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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41F
管理番号 1150885
審判番号 不服2003-23683  
総通号数 87 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-05-14 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-12-08 
確定日 2007-01-15 
事件の表示 特願2000-333118「検査方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 5月14日出願公開、特開2002-137369〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は平成12年10月31日の出願であって、平成15年10月31日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年12月8日付けで本件審判請求がされるとともに、平成16年1月7日付けで明細書についての手続補正(以下「本件補正」という。)がされたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成16年1月7日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正内容
本件補正は特許請求の範囲を補正するものであり、補正後の請求項1に対応する補正前の請求項は請求項1であって、それぞれの記載は次のとおりである。

(補正前請求項1)搬送される撮像対象に発光手段で照射して、その照射された光を受光手段で受光することによって前記撮像対象上に印刷された識別記号を撮像して検査する検査方法であって、
前記撮像対象が、近赤外光の反射率が互いに異なる少なくとも2つの部分を含んで構成されたものであり、前記識別記号は、近赤外光の反射率が互いに異なる部分の1つとして、且つ、視認できるように印刷してあり、光の照射によって前記撮像対象から反射した近赤外域成分の光を前記受光手段で受光して前記識別記号を検出する検査方法。

(補正後請求項1)搬送される撮像対象に発光手段で照射して、その照射された光を受光手段で受光することによって前記撮像対象上に印刷された識別記号を撮像して検査する検査方法であって、
前記撮像対象における前記識別記号とその背景部とが、可視光の反射率の差が僅かな濃色で、且つ、近赤外光の反射率の差が前記可視光の反射率の差より大きくなるように印刷してあり、光の照射によって前記撮像対象から反射した近赤外域成分の光を前記受光手段で受光して前記識別記号を検出する検査方法。

