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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1150589
審判番号 不服2003-14509  
総通号数 87 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-05-06 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-07-29 
確定日 2007-01-10 
事件の表示 平成 9年特許願第 74906号「トロンボポエチンをコードする遺伝子」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 5月 6日出願公開、特開平10-113186〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
(1-1)本願は、平成6年12月28日(パリ条約による優先権主張1994年1月3日、1994年1月21日、1994年2月15日、1994年4月4日、1994年5月25日、1994年12月2日、1994年12月2日、それぞれ米国)に国際出願された特願平7-518499号の一部を、平成9年3月27日に新たな特許出願(特願平9-74906号)としたものであって、これにつき平成15年4月25日付で本願を拒絶すべき旨の査定がなされ、これに対し、平成15年7月29日付けでこれを不服とする本件審判が請求されたものである。
(1-2)審判請求人は、本件審判の請求に際し、平成15年8月28日付けの手続補正書により特許請求の範囲を補正しているところ、その内容は、請求項11において、「生物活性である請求項11に記載のポリペプチド。」とあったものを「生物活性である請求項10に記載のポリペプチド。」と補正するものであり、当該補正前の記載が本来補正後の記載であるべきことは他の請求項の記載を参酌すれば明らかであるから、当該補正は、特許法第17条の2第3項第3号に掲げる「誤記の訂正」を目的とするものであり、同条第2項?第4項に規定する要件を満たすものである。
従って、当該補正は適法になされたものであるから、本願請求項に係る発明は、当該手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?39に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1?4の記載は以下のとおりである。
「【請求項1】 分離された実質上均質なmplリガンドポリペプチド。
【請求項2】 (a)フラグメントポリペプチド;
(b)変異体ポリペプチド;および、
(c)キメラポリペプチド、
より成る群から選ばれる、請求項1に記載のmplリガンドポリペプチド。
【請求項3】 (a)哺乳動物から分離された該ポリペプチド;
(b)組換え手段により作製された該ポリペプチド;および、
(c)合成手段により作製された該ポリペプチド、
より成る群から選ばれる、請求項1に記載のmplリガンドポリペプチド。
【請求項4】 (a)人間のポリペプチド;および、
(b)人間において非免疫原性であるポリペプチド、
より成る群から選ばれる、請求項1に記載のmplリガンドポリペプチド。」

2.原査定の理由
一方、原査定の拒絶の理由は、
「この出願の請求項1?6、8?14、16、20?39に係る発明は、その出願の日前の出願であって、その出願後に出願公開された下記1、2の出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人がその出願前の出願に係る上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。

1.特願平7-063298号(特開平8-228781号)
2.特願平7-521122号(特表平8-510921号)」というものである。
なお、上記拒絶理由で引用した出願1、2は、特許法第41条第1項の規定に基づき、同一人により先にされた国内の特許出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された事項に基づいてされた優先権の主張を伴うものであるところ、出願1、2の出願日はいずれも本願の出願日よりも後であるから、上記拒絶理由は明らかに出願1、2の上記優先権主張の効果を念頭に置いたものであり、特許法29条の2の規定の適用にあたっては、出願1、2ではなく、特許法第41条第3項の規定により出願1、2について出願公開された時に出願公開されたとみなされる当該先にされた特許出願を本来引用すべきものであったことは明らかである。
そして、審判請求人が平成15年10月8日付けで提出した審判請求書の理由補充書において、当該拒絶理由を回避するための補正案を提示していることからみて、審判請求人が上記拒絶理由の本来の趣旨を理解して対応していたことも明らかである。
