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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K
管理番号 1150503
審判番号 不服2005-10712  
総通号数 87 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-04-14 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-06-09 
確定日 2007-01-12 
事件の表示 平成 8年特許願第269077号「永久磁石式2相回転電機」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 4月14日出願公開、特開平10- 98864〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯・本願発明
本願は、平成8年9月20日の出願であって、その請求項1乃至3に係る発明は、平成13年7月18日付けの手続補正書及び平成16年5月21日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりである。
「所定厚さの円筒状の内外面夫々各同数に、N極とS極を交互に着磁し回転子軸(3)に平行に形成し結合した円筒状永久磁石(1)を備えた回転子(R)、
この回転子軸(3)に平行に形成した第1の環状コイル(7)を、インナクローポール用インナピース(8)を形成する円板部及び櫛歯状磁歯と、インナクローポール用アウタピース(9)を形成する円板部及び櫛歯状磁歯とで相互に逆方向から包含し、
前記インナクローポール用インナピース(8)と前記インナクローポール用アウタピース(9)の夫々の櫛歯状磁歯の先端部を反対方向から交互に組合せて前記永久磁石(1)の内周面に所定幅のエアギャップを介して配置し内部固定子(S1)を構成するインナクローポール、
前記永久磁石(1)の一方端部に回転子軸(3)に平行に形成した第2の環状コイル(11)を、アウタクローポール用インナピース(12)を形成する円板部と、アウタクローポール用アウタピース(13)を形成する円板部及び該円板部外周縁から軸方向に突出した鍔部分とで相互に逆方向から包含すると共に、
軸方向の同一方向に延ばされた前記アウタクローポール用インナピース(12)の櫛歯状磁歯と前記アウタクローポール用アウタピース(13)の櫛歯状磁歯との両者とで前記永久磁石(1)の外周面を所定幅のエアギャップを介して交互に覆うように配置し外部固定子(S2)を構成したアウタクローポール、
を備えたことを特徴とする永久磁石式2相回転電機。」

2.引用刊行物
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された特開昭61-132066号公報(以下「引用刊行物」という。)には、次の事項が記載されている。
・「回転トルクを伝達する回転軸と、この回転軸に同軸的に連結され円周方向にS極とN極とが交互に着磁されている永久磁石と、この永久磁石と、その中心軸線方向に対向して配置された磁極部及びヨーク部を有するコアと、前記永久磁石及びコアを通る磁束を発生させる励磁用コイルとを具えるステッピングモータにおいて、
前記永久磁石が中空円筒状をなし、外周側と内周側が互いに逆極性となるように外周側及び内周側を共に円周方向に沿ってN極とS極を交互に着磁し、
前記コアを中心軸線に平行に延在し同心状に形成された複数の磁極片及びこれら磁極片の一端に外周縁が連結された環状ヨーク部を一体的に有するカップ状のコアで構成し、
径がほぼ等しい2個のカップ状コアを開放端が互いに同方向を向くと共に各磁極片が相互に少なくとも部分的に対向して延在するように同心状に配置してカップ状のコア本体を構成すると共にこれらカップ状コア間に励磁用コイルを装着し、
径の異なる2個のカップ状コア本体を、各開放端が互いに同方向を向くと共にこれらコア本体の磁極間に前記円筒状永久磁石を挟むように同心状に配置したことを特徴とするステッピングモータ。」(特許請求の範囲)
・「回転トルクを伝達する回転軸20にフランジ21を介して中空円筒状の永久磁石22を連結する。この永久磁石22は、内周側及び外周側にそれぞれ円周方向に沿ってS極とN極を交互に極着磁されると共に、外周側と内周側とが互いに異極性となるように着磁する。この中空円筒状をした永久磁石22の内周部にはA相ステータを収納すると共に外周部にはB相ステータを配置し、中空円筒状をした永久磁石22を磁極部で鋏むようにA相及びB相ステータを同心状に配置する。A相及びB相ステータは大きさが異なるだけでほぼ同一構造をしており,A相ステータはカップ状をした第1及び第2のコア23及び24からなるコア本体と励磁用の磁束を発するコイル25とから構成され、B相ステータも同様にカップ状の第1及び第2のコア26及び27からなるコア本体とコイル28とから構成する。各第1のコア23及び26と第2のコア24及び27は、それぞれ打ち抜き加工により造られた環状ベース及び等間隔で放射状に延在する6個の脚部からなる磁性体板を環状ベースに対して各脚部を直角に折り曲げてカップ状に形成され、環状ベースはそれぞれ環状のヨーク部23a,24a、26aおよび27aを構成し、各脚部は永久磁石22と平行に延在する磁極片23b,24b,26b及び27bを構成する。」(第3頁左下欄6行?右下欄11行)
・「そして、第1コア23及び26と第2コア24及び27をそれぞれ各開放端が同一方向を向き、各磁極片23bと24b及び26bと27bとが同一円周上で相互に対向するよう中心軸線に対して同心状に配置してA相及びB相コア本体を構成し、各A相及びB相コア本体の第1コアと第2コアの環状ヨーク部23aと24a及び26aと27aとの間に環状形状をしたコイル25及び28をそれぞれ装着してA相及びB相ステータを構成する。そして、これらA相及びB相ステータを永久磁石22の磁化パターンピッチをPとするときP/2だけずらすと共に各開放端が同方向を向くように同心状に装着する。更に、A相及びB相ステータを回転軸20を回転自在に支持する軸受本体29に装着する。このように構成すれば、A相励磁部の磁気回路は第1コアの磁極片23b、永久磁石22、第2コアの磁極片24b、第2コアの環状ヨーク部24a及び第1コアの環状ヨーク部23aを通るように形成され、またB相励磁部の磁気回路も同様に第1コアの磁極片26b、永久磁石22、第2コアの磁極片27b、第2コアの環状ヨーク部27a及び第1コアの環状ヨーク部26aを通るように形成される。この結果、A相及びB相を交互に励磁することにより回転軸20が半ピッチずつ回転することになる。このようにA相及びB相コア本体の磁極片を中空円筒状をした永久磁石を介して相互に対向するように同心状に配置する構成とすれば、中心軸線方向の長さをほぼ半分に減らすことができる。」(第3頁右下欄16行?第4頁右上欄4行)