2.補正目的
要するに当該補正は、補正前請求項1で「前記撮像対象が、近赤外光の反射率が互いに異なる少なくとも2つの部分を含んで構成されたものであり、前記識別記号は、近赤外光の反射率が互いに異なる部分の1つとして、且つ、視認できるように印刷してあり、」と記載されていたものを「前記撮像対象における前記識別記号とその背景部とが、可視光の反射率の差が僅かな濃色で、且つ、近赤外光の反射率の差が前記可視光の反射率の差より大きくなるように印刷してあり、」と補正するものである。当該補正の目的が、請求項削除及び、誤記の訂正に該当しないことは明らかである。また、原査定の拒絶理由は進歩性欠如に係る拒絶理由のみであるので、当該補正の目的が明りょうでない記載の釈明に該当しないことも明らかである。
当該補正の目的が、特許請求の範囲の減縮に該当するか検討する。
補正前請求項1には上記記載から、「撮像対象」として、「近赤外光の反射率が互いに異なる少なくとも2つの部分」を含んでおり、そのうちの1つが「識別記号」であることが記載されている。また、補正後請求項1には上記記載から「撮像対象」が、「識別記号」と「その背景部」とを含んでおり、これらが「近赤外光の反射率の差が前記可視光の反射率の差より大きくなるように印刷して」あるのだから、「近赤外光の反射率が互いに異なる」ことが記載されているといえる。つまり、記載表現に差異はあるものの、補正の前後において、「前記撮像対象が、近赤外光の反射率が互いに異なる少なくとも2つの部分を含んで構成されたものであり、前記識別記号は、近赤外光の反射率が互いに異なる部分の1つ」である点では、実質的に相違しない。してみると、当該補正は、(1)補正前に撮像対象が「近赤外光の反射率が互いに異なる少なくとも2つの部分を含んで構成されたもの」であったものを近赤外光の反射率が互いに異なる「識別記号とその背景部」とした点、(2)補正前に「識別記号」が「視認できるように印刷」してあるものとしていたのを、背景部との「可視光の反射率の差が僅かな濃色」で印刷してあるものとした点、及び、(3)補正前に「識別記号」を含む少なくとも2つの部分を含む「撮像対象」が、単に「近赤外光の反射率が互いに異なる」ものであったのを、「近赤外光の反射率の差が前記可視光の反射率の差より大きくなる」として、近赤外光の反射率が異なる程度を、可視光の反射率の差との相対比較で表現した点が、実質的な補正事項に当たるといえる。
(1)の点は、「少なくとも2つの部分(1つは識別記号)」と記載されていたのを「識別記号」及び「その背景部」としたのだから、補正前請求項1に記載された発明の発明特定事項の限定であると解される。
また、(3)の点も、撮像対象に含まれる2つの部分の近赤外光の反射率の差の程度を、可視光の反射率の差との相対比較により特定したものであるから、補正前請求項1に記載された発明の発明特定事項の限定であると解される。
残る(2)の点が、補正前請求項1に記載された発明の発明特定事項の限定に該当するか検討する。
まず、補正前請求項1の、「前記識別記号は・・・視認できるように印刷してあり、」との記載の意味について検討する。
「視認」とは、一般的に「目で確認すること。[株式会社岩波書店 広辞苑第五版]」を意味するので、上記記載は識別記号が目で確認できるように印刷してあることを意味していると解される。
次に、補正後請求項1の、「前記識別記号とその背景部とが、可視光の反射率の差が僅かな濃色で」との記載の意味について検討する。
補正後請求項1の上記「識別記号」と「その背景部」との「可視光の反射率の差が僅か」ということは、「識別記号」と「その背景部」とがほぼ同じ色であることを意味し、補正後請求項1の上記記載は、「識別記号」と「その背景部」とがほぼ同じ色の濃色であることを意味していると解される。
したがって、補正前請求項1の、「前記識別記号は・・・視認できるように印刷してあり、」を一般的な意味で解釈すると、補正後請求項1の、「前記識別記号とその背景部とが、可視光の反射率の差が僅かな濃色で」との記載の意味と対応しておらず、上記(2)の点は、補正前請求項1に記載された発明の発明特定事項を限定したものとはいえない。
ところで、本願明細書では、この識別記号の「視認」について、「これに対して、人間の目で認識できない領域の光である近赤外域成分を有する光を用いる本方法では、撮像対象を可視光での見た目が従来と何ら変わらない状態に印刷でき、表示すべき識別記号(製造年月日、賞味期限の日付等)を視認できるとともに、撮像によって識別記号が何であるかの認識が高速搬送の製造工程においても行えるようになる。」(段落【0024】)、「背景等の第1部分と識別用のマーキング等の第2部分との2つの部分における近赤外光の反射率を互いに異ならせた状態の撮像対象を、近赤外光を照射して受光させることで撮像する工夫により、第1部分と第2部分が通常に見える状態のものとしながら、第1部分と第2部分との色調関係如何に拘わらずにいずれか一方の部分を他方の部分から正確に区別しての撮像が可能になる、という撮像効果を得ることができる。」(段落【0035】)と記載されている。
他方、本願発明の目的は、本願明細書段落【0007】の記載から、「濃色の印刷素地が施されている面に識別記号を印刷しても、印刷素地と混同すること無く識別記号を正確に検出して認識できる」ことや、「撮像対象に対して、デザインの本質的な要素である色、位置、大きさ、及び範囲等の意匠的な側面から制約を受けること無くデザインを施すことが可能である」ことであると解され、識別記号が、目視では印刷素地と混同されるものであることや、デザインの制約にならない(目立たない)ことを前提としていることがうかがわれ、上記段落【0024】の「可視光での見た目が従来と何ら変わらない状態に印刷でき、表示すべき識別記号(製造年月日、賞味期限の日付等)を視認できる」との記載、及び、段落【0035】の「第1部分と第2部分が通常に見える状態のものとしながら」との記載は、識別記号が、記号として、単独で、目で確認できることを意味しているのではなく、むしろ、背景など他の部分とほぼ同じ色として認識でき、ほとんど色差がないことを意味していると解される。
以上により、補正前請求項1の上記「前記識別記号は・・・視認できるように印刷してあり、」との記載は、上記したように、識別記号が目で確認できるように印刷してあることを意味しているのではなく、識別記号が、背景など他の部分とほぼ同じ色として認識でき、ほとんど色差がないことを意味していると解釈すべきこととなる。
そうすると、補正前請求項1の「前記識別記号は・・・視認できるように印刷してあり、」との記載と、補正後請求項1の「前記識別記号とその背景部とが、可視光の反射率の差が僅かな濃色で」との記載は、識別記号と他の部分とがほぼ同じ色である点では同じで、補正後の上記記載において、他の部分を背景部に限定し、識別記号と他の部分(その背景部)とが「濃色」であると限定したものと解される。よって、上記(2)の点は、補正前請求項1に記載された発明の発明特定事項を限定していると解し得る。
よって、当該補正の目的は、特許法第17条の2第4項第2号に規定された、特許請求の範囲の減縮に該当するものと認める。
なお、上記(2)について、補正前請求項1における「前記識別記号は・・・視認できるように印刷してあり、」との記載が、「識別記号」自体の「内容」を目視で確認できるように印刷してあることを意味しているとするならば、補正後請求項1にはそのような記載はなく、当該補正は、特許請求の範囲の減縮を目的としたものと認められないので、以下の判断をするまでもなく却下を決定することとなる。

