糖10重量部、無水クエン酸0.65重量部、リンゴ酸0.1重量部、L-アスコルビン酸0.1重量部、クエン酸ソーダ0.1重量部、プルラン0.5重量部、粉末香料適量をよく混合撹拌し、粉砕し微粉末にしてこれを流動層造粒機に仕込み、排風温度40℃、風量毎分150m3とし、これに市販のトレハロースから調製したトレハロース高含有溶液をバインダーとしてスプレーし、30分間造粒し、計量、包装して製品を得た。本品は、果汁含有率約30%の粉末ジュースである。また、本品は異味、異臭がなく、吸湿固結も起こさず長期に安定であり、エネルギー補給用組成物として有利に利用できる。」(明細書第20頁下から9行?第22頁第1行)こと、(g)「実施例11 輸液剤 実験1-2の方法で製造したトレハロース含水結晶と下記の組成のアミノ酸配合物とがそれぞれ5w/v%、30w/v%になるように水に混合溶解し、次いで実施例10と同様に精製してパイロジェンフリーとし、更に、プラスチック製バックに充填し施栓して製品を得た。・・・本品は、糖質とアミノ酸との複合輸液剤にもかかわらず、トレハロースが還元性を示さないため、経日変化もなく安定な輸液剤で、静脈内、腹腔内などへ投与するのに好適である。本品は、エネルギー補給用組成物として、エネルギー補給のみならず、アミノ酸補給のためにも有利に利用できる。」(明細書第23頁下から5行?第24頁最終行)ことが記載されている。
同じく、特開平6-72883号公報(以下、「引用例2」という。)には、(h)「【請求項1】糖質カロリー源としてトレハロースを含有することを特徴とする栄養輸液剤。」(【特許請求の範囲】)が記載され、(i)「従来より、栄養輸液剤の糖質カロリー源として、グルコース、フルクトース、マルトース、ソルビトール、キシリトール等が用いられている。しかし、これらの糖質は、水溶液状態での安定性、生体での利用率あるいは安全性の面から、必ずしも満足なものとは言えない。・・・グルコース等の単糖類の場合、一定量の輸液剤投与でカロリー量を増加させたいとき、上げ得る濃度の範囲は、浸透圧の問題から、二糖類で可能な濃度の約2分の1までという制約がある。」(段落【0002】?【0004】)こと、(j)「本発明の栄養輸液剤は、トレハロースのほか、電解質、ビタミン類等必要な栄養素を含ませることができる。例えば、好ましい製剤として、1000ml中、10?500gのトレハロースと共に、電解質に含まれる下記の元素を下記の濃度範囲内で1種又は2種以上配合したものを挙げることができる。・・・」(段落【0009】)こと、(k)「【発明の効果】トレハロースは、水溶液のpHが7前後でも十分安定な二糖類であり、生体での利用率がよく、しかも安全性が高い。したがって、本発明によれば、必要に応じて糖質の高濃度化が図れ、pHを5.5以上に調整できることから、中心静脈から投与する高カロリー輸液の基本液として、あるいは末梢静脈から投与する中カロリー輸液剤として、極めて有用な栄養輸液剤を提供することができる。」(段落【0028】)ことが記載されている。
更に、本件の出願日前に頒布された刊行物である、河野知美編「水・飲料」新食品事典II、株式会社真珠書院発行(1992年10月20日)第78頁および190?191頁(以下、「周知例」という。) の、(l)第78頁のアイソトニック飲料の項には、「人間の体液に非常に近い浸透圧になるように無機質などの成分を調整した飲料。スポーツ飲料(→)として用いるものが多い。アイソトニック(isotonic)とは浸透圧が同じ(等張)という意味である。一九六五年にアメリカのフロリダ大学のロバート-ケードによって“水に糖分と無機質を加え体液の浸透圧に近い状態にすると、単に水だけの場合よりも水分や無機質などの体内への吸収が速やかである”ことが発表された。・・・ その後、アメリカ・ヨーロッパで、一九八〇年(昭和五五)には日本でも各種のスポーツ飲料が商品化された。これらの多くのものが、ゲータレードのように、水分に無機質・糖分などを配合して体液に近い浸透圧のものにしている。・・・」と、(m)第190?191頁のスポーツ飲料の項には、「スポーツをしたときに激しい運動による発汗作用で失われた体液の補充を目的とした飲料。水にナトリウム・カリウム・カルシウム・塩素・マグネシウム・リンなどの無機質や、ブドウ糖・果糖などの糖類、ビタミンB1・B2・Cなどのビタミン類、その他クエン酸、果汁、香料などを加えたものが多い。・・・発汗時の水分の補給という点では、通常の水でよいわけであるが、この飲料は、激しいスポーツによって汗とともに失う無機質や、体内で消耗するビタミン類を同時に補うことを目的としている。また、水分や無機質の吸収を早くするために、飲料中のナトリウム・カリウム・塩素など、イオンとしてとけている電解質の量や質を調節して、人体の体液の浸透圧と等しくしたもの(等張液という)が多い。このようにして飲料は別名アイソトニック飲料(→)と呼ばれる。糖分については通常の清涼飲料よりも控えめにしてあっさりした味にしたものと、エネルギー補給を目的に糖分をある程度加えたものとがある。水分を早く吸収させるには糖分は少ない方がよい。・・・スポーツ飲料には水分補給を主目的としたものが多いが、スポーツ後の疲労回復を目的としてタンパク質や各種栄養素を配合したものもある。また、スポーツ時のみの飲料ではなく仕事での発汗時や疲労回復に、あるいは肥満防止のために飲まれることも多い。形態は缶入り・びん入り・紙容器入りのほか、水でうすめて飲む粉末のものもある。」と記載されている。