そこで、本審決では、上記拒絶理由において出願1、2を引用したのは単なる表記上の誤記であり、上記拒絶理由においては出願1、2の優先権主張の基礎となる先の国内の特許出願が引用されているものとして、以下、当審の判断を行う。

3.当審の判断
原審の拒絶査定に対し、審判請求人は審判請求に際し平成15年8月28日に本願明細書の特許請求の範囲を補正したが、本願請求項に係る発明の内容は実質的に変更されていないのは上述のとおりである。
そこで、当該補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明について、原査定の理由により拒絶すべきものであるかどうか、以下に検討する。
(3-1)請求項1に係る発明
本願請求項1に係る発明は、「分離された実質上均質なmplリガンドポリペプチド。」というものであり、当該「mplリガンドポリペプチド」について、本願明細書には、「「mplリガンド」、「mplリガンドポリペプチド」、「ML」、「トロンボポエチン」または「TPO」は本明細書中、互換的に使用され、mpl、サイトカインレセプタースーパーファミリーの一員に結合する特性を持ち、そして下に定義されるようなMLの生物学的活性を有する任意のポリペプチドを含む。生物学的性質の例は、ヒトmplPでトランスフェクトさせたIL-3依存Ba/F3細胞のDNAへの標識されたヌクレオチド(例えば3H-チミジン)の取り込みを刺激する能力である。生物学的性質のもう一つの例は、マウス血小板リバウンド検定において循環血小板中への35Sの取り込みを刺激する能力である。この定義は、本明細書に記載の再生不良性ブタ血漿のようなmplリガンド供給源から、またはヒトを包含する他の動物種のような別の供給源から分離された、または、組換えもしくは合成法により製造された該ポリペプチドを包含し、また、その機能的誘導体、フラグメント、対立遺伝子、イソ型および類似体を含む変異体型を包含する。」と定義されている(【0075】)。
当該定義、及び、請求項1のmplリガンドポリペプチドを更に特定した請求項2、3、4の記載からみて、請求項1に係る発明は、「ヒトmplリガンドポリペプチド、あるいは、ヒトmplリガンドポリペプチドの生物学的性質を有するそのフラグメントポリペプチドである、分離された実質上均質なmplリガンドポリペプチド。」をその態様として含むものであるといえる。
そして、請求項1に係る発明の当該態様に関連して、本願明細書ないし図面には、ヒトTPO全長(1-332)のcDNAをクローニングし、その塩基配列を特定し、HEK293細胞において発現させて、インビトロにおいてその活性を確認したことが記載され、また、部分長のTPO(1-153)のcDNAをHEK293細胞において発現させて、インビトロにおいてその活性を確認したことが記載されているところ、これらの事項のうち、全長TPOに関する事項は、本願の優先権主張の基礎となる1994年2月15日に出願された米国特許出願第196689号の明細書に記載され、部分長に関する事項は、同じく1994年4月4日に出願された米国特許出願223263号の明細書に記載されているが、それ以前に出願された優先権主張の基礎となる出願の明細書には、請求項1に係る発明のこれらの態様について具体的な開示はなく、また、実施可能に記載されてもいない。
すなわち、本願請求項1に係る発明の上記態様は、本願優先権主張の基礎となる出願のうち、少なくとも1994年2月15日に出願された米国特許出願第196689号以前に出願されたものの明細書にはそれに関連する具体的な開示がなく、実施可能に記載されてもいないから、少なくとも当該出願以前の出願に基づく優先権を享受することはできない。
(3-2)引用出願の願書に最初に添付した明細書に記載された発明
これに対し、原査定で引用した出願1の優先権主張の基礎となる、平成6年2月14日に出願された特願平6-39090号の願書に最初に添付された明細書及び図面には、ヒトTPOのアミノ酸配列1-231の部分をコードする遺伝子を得、遺伝子組み換え技術を用いてそれを動物細胞を宿主として発現させてヒトTPO活性を有するポリペプチドを得たこと(ヒトTPO活性をインビトロで確認している)が記載されており(【0241】?【0259】、図8?9)、当該事項(以下、事項1という)は、出願1の願書に最初に添付された明細書及び図面にも記載されている(公開公報74欄34行?80欄26行(実施例13?18)、図8?9)。
当該特願平6-39090号の願書に最初に添付された明細書には、また、ヒトTPOのアミノ酸配列203-332の部分をコードする遺伝子をも得て、ヒトTPOの全長(アミノ酸配列1-332)を明らかにしたことが記載され(【0260】?【0264】)、当該事項(以下、事項2という)は、出願1の願書に最初に添付された明細書にも記載されている(公開公報80欄27行?82欄30行)。
原査定で引用した出願2は、出願1と同じ出願に基づく優先権主張を伴うものであり、その出願の願書に最初に添付した明細書及び図面には、出願1と同様の記載がある。