3.補正後請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)の独立特許要件についての判断

A.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開昭58-134782号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の記載が図示とともにある。

(ア)「1)近赤外線の反射能を有する基材に、近赤外線の透過率又は反射率の異なる少なくとも2種類以上の同色調のインキ層を並設又は積層してなることを特徴とする照合用印刷物。」(第1頁左下欄第5?8行、特許請求の範囲第1項)

(イ)「本発明はこれ等の従来技術の問題点を克服するために鋭意研究の結果完成に至ったものであり、特定の顔料を配合したインキと同色調の従来のインキを選定して印刷をすることにより、該特定のインキにより印刷された隠し柄をいかなるフィルターを使用しても、或いは光を照射しても肉眼では識別が不可能であり、700?1,000nmの波長域の近赤外線に比較的強い感度を有するカメラで撮影しCRTにラフし出すか、或いは赤外線ビュアー等で見ることによってのみ識別することが出来、自動照合が可能な悪用される事のない安全性の高い、如何なる色調でも使用できる実用性の高い照合用印刷物を提供しようとするものである。」(第2頁左上欄第12行?同頁右上欄第4行)

(ウ)「本発明は印刷用のインキに含有されている顔料の光学的特性に起因してなされたものであり、顔料の中には可視域では一般の顔料とほとんど透過率又は反射率に差はないが、700?1,000nmの近赤外線領域で透過率又は反射率に大きな差があるものがある。即ち、該近赤外線領域で光を透過および反射しない顔料と、可視領域で該顔料と同様の透過率或いは反射率をもちながら700?1,000nmの近赤外線を透過又は反射する顔料を選定し、それ等の顔料を配合して得られたインキの中で同様の色調のものを組合せて被印刷物である基材に隠し柄を印刷することにより肉眼では全く識別できず700?1,000nmの近赤外線によってのみ識別することの出来る印刷物を提供することにある。」(第2頁右上欄第16行?同頁左下欄第10行)

(エ)「第1図において、Aは700?1,000nmの近赤外線を透過又は反射するインキ層、Bは700?1,000 の近赤外線を透過及び反射しないインキ層でAのインキ層と同色調であり、該2種類の同色調のインキ層を基材2の上に密着して並設したものである。」(第2頁左下欄第16行?同頁右下欄第1行)

