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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
管理番号 1150704
審判番号 不服2004-3298  
総通号数 87 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-03-21 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-02-19 
確定日 2007-01-18 
事件の表示 平成11年特許願第191355号「透明タッチパネル用透明導電膜、透明タッチパネル」拒絶査定不服審判事件〔平成12年3月21日出願公開、特開2000-81952〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成11年7月6日の出願であって、平成18年7月3日付けの手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された次のとおりの「透明タッチパネル用透明導電膜及び透明タッチパネル」に関するものと認める。
「【請求項1】(1)電極基板上に金属酸化物からなる透明導電膜が形成された下部電極と上部電極とがスペーサを介して積層された透明タッチパネルの少なくとも一方の電極を構成する透明導電膜において、
(2)表面形状を構成する粒子の集合体の断面が略台形もしくは略矩形を呈するように構成され、
(3)表面形状における算術平均粗さ(Ra)が0.4nm≦Ra≦4.0nmであり、
(4)自乗平均粗さ(Rms)が0.6nm≦Rms≦3.0nmであることを特徴とする透明タッチパネル用透明導電膜。
(なお、上記の番号(1)ないし(4)は、説明の都合により付したものである。)
【請求項2】前記金属酸化物が酸化インジウム-酸化スズ膜より構成され、かつ、
表面で観察される金属酸化物の平面内の平均結晶粒径(R)が40nm≦R≦200nmであり、
前記算術平均粗さ(Ra)が0.4nm≦Ra≦3.0nmであり、
前記自乗平均粗さ(Rms)が0.6nm≦Rms≦2.0nmであることを特徴とする請求項1に記載の透明タッチパネル用透明導電膜。
【請求項3】前記金属酸化物がフッ素あるいはアンチモン添加の酸化スズ膜より構成され、かつ、
表面で観察される金属酸化物の平面内の平均結晶粒径(R)が80nm≦R≦400nmであることを特徴とする請求項1に記載の透明タッチパネル用透明導電膜。
【請求項4】上記表面形状において、Rpは中心線深さを表し、Rmaxは最大粗さを表すとき、上記表面形状を表現するパラメーター(Rp/Rmax)を0.55以下であることを特徴とする、請求項1?3のいずれかに記載の透明タッチパネル用透明導電膜。
【請求項5】ゾル-ゲル材料を用いた塗布法あるいは印刷法で形成された請求項1?4のいずれかに記載の透明タッチパネル用透明導電膜。
【請求項6】請求項1?5のいずれかに記載の透明タッチパネル用透明導電膜が、上記下部電極と上記上部電極の少なくとも一方の電極の電極基板に設けられて当該電極を構成するようにした透明タッチパネル。
【請求項7】請求項1?5のいずれかに記載の透明タッチパネル用透明導電膜が、上記下部電極と上記上部電極の両方の電極基板にそれぞれ設けられて当該電極をそれぞれ構成するようにした透明タッチパネル。」

2 当審における拒絶理由の概要
当審において、平成18年4月27日付けで通知した拒絶理由の概要は、以下のとおりである。
「[理由1]
(1)本願請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明からみて「電極基板上に金属酸化物からなる透明導電膜が形成された下部電極と上部電極とがスペーサを介して積層された透明タッチパネルの少なくとも一方の電極を構成する透明導電膜において、表面形状における算術平均粗さ(Ra)が0.4nm≦Ra≦4.0nmであり、自乗平均粗さ(Rms)が0.6nm≦Rms≦3.0nmであることを特徴とする透明タッチパネル用透明導電膜」の発明であるが、【発明の実施の形態】の記載においては、上記の発明に係る「透明タッチパネル用透明導電膜」を当業者が製造することができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、また、出願時の技術常識に基づいて当業者が上記の発明に係る「透明タッチパネル用透明導電膜」を製造することができるということもできない。