従って、特許法第41条第3項の規定に基づき、特願平6-39090号の願書に最初に添付された明細書及び図面に記載された上記事項1及び2に係る発明については、特許法第29条の2第1項本文の規定の適用にあたって、出願1及び2について出願公開がされた時に当該特願平6-39090号について出願公開がされたものとみなされる。
(3-3)両発明の対比・判断
本願請求項1に係る発明の上記態様と出願1及び2の優先権主張の基礎となる特願平6-39090号の願書に最初に添付した明細書及び図面に記載された上記事項1を対比すると、両者は「ヒトmplリガンドポリペプチドの生物学的性質を有するそのフラグメントポリペプチド」である点で一致し、上記事項1に係る発明は、当該フラグメントポリペプチドが「ヒトTPOのアミノ酸配列1-231の部分をコードする遺伝子を発現させて得た」ものである点で、本願請求項1に係る発明の上記態様の下位概念にあたるものであり、本願請求項1に係る発明の上記態様に包含されるものである。
また、本願請求項1に係る発明の上記態様と出願1及び2の優先権主張の基礎となる特願平6-39090号の願書に最初に添付した明細書及び図面に記載された上記事項2を対比すると、両者は「ヒトmplリガンドポリペプチド」である点で一致し、相違するところはない。
そして、特願平6-39090号は平成6年(1994年)2月14日に出願されたものであるところ、(3-1)で上述したとおり、本願請求項1に係る発明の上記態様は1994年2月15日以前の出願に基づく優先権を享受することはできない。
従って、本願請求項1に係る発明の上記態様は、本出願の出願日前の特許出願であって、本出願後に出願公開がされた、特願平6-39090号の特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明を包含し、あるいはこれと同一のものであるから、本願請求項1に係る発明は、本出願の出願日前の特許出願であって、本出願後に出願公開がされた、特願平6-39090号の特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一なものと認められる。
そして、本出願の発明者は特願平6-39090号に係る上記の発明をした者と同一ではなく、本出願の時において、その出願人は上記出願の出願人と同一でもない。

4.結び
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本特許出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

5.付記:審判請求人が提示した補正案について
審判請求人は審判請求書の理由補充書において補正案を提示しているので、念のため検討すると、当該補正案の各請求項に係る発明は、それぞれ以下に示す理由によって特許を受けられないものと認められるから、これにつき新たに補正の機会を設ける必要を認めない。
(5-1)補正案の請求項1に係る発明について
(5-1-1)当該請求項の記載は、請求項1に係るフラグメントポリペプチドが、「請求項1に記載された一般式X-hTPO(7-151)-Yで表されるフラグメントポリペプチド(すなわち、最大でアミノ酸配列1-175のフラグメントポリペプチド)」であることと「アミノ末端アミノ酸残基の伸長がヒトMLの残基176-332の1またはそれ以上を含むフラグメントポリペプチド」であることが相互に矛盾しており、また、TPO(1-153)は後者と矛盾し、TPO(1-245)は前者と矛盾しており、全体として発明の構成が不明瞭であり、特許法第36条第5項第1号に規定する要件を満たしていない。
(5-1-2)当該請求項が、仮に、単なる「TPO(1-153)およびTPO(1-245)から選ばれるフラグメントポリペプチド」であった場合、当該フラグメントポリペプチドは、以下に述べるとおり、出願1及び2の優先権主張の基礎となる、平成6年3月25日に出願された特願平6-79842号の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と実質的に同一なものであり、また、当該発明について、特願平6-79842号は本願の先願となるものであるから、当該請求項に係る発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。