(オ)「実施例2 顔料に紺青を使用したオフセットインキB2と、藍と黄と紅を使って色調をそれに揃えて調整したオフセットインキA2をそれぞれRIテスターでアート紙に展色し、分光反射率を測定したところ第9図の通りであった。可視域での色合せは十分ではなかったが波長が800nmでの反射率は80%である。又赤外線ビュアーで見たところ両方のサンプルの濃度差は、実施例1の場合の差よりも大きく識別することができた。」(第5頁左上欄第1?10行)

(カ)「実施例3 オフセット用の黄、紅、藍インキを、それぞれ等量ずつ混合練肉し、墨インキA3とし、コート紙に展色、又顔料にカーボンを使用している墨インキB3をコート紙にRIテスターで展色したサンプルを実施例1と同様の方法で分光反射率を測定した結果を第10図に示した。波長800nmにおける反射率の差は90%であった。」(第5頁左上欄第11?18行)

上記(ア)には、近赤外線の反射能を有する基材に、近赤外線の透過率又は反射率の異なる少なくとも2種類以上の同色調のインキ層を並設又は積層した照合用印刷物が記載されている。
また、上記(イ)には、「照合用印刷物」をカメラや赤外線ビュアー等で撮影して見ることにより印刷された隠し柄を識別し、照合する方法が記載されている。
さらに、上記(イ)及び(ウ)には、近赤外線領域で光を透過および反射しない顔料を配合したインキと、当該インキと同色調で、可視領域では前記顔料と同様の透過率或いは反射率をもちながら700?1,000nmの近赤外線を透過又は反射する顔料を配合した特定のインキとを組み合わせ、前記特定のインキにより「隠し柄」を印刷することが記載されている。
したがって、上記(ア)?(カ)の記載によると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「照合用印刷物に印刷された隠し柄を識別し照合する方法であって、
前記照合用印刷物が、近赤外線の反射能を有する基材に、近赤外線領域で光を透過および反射しない顔料を配合したインキと、前記インキと同色調で、可視領域では前記顔料と同様の透過率或いは反射率をもちながら700?1,000nmの近赤外線を透過又は反射する顔料を配合した特定のインキとを組み合わせた、異なる少なくとも2種類以上の同色調のインキ層を並設又は積層することにより、前記特定のインキで、隠し柄を印刷したものであり、
前記照合用印刷物を近赤外線に比較的強い感度を有するカメラで撮影し、或いは赤外線ビュアーによって見ることによって、前記照合用印刷物に印刷された隠し柄を識別し照合する方法。」