・・・(中略)・・・
前記「透明タッチパネル用透明導電膜」を製造する際の具体的な製造条件、製造工程、表面形状の定義、並びに、表面形状における算術平均粗さの定義及び測定する具体的な方法(段落【0063】でいう「測定長さ(基準長さ)lの部分」の範囲、「粗さ曲線をy=f(x)」とするときの関数式y=f(x)の求め方等)、自乗平均粗さの定義及び測定する具体的な方法(段落【0065】【0067】でいう「基準長さl」の部分の範囲、「基準長さl内での局部山頂の間隔の個数」であるNの値の範囲等)等について何ら記載も示唆もされていないことから、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。
・・・(中略)・・・
(6)本願請求項6に係る発明は、発明の詳細な説明からみて「上記表面形状において、Rpは中心線深さを表し、Rmaxは最大粗さを表すとき、上記表面形状を表現するパラメーター(Rp/Rmax)を0.55以下にすることによって上記表面形状を構成する粒子の集合体の断面が台形形状もしくは矩形形状を呈するようにした請求項1?5のいずれかに記載の透明タッチパネル用透明導電膜」の発明であるが、【発明の実施の形態】の記載においては、上記の発明に係る「透明タッチパネル用透明導電膜」を当業者が製造することができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、また、出願時の技術常識に基づいて当業者が上記の発明に係る「透明タッチパネル用透明導電膜」を製造することができるということもできない。
・・・(中略)・・・
前記「透明タッチパネル用透明導電膜」を製造する際の具体的な製造条件、製造工程、表面形状を表現するパラメーター(Rp/Rmax)の定義、表面形状を構成する粒子の集合体の断面としての台形形状もしくは矩形形状の定義、及び、中心線深さ、最大粗さを測定する具体的な方法等について何ら記載も示唆もされていないことから、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。
・・・(中略)・・・」

3 当審の判断
3-1 特許請求の範囲に記載の「透明タッチパネル用透明導電膜及び透明タッチパネル」は、その特許請求の範囲の請求項1の記載によれば、(1)ないし(4)の要件を有するものであり、そのうち、(2)ないし(4)の要件は、次のとおりである。
「(2)表面形状を構成する粒子の集合体の断面が略台形もしくは略矩形を呈する(以下、「(2)の要件」という。)ように構成され、
(3)表面形状における算術平均粗さ(Ra)が0.4nm≦Ra≦4.0nm(以下、「(3)の要件」という。)であり、
(4)自乗平均粗さ(Rms)が0.6nm≦Rms≦3.0nm(以下、「(4)の要件」という。)である」

それに対し、本願明細書の段落【0069】ないし【0109】には、実施例及び比較例として、「【0069】
【実施例】
以下に、上記実施形態のより具体的な実施例と、当該実施例と比較するための比較例とを示す。
【0070】
(実施例1)
約5μmのアクリル系ハードコートを有した厚さ20μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に、透明導電膜としてITO膜を成膜温度130℃にてスパッタリング法により形成し、さらに、150℃前後の温度でエージングを行って、平均結晶粒径(R)が40?60nmの範囲に分布した透明導電フィルムを作製した。このフィルムのハードコート面に粘着層を介してあらかじめ背面に約5μmアクリル系ハードコートを有した厚さ125μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを貼り合わせた。
【0071】
また、両面にSiO2がディップコートされた厚さ1.1mmのガラスを下部電極基板とし、基板温度250℃に設定し、透明導電膜として厚さ15nmのITO膜をスパッタリング法により形成した。原子間力顕微鏡(株式会社島津製作所製SPM-9500)により観察したところ、平均結晶粒径(R)は40?60nmの範囲に分布していた。