引用刊行物1に記載された、「円筒状永久磁石22」は、外周側と内周側が互いに逆極性となるように外周側及び内周側を共に円周方向に沿ってN極とS極を交互に着磁されているので、磁極数は「内外面夫々各同数」であることは明らかである。また、前記記載事項及び図示内容から見て、「コイル25,28」は、その中心の磁束が回転子の軸と平行であることは明らかであるから、回転軸に平行に形成されているといえる。
したがって、上記記載事項及び図示内容によると引用刊行物1には、次の事項からなる発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「中空円筒状の内外面夫々各同数に、N極とS極を交互に着磁し回転軸20に同軸的に形成しフランジ21を介して連結した円筒状永久磁石22を備え、
前記回転軸20に平行に形成したA相励磁部のコイル25を、A相励磁部の第2コア24を形成する環状ヨーク部24aと、磁極片23bと共にA相励磁部の第1コア23を形成する環状ヨーク部23aとの間に装着し、
前記第2コア24と前記第1コア23の夫々の磁極片24bと磁極片23bの先端部を同一方向に延ばして交互に組み合わせて前記永久磁石22の内周側で、同一円周上で相互に対向するように中心軸線に対して同心状に配置し内部コア本体を構成するA相コア本体、
前記永久磁石22の一方端部に回転軸20に平行に形成したB相励磁部のコイル28を、B相励磁部の第2コア27を形成する環状ヨーク部27aと、B相励磁部の第1コア26を形成し軸方向に突出した磁極片26bを有する環状ヨーク部26aとの間に装着すると共に、
軸方向の同一方向に延ばされた前記B相励磁部の第2コア27の磁極片27bと前記B相励磁部の第1コア26の磁極片26bとの両者で前記永久磁石22の外周面を交互に覆うように同一円周上で相互に対向するように中心軸線に対して同心状に配置し外部コア本体を構成するB相コア本体、
を備えたステッピングモータ。」