(5-1-2-1)すなわち、「TPO(1-153)」については、(3-1)で上述のとおり、1994年4月4日に出願された米国特許出願223263号の明細書に記載されているが、それ以前に出願された優先権主張の基礎となる出願の明細書には記載されていないから、当該出願以前の出願に基づく優先権を享受することはできないところ、出願1及び2の優先権主張の基礎となる、平成6年3月25日に出願された特願平6-79842号の願書に最初に添付された明細書及び図面には、ヒトTPOのC末欠失誘導体(アミノ酸1-163、1-171、1-191、1-211)のcDNAをCOS細胞において発現させ、インビトロにおいてその活性を確認したことが記載され(【0297】?【0301】(実施例27)、図13a?14)、当該事項は、出願1の願書に最初に添付された明細書及び図面にも記載されており(公開公報92欄5行?94欄10行(実施例27)、図13a?14)、出願2の願書に最初に添付された明細書及び図面にも記載されているから、特許法第41条第3項の規定に基づき、特願平6-79842号の願書に最初に添付された明細書及び図面に記載された当該事項に係る発明については、特許法第29条の2第1項本文の規定の適用にあたって、出願1及び2について出願公開がされた時に当該特願平6-79842号について出願公開がされたものとみなされる。
そして、特願平6-79842号の実施例27には、「これらの結果より、ヒトTPOタンパク質を構成するアミノ酸353個(21個のシグナル配列を含む)のうち、164位のアルギニン以降のアミノ酸を欠失させても、in vitroにおける活性が保持されることが明らかとなり、164位のアルギニンより前に、TPO活性発現のために必須な領域が含まれていることが示唆された。」(【0301】)と、1-163よりも更にC末が欠失したTPO活性を有するフラグメントについて記載されており、一方、本願明細書をみても、C末を153としたことに格別の臨界的な意義があるわけではない(出願1の後の知見(平成6年6月1日に出願された特願平6-155126号を優先権基礎出願とする)によれば、1-150のフラグメントには活性が認められず、活性を有するためには、C末を151より長くする必要があることが示されている。)から、本願の1-153のフラグメントポリペプチドは、特願平6-79842号に記載された「1-163よりも更にC末が欠失したTPO活性を有するフラグメント」の単なる一態様に過ぎない。
また、本願の1-153のフラグメントポリペプチドは特願平6-79842号に具体的に記載された1-163等のフラグメントポリペプチドと比べて格別効果上の差異があるものとはいえないから、両者のC末端の違いは、C末が欠失したTPO活性を有するフラグメントを得るという課題解決のための具体化手段における微差ということもできる。
そうすると、補正案の請求項1に係る「TPO(1-153)」は、出願1及び2の優先権主張の基礎となる、平成6年3月25日に出願された特願平6-79842号の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と実質的に同一なものであり、また、当該発明について、特願平6-79842号は本願の先願となるものであるから、当該請求項に係る発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。
(5-1-2-2)また、「TPO(1-245)」については、本願明細書には「hMLのC末端ドメインは、可能性あるプロセシング部位として働き得る2個の二塩基性アミノ酸配列[153-154および245-246位のArg-Argモチーフ]を含んでいる。これらの部位での開裂が、APPから分離されるMLの30、28および18-22kDa型の生成を司っているのかも知れない。」(【0149】)という記載があるだけであり、実際にそのようなフラグメントを作製し、その活性を確認しておらず、C末を245とすることにより格別の臨界的な意義があるフラグメントが得られるということでもない。
一方、出願1及び2の優先権主張の基礎となる、平成6年3月25日に出願された特願平6-79842号の願書に最初に添付された明細書及び図面には、部分長のヒトTPO(アミノ酸1-231)のcDNAをCOS細胞において発現させ、インビトロにおいてその活性を確認したことが記載され(【0249】?【0267】、図8?9)、また、完全長のヒトTPO(1-332)のcDNAをCOS細胞において発現させ、インビトロにおいてその活性を確認したことが記載されており(【0281】?【0282】、図10a、b)、当該事項については、出願1の願書に最初に添付された明細書及び図面にも記載され(公開公報74欄34行?80欄26行(実施例13?18)、図8?9、及び、86欄44行?87欄13行(実施例23)、図10a、b)、出願2の願書に最初に添付された明細書及び図面にも記載されているから、特許法第41条第3項の規定に基づき、特願平6-79842号の願書に最初に添付された明細書及び図面に記載された当該事項に係る発明については、特許法第29条の2第1項本文の規定の適用にあたって、出願1及び2について出願公開がされた時に当該特願平6-79842号について出願公開がされたものとみなされる。
そして、特願平6-79842号に記載された当該事項は、平成6年3月25日の時点で、ヒトTPO(1-231)もTPO(1-332)も共に活性を有していることが確かめられていたことを示すものであり、このことから、特願平6-79842号の願書に最初に添付された明細書及び図面には、その中間の長さの各種フラグメントについても同様の活性があることが記載されていたに等しいといえる。
