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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1150889
審判番号 不服2004-4737  
総通号数 87 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-04-10 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-03-08 
確定日 2007-01-15 
事件の表示 平成11年特許願第281400号「プリントシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 4月10日出願公開、特開2001- 96813〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は平成11年10月1日の出願であって、平成16年2月4日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年3月8日付けで本件審判請求がされるとともに、同年4月6日付けで明細書についての手続補正(以下「本件補正」という。)がされたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成16年4月6日付けの手続補正を却下する。

[理由1]
1.補正内容
本件補正は、補正前の請求項1?6及び請求項13?18を削除し、同請求項7?12を請求項1?6と改めた上で、補正前請求項7記載の「上記画像データの送信先の情報を入力するとともに複数の送信先の情報を入力可能な送信先情報入力手段」を「上記画像データの送信先である、装填された上記記録媒体に上記画像データを記録可能な他の上記プリント装置の情報を入力するとともに複数の送信先の情報を入力可能な送信先情報入力手段」と補正(以下「本件補正事項」という。)するものである。
なお、本件補正は上記以外に、補正前の「プリンタ装置」を「プリント装置」に補正しており、そのような補正は厳密にいうと特許法17条の2第4項1?4号のいずれにも該当しないが、「プリンタ装置」と「プリント装置」が同義なことは明らかであるから、ここでは不問に付す。

2.補正目的違反
本件補正事項の「上記画像データの送信先である」が修飾するものとして考えられるのは「他の上記プリント装置」しかない。すなわち、本件補正事項により、送信先のプリント装置(受信側プリント装置ということもできる。)が「装填された上記記録媒体に上記画像データを記録可能」である旨限定するものである。
しかし、受信側プリント装置が、記録媒体に画像データを記録可能であるとの限定は、同プリント装置において、プリントを行わずに記録媒体に画像データを記録可能とする旨の、補正前請求項7には存在しない課題を追加するものである。
したがって、本件補正事項は特許法17条の2第4項2号でいう「特許請求の範囲の減縮」には当たらない。本件補正事項が特許法17条の2第4項1号,3号又は4号の何れにも該当しないことも明らかである。
すなわち、本件補正事項を含む本件補正は特許法17条の2第4項の規定に違反している。

[理由2]
理由1で述べたように、本件補正事項は送信先のプリント装置(受信側プリント装置)について、記録媒体に画像データを記録可能であると限定するものである。ネットワークに接続されたすべてのプリント装置が、記録媒体に画像データを記録可能というのなら、そのことが願書に最初に添付した明細書(以下、添付図面を含めて「当初明細書」という。)に記載されていることは認める。しかし、わざわざ送信先のプリント装置についてのみそのような限定をする以上、ネットワークに接続されたプリント装置の中には、送信先たりえないプリント装置(ネットワークに接続している以上、送信機能はあるが受信機能がないという意味である。)が含まれており、記録媒体に画像データを記録可能なプリント装置だけを送信先とするプリントシステムを包含している。
しかし、送信先たりえないプリント装置(記録媒体に画像データを記録可能でないプリント装置)が含まれているプリントシステムは当初明細書に記載されていないし、自明の事項でもない。
また、本件補正事項には「装填された上記記録媒体に上記画像データを記録可能」とあり、「装填された上記記録媒体」とは送信元のプリント装置に装填された記録媒体であるから、送信元と送信先のプリント装置が、同一の記録媒体を読み書きできなければならない。しかし、送信元と送信先のプリンタ装置が読み書き対象とする記録媒体、通常の用語を用いればサポートする記録媒体が同一である必要はないし、同一であるとの明確な記載は当初明細書にはない。同一にする必要は必ずしもないのだから、自明な事項にも該当しない。
以上のとおりであるから、本件補正事項を含む本件補正は特許法17条の2第3項の規定に違反している。