3.対比・判断

本件発明1は、スポーツ飲料において、蒸留した脱イオン水の中に、炭水化物、腸管を通じての水の取込みを増強する、1以上の塩、及びアミノ酸基を配合し、トレハロースが、存在する炭水化物の少なくとも主要な割合を占め、且つ、トレハロースの配合量を、水100mlあたり5?11.34gとすることにより、実質的に等張な溶液の形で、経口摂取に適した炭水化物を基調としたスポーツ飲料を得るものである。
これに対して、引用例1には、トレハロースは、還元性を示さず、安定性が高いことから、他の栄養物質、薬効物質などを併用して、より総合的なエネルギー補給用栄養組成物にすることができること(上記記載事項(c))、エネルギー補給用組成物は、トレハロースとともに、目的に応じてアミノ酸、他の糖質等の他の可食性又は生体に投与可能な物質を含有することができ、経口的また非経口的に使用され、毒性、副作用の懸念もなく、よく代謝利用され、生体へのエネルギー補給に有利に利用することができること(上記記載事項(d))、具体的には乳酸飲料や粉末ジュース(上記記載事項(f))、輸液剤(上記記載事項(g))に供されることが記載されていることから、引用例1には、「トレハロースと水と、アミノ酸、他の糖質等の物質を含有し、経口的に使用され、毒性、副作用の懸念もなく、よく代謝利用される生体へのエネルギー補給用飲料。」が記載されているといえる。
本件発明1と引用例1に記載された発明(以下、「引用例発明」という。)とを対比すると、両者は、「経口摂取に適した炭水化物を基調とした飲料組成物であって、水の中に、炭水化物、アミノ酸基を含み、トレハロースが、存在する炭水化物の少なくとも主要な割合を占める飲料組成物」である点で一致し、
(A)飲料について、前者が、「実質的に等張な溶液のスポーツ飲料」と特定しているのに対して、後者がそうでない点
(B)水について、前者が「蒸留した脱イオン水」と特定しているのに対して、後者がそうでない点
(C)前者が、「腸管を通じての水の取込みを増強する、1以上の塩」を含有すると特定しているのに対して、後者がそうでない点
(D)トレハロースの配合量について、前者が、「水100mlあたり5?11.34g」と特定しているのに対して、後者がそうでない点
で相違している。
そこで、上記相違点について検討する。

相違点(A)
上記記載事項(l)及び(m)のとおり、スポーツ飲料は、人間の体液に非常に近い浸透圧になるように無機質などの成分を調整したもの即ち実質的に等張な溶液の飲料であり、水分補給を主目的としたものが多いが、エネルギー補給を目的に糖分をある程度加えたものやタンパク質や各種栄養素を配合したものもあることは周知のことである。
加えて、引用例2には、上記記載事項(i)のとおり、栄養輸液剤ではあるが糖源として、トレハロースは、グルコースに比べて浸透圧の関係から高濃度に配合できることも記載されている。
ところで、引用例発明も、周知のスポーツ飲料も、共にエネルギー補給を目的とした飲料であることから、引用例発明のエネルギー補給用飲料を実質的に等張な溶液のスポーツ飲料とすることに格別の困難性は見出せず、それを妨げる特段の理由も見出せない。

相違点(B)
スポーツ飲料に供する水として、蒸留した脱イオン水を使用することは周知のことであるから、引用例発明のエネルギー補給用飲料をスポーツ飲料にする際に、水を蒸留した脱イオン水を使用することに格別の困難性は見出せない。

相違点(C)
上記記載事項(l)のとおり、スポーツ飲料において、水分に無機質・糖分などを配合して体液に近い浸透圧のものすることは周知のことであるから、腸管を通じての水の取込みを増強するために、引用例発明のエネルギー補給用飲料をスポーツ飲料にする際に、トレハロースとともに塩類を添加することに格別の困難性は見出せず、それを妨げる特段の理由も見出せない。

相違点(D)
上記記載事項(m)のとおり、スポーツ飲料の糖分は、エネルギー補給、味等を考慮して増減するものである。
そうすると、トレハロースの量は、必要とするエネルギー量、甘み、浸透圧等を考慮して、当業者が適宜最適化するものであるから、引用例発明のエネルギー補給用飲料をスポーツ飲料にする際に、トレハロースの量について、「水100mlあたり5?11.34g」とすることは当業者が容易になし得るところであり、それにより当業者が予期し得ない効果を奏するものでもない。
なお、引用例2は、非経口の栄養輸液剤に関するものではあるが、上記記載事項 (j)のとおり、トレハロースは、1000ml中、10?500g配合されており、本件発明1におけるトレハロースの配合割合と重複するものである。

そして、本件発明1の明細書記載の効果も、引用例1乃至2及び周知技術から当業者が予期しうる効果にすぎず、格別のものとすることはできない。

したがって、本件発明は、本件の出願日前に頒布された引用例1乃至2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび

以上のとおり、本件発明1は、その出願前日本国内において頒布された上記の引用刊行物1乃至2に記載された発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項に係る発明については判断するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-08-07 
結審通知日 2006-08-08 
審決日 2006-08-24 
出願番号 特願平8-510690
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 恵理子  
特許庁審判長 河野 直樹
特許庁審判官 阪野 誠司
鵜飼 健
発明の名称 運動競技の間の水分補給および栄養摂取の用途のための組成物ならびにその製造法  
代理人 特許業務法人ウィンテック  

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