B.対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「照合用印刷物」は、「近赤外線に比較的強い感度を有するカメラ」で撮影する対象であることから、本願補正発明の「撮像対象」に相当する。
また、引用発明は「照合する方法」であるが、「照合」とは、一般に「照らしあわせ確かめること。[株式会社岩波書店 広辞苑第五版]」を意味し「検査」の一種であると認められるので、引用発明の「照合する方法」は、本願補正発明の「検査方法」と同義であると解される。
引用発明の「近赤外線に比較的強い感度を有するカメラ」や「赤外線ビュアー」は、照合用印刷物を撮影し、照合用印刷物からの近赤外線の反射率の違いにより、隠し柄を識別するのであるから、本願補正発明のように撮像対象に対する光を照射する「発光手段」、及び、撮像対象から反射した光を受光する「受光手段」を備えていることは、自明の事項である。
さらに、引用発明の「照合用印刷物」は「近赤外線領域で光を透過および反射しない顔料を配合したインキ」からなる「インキ層」と、「前記インキと同色調で、可視領域では前記顔料と同様の透過率或いは反射率をもちながら700?1,000nmの近赤外線を透過又は反射する顔料を配合した特定のインキ」からなる「インキ層」とを並設又は積層して印刷したものであり、「前記特定のインキ」で「隠し柄」が印刷されている。
当該「隠し柄」は上記「特定のインキ」の特性により「近赤外線に比較的強い感度を有するカメラ」等で撮影して識別、照合されるのだから、引用発明の「隠し柄」は、本願補正発明の「光の照射によって前記撮像対象から反射した近赤外線成分の光を前記受光手段で受光して・・・検出」される「識別記号」と同様の機能を有している。
ここで、「記号」とは、一般に「一定の事柄を指し示すために用いる知覚の対象物。[株式会社岩波書店 広辞苑第五版]」を示す用語であり、引用発明の「隠し柄」も識別するためには単に特定のインキ層というだけではなく、一定の事柄を指し示す「知覚の対象」であるといえるので、「記号」と同等物である。したがって、引用発明の「隠し柄」は本願補正発明の「識別記号」に相当すると解される。
また、引用発明において、「特定のインキ」と組合わされる、「近赤外線領域で光を透過および反射しない顔料を配合したインキ」からなるインキ層は、「特定のインキ」からなるインキ層と並設又は積層されるものであるから、この「近赤外線領域で光を透過および反射しない顔料を配合したインキ」からなるインキ層が、本願補正発明の「その背景部」に相当すると解される。
さらに、引例発明において、本願補正発明の「識別記号」に相当する「隠し柄」を構成する「特定のインキ」と、本願補正発明の「その背景部」に相当する「近赤外線領域で光を透過および反射しない顔料を配合したインキ」とは、可視領域では同様の透過率或いは反射率であって、近赤外線領域に関しては、前者は、700?1,000nmの近赤外線を透過又は反射するものであり、後者は、近赤外線領域の光を透過および反射しないものであることから、これらは、本願補正発明と同様に「可視光の反射率の差が僅か」で、且つ、「近赤外光の反射率の差が前記可視光の反射率の差より大きくなるように印刷」してあるものと解される。

したがって、本願補正発明と引用発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。

<一致点>「撮像対象に発光手段で照射して、その照射された光を受光手段で受光することによって、前記撮像対象上に印刷された識別記号を撮像して検査する検査方法であって、
前記撮像対象における前記識別記号とその背景部とが、可視光の反射率の差が僅かで、且つ、近赤外光の反射率の差が可視光の反射率の差より大きくなるように印刷してあり、光の照射によって前記撮像対象から反射した近赤外域成分の光を前記受光手段で受光して前記識別記号を検出する検査方法。」

<相違点1>本願補正発明が「搬送される撮像対象に発光手段で照射して、その照射された光を受光手段で受光することによって前記撮像対象上に印刷された識別記号を撮像して検査する検査方法」であるのに対し、引用発明は、撮像対象に相当する照合用印刷物を撮像する際、照合用印刷物が搬送されているか否かについて、特定がない点。

<相違点2>本願補正発明では、「識別記号」と「その背景部」が「濃色」に限定されているのに対して、引用発明には、撮像対象である隠し柄を含むインキ層について、そのような特定がない点。

C.判断
<相違点1>について
B.で記載したように、引用発明の「照合」する方法は、「検査方法」の一種である。
ところで、本願出願時において、搬送されている物品に印刷された情報を、撮像して検査する検査方法は、周知慣用された技術である(例えば、特開平7-46485号公報、特開平10-171975号公報、特開2000-292370号公報を参照)。
そして、物品に印刷された情報を撮像して検査する際に、搬送された状態のまま検査するか、停止した状態で検査するかは、撮像対象となる物品の大きさや種類、単位時間当たりの物品の検査個数、検査対象となる識別記号の種類、発光手段や受光手段の性能など、各種条件に応じて、当業者が適宜に設定し得るものであって設計事項に属するものである。
よって、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項は、引用例1及び上記周知慣用技術に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。

<相違点2>について
上記(オ)には、実施例2として、2つのインキをともに「紺青」とすることが例示されており、上記(カ)には、実施例3として2つのインキをともに「墨(黒)」とすることが例示されており、引用例1には、「照合用印刷物」に印刷されるインキ層を「濃色」とすることが記載されている。
よって、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項を採用することは、引用例1に基づいて、当業者が容易になし得る設計的な事項である。