[理由3]
理由3及び次の理由4では、本件補正事項が限定的減縮(特許法17条の2第4項2号該当)に当たるとした場合、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるかどうかの判断をする。
本件補正事項を自然に解釈すれば新規事項に当たることは理由2で述べたとおりである。理由2の判断が誤りであるとすれば、理由2の解釈が誤りの場合のみである。しかし、自然な解釈が誤りであるとすると、それだけで本件補正後の請求項1の記載が著しく不明確であることに帰する。
そればかりか、本件補正事項は送信先のプリント装置について限定するものであるが、「装填された上記記録媒体に上記画像データを記録可能」との限定は、単に送信先のプリント装置が記録媒体に画像データを記録する機能を有しておればよいのか、それとも受信した画像データについて、ユーザ(顧客)に対して保存するか保存しないか(保存しない場合、当然プリントする。)の選択肢を提供することまで限定しているのか明確でない。
以上のとおり、本件補正後の請求項1の記載は著しく不明確であり、特許法36条6項2号に規定する要件を満たさないから、補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正は特許法17条の2第5項で準用する同法126条5項の規定に違反している。

[理由4]
1.補正発明の認定
本件補正後の請求項1の記載は不明確であるけれども、一応補正発明を同請求項1に記載された事項によって特定されるものと認定する。同請求項1の記載は次のとおりである。
「複数のプリント装置と、各上記プリント装置間を接続するネットワークとを有し、
各上記プリント装置は、
装填された記録媒体から画像データを読み出す読出し手段と、
上記画像データの送信先である、装填された上記記録媒体に上記画像データを記録可能な他の上記プリント装置の情報を入力するとともに複数の送信先の情報を入力可能な送信先情報入力手段と、
上記送信先の情報に基づいて、上記画像データを上記入力された送信先に送信する送信手段と
を具え、上記送信手段は、上記画像データに受付情報を付加して上記送信先に送信し、
上記画像データ及び上記受付情報を受付インデックスとしてプリントする
ことを特徴とするプリントシステム。」