これに対し、本願においては、TPOが部分長でも活性を有していることが確認されたのは、上述のとおり、1994年4月4日の時点であって、それ以前に当該部分長と完全長の中間の長さのフラグメントに活性があることの認識があったとはいえない。
そして、上述のとおり、C末を245とすることにより格別の臨界的な意義があるフラグメントが得られるということでもないから、本願の1-245のフラグメントポリペプチドは、特願平6-79842号に記載されたに等しい、上記「1-332のC末が欠失し、かつ1-231よりも長い、TPO活性を有するフラグメント」の単なる一態様に過ぎない。
そうすると、補正案の請求項1に係る「TPO(1-245)」は、出願1及び2の優先権主張の基礎となる、平成6年3月25日に出願された特願平6-79842号の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と実質的に同一なものであり、また、当該発明について、特願平6-79842号は本願の先願となるものであるから、当該請求項に係る発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。
(5-1-2-3)以上のとおりであるから、補正案の請求項1が仮に「TPO(1-153)およびTPO(1-245)から選ばれるフラグメントポリペプチド」と補正されたとしても、当該請求項に係る発明は、本願の先願にあたる、特願平6-79842号の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と実質的に同一なものであり、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。
(5-2)補正案の請求項2に係る発明について
当該請求項は、結局、hMLの全長アミノ酸配列の残基1から153までの配列を含む、mplリガンドのフラグメントポリペプチドに係るものであると認められる。
補正案の請求項2に係る発明は、「hMLの全長アミノ酸配列の残基1から153までの配列からなる、mplリガンドのフラグメントポリペプチド」をその一態様として含むものであるが、これについては、(5-1-2-1)で上述したとおり、本願の先願にあたる、特願平6-79842号の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と実質的に同一なものであり、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。
当該請求項に係る発明は、また、文言上、「hMLの全長アミノ酸配列の残基1から153までの配列」を含む、これより長い配列からなる「mplリガンドのフラグメントポリペプチド」をも包含するものである。
これについては、上述のとおり、本願において、部分長のTPOが活性を有していることが確認されたのは、1994年4月4日の時点でTPO(1-153)についてが初めてであり、それ以前には、活性のある部分長が存在することは示されていなかったところ、上述のとおり、出願1及び2の優先権主張の基礎となる、平成6年3月25日に出願された特願平6-79842号の願書に最初に添付された明細書及び図面には、ヒトTPOのC末欠失誘導体(アミノ酸1-163、1-171、1-191、1-211)のcDNAをCOS細胞において発現させ、インビトロにおいてその活性を確認したことが記載され(【0297】?【0301】、図13a?14)、当該事項は、出願1の願書に最初に添付された明細書及び図面にも記載され(公開公報92欄5行?94欄10行(実施例27)、図13a?14)、出願2の願書に最初に添付された明細書及び図面にも記載されているから、特許法第41条第3項の規定に基づき、特願平6-79842号の願書に最初に添付された明細書及び図面に記載された当該事項に係る発明については、特許法第29条の2第1項本文の規定の適用にあたって、出願1及び2について出願公開がされた時に当該特願平6-79842号について出願公開がされたものとみなされる。
そして、特願平6-79842号の願書に最初に添付された明細書及び図面に記載された上記ヒトTPOのC末欠失誘導体は、補正案の請求項2に係る発明の上記「1から153までの配列を含む」態様に該当するものであることは明らかである。
従って、補正案の請求項2に係る発明の上記態様は、出願1及び2の優先権主張の基礎となる、平成6年3月25日に出願された特願平6-79842号の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一なものであり、また、当該発明について、特願平6-79842号は本願の先願となるものであるから、当該請求項に係る発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。
(5-3)補正案の請求項3に係る発明について