【0072】
上記のフィルムおよびガラスを電極とする透明タッチパネルを作製し、ポリアセタール製のペンに総重量20gとなるように荷重を負荷し、格子状に入力したところ、線の歪や飛びもなく、安定した入力ができた。
【0073】
また、この透明タッチパネルに5V印加した状態で入力時の電圧を測定したところ、4.6Vで安定した値を示した。
【0074】
さらに、この透明タッチパネルを60℃、相対湿度95%(RH)の耐湿熱試験に500時間かけた後、同様の格子入力の試験を行ったところ、初期の状態と変わりがなかった。また、入力電圧測定を行ったところ、4.6Vで安定した値を示し初期値とまったく変化なく、軽タッチ入力において問題なく使用できるものであった。
【0075】
(実施例2)
成膜温度を100℃とした他は実施例1と同様にして、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に透明導電膜を形成した。透明導電膜表面の算術平均粗さ(Ra)を測定したところ、0.4nm≦Ra≦1.2nmであり、自乗平均粗さ(Rms)は0.8nmであった。なお、基準長さは使用するカットオフ値に等しい。また、評価長さは700nmで得られた値である。
【0076】
また、インジウム、スズ比が{Sn/(In+Sn)}×100=20重量%になるように調整された透明導電インキ組成物を前述の薄膜形成装置(日本写真印刷株式会社製オングストローマー(登録商標)インライン型)を用い、SiO2コートした300mm×300mm×1.1mmのソーダガラス基板上に印刷した。
【0077】
ガラス基板をホットプレートで予備乾燥を行った後、コンベア式雰囲気分離炉を用いて、200℃?400℃の温度域を毎分55℃の昇温速度で昇温し、540℃まで昇温し続けて酸化焼成し、引き続きコンベア式雰囲気分離炉内で水素ガスを微量含む窒素雰囲気中で540℃から室温に冷却することにより、厚さ10nmの透明導電膜を得た。原子間力顕微鏡(株式会社島津製作所製SPM-9500)により観察したところ、平均結晶粒径(R)は10?30nmの範囲に分布していた。
【0078】
さらに、透明導電膜表面の算術平均粗さ(Ra)を測定したところ、0.15nm≦Ra≦0.29nmであり、自乗平均粗さ(Rms)は0.39nmであった。なお、基準長さは使用するカットオフ値に等しい。また、評価長さは700nmで得られた値である。
【0079】
上記のフィルムおよびガラスを電極とする透明タッチパネルを作製し、ポリアセタール製のペンに総重量20gとなるように荷重を負荷し、格子状に入力したところ、線飛びもなく、線の歪も発生せず安定な入力ができた。
【0080】
また、この透明タッチパネルに5V印加した状態で入力時の電圧を測定したところ、4.5Vと安定な値を示した。
【0081】
さらに、この透明タッチパネルを60℃、相対湿度95%(RH)の耐湿熱試験に500時間かけた後、同様の格子入力の試験を行い、その後、入力電圧測定を行ったところ、4.5Vと初期値と同様の値を示し、軽タッチ入力においても問題ないものであった。また、15万字の連続入力試験後の入力状態を格子入力により評価したところ、線飛びも生じなく、安定した格子を描画できた。
【0082】
(実施例3)
成膜温度を150℃、エージングを150℃で数時間行った他は実施例1と同様にして、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に透明導電膜を形成した。平均結晶粒径(R)は40?100nmの範囲に分布していた。透明導電膜表面の算術平均粗さ(Ra)は1.1nm≦Ra≦2.3nmであり、自乗平均粗さ(Rms)は0.9nmであった。なお、基準長さは使用するカットオフ値に等しい。また、評価長さは700nmで得られた値である。
【0083】
また、インジウム、スズ比が{Sn/(In+Sn)}×100=12重量%になるように調整された透明導電インキ組成物を、前述の薄膜形成装置(日本写真印刷株式会社製オングストローマー(登録商標)インライン型)を用い、SiO2コートした300mm×300mm×1.1mmのソーダガラス基板上に印刷した。
【0084】