3.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、後者の「回転軸20」は、前者の「回転子軸(3)」に相当し、以下同様に「同軸的に形成しフランジ21を介して連結」は「平行に形成し結合」に、「円筒状永久磁石22を備え」た構成は「円筒状永久磁石(1)を備えた回転子(R)」に、「A相励磁部のコイル25」は「第1の環状コイル(7)」に、「環状ヨーク部」は「円板部」に、「磁極片」は「櫛歯状磁歯」に、「B相励磁部のコイル28」は「第2の環状コイル(11)」に、「……の間に装着」は「……で包含」に、それぞれ相当する。
また、本願発明と同様に引用発明においては、各磁極片23bと24b及び26bと27bとが同一円周上で相互に対向するように中心軸線に対して同心状に配置してA相及びB相コア本体を構成していることから、「クローポール」式であるといえ、また、「A相励磁部」は円筒状永久磁石22の内側にあり、「B相励磁部」は円筒状永久磁石22の外側にあるので、後者の「内部コア本体を構成するA相コア本体」は前者の「インナクローポール」に,後者の「外部コア本体を構成するB相コア本体」は前者の「アウタクローポール」にそれぞれ相当する。よって後者の「A相励磁部の第2コア24」は前者の「インナクローポール用インナピース(8)」に相当し、以下同様に「A相励磁部の第1コア23」は「インナクローポール用アウタピース(9)」に、「B相励磁部の第2コア27」は「アウタクローポール用インナピース(12)」に、「B相励磁部の第1コア26」は「アウタクローポール用アウタピース(13)」にそれぞれ相当する。
また、後者の「環状ヨーク部26aから軸方向に突出した磁極片26b」のうち、B相励磁部のコイル28の外周部にある部分と、前者の「アウタクローポール用アウタピース(13)を形成する……円板部外周縁から軸方向に突出した鍔部分」とは、「環状コイルを包含する軸方向突出部」との概念で共通する。
また、後者の円筒状永久磁石22が所定の厚さを有すること、及び後者の「円筒状永久磁石22」の内外周面と「磁極片23b,24b」及び「磁極片26b,27b」との間に所定幅のエアギャップを有することは明らかである。
また、後者の「ステッピングモータ」は回転子が永久磁石22で構成され、固定子にA相励磁部とB相励磁部の2つの相を有するので、「永久磁石式2相回転電機」であるといえる。
したがって両者は、
[一致点]
「所定厚さの円筒状の内外面夫々各同数に、N極とS極を交互に着磁し回転子軸に平行に形成し結合した円筒状永久磁石を備えた回転子、
この回転子軸に平行に形成した第1の環状コイルを、インナクローポール用インナピースを形成する円板部と、インナクローポール用アウタピースを形成する円板部及び櫛歯状磁歯とで包含し、
前記インナクローポール用インナピースと前記インナクローポール用アウタピースの夫々の櫛歯状磁歯の先端部を交互に組合せて前記永久磁石の内周面に所定幅のエアギャップを介して配置し内部固定子を構成するインナクローポール、
前記永久磁石の一方端部に回転子軸に平行に形成した第2の環状コイルを、アウタクローポール用インナピースを形成する円板部と、アウタクローポール用アウタピースを形成する円板部及び該円板部外周縁から軸方向に突出した環状コイルを包含する軸方向突出部とで包含すると共に、
軸方向の同一方向に延ばされた前記アウタクローポール用インナピースの櫛歯状磁歯と前記アウタクローポール用アウタピースの櫛歯状磁歯との両者とで前記永久磁石の外周面を所定幅のエアギャップを介して交互に覆うように配置し外部固定子を構成したアウタクローポール、
を備えた永久磁石式2相回転電機。」で一致し、
[相違点]
(ア)「インナクローポール用インナピース(8)とインナクローポール用アウタピース(9)の夫々の櫛歯状磁歯の先端部」の交互の組み合わせ方が、本願発明では「反対方向」であるのに対し、引用発明では「同一方向」である点、
(イ)「環状コイルを包含する軸方向突出部」が、本願発明では、「円板部外周縁から軸方向に突出した鍔部分」であるのに対し、引用発明では鍔部分を有しておらず「環状ヨーク部26aから軸方向に突出した磁極片26b」である点
で相違している。

4.相違点に対する判断
相違点(ア)について
円筒状磁石を具えた回転子の内外にそれぞれインナクローポール及びアウタクローポールを配置するステップモータにおいて、インナクローポールの構成として、「回転子軸に平行に形成した第1の環状コイルを、インナクローポール用インナピースを形成する円板部及び櫛歯状磁歯と、インナクローポール用アウタピースを形成する円板部及び櫛歯状磁歯とで相互に逆方向から包含し、
前記インナクローポール用インナピースと前記インナクローポール用アウタピースの夫々の櫛歯状磁歯の先端部を反対方向から交互に組合せて前記永久磁石の内周面に所定幅のエアギャップを介して配置」するものは、例えば、特開平6-303756号公報、実願昭59-148857号(実開昭61-65877号)のマイクロフィルム、特開昭58-69458号公報等に記載されており周知技術にすぎないから、引用発明において上記周知のインナクローポールの構成を用いて、相違点(ア)に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易になし得たことと認められる。

相違点(イ)について
永久磁石式回転電機における固定子のクローポールを構成する際、クローポールの機械的強度を大きくする等のために、クローポールの取付け基部に円筒状部分からなる鍔部分を設けることは、例えば、特開平3-284154号公報、実願昭55-163927号(実開昭57-85875号)のマイクロフィルム、実願昭50-105185号(実開昭52-19614号)のマイクロフィルム等に記載のように周知技術にすぎないから、引用発明においても、そのカップ状コアを形成する磁極片の一端が連結される環状ヨーク部の外周縁に上記周知の鍔部分を設けることは、当業者が適宜実施し得ることにすぎないと認められる。

したがって、引用発明において、相違点(ア)および(イ)に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことと認められる。
また、本願発明の奏する効果は、引用発明及び上記周知技術から予測しうる程度のものと認められる。

5.むすび
したがって、本願発明は、引用刊行物に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-10-31 
結審通知日 2006-11-07 
審決日 2006-11-20 
出願番号 特願平8-269077
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 尾家 英樹  
特許庁審判長 田良島 潔
特許庁審判官 丸山 英行
高橋 学
発明の名称 永久磁石式2相回転電機  
代理人 斎藤 春弥  
代理人 高橋 陽介  

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