2.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-88577号公報(以下「引用例1」という。)には、以下のア?サの記載が図示とともにある。
ア.「写真処理システム100では、画像(又は画像データ)が記録された様々な記録媒体を受付けることができ、これらから画像データを取り込み、必要に応じて合成写真やフロントプリント等の画像処理をおこなった後、写真プリントを作成すると共に、顧客の希望に応じて指定された記録媒体に該プリントした画像データ(デジタル画像データ)を記録して提供することができる。また、通信回線を用いて遠隔から画像データを送り、処理を依頼することも可能となる。」(【要約】の【解決手段】欄)
イ.「画像を光電変換すると共に、デジタル画像データを得るための第1のデジタル画像データ作成ユニットと、既に画像が電気的又は磁気的に記録された記録媒体からル画像データを読み取るためのドライバを備え、該読み取った画像データからデジタル画像データを得るための第2のデジタル画像データ作成ユニットと、通信回線を伝搬する画像データを取り込むためのインタフェースを備え、予め定められたデータ形式と互換性を持つデジタル画像データを得るための第3のデジタル画像データ作成ユニットと、の内少なくとも1つを含む複数のユニットが装填可能な画像データ入力手段と、
前記デジタル画像データに基づいて画像処理を施す画像処理手段と、
前記第1乃至第3のデジタル画像データ作成ユニットで作成されたデジタル画像データ又は前記画像処理手段で画像処理が施されたデジタル画像データを記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶されたデジタル画像データに基づいて写真プリントを作成するための写真プリント作成ユニットと、該デジタル画像データを電気的又は磁気的に記録するためのドライバを備えたデータ記録ユニットと、該デジタル画像データを通信回線上へ送出するためのインタフェースを備えたデータ送出ユニットと、の内少なくとも1つを含む複数のユニットが装填可能な画像データ出力手段と、を有する写真処理システム。」(【請求項1】)
ウ.「第2のデジタル像データ作成ユニットは、例えば、CD-ROM、CD-R、CD-RW、DVD-ROM、DVD-R、DVD-RAM、FD、PCカード、ZiP等の予め画像データ(デジタル、アナログ両方の形式を含む)が記録された記録媒体からの読取り、デジタル化を前提としている。従って、それぞれに適合する読取ドライブを装填する必要がある。」(段落【0013】)
エ.「第3のデジタル画像データ作成ユニットは、通信回線を伝搬する画像データを入手するためのものであり、この場合、通信形式(通信プロトコル)等の違いがあるため、それぞれインタフェースが必要となる。インタフェースとしては、例えばSCSI、FireWire、USB、irDA等があり、これらは現在普及しつつあるデジタルカメラとの接続に多用される。また、他のエンタフェースとしては、イーサネット、モデム等があり、これらは写真処理システム間のネットワーク通信に適用可能である。すなわち、複数の写真処理システムをネットワーク化することにより、一方で依頼した処理を他方で受け取ることが可能となったり、一括して処理したデジタル画像データを保存して、必要なときに何れの写真処理システムからでも検索、読み出しが可能となる。」(段落【0014】)
エ.「画像データ出力手段として、写真プリント作成ユニット、データ記録ユニット及びデータ送出ユニットが装填可能であり、その内の少なくとも1つを含む複数のユニットが同時に装填可能である。」(段落【0018】)
オ.「データ記録ユニットは、前記第2のデジタル画像データ作成ユニットに用いた記録媒体へ逆に記録するためのユニットであり、例えば、CD-ROM、CD-R、CD-RW、DVD-ROM、DVD-R、DVD-RAM、FD、PCカード、ZiP等の記録媒体へデジタル画像データを記録する。この場合、それぞれに適合する書込ドライブを装填する必要がある。なお、前記読取ドライブと一体化して読み書きドライブを装填することも可能である。」(段落【0022】)
カ.「写真処理システム100は、DPE店の店頭や街角に設置されるようになっており、顧客が自身で操作することを前提としているシステムである。」(段落【0030】)
キ.「写真処理システム100のケーシング104の前面下部には、第3のデジタル画像作成ユニット及びデータ送出ユニットとしての通信回線ポート146が設けられている。」(段落【0047】)
ク.「通信回線ポート146には、イーサネットポート、モデムポートとが設けられている。これらのイーサネットポート、モデムポートは、他の写真処理システム100A、100B、100C・・・や複数の写真処理システムを集中管理するラボ等とネットワーク化するためのポートであり、別の場所に設置した写真処理システムで受け付けた情報をこの写真処理システム100で入手し、かつ処理することが可能となっている。」(段落【0051】)
ケ.「デジタルプリンタ150は、本発明の写真プリント作成ユニットとしての機能を有する。」(段落【0054】)
コ.「デジタルプリンタ150には、インデックスプリント機能が搭載されている。」(段落【0055】)
サ.「ステップ462でプリントしたデジタル画像データを何れかの記録媒体に出力し、記録する要求があるか否かを判断する。すなわち、例えば、顧客が、APSフィルムを持ち込み、受付の段階で同時プリントと共にDVDへのデータの記録を要望する場合には、その旨を操作入力をしておくと、このステップ462で肯定判定され、ステップ464へ移行して指定出力先(この場合はDVD-DRAIVER138へデジタル画像データが出力される。DVD-DRIVER138では、装填されているDVD(装填されていなければ、装填を促す表示やメッセージを行う)に該デジタル画像データを記録する。なお、他の記録媒体(CDやPCCARDでも処理は同様である。)。」(段落【0071】)