ガラス基板をホットプレートで予備乾燥を行った後、コンベア式雰囲気分離炉を用いて、200℃?400℃の温度域を毎分55℃の昇温速度で昇温し、540℃まで昇温し続けて酸化焼成し、引き続きコンベア式雰囲気分離炉内で水素ガスを微量含む窒素雰囲気中で540℃から室温に冷却することにより、厚さ20nmの透明導電膜を得た。原子間力顕微鏡(セイコー電子工業株式会社製SPI3600)により観察したところ、平均結晶粒径(R)は40?60nmの範囲に分布していた。
【0085】
さらに膜表面の算術平均粗さ(Ra)を測定したところ0.4≦Ra≦0.8nmであり、かつ自乗平均粗さ(Rms)が0.70nmであった。なお、基準長さは使用するカットオフ値に等しい。また、評価長さは700nmで得られた値である。
【0086】
上記のフィルムおよびガラスを電極とする透明タッチパネルを作製し、ポリアセタール製のペンに総重量20gとなるように荷重を負荷し、格子状に入力したところ、線飛びもなく、線の歪も発生せず安定な入力ができた。
【0087】
また、このタッチパネルに5V印加した状態で入力時の電圧を測定したところ、4.65Vと安定な値を示していた。
【0088】
さらに、この透明タッチパネルを60℃、相対湿度95%(RH)の耐湿熱試験に500時間かけた後、同様の格子入力の試験を行い、その後、入力電圧測定を行ったところ、4.65Vと初期値と同様の値を示し、軽タッチ入力においても問題ないものであった。
【0089】
(実施例4)
成膜温度を100℃とした他は実施例1と同様にして、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に透明導電膜を形成した。透明導電膜表面の算術平均粗さ(Ra)を測定したところ、0.4nm≦Ra≦1.2nmであり、自乗平均粗さ(Rms)は0.8nmであった。なお、基準長さは使用するカットオフ値に等しい。また、評価長さは700nmで得られた値である。
【0090】
また、インジウムとスズの比が{Sn/(In+Sn)}×100=10重量%になるように調整した透明導電インキ組成物を、前述の薄膜形成装置(日本写真印刷株式会社製オングストローマー(登録商標)インライン型)を用い、SiO2コートした300mm×300mm×1.1mmのソーダガラス基板上に印刷した。
【0091】
ガラス基板をホットプレートで予備乾燥を行った後、コンベア式雰囲気分離炉を用いて、200℃?400℃の温度域を毎分55℃の昇温速度で昇温し、540℃まで昇温し続けて酸化焼成し、引き続きコンベア式雰囲気分離炉内で水素ガスを微量含む窒素雰囲気中で540℃から室温に冷却することにより厚さ10nmの透明導電膜を得た。原子間力顕微鏡(株式会社島津製作所製SPM-9500)により観察したところ、平均結晶粒径(R)は40?50nmの範囲に分布していた。
【0092】
さらに、透明導電膜表面の算術平均粗さ(Ra)を測定したところ、0.4nm≦Ra≦0.9nmであり、自乗平均粗さ(Rms)は0.67であった。なお、基準長さは使用するカットオフ値に等しい。また、評価長さは700nmで得られた値である。また、Rp/Rmaxが0.50nmであり、上記表面形状を構成する粒子の集合体の断面が台形形状を呈していた。
【0093】
上記のフィルムおよびガラスを電極とする透明タッチパネルを作製し、ポリアセタール製のペンに総重量20gとなるように荷重を負荷し、格子状に入力したところ、線飛びもなく、線の歪も発生せず安定な入力ができた。
【0094】
また、この透明タッチパネルに5V印加した状態で入力時の電圧を測定したところ、4.55Vと安定な値を示した。
【0095】
さらに、この透明タッチパネルを60℃、相対湿度95%(RH)の耐湿熱試験に500時間かけた後、同様の格子入力の試験を行い、その後、入力電圧測定を行ったところ、4.5Vと初期値と同様の値を示し、軽タッチ入力においても問題ないものであった。また、15万字の連続入力試験後の入力状態を格子入力により評価したところ、線飛びも生じなく、安定した格子を描画できた。
【0096】
(比較例1)
エージング工程を省略したことを除いて、実施例1と同様にポリエチレンテレフタレートフィルム上に透明導電膜を形成したところ、平均結晶粒径(R)は10?20nmの範囲に分布した。また、両面にSiO2がディップコートされた厚さ1.1mmのガラスを下部電極基板として、基板温度150℃に設定し、透明導電膜として厚さ10nmのITO膜をスパッタリング法により形成した。原子間力顕微鏡(セイコー電子工業株式会社製SPI3600)により観察したところ、平均結晶粒径(R)は20?30nmの範囲に分布していた。