当該請求項は、免疫グロブリンポリペプチドと融合したmplリガンドを含むキメラポリペプチドに係るものであり、本願明細書には、「好ましいキメラは、mplリガンドまたはそのフラグメント(下記に定義される)とヘテロローガスなポリペプチドまたはそのフラグメントとの間の融合である。例えば、hML153はIgGフラグメントと融合させて血清半減期を改善…させることができる。」(【0123】)と記載されている。
これにつき、生理活性蛋白質を免疫グロブリンポリペプチドと融合させると、その血中半減期がのびることがあることは、例えば、Cancer Res.,1985 May;45(5):2031-6、Cancer Res.,1989 Jul 1;49(13):3482-8、Bioconjug Chem.1993 May-Jun;4(3):230-5にも記載されているとおり、全長ヒトTPO及びそのフラグメントの発明について出願1及び2の優先権主張の基礎となる特願平6-39090号が出願された平成6年2月14日以前に、当業者によく知られていたことであり、特願平6-39090号の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明においても、TPOを免疫グロブリンポリペプチドと融合させることは、当業者がTPOの血中半減期をのばすこと等を期待して適宜試みる範囲のことである。
そして、本願明細書には、mplリガンド(TPO)について実際にこのようなキメラポリペプチドを作製し、その活性や半減期等を調べたことは記載されていないから、これにより格別のものが得られたということでもない。
してみると、mplリガンドに免疫グロブリンポリペプチドを融合させることは単なる周知技術の付加に過ぎず、特願平6-39090号に記載された事項と上記請求項に係る発明における当該差異は、有用なmplリガンドを提供するという課題解決のための具体化手段における微差に該当するものである。
よって、当該請求項に係る発明は、出願1及び2の優先権主張の基礎となる、特願平6-39090号の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と実質的に同一なものであり、また、当該発明について、特願平6-39090号は本願の先願となるものであるから、当該請求項に係る発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。
(5-4)補正案の請求項4に係る発明について
当該請求項は、インターロイキンポリペプチドと融合したmplリガンドを含むキメラポリペプチドに係るものであり、本願明細書には、「好ましいキメラは、mplリガンドまたはそのフラグメント(下記に定義される)とヘテロローガスなポリペプチドまたはそのフラグメントとの間の融合である。例えば、…IL-3、G-CSFまたはEPOと融合させて血小板形成活性またはキメラ造血活性を向上させた分子を生成させることができる。」(【0123】)と記載されているが、実際にこのようなキメラポリペプチドを作製し、その活性等を調べたことは記載されていない。
そして、mplリガンドのこのようなキメラであれば本願明細書に記載されているような生物活性を有するという技術常識があるともいえない。
よって、当該請求項に係る発明は、特許法第36条第4項並びに第5項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。
(5-5)補正案の請求項5に係る発明について
当該請求項は、hMLの残基の1またはそれ以上がヒトEPOの対応する位置の残基で置換されているキメラポリペプチドに係るものであり、本願明細書には、「この「ML-EPOドメインキメラ」は、混成の血小板形成-赤血球形成(TEPO)生物活性を有するであろうと考えられる。」(【0124】)と記載されているが、実際にこのようなキメラポリペプチドを作製し、その活性等を調べたことは記載されていない。
従って、本願明細書をみても、hMLのこのようなキメラが具体的にどのような配列のものであるのか不明であるし、また、このようなキメラであれば本願明細書に記載されているような生物活性を有するという技術常識があるともいえない。
よって、当該請求項に係る発明は、特許法第36条第4項並びに第5項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。
 
審理終結日 2006-08-11 
結審通知日 2006-08-15 
審決日 2006-08-29 
出願番号 特願平9-74906
審決分類 P 1 8・ 161- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高堀 栄二  
特許庁審判長 種村 慈樹
特許庁審判官 鵜飼 健
佐伯 裕子
発明の名称 トロンボポエチンをコードする遺伝子  
代理人 津国 肇  
代理人 篠田 文雄  

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