3.引用例1記載の発明の認定
引用例1の記載イには「少なくとも1つを含む複数のユニットが装填可能な画像データ入力手段」とあり、以下では「第2のデジタル画像データ作成ユニット」及び「第3のデジタル画像データ作成ユニット」を装填した「写真処理システム」について検討する。記載エのとおり、「第3のデジタル画像データ作成ユニット」は、他の写真処理システムで依頼した処理を受け取るユニットであってもよい。
引用例1における「写真処理システム」は、記載カのとおり「DPE店の店頭や街角に設置され」た個々の装置のことである。以下では、用語の混乱を避けるため、「写真処理システム」をネットワーク化した全体のシステムを「写真処理ネットワークシステム」ということにする。
引用例1には、次のような「写真処理ネットワークシステム」が記載されていると認めることができる。
「複数の写真処理システムをネットワーク化した写真処理ネットワークシステムであって、
各写真処理システムは、第2のデジタル画像データ作成ユニット、第3のデジタル画像データ作成ユニット、デジタル画像データに基づいて画像処理を施す画像処理手段、前記第2若しくは第3のデジタル画像データ作成ユニットで作成されたデジタル画像データ又は前記画像処理手段で画像処理が施されたデジタル画像データを記憶する記憶手段、前記記憶手段に記憶されたデジタル画像データに基づいて写真プリントを作成するための写真プリント作成ユニット、該デジタル画像データを電気的又は磁気的に記録するためのドライバを備えたデータ記録ユニット、及び該デジタル画像データを通信回線上へ送出するためのインタフェースを備えたデータ送出ユニットと、の内少なくとも1つを含む複数のユニットが装填可能な画像データ出力手段とを有し、
前記第2のデジタル画像データ作成ユニットは、画像が電気的又は磁気的に記録された記録媒体からデジタル画像データを読み取るためのドライバを備え、該読み取った画像データからデジタル画像データを得るためのユニットであり、
前記第3のデジタル画像データ作成ユニットは、他の写真処理システムで依頼した処理を受け取るユニットであり、
前記写真プリント作成ユニットはインデックスプリント機能を有する
写真処理ネットワークシステム。」(以下「引用発明1」という。)

4.補正発明と引用発明1との一致点及び相違点の認定
引用発明1の「写真処理システム」は補正発明の「プリント装置」に相当するから、補正発明と引用発明1は「複数のプリント装置と、各上記プリント装置間を接続するネットワークとを有」する「プリントシステム」である点で一致する。
引用発明1の「画像が電気的又は磁気的に記録された記録媒体からデジタル画像データを読み取るためのドライバ」及び「デジタル画像データを通信回線上へ送出するためのインタフェースを備えたデータ送出ユニット」は、補正発明の「装填された記録媒体から画像データを読み出す読出し手段」及び「画像データを送信先に送信する送信手段」にそれぞれ相当する。
さらに、送信先の「プリント装置」(写真処理システム)が、記録媒体に画像データを記録可能である点においても、補正発明と引用発明1は一致する。
したがって、補正発明と引用発明1とは、
「複数のプリント装置と、各上記プリント装置間を接続するネットワークとを有し、
各上記プリント装置は、
装填された記録媒体から画像データを読み出す読出し手段と、上記画像データを送信先に送信する送信手段とを具え、
送信先のプリント装置は記録媒体に画像データを記録可能であり、
上記送信手段は、上記画像データを上記送信先に送信するプリントシステム。」である点で一致し、以下の各点で相違する。
〈相違点1〉補正発明の「プリント装置」が「上記画像データの送信先である、装填された上記記録媒体に上記画像データを記録可能な他の上記プリント装置の情報を入力するとともに複数の送信先の情報を入力可能な送信先情報入力手段」を具えるのに対し、引用発明1がそのような「送信先情報入力手段」を具えるかどうか明らかでない点。
〈相違点2〉補正発明の「送信手段」が「画像データに受付情報を付加して」送信すると限定しているのに対し、引用発明1が同限定を有するかどうか明らかでない点。
〈相違点3〉補正発明の「プリント装置」が「上記画像データ及び上記受付情報を受付インデックスとしてプリントする」ものであると限定するのに対し、引用発明1は同限定を有さない点。