【0097】
上記のフィルムおよびガラスを電極とする透明タッチパネルを作製し、ポリアセタール製のペンに総重量20gとなるように荷重を負荷し、格子状に入力したところ、線飛びはなかったものの、線の歪が発生し、安定した入力ができなかった。
【0098】
また、この透明タッチパネルに5V印加した状態で入力時の電圧を測定したところ、4.3?4.4Vと不安定な値を示した。
【0099】
さらに、この透明タッチパネルを60℃、相対湿度95%(RH)の耐湿熱試験に500時間かけた後、同様の格子入力の試験を行ったところ、初期の状態に比べ線の歪は大きく線飛びも発生し、さらに入力不可能な場所も観察された。また、入力電圧測定を行ったところ、4.0?4.3Vと初期値よりさらに低く、軽タッチ入力において使用できないものであった。
【0100】
(比較例2)
比較例1と同様に、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に透明導電膜を形成したところ、結晶粒径(R)は10?20nmの範囲に分布していた。透明導電膜表面の算術平均粗さ(Ra)は、0.1≦Ra≦0.25nmであり、自乗平均粗さ(Rms)は0.55nmであった。なお、基準長さは使用するカットオフ値に等しい。また、評価長さは700nmで得られた値である。
【0101】
また、両面にSiO2がディップコートされた厚さ1.1mmのガラスを下部電極基板とし、基板温度80℃に設定し、透明導電膜として厚さ15nmのITO膜をスパッタリング法により形成した。原子間力顕微鏡(セイコー電子工業株式会社製SPI3600)により観察したところ、平均結晶粒径(R)は10?15nmの範囲に分布していた。透明導電膜表面の算術平均粗さ(Ra)は、0.1≦Ra≦0.22nmであり、自乗平均粗さ(Rms)は0.35nmであった。なお、基準長さは使用するカットオフ値に等しい。また、評価長さは700nmで得られた値である。
【0102】
上記のフィルムおよびガラスを電極とする透明タッチパネルを作製し、ポリアセタール製のペンに総重量20gとなるように荷重を負荷し、5V印加した状態で入力時の電圧を測定したところ、4.2?4.3Vと不安定な値を示した。
【0103】
さらに、この透明タッチパネルを60℃、相対湿度95%(RH)の耐湿熱試験に500時間かけた後、同様の格子入力の試験を行ったところ、初期の状態に比べ線の歪は大きく線飛びも発生し、さらに入力不可能な場所も観察された。また、入力電圧測定を行ったところ、3.7?4.0Vと初期値よりさらに低く、軽タッチ入力において使用できないものであった。また、15万字の連続入力試験後の入力状態を格子入力により評価したところ、部分的に3.9?4.1Vの箇所が検出された。
【0104】
(比較例3)
実施例3と同様に、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に透明導電膜を形成した。
【0105】
また、透明導電インキ組成物を薄膜形成装置(日本写真印刷株式会社製オングストローマー(登録商標)インライン型)を用い、SiO2コートした300mm×300mm×1.1mmのソーダガラス基板上に印刷した。
【0106】
ガラス基板をホットプレートで予備乾燥を行った後、コンベア式雰囲気分離炉を用いて500℃で焼成し、引き続きコンベア式雰囲気分離炉内で水素ガスを微量含む窒素雰囲気中で500℃から室温に冷却することにより厚さ10nmの透明導電膜を得た。原子間力顕微鏡(セイコー電子工業株式会社製SPI3600)により観察したところ、平均結晶粒径(R)は10?30nmの範囲に分布していた。また、透明導電膜表面の算術平均粗さ(Ra)を測定したところ 0.1≦Ra≦0.4nmであり、自乗平均粗さ(Rms)は0.35nmであった。なお、基準長さは使用するカットオフ値に等しい。また、評価長さは700nmで得られた値である。
【0107】
上記のフィルムおよびガラスを電極とする透明タッチパネルを作製し、ポリアセタール製のペンに総重量20gとなるように荷重を負荷し、格子状に入力したところ、線飛びがなかったものの、線の歪が発生し、安定した入力ができなかった。