したがって、本願補正発明は、引用例1に記載された発明及び周知慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

[補正の却下の決定のむすび]
以上のとおり、本件補正は、平成15年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本件審判請求についての判断
1.本願発明の認定
本件補正が却下されたから、本願の請求項1に係る発明(以下、本願発明という。)は、平成15年10月6日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されるものと認めることができ、当該請求項1の記載は上記「第2[理由]1.補正内容」で(補正前請求項1)として記載したとおりである。

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1、及びその記載事項は、上記「第2[理由]3.A.引用例」に記載したとおりである。

3.対比、判断
本願発明は、上記「第2」で検討した本願補正発明の「撮像対象」に含まれる事項を限定する「その背景部」を省き、識別記号と他の部分(その背景部)との色差の程度や色味自体を限定した点を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を含み、さらに他の限定事項を含む、本願補正発明が、「第2[理由]3.C.判断」に記載したとおり、引用例1及び周知慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用例1及び周知慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、審判請求人は審判請求理由補充書において「識別記号を、普段は目で見えないようにするのではなく、可視光領域で視認を可能にしてあることで、例えば製品の製造年月日や賞味期限の日付等の識別記号を視認によって正確に知ることができ、製品の鮮度表示等を提供することが可能となる。」と主張している(但し、当該主張は、審判請求時に補正された特許請求の範囲を前提としている)。
審判請求人の当該主張は「識別記号」の内容を目視できるというものであるが、本願明細書中には、識別記号として日付等を目視により読み取れることを明記した記載はなく、本願明細書の記載からして、本願発明は、背景となるデザイン等が、識別記号により色、位置、大きさなどの意匠的な制約を受けないようにしつつ、高速で搬送されていても、識別記号が撮像により識別できるようにすることを目的としており、「識別記号」の内容を目視できるようにすることを目的としたものではないと解されるのは、上記「第2[理由]2.補正目的」で検討したとおりである。
したがって、上記主張は、出願当初の明細書の記載内容からは逸脱したものであり、採用することはできない。
ここで、審判請求人の上記主張について、本願発明の「視認できるように印刷」してある点が、上記主張のような「識別記号」の内容を目視できるという意味であると仮定した場合についても以下に検討する。
本願発明は、識別記号とその背景との色差が少ないことを前提とした発明であるので、「識別記号」の内容を目視できるといっても、いちべつして瞬時にその内容を理解できるのではなく、せいぜい目を凝らせば判別できる程度の視認性であると解すべきである。
一方、引用例1に記載された発明は、証券などの偽造防止を目的としているため、肉眼での識別を否定しているが、同色調とはいえ、調合するインク材料が異なることから、完全に同じ色になるとは考えにくく、目を凝らせば、隠し柄を判別することは可能であると解されるので、上記主張の点は、引用例1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得る程度のことであり、格別の相違点とは認められない。
また、近赤外光等の可視光以外の反射率の差を利用して図柄や文字などの情報を読み取る技術は、原査定時に提示された複数の文献にて例示されるように従来周知の技術であり、そのような周知技術を採用する際に、図柄や文字などを視認できるように印刷するか否かは、その目的に応じた設計事項であって、当業者にとって適宜になし得ることと認められる。
したがって、審判請求人が主張するような識別記号の視認性は、主張の通りであったとしても、上記したように格別の相違点ではなく、結論を変更する理由にはならない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明、及び周知慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願出願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-11-08 
結審通知日 2006-11-16 
審決日 2006-11-28 
出願番号 特願2000-333118(P2000-333118)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B41F)
P 1 8・ 121- Z (B41F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 江成 克己  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 藤井 勲
尾崎 俊彦
発明の名称 検査方法  
代理人 北村 修一郎  

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