5.相違点についての判断及び補正発明の独立特許要件の判断
以下、本審決では「発明を特定するための事項」という意味で「構成」との用語を用いることがある。
(1)相違点1について
引用例1の記載クに「他の写真処理システム100A、100B、100C」とあるように、1つの写真処理システムからの送信先候補は複数ある。そうであれば、「他の写真処理システム」のうちのどの写真処理システムに送信するのか定めなければならないから、引用発明1においても「送信先情報入力手段」は当然具えていなければならない。
また、本件出願当時には、電子メールが普及しており、電子メールでは画像データを添付ファイルとして、複数の送信先を指定(送信先情報を入力)して送信することができる。
引用発明1の「写真処理システム」は、記載クのとおり「DPE店の店頭や街角に設置されるようになっており、顧客が自身で操作することを前提」としたものであり、画像データの送信として想定されるのは、知人の居所により近い「写真処理システム」への送信である。画像データを送信すべき知人が1人であれば、送信先は1つでよいが、居所が離れた複数の知人に送信すべきケースも自明に想定できる。そうであれば、引用発明1が当然具えるべき「送信先情報入力手段」を「複数の送信先の情報を入力可能」とすることは設計事項といわなければならない。
残る検討項目は、本件補正事項に関する構成のみである。引用発明1は「複数の写真処理システムをネットワーク化」したものであるが、最も単純なのはすべての「写真処理システム」を同一にすることである。引用例1には「読取ドライブと一体化して読み書きドライブを装填することも可能」(記載オ)との記載があり、すべての写真処理システムに同一の読み書きドライブを具えておけば、送信側で装填された記録媒体に受信側で画像データを記録することが可能である。
また、本件補正事項が受信した画像データについて、ユーザ(顧客)に対して保存するか保存しないかの選択肢を提供する趣旨であるとしても、設計事項にすぎない。なぜなら、引用例1には「顧客が、APSフィルムを持ち込み、受付の段階で同時プリントと共にDVDへのデータの記録を要望する場合」(記載サ)とあり、顧客がデジタル画像データを所持していない場合に、顧客の要望に応じて(要望に応じてということは、保存するか保存しないかの選択肢を提供することである。)デジタル画像データを記録媒体に記録することが記載されている。送信先の写真処理システムにアクセスするのは送信者とは異なる顧客であるから、当然デジタル画像データを所持しておらず、その顧客の要望に応じて記録媒体に記録することは設計事項というよりないからである。
したがって、本件補正事項は不明確であるけれども、それをどのように解釈しても、本件補正事項に係る補正発明の構成を採用することはせいぜい設計事項である。
以上のとおりであるから、相違点1に係る補正発明の構成を採用することは設計事項である。

(2)相違点2について
繰り返すことになるが、引用発明1の「写真処理システム」は、記載クのとおり「DPE店の店頭や街角に設置されるようになっており、顧客が自身で操作することを前提」としたものであり、不特定多数の顧客が使用するものである。
当然、送信先の「写真処理システム」も不特定多数の顧客が使用し、受信した画像データは1つではない。そうであれば、送信先の「写真処理システム」において、顧客に対して適正な画像データを提供するためには、画像データを特定する情報が必要である。その情報は補正発明の「受付情報」と異ならず、送信元の写真処理システムから送信先の写真処理システムに送信されていなければ、送信先の写真処理システムにおいて「受付情報」を認識できない。
以上のとおりであるから、相違点2は実質的相違点ではないというべきであり、実質的相違点と見る余地があるとしても設計事項でしかない。

(3)相違点3について
相違点2については上記のとおりであるが、「受付情報」は画像データを特定する情報であるから、写真処理システムが認識しているだけでは意味がなく、顧客も認識しなければならない。「受付情報」を顧客に認識させる手法は種々存在する。例えば、引用発明1は「画像処理を施す画像処理手段」を有しており、当然ディスプレイを有しているから、受付情報をディスプレイに表示し、顧客にメモさせことも一案であるが、顧客がメモ及び筆記具を所持していない場合の措置が困難となる。別の手法として、写真処理システムと携帯端末間で通信可能となっておれば、顧客の携帯端末に受付情報を送信することも可能であるが、携帯端末との通信を確立することが必要であるだけでなく、顧客が携帯端末を所持していない場合の措置が困難となる。顧客が何も所持していない場合に有効な手法は、引用発明1の「写真処理システム」がプリント機能を有する(写真プリント作成ユニットを具える)ことを考慮すれば、「受付情報」を印刷した印刷物を顧客に提供することである。そうである以上、プリント装置が受付情報を受付インデックスとしてプリントすることは設計事項というべきである。
原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-125867号公報(以下「引用例2」という。)は、発明の名称を「デジタルプリントの注文受付装置」とする公開公報であって、「図5に示すように、受付票80にはサブコマ81を線画表示したものを印刷してもよい。この場合には、目視不可能な画像データを目視にして確認することができ、発注の誤りの発生が少なくなる。」(段落【0029】)との記載があり、【図5】には受付番号と複数の画像を含む受付票が図示されている。引用例2【図5】における複数の画像はインデックスプリントされた画像と異ならず、引用発明1の写真プリント作成ユニットにはインデックスプリント機能が備わっている。そうであれば、引用発明1において、受付インデックスとしてプリントするに当たり、「目視不可能な画像データを目視にして確認することができ、発注の誤りの発生が少なくなる」ことを目指して、引用例2【図5】同様に画像データ及び受付情報をプリントすること、すなわち相違点3に係る補正発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。