【0108】
また、この透明タッチパネルに5V印加した状態で入力時の電圧を測定したところ、4.3?4.4Vと不安定な値を示した。
【0109】
さらに、この透明タッチパネルを60℃、相対湿度95%(RH)の耐湿熱試験に500時間かけた後、同様の格子入力の試験を行ったところ、初期の状態に比べ線の歪は大きく線飛びも発生し、さらに入力不可能な場所も観察された。また、入力電圧測定を行ったところ、4.0?4.3Vと初期値よりさらに低く、軽タッチ入力において使用できないものであった。」が記載されている。

ここで、上記実施例1として、段落【0070】には「透明導電膜としてITO膜を成膜温度130℃にてスパッタリング法により形成し、」とあるが、上記「スパッタリング法」の製造条件としては「成膜温度130℃」のみが記載されており、「他の製造条件」が明らかではなく、また、上記「他の製造条件」が当業者の技術常識であるともいえないから、上記「スパッタリング法」を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。また、段落【0070】には「150℃前後の温度でエージングを行って、」とあるが、上記「エージング」の製造条件としては「150℃前後の温度」のみが記載されており、「他の製造条件」が明らかではなく、また、上記「他の製造条件」が当業者の技術常識であるともいえないから、上記「エージング」を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。
また、上記実施例2として、段落【0076】には「インジウム、スズ比が{Sn/(In+Sn)}×100=20重量%になるように調整された透明導電インキ組成物を前述の薄膜形成装置(日本写真印刷株式会社製オングストローマー(登録商標)インライン型)を用い、SiO2コートした300mm×300mm×1.1mmのソーダガラス基板上に印刷した」とあるが、上記「透明導電インキ組成物」の条件としては「インジウム、スズ比が{Sn/(In+Sn)}×100=20重量%」のみが記載されており、粘度や導電率など「他の条件」が明らかではなく、また、上記「他の条件」が当業者の技術常識であるともいえないから、上記「透明導電インキ組成物」の調製を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。また、前記「透明導電インキ組成物」をソーダガラス基板上に印刷する条件としては「薄膜形成装置(日本写真印刷株式会社製オングストローマー(登録商標)インライン型)を用い、SiO2コートした300mm×300mm×1.1mmのソーダガラス基板上に印刷した」のみが記載されており、印刷する際の速度や膜厚など「他の印刷条件」が明らかではなく、また、上記「他の印刷条件」が当業者の技術常識であるともいえないから、上記「印刷」を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。
また、上記実施例3として、段落【0082】には「成膜温度を150℃、エージングを150℃で数時間行った」とあるが、上記「エージング」の製造条件としては「150℃で数時間」のみが記載されており、前記「数時間」は明確でなく、「他の製造条件」が明らかではなく、また、上記「他の製造条件」が当業者の技術常識であるともいえないから、上記「エージング」を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。また、段落【0083】には「また、インジウム、スズ比が{Sn/(In+Sn)}×100=12重量%になるように調整された透明導電インキ組成物を、前述の薄膜形成装置(日本写真印刷株式会社製オングストローマー(登録商標)インライン型)を用い、SiO2コートした300mm×300mm×1.1mmのソーダガラス基板上に印刷した」とあるが、上記「透明導電インキ組成物」の条件としては「インジウム、スズ比が{Sn/(In+Sn)}×100=12重量%」のみが記載されており、粘度や導電率など「他の条件」が明らかではなく、また、上記「他の条件」が当業者の技術常識であるともいえないから、上記「透明導電インキ組成物」の調製を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。また、前記「透明導電インキ組成物」をソーダガラス基板上に印刷する条件としては「薄膜形成装置(日本写真印刷株式会社製オングストローマー(登録商標)インライン型)を用い、SiO2コートした300mm×300mm×1.1mmのソーダガラス基板上に印刷した」のみが記載されており、印刷する際の速度や膜厚など「他の印刷条件」が明らかではなく、また、上記「他の印刷条件」が当業者の技術常識であるともいえないから、上記「印刷」を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。また、段落【0084】には「ガラス基板をホットプレートで予備乾燥を行った」とあるが、上記「予備乾燥」の「製造条件」が明らかではなく、また、上記「製造条件」が当業者の技術常識であるともいえないから、上記「予備乾燥」を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。
また、上記実施例4として、段落【0090】には「また、インジウムとスズの比が{Sn/(In+Sn)}×100=10重量%になるように調整した透明導電インキ組成物を、前述の薄膜形成装置(日本写真印刷株式会社製オングストローマー(登録商標)インライン型)を用い、SiO2コートした300mm×300mm×1.1mmのソーダガラス基板上に印刷した」とあるが、上記「透明導電インキ組成物」の条件としては「インジウムとスズの比が{Sn/(In+Sn)}×100=10重量%」のみが記載されており、粘度や導電率など「他の条件」が明らかではなく、また、上記「他の条件」が当業者の技術常識であるともいえないから、上記「透明導電インキ組成物」の調製を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。また、前記「透明導電インキ組成物」をソーダガラス基板上に印刷する条件としては「薄膜形成装置(日本写真印刷株式会社製オングストローマー(登録商標)インライン型)を用い、SiO2コートした300mm×300mm×1.1mmのソーダガラス基板上に印刷した」のみが記載されており、印刷する際の速度や膜厚など「他の印刷条件」が明らかではなく、また、上記「他の印刷条件」が当業者の技術常識であるともいえないから、上記「印刷」を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。また、段落【0091】には「ガラス基板をホットプレートで予備乾燥を行った」とあるが、上記「予備乾燥」の「製造条件」が明らかではなく、また、上記「製造条件」が当業者の技術常識であるともいえないから、上記「予備乾燥」を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。

したがって、本願明細書には「透明タッチパネル用透明導電膜及び透明タッチパネル」の一般的な製造方法が記載されているに過ぎず、本願でいう「透明タッチパネル用透明導電膜」の(2)ないし(4)の要件を全て満たすためには、一般的な製造方法の中から、如何なる製造条件によって得られるかという、製造条件と(2)ないし(4)の要件とを結びつける記載は認められない。
また、本願でいう「透明タッチパネル用透明導電膜」の(2)ないし(4)の要件を満たすための製造方法が、当業者の技術常識であるともいえない。
してみれば、「透明タッチパネル用透明導電膜」の製造方法である実施例において、「透明タッチパネル用透明導電膜」の製造には、どの程度の設計変更が可能であるのか、当業者が予測することができず、(2)ないし(4)の要件のすべてを満たす「透明タッチパネル用透明導電膜」を製造するために、当業者にとって、過度の試行錯誤を強いるものといわざるを得ない。

したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。

3-2 請求人は、平成18年7月3日付けの意見書において、
「(2)補正後の請求項1に関する明細書の記載事項
・・・(中略)・・・
また、この評価指標の値を有する透明タッチパネル用透明導電膜の製造方法としては、段落0050に記載されている。段落0050には、「ゾル-ゲル材料を塗布または印刷後、40℃?100℃にて初期乾燥し、次いで200℃?400℃の温度域を毎分40℃?60℃の昇温速度で酸化焼成を行い、引き続き還元焼成を行うことにより、(中略)算術平均粗さ(Ra)、自乗平均粗さ(Rms)も前記範囲内に収めるように制御するのが容易である。」との記載があり、算術平均粗さ(Ra)及び自乗平均粗さ(Rms)を特有の数値範囲にするための製造方法についても説明がなされている。