(4)補正発明の独立特許要件の判断
相違点1?3に係る補正発明の構成を採用することはせいぜい設計事項であるか、当業者にとって想到容易であり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、補正発明は引用発明1及び引用例2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
すなわち、本件補正は特許法17条の2第5項で準用する同法126条5項の規定に違反している。

[補正の却下の決定のむすび]
理由1?理由4で述べたとおり、本件補正は特許法17条の第3項及び4項の規定に違反しており、仮に同条4項に違反しない(同項2号該当)とすれば同条5項準用する同法126条5項の規定に違反しているから、同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されなければならない。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本件審判請求についての判断
1.本願発明の認定
本件補正が却下されたから、本願の請求項7に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成15年8月26日付けで補正された明細書の特許請求の範囲【請求項7】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「複数のプリンタ装置と、各上記プリンタ装置間を接続するネットワークとを有し、
各上記プリンタ装置は、
装填された記録媒体から画像データを読み出す読出し手段と、
上記画像データの送信先の情報を入力するとともに複数の送信先の情報を入力可能な送信先情報入力手段と、
上記送信先の情報に基づいて、上記画像データを上記入力された送信先に送信する送信手段と
を具え、上記送信手段は、上記画像データに受付情報を付加して上記送信先に送信し、上記画像データ及び上記受付情報を受付インデックスとしてプリントする
ことを特徴とするプリントシステム。」

2.本願発明と引用発明1との一致点及び相違点の認定
本願発明と引用発明1とは、
「複数のプリンタ装置と、各上記プリンタ装置間を接続するネットワークとを有し、
各上記プリンタ装置は、
装填された記録媒体から画像データを読み出す読出し手段と、
上記画像データを送信先に送信する送信手段と
を具え、上記送信手段は、上記画像データを上記送信先に送信する
プリントシステム。」である点で一致し、「第2[理由4]4」で述べた相違点2,3及び次の相違点1’で相違する(相違点2,3については、「補正発明」を「本願発明」と、「プリント装置」を「プリンタ装置」とそれぞれ読み替える。)
〈相違点1’〉本願発明の「プリンタ装置」が「上記画像データの送信先の情報を入力するとともに複数の送信先の情報を入力可能な送信先情報入力手段」を具えるのに対し、引用発明1がそのような「送信先情報入力手段」を具えるかどうか明らかでない点。

3.相違点の判断及び本願発明の進歩性の判断
相違点2,3については、「第2[理由4]5(2),(3)」で判断したとおり、せいぜい設計事項又は当業者にとって想到容易である(「補正発明」を「本願発明」と、「プリント装置」を「プリンタ装置」とそれぞれ読み替える。)
相違点1’については、「第2[理由4]5(1)」における、本件補正事項関連の判断を除いた部分がそのまま当てはまり、設計事項というべきである。
また、相違点1’,2及び3に係る本願発明の構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願発明は引用発明1及び引用例2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
本件補正は却下されなければならず、本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-11-20 
結審通知日 2006-11-24 
審決日 2006-12-05 
出願番号 特願平11-281400
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B41J)
P 1 8・ 561- Z (B41J)
P 1 8・ 572- Z (B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石原 徹弥畑井 順一桐畑 幸▲廣▼  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 國田 正久
長島 和子
発明の名称 プリントシステム  
代理人 田辺 恵基  

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