(3)上記記載が記載要件を満たしているか
上述のように、特許法第36条第4項及び第6項を満たしているか否かについては、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
この判断基準を本件出願書類の記載内容と比較してみるところ、請求項1に記載された発明に関し、少なくとも当業者が技術常識を参酌して請求項1にかかる透明導電膜の製造をすることができる程度の開示がなされているものと解される。そして、当該透明導電膜の表面形状も、算術平均粗さ(Ra)及び自乗平均粗さ(Rms)を評価指標とし、その計算式も開示されている。これらの評価指標は、種々の技術論文においても広く用いられている標準パラメータであり、技術論文にも具体的な測定方法まで開示されることなく用いられている。また、上記パラメータを用いた具体的数値の技術的意義についても明確に説明されている。
本願請求項1にかかる発明は、上述のように、表面形状を断面台形などに近づけることによってより高精度の透明電極膜を形成しようとする技術的知見に基づくものであり、これらの知見に基づいて、当業者であれば、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであることは明確である。
上記のように特許法第36条第4項及び第6項の趣旨は、発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しなければならないという趣旨であり、少なくとも課題を解決することができる程度に発明を特定することができる程度の開示があれば要件を満たしていると解されるべきである。
したがって、上記補正後の請求項1の記載は、特許法第36条第4項及び第6項に違反するものではなく、請求項1にかかる発明は特許を受けることができる。」と主張している。(第4頁第10?40行)

しかしながら、「ゾル-ゲル材料を塗布または印刷後、40℃?100℃にて初期乾燥し、次いで200℃?400℃の温度域を毎分40℃?60℃の昇温速度で酸化焼成を行い、引き続き還元焼成を行う」と、「前記範囲内の平均結晶粒径(R)を容易に得ることができる。また、算術平均粗さ(Ra)、自乗平均粗さ(Rms)も前記範囲内に収める」との具体的な因果関係が明確でないものと認める。また、前記の具体的な因果関係が技術常識であるともいえない。
また、「表面形状を断面台形などに近づけることによってより高精度の透明電極膜を形成しようとする技術的知見に基づくものであり、これらの知見に基づいて、当業者であれば、当該発明の課題を解決できる」としているが、「ゾル-ゲル材料を塗布または印刷後、40℃?100℃にて初期乾燥し、次いで200℃?400℃の温度域を毎分40℃?60℃の昇温速度で酸化焼成を行い、引き続き還元焼成を行う」と、前記の「表面形状」との具体的な因果関係が明確でないものと認める。また、前記の具体的な因果関係が技術常識であるともいえない。
したがって、「少なくとも当業者が技術常識を参酌して請求項1にかかる透明導電膜の製造をすることができる程度の開示がなされているものと解される。」とする請求人の上記主張は採用することができない。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないので、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-11-20 
結審通知日 2006-11-21 
審決日 2006-12-05 
出願番号 特願平11-191355
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久保田 昌晴  
特許庁審判長 藤内 光武
特許庁審判官 工藤 一光
竹井 文雄
発明の名称 透明タッチパネル用透明導電膜、透明タッチパネル  
代理人 和田 充夫  
代理人 中塚 雅也  
代理人 河宮 治  

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